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エッチな古典
この本は「古典離れ」への新しい挑戦のために、「源氏物語」や「平家物語」のような有名な古典ではなく、一般にはなじみの薄い「説話」と呼ばれる作品群を主な材料としています。しかも、「説話」の看板である神話や伝説、鬼人や超人の活躍する霊験譚や英雄譚などははずし、新聞の社会面の記事に類する「世間ばなし」、日常的な空間に勃発した意外な出来事、われわれの周辺に住む普通の男女の織りなす事件的な説話……などを取り上げて、昔も今も変わらない丸裸の人間、スッピンの日本人の本然の姿や人間性を振り返るよすがにしたいと思うのです。(「はじめに」より) -
万葉百歌 こころの旅
今、たどりつく。万葉集の新境地。選り抜かれた100首と独自の解釈が、新たな〈万葉観〉へと導く! 長歌、短歌、旋頭歌など、全4500余首が収められた日本最古の撰歌集「万葉集」。京都、飛鳥、奈良といった古都の散策を主題とする随筆の名手が、その中から100首を厳選し、瑞々しい解釈と美しいエッセイを添える。内乱が頻発し混沌とした社会にあって、歌の作者たちは嘆きや悦び、叶わぬ願いや迸る想いを懸命に詠み上げた。そうした先の見えない時代を生き抜く逞しさに満ちた古の詩が、私たちに今ひとたびの生命力を与えてくれるはず。詩歌の来歴はもちろん、著者自身が万葉ゆかりの地で見聞きした余話に豊かな学びと温かな癒しがある。また、躍動感のある大和路の風光描写が――たとえ物理的な移動がままならない時であっても――想像力あふれる魂の旅へと誘ってくれる座右の書。 -
堀田善衞を読む 世界を知り抜くための羅針盤
南京虐殺事件を中国の知識人の視点から記した『時間』、時代を冷静に見つめる観察者を描いた『方丈記私記』『ゴヤ』などの評伝、『インドで考えたこと』『上海にて』などアジア各国を歴訪して書いた文明批評など、数多くの優れた作品を残した作家、堀田善衞(一九一八~一九九八)。堀田が描いた乱世の時代と、そこに込めた思いは、混迷を極める現代社会を生きる上での「羅針盤」として、今なお輝きを放つ。堀田作品は、第一線で活躍する創作者たちにも多大な影響を与え続けている。堀田を敬愛する池澤夏樹、吉岡忍、鹿島茂、大高保二郎、宮崎駿が、堀田善衞とその作品の魅力、そして今に通じるメッセージを読み解く。 【目次】はじめに 『方丈記私記』から 富山県 高志の国文学館・館長 中西 進/第一章 堀田善衞の青春時代 池澤夏樹/第二章 堀田善衞が旅したアジア 吉岡 忍/第三章 「中心なき収斂」の作家、堀田善衞 鹿島 茂/第四章 堀田善衞のスペイン時代 大高保二郎/第五章 堀田作品は世界を知り抜くための羅針盤 宮崎 駿/終章 堀田善衞 二十のことば 富山県 高志の国文学館/おわりに/【年表】堀田善衞の足跡/付録 堀田善衞 全集未収録原稿──『路上の人』から『ミシェル 城館の人』まで、それから…… -
源氏物語を反体制文学として読んでみる
紫式部が『源氏物語』を書いた平安時代は、摂関政治(天皇に嫁いだ娘が男児を産むことで外戚として権力を得る)の全盛期にあった。しかし『源氏物語』は天皇親政の時代を舞台とし、「源」という元皇族が活躍するストーリーだ。摂関政治をあえて否定するという、いわばその時代の「反体制文学」として『源氏物語』は大ベストセラーとなり、多くの読者の支持を得た。なぜ紫式部はそのような果敢な挑戦をしたのか。紫式部が時代をどう感じ、またどのようなモチベーションで物語を綴ったのか。独自の視点で鮮やかに描く、新しい『源氏物語』論。 【目次】まえがき――『源氏物語』の謎/第一章 紫式部と『源氏物語』/第二章 源氏一族の悲劇/第三章 摂関家の権威と専横/第四章 紫式部の出自と青春時代/第五章 紫式部の恋と野望/第六章 摂関政治の終焉/あとがき/主な参考文献 -
