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恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る〈鳴鱗琴(メイリンキン)〉について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る「ひよこトラック」、思い出に題名をつけるという老人と観光ガイドの少年の話「ガイド」など、静謐で妖しくちょっと奇妙な七編。「今は失われてしまった何か」をずっと見続ける小川洋子の真髄。 ※新潮文庫に掲載の「著者インタビュー」は、電子版には収録しておりません。
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Posted by ブクログ
こってりとした『BUTTER』の後はさっくりと読める短編集を。実は初めて、小川洋子さんの本を読破しました。 ずっと憧れはあった。何冊か手に取ってはその言葉の美しさと静謐な世界観に、ある種の格式高さ、ハードルの高さのような感想を抱いて、もう少し読書慣れしてからにしようと挫折していた。 だから今回、あえ...続きを読むて短編という形で再挑戦をした。ゴールが近いからこそ、あまり怖がらずに読み進められたし、自分の中で感じていた高嶺の花のような文体も実はとても柔らかく、ひんやりとした手のひらの中に温かな小さな命が握られているような繊細さが感じ取れた。 誰だって、この温かさに触れてもいいんだよ、でもそっとね、と言われているような優しい文体に、気付けば小川洋子さんの世界観にどっぷりと浸っていました。 七つの短編、そのどれもが気付けばぐんぐんとのめり込み、煩わしかった周りの音や話し声もまるで遠くに行ってしまったような錯覚を覚えながら読み進められました。 短編というものが読み慣れていない私にとってもその終わり方はどれも優しくふんわりと着地して、心がすうっと軽くなるような余韻を残すものが多くて、改めて小川洋子さんの文章の上手さに静かに圧倒されました。 全部が好きだけど、特に好きなのは「風薫るウィーンの旅六日間」「缶入りドロップ」「ガイド」です。 「ひよこドロップ」も入れたかったけど、穏やかで優しい世界観の中にそっと差し込まれた残酷さという名のえぐみを上手く味わえるほど、私はまだ成熟してなかった。でも好き。 「海」 この本の表題作。主人公とその彼女の弟、男二人の静かな一夜。「小さな弟」の少し異質な背景が滲み出していながらもそれを踏み躙らない静かな夜を共に過ごしたような感覚が残った。 「風薫るウィーンの旅六日間」 控えめなフリしてちゃっかりしてる未亡人のおばさん、琴子に、主人公の二十歳の女性が振り回され、彼女の四十五年前の異国の恋人の最期を看取る話。自分の旅行の計画を潰されてもそっと琴子に寄り添ってあげている主人公が優しい!最後のオチが全部の短編の中で一番好き。 「バタフライ和文タイプ事務所」 個人的に一番硬い単語が多くて読み難いなと思いながら読み進めていたけど、途中からあれこれ、もしかして高度な言葉遊びを用いた官能小説か?と気付き始めてから一気に面白くなった。あまりにレベルの高い官能加減にくらくらした。純文学×官能もっと読みたい。 「銀色のかぎ編み」 短さにびっくりしたけど、短い中にも主人公の中に宿る祖母の記憶と現実の景色が混ざり合う感覚が心地よかった。 「缶入りドロップ」 これも短いけど好きな作品。子供を持ったことのない不器用な大人が、子供という未知なる存在を自分なりに攻略するための術が、側から見たらとても優しい心配りのように見える構図が面白くて心がぽかぽかした。 「ひよこトラック」 母の死をきっかけに喋れなくなった少女と、孤独なドアマンの男性のお話。男性が少女とのコミュニケーションにあえて言葉を用いない方法を取ったおかげで生まれた二人だけの優しい時間。二人が目を奪われたカラフルなひよこの残酷な末路、それを知らない少女の清らかな心の描写がとても素敵だなと思いました。 「ガイド」 バスガイドの母を持つ少年と"題名屋”を営む初老の紳士のお話。小川さんの描く、歳の離れた二人の交流が好きだなぁと再確認した作品。私も消えてほしくない思い出に題名をつけてみようかなと考えさせられました。
