【感想・ネタバレ】源氏物語 巻十のレビュー

あらすじ

宇治の山荘を訪ねた匂宮は、薫を装い浮舟と契る。2人の男の間で揺れ迷う浮舟は、苦悩の末に死を決意。入水を図るも果せず、助けた横川の僧都により受戒、出家する。生存を知った薫は便りを寄せるが、浮舟は拒絶し会おうとしない。大長編小説「源氏物語」54帖、圧巻の完結篇。第1巻は、浮舟、蜻蛉、手習、夢浮橋を収録。

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光源氏の死後は蛇尾になっていくのかと思いきや、浮舟からの話でもうひと盛り上がりした。紫式部はどんな気持ちでこれを書いたのかは分からないけど、全編通して男のことをろくでもないものとして描いていて、それが宮中の男女問わずウケていたのもすごい。どんな所だったんだろう…。

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2024年01月27日

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「浮舟(うきふね)」
 巻九の最後の「薫」の行動に驚かされて、ちょっと興奮した私が恥ずかしくなるくらい、当の本人は落ち着き払っていて、ここに来てようやく余裕が出て来たのかと思いきや、ここから更に衝撃的な展開へと次第に向かっていく、大変密度の濃い帖となっており、ここでの薫と「匂宮」のお互いに何かと張り合おうとする様に、現代的恋愛ドラマが帰ってきたような気配を見せておいて、実は・・・といった、その計算された巧妙な展開に、ページを繰る手が止まらず夢中で読み耽ったが、ただただ驚くばかりで、誰もが、その本音と建て前を使い分ける見苦しさの中、それに耐えられない者もいて、ここでのタイトルにも表れているように、

『橘の小島の色はかはらじを
     この浮舟ぞゆくへ知られぬ』

といった、とてもドラマティックな場面にも関わらず、このような不安を抱いていた彼女の精神状態は、次第に、ある方向へと傾いていく中で、右近と侍従の話にも出てくる、『色恋の方面のことで、思い悩まれるのは、決してよくない。人それぞれの御身分に応じて、何か困ったことが起こる』も、それを匂わすようでありながら、それは時に、死ぬよりも恥ずかしいこともあるのだという。

 最初は、そんな事ってあるのだろうかと思ったが、それは、後の彼女の葛藤に於ける世間知らずさも災いしたことにより、彼女の中では、『死ぬことよりも、人の笑いものになって落ちぶれ流離う』ことの方が、辛いのだと痛感しており、当時の自殺の概念は、親を残して先立つ者として、とても罪深いものとされていたにも関わらず、そう考えてしまったのは、今の時代に生きる私には、理解に苦しむ部分も確かにあったのだと思う。

 しかしである。だからといって、その事態の全てに、非があったのが彼女だけとはどうしても思えず、そこには、おそらく浮気の是非や、道徳的観念といった議論もあるのかもしれないが、それでも完璧な存在ではない人間同士が築き上げた、その過程と結果、そして未来への思いに対する直向きさが、仮に、そうした考えに辿り着いたとしても、それだって、おそらく適当に考えていた訳ではなく、限りなく真剣に何度も何度もじれったくなるくらい、繰り返し思い悩んでいた結果であるのならば、何故、罪深いとか情けないとか言う前に、もっと、その人自身の立場に立って、思ってあげられる人がいなかったのか。皆、他人の事、気遣っているようでいて、本音は自分が大事な人ばかりなのに、『この世は全て虚しいと悟る』ことだなんて、笑わせんじゃないよ。結局、全部彼女に、自分の都合の良い未来を押し付けてるだけではないか、と私は思い、その終盤の彼女の歌には、思わず目頭が熱くなってしまい・・・こんなのって無いよ。

『のちにまたあひ見むことを思はなむ
       この世の夢に心まどはで』

『鐘の音の絶ゆる響きに音をそへて
       わが世つきぬと君に伝へよ』

「蜻蛉(かげろう)」
 ここでの男二人の前半と後半の矛盾した行動の様は、人間らしいといえばそうなのかもしれないが、それでも、矛盾さの質が違うというか・・・自分は他の男とはまた違うものを持ち続けるんだとか、そうしたポリシーや個性すら全く感じられない、この真っ黒な精神世界が当たり前にそこにある事の恐怖たるや、生々し過ぎて凄いよね。タイトルは、それに反発したかった紫式部の皮肉なのか? 少なくとも、彼はそんな世界に於いて異質な存在だと思っていたけど。

