集英社文庫作品一覧

  • 怒りのブレイクスルー
    3.2
    【祝!ノーベル物理学賞受賞!!】四国の小さな蛍光体の製造会社に就職し、単身挑んだのが、夢の技術といわれる高輝度青色LEDの開発と製品化だった。社内の強い反発と度重なる失敗の中、ついに開発が実現したLEDの光こそ、21世紀を目前にした世界が注目する科学の成果だった。世界で認められながら社内では認められない現実に失望し、さらなる研究のために渡米する。注目の200億円裁判の真相を付記。
  • 東京観光
    3.8
    アパートの水漏れがきっかけで、下の階に住む男と親しくなったあかり。男はある日、奇妙な相談を持ちかける。「俺と、部屋を交換しない?」(「天井の刺青」)。街のあちこちに灰色の公衆電話が存在していた、あの時代。初めて東京を訪れた私が泊まったホテルの部屋には、なぜか外国人女性が住んでいて……(「東京観光」)。不思議で、ユーモラスで、じんわり染みる。直木賞作家が贈る、味わい深い七つの物語。
  • 新装版 ソウルの練習問題
    4.6
    一九八〇年代はじめ、一人の青年が、「近くて遠い」と言われた国を旅した。彼はその国の言葉を学び、街を歩き、そして恋をした――。「先進国化」以前のソウルの街区とそこに暮らす素顔の韓国人を活写し、それまでの紋切り型の報道や、卑屈と尊大を往復するだけだった日本人の韓国観を劇的に変えた紀行文学の歴史的傑作。異文化へのみずみずしく確かな視座は、今なお色褪せない。
  • 床屋さんへちょっと
    3.9
    「あたし今度、自分で店、開くんだ」。海外出張先への国際電話で娘に告げられ、宍倉勲は絶句した。就職したばかりの大手企業をすぐ辞めてしまったと思ったら、今度は何を言い出すのか――(「マスターと呼ばれた男」)。時に社長として、時にヒラ社員として、誠実に働き続けてきた男。彼と娘との関係、家族の歴史を時をさかのぼりながら描く連作長編。
  • 全日本食えばわかる図鑑
    3.0
    「北の演歌か、ウニ、ホヤ丼、あつあつオコゲの母恋し、拍手パチパチB級野菜の精進揚げ、正調びちゃびちゃコロッケライス、ソーメンの現状と今後の問題点」などなど。当世流行るグルメとはキビシク一線を画す、正しい高級質素料理とは何か!? 北から南から、町の食堂、家の台所、はては野外の焚火囲みから、選りすぐった50の美味について。シーナ流極私的何でもかんでもうまいもの文化論(エッセイ)。
  • 義珍の拳(琉球空手シリーズ)
    4.2
    時は明治。琉球の下級士族の家に生まれた富名腰義珍は、生来の病弱を克服するために門外不出の秘伝であった唐手を学びはじめる。ひたすら同じ型を練り続ける日々の中で義珍の心身は強靱になり、修行にのめり込んでいく。そして時は移り、教育者となった義珍は、唐手を青少年の育成に役立て、古伝の精神を本土に普及させることを決意する。琉球秘伝の「唐手」を極め、本土に「空手」を伝えた男の生涯。
  • アガルタ 上巻
    3.5
    伊賀には表と裏がある。八劔なる裏伊賀の忍者たちは、血を掛け合わせて人材を生み出す謎の集団。元和5年、八劔に美しく能力を備えた赤子・錏娥哢〓(あがるた)が誕生する。忍びの技を修練し、見目も麗しく成長。いくつかの旅で男たちと交わり、ますます妖しく輝きを放つ。寛永14年、錏娥哢〓(あがるた)は天草四郎時貞を追って島原に潜入する。島原の乱異聞ともいうべき、破天荒、前代未聞の忍者小説、ここに見参!
  • バナールな現象
    4.5
    1991年1月17日、湾岸戦争が始まった。砂漠の戦場から遠く離れた東京の郊外で、妻の出産を待つ大学講師・木苺の凡庸な日常に突然、暗黒の陥穽が口を開く。モーセのトーラー、鴉、理不尽な暴力の予感、そして改竄される歴史。様々な謎が顕在し、現実は虚構に侵蝕されてゆく。あの日を境にして世界は変わってしまったのか? 21世紀の今日に鮮烈に屹立する、戦争と狂気の時代を黙示した問題作。
  • 薔薇窓の闇 上
    3.5
    1~2巻693~792円 (税込)
    1900年、万国博覧会で賑わうパリ。精神科医のラゼーグは警察に保護された少女を診察する。日本人らしき彼女は音奴と名乗るほかは多くを語ろうとしない。一方でラゼーグの元に、万国博を訪れた外国人女性の連続失踪事件の知らせが届く。事件解決に協力するよう要請されるラゼーグだったが、行く先々で謎の馬車に見張られていることに気付き――。異国の地を舞台とした傑作長編サスペンス。
  • 風転 上
    -
    1~3巻715円 (税込)
    大学受験に失敗した諸口ヒカルは、有名作家である父親に抑圧され、鬱屈した日々を送っていた。恋人の萌子とオートバイだけが救いだった。しかし、萌子が妊娠してしまい、追い打ちをかけるように、父の盗作事件が発覚する。そして、ついにヒカルの鬱屈は臨界点を超えてしまうのだった……。風に吹かれて、転がって、痛いほどに純粋な青春が鉄馬に乗って、走り出す。行く先は、再生か破滅か?
