瀬戸内寂聴の一覧
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「若菜(わかな)」上、下
いや驚きました。もしかして、このままずっと、同じようなダラダラした感じでいくのかと思いきや、ここにきて、こんなザックリと切り捨てるような展開を用意しているとは、民俗学者の折口信夫が『源氏は若菜から読めばいい』というのも肯けるくらいの(実際には登場人物の心理描写の推移が分か
...続きを読むらないので、やはり最初から読むべきだとは思うが)、その波瀾の展開には、紫式部、恐るべしと言わざるを得ない。
いくつかポイントはあると思うが、まずは、なんといっても「紫の上」であり、彼女ほど、いつまで経っても、真の安らぎを得ることの出来ない姫君もいないのではと思える、この苦悩の連続は何なんでしょうね。実質的には源氏から最も愛されているはずなのに、本人には全く実感として湧いてこない、その虚しさこそが、まさしく彼女の悲劇であり、しかもここに来て、彼女に跡継ぎの子がいないことと、「明石の女御」の台頭による、「明石の君」の存在感の増す様子に、引け目を感じてしまったことも加わることで憂鬱な日々を送るのを、源氏は見ているはずなのに、それに対して何かするわけでもなく、他の姫君よりも素晴らしいと言うばかり。本当に誰よりも愛おしいと思っているのなら、何か気の利いた行動でもしてみろよと、思いますけどね。口ばかりで行動に起こさない結果が、後の、あれに繋がったと言っても、決して過言では無いと思う。
そして、それとも関係の深い出来事が、よもやの彼女の再登場であり、もう出て来ないと思っていただけに、これが最も怖かったかな。はっきり言って、こんな事が起こると、全ての一挙手一投足が気になってしまう程の、安心して生活出来ないレベルの話だけど、でも、自業自得だよねという感じで、本人が一番良く自覚していることでしょう。
それと、もう一つ忘れられないのが、とある男の狂気的な恋模様であり、何より私がはっとさせられたのは、こうした男、現実にもいるよと思わせる、その生々しい描写の過程であり、まるで紫式部が、この男の心の中を実際に覗き見たかのような、人間の純情さ故の怖さが存分に発揮されているのが、何より凄く、ちょっとだけ書くと、この男、最初は自分の思いだけをつらつらと話し続けるが、相手にとっては、何の前触れもなく、いきなり現れて、意味不明な事を言っているのだから、唯々呆然と怖がっているのにも全く気付かない。そりゃそうだ、自分がどれだけ好きであるかを言うことしか、頭に入っていないのだから。そして帰るときには、何かひと言仰ってくれと頼んだことに対して、無反応にされると、「もうわたしみたいなのは死んだ方がいいですね」と、まさかの逆ギレで、彼女を抱き上げたまま部屋を出て、ちょっと怖い怖い、いったい何する気だと思ってしまう、こんな描写を平安時代にしているんですよ。紫式部、恐るべし。というか、これは貴族達の恋愛方法を、暗喩的に皮肉っているのだろうか? 私としては、彼の純情さもよく分かるんだけど、でも、相手の気持ちも考えられれば、もっと良かったのにとも思うし(まさに恋は盲目)、それは相手にしても、ああ私のこと好きだから、こんな思い切ったことしてるんだなといったことに気付かなかった悲劇もあったのだと思うが、そもそも、そんな狂気性を持った要因の一つに、姫君の姿自体を表に見せない当時の習わしもあったような気がしてならない。あまりに見ることの叶わないものは、どうしても見たくなるのが、男の性のような気もするし。
しかし、そんな男に降りかかった出来事が、また何ともやるせなくて、そこには、他人の振り見てなんとやらで、ようやく過去のあの忌まわしい出来事を、あるまじきことだと思い知った彼の行動がまた・・・この巻は怖いことばかりだけど、これも凄まじく、ある意味、一種のパワハラかと思ってしまう、その描写は、実際の当事者の感情が分からないだけに、余計に怖く感じられて空恐ろしいものがあった。
こんな展開に、まるで物語の世界が様変わりしたような印象は受けたが、私にとって意外だったのは、源氏に抱く私自身の気持ちであり、彼は自業自得を思わせるようなことを、本当にたくさんしてきたのだけれど、それでもここまで長く読んでくると、そんな彼にも人間らしさというか、もうあんたのことなんか知らない、どうとでもなれといった気持ちになれないものもあるというか、何だろう、これだけ長い歩みで読んでくると、一応、彼は彼で教訓的な苦い思いもしてきたし、この先、彼の身にどんなことが起ころうとも、それはそれで仕方ないよねと思いつつ、それも彼の人生なんだなとも思えるというか、人としての魅力はあるなと感じたし、それは、この巻で初めて私が共感した、この一節、『人の誉めない冬の夜の月を、源氏の院は特にお好みになるという変わった御趣味』にも感じさせられて、冬の月の何が悪いんだといった思いに、彼に対する印象が変わったのも、きっとあるのだと思い、やはり、人間は色々変わっていても人間なんだといったことを、改めて実感させてくれたようで、私は嬉しかった。
そして最後に、瀬戸内寂聴さんが書いていた、『全篇に漂う、暗さと重さが~』に反抗したくて、私にとって一服の清涼剤となったのが、一夜限りのスペシャルユニット、女楽(おんながく)のスペシャルライブであり、もうメンバーが豪華で、明石の君(琵琶)、紫の上(和琴)、明石の女御(箏のお琴)、女三の宮(いつもお稽古に使う琴)による合奏に、「夕霧の大将」が拍子をとって唱歌(そうが)で加わり、源氏もときどき扇を鳴らして、息子と共に歌に加わる、素晴らしくも温かいものとなり、私の推しは、もちろん紫の上で、その想い出深い楽しさは本文に於いても、『言いようもないほど親しみのある、味わい深い夜の音楽の宴となった』と締められており、この時ばかりは、皆、楽しそうで幸せそうな印象を抱いたのが、たとえ一瞬のひと時なんだとしても、私は決して忘れないと思う。
