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謀反の咎めを受け須磨へと都落ちした光源氏は、わびしい流謫の地で明石の君と逢い、結ばれる。晴れて帰京の後、源氏と藤壺の不倫の子・冷泉帝が即位し故六条御息所の娘・前斎宮が妃として入内。明石の君との間には姫が誕生し、栄華の絶頂へと向かう源氏31歳までのドラマを描く。第3巻は、須磨・明石・澪標・蓬生・関屋・絵合・松風を収録。
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Posted by ブクログ
巻一、巻二、巻三と読んで1番面白かった 今の倫理観で読んじゃうと色々ツッコミどころがあるけど 平安時代の貴族の色々が興味深い
政敵右大臣の娘、朧月夜の内侍との密通現場を右大臣に抑えられたことで、源氏は官位を剥奪される。そしてこれ以上、流罪という恥をかかされる前に、源氏は自分から須磨へ都落ちする。 紫の上や藤壺の尼君や今まで情を交わした人や数々の女房や付き人との別れ。源氏はお供を数名だけ連れて、須磨の侘しい屋敷に引っ越す。 ...続きを読むその別れの様子や須磨というところの侘しさを“あはれ”“悲しい”とあまりにも連発しているので、もう、源氏に同情する気持ちは無くなった。だけど、当時の須磨のような田舎の侘しい景色を“あはれ”と表現するのも日本独特の美意識だなあとしっとりした気持ちになった。 人間で私の心に沁みたのは、源氏よりも朱雀帝である。故桐壺帝とコキデンの太后の息子で、源氏の異母兄。源氏嫌いの母、コキデンや右大臣の言いなりで気が弱く、最愛の朧月夜も源氏に寝取られたのに、怒りを表さず、それでもずっとお側に付けている朧月夜に対して「私が死んでも、あの人(源氏)との生き別れほどには悲しんで下さらないのだろうね。」としみじみ話している。ああ、朱雀帝様おいたわしい〜。この人絶対いい人だよ。優しいところは、故桐壺帝に似たのかな。コキデンとは似ても似つかない。 源氏が須磨にいる間、都では朱雀帝が病気になり、帝位を東宮(藤壺と桐壺の息子とされるが、実は源氏との子)に譲ることを考え始める。そうすると、まだ若い今の東宮が帝になったときには後見人として政治を行う人物が必要→源氏が必要と考え、とうとう、コキデンや右大臣の反対を押し切って、源氏を都に呼び戻す。帰ってきた源氏やそのまわりの者は、官位が元に戻っただけでなく、昇進する。源氏は内大臣として活躍。 冷泉帝(元、東宮。自分と藤壺との息子)の後見人として面倒をみるだけでなく、二条院の側に自分が目をかけた女性(末摘花も)を何人か住まわせるお屋敷を新築したり、須磨時代の奥さん、明石の君を京に呼び寄せたり、亡き六条御息所の娘の元斎宮を入内させたりと忙しい。自分もそろそろ出家するつもりで、嵯峨にお堂も建てているが、仏の道になんて入れるの? こんなふうに源氏天下になってきた中、いよいよ退位する前の朱雀帝は恋仇であるはずの源氏を何度も御前に呼び寄せて、政治の相談に乗ってもらったり、昔の思い出話を楽しんだりしている。勝ち組じゃないけど、いい人。そして、朧月夜にいうことには 「あなたは昔からあの人(源氏)より、私を下に見くびってられたけれど、私のほうは誰にも劣らない愛情をあなたに持ち続けていて、ただあなたのことだけをしみじみと愛しく思っていたのですよ。あの私より優れた人が再びよりを戻して、あなたのお世話をなさるにしても、愛情の深さということでは、なみなみならぬ私のそれとは比べものにならないと思います。」と誠実なお言葉。こういう人が一番自分を大事にしてくれているって気づかなきゃね。 源氏は明石の君を京に呼び寄せたことで、葵の上に嘘をついたり誤魔化したりして気を使っている。明石の君との間には姫君が生まれ、可愛くてしようがないんだけれど、紫の上との間には子供がない。紫の上は、あちこちの女の人のお世話で忙しい源氏をいつも待つばかり。 “当たり前にいてくれる人”のこともっと振り返ったほうがいいよね。源氏も。
