新潮社作品一覧

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  • いつも彼らはどこかに
    3.7
    たっぷりとたてがみをたたえ、じっとディープインパクトに寄り添う帯同馬のように。深い森の中、小さな歯で大木と格闘するビーバーのように。絶滅させられた今も、村のシンボルである兎のように。滑らかな背中を、いつまでも撫でさせてくれるブロンズ製の犬のように。――動物も、そして人も、自分の役割を全うし生きている。気がつけば傍に在る彼らの温もりに満ちた、8つの物語。
  • ポポイ
    3.9
    時は21世紀、なお権勢を誇る元首相の邸宅に、一人の青年が三十過ぎの男と共に乱入、声明文を読み上げると切腹した。事件の真相は謎に包まれたが、介錯され、胴体から切り離された青年テロリストの首は、最新の医療技術によって保存され、意識を取り戻す。首の世話を任された元首相の孫娘・舞と、首との奇妙な交流が始まった……。流麗な筆で描き出す、優雅で不気味な倉橋ワールド。
  • 賢者の贈りもの―O・ヘンリー傑作選I―
    3.8
    1~3巻539~572円 (税込)
    デラはおんぼろカウチに身を投げて泣いていた。明日はクリスマスというのに手元にはわずか1ドル87セント。これでは愛する夫ジムに何の贈りものもできない。デラは苦肉の策を思いつき実行するが、ジムもまた、妻のために一大決心をしていた――。若い夫婦のすれ違いが招いた奇跡を描く表題作ほか、ユーモラスな「赤い酋長の身代金」「千ドル」など、選り抜きの傑作を集めた新訳版。
  • 数学者の言葉では
    3.9
    かつてコロラド大学で教えた女子学生から挫折の手紙が届いた。筆者は彼女を激励しつつ、学問の困難さを懇々と説く。だが、困難とはいえ数学には、複雑な部分部分がはりつめた糸で結ばれた、芸術ともいうべき美の極致がある。また、父・新田次郎に励まされた文筆修行、数学と文学の間を行き来しながら思うことなど、若き数学者が真摯な情熱とさりげないユーモアで綴るエッセイ集。
  • ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン
    4.2
    その否定的対話によって、既存の社会体制、道徳、宗教を盲信する保守的な人々から糾弾され、不当な死刑に処せられたソークラテースが、法廷で自己の所信を力強く表明する『ソークラテースの弁明』、脱獄のすすめを退け、国法を守って平常心のまま死を迎える彼が、法と正義について弟子と対話する『クリトーン』、毒薬をあおって刑死する彼の最期を語る『パイドーン』を収録する。
  • 古代史 50の秘密
    3.0
    なぜ、中国は倭国を重要視したのか。『古事記』が書かれたのはなんのため? 古代版政権交代・大化の改新の真相は。天照大神は本当に女神なのか。「任那日本府」は存在しなかった? 古代日本の戦略と外交、『日本書紀』などの文書に隠された謎、氏族間の政争、斉明・持統など次々と女帝が誕生した理由。気鋭の歴史作家が埋もれた歴史の真相を鮮やかに解き明かす。
  • ジム・スマイリーの跳び蛙―マーク・トウェイン傑作選―
    3.9
    現代アメリカ文学の父と謳われ、「トム・ソーヤー」「ハックルベリイ・フィン」の物語を生み出した冒険児マーク・トウェイン。その名を一躍世に知らしめた表題作「ジム・スマイリーの跳び蛙」をはじめ、生涯にわたって発表した短編小説、エッセイ、コラム記事の中から、トウェインの真骨頂である活気に溢れ、ユーモアと諷刺に満ちた作品を収録する。柴田元幸が厳選した13編の新訳!
  • 建築家、走る
    4.2
    ブザンソン芸術文化センター、根津美術館、竹の家(中国)、アオーレ長岡(市庁舎)、la kagu ……いま世界中から依頼が殺到する建築家は、深く悩みながら疾走してきた。東京でのプロジェクト挫折、森舞台/登米町伝統芸能伝承館をはじめ地方での活躍、怒濤のコンペ参加など、その半生は紆余曲折の連続だった。「反・20世紀」的建築を創造する著者が自伝的に語り尽くしたユニークな書。
  • 夏の夜の夢・あらし
    3.9
    妖精の王とその后の喧嘩に巻き込まれ、さらに茶目な小妖精パックが惚れ草を誤用したために、思いがけない食い違いの生じた恋人たち。妖精と人間が展開する詩情豊かな幻想喜劇『夏の夜の夢』。ほかに、奸悪な弟に領地を奪われ、娘ミランダと共に絶海の孤島に漂着したミラノ公プロスペローは、魔法の力を究め弟の船を難破させたが……シェイクスピア最後の傑作『あらし』を収める。
  • くちぶえ番長
    4.1
    1巻539円 (税込)
    小学四年生のツヨシのクラスに、一輪車とくちぶえの上手な女の子、マコトがやってきた。転校早々「わたし、この学校の番長になる!」と宣言したマコトに、みんなはびっくり。でも、小さい頃にお父さんを亡くしたマコトは、誰よりも強く、優しく、友だち思いで、頼りになるやつだったんだ――。サイコーの相棒になったマコトとツヨシが駆けぬけた一年間の、決して忘れられない友情物語。
  • 星のかけら
    3.7
    1巻539円 (税込)
    それを持っていれば、どんなにキツいことがあっても耐えられるというお守り「星のかけら」。ウワサでは、誰かが亡くなった交通事故現場に落ちているらしい。いじめにあっている小学六年生のユウキは、星のかけらを探しにいった夜、不思議な女の子、フミちゃんに出会う──。生きるって、死ぬって、一体どういうこと? 命の意味に触れ、少しずつおとなに近づいていく少年たちの物語。
  • 南紀新宮・徐福伝説の殺人
    4.0
    二千年以上も昔、秦の始皇帝の命を受け、不老不死の薬を求めて旅立った徐福。在野の徐福研究家である観光会社の社長が、東京のホテルの一室で殺害された。十津川警部は、現場から姿を消した、徐福研究の第一人者で大学准教授の木村修を追って、「特急ワイドビュー南紀」で、徐福上陸伝説の残る南紀新宮へ向かう。古代の伝説に隠された秘密に十津川警部が挑む、長編トラベルミステリー。
  • 本を読む女
    3.9
    万亀は本を読むのが好きなだけの平凡な女の子。しかし突然の父の死と戦争の始まりによって、彼女の人生は否応なく時代の流れに巻き込まれてしまう。進学、就職、結婚という人生の岐路において、常に夢や希望を現実に押しつぶされつつも、読書を心の支えに懸命に自分の人生を生き抜いた万亀。著者自身の母親をモデルに、一人の文学少女の半生と昭和という時代を描いた力作長編小説。
