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Posted by ブクログ
小川洋子さんの作品は、私の好きな作品のひとつです。
有名な「博士の愛した数式」などがありますが、概ねどの作品においても、場所や時代、国などが明確に背景として描かれていない。小川作品につって、これらはさほど重要ではないのだと思います。
この「琥珀のまたたき」も、ママに6年8ヶ月家の中に閉じ込められた3人の子どもたちの心証をきめ細やかに描かれています。家の外には、魔犬がいるというママの言いつけを守り、家の中で子どもたちなりの楽しみを見つけていきます。
その一つが、自分たちの父親が出版した数々の図鑑を読んで行くことです。
この図鑑で彼らは横の中のことを知っていきます。
さらにその図鑑の中に、長男にあたる「琥珀」が、魔犬のせいで命を落としたとママに教えられた妹を琥珀色の左目で見つけ出します。
これがこの物語の主軸になって展開していきます。
一つ一つの事象の描写や説明がこれほどの形容が可能なのかと思わず感嘆するフレーズが随所にあります。
その一つは、ママがパパが出版する(キッチンについての)図鑑のモデルの採用のためカメラテストを受けたときの事です。テストをしたパパは、ママを合格させるのですが、その理由を「普通、人間はそこにいるだけで何かしら不必要な主張ををしてしまうものです。主役の事物を邪魔する、それを際立たせ、読者が図鑑を閉じた途端、事物の記憶だけを残して自らの気配は完全に消し去る。そんなふうにできる人は、滅多にいません。あなたには図鑑モデルとしての才能がある」と表現しています。こういった表現が随所に見られます。
登場人物は、せいぜい5人しかいませんが、まさに「小宇宙」的な小川洋子ワールド感が全開の長編小説です。
2026年27冊目。
Posted by ブクログ
琥珀の現在も過去を織り交ぜて描かれるストーリー構成。
琥珀たち子ども三兄弟目線で話が進むので、おかしなこと(犯罪)が起こっていることに当人たちは気づかない。それが当たり前かのように起こる。
ただ読者の私はこれが犯罪であることがわかるのでなんかやばい…とずっと違和感を覚える。
母親の思考が結局ずっと謎だった。いくら末娘にトラウマを抱えていても監禁をするのはよくわからない。
でもだからこそずっと不気味で、穏やかな時間が流れているはずなのに緊張感が走っていてとても面白かった。
一番ママに従順だったオパールが最後ママに批判的なことを琥珀に言うのはきっと外の世界の住民であるジョーから色々話を聞いたんだろうな。
小川洋子流、ミステリー。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの小説を読むのは、「薬指の標本」「猫を抱いて象と泳ぐ」「妊娠カレンダー」に引き続き、四作目です。
見栄えのするスイーツを食べたことがあるでしょうか。全く違った要素を組み合わせてみたり、バーナーで表面を焙ってキャラメリゼしてみたり。中には、綿菓子を盛った上にソースをかけて溶かすようなものも、世の中にはあるそうです。
本作『琥珀のまたたき』では、そんな全く違った側面を組み合わせた、“一味違う物語”が楽しめます。シリアスとファンタジー、ポップとダーク、光と影が織りなす、「美しくてキラキラしているのに、ちょっと油断をしたら怪我をするオモチャ」のような味わい。
夫と別れたママ。彼女は元夫の残した別荘地に子どもたち3人を連れて引っ越します。お話の時系列としては、ここが始まり。
3人の子供たちはそこで新しい名を与えられて、それぞれ、オパール、琥珀、瑪瑙の名を図鑑から選び取ります。元の名を忘れ、外に漏れない小さな声で生活することを強いられるきょうだいたち。それは、母からの言いつけであり、今は亡き末の四女の命を奪った「魔犬」の呪いから逃れるためでした。
ファンタジックに紡がれるきょうだいたちの穏やかな日常ですが、裏旋律として流れているのは薄暗い母親の思惑です。これだけ書いてもネタバレに含まないとしてレビューしているのは、本作の魅力が筋書きに留まらず、小川さんのキラキラ味溢れる文体や筆致に拡大しているからと言えます。あっとおどろく仕掛けはないけれど、魅せる文章と感じる雰囲気で楽しむ系統の物語です。
母は何故、きょうだいを匿うことになったのか?
琥珀の左目は一体なんだったのか?
オパールはその後、どうしているのか?
などなど、明らかにされていないことが多いのも本作の特徴ですが、これは殺人事件でもなければ、七不思議でもないので、あとはご想像にお任せします……ということなのかなと思いました。
解説を除いて323頁なのですが、その内容の濃密なことといったら。チョコレートケーキをチョココーティングしたよりも甘く、喉を通る時には軽い抵抗を感じるほどです。
小川洋子ワールドがお好きな方は是非。
ある意味、「一見さんお断り」な世界観がここには詰まっていると感じました。
Posted by ブクログ
魔犬に襲われると死んでしまうから、決して外には出ないように。
そう母親に教えられ、箱庭の中だけで生きてきた三人の子どもたちの物語。
オパール、琥珀、瑪瑙、そしてあの子。
兄弟愛がなければ、発狂してもおかしくないような環境下で、皆が身体を寄せ合って、ひとつになって静かに生きていた。母親の歪さに気が付いたとしても、ここから出て行くとして、どこでどのように生きていけばいいのかその術を誰からも教えてもらえない子どもたちの無力さが、彼らをこの家に縛り付けていた。琥珀と瑪瑙は外の世界をあまりにも知らなかったから、家に居続けることが当たり前だっただろうが、オパールはきっとそうではなかった。だから、誰かが手を差し伸べてくれるのを自分も知らないうちに待っていたのだろう。
彼らの家での独特な遊び方が、とても好きだった。オリンピックごっこ。私もやってみたくなる。
最初から、この暮らしにいつか終わりが訪れることはわかっていた。しかしそれがこんな結末になるなんて。カレンダーに星印をつけた母親の心情を、完全には理解していなくとも、あのXデーに全員が散り散りになったことを思えば、その時点で子どもたちは何か異変を感じ取っていたのではないだろうか。誰も、それを目撃しなくて本当に良かった。
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