光源氏は、帝の愛する人との密通現場を押さえられ、官位を剥奪され、流罪になる前に自ら都を出てから戻るまでの話。最後にある「源氏のしおり」で復習すると、物語がまた一層わかる。
異母兄・朱雀帝の寵姫である朧月夜の君との逢瀬を契機に凋落していった源氏は、須磨への都落ちを決める。 身はかくてさすらへぬとも君があたり 去らぬ鏡の影は離れじ 別れても影だにとまるものならば 鏡を見てもなぐさめてまし という源氏と紫の上のやりとりがとても美しい。 邸を須磨から明石へと移した...続きを読む源氏は、そこで明石の君という女性と結ばれ、子を産ませる。 後にこの明石の姫君を紫の上に引き取らせて育てさせるのだが、正妻であるにも関わらず子供ができない彼女の心中は穏やかではないだろう。 藤壷との罪の子・冷泉帝の即位、六条の御息所の死など大きな出来事が起こる3巻、および先の2巻は、『源氏物語』全体のなかでももっともおもしろい帖が多く収められていると思う。 「須磨」「明石」「澪標」「蓬生」「関屋」「絵合」「松風」の7帖を収録
明石の君は本当に思慮深い方ですねえ… でも紫の上のこともっと気遣いなさい!げんじ! あ、でも一番好きな話は絵合せの回です。
政治的には窮地から一転返り咲いて栄華を極める直前くらいまでのドラマチックな展開。また、藤壺、紫の上、末摘花、明石の君とその家族、花散里、六条御息所と斎宮、朱雀院、東宮、権中納言(元頭中将)…と多くの人物たちの物語も描かれておりまさに群像劇。 漫画『あさきゆめみし』でも印象的だった二条の東の院が完...続きを読む成する。この巻では花散里、末摘花が入る。漫画でのほわんとした雰囲気(美人には描かれていない)がいいなと花散里が好きだったけど、まだいまいちこの人が源氏にこれだけ良く遇される理由がよくわからない。この作品では、恋する思いが強いほど悩みも多くなる、と男も女も繰り返し嘆いているので、なんかほどほどな感じが良いのだろうか。今後に期待。 反対に、末摘花はビジュアルの強烈さしか覚えていなくて二巻の「末摘花」でもさんざんな描かれようだったけれど、三巻の「蓬生」は、これは推せると思わせるエピソードだった。 以下は自分用備忘メモ。 ■須磨 ・流罪にされるのも恥だから自分から須磨行きを決める(そうすることで東宮を守ることにもなるようだ)。紫の上は連れて行かない、かえって辛い思いをさせるから(謹慎の身で奥さん連れていくとますます何を言われるかわからないし…と)。行く前に左大臣の家へ挨拶に行き、馴染みの女房と過ごす。あ、息子(葵の上が産んだ夕霧くん)にももちろん会う。 ・紫の上のいる二条の邸は、かつてはたくさん集まっていた人々も寄り付かなくなり寂しい限り。紫の上の父親や継母も、娘への愛情薄く、世間の風当たりのほうが気になるのでつれない。こんなことなら父にここにいると知れない方が良かった、母に手紙を出すのもやめよう、とまで思う紫の上がかわいそう。 ・花散里に会いに行く。漫画を読んだ中では花散里が一番好きだったので注目しているが特にまだ見せ場はない。須磨へ去ってからは姉妹で手紙をくれる。窮状を訴えると源氏が手配してお世話してくれる。 ・都を去る上での身辺整理。事務処理などぬかりなく。仕事しているシーンってあまり描かれないからわからないけど、こういうのできる人なのかな。 ・朧月夜にもちゃんとお手紙を出す。会うのはやめとく。妥当なところか。須磨へ去ってから朧月夜は許されて再び参内できるようになり相変わらず帝からの御寵愛は篤い。まだ源氏を恋しく思っている朧月夜を認めつつ慕いつつの優しい帝。すごいな。朧月夜に子どもができないので、故院遺言通り東宮を猶子にするつもりである。 ・桐壺院の御陵へ行く前に藤壺の尼宮に挨拶。出家によりプラトニックが保証されて、源氏も失脚でしょぼくれてるし、須磨へ去ってからの源氏への手紙もちょっと優しくなる。 ・昔、藤壺と源氏との間をお仲立ちした王命婦が、二人や東宮の今のご様子を見て「私の浅はかなお仲立ちのせい」と思っている。いやいや、そんなこともし源氏が言おうものなら私がぶっ飛ばしてやるよ…。 ・伊勢の斎宮へもお手紙を(娘の方?!)送ったら六条御息所からお返事。どなたよりも優れており、いつかまた会いたいねなどと返事。別れたけれど良い関係? ・源氏は幼い頃から帝の寵愛がこの上なかったので、源氏が奏上して叶わないことはなかった。そういうわけで位階のことなどで源氏に恩がある人はたくさんいた、という記述(それなのに、外聞を恐れてみんな寄りつかないという文脈)。自分自身が恵まれているだけでなくちゃんと周りにも実利を与えていたから、みんなに愛されていたんだなと妙に納得。 ・明石の君。お父さんがなかなか面白そうな人だ。頑固者とのことだが、世間の目も構わず、自分の親戚である素晴らしい桐壺の更衣の子なんだし源氏の君は素晴らしい!という信念のもと、自分の娘の婿にしたいと思っている。 ・最後なんか龍王出てきたぞ! ■明石 ・明石パパの猛プッシュ(とパパ自身の魅力も手伝って)の結果、明石の君とついに結ばれ、子どももできる。はじめからわかっていたけど却ってつらい明石一家。明石は琴の名手。 ・紫の上には手紙で「浮気しちゃった、正直に言ったから許して」。大胆な人だ。チクリと嫌味を言いつつも鷹揚?な和歌でお返事をよこした紫の上をまた愛しく思う源氏。いい気なものです。 ・源氏を追いやった帝もその母も物の怪に悩まされ病気がちに。帝はついに源氏を元に戻すことを決めた。帰還。 ・紫の上に明石の君のことも隠さず話す。ずるいんだからもう。 ・五節の君(誰だっけ…)や花散里へは手紙をやるが会いには行かない。 ■澪標 ・朧月夜、帝の愛の深さを思い知る。 ・弘徽殿の女御の子だった帝が譲位して朱雀院になり、源氏と藤壺の子である東宮が、帝になる。 ・明石の姫君に女の子生まれる。乳母を派遣。花散里にも会い、五節の君(誰だっけ…)のことも想う。明石に上京を進めるが明石ためらう。パパ入道も「こんなことなら昔の方が心配ごとが少なかった」って、おいおい。とはいえまあ、そういうことはありますよね。 ・二条の東の院の改築を始める。 ・「そういえば」と斎宮&六条御息所の話に。伊勢から戻ってきている。六条御息所は病で弱っていることもあり、昔のこともあり、もう源氏になびくことはななく源氏も強くは出ない。斎宮(娘さん)のことは面倒見るから、という源氏に対し、「手出すなよ」と釘を刺すママ六条ナイス。ちょっと不機嫌になる源氏、かわいい、とは思えない、そこは恥じ入ってほしい。六条御息所、みまかる。 ・斎宮の世話をする源氏。なんとか踏みとどまっている。斎宮のことを朱雀院が所望しているが、帝に入内させたくて、藤壺に相談し、そうする。 ■蓬生 ・末摘花再登場。「大空のおびただしい星影を盥の僅かな水に映して我が物にしたような、身に余る思い」で源氏によるお世話をありがたく思っていたが、須磨へも行った源氏はすっかり彼女のことは忘れてしまって、召し使いたちにも見捨てられるし親戚も意地悪だしで邸は荒れ放題。それでも一途に頑固に暮らしぶりを変えない。そこへ源氏登場。花散里のところに行く途中でたまたま思い出しただけなのだが、「あなたが便りもくれないから意地を張っていたけれどついに来てしまった、私の心は変わらない」などとしゃあしゃあというが、地の文も「それほど深くも思っていらっしゃらないことでもさも情愛がこもったようにお上手にあれこれとお話しになられた」と手厳しいのが面白い。その後は源氏も元のように細やかにお世話してくださる。そうなると戻ってくるような現金な女房たちもいたりするわけで、末摘花の変わらなさという美徳が一層感じられる。最終的には二条の院の隣の邸に住まわせる。 ■関屋 ・空蝉の話。