  • にんじん
    3.9
    にんじん――。髪の毛が赤くてそばかすだらけのルピック家の三番目の男の子はみんなからそう呼ばれている。あだなをつけたのはお母さんだ。お母さんは、にんじんに夜の暗闇のなかをにわとり小屋の扉を閉めに行かせたり、おもらししたおしっこを朝食のスープに混ぜて飲ませたりする……。だが、にんじんは母親のいじわるにも負けずに成長してゆく。生命力あふれる自伝的小説の傑作。
  • 玉人
    4.4
    女あり、玉のごとし――その女人は、滑らかな手触りのいにしえの玉の燭台が乗り移ったかのような肌体の、穏やかで艶のある人妻だった。男は何年待っても、その女人を妻にしたいと願ったが……人を愛することの至上の喜びと、別離の悲しみを描く表題作。ほかに、女の真の美しさをひきだし、いつくしむ天与の指をもつ男の生涯を描いた作品など、はかなくせつなく幻想的な六篇の恋物語。
  • 史記の風景
    3.5
    古代中国二千年のドラマをたたえて読み継がれる『史記』。中国歴史小説屈指の名手が、そこに溢れる人間の英知を探り、高名な成句、熟語のルーツをたどりながら、斬新な解釈を提示する。この大古典は日本においても、清少納言、織田信長、水戸光圀、坂本龍馬にと、大きな影響を与えていたことに驚愕させられる。世のしがらみに立ち向かった先人の苦闘が甦る101章。
  • サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台―
    4.2
    アテネ五輪への出場、テレビ中継の実現、ハロプロとの協力……。なでしこジャパン奇跡のW杯優勝の背後には、チーム強化と知名度の向上のため、選手と協会が一体となった10年にわたる周到な準備があった! 自ら関わった数多くの日本代表戦のマッチメイクを振り返り、ピッチ外で火花を散らすもう一つの戦い=「外交交渉」の真実を、通産省出身のサッカー協会元専務理事が明かす。
  • 二十四時間
    3.1
    幼なじみの“よっちゃん”は、会う度に違った。私立の詰め襟中学生、暴走族の高校生、恋する浪人生。でもその内面はいつも温かで……(「二十二時」)。子供の頃、雪の積もった帰り道を歩いた。方向感覚を失って、“遠く”という“悲しく寂しい場所”に迷い込んでしまった(「十七時」)。人生のそれぞれの風景を鮮やかに切り取った、私小説の味わいを残す、切なく懐かしい二十四の記憶。
  • 結婚詐欺師(上)
    3.8
    1~2巻539~605円 (税込)
    橋口雄一郎は40代のプロの結婚詐欺師。カツラ・洋服・職業・車を使い分けて変身、女性の心理を逆手に取る巧みな話術で誘惑し、金をだまし取っていた。東京・小滝橋署の刑事、阿久津は偶然かかわった結婚詐欺の被害届から、プロの匂いを感じ取り捜査を始めた。やがて松川学という前科者が浮上、身元の確認に追われる。一方、橋口はゴルフ練習場で見つけた女性に次の狙いを定めた――。
  • パラダイス・サーティー(上)
    3.4
    1~2巻539円 (税込)
    薬品会社のOL栗子は、30歳を目前にして落ち込んでいた。職場はお局扱い、結婚見合いも断られ、家族も勝手気まま。とうとう家を出る。落ち着いた先は、幼なじみでレズビアン(オナベ)の菜摘の部屋。そんな栗子はある日、菜摘が経営するバーの常連客、古窪伸を紹介され、彼に一目惚れ。二人はやがて深い仲に。プロポーズを待ち望む栗子だが、どうも伸の態度が煮え切らない……。
  • 団欒
    3.5
    なぜ自分にこの親、この兄弟姉妹なのか。いつもやたらとベタベタしているのに、実はバラバラだったりする。「家族」って、よくよく考えてみれば、ヘンなものだと思いませんか? この本には、なかでもきわめつけのヘンな家族が登場します。深夜、息子がいきなり彼女の死体を連れて帰ってきたり、夫婦の寝室に「ママ」がいたり……。これに比べれば、お宅はまだまだ大丈夫でしょう?
  • 花盗人
    4.0
    「あなたが私にくれたものは、あの桜の小枝だけ。あなたが盗っていったものは、私のすべて」――。自立できない夫との生活に疲れた女は逃げ場を求めた。しかしそれが彼女の「脱線」の始まりだった……。表題作のほか、「最後の花束」「脱出」など、怖くて意外な結末が詰まった全10編。デビュー当時から直木賞受賞第一作まで、乃南アサの幅広い作風が楽しめる文庫オリジナル短編集。
  • 再生の朝
    3.5
    十月七日午後五時三十分。萩行きの夜行高速バスが品川のバスターミナルを出発した。乗客乗務員は十二人。約十四時間で目的地到着の予定だったのだが……。深夜に乗務員が殺害され、バスは殺人者とともに、何処とも知れぬ闇の中に放り出される。台風接近で風雨も激しさを増し──。それぞれの人生を背負って乗り合わせた登場人物たちの多視点から恐怖の一夜を描く、異色のサスペンス。
  • トゥインクル・ボーイ
    3.6
    天使のような笑顔を浮かべると、出会う者はみな思わず「可愛い!」と声を上げてしまう。大人たちを自分の魅力のとりこにし、望むものを手にしてきた小学1年生の少年、拓馬には、ある秘密の「趣味」があった。場所はたそがれの競馬場──。純真、残酷、妖艶、粗暴、嘘言……。正常と異常の狭間に立つ幼児たちの危うい心理を描きだした、現代の「恐るべき子どもたち」ともいうべき7編。
  • 愛という病
    4.3
    なぜ恋をするとバカになるのか、男を殺す女の言葉とは、エロいとは一体何なのか──幸福になるためには、自分を知ることのほか道はない。欲望と自意識をライフワークにしてきた著者が、自らの生き苦しさの正体を徹底的に解体していく痛快エッセイ。行き着いたのは「なぜ私は愛し愛される事に固執するのか?」という人類最大の命題。
  • 変身
    3.7
    ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見する男グレーゴル・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。謎は究明されぬまま、ふだんと変わらない、ありふれた日常がすぎていく。事実のみを冷静につたえる、まるでレポートのような文体が読者に与えた衝撃は、様ざまな解釈を呼び起こした。海外文学最高傑作のひとつ。
