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素朴と文明の歴史学 精選・東洋史論集
日本の東洋史学が生んだ20世紀の巨人、宮崎市定(1901-95年)。広範な領域にわたる魅力的な著作の数々から、全集未収録作品を含め、これまで文庫に収録されてこなかったものを中心に精選したアンソロジー。長年の愛読者はもちろん、宮崎史学初めの一歩にも。 「歴史は須(すべか)らく世界史でなければならぬ。事実、私の研究は常に世界史を予想して考察して居り、世界史の体系を離れて孤立して個々の事実を考えたことは一度もない」(『アジア史研究』第一、「はしがき」より)。出発点となった宋代史研究をはるかに超えて、中国史のあらゆる時代、さらに西アジア史や古代日本史にまで及ぶ優れた業績は、いずれも偉大な歴史家の理念に力強く裏打ちされている。 鋭く細やかな洞察、時間・空間ともに壮大な展望を予感させるスケールの大きさと独創性、生き生きとした人物描写、これらを可能にする文章力……。枚挙に暇がない魅力ゆえに、宮崎の作品は、専門家にとどまらず長きにわたって多くの読者を得てきた。専門とする時代・領域ともに異なりながらも、宮崎への思い入れが嵩じて評伝を著し話題になった西洋古代史研究者の井上文則氏もその一人である。その井上氏が、歴史家としての宮崎市定、とりわけその人となりがわかるような作品を厳選、解説では宮崎の人生のなかにそれらの作品を位置づける。 中国の歴史は中国周辺の民族に代表される素朴主義と、中国社会そのものである文明主義の入れ替わりの歴史であったと喝破し、素朴主義に共感を寄せる「素朴主義と文明主義再論」。本作品をはじめとする宮崎独自の雄大な歴史観、そして古代・中世・近世史、さらに文化史についての各論を通して、巨峰宮崎市定の威容に迫る決定版セレクション! 【本書の内容】 1 歴史の見方 世界史序説 素朴主義と文明主義再論 歴史と塩 『宋詩概説』吉川幸次郎著〔書評〕 2 歴史学各論 ・古 代 中国上代の都市国家とその墓地――商邑は何処にあったか 条支と大秦と西海 ・中 世 晋武帝の戸調式に就て 六朝時代江南の貴族 清 談 ・近 世 五代宋初の通貨問題梗概 王安石の黄河治水策 雍正時代地方政治の実情――シュ批諭旨と鹿洲公案 ・文化史 シナの鉄について 江戸時代におけるシナ趣味 3 全集未収録作品 大きな静けさ はしがき〔『地獄の決闘』〕 中国漢代の都市 中国における易占の発達 付録 宮崎市定と青木木米(リチャード・ピアソン&一枝?・ピアソン) 解 説(井上文則) -
浮気な王の宮廷生活 スペイン・ハプスブルクの落日
政治には関与せず無気力。日々、絵を描き芝居を観て祝宴に列し、女性とみれば女優に修道女、宮廷の侍女から街の娼婦まで口説かずにはいられない。そんな愛欲に溺れる己に苦しみ、罪悪感から神にすがっては懺悔する…。 華やかなりしスペイン帝国をみるみるうちに凋落の一途へと導いた、国王フェリペ4世(1605-65 在位 1621-65)。 悪名高き意志薄弱な王は、いかに誕生したのか。その放埒な生活と晩年の不如意な人生と死を第1部に。凋落するスペイン帝国の実態を第2部に構成。様々な噂話やエピソードかスペイン・ハプスブルクの影を活写する。 目次 はじめに 第一部 第1章 スペイン国王フェリペ四世、誕生 王子の誕生と教育/王子の理想像/結婚、そして王位継承へ/寵臣オリバーレスと王家の人々 第2章 浮気な国王の放埒な宮廷生活 祝宴につぐ祝宴/王宮での日々/芝居を楽しむ/十七世紀式闘牛、マヨール広場にて/《狩猟をするフェリペ四世》/宮廷式求愛/宮廷画家ベラスケスと絵画コレクター/宮廷のおどけ者たち 第3章 フェリペ四世の告白できない告白 スキャンダルの始まり/女優〈ラ・カルデローナ〉との恋の戯れ/女子修道院に忍び込む/賢夫人イサベル王/ライバルは「ドン・フアン」/伯爵暗殺 第4章スペイン帝国の危機と王家の不幸 マントヴァ継承戦争とネーデルランド/カタルーニャとポルトガルの反乱/寵臣オリバーレスの失脚/権力の後継者ルイス・メンデス・デ・アーロ/イサベル王妃とバルタサール・カルロスの死/跡継ぎが生まれない!/「大地の息子」フアン・ホセ・アウストリア以後 第5章 世俗を逃れて/恩寵を求めて 神秘家マリア・コロネル/「余に天罰を!」/魂の国からのアドバイス 第6章 国王の晩年と黄昏れゆくスペイン 苦悩の晩年と国王の死/ハプスブルク家からブルボン家へ 第二部 17世紀スペインへの望遠鏡(テレスコープ) ハプルブルク・スペインのかたち/人々の生活とカトリック教会/異端審問と「アウト・デ・フェ」/黄金世紀、百花繚乱 《注》 あとがき 主要参考文献 人名索引 学術文庫版あとがき 本書は、『浮気な国王フェリペ四世の宮廷生活』(岩波書店 2003年3月刊)を改題、加筆・一部修正したものです。 -
万葉集原論
「おそらく、私は「万葉集原論」を生涯の課題としていくことだろう」。 本書は日本を代表する文学者、中西進の真骨頂である。 現存する最古の歌集『万葉集』。七、八世紀の歌、四千五百首余が二十巻に収められ、額田王、柿本人麻呂などの著名な歌人、天皇、皇族から、防人、遊女に及ぶ作者と作品の豊かさは、世界的にみても異彩を放っている。 この『万葉集』研究の第一人者であり、幅広い文学活動でも知られる著者は、古代日本文学の本質に迫ると同時に、世界のなかの日本文化を問う視座を持ち続けてきた。 『万葉集』とは何か。真摯にそれを見極めんとした本書が示すのは、学問とは何か、その方法はいかにあるべきかという切実な問題意識に裏打ちされた、著者だからこそ到達しえた比類なき『万葉集』の姿である。(原本:『万葉集原論』桜楓社、1976年) 【主な内容】 学術文庫版まえがき 一 万葉集研究の方法 文学史の方法――その「歴史」について 文学研究の方法 万葉集研究の方法 研究と批評 二 万葉集の構造 万葉集の構造 万葉集の生成 万葉集の原点 万葉集の集団性 三 万葉集の表現 万葉歌の形式 万葉歌の方法 古代的知覚――「見る」をめぐって 古代文学の言語 万葉集の漢語 桜楓社版後記 解題 犬飼公之 -
インテリジェンスの基礎理論
テロリズム、インテリジェンス、サイバーセキュリティ等は、遠い世界のことと思いがちですが、こうした問題は意外にも私たちの日常生活とも密接に結びついています。20世紀の冷戦構造があった時代には、世界情勢の中心は米ソを軸とした二極の対立でしたが、ソ連崩壊後の世界では、民族・宗教・思想の対立が複雑化・混沌とし、テロや紛争が各地で絶え間なく起こっています。 社会の諸課題が複雑化して既存の知識や分析枠組みが通用しにくくなる中、ガバナンス的思考は今後更に重要になるでしょう。こうした領域の一端に触れることによって、ガバナンス的な思考センスを身につけるためにも有効な一冊です。 さて、インテリジェンスとは何を指すのでしょうか? 「インテリジェンスとは、『政策決定者が国家安全保障上の問題に関して判断を行うために政策決定者に提供される、情報から分析・加工された知識のプロダクト、あるいはそうしたプロダクトを生産するプロセス』のことを言う」。 この定義にしたがって、本書では、情報分析の素材となる情報の収集方法、情報の加工の方法、またその過程における有効な方法と陥りやすい誤りなど、実践的な知識を提供しています。 そして、CIAやモサド、MI6や公安などインテリジェンス機関の活動の一端についての紹介やコラムで実際の事件を扱います。インテリジェンス機関と犯罪捜査機関との相違点もあきらかにされます。 得られた情報に、分析という加工を経たプロダクトの優劣の考え方、また、ミラー・イメージング、クロス・チェックといったプロダクト生成時の問題や改善法などについても述べられます。 インテリジェンス入門として、情報収集と情報加工の教科書として、格好の入門書です。 [原本] 『インテリジェンスの基礎理論 第二版』立花書房 学術文庫に収録するにあたり、全面的に改訂した。 【目次より】 学術文庫版はしがき 第一章 インテリジェンスとは何か 定義、機能、特徴 第一章の補論 第二章 インテリジェンス・プロセス 第三章 インテリジェンス・コミュニティ ― 日米の組織 第四章 インフォメーションの収集 第五章 インフォメーションの分析 第六章 その他のインテリジェンス機能 第七章 インテリジェンスの課題 伝統的な課題から新たな課題へ 第八章 インテリジェンス組織に対する民主的統制 【巻末資料】 解説 佐藤優 -
