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盲目の祖父は、家中を歩いて考えつく限りの点と点を結び、その間の距離を測っては僕に記録させた。足音と歩数のつぶやきが一つに溶け合い、音楽のようになって耳に届いてくる。それはどこか果てしもない遠くから響いてくるかのようなひたむきな響きがあった――グレン・グールドにインスパイアされた短篇をはじめ、パトリシア・ハイスミス、エリザベス・テイラー、ローベルト・ヴァルザー等、かつて確かにこの世にあった人や事に端を発し、その記憶、手触り、痕跡を珠玉の物語に結晶化させた全十篇。硬質でフェティッシュな筆致で現実と虚構のあわいを描き、静かな人生に突然訪れる破調の予感を見事にとらえた、物語の名手のかなでる10の変奏曲。
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Posted by ブクログ
実在する人物や事実から着想を得た短編集。
その周りに、光の当たらない薄暗がりに、
いたかもしれない人たちの密やかな話。
穏やかな筆致で歪な世界を描き出し、
切ない幸せと残酷な喪失に心を乱される、
The 小川ワールドの真髄という感じだし、
世界が1冊に10個もあるうえに、
事実が絡んでるから、
もしやこれは本当のことかも、
案外自分のそばにあるかも、なんて思ってしまう。
ファン大歓喜の作品なのでは。
今作でも、ちょっと変わったこだわり、
もしくは執着を礎にして構築された
自分だけの世界を持っている人達が描かれている。
そのこだわりが行動に制約をうんだり、
世間とのズレをうんだりして、
どこか危ういというか、儚いというか、
不健康というか、微かな緊張感がいつもある。
その世界は時に小さな幸福をもたらしてくれる。
閉じた世界の安心感を与えてくれたりもする。
だけどふとしたことで崩壊してしまった時、
取り返しのつかない喪失に胸を痛めることになる。
失意の中で暗闇に椅子を置いて
永遠にそこに座り続ける人もいれば、
世界ごと箱にしまって
ときおり撫でて懐かしみながらも
別の世界を生きていく人もいる。
実際には自分は、自分含め大多数は、
彼らより少し鈍感に逞しく器用に生きてるけど、
彼らの美しく閉塞的で危うげな世界に惹かれて、
世界がもたらす幸せと不幸せにどっぷり浸かって
感情を揺り動かされてしまうから、
きっと今こうやって普通に健やかに生きているのは
自分の世界を早々に諦めたか、
普通を壊してしまうほど
自分にとってのっぴきならない価値のある礎に
出会っていないからかもしれない。
きっと自分がそこへは行かないから、
どこか、手に入らないものへの憧れに
近い感覚があるのかな。
Posted by ブクログ
不時着とは
「不時着陸」の略。航空機が、故障や燃料欠乏等のため、初めに予定しなかった場所に降りること。
生きていくということは結構やっかいなことなので、いちいちすべてを真面目にやっていたら、とてもじゃないけど頭がおかしくなってしまう。だからわたしたちは無意識のうちに、さして重要でない約束や、どうでもいいような想い出や、自分にとって必要ではなくなった人々などを、箒のようなもので集めて隅っこに追いやることで折り合いをつけるのかもしれない。
でも、そういうことが出来ない人がこの世にはいる。どうでもいいと思われることをそう思わずに、ちゃんと向き合う人。そういう人たちの10個の物語だ。
小川洋子さんの書いた本を読むのはこれが初めてで、こんなに長い間、なぜ読む機会がなかったのだろうと不思議に思った。
でも出会えたのだから、これから急いでたくさん読もうと決めた。そのくらい好きになった。
第一話 誘拐の女王
昔誘拐され、犯人に監禁されたことがあるという血の繋がっていない姉との話。
第二話 散歩同盟会長への手紙
散歩が好きな男の人が、散歩をしながらローベルト・ヴァルザーという作家のことやそれ以外のことに思いを巡らす話。彼が散歩している場所は実は。。。
第三話 カタツムリの結婚式
慎ましく暮らす家族の楽しみは空港に行くことだった。女の子はそこでカタツムリのレースを管理している不思議な男の人と出会う。
第四話 臨時実験補助員
とある実験のために、二人一組となって街の中で条件が合うところに置手紙をする。彼女が組んだ女性は、その条件にピタリと合う完ぺきな場所を見つけることができる女性だった。
第五話 測量
大学生の彼の祖父はある朝突然、目が見えなくなった。その日からおじいちゃんと彼は、自分たちの周りの世界すべてを歩数で測り始めた。
第六話 手違い
お見送り幼児とその付き添いの女性が、その日頼まれていたお葬式の会場に行くと、今日はお葬式はないと言われてしまう。そんなはずはないはずだが、仕方なく二人は会場を後にして、いつもお葬式のあとに清めるために寄る公園へと向かう。
第七話 肉詰めピーマンとマットレス
事故で片耳の聴力を失った息子の留学先を訪ねる母親の話。息子が好きな肉詰めピーマンを異国のキッチンで作る。
第八話 若草クラブ
若草物語の劇をやることになった4人組。脚本を書く彼女は末っ子エイミーの役をやることになる。エイミーはこれといって見せ場のない役だが、他の3人は、映画でこの役をエリザベス・テイラーがやったのだと口々に言い、彼女はその女優に異常な興味を持つようになる。
第九話 さあ、いい子だ、おいで
子どものいない夫婦が、街にあるペットショップで文鳥を買う。ペットショップの店員は体格のいい若者で、彼女はもし自分に子どもがいて男の子だったら、こんな子だったのではないかと想像する。
第十話 十三人きょうだい
彼女のおばあちゃんは十三人の子供がいる。一人も病気や戦争で死ぬこともなく、大人になったのがおばあちゃんの自慢だ。十三人目のおじさんはまだ独身でちょっとかっこいい。彼女はそのおじさんのことを、みんなに内緒で「サーおじさん」と呼んでいる。でも、彼女はおじさんの本名を知らず、おじさんも教えてくれないのだ。
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