  • 心に狂いが生じるとき―精神科医の症例報告―
    3.5
    最初は心の小さな狂いでも、それをきっかけに、普通の人間が精神全体を蝕まれてしまうことがあり、ときには取り返しのつかない行動をとることがある。しかし、正常な精神と狂気の境目はごく淡く、我々の社会はアルコール依存、統合失調症、人格障害、うつ病など様々な精神疾患とともにある。人は、いつ、いかにして心を病むのか。現役の臨床医師が、虚説を排して実態を報告する。
  • 寝台特急「サンライズ出雲」の殺意
    2.0
    新興の不動産会社社長・岡本敬一郎のマンションで、銀座のママが殺された。その数時間後、寝台特急「サンライズ出雲」の個室寝台が爆破されるが、狙われた男は直前に途中下車し、姿を消していた。さらに、岡本が狙撃されるという事件が発生。狙撃は失敗に終わるが、犯人は警察の追跡を巧みに躱す。殺人と列車爆破と狙撃事件。三つの謎を追う十津川警部の前に、驚愕の事実が……!
  • 丹後 殺人迷路
    2.8
    深夜、十津川警部の電話が鳴った。妻を殺し最近出所した男からだった。死んだはずの妻を見たという。同日、電話の男が殺され、現場に次の殺人を予告する血文字〈文殊に聞け!〉が残されていた。十津川は丹後に急ぐが、予告通り男が射殺され、凶器の指紋から、ライフルのオリンピック選手が浮上する。だが、彼は昨年焼身自殺していた……。死者が絡む奇怪な予告殺人を描く長編ミステリー。
  • 祖谷・淡路 殺意の旅
    4.0
    殺人事件の鍵を握る妖しげな「秘密クラブ」。かつての部下に掛けられた容疑を晴らすため、十津川はその組織を操る巨悪の実態を追う!
  • 陋巷に在り1―儒の巻―
    4.2
    1~13巻539~1,001円 (税込)
    聡明で強い呪術の能力を持ちながら、出世の野心なく、貧しい人々の住む陋巷に住み続けた顔回。孔子の最愛の弟子である彼は師に迫る様々な魑魅魍魎や政敵と戦うサイコ・ソルジャーだった……息づまる呪術と呪術の暗闘、政敵陽虎との闘争、影で孔子を護る巫儒の一族。論語に語られた逸話や人物を操りつつ、大胆な発想で謎に包まれた孔子の生涯を描く壮大な歴史長編、第一部。
  • 月明かり―慶次郎縁側日記―
    3.5
    月明かりに淡く浮かんだのは蹲る父と、鼻の脇に大きなほくろのある男。あのときは、幼子の見間違いと誰も相手にしなかったが……。建具職人の弥兵衛はなぜ刺し殺され、敵はなぜ逃げおおせたのか。月夜の晩から十一年後、敵は江戸に舞い戻る。惨劇の記憶が弥兵衛をめぐる人々の消せない過去をあぶり出し、娘を殺された慶次郎の古傷もうずく。シリーズ初長篇。
  • 井上靖全詩集
    3.0
    清冽な抒情のあふれる散文詩の世界は、井上文学の精髄であるとともに、現代詩の系譜のなかでも類を見ないユニークな光彩を放っている。人生への愛、使者への慟哭、青春の疼き、運命に対する畏怖など、さまざまなモチーフを謳った詩篇には深い静寂と諦念にも似た明澄さが漲っている。既刊の5冊の詩集のすべてと最新作、拾遺詩篇多数を収録する。半世紀に及ぶ詩業の集大成。
  • 荻窪風土記
    3.9
    関東大震災前には、品川の岸壁を離れる汽船の汽笛がはっきり聞えたと言われ、近年までクヌギ林や麦畑が残っていた、武蔵野は荻窪の地に移り住んで五十有余年。満州事変、二・二六事件、太平洋戦争……時世の大きなうねりの中に、荻窪の風土と市井の変遷を捉え、親交を結んだ土地っ子や隣人、文学青年窶(やつ)れした知友たちの人生を軽妙な筆で描き出す。名匠が半生の思いをこめた自伝的長編。
  • 山椒魚
    3.7
    老成と若さの不思議な混淆、これを貫くのは豊かな詩精神。飄々として明るく踉々として暗い。本書は初期の短編より代表作を収める短編集である。岩屋の中に棲んでいるうちに体が大きくなり、外へ出られなくなった山椒魚の狼狽、かなしみのさまをユーモラスに描く処女作「山椒魚」、大空への旅の誘いを抒情的に描いた「屋根の上のサワン」ほか、「朽助のいる谷間」など12編。
  • 砂の上の植物群
    3.4
    中年の化粧品セールスマン伊木一郎が、偶然知り合った18歳の津上明子に求めるもの、明子に頼まれて誘惑する姉京子に求めるもの、そして妻の江美子に求めるものも、心ではなくただ女体であった。疚しさとも歪んだ心持ちとも無関係な、常識を破るショッキングな肉体の触れ合いの中に、真の性的充足を探り、性の根源にメスを入れた野心的長編。姉妹編を成す『樹々は緑か』を併録。
  • 美しいアナベル・リイ
    3.6
    かつてチャイルド・ポルノ疑惑を招いて消えた映画企画があった。それから30年、小説家の私は、その仲間と美しき国際派女優に再会。そして、ポオの詩篇に息づく永遠の少女アナベル・リイへの憧れを、再度の映画制作に託そうと決意するのだが。破天荒な目論見へ突き進む「おかしな老人」たちを描く、不敵なる大江版「ロリータ」。『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』改題。
  • 人生の親戚
    4.2
    人生の途上で堪えがたい悲しみに直面したとき、人はその事実をいかに受けとめ、その後の人生をどう生き得るのか。肉体に障害を抱えた長男と精神に障害をもつ次男、二人の息子を同時に自殺によって失った女性が、その悲惨を真正面から引き受け、苦しみの果てにたどりついた生の地平は? 魂の癒しを探り、生きることへの励ましに満ちた感動的な長編小説。第一回伊藤整文学賞受賞作。
  • 小説のたくらみ、知の楽しみ
    3.7
    障害のある息子との共生を祈念したこの二十年、無力な父親は、小説のたくらみを通じて初めて、現在ここにある自分をのりこえ、新しい自分を達成して、生き方の定稿を作ることができた……。日々の読書から、また創作の現場から、かつてなく自己の生活と精神の内情をさらけだした注目の長編エッセイ「小説のたくらみ、知の楽しみ」に、「核時代のユートピア」他の手紙と提言を併録。
  • われらの時代
    3.8
    快楽と不能の無限の繰返しから抜け出て、幼年時代の黄金の象徴だった天皇の現在の姿に手榴弾を投げつけ爆破しようとする少年。遍在する自殺の機会に見張られながら、自殺する勇気もなく生きてゆかざるをえない“われらの時代”。いまだ誰も捉えられずにいた戦後世代の欲望をさらけ出し、性を媒介に現代青年の行きづまりを解剖して、著者の新たな文学的冒険の出発となった長編小説。