「手習(てならい)」
 この帖が、また驚きの展開で、最初あの場面を読んだとき、思わず声が出そうになってしまい、よくこんな展開を考え付くなと、紫式部のその物語の構成の素晴らしさに感心しきりなのだが、また色々と悩みの種を増やそうとする状況で、「果たしてどう向き合うのか?」がテーマなのかなと感じられたことと、どんな時代に於いても、やはりいろんな人がいていいんだよということを、改めて教えてくれた、それがいちばん私は嬉しかったかな。辛さや切なさもあるけれど、とても好きな帖。

終日吹いている風の音に
『道理で涙もとまらない』わけだ。

「夢浮橋(ゆめのうきはし)」
 最終帖。正直、私にとって結末は、とても意外であった。が、それはあくまで彼に対して、ひとつ思うところがあったからであり、それが違った事に気付いた時点で、これで良かったのだと、しみじみと感慨に浸ることが出来たような気がした。

 また、タイトルには、ある意味、色々な皮肉が込められているようにも思われ、特に彼にとっては、『浮(浮舟)』も『橋(橋姫=大君)』も・・・といった印象だろうし、それとは対照的に、○○にとっては、あの酷く辛かった現実は・・・といった印象に様変わりしたようにも思われて、その未来を想像してみると、ようやくここに来て、初めて清々しい風が通り抜けてゆく快晴の空といった(ちょっとの雲は残っている気もするが、それでも…ね)、後味の良さを実感させられたのであった。


 以上で、源氏物語は完結しましたが、「源氏のしおり」で瀬戸内寂聴さんが書かれていた、『紫式部は源氏の○までを道長の注文によって書かされ、それ以後は、自分の為に書いた』に同感の思いがし、それは、私が読み始めた当初、光源氏の、その常人離れした好色ぶりだけが物語の主旨であるかのように着目していたのが、実は違っていたことを、この巻でようやく実感したように(そこには、シニカルな笑い以上に、とてもシリアスな彼女自身の思いが宿っていたのではないか)、真の主役は源氏では無かったんだということを悟り、それは、千年以上も前の当時から紫式部が提唱していた、世の中は決して男性優位では無く、女性には女性それぞれの生き方が必ずあるはずだという、そうしたテーマを秘かに模索していたのではないかと、この巻を読み終えた時には確信し、そこには、とても堂々としながらも、軽やかに皮肉も交えながら、やはりほくそ笑んでいる紫式部の姿を(それとも、あっかんべーだろうか)私は抱き、世間では彼女の印象を面白可笑しく綴った文献もあるようですが、そこについては、とても真摯でチャーミングな方だなと感じました。

 それにしても、さすがに全十巻は長かったなー。所謂、日本の古典と呼ばれるものを読んだのも初めてでしたし、途中の冗長さに挫けそうになった時もありましたが、そこからまた、紫式部の素晴らしき人間臭さを醸し出した物語の面白さに、完読することが出来て、今はとても達成感と満足感でいっぱいです。


 そして、本書の面白さ、素晴らしさを教えてくれたMacomi55さん、ありがとうございます。

 「もちろん最後まで読まなくちゃ!」に、励まされて、ここまで来ることが出来ました。しかも、私の想像していた以上に、その物語に垣間見えた人間の奥深さといったら。小説家というのは、人を客観的に見ながら、自分の未来を重ね合わせることも出来るのだなと、感動いたしました。

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2023年11月19日

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ネタバレ

え!!!!!十巻も待たせたのに、こんな終わり方?!日本に誇る有名文学作品の終わりがこうだったとは。長い源氏物語の中で一番の衝撃がここにある。

歴史の授業を聞いていると、平安時代はとっても昔で、文明が未発達というイメージがあった。しかし、源氏物語の登場人物に触れて、現代に住む私たちと心はほとんど変わらないということがよく分かった。

源氏の栄華が語られる前半、そして宇治に舞台が移る後半。どちらも個性溢れる登場人物の心理が巧みに語られ、昼ドラさながらどんどん惹きこまれていく。特に宇治が舞台の後半は、頁をめくる手が止まらず、どこで休憩しようか迷った程だった。

寂聴氏は「男はせいぜいこの程度よ、という紫式部の声が聞こえてくる」と解説で書いているが、私には「あるよね~、そういうこと」という女房達の声が聞こえてきた。

そんな昔の物語を、こんなに生き生きとした文章で読むことができることに感謝しなければならない。他の訳本が進まなかった私にとって、寂聴氏の源氏物語は、抜きんでた名訳であった。話も面白いし、読みやすいし、是非色々な人に手にとって欲しい本である。