遠野物語 全訳注
全部読まなければ、この本のすごさはわからない! 日本民俗学の創始者である柳田の原点にして代表作には、いったい何が論じられ、企てられたのか。 「平地人を戦慄せしめよ」という高らかな宣言に込められたものとは何か。 「ザシキワラシ、オシラサマや河童たちが躍る不思議な世界」 「叙情豊かな日本人の原風景」 という本書がまとってきたイメージの奥にある真価を読み取るための、 懇切な解説つき全文現代語訳。 -
物語論
人間はなぜ物語を必要とするのか? 精神分析、政治、戦争、神話、歴史、そして昔話、小説、うた――。 物語は社会のいたるところにある。 平家物語などの「語り物」やアイヌのユカラとの対比、源氏物語の婚姻制度と母殺しの阿闍世コンプレックス……日本列島の物語を起源から、そして世界文学との比較から考える。 「もの」とはなにか。 「語り手」は誰なのか。 物語理論の金字塔となる、伝説の東大講義18講、待望の文庫化! 【目次】 I 物語理論の進入点 1講 ものがたり と ふること 2講 うたとは何か 3講 うたの詩学 4講 語り手を導きいれる II 物語理論の基底と拡大 5講 神話から歴史へ 6講 神話的思考 7講 語り物を聴く 8講 口承文学とは何か 9講 昔話の性格 10講 アイヌ語という言語の物語 III 物語理論の水面と移動 11講 物語人称 12講 作者の隠れ方 13講 談話からの物語の発生 14講 物語時称 15講 テクスト作りと現代語訳 IV 物語理論の思想像 16講 『源氏物語』と婚姻規制 17講 物語と精神分析 18講 構造主義のかなたへ -
渋沢栄一「青淵論叢」 道徳経済合一説
〈『論語と算盤』よりも明快!〉 渋沢栄一「最後の肉声」を現代語訳。 読めば、2021年大河ドラマ『青天を衝け』が、ぐっと味わい深くなる! ■怒濤の人生を回顧し、現代人に希望を託す、畢生のメッセージ■ 時勢が緊迫する昭和のはじまりにあって、人生の黄昏を迎えていた「日本資本主義の父」は、 後世に何を言い遺こそうとしたか。 「家訓」にはじまり、倫理観、経済観、政治観、人生観など広汎なテーマについて32項目にわたって、 幕末維新の経験をふまえ、日本の明日を憂いながら語り尽くした談話集「青淵論叢」を、 渋沢という人物を知り尽くした鹿島茂が読みやすく現代語訳し、さらに懇切に解説。 「金というものは社会の力を表彰している役にたつ道具ですから、これを貴ぶのは正当なことですが、しかし、必要な場合にはよくこれを消費しなければなりません。消費はもちろんよいことなのです。よく集めてよく散じ、もって社会を活発にし、それによって経済界の進歩を促すのはまさに有為の人が心がけなければならないことなのです。真に経済のよくわかった人は、よく集めてよく散じるようでなければなりません。よく散じるとは正当に支出することです。金を善用することです」(本書「富者の要務」より) 「江戸の封建主義に代わって明治・大正の資本主義が登場しても、官は官のもの、民は民のものという疎外的分担体制はよりひどくなっている。 これは、自分にも責任があるのだから、なんとしても最終解決しなければならない。 では、どうすればいいのか? これが、日本の資本主義をほとんどゼロから独力で作り上げた渋沢が古希にあたって再度、自分に問いかけた疑問だったのである」(本書「編訳者解説」より) 【本書の主な項目】 立身出世の秘訣/信用を得る人得ない人/叱言(こごと)の云い方/真の成功とは何か/予の人物鑑識法/大国民は斯う有り度い/外来思想と咀嚼消化の力/国家観念と世界主義/政治経済と道徳観念/道徳と経済の合一説/事業経営に必須の条件 ほか -
都会と田舎 日本文化外史
花のみやこか、懐かしきふるさとか――。日本列島の文化の歴史は、海の外からやってきた最新の情報があつまる都会への憧れと、生まれ育った郷土への思い入れのはざまで紡がれてきた。奈良、京都、のちには江戸・東京という「みやこ」に対する「地方」の憧れと反発、さらに中国大陸や欧米という「中央」に対する「辺境」日本の憧れと反発という二重の交錯を見据え、そこに織りなされる綾を丹念に描き出した唯一無二の列島文化史。 夷なる日本が華なる中国に劣らないと主張した京都生まれの伊藤仁斎と、関東出身で田舎固有の文化に価値を見出し江戸学芸を京から自立させた荻生徂徠。日本文化や日本的なるものの一貫性を否定した内藤湖南と「国史」の範囲に苦悩した黒板勝美。日本文化が基底のところで一体のものであることを前提にしたことで「郷土を捨象した」と批判された、民俗学の父・柳田国男が敬意をいだいていたのは、田舎に「いにしえのみやび」を見出した本居宣長だった。 古代の青銅鏡が示す畿内王権や記紀神話にはじまり現代にいたるまで時代を縦横無尽に扱いながら、独自の視点で日本文化の形を照らし出す。(原本:平凡社、1991年) 【本書の内容】 はじめに 第一章 都市の論理――先進・後進論の背景 第二章 反都市文明――「地方」主張の論理と背理 第三章 国家という単位――単一の「国」と「くに」の複合 第四章 民衆知と文字文化――ひとつの試み あとがき 解 説(長﨑健吾) -
古代文字の解読
発音も不明な謎に満ちた文様――エジプト聖刻文字、楔形文字、ヒッタイト文書、ウガリット文書、ミュケーナイ文書。主要古代文字が解読されるまで推理、仮説、検証を重ねた、気の遠くなるような忍耐と興奮の軌跡を、言語学と旧約聖書研究の泰斗が、平易かつ正確に描写。数千年を超えた過去との交流を先人とともに体感できる、心躍る書!(解説・永井正勝) まえがき 第一章 言語と文字 高津春繁 第二章 エジプト聖刻文字の解読 関根正雄 第三章 楔形文字の解読 関根正雄 第四章 ヒッタイト文書の解読 高津春繁 第五章 ウガリット文書の解読 関根正雄 第六章 ミュケーナイ文書の解読 高津春繁 学術文庫版解説 永井正勝(人間文化研究機構人間文化研究創発センター特任教授) 索引 地図 内容紹介 両者の解く古代文字解読の世界は、解読当時の学者達や社会の常識を踏まえつつ、解読者の心境を代弁するかのような語り口でなされている。そこに時折加えられる古代社会の記述も相まって、読者は解読当時の様子をこの目で見ているかの如く本書を読み進めていくことができる。(略)本書の魅力は、文化に対する深い理解と愛を持った卓越した研究者の手になる部分が大きい。 ――――――「解説」より *本書の底本は『古代文字の解読』(岩波書店 1964年10月刊)です。文庫化にあたり読みやすさに配慮して、旧字を随時、常用漢字に置き換え、送り仮名も新字対応とし、ルビの追加を行い、明らかな誤植は訂しています。 経年などにより説明が必要と思われた箇所は、編集部註として[ ]で補足いたしました。「最近」「現在」などの表記につきましては、原本が出版された一九六四年時点の時制といたします。 本書には現在では差別的とされる表現も含まれていますが、著者が故人であることと差別を助長する意図はないことを考慮し、原本刊行字の文章のままとしております。 -
日本語と西欧語 主語の由来を探る
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」(川端康成)は英語で「The train came out of the long tunnel into the snow countory」(サイデンステッカー)。世界を表現する際の「視点」 の違い。英語は「神の視点」を得ることによって主語の誕生を準備したが、「虫の視点」を持つ日本語にはそれは必要なかった。英語の歴史を踏まえ両言語と文化の違いを考察。 -
レオナルド・ダ・ヴィンチ 伝説と実像と
