探偵小説の元祖たるデュパンものをちゃんと読もうと思って。むかーし簡易版で読んでいるので犯人などは知っていますが、やっぱりちゃんと読むと違いますね。現代感覚とは違った当時の社会の雰囲気とかが感じられます。
『モルグ街の殺人』
文学初の名探偵と言われるオーギュスト・デュパンの物語、のつもりで読み始めたら冒頭は論文でした・笑
語り手は、経済的に困窮する元名門出身のデュパンと知り合う。デュパンの読書量、鮮やかな想像力、そして趣味の一致から親交を結び、パリで同居することになった。
ある日デュパンは語り手の考えをズバリ読み取った。そして推理過程を説明する。デュパンは語り手の行動や表情を見て、語り手の思...続きを読む 考に自分の思考を合わせたのだ。
この推理方法はデュパンの人となり紹介のようなものですね。
語り手とデュパンは、モルグ街の屋敷(アパートメント)で、レスパネー母娘が殺された事件を知る。逃げ場がないはずの現場で、人間とも思えないような残酷な暴力の痕がある。
デュパンは、証人たちの証言のニュアンスの違いとか、暴力の痕跡とか、現場立地状況などを検証して真相を解明するのだった。
文学初の名探偵推理小説というだけあって、有名どころの探偵小説の原型がみられた!
作者は、探偵の推理方法を示しておく。
作者は、事件や証言のすべてを読者に示してから、名探偵による謎解きが行われる。
名探偵と、書き手のコンビ
密室など、困難な仕掛け
意外な真相
組織的に調べるの警察に対して、名探偵は思考し、真相を提供する。
名探偵は、推理の理由をきちんと読者に説明する
この事件の真相は、これだけ読んだら「それ、できる?」と思わんでもないが(^_^;)、探偵小説の原点が一番「意外な真相」となってるのもむしろ面白いかもしれません。
『盗まれた手紙』
オーギュスト・デュパンの推理モノ。
デュパンはパリ警視総監G氏の訪問を受ける。G氏は非常に重要な手紙を見つけ出さなければいけないが難航しているのだ。
警察が極秘事件をこっそりと名探偵に相談する流れもこれが原点か 笑
事件の概要は、ある貴婦人が、悪どいD大臣に大スキャンダルの元になる私的な手紙(多分不倫とかそんな感じ)を盗まれた、というもの。D大臣は貴婦人恐喝するネタを握ったことで宮廷での政治を動かすことができてしまう。貴婦人は内々に警視総監に捜索を依頼したのだ。
G氏はパリ市警による徹底的な屋敷や大臣身辺捜査を行ったことを話す。
まさに「書斎の本すべてのページを確認した」レベルの細かい捜索で、さぞかし広い大臣のお屋敷と思うと聞いただけで「ご苦労さま…」
まあデュパンが見事に手紙を取り返すんですけどね。
そして読者への推理の説明として「相手の知性に合わせて考えること」について説明が行われます。
警察は自分ならどこに隠すかで捜査する。机の隠し引き出しとか、壁紙の後ろのような秘密の場所だ。警察と同じ思考の犯人ならこれでよいが、警察より知性が上回る、または下回る者にこの法則は当てはまらない。
D大臣は、大胆な陰謀家で、数学者で詩人の素質がある。大臣こそが警察の思考に自分の思考を合わせて、どこが捜査されるかを読み取る。そこで警察が思いもつかない場所に手紙をおいていた。
盲点とか、思考の方法とかをしっかりと言語化して読者に示しています。
『群衆の人』
語り手がロンドンのカフェでなんとなくまわりを眺めている。語り手は病気回復期で、自分の知性が戻ったことを楽しみながら、街路を通る群衆たちの、服装、雰囲気、表情、身振りなどを観察して分類したりしてみた。
ふと目に留まった老人がいる。悪魔的なものを感じる表情、ボロボロになっているが良い生地の服、ダイヤモンドと短刀を忍ばせている。
語り手は老人の後を付けてみた。老人はただ街路の人通りの多いところを行ったり来たりしている。市場、貧民街、ロンドン中心街。人が少なくなると苛立ちさえ見せる。
語り手はついにこの男を「群集の人」と評する。老人は、彼自身からもその行動からも何一つ見いだせるもののない「深い罪の典型であり本質」なのだ。
個性、人間性を排除して群衆を具現化したみたいな?ただ彷徨い、人といたがるけれども、なにも得ることができないし、人に何の影響も与えることはできない。
名探偵デュパンは「相手の思考に合わせるんだよ」と言っているが、ポーは「合わせられない思考の持ち主」も書いたのかな。
『おまえが犯人だ』
殺人解明としても面白いし、小説の構造も良いし、かなりのブラックジョークを呑気さで覆ってる雰囲気もいんだけど現代感覚では「この方法やっていいのか(・・;」という気もする。