  • ニシノユキヒコの恋と冒険
    3.9
    ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ……。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。
  • せんせい。
    4.2
    1巻539円 (税込)
    先生、あのときは、すみませんでした──。授業そっちのけで夢を追いかけた先生。一人の生徒を好きになれなかった先生。厳しくすることでしか教え子に向き合えなかった先生。そして、そんな彼らに反発した生徒たち。けれど、オトナになればきっとわかる、あのとき、先生が教えてくれたこと。ほろ苦さとともに深く胸に染みいる、教師と生徒をめぐる六つの物語。『気をつけ、礼。』改題。
  • 見張り塔から ずっと
    3.7
    1巻539円 (税込)
    発展の望みを絶たれ、憂鬱なムードの漂うニュータウンに暮らす一家がいる。1歳の息子を突然失い、空虚を抱える夫婦がいる。18歳で結婚したが、夫にも義母にもまともに扱ってもらえない若妻がいる……。3組の家族、ひとりひとりの理想が、現実に侵食される。だが、どんなにそれが重くとも、目をそらさずに生きる、僕たちの物語――。「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」。
  • 自家製 文章読本
    4.1
    喋り慣れた日本語も、書くとなると話が違う。文章を上手に書くことができたら……。だが、「話すように書け」と人は説くけれど、「話すように書け」ばいい文章が書けるのか。いや、そんな単純なものじゃない。文章術の極意は奈辺にありや。文学史にのこる名作から現代の広告文までを縦横無尽に駆使して、従来の文章読本の常識を覆す井上ひさし式文章作法。
  • これからの出来事
    3.5
    悪夢だと思いたい、信じられないような出来事。特殊な能力をもった青年の巧妙なビジネス。絶体絶命の危機から目覚めさせてくれる救いの声。満開の桜の季節に出会った秘密好きの美しい女――想像もつかないことが現実となってしまう未来社会を、あなたものぞいてみませんか? 技術と文明がもたらす21世紀社会のゆがみを見通して、痛烈な風刺で描きだしたショートショート21編。
  • どんぐり民話館
    3.5
    引き抜かれたカカシのあとに生えた草の葉っぱ、雲母(うんも)のようにキラキラする竜のウロコ、字の書かれた小さな石ころ――そんな奇妙なものばかりがあるというどんぐり民話館。そのどんぐり民話館を探しに、都会から一人の青年がやってきたが……。いつまでも語りつがれる民話のような味わいで、さまざまな人生の喜怒哀楽を描いた31編。ショートショート1001編を達成した記念の作品集。
  • 父と暮せば
    4.5
    「うちはしあわせになってはいけんのじゃ」愛する者たちを原爆で失った美津江は、一人だけ生き残った負い目から、恋のときめきからも身を引こうとする。そんな娘を思いやるあまり「恋の応援団長」をかってでて励ます父・竹造は、実はもはやこの世の人ではない――。「わしの分まで生きてちょんだいよォー」父の願いが、ついに底なしの絶望から娘をよみがえらせる、魂の再生の物語。
  • 五千回の生死
    4.2
    1巻539円 (税込)
    「一日に五千回ぐらい、死にとうなったり、生きとうなったりする」男との束の間の奇妙な友情(表題作)。トマトを欲しながら死んでいった労務者から預った、一通の手紙の行末(「トマトの話」)。癌と知りながら、毎夜寝る前に眉墨を塗る母親の矜持(「眉墨」)。他に「力」「紫頭巾」「バケツの底」等々、日々の現実の背後から、記憶の深みから、生命(いのち)の糸を紡ぎだす、名手宮本輝の犀利な「九つの物語(ナイン・ストーリーズ)」。
  • 夢見通りの人々
    3.8
    1巻539円 (税込)
    その名前とはうらはらに、夢見通りの住人たちは、ひと癖もふた癖もある。ホモと噂されているカメラ屋の若い主人。美男のバーテンしか雇わないスナックのママ。性欲を持て余している肉屋の兄弟……。そんな彼らに詩人志望の春太と彼が思いを寄せる美容師の光子を配し、めいめいの秘められた情熱と、彼らがふと垣間見せる愛と孤独の表情を描いて忘れがたい印象を残すオムニバス長編。
  • マンボウ周遊券
    -
    大海原をたゆたうマンボウのように、時には喧噪の街を離れて、のんびりと旅に出よう――。飛行機に乗れば荷物は消え、汽車に乗れば閉じこめられ、車で走ればエンコする。ヨーロッパ講演旅行(狐狸庵・遠藤周作らと)、ソ連作家同盟の招待旅行(奇態な宇宙人・星新一らと)、マダガスカル旅行(乗物狂・阿川弘之と)など、マンボウとそのおかしな仲間たちの珍談奇談あふれる愉快な旅。
  • 黄いろい船
    -
    1巻539円 (税込)
    長年つとめた会社を解雇された男の沈鬱な心情は、ゆったりと童話じみて大空を浮游する黄いろい飛行船に幼時の夢の幻影をうつし出した――中年の男の心の中に生きる《少年》への愛惜と訣別を描く表題作。ほかに『霧の中の乾いた髪』『こども』など、幼い遊びや反抗期と問題児、初恋と性の目覚めなどを弾力のある観察でとらえ、少年期の微妙な心を鮮やかに描く中短編全5編を収録。
  • 遙かな国 遠い国
    -
    1巻539円 (税込)
    頭は弱いがとびきり素直で力持ちの正太少年が、オンボロ漁船に雇われて、船員たちにからかわれながらも、飯焚き雑役に大奮闘。あげくに船は沈没、凍える海に放り出され、ソ連に抑留されて……北国の空の下、おおらかな恋人たちに眼を見張る。純朴な少年の眼を通して、遠い魂の故郷への憧憬を物語る表題作ほか、初期の珠玉作『三人の小市民』『埃と燈明』『為助叔父』『友情』を収録する。
  • 卍(まんじ)
    3.9
    夫に不満のある若い妻・園子は、技芸学校で出会った光子と禁断の関係に落ちる。しかし奔放で妖艶な光子は、一方で異性の愛人・綿貫との逢瀬を続ける。光子への狂おしいまでの情欲と独占欲に苦しむ園子は、死を思いつめるが――。おたがいを虜にしあった二人の女が織りなす、淫靡で濃密な愛憎と悲劇的な結末を、生々しい告白体で綴り、恋愛小説家谷崎の名を不動のものとした傑作。