「天才」と呼んだ瞬間に見えなくなる、本当のすごさがわかる! 絵画・彫刻・建築・土木・軍事……多岐にわたるその仕事は、しかしほとんどが未完に終わった。 彼が生きた同時代において、その名声はかならずしも高いものではなかった。 後世にも驚異をもたらすその着想は、実は彼一人の独創ではなく、先達の知見を踏まえてのものだった。 では「天才」というのはまったくの虚像だったのか? いや、そうではない。 現代の美術史研究による精緻な分析によって、まったくあらたな、一人の類い希なる表現者の姿が立ち上がる! 「フレスコ画を描かない画家」だったということにはじまり、ルネサンス期のイタリア各地を転々とする、苦闘と挫折に満ちた創作の人生を追いながら、神格化されたレオナルド像の向こうにある、真価を見いだそうとする試み。 夢想家〈ファンタジスタ〉レオナルド・ダ・ヴィンチの実像をたずねる、スリリングで発見に満ちた探究の美術史! *本書の原本は、2003年に角川書店より『レオナルド・ダ・ヴィンチという神話』として刊行されました。 【本書の内容】 序 章 神格化されたレオナルド 第一章 フレスコ画を描かない画家 一 システィーナ礼拝堂の壁画に参加しなかったレオナルド 二 ヴェロッキオ工房で修業したこと、しなかったこと 三 超えられない先輩ボッティチェッリ 四 ≪東方三博士の礼拝≫―先達への挑戦 第二章 新天地ミラノでの活動 一 ミラノ着任の経緯 二 素描リストの意味 三 技師・発明家・建築家としての真価 第三章 宮廷芸術家の立場と活動 一 舞台美術家としてのレオナルド 二 音楽家・楽器製作者としてのレオナルド 三 スフォルツァ騎馬像制作 第四章 最後の晩餐 一 ついに勝ち得た最大の好機 二 ドラマの表現を完成させたレオナルド 三 成功と悲運 第五章 夢ファンタジスタ想家レオナルド 一 フィレンツェ帰還 二 ≪ジョコンダ(モナ・リザ)≫と晩年のレオナルド 三 絵画による世界の完全な視覚化を目指して 参考文献・図版出典一覧 図版目録 あとがき -
ベルギー大使の見た戦前日本 バッソンピエール回想録
ことしは日本とベルギーが国交を結んでから150年。その間、バッソンピエールが在任した18年間は、日本の運命を決する致命的な諸契機が、歴史のページに次々に刻みこまれていった時代でした。大正天皇の病気、関東大震災、ワシントン、ロンドン両条約における軍縮問題、満洲事変と国際連盟脱退、相次ぐ要人の暗殺、五・一五事件と二・二六事件……。それらを外交官としてつぶさに観察した希有な記録、それが本書です。 -
愛と欲望のナチズム
《すべての性欲を解き放て!》 第三帝国が企てた「快楽」と「生殖」をめぐる大衆動員の実態とは? ナチズム研究をリードする著者による衝撃的論考の増補文庫化! 産めよ殖やせよ。強きゲルマン人の子らを━ナチスは人間の欲望、とりわけ性欲を解放させることで、人々を生殖に駆り立て、社会を支配せんとした。 「厳格で抑圧的なナチズム」という通説のイメージを、膨大な同時代資料を渉猟することによって覆し、性と権力、快楽と大衆操作が絡み合い展開した「欲望の動員」の実態に光を当てる、決定的研究! 【本書「はじめに」より】 本書はこのような観点から、第三帝国下の「性-政治」の実態を描き出そうとするものである。そこでの性と権力の複雑なからみ合いを、体制側の狙いと個々人の実践との齟齬や矛盾にも留意しつつ、性教育、同性愛、裸体文化、婚外交渉などの争点ごとに検証していきたい。その際とくに、従来の一般的な見方とは異なって、ナチズムが市民道徳への反発から性的欲求の充足を奨励し、ある種の「性の解放」を促進したプロセスに注目する。ダグマー・ヘルツォークの研究が明らかにしているように、彼らにとって性は生殖のためだけのものではなく、快楽や喜びをもたらす一種の刺激剤でもあったのであり、それを徹底的に活用した点にこそ、この運動の動員力を説明する手がかりがあると考えられる。その意味で本書は何よりも、生殖と快楽の問題にとりつかれた体制の「欲望の動員」のメカニズムを解明することをめざしている。 【本書の内容】 はじめに 第一章 市民道徳への反発 第二章 健全な性生活 1 性的啓蒙の展開 2 性生活の効用 第三章 男たちの慎み 1 男性国家の悪疫 2 結婚を超えて 第四章 美しく純粋な裸体 1 裸体への意志 2 ヌードの氾濫 3 女性の魅力 第五章 欲望の動員 1 新しい社交 2 悪徳の奨励 3 道徳の解体 おわりに 補章 注 図版出典 あとがき 学術文庫版あとがき 索引 *本書の原本は、2012年に講談社選書メチエより刊行されました。 -
音楽教程
古典的学識に通じ『哲学の慰め』『算術教程』などを著した「最後のローマ人」ボエティウス。その著作群は大きく4つに分けられる。数学的諸学科に関する教育的作品、アリストテレス、キケロ、ポルフュリオスなどの著作の翻訳と注釈、キリスト教神学の哲学的考察、そして最後に『哲学の慰め』。『音楽教程』は第一期に属するもので、ピュタゴラス以降の音楽理論を総覧し詳述しており、後世とくに中世~18世紀までの西洋音楽理論に絶大な影響力を維持していた。「協和・不協和」「音程と旋律」「オクターヴ」「5度」「4度」「全音」「半音」など、音の性質を体系立てたことの意義は大きい。オクターヴの完璧さは何に由来するのか、5度、4度の協和が「完全」である理由は何なのか、また、半音は本当に全音の「半分」なのか、あるいは、旋法の構造はどのようなものなのか。 聴覚に甘美に響くことが音楽の起源ではあるにせよ、そこに判断のすべてを任せる姿勢を批判し、強調されるのは最終的な完全性と認識は理性に存するという一点である。そのうえで探求されるのは、音程あるいは協和音に関する数学的解明であり、モノコルドの弦長を二分割、三分割、四分割……と計算を尽くす方法で「数比」の重要性を明確にし、音程の根拠を示すこと。1500年ほども前に形作られたこの理論の骨子は、音響科学などの知見をもって近代の音楽理論が挑んだ刷新の試みにも完全に克服されたとは言えず、いまだに西洋音楽の基盤をなすものである。 本書は、19世紀のラテン語版刊行物を底本とし、英・仏・独・露語版を参照して翻訳した初めての日本語版である。 -
星界の報告
ガリレオにしか作れなかった高倍率の望遠鏡に、宇宙はどんな姿を見せたのか?──1609年7月に初めて製作した望遠鏡の倍率は3倍。その4カ月後には、他の誰にも追随できない20倍の倍率を実現したガリレオは、翌年初頭から天体観測を開始した。人類が初めて目にしたレンズの先には、月の表面の起伏が、天の川をなす無数の星が、そして木星をめぐる四つの衛星が現れた。人類初の詳細な天体観測の貴重な記録、待望の新訳!※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。 -
魏武注孫子
■英雄たちが読み継いできた『孫子』は、曹操が定めたものだった!■ □1800年受け継がれた”スタンダード”□ 「三国志」の激戦を戦い抜いた「魏武」曹操が、自らの軍事思想を込めて全篇にわたって付した注とともに校勘したその全文が、いまここに明らかに! 読みやすい現代語訳に、懇切な語釈を付した全訳注。 曹操が実践の応用に足るように定本をつくったからこそ『孫子』は現代まで兵法の根本として重んじられてきたことが、よくわかる! さらに、曹操や諸葛亮ら英傑たちが、戦場において孫子の説く兵法をいかに具体化させたかを分析する「実戦事例」も掲載。 『孫子』の真髄がより具体的にわかるようになり、さらには「三国志」の世界もより深く理解することができる画期的全訳。 *本書は講談社学術文庫のための訳し下ろしです。 【本書より】 曹操は、『孫子』の本文が持つ意味を深め、自身の解釈に合うような校勘をしながら、そこに自己の軍事思想を込めたのである。『孫子』は、これ以降、曹操が定めた本文を基本とした。……曹操の存在無くして、現行の『孫子』を考えることはできない(本書「解題」) 【本書の内容】 始計篇 第一 【実戦事例一 白馬の戦い1】 【実戦事例二 烏桓遠征】 作戦篇 第二 【実戦事例三 官渡の戦い1】 謀攻篇 第三 【実戦事例四 赤壁の戦い1】 【実戦事例五 下ヒの戦い】 軍形篇 第四 【実戦事例六 官渡の戦い2】 兵勢篇 第五 【実戦事例七 白馬の戦い2】 【実戦事例八 合肥の戦い】 【実戦事例九 呉の平定】 虚実篇 第六 【実戦事例十 蜀漢滅亡】 軍争篇 第七 【実戦事例十一 諸葛亮の外交】 【実戦事例十二 夷陵の戦い】 【実戦事例十三 博望坡の戦い】 【実戦事例十四 穣城の戦い・ギョウ城の戦い】 九変篇 第八 【実戦事例十五 五丈原の戦い】 行軍篇 第九 【実戦事例十六 諸葛亮の信】 地形篇 第十 【実戦事例十七 泣いて馬謖を斬る】 九地篇 第十一 【実戦事例十八 第一次北伐】 火攻篇 第十二 【実戦事例十九 赤壁の戦い2】 用間篇 第十三 【実戦事例二十 孟達を誘う】 原文 解題 曹操の生涯 年表 -