誰にでもあるようなありふれた生活の一場面を切り取ったような短編集です。 それでも無国籍で御伽話のように感じるところが、著者の本領なのでしょうね。 変わりのない日常だと思っている日々の中にも、かけがえの無い何かが有るのだと思わせてくれます。 日々の暮らしが愛おしくなるように生きていかねば。
鳴鱗琴ってすごく美しい漢字。 どれも小川洋子さんによる異国のお話しのように感じられて、小川洋子さんの描く世界観と文章がとても好きなんだなと新たな発見になった。 自分の思い出にも題名をつけてほしいな。 次に読みたい本も決まりました。
小川洋子の書くお話ってどこかすいすいと夢を見ているようなんだけど、最後のインタビューに「短編は短い妄想」と書いてあって安心した。妄想は最も自発的で積極的な夢といえるからね。「そこにしか居場所がなかった人たち」。そういえば『猫を抱いて象と泳ぐ』もそうだったな。 本当に小川洋子は均衡感覚に優れている。...続きを読む本書でもそう感じさせられた。生と死、理性と感性、温かさと冷たさ、それぞれが拮抗しているラインのたったひとつの交点にその小説がある。それより少し右でも左でも上でも下でもない。文字数もこれ以上多くも少なくもない。この完璧主義的でさえある小説を、なんというか無意識的に書いてそうなところがますます恐ろしい。 「バタフライ和文タイプ事務所」がお気に入り。エロチックとギャグチックってほんの紙一重のところに位置していることを改めて感じさせられた。小川洋子のお話は、景色だけじゃなくて人の顔とか仕草まで、情景があまりにもありありと浮かんでくる。その夢はいつもなんだか切ない。
様々な物語が収録されているが中でも私がオススメしたいのが『ひよこトラック』 初老のドアマンが元々住んでいたアパートの大家と揉め事になり引っ越す事から物語が始まってゆく、 海老茶色の屋根に煙突が一つある家に住む事になった。 そこには七十の未亡人と無口な少女が住んでいて、1年前に少女の母が亡...続きを読むくなり未亡人が娘の引き取り同居していた。 無口な少女と初老のドアマンが関わっていく中で化学変化が起き、今まで無口だった少女が最後にドアマンにあるプレゼントを贈る。それは読んでからのお楽しみ♪
夢か現か分からなくなる感覚を味わえる文体の作家はそこまで多くない。言葉にならない思いを文字として示し、徐々に空想に浸らしてくれる。 作者久々の短編集はそういった現実で起きているにも関わらず、どこか現実ではない空気感が魅力の物語で、浮遊感を感じた。 表題作『海』、『ガイド』や『風薫るウィーンの旅六日間...続きを読む』等、年齢差を超えた関わり合いはどこか滑稽で、あまりに魅力に満ちている。もう今はない失われてしまった日常を描く作家小川洋子さん、まだまだ読み続けていきたい。
素敵な短編集。 一つひとつの作品世界に引き込まれていきますよ。 「たとえ一瞬でも自分のことを思い出してくれる人がいるなんて、うれしいじゃありませんか。」 本も同じで、私のなかにまた素敵な言葉と物語、作者の想いが刻まれいつでも思い出せる幸せを感じさせてくれました。 ぜひ〜
するすると読めるけれど、小川洋子独特のひんやりとした感触、奇妙で意地らしく温かい視線、現実から少しだけずれた、しかし不思議と安らぐ読後感。それと、この短編集は少し気軽でユーモラスな話も入っていて愛らしい。 やっぱり小川洋子は良いなと満たされた気持ちになりました。
とても短いものから中篇に近い作品まで収めた、少し体温が低いような、逆に微熱があるような短編集。 時折ユーモラスに、たまにエロティックですらあるのは、どこかほんの少しだけ終わりの意識/死の匂いがあるからだろうか。
文芸評論家の三宅香帆さんがおすすめしていたので購読。眠る前のベッドで少しずつ読み進めたが、どのお話も心が静かになる短編。小川先生が巻末のインタビューで「ひとつ世代が抜けている者同士のつながりを書いたものが多い」と仰っているが、ひとつ世代が抜けていることによって、死の気配も、みなぎる生命力も同時に感じ...続きを読むるのがなんとも儚くて、胸にじんわりとくる。小川先生の作品の登場人物の感受性の強さも好きで、また過去の作品も読み直そうかなと思った。
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