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2013年01月16日

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「浮船」「蜻蛉」「手習」「夢浮橋」の4帖を収録した最終巻。

心が震えるほどに感動した。
四季折々の日本の風景、人情の機微、人を愛すること、そして命のはかなさなど、人が生きるということに関するおよそあらゆるエッセンスを紫式部は描いている。
それらが美しい言葉と和歌、音楽に乗せてつづられているところが本当にすばらしいと思う。

−−−−−
匂宮は、一目で心を奪われた女(浮船の君)のことが忘れられず宇治へ赴き、薫の君になりすまして浮船の部屋に忍び込むと、彼女を手に入れてしまう。
薫に申しわけないと思いながらも、情熱的な匂宮のとりこになっていく浮船は、追いつめられた末に宇治川に身投げをしてしまった。
『源氏物語』全体の中でもっともスリリングで面白いのは「若菜 下」であると思うが、「浮船」も同じくらいすばらしく、第2部である「宇治十帖」が本編に劣らず面白いと言われる理由はこの帖にあるのではないかと感じた。

浮船が死んだと聞き、悲嘆にくれる薫と匂宮。
ところが、49日を過ぎると2人とも浮船のことなどすっかり忘れたようにほかの女に心を移しはじめる。
寂聴さんによれば、作者はこの2人の様子に「男の愛などせいぜいこの程度」という皮肉を込めたようであるという。
だれからも見下げられた存在でしかなかった浮船は、紫の上よりも悲しい女性であるように僕には思えた。

「手習」では、行方不明になった浮船が実は生きていて、横川の僧都に助けられ、出家する話が書かれている。
そして、最終の「夢浮橋」で、薫は浮船の弟である小君に手紙を持たせて彼女のところへ行かせるが、浮船はつれなくするばかりで小君に会おうともしなかった。
それを聞き、おもしろくない気持ちになった薫が「誰か男が囲っているのだろうか」と想像する場面を最後に、この大長編は幕を閉じた。
意外にも唐突な、あっさりした最後に、かえって紫式部の手腕を感じずにはいられなかった。
人の一生って、本当に夢のようにはかないものなのかもしれないな。
−−−−−

2年以上かかって、ようやく54帖すべてを読み終えることができた。
僕はそんなにたくさんの本を読んでいるわけではないけれど、日本の歴史上、この『源氏物語』を超える小説はまだないんじゃないかなあと思う。

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2013年01月13日

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初めて源氏物語を読み切ったあとで、源氏自身は狂言回しで主人公は物語に登場する数々の女君だったのだと知る。

のめり込んで読んでいるうちに、あっけないほどの長編小説の終り方や、1000年前も今もまったく変わらない人間ドラマとキャラクターの書き方に今もなお多くの人が虜になる理由には納得である。

雅で華やかな源氏物語の世界に憧れるのと同時に、この長編小説が「出家物語」と言われるほどに苦しみ次々と出家していく女君たちの気持ちには共感させられてしまった。

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2010年01月24日

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浮舟の覚悟、悟りと、薫大将の所詮2番目という心を打ち消しきれない対応。匂宮は元々好色であった事で「さあ、次」と清々しいまでの感情のブレなさ。
それに対する薫大将の言い訳じみた述懐には、さすが実は柏木なんだけど、光源氏の子?と、変なところで感心?させられた。

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2024年04月30日

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さすがに長い年月にわたって多くの人にを読まれてきただけに、「源氏物語」はやっぱりおもしろい。巻六くらいから登場人物にも、流れにも馴染みおもしろくなった。数ある訳本のなかからこれを選んだのは、寂聴さんの小説も読んでいて身近だったから。各巻末の「源氏のしおり」があらすじと寂聴さんの感想があり楽しみだった。これをきっかけに他の訳本も読みたいし、源氏物語に登場する女性や男性について書かれたものも読みたい。

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2014年12月16日

Posted by ブクログ

瀬戸内訳源氏の最終巻。浮舟・手習・夢浮橋の三帖が入っている。二人の端的な男性に翻弄される浮舟の描写が素晴らしい。

瀬戸内の訳は大変わかりやすく、多少くどいくらいきちんと書き下されている。結構ストレートな性的表現もあって驚くこともあるが、万人に薦めることのできる訳と言えるだろう。しかし、これがベストかと言われると難しい。源氏のパーフェクトな訳はあり得ない。必ず訳者の色が出てしまう。いろいろな訳にふれつつ源氏の本質に近づいていかなければならないのかなと思う。

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2010年02月06日

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