港の世界史
港とは、いつの時代でもその時代の生産力と流通システムの決定的な影響を受ける、いわば「歴史の鏡」である。本書は、横浜で港湾経済史を研究してきた著者が、古代から現代までの世界の港の発達と、それをうながす生産・流通関係などの歴史を、ひとつの「物語」として描いた「港から見た世界史」である。 人類史上、漁労から発生した港は、古代オリエントや地中海、また中国においても、権力者が所有する軍事的・政治的な場であったが、やがて商取引を行う「交易の場」として発展を始める。ビザンチウムからベネチアへ引き継がれた中世の経済的伝統、大航海時代のセビリアやリスボン、オランダ全盛時代のアムステルダムを経て、産業革命期のロンドンに全く新しい時代の港が現れる。内陸の工業都市の発達により、それまでの商人船主は貿易商人と船主に分化し、港は単なる船着き場としての「ドック」から、巨大資本と行政によって多くのドックが統一された「ポート」へと変貌するのである。さらに20世紀後半には、ニューヨークに代表される大港湾で、コンテナ輸送とコンピュータ・システムによる「海運の大革命」が起こっている。 巻末解説を、イタリアの港町や東京など水辺の都市史の研究を深めてきた陣内秀信氏(法政大学特任教授)が執筆。〔原本:朝日新聞社、1989年刊〕 -
〈イスラーム世界〉とは何か 「新しい世界史」を描く
ジャーナリズムで、また学問の世界でも普通に使われる用語、「イスラーム世界」とは何のことで、一体どこのことを指しているのだろうか? ムスリムが多い地域のことだろうか、それとも、支配者がムスリムである国々、あるいはイスラーム法が社会を律している地域のことだろうか。ただ単に、アラビア半島やシリア、パレスチナなどの「中東地域」のことを指しているのだろうか? 本書は、高校世界史にも出てくるこの「イスラーム世界」という単語の歴史的背景を検証し、この用語を無批判に用いて世界史を描くことの問題性を明らかにしていく。 前近代のムスリムによる「イスラーム世界」の認識、19世紀のヨーロッパで「イスラーム世界」という概念が生み出されてきた過程、さらに日本における「イスラーム世界」という捉え方の誕生と、それが現代日本人の世界観に及ぼした影響などを明らかにする中で、著者は、「イスラーム世界」という概念は一種のイデオロギーであって地理的空間としては存在せず、この語は歴史学の用語として「使用すべきではない」という。そして、地球環境と人類史的視点から「新しい世界史」を構想し叙述する方法の模索が始まる。 本書は刊行当時、歴史学者・イスラーム学者の間に議論を引き起こし、アジア・太平洋賞特別賞を受賞した。文庫化にあたり、原本刊行後の議論を踏まえて「補章」を加筆。〔原本:『イスラーム世界の創造』東京大学出版会、2005年〕 -
説苑
「説苑(ぜいえん)」は、中国上代~前漢中期までの故事説話集。前漢の大儒・劉向(りゅうきょう)の編纂になり、皇帝の教育用の書として作られた。先行する書物をもとにして大幅に増補、内容別に整理して各編に序文が付けられている。編者は説話を通して自己の政治的主張を述べようとしたと考えられる。「君道」「臣術」「建本」「立節」「貴徳」「復恩」「善説」「権謀」「至公」「弁物」「修文」など全部で二〇篇からなり、一つ一つの説話は他書と一致するものが多く、諸子百家すべての系統の話が含まれている。そこで説かれている思想内容の基調をなすのは「尊賢論」と「節倹論」であるが、その根底には儒家思想が流れている。収録されている具体的な説話は「君子は争わず」「民に利あり」「陰徳あるものは陽報あり」「虻蜂とらず」「存亡禍福はみな身から出づ」「人の心は金次第」など、人口に膾炙したものも多く、普遍的な知としての有用性は現代人にも大いに役に立つものとなっている。 -
中世の罪と罰
「やーい、お前の母ちゃん、でべそ!」 誰もが耳にしたことがありながら、よく考えると意味不明なこの悪口。そこに秘められた意味とは? ありふれた言葉を入り口に、今は遠く忘れ去られた日本の姿が、豊かに立ち上がる。 「お前の母ちゃん…」のような悪口が御成敗式目にも載るれっきとした罪であり、盗みは死罪、犯罪人を出した家は焼却処分、さらに死体の損壊に対しては「死骸敵対」なる罪に問われれた中世社会。何が罪とされ、どのような罰に処せられたのか。なぜ、年貢を納めなければ罰されるのか。それは何の罪なのか。10篇のまごうかたなき珠玉の論考が、近くて遠い中世日本の謎めいた魅力を次々に描き出す。 稀代の歴史家たちが、ただ一度、一堂に会して究極の問いに挑んだ伝説的名著、待望の文庫化!(原本:東京大学出版会、1983年)解説(桜井英治・東京大学教授)より本書を通じてあらためて浮き彫りになるのは、中世社会が、現代人の常識や価値観では容易に解釈できない社会だということ、つまりそれは私たちにとって彼岸=異文化にほかならないということである。……日本中世史研究がまばゆい光彩を放っていたころの、その最高の部分をこの機会にぜひご堪能いただきたい。【主な内容】1 「お前の母さん……」 笠松宏至2 家を焼く 勝俣鎭夫3 「ミヽヲキリ、ハナヲソグ」 勝俣鎭夫4 死骸敵対 勝俣鎭夫5 都市鎌倉 石井 進6 盗 み 笠松宏至7 夜討ち 笠松宏至8 博 奕 網野善彦9 未進と身代 網野善彦10 身曳きと“いましめ” 石井 進討論〈中世の罪と罰〉 網野善彦・石井進・笠松宏至・勝俣鎭夫あとがき 笠松宏至あとがきのあとがき 笠松宏至文献一覧解 説 桜井英治 -
輪廻の思想
幼いころに父を亡くした著者は、あるとき、幾晩か続けて大きな蜘蛛が風呂場の天井にいることに気づいた。母にそれをいうと「お父さんかもしれないから、いたずらしてはいけない」と言われてびっくりした、という。かつては、死んだ血縁の者が、場合によっては他の動物になっている、ということを多くの人が信じていたのである。 こうした「業報輪廻」の考えは、仏教思想の中心というよりも、ジャイナ教やヒンドゥー教など東洋の宗教全体の大きな前提になっているという。そして、キリスト教などの一神教がダーウィニズムの挑戦を受けて思想的な見直しを迫られているように、輪廻思想と仏教も、進化論やバイオテクノロジーなどとの対決を迫られている。アレキサンダーの東征や、匈奴の強大化などがもたらした紀元前後の数百年間の仏教の危機の時代を、「阿弥陀仏」という新たな信仰によって乗り切ったように、新たな神話を創生していく必要があるというのだ。 さらに、スーパーマンとしての観世音菩薩、イエスとブッダの説話の類似性、親鸞の仏陀観の変化など、仏教社会の倫理と道徳を支えてきた「輪廻の思想」をめぐる講演と随筆を集成。〔原本:1989年、人文書院刊〕 目次 1 輪廻の思想――インド・中国・日本 2 仏塔信仰と大乗仏教 菩薩の平和思想 ブッダとイエス 3 本願力ということ 親鸞の仏陀観 親鸞における信心の深化 4 マングース物語 人と猿と神 仏教における非神話化 不老長寿 脳死・堕胎・中有 王舎城の温泉 チベットの牧象図 言語同断 蚕と蜘蛛――追悼 抱石庵 久松真一先生 お盆の思い出 海外の三人の師 無相さんと私 武生の雪 木村無相『念佛詩抄』 山頭火と私 -
ローマの哲人 セネカの言葉
パクス・ロマーナ期、ローマ帝国で弁護士、元老院議員、財務官、法務官、そして皇帝ネロの顧問官を歴任したセネカ(?~65年)は、思想家として人生、死、貧困、徳、欲望と快楽、真の自由という、誰の人生にも関わるテーマについて普遍的なメッセージを遺している。「どうしてこんな面白いものが今まで日本ではほとんど読まれなかったのだ」――特定の他者にあてた書簡の形で著した十数篇の文章を、『清貧の思想』『ハラスのいた日々』の作家・中野孝次が晩年自らの翻訳で読み解く。道徳的退廃に陥った21世紀の日本を憂え、人として生きる術を説くいきいきとした箴言として提示した、現代人のためのセネカ入門。(原本:2003年岩波書店刊) -
風俗画入門
