あらすじ
恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る〈鳴鱗琴(メイリンキン)〉について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る「ひよこトラック」、思い出に題名をつけるという老人と観光ガイドの少年の話「ガイド」など、静謐で妖しくちょっと奇妙な七編。「今は失われてしまった何か」をずっと見続ける小川洋子の真髄。 ※新潮文庫に掲載の「著者インタビュー」は、電子版には収録しておりません。
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小川洋子の書くお話ってどこかすいすいと夢を見ているようなんだけど、最後のインタビューに「短編は短い妄想」と書いてあって安心した。妄想は最も自発的で積極的な夢といえるからね。「そこにしか居場所がなかった人たち」。そういえば『猫を抱いて象と泳ぐ』もそうだったな。
本当に小川洋子は均衡感覚に優れている。本書でもそう感じさせられた。生と死、理性と感性、温かさと冷たさ、それぞれが拮抗しているラインのたったひとつの交点にその小説がある。それより少し右でも左でも上でも下でもない。文字数もこれ以上多くも少なくもない。この完璧主義的でさえある小説を、なんというか無意識的に書いてそうなところがますます恐ろしい。
「バタフライ和文タイプ事務所」がお気に入り。エロチックとギャグチックってほんの紙一重のところに位置していることを改めて感じさせられた。小川洋子のお話は、景色だけじゃなくて人の顔とか仕草まで、情景があまりにもありありと浮かんでくる。その夢はいつもなんだか切ない。
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様々な物語が収録されているが中でも私がオススメしたいのが『ひよこトラック』
初老のドアマンが元々住んでいたアパートの大家と揉め事になり引っ越す事から物語が始まってゆく、
海老茶色の屋根に煙突が一つある家に住む事になった。
そこには七十の未亡人と無口な少女が住んでいて、1年前に少女の母が亡くなり未亡人が娘の引き取り同居していた。
無口な少女と初老のドアマンが関わっていく中で化学変化が起き、今まで無口だった少女が最後にドアマンにあるプレゼントを贈る。それは読んでからのお楽しみ♪
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小川洋子さんの本、大好きなんだけど、きちんと受け止めることができないときに、自分にとってもガッカリするので、読み始めるのに勇気がいるのだが、この短編集はどのお話もそれそのものにもどっぷり浸かれるし、その奥にあるものを手にできそうな感覚がたまらなく良かった。
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夢か現か分からなくなる感覚を味わえる文体の作家はそこまで多くない。言葉にならない思いを文字として示し、徐々に空想に浸らしてくれる。
作者久々の短編集はそういった現実で起きているにも関わらず、どこか現実ではない空気感が魅力の物語で、浮遊感を感じた。
表題作『海』、『ガイド』や『風薫るウィーンの旅六日間』等、年齢差を超えた関わり合いはどこか滑稽で、あまりに魅力に満ちている。もう今はない失われてしまった日常を描く作家小川洋子さん、まだまだ読み続けていきたい。
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素敵な短編集。
一つひとつの作品世界に引き込まれていきますよ。
「たとえ一瞬でも自分のことを思い出してくれる人がいるなんて、うれしいじゃありませんか。」
本も同じで、私のなかにまた素敵な言葉と物語、作者の想いが刻まれいつでも思い出せる幸せを感じさせてくれました。
ぜひ〜
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小川洋子さんの短編集を読むのは「妊娠カレンダー」「薬指の標本」に続けて3作目。
最近は小川さんの長編を続けて読んでいたので、箸休め的に読めるものがいいなと思って、書店で何の気なしに手に取ったこの本。
結果として私にとってはとても大事な、何度でも読み返したい本になった。
優しいけどどこか不穏、官能的なのにちょっと笑える、切ないのにどこまでも穏やか。
忘れていた色んな感情を思い出させてくれる、そんな物語のアラカルト。
今の私にはぴったりな作品だったように思う。
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ひよこトラック
