【感想・ネタバレ】源氏物語 巻六のレビュー

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Posted by ブクログ

「若菜(わかな)」上、下
 いや驚きました。もしかして、このままずっと、同じようなダラダラした感じでいくのかと思いきや、ここにきて、こんなザックリと切り捨てるような展開を用意しているとは、民俗学者の折口信夫が『源氏は若菜から読めばいい』というのも肯けるくらいの(実際には登場人物の心理描写の推移が分からないので、やはり最初から読むべきだとは思うが)、その波瀾の展開には、紫式部、恐るべしと言わざるを得ない。

 いくつかポイントはあると思うが、まずは、なんといっても「紫の上」であり、彼女ほど、いつまで経っても、真の安らぎを得ることの出来ない姫君もいないのではと思える、この苦悩の連続は何なんでしょうね。実質的には源氏から最も愛されているはずなのに、本人には全く実感として湧いてこない、その虚しさこそが、まさしく彼女の悲劇であり、しかもここに来て、彼女に跡継ぎの子がいないことと、「明石の女御」の台頭による、「明石の君」の存在感の増す様子に、引け目を感じてしまったことも加わることで憂鬱な日々を送るのを、源氏は見ているはずなのに、それに対して何かするわけでもなく、他の姫君よりも素晴らしいと言うばかり。本当に誰よりも愛おしいと思っているのなら、何か気の利いた行動でもしてみろよと、思いますけどね。口ばかりで行動に起こさない結果が、後の、あれに繋がったと言っても、決して過言では無いと思う。

 そして、それとも関係の深い出来事が、よもやの彼女の再登場であり、もう出て来ないと思っていただけに、これが最も怖かったかな。はっきり言って、こんな事が起こると、全ての一挙手一投足が気になってしまう程の、安心して生活出来ないレベルの話だけど、でも、自業自得だよねという感じで、本人が一番良く自覚していることでしょう。

 それと、もう一つ忘れられないのが、とある男の狂気的な恋模様であり、何より私がはっとさせられたのは、こうした男、現実にもいるよと思わせる、その生々しい描写の過程であり、まるで紫式部が、この男の心の中を実際に覗き見たかのような、人間の純情さ故の怖さが存分に発揮されているのが、何より凄く、ちょっとだけ書くと、この男、最初は自分の思いだけをつらつらと話し続けるが、相手にとっては、何の前触れもなく、いきなり現れて、意味不明な事を言っているのだから、唯々呆然と怖がっているのにも全く気付かない。そりゃそうだ、自分がどれだけ好きであるかを言うことしか、頭に入っていないのだから。そして帰るときには、何かひと言仰ってくれと頼んだことに対して、無反応にされると、「もうわたしみたいなのは死んだ方がいいですね」と、まさかの逆ギレで、彼女を抱き上げたまま部屋を出て、ちょっと怖い怖い、いったい何する気だと思ってしまう、こんな描写を平安時代にしているんですよ。紫式部、恐るべし。というか、これは貴族達の恋愛方法を、暗喩的に皮肉っているのだろうか? 私としては、彼の純情さもよく分かるんだけど、でも、相手の気持ちも考えられれば、もっと良かったのにとも思うし(まさに恋は盲目)、それは相手にしても、ああ私のこと好きだから、こんな思い切ったことしてるんだなといったことに気付かなかった悲劇もあったのだと思うが、そもそも、そんな狂気性を持った要因の一つに、姫君の姿自体を表に見せない当時の習わしもあったような気がしてならない。あまりに見ることの叶わないものは、どうしても見たくなるのが、男の性のような気もするし。

 しかし、そんな男に降りかかった出来事が、また何ともやるせなくて、そこには、他人の振り見てなんとやらで、ようやく過去のあの忌まわしい出来事を、あるまじきことだと思い知った彼の行動がまた・・・この巻は怖いことばかりだけど、これも凄まじく、ある意味、一種のパワハラかと思ってしまう、その描写は、実際の当事者の感情が分からないだけに、余計に怖く感じられて空恐ろしいものがあった。