古代から近代まで、人々の暮らしや心情を映し出す風俗画は、壁画、絵巻、屏風、浮世絵、漫画、落書など、様々な形で残されてきた。中国の影響から独立、展開し、近世に花開くその歴史は、高松塚古墳壁画から鳥獣戯画、洛中洛外図屏風、見返り美人図、北斎漫画までをも包み込む。古代の落書の精神は平安時代の絵巻に昇華し、仏教的な厭世観(憂世)は刹那主義的な現世肯定の精神(浮世)に受け継がれている。 日本美術史の第一人者が語り尽くす、類いまれな戯画全史。カラー図版多数掲載! 【目次】 第一章 風俗画の東西 第二章 唐美人の移入 第三章 やまと絵の風俗画 第四章 鎌倉、室町時代 第五章 戦国から桃山へ 第六章 桃山風俗画の満開 第七章 初期風俗画の爛熟 第八章 風俗画としての浮世絵 あとがき 学術文庫版あとがき 参考文献 -
中国思想史
昭和11年(1936)に『支那思想史』の書名で刊行され、戦後は『中国思想史』と改題してたびたび再刊されて今世紀まで読み継がれてきた概説書の、初の文庫化。孔子・老子に代表される古代思想はもちろん、その後の儒教・仏教・道教の相互交渉、朱子学・陽明学の成立、清代の考証学の確立まで、2000年以上におよぶ中国思想の幅広い歴史を、コンパクトに通観する。 著者によれば、維新以後この種の著作は数種出ているが、いずれも学者の伝記とその著書の解題を並べたものにすぎず、思想推移の跡をたどるに不便である、という。そこで本書では、思想変遷の過程を明らかにし、異質な思想が接触し変化する歴史を描くことに多く筆を割いている。 なかでも本書の大きな特徴は、四書五経の研究を深めた学問「経学」の変遷や、儒教や宋学への仏教の影響について大胆に説き明かしていることで、一人の研究者がこれほどの広い視野で中国の思想史を捉えた書物は、その後著されていない。 学術文庫のロングセラー、『孫子』『墨子』『諸子百家』等の著者、浅野裕一氏(東北大学名誉教授)が巻末解説を執筆。〔原本:岩波書店、1936年・1957年・2005年刊〕 -
バロック音楽
モンテヴェルディからバッハまで 実り豊かな古楽の花園 名曲の数々、音楽の花園、実り豊かなバロックの世界。装飾的で即興性を重視、ドラマの原理が支配する宇宙。モンテヴェルディのオペラ、ヴィヴァルディのソナタ、クープランのクラヴサン曲、バッハのカンタータ。華やかな宮廷舞曲や多様な世俗器楽や厳かな宗教音楽。音楽ファンを虜(とりこ)にするバロック音楽とはどんなものか。その特徴と魅力をあまさず綴る古楽への本格的な案内書。 最近バロック音楽がひろく聞かれるようになりましたものの、まだ後期バロック音楽に偏している気味が強いようです。初期や中期バロックの作品、またフランスやイギリスの作品、さらに中世やルネサンス期の音楽も、もっともっと聞かれてよいはずです。ひろく、しかも実り豊かな古楽の花園に分け入り、未知の音楽の喜びを見いだされるために、この本が少しでもお役に立つことができれば、執筆者としてこれに過ぎる喜びはありません。――<本書「はじめに」より> -
執権 北条氏と鎌倉幕府
北条氏はなぜ将軍にならなかったのか。なぜ鎌倉武士たちはあれほどに抗争を繰り返したのか。執権政治、得宗専制を成立せしめた論理と政治構造とは。承久の乱を制し、執権への権力集中を成し遂げた義時と、蒙古侵略による危機の中、得宗による独裁体制を築いた時宗。この二人を軸にして、これまでになく明快に鎌倉幕府の政治史を見通す画期的論考!【本書より】・鎌倉北条氏は、そもそもどのような家であったのか。・「得宗」とは、いったいどういう意味なのか。・これは事実自体がほとんど知られていないが、鎌倉将軍には実は四人目の源氏将軍が存在した。第七代将軍源惟康がその人である。鎌倉幕府が空前の強敵蒙古帝国と対峙したこの時期、なぜ鎌倉幕府は源氏の将軍を戴いていたのであろうか。―これらの問題を追究するためには、どのような方法が有効なのであろうか。まず、鎌倉幕府の通史や北条氏歴代の伝記を書くつもりはない。なぜならば、この本は北条氏という「一族の物語」ではなく、「一族の物語」の底を流れる「基調低音」を書くことが目的だと思うからである。表面的に幕府や北条氏の歴史をなぞっても、我々が求める答には辿り着けないはずである。そこで私は鎌倉北条氏歴代のなかからキー・マンとして二人の「執権」を選んだ。承久の乱で仲恭天皇を廃位し後鳥羽・土御門・順徳の三上皇を配流(流刑)した「究極の朝敵」、第二代執権北条義時と、蒙古帝国の侵略を撃退した「救国の英雄」第八代執権、北条時宗である。世間一般の評価に極端な隔りのあるこの高祖父(ひいひいおじいさん)と玄孫(ひいひいまご)の人生に注目することにより、答に迫りたいと考える。この試みが成功し、見事、解答に至れるかどうかは、わからない。「とりあえず付き合ってやるか?」と思った読者と共に旅に出るとしよう。【本書の内容】はじめに―素朴な疑問 第一章 北条氏という家 二章 江間小四郎義時の軌跡―伝説が意味するもの 第三章 相模太郎時宗の自画像―内戦が意味するもの 第四章 辺境の独裁者―四人目の源氏将軍が意味するもの 第五章 カリスマ去って後 おわりに―胎蔵せしもの -
ビールの教科書
麦芽やホップの役割とは? エールにラガー、ピルスナー。ドイツにチェコ、ベルギー、日本……それぞれどこが違う? 「生ビール」は何が「生」か? 「キレ」「コク」の正体は? そして何より、おいしく飲むためには――。自ら醸造会社を率いていた著者が、「一回きりのビール人生を楽しんでもらいたい」と起源、歴史、製法、見分け方、飲み方を余すところなく指南。この一杯のために生きている人すべてに捧げます。 -
拷問と処刑の西洋史
啓蒙主義と人権思想を生んだヨーロッパの「光」の歴史の裏には、数多の人間を血祭りに上げてきた、陰惨たる「闇」の系譜があった! 火刑、斬首、車裂き……親指詰め、ハシゴ吊るし、「スペインのブーツ」……王殺しや異端審問、魔女裁判を通して発明された拷問と処刑のシステムを、社会の秩序回復と体制強化のための非人間的な権力装置として読む、異色にして出色の文化史。 【目次】 序 章 ヨーロッパ史の光と影 第一章 王殺しの記憶 第二章 異端審問と「死の祭典」 第三章 魔女裁判の歴史 第四章 拷問という権力装置 第五章 裁判と処刑の実態 終 章 ヨーロッパ史の闇の系譜 あとがき 処刑関係略史 参考文献 学術文庫版へのあとがき 【本書の主なトピック】 ●15分で失神……究極の拷問具「ボック」とは? ●斬首、絞首、火刑、生き埋め、車裂き……最も重い刑罰は何? ●水審……沈んだら「無罪」、浮いたら「魔女」確定 ●映画やメルヘンにも登場、「鉄の処女」伝説の虚実 ●マリー・アントワネットの母作成、「拷問図説マニュアル」 ●太陽王ルイ14世の治世を脅かした「パリの黒ミサ事件」 ●舌を抜いたらおいくら? 拷問と処刑のお値段 -
生命の意味論
伝染病も老化も死も、官僚制も企業も大学も、「免疫」からはこう見える! 『免疫の意味論』(大佛次郎賞)を凌駕する圧倒的スケールで描かれる、稀代の免疫学者による「超」生命論。(解説:養老孟司) 「私はこの本で、生命の持つあいまいさや多重性、しかしそれ故に成り立つ「超(スーパー)システム」の可能性について考えた。そこには「不気味さ」と「美しさ」が紙一重で同居している」――「まえがき」より [目次] まえがき 第一章 あいまいな私の成り立ち 第二章 思想としてのDNA 第三章 伝染病という生態学(エコロジー) 第四章 死の生物学 第五章 性とはなにか 第六章 言語の遺伝子または遺伝子の言語 第七章 見られる自己と見る自己 第八章 老化――超(スーパー)システムの崩壊 第九章 あいまいさの原理 第十章 超(スーパー)システムとしての人間 参考文献 あとがき 解説 多田富雄さんと私 養老孟司 -
箴言集
われわれの美徳とは、偽装された悪徳にほかならない――17世紀フランスの激動を生き抜いた公爵にしてモラリストが、人間の本性を見事に言い表した「箴言」。鋭敏な洞察と強靱な思考、そして豊かなユーモアによって紡ぎ出された一行が、神からの自立を果たした近代人の抱える「自己愛」という宿命を撃ち抜き、さらには現代のわたしたちの心に深く刺さる。原文が醸す空気までをも伝える新訳。【訳者まえがきより】彼の人間を見る目、そして自分自身を見る目は鋭く、個人的体験のいかんにかかわらず、神からの自立をとげ、人間中心主義を標榜する近代人の本質、本性を早くから見抜いていたと思われる。彼は、自分自身、そして自分の個人的運命さえも客観視できるだけの強靱な精神、心の余裕、ユーモアさえ備えており、だからこそ、彼の人間観察は現代にも通用する普遍性を獲得しているのである。【主な内容】書肆から読者へ 道徳的考察 削除された箴言 没後収録の箴言 さまざまな考察 ラ・ロシュフコー自画像 -