  • 【語注付】明暗(漱石コレクション)
    4.0
    何不自由ない新婚生活を送っているかに見える津田とお延。実は手元不如意の上、津田は持病に悩まされている。津田のかつての恋人・清子の存在が夫婦の生活に影を落としはじめ、漠然とした不安を抱く二人。自らの善意を疑わず彼らに近づいてくる吉川夫人や津田の妹・お秀、始終厄介事を持ち込む友人・小林など一人ひとりのエゴがせめぎあう。複雑な人間模様を克明に描く、漱石の絶筆にして未完の大作。語注付。
  • 相剋の森
    3.9
    1~2巻825円 (税込)
    「山は半分殺してちょうどいい――」現代の狩人であるマタギを取材していた編集者・美佐子は動物写真家の吉本から教えられたその言葉に衝撃を受ける。山を殺すとは何を意味するのか? 人間はなぜ他の生き物を殺すのか? 果たして自然との真の共生とは可能なのか――。直木賞・山本賞受賞作『邂逅の森』に連なる「森」シリーズの第一弾。大自然と対峙する人間たちを描いて感動を呼ぶ傑作長編。
  • マルコの夢
    3.5
    大学を出たが就職の決まらない一馬。姉に呼ばれてパリに渡り、ふとしたことから三つ星レストランでキノコの管理を任される。ある日オーナーから、店の名物料理に使う「マルコ」という日本原産のキノコの買い付けを命じられた。パリではこの店だけで食べられる極上のものだ。早速日本に飛んだ一馬だったが、思いもよらない事実を知ることに――。魅惑のキノコをめぐる、奇想天外な物語。
  • そろそろくる
    3.6
    「泥棒?」アパートに入ると、仕事道具の紙や画材が散らばり、キッチンは卵の殻がへばりついている。自分でやったこととわかっているが、それにしても……。生理前に必ず陥るこのパターン。イライラしたり落ち込んだり。でもこれもやっぱり自分なのだ――。彼や友人たちの理解を得ながら、生理を通して、自分を見つめなおしていく秀子。PMS(月経前症候群)と格闘する30代の女性を軽快に描く。
  • 漢方小説
    3.9
    【第28回すばる文学賞受賞作】川波みのり、31歳、脚本家、独身。胃がひっくり返ったようになるのに、眠れないのに、病院に行って検査をすると『特に異状なし』。あのつらさは何? 昔の男が結婚したショックのせい? それとも仕事のストレス? 最終的にたどりついた東洋医学で、生薬の香りに包まれながら、みのりが得たものは。心と体、そして人間関係のバランスを、軽妙なテンポで書き綴る。仕事も、恋愛も、なんとなく疲れちゃった…。大丈夫! そんなときの処方箋。
  • 麦酒主義の構造とその応用胃学
    4.0
    “ビール命”の著者は「泡仕掛け人間の考えているしょうもないことをつづっただけの本」などとケンソンしているが、信じないほうがよい。怪しき想念とともに、哲学的考察や文明批評も挿入された、笑えるけど油断のならぬエッセイ集。過激な刺身ファンの心境と体験を語った「刺身偏愛」から、キョーフの大腸検査の顛末「怪しいケツメド探検隊」まで全12章。現代版『草枕』を思わせる作品もあるのだ。
  • かつをぶしの時代なのだ
    3.7
    かつをぶしに偏愛をささげて40年。だし汁の味はもちろん削った時の、薄桃色の優しく艶やかなひとひらふたひら。男らしい語感、凛々しいお姿。全面的にかつをぶしをお慕いする、シーナの拘りよじれる愛と真実のかつをぶし人生。他に、蚊とり線香とラーメン丼のグルグル渦巻きの検証と考察。魔法瓶と大相撲の相関関係。ニクタイ疲労時およびオトコの武器についてetc、シーナの始まり的エッセイ集。
  • 昭和時代回想
    3.0
    かつて、この国には「昭和」という時代があった。そして「戦後」や「高度成長」という風景も。敗戦後の発展途上国から自意識に悩む中進国、そして虚栄に踊る先進国へとつき進んだ数十年間。いま日本に生きるわれわれの大多数が生まれ育ってきた、あの長い昭和時代とは果たして何だったのか。希代の名文家が、過ぎ去った忘れ得ぬものたちへのほろ苦い思いを込めて描き出す珠玉のエッセイ集。
  • 女流 林芙美子と有吉佐和子
    4.0
    『放浪記』で戦前の文壇に登場し、一躍時代の寵児となり、戦後に怒涛のように作品を生み出して彗星のように去った林芙美子。高度経済成長とともに早熟な才女としてデビューし、『恍惚の人』『複合汚染』などで流行作家となった有吉佐和子。二人の「女流」作家が駆け抜けるように生きたそれぞれの「昭和」とはどんな時代だったのか……。過剰なまでに個性的で生命力にあふれた人間像を鮮やかに描く。
  • オロロ畑でつかまえて
    3.5
    1~2巻495~605円 (税込)
    【第10回小説すばる新人賞受賞作】人口わずか三百人。主な産物はカンピョウ、ヘラチョンペ、オロロ豆。超過疎化にあえぐ日本の秘境・大牛郡牛穴村が、村の起死回生を賭けて立ち上がった! ところが手を組んだ相手は倒産寸前のプロダクション、ユニバーサル広告社。この最弱タッグによる、やぶれかぶれの村おこし大作戦『牛穴村 新発売キャンペーン』が、今始まる――。ユーモア小説の傑作。
  • ベーコン
    3.6
    初めてだった。男から、そんな目で見つめられたのは――。家族を置いて家を出た母が死んだ。葬式で母の恋人と出会った「私」は、男の視線につき動かされ、彼の家へ通い始める。男が作ったベーコンを食べたとき、強い衝動に襲われ……表題作ほか、人の心の奥にひそむ濃密な愛と官能を、食べることに絡めて描いた短編集。単行本未収録の「トナカイサラミ」を含む、胸にせまる10の物語。
  • ニコニコ時給800円
    3.7
    仕事を失い、酒に酔った夜。20歳のリンコは河原で野宿する謎の美青年リュウセイに出会う。楽してお金が欲しいというリンコに、彼が紹介した奇妙な仕事、それはこれまでの労働の概念を変えるものだった。自称ヒキオタニートのリュウセイに振り回されっぱなしのリンコだったが、彼には驚くべき秘密が――。漫画喫茶、アパレルショップ、IT業界など、時給800円で頑張る人々を描く連作短編集。
  • 祈りの朝
    3.0
    高校教師の安優海は、臨月を迎え産休中。大学研究職の夫が寝言で女性の名前をつぶやき、浮気を疑い始める。研究室の女性ではと疑心暗鬼になり、定期健診の後、夫の職場に向かおうとするが……。同僚教師の傷害事件を知らされたり、卒業生と偶然再会したり、予測不可能な事態が次々に起こり……。東日本大震災からの再生と家族の希望を描く。心揺さぶる衝撃の問題作。
  • フィルム旅芸人の記録
    4.5
    映画「うみ・そら・さんごのいいつたえ」の製作・興行全記録。サンゴの美しい石垣島白保の真夏。情熱のクランクインから始まる悶絶の撮影の日々。そして静かにのたうち回るフィルム編集を経て完成。初めての上映会。やがてコンバット・ツアーと命名した全国巡業のフィルムかつぎ旅。とうとうやった! 銀座凱旋ロードショー。映画を愛する男たちのときめきと感動と発見の一年。完全ドキュメント。
  • 「世界」とはいやなものである――東アジア現代史の旅
    4.3
