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夫の定年退職を機に、東京から高知の山奥の白縫集落に移り住んだ夫婦。美術教師だった夫の竣亮は趣味の陶芸に専念したい、妻の麻由子は放射能汚染の不安のある東京から逃れたいと思っていた。老人ばかりの村で、若くみられた二人は歓迎されるが、「くちぬいさま」と呼ばれる神を祀る神社に続く道の上に竣亮が陶芸の窯を作ったことから、村人達との関係に亀裂が生じ、陰湿な苛めが始まる――。
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Posted by ブクログ
瀬戸峻亮は「3.11」の放射能から遠ざかる目的で、定年後、妻の麻由子、テリア犬のロキシーとともに高知の田舎、白縫の集落に。二つ鎌神社とくちぬいさまを結ぶ道路(赤線)上に土地を購入しログハウスと陶芸窯を建設。集落は老人ばかり。瀬戸夫妻はちょっとした諍いから、姿の見えない住人からの嫌がらせを。猫の死骸、...続きを読む水道パイプの切断、ロキシーの死、包丁・釜、・・・。そして、この地域には「あの赤線で起きたことは誰にもいうちゃいかん。いうたら、くちぬいさまに口が縫われる」との言い伝えが。読み進むにつれて心底怖くなる物語です。
震災後、放射能汚染を気にする麻由子は、夫の峻亮の強い希望でもあった高知の田舎へ、移住することを決めた。 美術教師であった峻亮は、長年の夢であった穴窯を作り陶芸に勤しむ毎日。 しかしその地域にある鎌神社のお宮まて続く、赤線と呼ばれる道の一部に穴窯を建てたことから、村人達の苛めが始まる。 猫の死骸が吊る...続きを読むされていたり、車をパンクさせようと包丁が埋められていたり。 確かな嫌がらせがありながら、顔を合わせると誰もが優しく接してくる。 気にするなと言う峻亮に苛立ち、ストレスから夫婦仲も悪化、麻由子は疑心暗鬼になっていき、殺人事件にまで発展して行く。 田舎移住番組などを観ると、こんな老後もいいなぁと呑気に思っていたが、実体験に基づいた話と知りぞっとした。 ここで起きたことは、ここで解決する。他言無用。 くちぬい様に口を縫われる。 滝代の最期を想像すると悲しくなる。
高知のひなびた穏やかな田舎の集落の人々に巣食う狂気。著者自身が村八分になった体験をもとにした恐ろしい小説。田舎の社会が実は和やかなものでなく因習に捕らわれていたり互いに見張り合うような窮屈さを備えたものだということはよく言われもすることだし、都会を好む地方出身者がよく言うこと。そうしたムラ社会の恐ろ...続きを読むしさを描いている。 くさいものにふたをするかのように思考することをやめ、真実を知ろうとせず今日だけのもろい安定と異なる軌道外の言動をたたく世間というものの圧力が日本全体に満ちていると思う。著者の言うとおり、それは過疎や限界集落のような末端こそ濃縮して現れるものかもしれないが、一方で都会の駅や電車内で聞く過剰なまでのマナー順守を呼びかける放送とかも窮屈でおそろしい世間を予感させる。 そういう意味で日本というムラ社会の異常さを指摘する物語として読んでいったのだが、最後には因習をいいように解釈し利用している村人たちの非が露わになるかと思いきや、最後の最後で著者らしい……というか小説らしい皮肉な展開で終わるのが、らしいなと思いながらもちょっと悔しい。
放射能汚染を恐れ、東京から高知の山村に移住した夫婦の物語。 山村での不気味な出来事が中心ですが、夫婦間の微妙な心理のすれ違いの描写に、常に嫌な予感しかしない… 後味も悪いですが、最後の小節で更に唖然としてしまいます。
村の人々の嫌がらせが日常を侵食して精神をすり減らしていく様子は嫌な感じだった(褒め言葉) 神経質でヒステリックな妻と、興味のないことには無関心で変なところは頑固な夫。人間と人間の意思の疎通がきちんと取れず、すれ違いばかりで殺伐としたところに、村の老人たちの嫌がらせ。これ以上ないくらい嫌なシチュエーシ...続きを読むョンでした。 ラストは衝撃的で、この嫌なシチュエーションを突き詰めて煮詰めた結果が、妻のあの言動につながったのだろうと思いました。が、荒唐無稽なようにも感じました。
「口縫い」と聞いてすぐに思い出すのは、私の棺桶に入れてほしいほど好きな、珠玉の小説『猫を抱いて象と泳ぐ』。しかしこの『くちぬい』は絶対に入れてほしくない(笑)。 夫の強い希望で東京から高知の過疎村・白縫集落に移住した夫婦。定年まで美術教師を務めた夫・竣亮は、ここで趣味の陶芸に打ち込めると大喜び。最...続きを読む初は移住に反対していた妻・麻由子も、震災に遭って放射能汚染の不安を感じてからは賛成に転じる。老人ばかりの住民はみな善人に見えたが、竣亮が陶芸用の窯をつくった場所に文句をつけられる。自分の敷地内に何をつくろうが勝手だろうと竣亮は反発。以来、嫌がらせを受けるようになり……。 著者自身が過疎村に移住していじめを受けたとの話が、文庫版のあとがきに特別収録されています。その経験に着想を得た物語。いろいろと問題発言の見受けられる著者ながら、移住話には同情する部分もあるかと思われますが、この物語の主人公夫婦にはなぜだかまったく共感できません。何も悪いことをしていないといえばしていないけれど、なんとなく鼻につく。そこでハタと気づく、村でのいじめって、結局こういう「鼻につく」感覚から始まってしまうのだろうかと。自分はいじめる側には決して回らないと思うのに、こういうことを考えてしまうおのれが嫌です。 村人たちの狂気にさらされ、狂っていくことを認識せずに狂ってゆく転入者。まともな感覚を持つわずかな人も、この村では生きられない。フィクションではあるけれど、過疎村について考えさせられます。住民たちが村の活性化を本当に望むなら、村意識の改革は必要なのでしょう。しかし望ましい人ばかりが転入してきてくれるわけではないというジレンマ。 ものすごく後味の悪い作品。著者が移住した村への恨みも込めて書かれた物語のような気もします。他界後半年であとがきをつけて文庫化出版されているから、余計に怨念がこもっているようで、怖い。
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