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  • 蓼喰う虫
    -
    全てにおいて完璧だと思って結婚した女なのに、なぜ妻という立場になると、欲情しなくなるのだろう……。セックスレスが原因で不和に陥った一組の夫婦。夫は勝手気儘に娼婦を漁り、片や妻は夫公認の間男の元へと足繁く通う日々を送る。関係はもはや破綻しているのに、子供のことを考えると離婚に踏み切れない。夫婦を夫婦たらしめるものは一体何か。著者の私生活を反映した問題作。

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  • 寺内貫太郎一家
    4.3
    〈貫太郎のモデルは、私の父向田敏雄である。よくどなり、よく殴り、5年前に亡くなった。お線香代りに、ちょっぴり「立派な男」に仕立て直してお目にかけた……〉。口下手で怒りっぽいくせに涙もろい、日本の愛すべき“お父さん”とその家族をユーモアとペーソスで捉え、きめ細かな筆致で下町の人情を刻み、東京・谷中に暮す庶民の真情溢れる生活を描いた幻の処女長編小説。

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  • 生きるとは、自分の物語をつくること
    4.2
    人々の悩みに寄り添い、個人の物語に耳を澄まし続けた臨床心理学者と、静謐でひそやかな小説世界を紡ぎ続ける作家。二人が出会った時、『博士の愛した数式』の主人公たちのように、「魂のルート」が開かれた。子供の力、ホラ話の効能、箱庭のこと、偶然について、原罪と原悲、個人の物語の発見……。それぞれの「物語の魂」が温かく響き合う、奇跡のような河合隼雄の最後の対話。
  • 人生論ノート
    4.1
    死について、幸福について、懐疑について、偽善について、個性について、など23題――ハイデッガーに師事し、哲学者、社会評論家、文学者として昭和初期における華々しい存在であった三木清の、肌のぬくもりさえ感じさせる珠玉の名論文集。その多方面にわたる文筆活動が、どのような主体から生れたかを、率直な自己表現のなかにうかがわせるものとして、重要な意味をもつ。

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  • 山椒大夫・高瀬舟
    3.9
    1巻539円 (税込)
    人買いのために引離された母と姉弟の受難を通して、犠牲の意味を問う『山椒大夫』、弟殺しの罪で島流しにされてゆく男とそれを護送する同心との会話から安楽死の問題をみつめた『高瀬舟』。滞欧生活で学んだことを振返りつつ、思想的な立場を静かに語って鴎外の世界観、人生観をうかがうのに不可欠な『妄想』、ほかに『興津弥五右衛門の遺書』『最後の一句』など全12編を収録する。

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  • 青春の蹉跌
    4.2
    生きることは闘いだ。他人はみな敵だ。平和なんてありはしない。人を押しのけ、奪い、人生の勝利者となるのだ――貧しさゆえに充たされぬ野望をもって社会に挑戦し、挫折した法律学生江藤賢一郎。成績抜群でありながら専攻以外は無知に等しく、人格的道徳的に未発達きわまるという、あまりにも現代的な頭脳を持った青年の悲劇を、鋭敏な時代感覚に捉え、新生面を開いた問題作。

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  • プリズンの満月
    4.0
    1巻539円 (税込)
    40年におよぶ刑務官生活にピリオドを打った鶴岡に、再就職の話が舞い込んだ。それは、巣鴨プリズン跡地に建つ高層ビル建設の警備を指揮するというものだった。鶴岡の脳裏に、かつて自らが刑務官として勤務したプリズンの情景がよみがえった――。敗戦国民が同国人の戦犯の刑の執行を行うという史上類のない異様な空間に懊悩する人々の生きざま。綿密な取材が結実した吉村文学の新境地。

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  • 遠い日の戦争
    4.3
    1巻539円 (税込)
    終戦の詔勅が下った昭和20年8月15日、福岡の西部軍司令部の防空情報主任・清原琢也は、米兵捕虜を処刑した。無差別空襲により家族を失った日本人すべての意志の代行であるとも彼には思えた。だが、敗戦はすべての価値観を逆転させた。戦犯として断罪され、日本人の恥と罵られる中、暗く怯えに満ちた戦後の逃亡の日々が始まる――。戦争犯罪を問い、戦後日本の歪みを抉る力作長編。

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  • 縦走路
    3.6
    北アルプス、冬の八ヶ岳で二人の山男は、「女流登山家に美人なし」と言う通念をくつがえす、美貌のアルピニスト“千穂”に夢中になる。彼女の旧友でライバルの美根子を交えた四人の間に恋愛感情のもつれが起こるが、命がけの北岳胸壁攻撃の後、千穂は……。きびしい冬山と氷壁を舞台に、“自然対人間”そして“男対女”を通して緊迫したドラマをみごとに描く傑作長編山岳小説。

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  • 白痴
    3.7
    白痴の女と火炎の中をのがれ、「生きるための、明日の希望がないから」女を捨てていくはりあいもなく、ただ今朝も太陽の光がそそぐだろうかと考える。戦後の混乱と頽廃の世相にさまよう人々の心に強く訴えかけた表題作など、自嘲的なアウトローの生活をくりひろげながら、「堕落論」の主張を作品化し、観念的私小説を創造してデカダン派と称される著者の代表作7編を収める。

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  • 冬の優しさ
    -
    青年時代にリヨンの広場で出会った老夫婦の、秋の果樹園にさす午後の陽のようなあたたかな微笑。齢をとったらそんな老人になりたいと思ってきたが、私もその年齢にたどりついたようだ……。優しさを、心のふれあいを、そして思いやりを求め、著者は真摯に人間を見つめてきた。青年時代から今日までの“私の歳月”と“人生の出会い”をふり返り、人間と愛と生と死を綴る愛のエッセイ集。