小君だった右衛門の佐は、源氏の須磨行きのとき時勢におもねって源氏から離れてしまったので気まずいが、源氏は変わらず接してくれる(内心不愉快だが)。空蝉への手紙を託され歌のやり取りなど。空蝉は源氏を迎えることは決してない、それは変わらないのだが、実はけっこう恋しがっている?空蝉の夫が亡くなると、義理の息子に言い寄られて出家する。 ■絵合 ・前斎宮の入内。帝は十三歳で斎宮は二十二歳。朱雀院から斎宮への贈り物に、その思いの深さを知り、ちょっと悪かったなと後悔する源氏。「澪標」で斎宮の入内を決めたいきさつは、要は源氏が、お似合いの朱雀院に渡してしまうのが惜しくて年少の帝(しかも息子)の方がまだいいかなとか思ったのだったかな。 ・という疑問を抱いたが巻末「源氏のしおり」では、斎宮を自分の娘分として入内させて外戚として権威を振るおうという野心のためとあった。また、朱雀院への恨みもあったかもしれない、と。さらに、斎宮だって朱雀院のことを覚えていて慕っているだろうし帝との年齢差のことも気にならないわけはなかろうと、作中では黙殺されている斎宮の気持ちが想像されていた。 ・頭中将が今は権中納言。その娘が今は「弘徽殿の女御」で、こちらも入内しており帝とは年も近く仲良し。源氏と権中納言はこんなところでもまたもやライバル関係になるわけか。そして絵合。なんやかんや芸術論があったが最後は源氏の描いた須磨の絵で梅壺(前斎宮)側の勝利。 ・この世の栄華を極めつつあると自分でも思っている源氏。帝が成人したら出家して、もう高位は要らないから長生きしたい、など。 ■松風 ・この頃源氏三十一歳。二条の東の院完成、花散里そこに入る。 ・明石の君、嵯峨の大堰の邸についにやってくる。母の父の昔の邸らしい。入道だけを明石に残し、母と娘と共に。明石一家の悲喜交交。源氏、会いに行く。 ・紫の上は、明石の君のことではずっと機嫌が悪い。機嫌を取ろうとする源氏。隠れて手紙を書いて送り、受け取った返事もまずは一人で読んで内容チェックしてからわざとその辺にうっちゃって、「こんな手紙にわずらわされる年でもない、あなたが捨てておいてください」だとか、いろんなポーズを使い分ける。 ・明石の君との間に生まれた姫君は三歳。二条の邸で引き取って紫の上に育てさせたいなというアイディアを紫の上に漏らす。紫の上は、「あなた(源氏)に対しては色々と思うところもあって素直になりたくないが、子どもには気に入られると思う」とちょっと乗り気。紫の上の気持ちは、今後もっと語られるのだろうか。
社会的には栄華の絶頂を上る光源氏。しかし、源氏周辺の女性関係は悩みが深く、紫の上に何度となくする苦しい言い訳。 源氏物語の作者は、政治性は帯びないことをスタンスとしてるが、藤原氏の政治の行い方を皮肉ってるように見える。
巻三は、26才~31才までの源氏を描いており、ここにきて、ようやく自己を見つめ直す機会も頂いたかに思えた彼が、ここから心機一転やり直していこうとするのかと思いきや・・・。 「須磨(すま)」 須磨とは今で言う、神戸市須磨区と思われ、前回、見事なしくじりをしでかした源氏は、早速、「弘徽殿の大后」...続きを読むの策略により、彼が謀反を企んでいるとして、まずは官位を剥奪された後、次は流罪だと予想し自ら須磨へ都落ちする。と、こう書くと、ついに覚悟を決めた、堂々たるさっぱりとした姿を予想されるかもしれないが、実際は、「ああ、なんか最近嫌なことばっかりだなあ。もうこんな所いたくないよー。でも、だからといって、女の子たちと会えなくなるのも嫌だしなあ~」と、こんな感じで未練たらたらな姿を見せる中、思ったのは、この人よく泣くなあということであり、瀬戸内寂聴さんの訳だと、一人一人の女性に対して多少の優先順位はあるものの、基本的には、ほぼ全員に毎回一途な愛を抱いているかのような泣きっぷりであり、彼の中でのその瞬間瞬間は本気なのだろうけど、結果として、それが本人にも彼女たちの為にもなっていないことに気付いていないことの悲劇を滑稽に描いている中でも、彼のこの本質的な部分の変わらなさは、ある意味凄いとも思い、こんな状況でも、「花散里」のお邸の修理を命じていく、その女性の為を思った心配りだけは流石である。 