おみやげと鉄道 「名物」が語る日本近代史
◇各地に無数に存在する「おみやげ」は、外国にも近代以前にも存在しない、独特の文化だった!◇ 日本各地の駅には、饅頭や羊羹などや弁当などの食品が、その土地の名物として売られている。 私たちにとって当たり前のこの光景は、実は他の国ではほとんど見られない(ロンドンのターミナルで「ビッグベン当」などの類は見あたらない)。 この類い稀なる「おみやげ」という存在は、鉄道を筆頭とする「近代の装置」が、日本の歴史、文化と相互作用して生まれたものだった! 「きびだんご」が岡山名物になったのは、日清戦争と鉄道敷設の歴史的事情が背景にあった。 静岡駅の安倍川餅は餅ではなく「求肥」なのも、赤福が伊勢名物として有名になったのも、なぜか北海道にバナナ饅頭があるのも、鉄道という「近代の装置」抜きにしては語れない。 交通網の発展と各地の歴史が結びついて「名物」を生み出してきたさまを、膨大な史料を徹底的に読み込んで、鮮やかに描き出す、唯一無二の研究の集大成! 鉄道を独特の角度から捉えながら日本近代史の探求を続けてきた著者の代表作。 【本書の内容】 序章 おみやげの起源とおみやげ文化 日本の特異なおみやげ文化/日本独特の「名物駅弁」/「おみやげ」と“スーベニア”/「名物」と「みやげ」 など 第1章 鉄道と近代おみやげの登場 清河八郎の「おみやげ配送」/日清戦争と鉄道輸送/五色豆と政岡豆/「異人くさい」鳩サブレーが名物となるまで など 第2章 近代伊勢参宮と赤福 明治天皇に届けられた赤福/赤福を凌駕していた生姜糖/近鉄電車と構内販売 など 第3章 博覧会と名物 博覧会・共進会・商品陳列所/江の島貝細工の盛衰/鉄道院の名物評価/全国菓子大博覧会/大垣の柿羊羹 など 第4章 帝国日本の拡大と名物の展開 「軍都」に生まれる「軍人土産」/創出の物語―もみじ饅頭と伊藤博文伝説/新領土台湾とおみやげ など 第5章 温泉観光とおみやげ 温泉饅頭の誕生/道後煎餅と温泉煎餅/熱海の干物―由緒づけなき名物/有馬温泉から別府への技術移入 など 第6章 現代社会の変容とおみやげ 変化の中で生き残ったおぎのやの釜飯/ひよ子創業伝説/長く不在だった東京みやげの代表 など 終章 近代の国民経験とおみやげ 注 あとがき 名物索引 *本書の原本は2013年に講談社より刊行されました -
古代エジプト文明 世界史の源流
◆2025年「ラムセス大王展」開催!◆ ◇ラメセス二世がなぜ最強のファラオなのか・最高によくわかる!◇ ―すべての道はナイル河谷へ通ず― アフリカ最奥から到来した人々が築いた文明は、オリエントや古代ギリシアなど周辺世界に決定的影響をもたらしながら三千年の栄華を誇った。 古王国時代からローマ帝国時代まで強大なファラオたちを核にして展開した歴史は、まさしく西洋世界の源流となったのである。 古代エジプト研究をリードする著者が、古代エジプト文明を西洋世界の源流のひとつとして捉え、最新の研究成果をふんだんに盛り込みながら、教科書では描かれきれない新たな歴史像を描き出す! ◯異民族「ヒクソス」の実像&彼らとラメセス大王が戦った「最古の戦争」カデシュの戦いとは? ◯一神教の「起源」はモーセか、アクエンアテンか? ◯エジプト王国最後の象徴クレオパトラの実像は? ◯謎の民族「海の民」の正体とは? ◯「エジプトの神々」と「来世信仰」は世界にどのように広がったか? 【本書の内容】 プロローグ 序章 古代エジプト文明の誕生 第1章 ミノア文明と古代エジプト文明 第2章 異民族ヒクソスの時代 第3章 アクエンアテン王の宗教改革と多神教世界 第4章 アマルナ時代とアマルナ文書 第5章 ラメセス二世vs. ヒッタイト 第6章 ラメセス三世と「海の民」 第7章 アレクサンドロス大王とアレクサンドリア 第8章 女王クレオパトラ七世のエジプト 第9章 古代ローマ帝国と皇帝たちのエジプト文化 終章 古代エジプト文明は世界史の中へ 補章 「タニスの遺宝」が語るエジプト文化の変容 注 図版出典 参考文献 古代エジプト文明年表 索引 【本書より】 たとえ我々に馴染みのある教科書の中の記述はわずかであったとしても、世界史の中において、古代エジプトの果たした役割は、決して少なくはない。世界史の主人公がエジプトであった時期は確かに存在した。(中略)古代ギリシア世界も、強靱で巨大な古代ローマ世界も、あるいはビザンツ帝国もフランク王国でさえも、古代エジプトという強固な礎なくしては、世界史に名を残すことはなかったであろう。本書を読破した後、あなたは古代エジプトとはすでに失われてしまった過去の文明ではないことに気づくはずである。古代エジプト文明の血脈は、人々の記憶の中へと潜り込その後も世界史の中で脈々と流れ続けているのである。 *本書の原本は、2012年に講談社選書メチエより刊行されました。 -
古代ローマの饗宴
キャベツ礼賛者カトー、最高の饗宴を催した解放奴隷トリマルキオ、「真似のできない暮し」をしたクレオパトラ、葡萄酒を愛した詩人ホラティウス、消化不良のキケロ……。養殖の海魚、肥えたヤマネ、乳育のカタツムリなど贅を極めた晩餐から、農夫の質実剛健な食卓まで、二千年前、大繁栄を謳歌した帝国の食文化とは。当時の食材やレシピも多数併録。 永遠なる美食の大帝国で、人々は何をどう食べ、飲んでいたのか? 監察官カトー、武将アントニウス、詩人ホラティウス、『料理書』のアピキウス、解放奴隷、農夫……。当時のレシピも併録 キャベツ礼賛者カトー、最高の饗宴を催した解放奴隷トリマルキオ、「真似のできない暮し」をしたクレオパトラ、葡萄酒を愛した詩人ホラティウス、消化不良のキケロ……。養殖の海魚、肥えたヤマネ、乳育のカタツムリなど贅を極めた晩餐から、農夫の質実剛健な食卓まで、二千年前、大繁栄を謳歌した帝国の食文化とは。当時の食材やレシピも多数併録。 私はなにを語るのでしょう? むろんそれは古代ローマの社会生活や習慣であり、ローマ人の時間の過ごし方や、楽しみ方といったものです。友達と会うこと、愛する人と睦まじく食事をすること、好物の料理を味わうこと。結局のところ、今日私たちがやっていることとそんなに違いはありません。宴会でなにがどのようにふるまわれたかも調査ずみです。また巻末では、いくつか古代ローマのレシピを紹介します。皆様方のお国には、おいしい魚と肉、ハチミツ、それに、ローマ人が好んで用いた品々がたくさんある。だから再現はきっと可能なはずです。――<「学術文庫版によせて」より抜粋> ※本書は1991年、平凡社より刊行された『古代ローマの饗宴』を元に改変をほどこしました。 -
滑稽の研究
「のらくろ」の巨匠が「滑稽とはなにか」?」を真摯に探求する! 国内外の美学、修辞学、論理学等の著作から滑稽論を渉猟し、理論的バックボーンを追求。また、芸能・文芸・絵画の史料にその発祥を求める。滑稽理論の実例として、実作者ならでは、自身の作品を豊富に使用。また、愛弟子の長谷川町子ほか同時代作家の作品も、あたたかな解説とともに掲載する。 -
日本の近代仏教 思想と歴史