    東アジアは日本をより深く知るための反射板になる――。韓国、北朝鮮、極東ロシア、ベトナム、そして巨大で多様な中国。職業的観察者たる著者が歩き、見つめた二十世紀末から二十一世紀にかけての東アジアの大地。そこに息づく社会と人々、そして積み重なる歴史。冷戦は終結し、ソ連は消滅し、9・11があり、いまも世界は変わり続けている。明晰な視点でわれらの時代を語る、傑作紀行文集。
  • 千年樹
    3.5
    東下りの国司が襲われ、妻子と山中を逃げる。そこへ、くすの実が落ちて――。いじめに遭う中学生の雅也が巨樹の下で……「萌芽」。園児たちが、木の下にタイムカプセルを埋めようとして見つけたガラス瓶。そこに秘められた戦争の悲劇「瓶詰の約束」。祖母が戦時中に受け取った手紙に孫娘は…「バァバの石段」など。人間たちの木をめぐるドラマが、時代を超えて交錯し、切なさが胸に迫る連作短編集。
  • さよならバースディ
    3.6
    霊長類研究センター。猿(ボノボ)のバースディに言語習得実験を行っている。プロジェクトの創始者安達助教授は一年前に自殺したが、助手の田中真と大学院生の由紀が研究を継いだ。実験は着実に成果をあげてきた。だが、真が由紀にプロポーズをした夜、彼女は窓から身を投げる。真は、目撃したバースディから、真相を聞き出そうと…。愛を失う哀しみと、学会の不条理に翻弄される研究者を描く、長編ミステリー。
  • A3 上
    4.2
    【第33回講談社ノンフィクション賞受賞作】判決の日、東京地裁で初めて完全に「壊れている」麻原を見た著者は愕然とする。明らかに異常な裁判に、誰も声をあげようとしない。麻原彰晃とその側近たちを死刑にすることで、すべてを忘れようとしているかのようだ―戦後最凶最悪と言われたオウム事件によって変わってしまった日本。麻原とオウムを探り、日本社会の深層を浮き彫りにする。
  • そこへ行くな
    3.5
    【第6回中央公論文芸賞受賞作】一緒に暮らす純一郎さんは、やさしい人だ。出張が多くて不在がちだけれど、一人息子の太郎をよく可愛がっている。じゅうぶんに幸せな親子三人の暮らしに、ある日「川野純一郎の本当のことを教えます」と告げる女から電話が舞い込み――(「遊園地」)。行ってはならない、見てはならない「真実」に引き寄せられ、平穏な日常から足を踏み外す男女を描いた七つの物語。
  • 韃靼の馬 上
    5.0
    【第15回司馬遼太郎賞受賞作】正徳元年(1711)、徳川幕府は29年ぶりに朝鮮通信使を迎える運びとなった。対馬藩士、阿比留克人(あびるかつんど)は通信使の警固を務める傍ら、ある極秘任務を請け負う。監察御史の柳成一(ユソンイル)、旅芸人のリョンハンらを含む通信使一行は、対馬上陸から大坂、名古屋を経て江戸へ。道中、柳は克人の行動を不審に思い監視を始めるが……。世界を股にかけて活躍した男たちを描く歴史巨編。
  • 葦と百合
    3.5
    現代文明を捨て、自然との共生をめざしたコミューン運動「葦の会」。学生時代に参加し、十五年ぶりに再訪した医師・式根を待っていたのは、ブナの森深く、荒廃した無人の入植地跡だった――。理想社会を夢見て残ったはずの恋人と友人はどこへ消えたのか? そこで起こった怪死事件は果たして事故か。それとも森に潜む「誰か」が殺したのか? ミステリーとメタフィクションの完全なる融合。
  • 東京大学で世界文学を学ぶ
    3.7
    小説はいつの時代も、いたるところで書かれてきた。古くは神話から始まり聖書へ、日本では漢語の輸入から文学の成熟へ。『ドン・キホーテ』、『ボヴァリー夫人』、『白痴』など、世界の名作を細部まで読み解き、物語の歴史を考察することで、小説の誕生からその構造や手法、作品同士の繋がりまでを面白く丁寧に解説する。現役東大生が熱中した特別講義を完全収録した究極の“世界文学”読本。
  • 許されざる者 上
    4.2
    【第51回毎日芸術賞受賞作】紀伊半島は熊野川の河口に位置する街、森宮。医者の槇隆光は貧しい者から治療費を取らないことから親しみを込めて“毒取ル先生”と呼ばれていた。ときは1903年、豊かな自然のなかで暮らす槇たちの周りには鉄道敷設や遊郭設置などの問題が起こり、一方で日露戦争開戦の足音がすぐそこに迫っていた――。歴史上の人物に材を取り、当時の情勢と熊野の人々を瑞々しく描いた第51回毎日芸術賞受賞作。
  • 鳥類学者のファンタジア
    4.0
    「フォギー」ことジャズ・ピアニストの池永希梨子は演奏中に不思議な感覚にとらわれた。柱の陰に誰かいる……。それが、時空を超える大冒険旅行の始まりだった。謎の音階が引き起こす超常現象に導かれ、フォギーはナチス支配下、1944年のドイツへとタイムスリップしてしまう――。めくるめく物語とジャズの魅力に満ちた、ファンタジー巨編。
  • いちご同盟
    3.9
    中学三年生の良一は、同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知る。徹也は対抗試合に全力を尽くして直美を力づけ、良一もよい話し相手になって彼女を慰める。ある日、直美が突然良一に言った。「あたしと、心中しない?」ガラス細工のように繊細な少年の日の恋愛と友情、生と死をリリカルに描いた長篇。
  • ウエンカムイの爪
    3.2
    【第10回小説すばる新人賞受賞作】――殺られる! 死んだふりをしても無駄だ。食われてしまう……。北海道で撮影旅行中の動物写真家・吉本はある日、巨大なヒグマに襲われ、九死に一生を得る。彼を救ったのは、クマを自在に操る不思議な能力を持つ謎の女だった。その女を捜し求める吉本が見たものとは? 野性と人間の壮絶な闘いを通して、生命の尊厳と自立を描いた傑作。
  • お縫い子テルミー
    3.8
    依頼主の家に住み込み、服を仕立てる「流しのお縫い子」として生きる、テルミーこと照美。生まれ育った島をあとにして歌舞伎町を目指したのは十五歳のとき。彼女はそこで、女装の歌手・シナイちゃんに恋をする――。叶わぬ恋とともに生きる、自由な魂を描いた第129回芥川龍之介賞候補の表題作。アルバイトをして「ひと夏の経験」を買う小学五年生、小松君のとぼけた夏休みをつづる『ABARE・DAICO』収録。
  • 白い手
    3.4
    親分格のヒロミツ。括約筋の働きが悪い松井。コロッケ屋の息子・神田パッチン。そして思い出しても“しん”とした気持になる〈白い手〉の女の子。海がひかり、風がおどり、森がさわいでいたあの頃。歩いていく先すべての風景が優しくするどく輝き、いつも何かがキラキラしていた少年たちの黄金時代。シーナとその仲間たちがくりひろげる、冒険と試練と友情の物語。
  • 吸血鬼愛好会へようこそ(吸血鬼はお年ごろシリーズ)
    -
    エリカが通う大学のサークルに〈吸血鬼愛好会〉という団体があるという。入会資格は「夜中に、若く美しい女性を吸血鬼の格好でおどかして、気絶させること」。でも、誰がメンバーなのか、どこに部室があるのか、その正体を知る者はいない。そんなある日、若い女性がのどを切り裂かれ殺されて……!? クロロックとエリカの活躍が始まる――!! 表題作のほか、『吸血鬼は鏡のごとく』、『吸血鬼に向かって走れ』を収録。大好評「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ、第11弾!