また物語としては、これまでの華やかな都の景色から、素朴な海と山が綺麗な須磨の景色へと舞台転換した流れも、読み手には新鮮に感じられ面白く、そのひっそりと佇む自然の美しさも印象的な中、突然降り出した肘掛雨から、たちまち未曾有の暴風雨へと変わる様に、私はまるで未来の暗雲を予見しているようにも思われたのが印象的だった。馬鹿なこと歌ってんじゃないよって。 「明石(あかし)」 一向に止まぬ嵐の中、お供のものたちは源氏の為に必死に神に祈り続け、「さまざまの快楽をほしいままにされ、得意になられたとは言え~」と、正直に言ったのが幸いしたのか、やがて嵐は収まるが、今度は源氏の夢枕に、父である「桐壷院」の霊が現れ、「どうして、このようにむさくるしいところにいるのか」と仰せになる、これには驚き、この世からいなくなった後もこうして息子の人生に介入してくる、その思いの強さは最早呪いとも感じられ、そこには子への愛情よりも、血統の高貴さを大事にするような当時の時代性を感じさせられた一方で、「明石の君」とその父の「入道」の親子の情も、また印象的で、特に入道の娘の為に自らの人生を投げ打ったような献身さには、当時のこの道しか娘の幸せは無いんだといった哀しみもあったが、そこには入道自身、かつて都にいたけれども、そこが合わずに、遠くに逃げ出してしまったという後悔の念があったからこそ、娘にだけはそんな侘しい思いをして欲しくない気持ちの強さは、いつの時代も変わらぬ親が子を思う愛の気高さであり、そんな献身さは、明石の君の歌からも感じさせられて、私の目にはとても感動的に映った。 『寄る波に立ちかさねたる旅衣 しほどけしとや人のいとはむ』 「澪標(みおつくし)」 まるで、昔から決められていたかのような謀により、都に帰られるようになった源氏だが、もうこうなってくると何でもありだよね。これでいいのかとは思ったが、これが後々の伏線になりそうな気もして、取りあえずそっとしておく一方で、これらのショックもあったのか、源氏の兄「朱雀帝」は「東宮」に帝を譲る。 そして、更に驚いたのが、「藤壺の尼宮」であり、ここでの彼女の発言には、いくら源氏の考えが元とはいえ、明らかに彼の背中を後押しする意図が感じられて、ここまで生きてきた苦しみが彼女を変えてしまったのか、それとも、それを超えた先に見出した達観なのか、この辺は表向きからは感じられない倫理的な問題が絡んでいるだけに、その強かさの裏にある生々しい感情は、いけないこととは思いながらも考えさせられるものもある。 それから、源氏に見られたちょっとした変化として、「紫の上」に他の女のことを色々と正直に報告するようになった事が、却って、彼女に嫉妬心を抱かせ、関係がこじれるきっかけとなっていく一方で、忙しくて自重していたお忍び歩きも再開する中、久しぶりに京に帰ってきた「六条の御息所」のあの台詞は強烈で、巻二でも見られた彼女同様に、他の女とはまた違う彼女自身の在り方を見せられた気がして、そこに幸せな思いは無かったとしても、その意志を貫き通す姿には、何か尊いものを感じさせられた。 「蓬生(よもぎう)」 「末摘花」のお話で、お付きの者も次第に出て行ってしまい、荒れ果てる一方の彼女の家に於いても、決して変わらぬ源氏への一途で燃えるような思いには心を打たれ、花散里を訪ねる途中で、そこを偶然見つけた源氏が訪れた時には、ひたすら恥ずかしそうにしている気品のある様子も印象的でありながら、『何につけても人並みでさえない』ナレーションに、ここまでコメディタッチにしなくてもいいだろと思ったものの、ここでの痛烈な皮肉が、手のひらを返したように豹変する人間の心の浅ましさであったことを実感し、末摘花に対するそれも、単に作者が、物事の一つの在り方として冷静に捉えていただけなのかもしれないと思うと、この作品に対する作者の決して妥協することのない思いも痛感させられたようで、改めてエンタテインメントという言葉の意味を頭に思い描くのであった。 