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  • 牧歌
    -
    1950年、27歳の著者は戦後初の留学生として、フランスに旅立った。街角にも人々の心にも戦争の暗い翳を残すヨーロッパで、信仰を、愛を、そして自らの生き方を真摯に模索する。この間に書かれた青春の苦渋と若さの香気溢れるエッセイを中心に、以後最近に至るまでの海外紀行エッセイを集める。〈日本と西洋〉というテーマを一貫して追求してきた著者の創作と表裏一体をなすエッセイ群。

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  • イースト・リバーの蟹
    -
    日本屈指の総合商社で副社長にまで昇りながら、男は権力抗争を潔しとせず、マンハッタンをのぞむ高層住宅に「引退」した。十ヵ月後、日本から吹きこんできた一陣の風。ライバルだった現社長の急死。男を社長に、と色めきたつ元部下たち。その時、男は……。ほろ苦い諦めや悔みきれぬ過去、くすぶり続ける野心を胸に秘め、日本を遠く離れた男たちが異郷に織りなす、五つの人生模様。

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  • 乗取り
    4.0
    株の買占めによる老舗デパートの乗取り。金と若さだけを武器に、現代における最も劇的なこの戦闘に挑んでいく、闇屋あがりの青年実業家、青井文麿。媚びと虚勢を徹底して使いわけ、金と金、顔と顔でつながった財界の厚い壁に体当たりしていく青井の姿に、高度成長期の日本が象徴される。現実に起った事件に材をとり、経済界の深奥での暗闘をスピーディなタッチで暴いてみせた快心作。

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  • 指揮官たちの特攻―幸福は花びらのごとく―
    3.7
    神風特別攻撃隊第一号に選ばれ、レイテ沖に散った関行男大尉。敗戦を知らされないまま、玉音放送後に「最後」の特攻隊員として沖縄へ飛び立った中津留達雄大尉。すでに結婚をして家庭の幸せもつかんでいた青年指揮官たちは、その時をいかにして迎えたのか。海軍兵学校の同期生であった二人の人生を対比させながら、戦争と人間を描いた哀切のドキュメントノベル。城山文学の集大成。