  • オテル モル
    4.0
    「悪夢は悪魔」の合言葉のもと運営される会員制地下ホテルで働きはじめた希里。「最高の眠りと最良の夢」を提供すべく「誘眠顔」である彼女の奮闘が続く。リハビリ施設に入院中の双子の妹に代わり、小学生の姪と、かつて恋人であった義理の弟とともに暮らす希里が働き始めたのをきっかけに、彼ら三人にも変化がみえてきたころ、妹の沙衣の退院が決まる。直後、事件は起きてしまう――。
  • 道草(漱石コレクション)
    4.5
    小雨降るある日、健三は勤め帰りに思いがけない人物を見かける。それはかつての養父・島田で、海外留学から戻り大学教師となった健三から、何がしかの援助を得ようと十数年の時を経て近づいてきたのだ。島田、島田の先妻・お常、姉・お夏、妻・お住の父。困窮する係累にあてにされ、神経症気味の妻とも気持ちがすれ違う。永遠に「片付かない」日常の苦悩を描いた自伝小説ともいえる家族の物語。語注・年譜付き。
  • 湖底から来た吸血鬼(吸血鬼はお年ごろシリーズ)
    -
    ダムができて湖に沈んだ村――のはずが、5年後に雨不足で村は再びその姿を現した。「それ」は墓の下からよみがえり、血を必要としていた…。そして、若い女が失血死したのだった。一方、ひょんなことからこの事件に遭遇したエリカとクロロックは同じ吸血鬼一族の存在を感じていた。そんなとき常田加奈子という少女が現れ、やがて第二の殺人が起こって――!? 『吸血鬼はお年ごろ』シリーズ第10弾!!
  • ハミザベス
    3.8
    【第26回すばる文学賞受賞作】はたちの誕生日を前に、死んだと思っていた父が本当に死んだらしい。マンションを一部屋とハムスターを遺産として受け取った、まちる。母と暮らした家を出て、地上33階で静かに重ねる日常。元恋人の幼なじみや、父の同居人だった女性との不思議な関係と友情……。不器用なやさしさをユーモアでくるみ、流れる会話でつむぐ、新しい小説世界。注目作家のデビュー作ほか『豆姉妹』収録。
  • おじさんはなぜ時代小説が好きか
    4.2
    時代小説とは何か? 司馬遼太郎、藤沢周平ら多くの作家が活躍し、名作が書かれた昭和。作品が舞台とする江戸時代。高度経済成長期の「会社」生活に一喜一憂した昭和のサラリーマン達が自らを仮託した下級武士達と、経済成長なきユートピアとしての「藩」。それぞれの時代と社会を詳細に読み解き、日本人にとって時代小説が持つ意味をわかりやすく語る。おじさんも歴女も目からウロコが落ちる必読書。
  • 寡黙なる巨人
    4.3
    【第7回小林秀雄賞受賞作】国際的な免疫学者であり、能の創作や美術への造詣の深さでも知られた著者。01年に脳梗塞で倒れ、右半身麻痺や言語障害が残った。だが、強靭な精神で、深い絶望の淵から這い上がる。リハビリを続け、真剣に意識的に〈生きる〉うち、昔の自分の回復ではなく、内なる「新しい人」の目覚めを実感。充実した人生の輝きを放つ見事な再生を、全身全霊で綴った壮絶な闘病記と日々の思索。
  • 永遠の放課後
    3.6
    大学生の「ぼく」は、中学の頃から親友の恋人・紗英に想いを寄せていた。しかし、親友を傷つけたくなくて、気持ちを告げることができない。そんな中、プロの歌手だった父譲りの才能を買われ、活動休止中の人気バンドのボーカルにスカウトされる。そして、ライブに紗英を招待した夜、恋は思わぬ方向へと動き始めた――。友情と恋。「ぼく」が最後に選んだものは? 胸を打つ青春小説。
  • 春画
    4.3
    母が逝き、「私」宛てに古びた春画が遺された。旅先の小さな島で、その奇妙な絵を眺めながら、後妻であった母の人生を想う――。親を見送り、子供たちは巣立ち、再び始まった夫婦二人きりの生活。家族が共に過ごした、かけがえのない日々をふり返り、流れゆく時のうつろいをつづる静かな私小説。
  • 菜の花物語
    3.8
    “春になれば……”みんなそんな想いを抱いて、吹きつけるそれぞれの人生の風の中にいた―。旅する空に、休息の夜に、喧噪の都会に、椎名誠のかたわらを通り過ぎていった女たち。遥か少年の日のおぼろ月夜に咲く、菜の花の記憶が、出会い別れた女たちとの思い出とクロスしてオトコのたしかな人生を浮き彫りにする。哀しくて、やがてアカルイ、11のしみじみ私小説。
  • 九州新幹線「つばめ」誘拐事件(十津川警部シリーズ)
    -
    九州新幹線「つばめ」車内で幼児が誘拐された。犯人は、幼児の父親が勤務する製薬会社で開発中の新薬の化学式とサンプルを要求。犯人の指示に従うと、幼児は無事解放され、不思議なことに持ち出した化学式などが研究室に戻っていた。さらに、容疑者らしき女性が死体で発見され……。連続する誘拐に隠された壮大な犯罪計画とは!? 難事件に挑む十津川警部の名推理。長編トラベルミステリー。
  • 十津川警部 秩父SL・三月二十七日の証言(十津川警部シリーズ)
    2.0
    消費者金融の元社長で資産家の秋山夫妻が殺害された。十津川警部は、秋山に恨みを抱いていたという漫画家の戸川を逮捕する。だが、事件当日に秩父SLの車中で戸川を目撃したと書かれた旅行作家のエッセイを発見。否認を続ける戸川の犯行を裏付けるため、極秘に再捜査を始めるが……。SL乗車中の犯罪! 鉄壁のアリバイの難事件に挑む十津川警部。秩父鉄道パレオエクスプレスを巡る旅情ミステリー。
  • 夜の朝顔
    3.8
    クラスメイトは6年間一緒。刺激のない田舎に住む小学生のセンリだが、気になることは山積みだ。身体の弱い妹への戸惑い。いじめられっ子への苛立ちと後ろめたさ。好きな男の子の話題で盛り上がる女子の輪に入れない自分。そして悔しさの中、初めて自覚した恋心――。子どもだって単純じゃない。思春期の入り口に至る少女の成長過程を繊細にすくいあげた、懐かしく、胸の痛みを誘う物語。