P+D BOOKS 桜島・狂い凧
戦争を冷徹な目で見つめた梅崎春生の出世作。 「ねえ、死ぬのね。どうやって死ぬの。よう。教えてよ。どんな死に方をするの」 米軍上陸が迫るなか、桜島の海軍通信基地に異動になった村上兵曹は、一夜をともにした女性に、そう詰められる。しかし、どういう死に方をすればいいのか、そのときになってみなければわからない。ただ、死が目前に迫っていることをひしひしと感じるだけだった。 生きることへの執着と諦観、どうせなら美しく死にたいという願望と、それはかなわないだろうという無力感……。背反する思いを抱えたまま散歩に出た村上に、グラマンの銃弾が降り注ぐ――。 出世作「桜島」に、戦地で自死同然に亡くなった弟の足跡を、双子の兄たちがたどっていく芸術選奨作「狂い凧」を併録。 -
P+D BOOKS ベトナム報道
一特派員がたどり着いたベトナム戦争の真実。 すでにAPの記者たちが打った電報のカスを、まるで残飯を恵んでもらうような調子で拝読させてもらう自分の姿が、私には全然気に入らなかった。(中略)心の中で固く決心した――彼らの世話になんかなるものか、おれはおれの情報源と判断で対等に仕事をしてみせる。(本文より) 新聞記者として戦地に赴任した著者は、特約を結んでいるアメリカの通信社からの情報や、ベトナム政府の公式発表、米軍のブリーフィングなどを鵜呑みにするのではなく、自分の足で開拓したニュースソースや自身の臭覚などを頼りに、ベトナム戦争の“真実”に迫ろうとする。 のちに芥川賞を受賞する作者の、原点ともいえる作品。 -
P+D BOOKS サムライの末裔
運命に翻弄される占領下の日本人たち。 1945年8月、広島と長崎に原爆が投下され、その直後に迎えた敗戦。GHQ占領下の卑屈な統治時代を、市井の人たちがどのように生き抜いたのか、ある海軍中将一家の目線で描く。 未亡人となり家財総てを失った中将夫人、米軍人に求婚される長女、原爆被害で恋人と離ればなれになってしまった長男、その長男を想いながらも米兵に身をゆだねてしまう恋人……。 戦勝国・アメリカを呪いながら、その助けなしには生きていけない日本人の哀切と、それでも新時代に向けて歩みを始める強さを、心の奥底を揺さぶる独特な筆致で綴った秀作。 -
P+D BOOKS 女誡扇綺譚・田園の憂鬱
台南を舞台にした表題作等、珠玉の短編5編。 明治、大正、昭和の3つの時代にわたって、詩歌や小説、文芸評論など幅広い分野で足跡を残した佐藤春夫の、珠玉の小説アンソロジー。 表題の『女誡扇綺譚』は、日本時代の台南を舞台に、鄙びた町の姿や、没落豪族の娘の霊との出会いを描いた作品で、作者自ら「五指に入るであろう」と評した幻想的な傑作。 改稿を重ねた渾身の一作『田園の憂鬱』は、田舎に移り住んだものの周囲と溶け込めず、次第に病んでいく文学志望の青年を描く。 他に処女作品『西班牙犬の家』のほか、『のんしゃらん記録』『美しき町』を収録。 『大正幻影』で佐藤春夫を掘り下げた評論家の川本三郎氏が解説。 -
P+D BOOKS 津田梅子
新五千円札「津田梅子」の傑作評伝。 日本の女子教育の近代化に生涯を捧げ、新五千円札の肖像画にも選定された津田梅子。 ある日、梅子が創設した津田塾大学(女子英学塾)の倉庫から、おびただしい数の手紙が発見される。それは梅子と、留学先の里親アデリン・ランマンとの往復書簡の束であった。 完全にアメリカナイズされた梅子と日本文化とのギャップ、開明的な政治家・伊藤博文一家との交流、女子教育にかける熱意などが生々しく記された手紙の真意を、同じく津田塾大学出身の著者が自らの渡米経験も踏まえて読み解いていく。 第42回読売文学賞(評論・伝記賞)を受賞した傑作評伝。 -
P+D BOOKS 三匹の蟹