 こんな展開に、まるで物語の世界が様変わりしたような印象は受けたが、私にとって意外だったのは、源氏に抱く私自身の気持ちであり、彼は自業自得を思わせるようなことを、本当にたくさんしてきたのだけれど、それでもここまで長く読んでくると、そんな彼にも人間らしさというか、もうあんたのことなんか知らない、どうとでもなれといった気持ちになれないものもあるというか、何だろう、これだけ長い歩みで読んでくると、一応、彼は彼で教訓的な苦い思いもしてきたし、この先、彼の身にどんなことが起ころうとも、それはそれで仕方ないよねと思いつつ、それも彼の人生なんだなとも思えるというか、人としての魅力はあるなと感じたし、それは、この巻で初めて私が共感した、この一節、『人の誉めない冬の夜の月を、源氏の院は特にお好みになるという変わった御趣味』にも感じさせられて、冬の月の何が悪いんだといった思いに、彼に対する印象が変わったのも、きっとあるのだと思い、やはり、人間は色々変わっていても人間なんだといったことを、改めて実感させてくれたようで、私は嬉しかった。

 そして最後に、瀬戸内寂聴さんが書いていた、『全篇に漂う、暗さと重さが~』に反抗したくて、私にとって一服の清涼剤となったのが、一夜限りのスペシャルユニット、女楽(おんながく)のスペシャルライブであり、もうメンバーが豪華で、明石の君(琵琶)、紫の上(和琴)、明石の女御(箏のお琴)、女三の宮(いつもお稽古に使う琴)による合奏に、「夕霧の大将」が拍子をとって唱歌(そうが)で加わり、源氏もときどき扇を鳴らして、息子と共に歌に加わる、素晴らしくも温かいものとなり、私の推しは、もちろん紫の上で、その想い出深い楽しさは本文に於いても、『言いようもないほど親しみのある、味わい深い夜の音楽の宴となった』と締められており、この時ばかりは、皆、楽しそうで幸せそうな印象を抱いたのが、たとえ一瞬のひと時なんだとしても、私は決して忘れないと思う。

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2023年09月21日

Posted by ブクログ

若菜の上下。今までで一番好きな巻かもしれない。
皇家から正妻が降嫁してきたことで、紫の上の不安定な立場が改めて顕在化し思い悩んだ末に死にかけてしまったり、しかもその正妻が寝盗られてしまったと色んなことが起きた帖だった。
若い頃の源氏が天皇の妻を寝盗ったことも重なるのが上手。