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  • 母なるもの
    3.9
    複雑に屈折した生き方を強いられた隠れ切支丹の姿に、自己の内なる投影を見た作者の魂の表白である表題作など全8編。――裏切り者や背教者、弱者や罪人にも救いはあるか? というテーマを追求する作者が、裁き罰する父なる神に対して、優しく許す“母なるもの”を宗教の中に求める日本人の精神の志向を、自身の母性への憧憬、信仰の軌跡と重ねあわせて、見事に結晶させた作品集。
  • 過ぐる川、烟る橋(新潮文庫)
    4.0
    1巻528円 (税込)
    1970年代、東京。貧しくとも、ささやかな夢を分け合う二人の男がいた。九州から単身上京、中華料理店で働く篤志。身体がデカいのが悩みの彼は、店の先輩・勇のすすめでプロレスの世界に足を踏み入れる。運を掴む篤志と、見放される勇、その間で揺れるユキ。時を経て再会した三人は、何を得、何を失ったのか――? 青春の記憶を手繰り、夜の博多に漂うノスタルジック・ラブストーリー。
  • 星の王子さま
    4.4
    砂漠に飛行機で不時着した「僕」が出会った男の子。それは、小さな小さな自分の星を後にして、いくつもの星をめぐってから七番目の星・地球にたどり着いた王子さまだった……。一度読んだら必ず宝物にしたくなる、この宝石のような物語は、刊行後七十年以上たった今も、世界中でみんなの心をつかんで離さない。最も愛らしく毅然とした王子さまを、優しい日本語でよみがえらせた、新訳。
  • ミタカくんと私
    4.1
    ※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 一見とっつきにくいけど、顔がいいから女の子にモテる。幼稚園から一緒だったという理由で、いろいろな人にミタカくんのことを聞かれたりする私の家に、ミタカは日常的にいついている。うちはママと中学生のミサオ、パパは家出中。だからいつも4人で、ごはんを食べたり、テレビを見たり、日々は平和に過ぎていき、これからも続いていく―ナミコとミタカのつれづれ恋愛小説。 ※この商品は固定レイアウトで作成されており、タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。
  • 山頂の憩い―『日本百名山』その後―
    4.0
    日本は名山に事欠かない。日本の山は、森林あり、渓谷あり、高原あり、火山あり、褶曲山脈あり、秩父古成層あり、石灰岩あり―その千差万別の美しさと品格、古い歴史で、山好きの心を魅了する。名著『日本百名山』以降も山登りを続けた著者が選んだ、さらなる日本の名山二十余を収録する。脱稿からわずか三日後、忽然と茅ヶ岳で逝った著者の、最後の自選山岳紀行エッセイ集。 ※新潮文庫に掲載の写真・図版は、電子版には収録しておりません。
  • イタリアからの手紙
    4.0
    芳醇なるブドウ酒の地中海。死んでいく都、ヴェネツィア。生き馬の眼を抜くローマ。だましの天才はナポリ人。田園風景に、マフィア……。ここ、イタリアの風光は飽くまで美しく、その歴史はとりわけ奥が深く、人間は甚だ複雑微妙で、ぞくぞくするほど面白い。──壮大なライフ・ワーク『ローマ人の物語』へと至る遥かな足跡の一端を明かして、人生の豊かな味わいに誘う24のエセー。
  • 診療室にきた赤ずきん―物語療法の世界―
    3.8
    「むかしむかし、あるところに……」まさか精神科を受診して、昔話や童話を聞かされるなんて誰も思ってもみなかっただろう。でも、患者たちの当惑はすぐ驚きに変わる。そこに繰り広げられるのは自分の物語なのだ。悩みを抱えた心の深層を「赤ずきん」「ももたろう」「幸運なハンス」「三びきのこぶた」などで解き明かす、ちょっと不思議で、ほんとうは不思議じゃない12話の「心の薬」。
  • 古風堂々数学者
    4.3
    (1)武士道精神を愛して卑怯を憎み、(2)他人の向上に熱心な性向をもち、(3)論理的、合理的でないものを尊ぶ情緒の国に生まれたことを誇りとする、情に棹さしてばかりの数学者は、いかにして誕生したか。独特の〈教育論〉〈文化論〉、十八番の〈家族もの〉、皆が貧しかった時代の少年期に(1)~(3)を血肉にしていく経緯を活写した中編等、論理の美しさとユーモアが見事に和した、48編の傑作エッセイ。
  • ゲーテ格言集
    4.0
    偉大なる詩人であり作家であると同時に、最も人間的な魅力にあふれたゲーテは、無限に豊富な知と愛の言葉の宝庫を残している。彼の言葉がしばしば引用されるのも、そこには永久に新鮮な感性と深い知性と豊かな愛情とが、体験に裏づけられて溶けこんでいるからである。本書は、彼の全著作の中からと、警句、格言として独立に書かれたものの中から読者に親しみやすいものを収録した。
  • テレーズ・デスケイルゥ
    3.3
    ボルドの荒涼たる松林を吹きぬける烈風にそそのかされたように、なぜ、と問われても答えられぬ不思議な情熱に誘われて、テレーズは夫を殺して自由を得ようとうするが果せず、しかも夫には別離の願いを退けられる……。情念の世界に生き、孤独と虚無の中で枯れはててゆく女テレーズを、独特の精緻な文体で描き、無神の世界に生きる人の心を襲う底知れぬ不安を宗教的視野で描く名作。
  • ヴェニスの商人
    3.8
    ヴェニスの若き商人アントーニオーは、恋に悩む友人のために自分の胸の肉一ポンドを担保に悪徳高利貸しシャイロックから借金してしまう。ところが、彼の商船は 嵐でことごとく遭難し、財産の全てを失ってしまった。借金返済の当てのなくなった彼はいよいよ胸の肉を切りとらねばならなくなるのだが――。機知に富んだ胸のすく大逆転劇が時代を越えてさわやかな感動をよぶ名作喜劇。
  • 不愉快な本の続編
    3.4
    フランス留学時代に女でしくじり、帰国後も生来のヨソ者として暮らしてきた乾ケンジロウ。東京でのヒモ生活から遁走し、新潟で人生初の恋に落ち結婚するも破局。富山では偶然再会した大学の女友達に、美術館で盗んだジャコメッティの彫刻を餞別に渡し、逃げるようにして故郷の呉へ――。『異邦人』ムルソーを思わせる嘘つき男の、太陽と海をめぐる不条理な彷徨。著者の最高到達点。
  • マンボウ 遺言状
    3.3
    歯が痛い。腰も痛い。年をとるのがこんなにつらいとは思いもしなかった。親しい人も亡くなって、残されたたった一つの望みは、安楽に、早く死ぬことだ――。ハチャメチャ大王・マンボウ氏もいよいよ気弱な年頃に……なるわけがありません! たとえ老体となっても、心は少年。常識にとらわれぬぶん、年甲斐もないマンボウ流の雄叫びは、老いてますます絶好調。抱腹絶倒エッセイ。※新潮文庫版に掲載の挿絵は、電子版には収録しておりません。
  • 草原の記
    4.1
    史上空前の大帝国をつくりだしたモンゴル人は、いまも高燥な大草原に変わらぬ営みを続けている。少年の日、蒙古への不思議な情熱にとらわれた著者が、遥かな星霜を経て出会った一人のモンゴル女性。激動の20世紀の火焔を浴び、ロシア・満洲・中国と国籍を変えることを余儀なくされ、いま凜々しくモンゴルの草原に立つその女性をとおし、遊牧の民の歴史を語り尽くす、感動の叙事詩。
  • 女という病
    3.5
    ツーショットダイヤルで命を落としたエリート医師の妻、我が子の局部を切断した母親、親友をバラバラにした内気な看護師……。殺した女、殺された女。際限ない欲望、ついに訪れた破滅。彼女たちは焼けるような焦りに憑かれて「本当の私」を追い求め、狂い、堕ちた。女性が主役を演じた13事件の闇に迫る圧倒的ドキュメント! 女の自意識は、それ自体、病である。これは、あなたの物語。
  • 女の一生
    3.9
    修道院で教育を受けた清純な貴族の娘ジャンヌは、幸福と希望に胸を踊らせて結婚生活に入る。しかし彼女の一生は、夫の獣性に踏みにじられ、裏切られ、さらに最愛の息子にまで裏切られる悲惨な苦闘の道のりであった。希望と絶望が交錯し、夢が一つずつ破れてゆく女の一生を描き、暗い孤独感と悲観主義の人生観がにじみ出ているフランス・リアリズム文学の傑作である。
  • 雁の寺・越前竹人形
    4.3
    1巻528円 (税込)
    “軍艦頭”と罵倒され、乞食女の捨て子として惨めな日々を送ってきた少年僧・慈念の、殺人にいたる鬱積した孤独な怨念の凝集を見詰める、直木賞受賞作『雁の寺』。竹の精のように美しい妻・玉枝と、彼女の上に亡き母の面影を見出し、母親としての愛情を求める竹細工師・喜助との、余りにもはかない愛の姿を、越前の竹林を背景に描く『越前竹人形』。水上文学の代表的名作2編。
  • 暖簾
    4.0
    一介の丁稚から叩きあげ、苦労の末築いた店も長子も戦争で奪われ、ふりだしに戻った吾平の跡を継いだのは次男孝平であった。孝平は、大学出のインテリ商人と笑われながら、徹底して商業モラルを守り、戦後の動乱期から高度成長期まで、独自の才覚で乗り越え、遂には本店の再興を成し遂げる。親子二代“のれん”に全力を傾ける不屈の気骨と大阪商人の姿を描く作者の処女作。
  • 後白河院
    3.7
    朝廷・公卿・武門が入り乱れる覇権争いが苛烈を極めた、激動の平安末期。千変万化の政治において、常に老獪に立ち回ったのが、源頼朝に「日本国第一の大天狗」と評された後白河院であった。保元・平治の乱、鹿ヶ谷事件、平家の滅亡……。その時院は、何を思いどう行動したのか。側近たちの証言によって不気味に浮かび上がる、謎多き後白河院の肖像。明晰な史観に基づく異色の歴史小説。
  • ため息の時間
    3.6
    1巻528円 (税込)
    愛したことが間違いなんじゃない。ただ少し、愛し方を間違えただけ──。完璧に家事をこなす妻を裏切り、若い女と浮気する木島。妻が化粧をするのを許さなかった原田。婚約寸前の彼女がいるのに社内で二股をかけた洪一。仕事のために取引先の年上女性に近づく孝次…。裏切られても、傷つけられても、性懲りもなく惹かれあってしまう、恋をせずにいられない男と女のための恋愛小説9篇。