乾いた筆致で描くある主婦の“孤独と倦怠”。 異国に暮らす由梨は、夫と自分双方の浮気相手が集うホームパーティーに参加する気になれず、ひとりで外出してしまう。 遊園地の民芸館で知り合ったアメリカ男に誘われ、海辺のドライブについて行き、そこで男は、赤いネオンが点滅している宿「三匹の蟹」へ行こうと誘うのだった。 果てしない存在の孤独感、そして愛の倦怠が引き起こす生の崩壊を乾いた筆致で描き出した「三匹の蟹」は第59回芥川賞を受賞。「三匹の蟹」以前に執筆された日本人女性留学者の青春への決別を描いた連作「構図のない絵」、「虹と浮橋」も併録。 -
萬葉集釋注(集英社文庫版)
戦後の万葉研究の第一人者による、初めての個人全注釈の文庫版。隣接諸学との多様な交流の成果も踏まえた、現代万葉学の集大成。一群の詩の背景、状況をいきいきと語る歌群ごとの釈注。新鮮な感動を呼び起こす充実した内容。『万葉集』は、5世紀初頭から8世紀中葉まで、およそ350年にわたる4500余首の歌を収める。本書第一巻は、白鳳期(629~710年)、いわゆる万葉第一・二期の中核的古撰集である巻一と巻二とを収める。宮廷の儀礼・行幸などにまつわる「雑歌」(巻一)と、万葉びとの愛と死を奏でる「相聞」「挽歌」(巻二)とは、『万葉集』の基本的な三大部立で、以下の巻の規範となった。額田王、柿本人麻呂たちの作品が天皇の代ごとに配列され、躍動的な白鳳歴史絵巻を繰り広げる。【文庫版:リフロー型】 -
太宰治の手紙: 返事は必ず必ず要りません
太宰治が、戦前に師、友人、縁者に送った百通の手紙。井伏鱒二、木山捷平宛てなど。優しさ、本音、ダメさかげんが赤裸々に伝わる。 (※本書は2018/6/6に発売し、2022/2/10に電子化をいたしました) -
書くための文章読本(インターナショナル新書)
日本語の文章で力点が置かれるのは圧倒的に文末。文末は、文の全体に書き手の意思を伝え、情報の核を据えるところ。そして、もっとも記憶に残りやすい。だから文章におけるパンチの効かせどころだと著者は説く。ところが日本語では最後に動詞がくるので、付け足しがしにくく、その大切な文末が弱い。さらに「です」「だ」などが連続して単調になりがちだという弱点もある。これらをどう解決するか。『日本語のレトリック』『メタファー思考』などのベストセラーがある言語学者が向田邦子、筒井康隆、井上ひさしなどの名文を引いて丁寧に構造を分析し、わかりやすく解説。プロの文章テクニックが身につき、伝わる文章が書けるようになる、まさに「書くための」文章読本。また引用されたバラエティに富む名文で、日本語の美しさや豊かさ、作家の技が堪能できる。実践的でありながら楽しい1冊! ○斎藤美奈子氏(文芸評論家)推薦! 「日本語のお荷物「文末」が、かくもエキサイティングだったとは!」 -
「松本清張」で読む昭和史
時代を超えて、闇は残る 「社会派推理小説」というジャンルを確立した国民的作家・松本清張。格差、差別といったタブーを恐れずテーマとして取り上げる姿勢、地方から中央を相対化する視線により、その作品には昭和という時代の闇が刻印されている。代表作の数々を「鉄道」と「天皇」に注目して読み解き、歴史の暗部に光をあてる。 第一章 格差社会の正体――『点と線』 第二章 高度経済成長の陰に――『砂の器』 第三章 占領期の謎に挑む――『日本の黒い霧』 第四章 青年将校はなぜ暴走したか――『昭和史発掘』 第五章 見えざる宮中の闇――『神々の乱心』 終 章 「平成史」は発掘されるか -
麻酔
1時間ほどで終わる予定の、子宮筋腫の摘出手術を受けた妻・邦子だったが、麻酔のミスが原因で意識が戻らず、植物状態に陥ってしまう……。 医療過誤が原因となり、変わっていく夫婦の在り方、子どもたちとの絆・関係を描き、テレビドラマにもなった渡辺作品の名作。 【著者プロフィール】 1933年北海道生まれ。札幌医科大学卒業後、母校の整形外科講師となり、医療と並行して小説を執筆。1970年『光と影』で第63回直木賞受賞し、本格的に作家活動を開始。1980年『遠き落日』『長崎ロシア遊女館』で第14回吉川英治文学賞を受賞。1997年に刊行された『失楽園』は大きな話題をよび、映画化、テレビドラマ化された。2003年には紫綬褒章受章。著書は『鈍感力』『ひとひらの雪』『化身』『化粧』『孤舟』『うたかた』『花埋み』など多数。 -