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2023年08月23日

Posted by ブクログ

巻六は、若菜上、若菜下。
ハァー。暗い。いつものように源氏を茶化したレビューが書けないではないか。
柏木がねえ…。かっこよかったはずなのに、ドジすぎたのよ。
源氏が39歳にもなって朱雀院から押し付けられた(と見せかけてまんざらでもなかった)愛娘、女三の宮に柏木がぞっこんで、女三の宮に近づけないかわりに女三の宮が大事にしていた猫を手に入れて一緒に寝たり、女三の宮と結婚出来ないかわりにその姉の女二の宮と結婚したけれど「イマイチ」と思って大切にしなかったりだったけれど、とうとう、女三の宮の御簾に忍びこみ、怖がる女三の宮に訳の分からないことを口走ってそのまま犯してしまったのよ。源氏だってこういうことは若かりし頃よくしていたけれど、女の人のほうにも才覚があったし、源氏の罪が許せるほど源氏は光輝いていたから、読者には笑い話になったくらいだけれど、柏木と女三の宮の場合はただただ女三の宮はうぶで怖がりなだけで、柏木は他のことは何も見えないストーカーのようになってしまい、一度の過ちで二人共恐ろしくなって病気になってしまうのだ。しかも、その後、柏木は三の宮への気持ちをジクジクと具体的に書いた手紙を送り、それが源氏に見つかってしまったのだ。人に見られたら困るような内容を隠さずに手紙に書いた柏木、それを源氏の前から隠すことも出来なかった三の宮。こんな才覚の無い幼稚な二人に自分がしてやられたということと、妻を寝取られたということに腹が立つ源氏。しかし、そのことを他人に言えない。表向きは上品に何も知らないように見せかけておきながら、柏木を見る目が冷たい。柏木は源氏の目の前に出るのが辛くてますます病気が重くなる。
源氏って人の妻は寝取ってきたのに、取られる側になると、マジこんなに怖い人なんだ。
そして、三の宮が柏木の子を宿したことに気づき、ますます、三の宮のことが嫌になると同時に冷泉帝が自分と藤壺の中宮との過ちの子であることを父桐壺帝は知っておられたのかも…ということに気づき、今さらながら、恐ろしくなる。
うんうん、お父様は知っておられたのかもね。でもそれでも源氏のことを愛しておられたんだよ。だってお父様の桐壺帝は朱雀帝と性格が似ているから。そもそも朱雀帝は源氏に朧月夜を寝取られたという苦い経験があるのに、あろうことか、愛娘の三の宮を源氏の妻にしてほしいと朱雀帝から頼むのだ。いくら、年端がいかなくて頼り無い愛娘の行く末が心配で後見人になってくれる人が必要(自分は出家するから)といっても、自分とさほど歳の変わらない、かつての恋敵に一番可愛い娘をあげるだろうか?お人好しすぎる。だけど、それほど源氏は同性で兄弟の目から見てもスーパースターで、「娘の面倒を見てもらうにはあの方しかいない」という人だったのだ。結婚相手というより、親代わりになってもらったみたいだが。
藤壺と源氏の不義の子、冷泉帝が藤壺の死後はさほど暗い影も落とさず、目立たず、源氏は栄華を極め続けたと思っていたけれど、まさかこんな形で、お人好しの桐壺帝と朱雀院から復讐されるとは…。
今まで罪の深さに対して不気味なくらい栄華を極め、満月のように輝き続けていた源氏。源氏の回りの女性たちは、満ちたりているように見えて、実は大きく何が欠けていることに耐えている。一番大切にされているとはいえ、自分には実子がなく、正妻といえる身分でもなく、常に源氏の浮気に耐えている紫の上。明石の地で思いがけなく源氏に見初められたために、東宮妃となる子を産んだ明石の君は、表だった母親役は紫の上に取られ、自分はいつも影に回っている。それに、自分の幸せは娘の幸せを祈り生き別れた父親の犠牲の上にある。
源氏の回り人たちはどんどん出家していき、自分も出家したいが、ここまで、“光”の部分だけを極めた男をそう簡単に気楽な出家生活に向けさせてくれない。これからはその光全部を覆うような“影”を作らなくては、物語としては面白くない。ってとこかな?

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2023年01月09日

Posted by ブクログ

巻五を読み終えてから約1年半、ふたたび読み始めることにした。
巻六には、大長編の「若菜」上、下が収められている。

源氏は朱雀院の愛娘である女三の宮と結婚するが、まだ13、14歳の女三の宮の幼稚さに失望し、改めて紫の上のすばらしさを思い知る。

六条の院で蹴鞠の会があった日、夕霧の大将と柏木の衛門の督が休んでいたときに、女三の宮の飼っていた猫が綱を御簾にひっかけてしまい、御簾がめくれ上がって、奥に立っていた女三の宮の姿を2人が垣間見る場面がある。
これがきっかけで柏木は女三の宮への恋心を抑えきれなくなり、そのときに見た猫を手に入れて抱いて寝るようになる。
ちょっと変人やけど、可愛らしい人やなと思った。

「しかし『源氏物語』も中盤になってきて正直退屈やなあ」と思い始めていたが、「若菜(下)」にはめくるめくドラマと怒濤の展開が用意されていた―

出家を望む紫の上を押しとどめるため、源氏が過去の女たちの性質や魅力、欠点をこまごまと話し、やはり紫の上は最も理想の女性だと称えたその夜に、彼女は病気になってしまう。
そして、「紫の上の息が絶えてしまった」という知らせが突然にもたらされる。
かわいそうな紫の上、まさに〈憂き世に何か久しかるべき〉。
ところが、それは物の怪のせいだったらしく、彼女は息を吹き返す。
そんなことがあるのか!?って感じだが、このあたりの平安人の感覚がなかなかおもしろいなと思った。
一方、源氏が二条で紫の上の看病をし、六条の院が手薄になっているのをいいことに、柏木は女三の宮のところへ押しかけて過ちを犯してしまう。