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  • 馬鹿な男ほど愛おしい
    -
    恋はいいもの、楽しいもの。だから十代の恋愛はすごく大切。どんな恋愛をしたかで、そのあとの恋愛体験に大きな影響を与えるから。一生懸命に誰かを好きになった、そのせつない気持ちを大切にできたならそれでいい。振り返れば面白かった――恋愛&友情&自分の未来……想いは乱れながら、いつも夢中だったあの頃。迷いながらも突き進んだ怒濤の青春の日々を綴る恋愛体験エッセイ。

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  • 笑う怪獣 ミステリ劇場
    3.0
    突如出現する巨大怪獣。地球侵略を企むナゾの宇宙人。そして人々に襲いかかる驚異の改造人間。いい年齢をしてナンパが大好きな、アタル、京介、正太郎の3バカトリオに、次々と恐怖が襲い掛かる! 彼らを救うヒーローは残念ですが現れない! 密室、誘拐、連続殺人。怪物たちは、なぜか解決困難なミステリを引き連れてくるのであった。空前絶後のスケールでおくる、本格特撮推理小説。

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  • 水の肌
    3.7
    妻の実家の金で留学した男が旅先で資産家の娘と知り合い、妻の前から姿を消す。彼は妻に落ち度があれば離婚が成立すると、私立探偵を雇い、密かに動向を監視し続ける。ところが知らぬ間に、彼が軽蔑していたかつての同僚と妻が再婚していたのを知った時、男の心に理不尽な怒りが湧く…。表題作をはじめ計りがたい人間の愛憎と欲望をテーマに、現代社会の不確実な内面をえぐる傑作短篇5話を収録した推理小説集。

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  • 天国の本屋
    4.1
    1~2巻528円 (税込)
    さとしはアロハシャツの不思議なおっさんに誘われ、突然天国の本屋でアルバイトをすることになった。この店の売り物の、朗読サービスを受け持つことになったさとし。そして緑色の目を持つ少女ユイに恋心を抱く……。でも、ユイの心は、この世でできた大きな傷に塞がれていた──。慌しい毎日に押しつぶされそうな貴方にお勧めします。懐かしさと優しさが、胸一杯に込み上げてきます。

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  • 小説 日本婦道記
    4.2
    千石どりの武家としての体面を保つために自分は極端につましい生活を送っていたやす女。彼女の死によって初めて明らかになるその生活を描いた『松の花』をはじめ『梅咲きぬ』『尾花川』など11編を収める連作短編集。厳しい武家の定めの中で、夫のため、子のために生き抜いた日本の妻や母の、清々しいまでの強靱さと、凜然たる美しさ、哀しさがあふれる感動的な作品である。

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  • 黄泉びと知らず
    3.1
    感動再び! 原作でも映画でも描かれなかった、もう一つの『黄泉がえり』。不思議なことが起きていると聞いた。熊本のある地域で、死者が蘇るというのだ。もう一度だけ、あの子に逢いたい――。事故で亡くした子供を生き返らせるべく、別れた夫婦が再会し、熊本へ向かう。再生への祈りを込めた旅路を描く表題作ほか、短編の名手と謳われるカジシンの魅力満載で贈る一冊。

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  • 漱石の孫
    -
    百年前、祖父・夏目漱石がヨーロッパ文化と格闘していた下宿。その部屋を訪れた時、僕は予想しなかった感動に襲われた――。日本を代表する作家の直系として生を享けた著者は、如何にして、その運命を受け入れるようになったのか。ロンドンで祖父の足跡を辿りながら、愛するマンガへの眼差しを重ね合わせつつ、漱石を、音楽家だった父・純一を、そして、自分自身を語ってゆく。

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  • 天に遊ぶ
    3.8
    1巻528円 (税込)
    見合いの席、美しくつつましい女性に男は魅せられた。ふたりの交際をあたたかく見守る周囲をよそに、男は彼女との結婚に踏みきれない胸中を語りはじめる。男は、独り暮らしの彼女の居宅に招かれたのだった。しかし、そこで彼が目撃したものは……(「同居」)。日常生活の劇的な一瞬を切り取ることで、言葉には出来ない微妙な人間心理を浮き彫りにする、まさに名人芸の掌編小説21編。

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  • 名札のない荷物
    -
    《荷物 一個 内容 死体》トルストイの遺体にひっそりと付けられた荷札をめぐる随想。信長暗殺に臨んで御神籤を三回引いた明智光秀の心中劇とマクベスの葛藤の姿。そしてエイズについての率直な発言。創作の為に書き留められた日記とメモと紀行文からは、記録を超えた玄妙な香りさえ立ち昇る。イメージの飛躍としたたかな小説構造を両立させた清張文学を読み解く最後の記録作品。

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  • 眼の気流
    3.9
    車の座席で戯れる二人づれに憎しみの執念をもやす若い運転手。愛人に裏切られた初老の男のひそやかな怒り――二人の男の接点に生じた殺人事件を追う表題作。立身出世のために愛する女性を殺すが、女は奇蹟的に息を吹き返し、記憶を失ったまま男の前に姿を現わす……非情なエリート官僚を描く『たづたづし』等全5編。日常生活に潜む怖ろしい生の断層、現代の憎悪を抉る推理傑作集。

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  • 巨人の磯
    3.8
    大洗海岸に巨人と見紛うほどに膨張した死体が流れ着いた。警察は苦心の末に、海外旅行中の県議会議員と特定したが、その腐爛状態には驚きのトリックが隠されていた(表題作)。実力はありながら、地味な風貌が災いし、どの組織でも決してトップの椅子にはつけない元銀行副頭取。男が三十一歳も若いバーのマダムと再婚したとき、悲劇が幕を開ける「礼遇の資格」など傑作短編五編。
  • 酒みずく・語る事なし
    3.0
    酒びたりになるほかはないほどに己れを追い詰めて、創作に励む姿を刻んだ「酒みずく」。晴れがましいことの嫌いだった母のただひとつの思い出を綴る「語る事なし」。“曲軒”の真骨頂をしめす「直木三十五賞『辞退のこと』」。作家的信念を力強く述べた「小説の効用」など。エッセイのほかに、対談・インタビューをまじえて周五郎の人生観・文学観を総覧する。『小説の効用・青べか日記』改題。

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