「関屋(せきや)」 久しぶりの「空蟬」のエピソードに、彼女の弟の「小君」こと、「右衛門の佐」も登場し、源氏の新たな一面も感じさせられる中、最も印象的だったのは、登場する女性一人一人の個性が、より明確に見えてきたことで、作者が大事にしている彼女への思い入れも感じさせられるようだった。 「絵合(えあわせ)」 ここでの二組に分かれて、どちらの絵が素晴らしいのかを論じ合う様子には、まるで、どちらの小説が素晴らしい作品であるかをディスカッションしているようで興味深く、そこには、物語の元祖とも呼ばれている『竹取の翁の物語』をお互いに異なる視点で論じ合ったり、『宇津保物語』の現代風な面白さに加えて、『伊勢物語』は古風ではあるけれども、『在原業平』の名声を台無しにしてよいものかといった語りに、何とも言えない可笑しみがあり、こうしたメインストーリーの間にそっと入れた、ちょっとひと息入れましょう的なサブストーリーは、いい気分転換にもなって、紫式部は何でも出来るんだなと改めて感心しきりでした。 「松風(まつかぜ)」 自分の気になる女性を近くに置いておこうと、二条の院を次々と造営していく源氏に、いよいよ、やりたい放題の感が芽生える中、彼の思惑も徐々に顔を覗かせてくるようになり、ここに来て、彼の純情バカとは異なる新たな裏の一面を認識させられそうである。 寂聴さんの『源氏のしおり』にも書かれていたように、源氏が自ら都落ちしたのは、実は東宮の為であったことや、藤壺の尼宮との密談の野心の強さに加えて、これまで、どんなに機嫌を損ねられても変わらぬ愛を貫いてきた、彼女に対する接し方も変わってきたように思われ、これはいよいよ、風雲急を告げるというか、嵐の前の静けさというか、ちょっと怖くなってきたぞー。 というわけで、次回から、サスペンススリラーにジャンルが変わっているかもしれませんので、紫式部の物語の舵取りから、さらに目が離せない展開になりそうでドキドキしてきました(違った意味で)。 ちなみに、巻一の裏表紙に書かれていた、 『すべての恋する人に贈る最高のラブストーリー』が、いつ訪れるのか、それも楽しみです。
不倫や不道徳の域をはるかに超越していて厄介過ぎる。さて、今後はどうやら光源氏はさることながら、藤壺の宮との間に生まれた二世・冷泉帝が父の遺伝子をしっかりと継承してご活躍のことと聞く。未だ全十巻中のうち三巻。いかにも先は長い。
この巻で、印象に残ったのは、光源氏の愛した女たちのなかでただひとりブサイクで読者に強い印象を残す(?)「末摘花」。源氏にずっと忘れられていたのに、いつか思い出してもらえるはずと信じて、貧乏になって家は草ぼうぼうに荒れはて、そばに仕える者もいなくなっていっても、ただひたすら源氏を待っている。たまたま通...続きを読むりかかった源氏に思い出してもらえて、以後は面倒を見てもらえる(でも愛してはもらえない)ようになる。この末摘花という女、不器量なだけでなくて変わり者というか意固地というか、折々のお手紙なんかを出したりもしないから友人知人もいなくなって忘れられ、頼れる身内もなく、自分から楽しみや慰めを見つけるわけでもなく、ふっるい絵巻ものなんかをながめるくらいで、どんどん荒れさびていく家で泣きながらただただじっとしているという。なんか、他人とは思えない(笑)。瀬戸内氏が解説に書いていたように「純真」とはわたしはあんまり思わなかったけど……。まあ、紫式部もいろんなタイプの女を描いたものだなあ、と感心したり。ほかにも、六条の御息所、空蝉などのその後の話もあって、こういう後日談みたいのもあったのね、よくできてるなあ、とあらためて思う。
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