40年間町で唯一のホテルのドアマンとして働いてきた初老の男性と言葉を失った6歳の少女との交流
あとがきより
小さな場所に生きている人を小説の中心にすえると、物語が動き出す感じがする。
ひとつ世代が抜けている者同士のつながり
年齢を重ねた人は死の気配、匂いを漂わせ、若い人は現実の生々しさを発信している。そのふたりの交流はダイナミックなものになる
ほのぼの感も盛り込みつつ、気味の悪さや残酷さといった、どこか死を連想させる差し色を量を加減しながら作品の中に必ず混ぜ込む。死は生に含まれている。今笑っている自分のすぐ隣にも死がある。
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短編5つ掌編2つ、184頁。この長さ、気負わず楽しめた。
2006年単行本発行。もう少しで20年経つというのに古さがない。スマホはなくても違和感皆無の小川ワールド。
一人ホテルステイのために数冊持参した中でホテルのカフェエリアで読むのに最適な一冊でした。ゆるゆるとした思考の波に漂いながら読み終えました。
「海」
なさそうでありそうな楽器、鳴鱗琴(メイリンキン)、欲しい。
「風薫るウィーンの旅六日間」
「こんな旅の同行者は嫌だ」が穏やかに描かれている…。
「バタフライ和文タイプ事務所」
本書の個人的No.1。タイプライターってパソコンにはない哀愁を備えているなぁ。ひんやりした感じが良い。小川さんの文字に対するこだわりも見えて面白かった。
「銀色のかぎ針」
「缶入りドロップ」
どちらもほんわかした。
「ひよこトラック」
ひよこが積まれたトラック、虫の抜け殻、ドアマンの男と6歳の女の子。慣れ合わない2人の距離感、お互いを尊重している交流の方法はとても居心地が良さそう。
「ガイド」
ママの仕事を手伝う良い息子。『博士の愛した数式』を思い出しました。
著者へのインタビュー
「誰が書いたかなんてこともだんだん分からなくなって、最後に言葉だけが残る。」(P168)という小川さんの理想、その姿勢、潔さがたまらなく好きです。
『ことり』や『博士の愛した数式』が好きな人にはぜひお勧めしたいです
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小川洋子の本って、他にない読み応え
10年以上積んどった本を手に取ったら引き込まれました。
どう進んでいくんだろ、という怖さあるけど、ホラーではないし、読む人にゆだねられてるのを感じる
押し付けられてる感じがしない。
不思議に心地いい
ブラフマンの埋葬とともに大切な本になりました。
Posted by ブクログ
少し不思議な話が詰まった短編集で、小川洋子さんならではの美しい文体によって、切なさを感じたり、ほっこりしたりととても良い読後感を味わえました。
Posted by ブクログ
不思議な雰囲気の話が続く。
特に気に入ったのは
「銀色のかぎ針」と「ガイド」
特にガイドの題名屋のおじいさん。
名もない出来事や思い出に名前をつけることで、そのことをより鮮明に覚えることができる。
楽しかったり切なかったり辛かったことも、知らない間に通り過ぎて過去になってしまうから。
覚えたいことには名前をつけると、綺麗に思い出の引き出しにしまっておけて、取り出したい時に取り出して浸ることができるんだろうなぁ。
ただの日常でもそれは振り返れば幸せな思い出なのかもしれない。わたしも日常から、幸せを見つけてたくさん覚えていたいな。 おじいさんと少年のやりとりにとても心が温かくなった。
Posted by ブクログ
風薫るウィーンの旅六日間
ひよこトラック
ガイド
が特に好きだった。
共通点として、年齢差のある登場人物たちが偶然の出会いで心を通わす。
一生懸命お互いに歩み寄ろうとする感じがあたたかい。
また、閉じられた空間だからこその親密感と、どこかに、永遠には続かないんだろうという切なさもある感じが、とても小川洋子さんぽい。
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動物のドキュメンタリーを見なければ眠れない「小さな弟」と海風を受けて初めて音が鳴る鳴鱗琴。表題作「海」を含めた短編7編すべてに散りばめられた小川洋子さんらしい美しい文章が胸に残りました。
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静かで奇妙な7つの短編。
他の作品同様小さな世界や特殊な人たちの描き方が独特。
知らない世界でも実は既に知っていたんじゃないかと思うほど目に浮かんでくる。
著者へのインタビューも充実。
過去の作品の話も知ることができうれしい。
Posted by ブクログ
お気に入りの章は
『鳴鱗琴』 『バタフライ和文タイプ事務所』 『缶入りドロップ』 『ひよこトラック』の4章。
どのタイトルも素敵。
