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[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。寺尾聰主演の映画原作。
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Posted by ブクログ
一文一文を切り離して読んでも詩のように美しい。文字でしか構成されないものが文学であるというのに何も語られない、穏やかで静かであたたかいのにすこしひんやりしたものも流れている。メモを触る博士の乾いた指先を感じた。
ルートの頭を「賢い頭」ではなく「賢いこころ」と言う。賢さとはやさしさや慎重さや懐の広さや無邪気さ、好奇心、探究心…いろいろと詰まっているんだと思った。そのことを「賢いこころ」というワードに詰めている博士の祈りのような言葉にしびれる。
80分の記憶の中で博士は博士で居続けた。「私」もルートも未亡人も、そのままであり続ける。
人は一緒にいる人によって変わるんだと思う。だから変わらない博士を前にみんな変わらず賢いこころを持っていれたんだろう。やさしい人のそばにいたいし、やさしい人がやさしい人で居続けられるよう、私もやさしくありたい。(優しくしてほしいという意味ではなくて)
博士とルートと私と未亡人がこの世界のどこかにきっと存在していたんだろうと思えた。
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