  • 春楡の木陰で
    5.0
    世界的免疫学者である著者が、初の留学で住んだ1960年代のデンバー。下宿先の老夫婦との交流、ダウンタウンのバーに通って知った豊かなだけではない米国の現実。戦争花嫁だったチエコとの出会いと30年に及ぶ親交。懐かしくもほろ苦い若き日々――。回想の魔術が、青春の黄金の時を思い出させる。そして脳梗塞となって、その重い病との闘いのなかから生まれる珠玉の言葉。自伝的エッセイ。
  • はるさきのへび
    4.0
    26歳の平凡なサラリーマンの、妻以外の女性との、ちょっとドキドキする出会いと、アヤシク微妙な心の動きをとらえた「階段の上の海」。赤ちゃん誕生と育児を、新米ママの視点で描く「海ちゃん、おはよう」。娘の成長を見守る父親の心と家族のエピソードをちりばめた「娘と私」。冬眠から目覚めたばかりのへびのように、のんびり、でもそわそわする人生の一時期を温かいタッチで綴る私小説3編。
  • 草の記憶
    4.0
    昭和30年代。舞台は海と山に囲まれた小さな町。小五になるぼくは、毎日、自然の中で小さな冒険を繰り返している。仲間は神田パッチン、遠田ガチャ丸、タタミ屋のいち六、及川のデブ。夏休みになった日、5人は学校で立ち入りを禁止された川の上流を目指すが……。けんけん鬼、井戸ポンプ、プロレス中継、LPプレイヤー、『おもしろブック』など懐かしい昭和の風物の中で語られる熱く元気な青春小説。
  • 麦の道
    3.8
    津田尚介は、県立高校の受験に失敗し、創立2年目の“落ちこぼれ救済”の市立高校に滑り込む。最初は「まあいいやどうだって……」とすべてに醒めていた尚介だったが、親友ができ、打ち込めるスポーツをみつけ、気になる女学生が現れ、しかも喧嘩相手には事欠かず――と、その高校生活は徐々に熱くなって行く。喧嘩と柔道に明け暮れた高校時代を、パワフル&爽やかに描く、自伝的熱血青春小説。
  • 安閑園の食卓 私の台南物語
    4.3
    台湾の古い街、台南の郊外にたたずむ広大な屋敷「安閑園」。緑豊かな庭園と季節の実りをもたらす果樹園や野菜畑。そして母たちが腕をふるう彩りあふれる日々の食卓の風景。1930年代の台湾で生まれ、この安閑園に育った著者が、子供時代の食の記憶を丹念に書き綴る。大家族のにぎわいと料理の音や匂いが鮮やかに立ちのぼり、人生の細部を愛することの歓びが心に響く幻の名エッセイ。
  • モビィ・ドール
    4.0
    東京から南へ二百二十キロ。太平洋に浮かぶ巌倉島は、イルカの棲む島として知られている。平和なこの小島で、動物行動学者・比嘉涼子は環境保護NPOの一員として、イルカの生態調査に従事していた。だがその平穏な日々は、突然出現したシャチの群に破られる。島のイルカたちを救うために、一頭のシャチ=モビィ・ドールへの追跡が始まった……。海に生きる生命を鮮やかに描く海洋小説の傑作。
  • 荒蝦夷
    3.6
    宝亀五(西暦七七四)年、陸奥国の北辺には不穏な火種がくすぶっていた。陸奥を支配せんと着々と迫り来る大和朝廷。そして、その支配に帰属する、あるいは抵抗する北の民、蝦夷。動乱の地に押し寄せる大和の軍勢の前にひとりの荒蝦夷が立ちはだかった。その名は呰麻呂(あざまろ)。彼が仕掛ける虚々実々の駆け引きの果て、激突の朝が迫る――。古代東北に繰り広げられる服わざるものたちの叙事詩。
  • 山背郷
    3.8
    「山背」とは初夏の東北地方に吹く冷たい風のことをいう。その山背が渡る大地で様々な厳しい営みを続け、誇り高く生きる男たち。マタギ、漁師、川船乗り、潜水夫……。大自然と共生し、時に対峙しながら、愛する家族のために闘う彼らの肖像を鮮やかに描き、現代人が忘れかけた「生」の豊饒さと力強さを謳う九編の物語。作家の原点が凝縮された傑作短編集。
  • 春のソナタ
    3.9
    聡明で、魅力的な表情の女性だ――17歳の直樹が年上の早苗に抱いた第一印象である。高校生のバイオリニストの直樹は、音楽を愛しながらも、ピアニストの父と同じ道を進むことをためらう。そんなある時、美貌の早苗に出会った。その時から彼の生活に明らかな変化が起きる。高校生の愛と自立、人生の試練を流麗に描く青春小説。
  • 現代短歌 そのこころみ
    4.3
    一九五三年、斎藤茂吉と釈迢空という日本短歌界の二大巨星が墜ちた。翌年、一人の短歌雑誌編集者が発想した企画によって新しい才能が発見される。編集者の名は中井英夫。見いだされた新人は中城ふみ子と寺山修司。その時から現代短歌のこころみの歴史がはじまった――。戦後の日本語表現中で異彩を放つ短歌という文芸ジャンル、その半世紀にわたる挑戦と歌人群像を斬新な視点から描く。
  • 漂泊の牙
    3.6
    【第19回新田次郎文学賞受賞作】雪深い東北の山奥で、主婦が野犬とおぼしき野獣に喰い殺されるという凄惨な事件が起きた。現場付近では、絶滅したはずのオオカミを目撃したという噂が流れる。果たして「犯人」は生きのびたニホンオオカミなのか? やがて、次々と血に飢えた謎の獣による犠牲者が…。愛妻を殺された動物学者・城島の必死の追跡が始まる。獣と人間の壮絶な闘いを描き、第19回新田次郎文学賞を受賞した傑作冒険小説。
  • あいにくの雨で
    3.9
    町に初雪が降った日、廃墟の塔で男が殺害された。雪の上に残された足跡は、塔に向かう一筋だけ。殺されたのは、発見者の高校生・祐今(うこん)の父親だった。8年前に同じ塔で、離婚した妻を殺した疑いを持たれ、失踪していた。母も父も失った祐今を案じ、親友の烏兎(うと)と獅子丸は犯人を探し始める。そんな彼らをあざ笑うように、町では次の悲劇が起こり――。衝撃の真相が待ち受ける、青春本格ミステリ。