普段ボーとしてるときについつい考えたり、ひらめいたりする。でも、自分の頭から外部に出すにはためらってしまうような世界で溢れていて読んでいて心地よい。外で読むにはそわそわする。そんな短編集でした。
Posted by ブクログ
どれも印象に残る短編集。好き。
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恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る〈鳴鱗琴(メイリンキン)〉について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る「ひよこトラック」、思い出に題名をつけるという老人と観光ガイドの少年の話「ガイド」など、静謐で妖しくちょっと奇妙な七編。「今は失われてしまった何か」をずっと見続ける小川洋子の真髄。著者インタビューを併録。
Posted by ブクログ
何ともいえぬ不思議な短編が詰まっており、かといって何も残らない訳でもなくて、お茶の微かな苦味を味わうようなクセのある作品だった。
特にひよこトラック、ガイド、が好みだった。
題名屋の話はまだまだ聞いていたい。
Posted by ブクログ
優しい。ありそうでどこにも無い不思議な世界で、人々は誰かと会話する。一つしかない楽器を持つ義弟だったり、言葉を話せない少女だったり。いいな、夢に出てこないかな、こんな世界。個人的には「ガイド」が一番好きだった。題名屋のおじいさんに題名をつけてほしい。
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「ガイド」が好き。
巻末のインタビューと解説を読んで、ああ確かに「バタフライ和文タイプ事務所」はコメディーだなあと思う。多分またあれが読みたいなあってこの本を思い出すきっかけになる一遍だった。
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平坦な道をただ進んでいるような、感情の起伏なく読めてしまう。最近、精神的ダメージが大きい映画を観てたから、ちょうどよかった。
好きなのは、『ひよこトラック』と『ガイド』
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全体的に死の気配がなんとなくするのが好きです。強烈じゃないところがまた。ちょっと不思議でやさしくてうつくしくて切ないお話が多かった。あとエロス。とくに好きなお話は「ガイド」「ひよこトラック」「缶入りドロップ」です。自分の思い出に題名をつけてもらうのはわたしもやってもらいたいと思いました。
Posted by ブクログ
短編集。どの短編も生活との地続き感と小川ワールドのスパイス感が絶妙でどれも残る。活字管理人とか元詩人とか鳴鱗琴とか、どれも惹かれるワードじゃない??鳴鱗琴とか聞いてみたいしどんな音色か想像するの楽しい。私は活字管理人がしたい。
Posted by ブクログ
『海』
小川洋子/新潮文庫
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短編集。
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題名の鳴鱗琴奏者である恋人の弟話を筆頭に不思議な雰囲気の短編。
タイプライターの話は言葉遊びをされていると感じた。
Posted by ブクログ
短編は短い妄想だと、著者インタビューに書いてあり、その果てを知らない妄想には、私の想像力など全く及ばない。だから、ついつい読み耽ってしまう。
「海」というタイトルを見て、こういう話ではないかと、なんとなく想像してみたが、かすりもしないのは、そりゃそうであって、小川さんの述べる「その世界でしか生きられない人たち」を、「そうではない人」と触れ合うことで生まれる物語は、おそらくささやかな出来事であっても、お互いにとって、大切なものになったのではないかと思ってしまう展開が素晴らしくて、「ひよこトラック」の中年のドアマンと無口な少女もそうだし、「ガイド」の僕と題名屋の老人もそう感じました。ガイドは、タクシーの運転手も良い味出してて好き。
また、それとは別に、「風薫るウィーンの旅六日間」の終わり方がまた印象深く、ものすごく厳かな雰囲気の中に、突如訪れるコメディ的な要素が、何とも言えない感じで良かった。まさかと思ったけれど、これはこれで良かったよねって。
そんな他の人にとって、どうでもいいようなところにも目を向ける小川さんの人柄は、インタビューを読んでもすごく興味深く、下記の言葉が特に心に残りました。
「たとえ本というものが風化して消えていっても、耳の奥で言葉が響いている・・・そんな残り方が、私の理想です」