「近代仏教」とはなにか? 「伝統(あるいは古典)仏教」とはなにか? 十九世紀以来の欧米やアジア各地の仏教をみると、共通する同時代的な特徴がある。仏教は近代になって、グローバル化したのである。その中で、日本の仏教も大きな変化を被った。 浄土系の思想を、清沢満之の思想を見直し、その弟子である曽我量深の初期思想の持つ可能性を検討した。また、近代日本の親鸞理解に大きな影響を与えた倉田百三の親鸞理解の特性を検証し、後年の倉田のファシズムへの傾倒の必然性を示した。 日蓮系の思想にもっとも影響力の強かった田中智学を検討し、一見国家主義的と見られるその国体論が、じつは仏教と国家の間の矛盾に揺れていたことを解明する。 また、戦後の創価学会の価値観を思想的に明確にしようとした松戸行雄の凡夫本仏論について検討し、世俗化の進む現代社会の中での仏教思想のあり方を考察した。 近代における禅思想を代表する鈴木大拙は、その評価が全面賛美か全面批判かの両極に分かれている。一批判すべきところと評価すべき点に検討を加えた。キーワードは、「日本的」と「中国的」との対比である。 そして、近代の仏教研究の問題点を、二点に絞って検討する。日本史学者として著名な家永三郎の日本仏教の扱い方を、批判的に検討してみた。また、日本では大乗仏教が優れているということが常識のように考えられているが、そこに問題がないかということを、宮本正尊という一学者の説の展開を中心に追ってみた。 私たちの仏教のイメージが、明治以降にどのようなプロセスを経てきたのかを解明し、昨今の仏教研究の基礎を知るための一冊でもある。 *本書は、『思想としての近代仏教』(中公選書)を底本にし、「仏教方法論と研究史」「近代における仏教辞典の編纂」「大乗仏教の実践--研究状況をめぐって」を割愛し、改題をした。 【目次より】 序章 伝統と近代 I 浄土思想の近代 第一章 清沢満之研究の今――「近代仏教」を超えられるか? 第二章 宗派の壁は超えられるか 第三章 迷走する親鸞 第四章 愛の求道者――倉田百三 II 日蓮思想の展開 第五章 国家・国体・天皇と日蓮思想――田中智学を中心に 第六章 世俗化と日蓮仏教――松戸行雄の「凡夫本仏論」をめぐって III 鈴木大拙と霊性論 第七章 大拙批判再考 第八章 鈴木大拙における「日本的」と「中国的」――『日本的霊性』を中心に IV 日本仏教と大乗仏教 第九章 家永三郎と戦後仏教史学 第十章 大乗非仏説論から大乗仏教成立論へ――近代日本の大乗仏教言説 終章 今、近代仏教を問う -
藤原道長「御堂関白記」を読む
【平安最大の権力者は何を“後世に残すべきだ”と考えたか】 大河ドラマ『光る君へ』時代考証者が徹底的に読み解く! 原本写真多数掲載。 豪放磊落な筆致、破格の文体、そして抹消された箇所……平安時代最大の権力者は、自らの手で何を書き残したのか。 「披露すべきに非ず。早く破却すべき者なり」と道長が記したのはなぜか。 「望月の欠けたる事も無しと思へば」はいかなる場で詠まれたものだったか。 摂関期の政治、外交、儀礼の生々しい現場から家庭生活と精神世界までを描く世界最古の自筆本日記を、第一人者が徹底的に読み解き、宮廷社会の実像をさぐる。 原文写真・翻刻・現代語訳・解説がそろった、決定版! 【本書より】 『御堂関白記』独特の面白さがある。また、『御堂関白記』を記した藤原道長自体、日本史上でめったにいないほど、面白い人物である。それらの楽しみを、原本の写真とともにたどることは、他の史料ではちょっと味わえない面白さがある。 この本では、その日の記事に何が記されているかに加えて、その日の記事がどのように記されたのか、また、どのように書写されたのかに視座を据えて、記述のてんまつ、また書写のてんまつを明らかにしたい。本来、歴史学というのは、史料を読み込んでいき、それを読み解くというのが基本的な姿勢である。世間では古代史というと、好き勝手な推論を積み重ねている ものと思われているかもしれないが(実際、『御堂関白記』や道長についてもトンデモ本が流布しているらしいのは嘆かわしいかぎりである)、史料にどう向き合うかという姿勢を伝えることこそ、歴史学者の本来の使命であると考える。 結果的には、自分が楽しんだだけではなかったかと恐れているが、自分が楽しいことはきっと楽しんでくれる人もいるはずであるという思い込みに支えられて、この本を世に出す。 【本書の内容】 序 章 『御堂関白記』とは何か 第一章 権力への道 ――政権獲得、彰子入内・立后など―― 第二章 栄華の初花 ――敦成親王誕生、一条天皇崩御など―― 第三章 望月と浄土 ――摂政就任、威子立后、出家など―― 番 外 『御堂関白記』自筆本の紙背に写された『後深心院関白記』 終 章 再び『御堂関白記』とは何か 年譜/略系図/主な登場人物紹介/関係地図を掲載 *本書の原本は、2013年に講談社選書メチエより刊行されました。 -
アーリヤ人の誕生 新インド学入門
ヨーロッパのラテン語・ギリシア語とインドのサンスクリット語に共通の祖となる、失われた起源の言語――。そんな仮想の言語の話し手として「アーリヤ人」は生み出された。そして、それは瞬く間にナチス・ドイツの人種論に繋がる強固な実体を手に入れる。近代言語学の双生児「アーリヤ人」は、なぜこれほどまでに人々の心を捉えて離さないのか。 言語学誕生の歴史から、「すべての起源」インドに取り憑かれた近代ヨーロッパの姿が克明に浮かび上がる! 「インド学」はインドで発達した学問ではない。18世紀末からサンスクリット語文献を集めてきたヨーロッパを中心に発達してきた。私たち日本人が抱く「インド」イメージもまた、近代ヨーロッパという容易には外しがたい眼鏡を通して形成されている。 植民地インドで「発見」された古典語サンスクリットの存在は、ラテン語やギリシア語との共通性から、ヨーロッパとインドに共通する起源の言語の存在を想像させた。類稀な語学の才に恵まれたイギリス人ウィリアム・ジョーンズ(1746-94年)によるこの「発見」によって、近代言語学は誕生する。同時にオリエンタリズムがヨーロッパを席巻し、『シャクンタラー姫』をはじめとするサンスクリット語文献が次々にヨーロッパで翻訳された。 その奔流のなかで『リグ・ヴェーダ』を英訳したのが、ドイツ出身で英国オックスフォード大学に職を得たフリードリヒ・マックス・ミュラー(1823-1900年)である。彼は比較言語学の成果から、『リグ・ヴェーダ』の成立年を紀元前1200年頃と推定し、「アーリヤ人の侵入」を紀元前1500年頃とした。日本の教科書でもよく知られる記述の源は、ここにある。 19世紀ヨーロッパで言語学とともに誕生した「アーリヤ人」は、20世紀にはナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を生み、さらにはインダス文明が発見されたインドに逆流して、考古学的成果と対峙しながらさらなる波紋を生んでいく――。 近代言語学の双生児「アーリヤ人」は、なぜこれほどまでに人々の心を捉えて離さないのか。なぜ言語は常に民族という概念を呼び寄せずにいられないのか。言語学誕生の歴史をひもとくことで「起源」というロマンに取り憑かれ、東洋を夢見た西洋近代の姿を克明に描き出す。インドの実像に目を開く一冊。(原本:『新インド学』角川書店、2002年) 【本書の内容】 第1章 インド学の誕生ー―十八世紀末から十九世紀初頭のインド・カルカッタ 第2章 東洋への憧憬ー―十九世紀前半のヨーロッパ 第3章 アーリヤ人侵入説の登場ーー―十九世紀後半のヨーロッパ 第4章 反「アーリヤ人侵入説」の台頭――二十世紀のインド 第5章 私のインド体験ー――多様性との出会い 補 章 出版二十年後に -
異常の構造
臨床の場に身を置きつづけながら、綺羅星のような著作および翻訳を遺した稀代の精神病理学者木村敏(1931-2021年)。その創造性は世界的に見ても人後に落ちない。 著者の名を世に広く知らしめるとともに、社会精神医学的な雰囲気を濃く帯びていることで、数ある著作のなかでもひときわ異彩を放つ名著に、畏友・渡辺哲夫による渾身の解説を収録。 「異常」が集団のなかでいかに生み出され、また「異常」とされた人々のうちでなにが生じているのか、社会および個人がはらむ「異常の構造」が克明に描かれる。私たちはなぜ「異常」、とりわけ「精神の異常」に対して深い関心と不安を持たざるを得ないのか。「自然は合理的である」という虚構に支配された近代社会が、多数者からの逸脱をいかに異常として感知し排除するのか。同時に患者のうちで「常識の枠組み」はどのように解体され、またそのことがなぜ「正常人」の常識的日常性を脅かさずにはおかないのか――。 「あとがき」に刻印された「正常人」でしかありえない精神科医としての著者の葛藤は、社会における「異常」の意味を、そして人間が生きることの意味を今なお私たちに問いかけ続けている。(原本:講談社現代新書、1973年) 【本書の内容】 1 現代と異常 2 異常の意味 3 常識の意味 4 常識の病理としての精神分裂病 5 ブランケンブルクの症例アンネ 6 妄想における常識の解体 7 常識的日常世界の「世界公式」 8 精神分裂病者の論理構造 9 合理性の根拠 10 異常の根源 あとがき 解 説(渡辺哲夫) -