この一連の流れがすごすぎ!
紫式部って天才じゃないか?
偉い人が言っているからではなく、僕の実感として日本の歴史上最高の小説の1つだと思う。

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2013年01月13日

Posted by ブクログ

葵の上が倒れ、さらに柏木と女三の宮との密通に、苦悩が深まる源氏。しかし、藤壺の時に同じような事をやらかしましたよね、巡り巡って自分に降りかかるとは。しかし、柏木は源氏よりも繊細なのか、気が弱いのか、このピンチを脱出できそうもない…

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2024年01月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

波乱の帖。

源氏の兄の朱雀院の娘である女三宮が、源氏の元に嫁いできた(こんなプレイボーイの弟に愛娘を託すなんて…)。晩年になって夫が新しい妻を迎えたことに紫の上は動転し(そりゃそうよね)、どんどん身体を壊していく。源氏は幼妻である女三宮に満足できずにいる(周囲の人はだいたいそうなると思ってたと思うよ)。

一方、かねてから女三宮に好意を寄せていた柏木は、仕方なく彼女の姉の女二宮と結婚している(かわいそうな姉…)。でも、ついに恋心を抑えきれなくなってストーカー行為の末、女三宮に子どもを宿してしまう(犯罪者!!!)。

もちろん子どもは源氏との子、ということになっているのだが、源氏も薄々事実に気づく(っていうか、昔同じようなこと、あなたもしたでしょ?)。柏木はなんてバカなことをしたのだろうと後悔し、こちらも身体を壊していく(本当にバカな男!!)。

と、突っ込みどころ満載のエキサイティングな一冊に仕上がっている。

源氏物語はこんなに長いのに、きちんと伏線が張られており、そこが物語に重厚感を出している。また、紫の上の感情の起伏の様子は現代の女性にも通じるところがあると思った。

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2012年03月02日

Posted by ブクログ

源氏物語では「若菜」の帖がいちばん読みごたえがある、というのをどこかで読んだので、ひとまずそこを、と巻一の次に巻六を読んでみることに。これまで、源氏物語って、光源氏がかかわった女たちを描いた一話完結のドラマのような気がしていたのだけれど、なんだかはじめて、これは大河ドラマのようなひとつの物語なのだ、っていうことがよーーくわかった気がする。源氏が十代、二十代でかかわった女たちが、源氏が四十歳になったこの巻でも登場して、それぞれ年をとり、いろいろ立場も変わったりしていて、そういうことを源氏が思い起こしたりして、興味深い。あたりまえといえばあたりまえなのだけれど、話がつながっているので、それで次はどうなるの?と続きが楽しみになる。結局、やっぱり最初から最後まで順番にとおして読むのがいいんだなーとこれもよくわかった。この「若菜」(巻六)では、光源氏も四十歳になり、これまでのきらびやかな人生に影がさしてくる。巻末にある瀬戸内氏の解説に、これまでの帖と違って暗さ重さが漂い、近代小説のような心理描写が特徴、と書いてある。確かに心理描写が多くて読みごたえあるなと思ったけれども、なにせこれまでの帖をとばしちゃったので比較はできず……。こうした解説もわかりやすいし、瀬戸内寂聴訳はすごく読みやすいと思う。音楽の宴や、蹴鞠の遊びなんかの描写も目に浮かぶように美しくて、恋愛話じゃなくてこういうシーンも楽しいのだなーとあらためて思ったりもした。次はどの巻を読もうかな。

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2011年09月18日

Posted by ブクログ

この帖を読まずして『源氏物語』は語れないんだそうな。六条の院という桃源郷を築き、40歳を迎える源氏は、いくら好色多情ったってもう新規開拓はなかろうと思いきや、とんでもない。

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2014年04月20日

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