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予備学生として魚雷艇の訓練を受け、のちに特攻志願が許されて震洋艇乗務に転じ、第十八震洋特攻隊の指揮官として百八十余名の部下を引き連れ、奄美諸島加計呂麻島の基地に向かう。確実に死が予定されている特攻隊から奇跡の生還をとげた著者が、悪夢のような苛烈な体験をもとに、軍隊内部の極限状況を緊迫した筆に描く。野間文芸賞、川端康成文学賞を受賞した戦争文学の名作。
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Posted by ブクログ
作家島尾敏雄が魚雷艇特攻隊員だったというのはつい最近まで知らなかった。この小説は、島尾が海軍に入隊してから、特攻の発進基地となる加計呂麻島に行くまでのところまでが描かれている。大学生として過ごしていた日々が一転、海軍に応召され、それが魚雷艇の特攻「志願兵」としてしぬことを選択する、その過程にいかなる...続きを読む心の動きがあったか。この小説はそれが起こってからかなりの年月がたってから書かれているために、あまりにもそこが淡々としている。当時の島尾の葛藤はいかばかりのものであったのだろう。
野間文芸賞と川端康成賞のダブル受賞という地味に凄い作品。 特攻隊から生還したという特異な経験が、当時の感情を交えて静かな筆致で描かれる。 幾度もキャリアで使われた本テーマが、晩年での想起という点も感慨深い。
創設されたばかりの魚雷艇を志願し、特攻隊として戦争にくわわることを予定された青年の日々の訓練をつづった作品です。 ほかの学生たちにくらべてやや年上の青年は、予備学生となった当初から、周囲から浮いた存在として、彼らのようすを観察していることがえがかれています。むろん彼も、戦争へと向かう状況から離れた...続きを読む立場に立っているわけではありません。しかし彼は、特攻隊に身を置くことになりながらも、そんなみずからの運命をどこか遠い所からながめるようにしるしています。 こうした著者の独特のスタンス、たとえば次の文章によく示されているように感じます。「私は勢い荒々しく声を張りあげて叱咤する結果にならざるを得なかったが、考えてみればつい一、二箇月前までは、魚雷艇の操縦もままならず、魚雷の発射操作に至ってはまるきり飲み込めずに、教官から罵声をあびせられ、指揮棒代わりの棍棒でこづき廻されていた私ではなかったか。それはおかしな具合に意識の中で現在と二重写しになりながら、震洋隊一個艇隊の艇隊長としての配置を与えられただけで、滑稽なくらい自信に満ちた態度で彼らに訓練を施す姿勢が執れている自分を見つめているもう一人の私もいたのだった。」不思議な感懐であるようにも感じますが、戦争において死がせまりつつある状況というのは、あんがいこのようなものなのかもしれません。
学徒出陣で、リーダーシップが欠如した著者(実際の所は、抑えるべきところは抑えていたのであろうが)が、不本意ながら将校となってしまった著者の特攻という目の前に迫った死と現実の生のリアルな葛藤を描いている。 強烈な愛国心や責任感を背負った人々を描いた作品・ノンフィクションは多々としてある。しかし、不謹慎...続きを読むなのかもしれないが、この著者の様な、死・痛みの瞬間までは、「ぼんやりと何気に」特攻すべき部隊に所属していた将兵もいたことを記している貴重な文学作品と思われる。
生前出版された最後の小説。 奥野健男が解説にて、「あとさき」の「さき」であると書いていた。なるほど。1943年9月から44年11月までの体験記。 「あと」は、「出孤島記」、「出発は遂に訪れず」、「その夏の今は」など。 本を手にした瞬間は、なんて改行が少ないんだろうと抵抗が大きかったが、文章は断然読...続きを読むみやすかった。 大学出だから、「即席」で下士官になってしまったゆえの、苦と楽。 最近島尾敏雄を集中的に読んでいるからこそ、ではあるが、この語り手の「煮え切らない」感じは、好きにならざるを得ない。 まず学徒出陣の訓練生(海軍兵科予備学生に志願)としては周囲(24歳くらい)より数歳年上(28歳)ということもあり、馴染めない。 キャラメルを頬張るのがどうとか、どーでもいいあれこれを、簡単にやり過ごせない、何かしらの自負がある。文学かぶれゆえのややこしい感じ! といっても、大西巨人「神聖喜劇」の東堂太郎のように、ある意味ヒロイックな言動をする気概も、特になく、ある程度流され、ある程度抵抗を覚え。 なるほどそういう視点、と思ったのは、下手でも無能でも特攻なら自分が直接操作するから比較的単純に違いない、とか、前例のない特攻組の「伝統のなさ」こそに惹かれた、とか、うーん確かに。 力まないというか、クールな感じ。 文芸ってやっぱり、敗者とか、疎外されたがわのものだよな、と。 (宮崎駿が何度か描いた、軍部の力みの、真逆) そんな語り手も、制服組としての優越感や特権を、つい行使してしまうあたり、地位って人を形成するよな、とか、立場が作る誇りが人を成り立たせるんだな、とか。(特攻体験というより、特攻"隊"体験だったと、「新編 特攻体験と戦後」での吉田満との対談にて、こだわっていたが) 部下を持ったあとも、部下の野卑な強靭さに比べて自分の地位は虚構でしかないという意識……虚勢を張るというほどのファナティックはないが、ここに「ポーズをとる」、「役割を演じる」という、のちの「死の棘」に至る、渦中でも熱中しきれず醒めている感じが、あるし、これってある種の人間の宿命でもあるのかな、と。 どこぞの料亭で暴力になじみかけた、という印象的な挿話があるが、本作ののち、奄美・加計呂麻島に渡って、島民にある意味受け入れられたり、どころか島の娘と逢瀬を重ねたり、特攻兵の長だからこその特権を恣にした事実もあるので、「あとさき」の「さき」のプリセットがかくして整った、という幕引き。 ちなみに、奥野健男が、島尾敏雄の経験(特攻命令と保留)ってドストエフスキー(死刑宣告と直前の減刑というかヤラセ)と似ているなと自分がずっと思っていたことを、書いてくれていたので、嬉しかった。 目次 第1章 誘導振 第2章 擦過傷 第3章 踵の腫れ 第4章 湾内の入江で 第5章 奔湍の中の淀み 第6章 変様 第7章 基地へ ◇解説 奥野健男
えぐっやば笑 面白すぎる。 飴舐め事件。周囲の高校出たての学生たちより年上で孤立気味の主人公だけが上官に正直に飴舐めを自白し、殴られるがその最中自分の行動を恥ずかしく思い、 「私は食卓に向かって腰をおろし、ぼんやり前方に目をやっていた。上気した頭で、どうしてこうなったかを、そもそもの自分の分隊内で...続きを読むの態度からその筋道を辿ろうとしてみたが、刺戟が強く、堂々巡りばかりして解きほぐせるはずもなかった。これは滑稽なことだ、と思いこもうとしたが、かえって羞恥がふとるばかりであった。同じ班の例の学生の、冷ややかに私に注ぐ目なざしを、私は自分の背中にきつく感じてもいた。」 まさにドストエフスキー。自分で勝手に孤独になって、みんな誰しもが破ってるルール、飴舐めを自白するか誰にも相談せず悩んだ挙句、上官の元を訪れると他に誰一人おらず、上官の方が驚きながら折檻され、後にみんなの前で叱られるが正直なことも評価され、一連の流れを急に後から恥ずかしく思い自己嫌悪に陥る。 ヴィクトール・フランクル「夜と霧」 ジョゼフ・コンラッド「闇の奥」と、 極限での心理状態を描いた名作が世界には存在する。原爆や東日本大震災についても同じことが言えるだろう。 島尾敏雄「魚雷艇学生」もこの奇妙なジャンル「極限」に含まれうる作品に違いない。 私は、戦後80年の節目にあの戦争について改めて考えたいなどという表向きの裏に、安穏とした日常のひとときの暇つぶしになればなどという感情を押し隠して、喜び勇んで本書を手に取った訳であるが、結果として私如きが彼らの本質の0.0000001%も理解できるはずのないことを理解できたという点で、「滑稽」のために死ぬ一歩直前で踏みとどまることができたように思っている。全くもって、この本を手に取った瞬間、少しでも彼らを解ることができようなどと思ったのが如何に愚かであったのかということに尽きる。 その上で最後にこれだけは言えよう。 私の人生がこの先どんなに暇で安穏で、つまらない日常を送ることになるとしても、自殺の選択を眼前に突きつけられて丸一日野外に放り出され、吐き気を催しながら絶望するなどという極限を体験することは、全身全霊を持って御免である。
海軍士官学校から入隊し、特別攻撃隊に配置され、出撃までの、作者の体験を基にしたフィクション(記録?)。 独白で話が進むが、作者の言いまわしのせいか、酷く読みづらかった。
ベニア板製モートーボートの特攻隊隊長、という極限状況でありながら、淡々とした記述に終始するのは、戦地赴任前かつ後年の作だからか。島尾さんの本は初めて読んだが、有名な「死の棘」も読んで見たい。
1943年に大学生で、1944年に予備学生で、少尉で、特攻隊で、隊長で、という間に終戦を迎えた著者。普通の大学生が1年も経ずして九死に一生を得ない特攻隊に志願し、しかも指揮官へとなっていく異常な環境の中、なにを思い、なにを考えるのか。。といった内容。戦後何年も経って書かれているせいか、とても読み易い...続きを読む。
毎年8月は戦争ものが書店にならぶ。今年はこの一冊を購入。 主人公(著者)は海軍予備学生として特攻隊を志願。 少尉に任官、終戦間際の島に赴く。 出撃する多くの戦友、部下を見送った心境、葛藤などとともに 海軍特攻員の生活が詳細に描かれている。 数々の戦争ものを読んだが、これほど特攻隊員をつぶさに描いたも...続きを読むのは初めて読んだ。 戦争文学の傑作と言っているが、同世代の私は切なさだけが残った。
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