  • まほろばの疾風
    3.9
    時は八世紀末。東北には、大和朝廷に服従しない誇り高い人々がいた。かれら蝦夷は農耕のために土地に縛られるのではなく、森の恵みを受け大自然と共生しながら自由に暮らしていた。だが、その平和も大和軍の侵攻によって破られる。そして、一人の男が蝦夷の独立を賭け、強大な侵略者に敢然と戦いを挑んだ。彼の名はアテルイ。北の森を疾風のように駆け抜けた英雄の生涯を描く壮大な叙事詩。
  • リタとマッサン
    3.8
    リタは、婚約者を第一次世界大戦で亡くし、医者だった父も喪って、失意のなかにいた。その頃、妹が通うグラスゴー大学の留学生竹鶴政孝と知り合う。日本でウイスキー作りをするため、イギリスまで学びにきた政孝に、驚きながらも惹かれていくリタ。だが、国際結婚を決意した二人は家族の猛反対に遭い……。夢の実現に邁進する夫と、献身的に支え続けた妻。ウイスキー誕生のため生涯を賭けた夫婦愛。
  • 乳房のない死体
    4.5
    乳房を鋭利な刃物でえぐられた死体が、宇治川で発見された。被害者の人妻は情事でも、なぜか乳房に触れられるのを拒んでいたという……。肉体上の秘密を巧みに犯罪にからませた表題作ほか、輪姦された女子大生の復讐譚など斬新なトリックを駆使し、官能描写を豊富に加えた異色ミステリー傑作集。
  • 京都の祭に人が死ぬ
    5.0
    “鞍馬の火祭”が終った境内に転がっていた黒焦げの死体を身代わりに、巧みな戸籍操作で逃げていたはずだったが……。意外な結末にアッと息をのませる「鞍馬の火祭」ほか、祇園祭、時代祭、くらやみ祭など、歴史と伝統を誇る京都の祭を舞台に、トリック・メーカーの第一人者が、意外性を充分に愉しませる推理傑作7編を収録。
  • 男はみんなプロレスラー
    -
    プロレスは極彩色のガラスの破片をちりばめたミラー・ボール。光の当たり方、見る角度によって驚くほどさまざまな変化を見せる。相手の腕をハンマーに決める。ロープに振る。反動でもどってくる。さあ、次の技は──その瞬間、最低三つぐらいのドラマは思い浮かべるはず。そう、まさに人生そのものなのです。プロレスを哲学にしてしまう男・ムラマツの一発必殺の凄味ただよう一冊。
  • 湖畔亭
    5.0
    温泉地の老舗旅館に、ひょっこり現れた初老の小笠さん。悠々自適の湯治客と思ったら、ある日、湯番を買って出た。湯かげんはもとより、料理、笛に新内、なんでもイケて、物腰もやわらかく、にこっと笑えば名推理。難事件をつぎつぎ解決し、人助けに精を出す。そんな「小笠さん」の正体は……? たっぷりのお湯と美味とユーモアで、心の底から温まる連続小説。
  • 軍歌「戦友」
    -
    今は定年退職を迎える年齢に達した戦争体験者の、かつての戦場のひとコマを淡々と描いた表題作。素朴な庶民の生活をユーモアを交えて描く「多甚古村」「丑寅爺さん」、戦場から帰還した元中尉の異常な言動を描いて戦時思想を痛烈に批判する「遙拝隊長」の四作を収録した滋味あふれる傑作集。
  • 夏花
    -
    著者のもっとも多作だった時代の秀作を集めた短編集。鋭い感性と美貌ゆえに奔放に生きた女性が、自ら崩れていく薄幸な宿命を描いた「傍観者」「夏花」。青春の清冽で一途な恋愛を、谷間の自然の中に描いた「伊那の白梅」、「石の面」「かしわんば」「薄氷」「騎手」「失われた時間」「暗い舞踏会」の九編を収録。愛ゆえに数奇な運命をたどる男女を淡々と描いた名作選。
  • 三ノ宮炎上
    -
    “そのころ、わたしは三ノ宮ではいい顔だった”太平洋戦争敗戦直前の神戸・三ノ宮。荒廃して行く人々の間で時代にあらがい、野生の純粋さをもって満たされぬものの中をひたむきに生き抜く、美しい不良少女の姿と、戦災で燃え落ちる街への挽歌を奏でる表題作ほか、女性心理の妖しい美しさをリリカルに描く傑作九篇を収録。
  • 火の燃える海
    -
    海にきらめく不知火のように、燃えて消えていった愛のいたみ。戦前から戦後の14年間にめぐり会い、別れ、おし流されていった石見光二が、かつて有明みよ子の眼の中に見たものは激しい愛情に燃える火ではなかったか。男女の交情と流離を香り高く描く表題作ほか「ある旅行」「訪問者」「盛装」など十篇を収録。
  • 楼門
    -
    出世欲も捨て、名聞とも隔てられた男の孤独、倦怠、憂悶、諦念が、古都の楼門を冴え冴えと照らす白い月に浮かび上がり、凄絶な絵画のように描かれた「楼門」ほか、人生のさりげない側面を淡々とした筆致で描き、垣間見る一瞬に生の真実をとらえた「ある日曜日」「北国の春」など心に沁みる珠玉の十編を収録。
  • 白い牙
    -
    “わたしの憧憬。わたしの夢。わたしの悲願。わたしの生命。……”ガラスの破片のようなきらめきと危うさを持つ沙夷子の愛は、療養中の妻ある学究の徒・康之へはげしく傾斜する。乱脈な父母の生活、大人の愛欲の世界への嫌悪から、純粋で観念的に育ってゆく少女の愛のかたちを、リリックに描いて、幼い愛の終りを予見する。
  • 冬の月
    -
    過ぎ去った日々のきらめく記憶の断片、懐かしき伊豆の海、山……。数十年を経て相見える旧友との交情、ふたたび蘇って来る若き日の情熱。少年の頃の肉親や、新聞記者時代の体験から生まれた、著者のロマネスクな世界を淡く、涼やかに描きだす珠玉集。表題作のほか「土の絵」「ある交友」「明るい海」「海の欠片」「四角な石」など九編を収録。
  • 青葉の旅