杏っ子
生い立ちに数奇な運命をもちながら、文壇に老大家としての地位を築いた作家平山平四郎の生涯と、野性をひそめたその娘杏っ子の生々流転の姿を鮮やかに描く。さまざまな浮き沈みを経た犀星の筆は、父と娘の微妙な情愛と絆を捉え、不幸な結婚にあえぐ杏っ子のなかに女の愛と執念を追究する。人生の底のよどみを苛酷なまでに抉り出し、生涯の情熱を傾けて描ききった自伝的長編小説。 (※本書は10962/6/10に発売し、2022/4/26に電子化をいたしました) -
東京夢幻図絵
昭和初期の「東京」という猥雑で郷愁に満ちた場を舞台に、男女の情愛の果てに起きる悲しくも濃密な事件を、当時の風俗を活写しながら描きだす。鬼才の異色作 -
全国川柳作家集 有鄰
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する、全国川柳作家集シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を一冊ずつ刻む記念シリーズ。 「有鄰」の書名に込められた、人と人との縁を大切にする著者の人生観が全編に息づく。川柳えんぴつ高岡の会会長、川柳えんぴつ社事務局長として地域川柳界を牽引する林進の句集。日々の暮らしから社会問題までを自在に詠み分ける力量は円熟の域に達し、その作品には長年培われた人間理解と豊かな詩情があふれる。平明にして味わい深い表現で、読者を句の世界へ誘う一冊である。 ●収録作品より やんわりと泥を吐かせる妻の笑み フクシマに和らぐ日々はありません 月とじゃれあう露天風呂 満選不要でもポイント欲しく無駄を買う かぐやと歩く夢がある -
全国川柳作家集 君だって花だ
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する、全国川柳作家集シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を一冊ずつ刻む記念シリーズ。 眼科医として地域医療に携わる傍ら、川柳の研鑽を重ねる玉井浩子の句集。日常の一場面から心の深層、さらには科学や医療の最前線までを自在に詠み込む豊かな想像力と繊細な感性が光る。ときにユーモラスに、ときに鋭く人間の本質へ迫りながら、著者の向けるまなざしは人にも自然にも分け隔てなく優しい。読者の心にそっと寄り添う、伸びやかな言葉の花束である。 ●収録作品より 君だって花だがんばれネギ坊主 千年杉の身の上話聞いてみる 転がった荷物追いかけ君と会う 食べてよとこれ見よがしの桃のパフェ 君は知らない私の中の暴風雨 -
全国川柳作家集 人生の詩
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。作者自身による代表句の音声も収録。 退職後に川柳を始め、長年にわたり句作を続けてきた著者の第5句集。老いの実感や身体の変化、夫婦の情、忘れがたい記憶、季節の風景まで、暮らしの一場面を温かな眼差しで描き出す。笑いと寂しさ、過去と現在を行き来しながら、人生の余韻をしみじみと伝える一冊。 ●収録作品より 草むしりできる老後にある至福 歯が無ぇと騒ぐ入れ歯の入れ忘れ この指に止まってくれてありがとう 鈴蘭の静かに揺れて風の音 自粛して気怠い連休の暮らし -
全国川柳作家集 風だって