ある事件を解明させた「わたし」が事件を振り返る。
ラトルボロ村のお大尽シャトルワージ氏が行方不明になった。帰ってきたのは怪我をした馬だけだ。
この事件に対して、シャトルワージ氏の友人グットフェロウ氏と、甥のベニフェザー青年が対立した。
グットフェロー氏は名前の通り善良(グッド)な奴(フェロウ)の評判で、突然村に住み着いたのだが明るく大胆な性格で村に馴染んでいた。ベニフェザー青年は遊び人で叔父さんのシャトルワージ氏とは遺産贈与で揉めていた。
「シャトルワージ氏の秘密の失踪だから騒がないほうがいい」というグットフェロウ氏と、「叔父さんは殺されたのだから、殺人として捜査しなければ」というベニフェザー青年は、大いに揉める。
結局殺人として捜索することになったのだが、指揮を取ったのはグッドフェロウ氏だ。そして次々とベニフェザー青年に不利な証拠が見つかる。ついには殺人犯人として死刑判決が出た。
しかし「わたし」はある仕掛けをしたんだよ。真相は解明したし、人々の信仰心も回復させることになったんだ。
小説として面白いんだけどミステリでもあり怪奇でもあり…。だって犯人を告発するのは、死体本人ですよ。題名「おまえが犯人だ」が旧約聖書から取られてることも含めて、誰にも言い逃れできない。
…しかしこれやっていいのか(・・;
『ホップフロッグ』
悪趣味な寓話的なおはなし。
ある王国の王様は冗談が大好き。
しかしこの王様の冗談は大変趣味が悪い(-_-;) 知性がないし、道化師たちを侍らせて苛めることが「冗談」なのだ。
道化師のなかに、不格好な小人のホップフロッグ(ぴょんぴょうんが得るみたいな意味)と、小人の踊り子トリッペッタがいた。
王様はいつものように二人の小人を苛めて、取り巻きの大臣たちといっしょに笑う。そんな王様と大臣にホップフロッグが示した余興のアイデアとは…。
『黄金虫』
暗号解読小説の元祖的な小説だそうだ。
語り手は友人ルグランの元を訪れる。ルグランは名門出身だが変わり者。一族は資産の大半をなくし、ルグランも少ない資産で黒人解放奴隷ジュピターに身の回りのことをやらせて、昆虫採集とかしながら生活してる。
その日のルグランは「新種の黄金虫を見つけたぞ―」とはしゃいでいる。その黄金虫は、虫好き中尉に貸しているので、語り手にスケッチを描いてみせた。語り手は「これ黄金虫なのか?まるで髑髏みたいだけど?」という。ルグランは気を悪くするが、改めて自分でもそのスケッチを見て顔色を変える。
しばらくして語り手の元にジュピターがやってくる。「御主人様がすっかりおかしくなってしまったんでさあ」と嘆きながら、ルグランが語り手を呼んでいることを伝える。
訪ねるとルグランは「黄金虫が財宝を示してくれた!さあ財宝のところに行くぞ、やっほー!」という感じ。
語り手とジュピターは「…こいつ、ついにイカれちまった…」と思うが、とりあえず彼を刺激しないためにも付き合うことに。
ルグランが辿り着いたのは巨木のもと。ジュピターを登らせ「いくつめの枝をどこどこに」などと指示をする。
すると、枝の先には髑髏が打ち付けてあるではないか!ルグランはジュピターに、黄金虫に紐をつけて髑髏の左目から垂らすように指示する。
そして三人でひたすら掘ったが、何も出てこない。語り手は「さあ、これで彼を精神科にいかせよう」などと思う。
しかしルグランは自分のミスに気が付き、改めて場所を指定して掘った。
すると、海賊キッドの膨大な隠し財産が出てきたではないか!!
後日、ルグランは、語り手とジュピターに解説してゆく。
黄金虫をスケッチしたのは、その傍にあった羊皮紙で、そこにあぶり出しによる不思議な記号が書かれていた。ルグランはそれが「海賊キッドの宝」と推察して、記号を暗号解読していったのだった。
仮に「!$&%)」みたいな記号があったとして、入手状況や各国語の法則によりこれが何語で、どの記号がどの文字を表しているかを解明します。
おそらくこの暗号の作り方、解き方は元々あるのでしょう。
これを推理小説として大衆に解説したのが「暗号解読ミステリの原型」なのかな。
ルグランはこの記号を英語にし直すのですがそれにしても「悪魔の玉座の」みたいな暗号なので、キッドの性質や当時の環境を考えてそれがどこかを解明していきます。
現在感覚では、ジュピターの描写は差別的な感じもあるけれど、登場人物としてちゃんと個性があったりご主人とも遠慮のない関係なので当時の雰囲気がわかる範疇かなあ。
小説としても、頭の良い人と振り回される語り手及び読者、最後はお宝見つけてバンザイ!とスッキリしています。