    -
    愛別離苦――たまさかの出会いに垣間みる人生の断片、愛の余情を描き、男と女の哀しみとわびしさを浮き上らせる珠玉集。結婚20年を迎えた妻の哀愁にみちたひとり旅を描く表題作のほか「波の音」「良夜」「トランプ占い」「別れの旅」「冬の外套」「一年契約」「春の入り江」「城あと」の八編を収録。
  • まぁーるく生きて
    -
    十代の頃は、四角かった。ゴツゴツしていて、あっちにゴツン、こっちにゴツンと年がら年中、なにかにぶつかってはコブを作っていた。頭だけじゃなく心の中までも……。この頃、生き方の理想は、まぁーるい球体のように、たくさんの接点をもって、いろんな人、風景、そして季節と出会って行くことだと思うようになった。人気作詞家・女優・小説家の著者が、自分を語り、男を語り、時代を語るエレガント・エッセイ集。
  • 鳥獣の寺
    3.0
    トリックの女王・山村美紗の代表作! 終戦直後、韓国で殺された父、引揚船の中で不可解な死を遂げた母――二人の過去と行方の知れぬ兄を追求する新進作家・湯川彩子の周辺で、つぎつぎと謎の殺人事件が発生する。被害者はいずれも亡き父と関係があり、鳥獣と縁のある寺で殺されてゆく……。巧みなトリックを駆使し、寺にまつわる伝説を織込み京都とソウルの二つの古都を重ね合わせ展開する長編ミステリー。
  • 喜望峰
    -
    アフリカ・モザンヴィックの港に碇泊中の南ア定期航路貨物船・白雲丸に突然、次港に寄らずケープタウンへ直行せよとの航路変更指令が届いた。しかも、そこで積み込まれた大きな木箱の中身が何者かに持ち去られたのだ! 稲村一等航海士は行手に不吉な予感を覚えた。ケープタウン入港後、稲村はリンと名のる美貌の娼婦から密航を依頼される……!? サイクロン(大暴風雨)荒れくるう喜望峰沖を舞台に描く本格的海洋冒険ロマン! 直木賞候補作。
  • マラッカ海峡
    -
    北風が吹きすさぶ二月、横浜の街に三件の殺人事件が起きた。現場近くに現れた擦り切れた皮コートの男とは一体? マラッカの海底に眠る百億の財宝をめぐり、謎の機関、アメリカ情報部、そして海の墓場から甦った男との死闘が展開する。横浜、東京、シンガポール、マラッカと雄大なスケールで描くハードボイルド追跡行。本格的海洋冒険小説。
  • 指輪の重さ
    -
    弁護士の瀬尾恭介は、美しい生花師匠の高見沢三保に魅せられ、密な関係を持った。そんな折、傷害事件を起こした若者の弁護を引き受けたが、事件が明らかになるにつれて三保の意外な正体を知る(表題作)。他に「朝焼けに揺れて」「金曜日のミストレス」など、結婚生活になんらかの破綻を生じた夫婦の揺れ動く微妙な心理、葛藤を描いた危険でミステリアスな物語を収録。
  • 目撃者ご一報下さい
    4.7
    夫を轢き逃げ事件でうしなった妻が新聞にだした「目撃者ご一報下さい」の広告には、どんなトリックが仕組まれていたのか? 夫の重大な秘密を知った妻の殺意を巧みな構成で描いた表題作。ほか、電話、高速道路、ビデオテープをつかった意表をつくトリックの面白さを満載した傑作10編を収録。
  • 萬葉集釋注一(集英社文庫版)
    -
    1~10巻825~1,155円 (税込)
    戦後の万葉研究の第一人者による、初めての個人全注釈の文庫版。隣接諸学との多様な交流の成果も踏まえた、現代万葉学の集大成。一群の詩の背景、状況をいきいきと語る歌群ごとの釈注。新鮮な感動を呼び起こす充実した内容。『万葉集』は、5世紀初頭から8世紀中葉まで、およそ350年にわたる4500余首の歌を収める。本書第一巻は、白鳳期(629~710年)、いわゆる万葉第一・二期の中核的古撰集である巻一と巻二とを収める。宮廷の儀礼・行幸などにまつわる「雑歌」(巻一)と、万葉びとの愛と死を奏でる「相聞」「挽歌」(巻二)とは、『万葉集』の基本的な三大部立で、以下の巻の規範となった。額田王、柿本人麻呂たちの作品が天皇の代ごとに配列され、躍動的な白鳳歴史絵巻を繰り広げる。【文庫版:リフロー型】
  • 白ゆき姫殺人事件
    3.4
    化粧品会社の美人社員が黒こげの遺体で発見された。ひょんなことから事件の糸口を掴んだ週刊誌のフリー記者、赤星は独自に調査を始める。人々への聞き込みの結果、浮かび上がってきたのは行方不明になった被害者の同僚。ネット上では憶測が飛び交い、週刊誌報道は過熱する一方。匿名という名の皮をかぶった悪意と集団心理。噂話の矛先は一体誰に刃を向けるのか。傑作長編ミステリー。
  • 地下生活者/遠灘鮫腹海岸
    3.5
    突然の轟音と大震動と共に、地下鉄の連絡通路に数人の男女が閉じ込められた。真の闇の中で荒廃していく肉体と精神。やがて体から“思念”が離脱して……「地下生活者」。何気なく乗り入れた海岸で、ワゴン車が砂利を噛みながら徐々に沈みはじめた……「遠灘鮫腹海岸」(椎名誠監督映画原作)。“地下”を舞台に、妙な笑いと恐怖に満ちたシーナSFヘンテコ・ワールドの快作2編。
  • さよなら、海の女たち
    3.0
    白い砂と蒼すぎる海の中で今、危機に瀕する珊瑚礁を憂える沖縄の女。嵐に荒れる夏の終りの北の海辺にふいに現われた酒場の女。南国のホテルで白い貝を手に踊る異国の女。そしてもう二度と見ることのできない青春の日の海でつむじ風のような恋をした少女…。潮の香りとともになつかしく浮かび上がる女たちの肖像。海と風と女の忘れ得ぬ物語。
  • 砲艦銀鼠号
    5.0