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。作者自身による代表句の音声も収録。 特別支援学校や小学校の校長を務めた著者が、病と向き合いながら川柳を詠み続ける句集。孤独、家族、記憶、老い、故郷など、人生の折々に感じたことを、静かなユーモアと深い思索で詠み上げる。何処から来て何処へ向かうのかという問いを胸に、風のように自由な視線で世界を見つめた一冊。 ●収録作品より 会いたい人に会いに行く また何か始めたくなる空の色 本当はひとりぼっちが大きらい 缶蹴りの音も昭和に置いてきた 窓開けてそっと自分を入れ換える -
川柳句集 羅針盤 ――ためらいの先へ
著者は川柳・俳句・短歌の垣根を軽やかに越え、ボーダレスに創作活動を展開する短詩型表現愛好家。『羅針盤――ためらいの先へ』は、「川柳とは何か」という問いへの答えではなく、問い続けるための小さな方向感覚を手渡す一冊である。 著者は川柳を、人間と向き合うための「構え」や「態度」と捉え、全72句にその視線を一貫して注いでいる。生きていく中で個人の輪郭が失われていくような違和感や不条理を、身近な物や身体感覚へとそっと置き換える比喩が鮮やかである。 1句1ページの構成がもたらす豊かな余白は、読み手を結論へ急がせず、ふと立ち止まって自分の現在地を確かめる時間を育んでくれる。そんな静かな問いに満ちた句集である。 ●収録作品より 二行目の日記に潜む嘘ひとつ 朝礼で行方不明の一人称 そっと舟押し出すように友の通夜 ポケットに手垢のついた羅針盤 ただ風の気配を待っている余白 -
川柳句集 百歳の笑み(改訂版)
岐阜を拠点に活動する著者が、40年もの長い年月をかけて磨き上げた480句を収録した「百歳の笑み」に加筆修正した改訂版。 「斜光のなかで」「招き猫」「野鳥のしらべ」「へのへのもへじ」の4章構成。割り箸を割る音、新刊を開く感触といった何気ない日常の一コマ、また見落とされがちな季節の移ろいや小さな感動が、著者の研ぎ澄まされた感性で丁寧に拾い上げられている。重くなりがちな「老い」のテーマさえ軽やかなユーモアへと昇華させる著者の視点は、同世代には深い共感を、若い世代には生きる勇気を与えてくれる。本質を捉える確かな眼力で、現代社会の矛盾や世相を軽やかに突く時事川柳も魅力的である。 本書の全編を通じて流れているのは、著者が人生で導き出した川柳賛歌と「生」の肯定である。ページを繰るごとに川柳への親しみが深まり、読者の心を解きほぐすに違いない。巻末の『句集のおわりに』では、著者が長年培った作句の手ほどきを公開している。「想像力を刺激する余白を残すこと」「難しい言葉よりも、誰にでも伝わる言葉を」などの川柳哲学は、これから川柳を始める人へのやさしい指標となり足元を明るく照らすだろう。川柳のエッセンスが凝縮されているため、時間のない現代人にもピッタリである。老若男女問わず、人生の同伴者として繰り返し読みたくなる一書。 割り箸の軽く馳走のする香り 新刊のミリッと本を開く良さ 百歳を祝う写真に笑むばかり 日めくりの大吉らしき明日透けて 封切らず旨い酒だと自慢する 百生きりゃ百の苦労も笑いだす 寝る前に感謝を込めて消す明かり -
全国川柳作家集 ムンクよ
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。 数々の川柳大会で入賞を重ねる実力作家であり、青森県を拠点とする「おかじょうき川柳社」代表を務める、むさしの句集。既成の川柳の枠にとどまらない奔放な発想力で、日常の身体感覚、雪国の風景、原発、戦争など幅広いテーマを自在に詠む。ミサイルやウルトラマンなど多彩な句材を軽やかに取り込み、現実と幻想の境を揺さぶりながら、新しい川柳の可能性を鮮やかに示す一冊である。 ●収録作品より ムンクよ写楽よカモメは空のどこで死ぬ 白鳥もミサイルも飛ぶ青い空 生きていることも錯覚なのですね 前例がなんだ雪ダルマは走る ミサイルはいらない桃をひとつくれ -
全国川柳作家集 心織・心耕