Posted by ブクログ
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下巻に入ると白河上皇による専制政治が始まり、堀川、鳥羽、崇徳の三代まで続く。平氏も重要な役どころとして登場し、貴族から武士の時代に移り変わっていくのが伺える。
そして話の中心人物も承香殿女御・道子から、貴族の血を引きながらも数奇な運命を辿る美少女たまき(祇園女御)に広がっていく。
人生とは分から
...続きを読むないもの。白河院の寵姫だった中宮賢子は若くして薨去する。続いて中宮の形見として愛しんでいた内親王も崩じられる。ウィキペディアを見ると、道子は91歳の長寿だったらしい。寵を失い後宮を離れることになったものの娘の斎宮とともに伊勢に赴き、後年は心休まる日々を送ることができたのかなと思う。私は最後まで道子びいきである。
「美しく、身分高く生まれたばかりに、たどらなければならなかった自分たちの生きた道が決して女として、人間として幸福ではなかったことに思いをはせずにはいられない」
「藤原氏の最も栄えたあの道長全盛の時代の数々の中宮や女御たちも、ひとりひとりの生涯をつぶさにしらべてみれば、みんなあわれな淋しい末路をとげている」
晩年の道子は、長い間忘れていた記憶として霞の中で微笑む若い貴公子の俤(おもかげ)を思い出す。その貴公子とは誰だったのだろう。政権掌握に貪欲な古狸でも老いらくの恋に溺れるエロじいさんでもない、今ではもう面影すら全く見当たらない東宮と呼ばれていた頃の若き日の法王の姿だったのだろうか。「あんな人々もいたのか」と言っているくらいだから、道子の青春期を彩った男性達が出てきたのかな。藤原伊房?藤原祐家?
祇園女御の本なのに道子の生涯に深く心を動かされてしてしまった。(祇園女御たまきの生い立ちはあまりにもドラマチック過ぎて、いまいち感情移入できない)読み終えた時に上巻の最初に出てきた「5帖の和とじの本」の正体が分かった。
今度「源氏物語」を読む時には、六條御息所の気持ちに少し寄り添えるような気がする。
Posted by ブクログ
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永井路子の「望みしは何ぞ」を読み、藤原道長の子、藤原能信が彼ら藤原一族による長きに渡った摂関政治を終わらせたことを知った。当書「祇園女御」の中心的人物・藤原道子は、その能信の子である能長の娘である。能長は養子だけど、彼の実父・頼宗は養父・能信と同腹の兄弟でもある。つまり道子は道長の曽孫にあたるのだ。
...続きを読む
私は源氏物語に出てくる「六条御息所」があまり好きではない。光源氏よりも年上で気高く美しく、血筋、教養、知性どれを取っても非の打ち所がない、そんなパーフェクトウーマンに息苦しさを感じるのも無理はないわ…と光源氏に珍しく同情したものだった。
しかしながら、この本の主人公(だと思う)道子にはどうしてだろう、嫌悪感を抱かない。美貌は勿論のこと、家柄、気品、教養、知性全てにおいて申し分ない后である。それなのに東宮(白河帝)の寵があからさまに薄れ、やがて後宮では日陰の身となっていく様が哀れに思えた。この先、どうか彼女のもとに幸せが訪れますようにと願わずにはいられないのだ。
上巻を読み終えたあと、白河帝が道子から興味を失っていった理由を考えてみた。彼女のほうが11歳も年上だからだとか、プライドが高過ぎて本心が見えづらいだとか、やっぱり年下の賢子の方が可愛いとか(笑)そういうこともあるのだろうけど、藤原家を毛嫌いする院(後三条院)の影響を少ながらず受けて、藤原道長に繋がる道子とは心理的にも物理的にも距離を置きたくなったのかなと思った。道子に皇子が産まれたとしても皇位継承がまわってくるとは考えにくい。うかうかしていると後三条院の皇子(白河帝の歳の離れた異母弟)の方に皇位がいってしまうので、自分の子供を確実に立太子させるには賢子(藤原師実の養女であるが、実の父は源顕房)に一刻も早く産ませたいと躍起になっている姿がなんとなく想像できる。
…と書いたところで藤原師実について調べてみると、彼も道長の孫(頼道の子)であり道子だけが疎まれる理由が分からない。師実は他の関白家の人間よりも帝にとって手懐けやすかったのだろうか?彼と協調することで利点があったのであろう。
そういった権力争いに知らずのうちに(いや、頭の良い人だから気づいていただろう)巻き込まれていく道子を哀れに思うと、寵愛を失ったのは自らの行いが不運を招いたからだとか、自業自得だとも思えないのだ。下巻では彼女の運命が好転して欲しい。
Posted by ブクログ
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若菜の上下。今までで一番好きな巻かもしれない。
皇家から正妻が降嫁してきたことで、紫の上の不安定な立場が改めて顕在化し思い悩んだ末に死にかけてしまったり、しかもその正妻が寝盗られてしまったと色んなことが起きた帖だった。
若い頃の源氏が天皇の妻を寝盗ったことも重なるのが上手。
Posted by ブクログ
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教科書や問題の断片的な場面しか読んだことがなかったので、初めて通しで読み、その面白さを体感できてよかった。とても読みやすくて、心理描写はきめ細やかで巧みだし、光源氏の自由奔放な恋愛模様は痛快ですらあった。
Posted by ブクログ
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