    ある大きな戦争で崩壊した近未来世界。金も居場所もなくなった元戦闘員の三人組が、偶然、手に入れたオンボロ戦艦「銀鼠号」で海賊稼業を始めることになった。用心深く情に篤い灰汁(あく)、冷静沈着で陽気な可児(かに)、短気であくどい鼻裂(びれつ)。勢い込む三人だったが、戦艦は超低スピード、肝心の機関砲が使えない……。プロペラ巨人、泥豚、雲人間など未知なる生物が次々現れるシーナのドキドキ海洋大冒険SF。
  • 更紗夫人
    3.0
    五年前に夫を亡くし、更紗染にすがって生きてきた紀代。初の展示会は著名人が集い盛況だったが、新聞記者の丸尾に「更紗は道楽か」と問われ、紀代は自分の甘さや未熟さに気づく。年下だが頼れる丸尾に、紀代は好意を抱き始める。亡夫の友人、岩永も、彼女の作品をまとめ買いするなど陰で支えていたが、ある日――。ふたりの男性の間で揺れ惑う女心。切なく交錯する想いを描く、至高の恋愛小説。
  • 処女連祷
    4.2
    卒業を間近に控えた女子大生仲良しグループ。珠美は秘書、文代は教師、トモ子は編集者など、7人それぞれの進路へ巣立とうとしている。恋愛に憧れつつも、まだ見合い結婚が主流の終戦直後、彼女達が常に盛り上がるのは、唯一婚約者のいる祐子の話だ。卒業後、婚約者の誕生日に全員が祐子の家に招待されるが――。若い女性の心の葛藤を、瑞々しく描く。有吉文学の原点となった、初の長編小説。
  • 六月の輝き
    3.8
    戻りたい。きらめく光で満ちていた、あの季節へと――。気が強くて元気な美奈子と、病弱で優しい美耶。同じ誕生日、隣同士の家に生まれた二人は、互いに傍にいることが当たり前の「特別」な存在だった。だが、11歳の夏、美耶の持つ「ある力」がきっかけで二人の関係は壊れてしまう。すれちがったまま残酷に過ぎていく月日が、やがて優しい奇跡を呼び……。少女たちを繋ぐ、不思議な“絆”の物語。
  • 漂砂のうたう
    3.9
    【第144回直木賞受賞作】御一新から10年。武士という身分を失い、根津遊郭の美仙楼で客引きとなった定九郎。自分の行く先が見えず、空虚な中、日々をやり過ごす。苦界に身をおきながら、凛とした佇まいを崩さない人気花魁、小野菊。美仙楼を命がけで守る切れ者の龍造。噺家の弟子という、神出鬼没の謎の男ポン太。変わりゆく時代に翻弄されながらそれぞれの「自由」を追い求める男と女の人間模様。
  • 蹴る群れ
    -
    エディンは戦争の子だよ――。現在イングランドプレミアリーグのマンチェスターシティで活躍するジェコについて父はそう語った。当時6歳だった彼は、サラエボ包囲戦下で狙撃の脅威に晒されながらサッカーを学んだという。戦争や天災など、様々な困難に直面しながら、人々はなぜボールを蹴るのか。選手や指導者として世界中でサッカーに携わる19人の声に耳を傾けた魂のノンフィクション。ボスニア・ヘルツェゴビナ代表選手・ジェコのインタビューを収録。
  • 腐葉土(木部美智子シリーズ)
    4.1
    笹本弥生という資産家の老女が、高級老人ホームで殺害されているのが見つかった。いつもお金をせびっている孫の犯行なのか? そこに生き別れたもう一人の孫という男が名乗りでる。詐欺事件や弁護士の謎の事故死が、複雑に絡まりはじめ――。関東大震災、東京大空襲を生き延び、焦土の中、女ひとりでヤミ市でのし上がり、冷徹な金貸しとなった弥生の人生の結末とは。骨太ミステリーの傑作長編。
  • アド・バード
    3.9
    【第11回日本SF大賞受賞作】マサルと菊丸の兄弟は、行方不明の父親を探しに、マザーK市へと冒険の旅に出た――。そこは、異常発達した広告が全てを支配する驚愕の未来都市だった! 赤舌、地ばしり、蚊喰い虫……珍妙不可思議な生物たちの乱舞。どこかなつかしさを誘う歌声。椎名誠独自の世界を打ち立てた記念碑的長編。
  • 女流
    -
    女流作家・太田満子の前に現れた夫の弟子にあたる年若き青年。若さゆえの一途な想いに心揺れる満子。恋する想いの純粋さと残酷さを、細やかに描きつくし“この日本では稀な真の恋愛小説”の誕生と絶賛された名作。女流作家の愛と生と死の軌跡。
  • 青雲の志について 鳥井信治郎伝
    -
    単なる儲け主義ではなかった。「赤玉ポートワイン」で莫大な利益を得ながら、なぜ危険を冒してまで日本初の国産ウイスキー製造に取り組んだのか。明治中期に生まれ、大正・昭和の激動期を生きぬいた“洋酒屋の寿屋”(現サントリー)の創始者・鳥井信治郎の半生を描いた、挫折と栄光の物語。
  • 礼儀作法入門
    -
    “多くの礼儀作法の書物が教科書であるとすれば、私の書いたのは副読本である”。礼儀正しくあれと悪戦苦闘する著者の、苦心談、失敗談をおりまぜ、飄逸軽妙な文体で描かれたエッセイ風エチケット入門。宴席や接待で自己嫌悪におちいりやすい方、ぜひご一読を!
  • 雪の朝
    -
    日米通商条約締結による違勅の罪、安政の大獄による水戸浪士の暗躍――。死の翳りのただよう中で、大老井伊直弼の脳裏をよぎるもの、それは束の間の愛に燃えた、たか女の面影だった……。庶流から身を起こし、経倫の才をかわれ幕府の最高権力者となった直弼の、若き日の彦根藩主時代の悲恋を描く表題作ほか、香気あふれる珠玉作四編を収録。
  • 若葉のころ(凜一シリーズ)
    4.3
    京都の大学に進学し、二度目の春を迎えた凛一。氷川と逢える平穏で幸福な日々がようやく訪れたかに思えたが、三年ぶりに帰国した有沢が、再び凛一の心に波紋を広げていくのだった。そんなおり、大学フットボール部の主将として活躍する氷川に関する情報を外部に漏洩しているという疑いが凛一にかけられる。ふたりはこのまま逢うことができなくなるのか……。好評シリーズついに完結。

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