Posted by ブクログ
2020年09月23日
ある朝、通勤電車の乗り換え駅で、若い女性に腕を掴まれ「触ったでしょ!」と糾弾された一人の会社員。
駅員に諭され事務室に行くと、現れた警察官はすでに彼を痴漢扱い。
そのまま留置場に放り込まれ、ベルトコンベア式に犯人に仕立てあげられて……。
ニ年の歳月をかけ、仕事と金を失いながらも、逆転無罪判決を勝ち取...続きを読むった痴漢冤罪被害者の渾身の手記。
痴漢は有罪判決を受けても五万円の罰金。
殺人や強盗、誘拐なんかに比べたら何でもないようなことに思える。
だけどこれほど多くの問題を内包している事件もないとも言える。
まず、痴漢は他の犯罪と比較して物的な証拠がほとんど残らない。
存在するのは女性の「この人がやった」という証言と男性の「僕はやってない」という証言だけだ。
僕は男性だから男性の立場からしか物が言えない。
もちろん痴漢の被害に遭う女性がどれほど辛い思いをしているか想像することはできるし、あってはならない犯罪であることは理解できる。
ただ、それでもなお、鈴木さんの叫びを聞いてしまうと「痴漢」というのは男性と女性どっちにとって非道な犯罪なのか考え込んでしまう。
これは本当に他人事なんかじゃない。
すべての男性がいつどこで鈴木さんと同じ目に遭うのかわからないのだから。
鈴木さんは自分の名誉のために闘った。
認めてしまったほうがはるかに楽だし実害も少ないのに、人生を狂わせてまで闘った。そんな鈴木さんの心情を思うと安易に「立派だ」とか「よくやった」とか言うことはできない。
鈴木さんはこの地獄のような状況の中でも家族は信じてくれるという幸せに恵まれたが、それすらなしに闘わなければいけない人だっているだろう。
たったひとつ、僕に言えることは正しいことを貫き通すことが、やってもいない罪を認めてしまうよりも損をするという世界がおかしいのだということ。
僕は自分の感想よりも、この本を読んでどう感じたかを聞きたい人がいる。
それは現職の警察官と、それから女性である。
警察官には、こういう何でもアリの捜査や取り調べをする警察官をどう思うか。
女性には、痴漢という卑劣な犯罪者をなくすためには鈴木さんのように犠牲になる人がいても仕方ないと思うか。
鈴木さんの心からの悲鳴を聞いてその上でどう思うか。
それを聞いてみたい。