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。 熊本県を拠点に活動する村上和巳の句集。自己の内面を「経糸」、社会との関わりを「緯糸」として、人生、病、老い、家族、死、戦争、平和までを十七音に織り込む。哲学や文学の気配、日常の言葉、時事へのまなざしを交差させながら、巧みな比喩と知的なユーモアで、人間と時代のありようを浮かび上がらせる一冊である。 ●収録作品より 夕焼けが私好みの色に焼け 生きようと思う理由がたんとある 風が舞う火が舞う阿蘇は時も舞う 女々しいが雄々しい戦より平和 許すという鮮やかな敵討ち -
全国川柳作家集 猫のシッポ
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。 北海道を拠点に活動する鈴木厚子の句集。心象風景としての月や雪、夫婦、愛猫、老いと長寿まで、暮らしの実感を幅広く詠む。女の本音と可笑しみをまっすぐにすくい上げる語り口には、北の大地の風を思わせる軽やかな気風と、タフでしなやかな行動力が息づく。歩んできた人生を軽やかに受け止め、猫のシッポのように凜と前を向く一冊である。 ●収録作品より お静かにゆるーり沈むカフェの椅子 月光を浴びた水から語り出す 空気になれず他人になれずまだ夫婦 モンローウォーク猫のシッポがピンと立ち 生きてます笑っています泣いてます -
全国川柳作家集 原色の過去
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。 北海道を活動拠点とする沼澤閑の句集。原発、核、戦争、温暖化、難民など現代社会の危機を見据え、政治や制度の矛盾を川柳ならではの穿ちで浮かび上がらせる。散歩、読書、孫、猫、食卓といった暮らしの細部にも温かな目を配り、過去の記憶と今の時代を鮮やかに照らし出す一冊である。作者自身による代表句の音声も収録。 ●収録作品より 蠢く原発主語のない責任 今日もまた森林火災温暖化 ちちをかえせははをかえせ八月忌 ガザの火をプーチン小手をかざし見る お互いの笑顔が薬老いふたり -
全国川柳作家集 魔のボレロ
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。作者自身による代表句の音声も収録。 稲沢ひろせの句集は、恋の熱情や嫉妬、孤独を率直に見つめ、女性の内面に揺れる情念を鮮やかに詠み上げる。年齢を重ねる実感、病や死、復興、戦争、地球環境にも目を向けながら、魔女、ボレロ、月、酒などの印象的なモチーフを自在に配し、愛と生の危うさを、現代を生きる女性の感性でしなやかに大胆に刻む。 ●収録作品より 日常を捨てておいでと魔のボレロ 一途な恋静かに狂う薄月夜 どん底で光って見えたのは希望 復興の街で未来と巡り合う 病む地球CTスキャンしてみるか -
全国川柳作家集 こころの調べ
月刊『川柳マガジン』300号を記念して刊行する「全国川柳作家集」シリーズ。川柳界を牽引してきた重鎮から、明日を担う次世代の俊英まで、現代川柳の多彩な担い手が一堂に会する。人間と社会、日々の喜怒哀楽を映す十七音から、作家それぞれの歩み、個性、時代へのまなざしが立ち上がる。川柳270年の歴史を受け継ぎながら、新たな表現へ向かう現代作家の現在地を刻む記念シリーズ。作者自身による代表句の音声も収録。 川柳界で活躍の幅を広げている千葉県在住の渡辺柳山の第2句集。川柳と音楽と映像を愛する著者は、その鋭い感受性で、人の心の揺れや家族の情景、環境問題から政治、戦争まで幅広い題材を自在に詠む。人への温かな視線を忘れず、日常の機微と時代の空気を五七五に映し出す句集である。作者自身による代表句の音声も収録。 ●収録作品より 七夕の願いごとまで五七五 川柳の学び尽くせぬ奥深さ 今日もまた森林火災温暖化 一目惚れ鼓動高鳴り不整脈 笑うたび世界が少し丸くなる