往生要集入門 悲しき者の救い
辛い現世を終えて、来世こそは阿弥陀仏のすまう極楽浄土に生まれたい――貴賤を問わず日本で幅広く、長きにわたって信仰されてきた浄土思想。すべては平安時代、一人の僧によって著されたこの書物から始まった。源信なくしては、法然も親鸞もない。 『往生要集』の訳・校注で知られる著者が、歴史的背景に始まりゆるやかに『往生要集』の構成に沿いつつ、親しみやすい現代語訳を随所に示しながら、源信の教えの真髄を平易に解き明かす。 「予が如き頑魯(がんろ)の者(わたしのような愚かなもの)」と自らを顧みた源信(942-1017年)。智慧や才にめぐまれた一握りの人ではなく、自身を含む多くの罪深い「悲しき者」が救われる道を模索した『往生要集』が、日本の思想・信仰に与えた影響ははかりしれない。 往生を目指すべき理由として描かれる等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、阿鼻地獄など数々の地獄も、経典と源信自身の言葉を交えながら、恐ろしい責め苦が生々しく描き出され、それに対応する極楽の姿、そして現代人の想像をはるかに超える仏の姿もあざやかに示される。地獄、極楽、さらに仏の姿は、信仰のみならず、のちの思想、文学、芸術にも大きな影響を及ぼした。『源氏物語』や『栄華物語』、『梁塵秘抄』など、のちの文学作品にみられる『往生要集』の影響も示唆される。 『往生要集』は「集」というその名が示す通り、『無量寿経』、『観無量寿経』、『阿弥陀経』の浄土三部経をはじめ数多の経典や経典の注釈書の引用によって、往生の要諦を説いたものである。膨大多岐にわたる出典についての解説は、仏教学の泰斗たる著者ならではのものであり、源信が数々の経典のなかから何を重要としていたのかが、次第に浮かび上がってくる。 仏の姿を念じる「観相の念仏」を自らの思想の核とした源信が、「南無阿弥陀仏」と仏の名を口で称えるいわゆる「念仏」、「称名の念仏」に託したものとは何だったのか――。浄土思想の原点に触れる一冊。(原本:『悲しき者の救い――源信『往生要集』』筑摩書房(仏教選書)、1987年) 【本書の内容】 はしがき 第一章 『往生要集』の成立 第二章 迷いの世界 第三章 浄土へのねがい 第四章 正しい念仏 第五章 悲しき者の救い 源信略年譜 あとがき 付 参考文献について 選書版あとがき 解 説(岩田文昭) -
宇宙の哲学
宇宙の歴史は有限か無限か? 「この宇宙」はどのように生まれたのか? 時間以前には何があったのか? …… 宇宙の謎をめぐる人類の探究の歴史を、ケプラーのSF的宇宙探索物語、パスカルの無限空間への恐怖、ニュートンの普遍力学、カントのコペルニクス的転回、ラプラスの魔、パースの進化論的宇宙論といった魅力的なトピックとともに、コンパクトかつ深く辿る! ビッグバン宇宙論や多宇宙論など、物理学の最新成果を踏まえた、哲学の泰斗による「新しい自然哲学」構築の試み。 解説は、『なぜ宇宙は存在するのか』の野村泰紀氏(理論物理学/カリフォルニア大学バークレー校教授)。 [目次] ■講義 自然哲学の行方 第一講 コスモロジーの自立 (われわれの生きる宇宙/…新しい自然哲学の時代のとばぐち/…) 第二講 ケプラーの夢 (伝統的思考法からの独立/…世界初のサイエンス・フィクション/…) 第三講 無限宇宙の永遠の沈黙 (…沈黙する宇宙と人間の孤独/…パスカルの根源性と先駆性) 第四講 時空をめぐる論争 (ニュートン力学が切りひらいた問い/カントによる時空論の総合/…) 第五講 レヴォリューションーー回転か革命か (世界観の転換/…時空やカテゴリーは固定的か) 第六講 決定論の崩壊 (ラプラスの魔/…非決定論の方へ) 第七講 ビッグバンの方へ (「人類の偉大な一歩」/…哲学に役割は残されているか/…) ■補講 宇宙の時間、有限か無限か 補講一 有限説と無限説 (カントの「誤り」を超えて/…宇宙の歴史は無限か/…) 補講二 カントのアンチノミー (アンチノミーが暴くもの/…ゼノンのパラドクスから一九世紀の数学・論理学へ) 補講三 パースの宇宙論 (進化論的宇宙論ーーカオスからコスモスへ/…現実の「外」へと目を向ける方法) ■解説 新しい自然哲学は未解決問題に挑めるか 野村泰紀 ■人名索引 -
天皇陵 「聖域」の歴史学
今年7月、大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」が日本で23件目のユネスコ世界遺産に指定された。しかし、この世界遺産を構成する古墳の多くは、その被葬者さえ特定されていない。最大規模を誇る仁徳天皇陵や、履中天皇陵、允恭天皇陵などには、本当にその天皇が眠っているのだろうか。天皇陵は、いつ、どのように定められ、管理されているのか、近世・近代史を専門とする著者が、「天皇陵の歴史」と問題点を解き明かす。江戸時代中期、各地の古墳を独自に探査した蒲生君平。幕末期、尊王思想の高まりの中で、陵墓の比定と修補を願い出た宇都宮の藩主・戸田忠至。こうした近世の研究成果の上で、明治政府は、全天皇と皇族の陵墓を決定していった。神話に語られる天皇の実在を「証明」するためにも、墓の確定は欠かせなかったからである。神武天皇陵や仁徳天皇陵はどのように決められたのか、明治天皇陵はなぜ京都にあるのか、大正天皇陵の参拝に大混雑した鉄道と町、昭和初年に新たに皇統に列せられた南朝第3代の長慶天皇の陵はどう探したのか、さらに天皇陵の祭祀の場としての意味、著者が発見した資料「陵墓参考地一覧」からわかること――など、あらゆる論点から天皇陵を検証し、今後の科学的・考古学的調査の必要性を訴える。〔原本:『天皇陵論―聖域か文化財か―』 新人物往来社、2007年刊〕 -
レイシズム
日本人論の「古典」として読み継がれる『菊と刀』の著者で、アメリカの文化人類学者、ルース・ベネディクトが、1940年に発表し、今もロングセラーとなっている RACE AND RACISMの新訳。 ヨーロッパではナチスが台頭し、ファシズムが世界に吹き荒れる中で、「人種とは何か」「レイシズム(人種主義)には根拠はあるのか」と鋭く問いかけ、その迷妄を明らかにしていく。「レイシズム」という語は、本書によって広く知られ、現代まで使われるようになった。 「白人」「黒人」「黄色人種」といった「人種」にとどまらず、国家や言語、宗教など、出生地や遺伝、さらに文化による「人間のまとまり」にも優劣があるかのように宣伝するレイシストたちの言説を、一つ一つ論破してみせる本書は、70年以上を経た現在の私たちへの警鐘にもなっている。 訳者は、今年30歳の精神科医で、自らの診療体験などから本書の価値を再発見し、現代の読者に広く読まれるよう、平易な言葉で新たに訳し下ろした。グローバル化が急速に進み、社会の断絶と不寛容がますます深刻になりつつある現在、あらためて読みなおすべきベネディクトの代表作。 -
易学 成立と展開
〈なぜ「占い」が儒教の核心的原理なのか?〉 〈大いなる矛盾に満ちた「中国的二元論」の思想史〉 哲学的であって通俗的、神秘的であって合理的― 陰と陽による二元論で世界を把握しようとする思考様式が、先秦から清朝に至るまでの哲学、世界観、歴史観を貫いていることを示す、碩学による無二の思想史。 易を知ることは、「中国的思考」の本質を理解することである! 【本書より】 ―最も中国独自のもの、それは易― 易には逆説めいたものがある。法則の中の破格を容認する。論理より象徴、数をよしとする。これは中国の学問芸術について見られる。易は人の運命を天道と一つに見る。中国の歴史の見方とつながるところがある。(第四章より) 【解題・三浦國雄】 「本書は『易経』というテクストに焦点を絞り、それがどのようにして成立し、漢代から清朝に至るまで、どのような解釈が施されたか(つまりどのように読まれたか)を解明しようとしたものである。その際、『易経』や注解および注解者の内部に降り立って分析する一方(「心理」や「意識」「無意識」の語がよく使われる)、そのような読解が生み出された根拠を注解者の内面とともに外面│すなわち彼らが生きていた時代相にも求めるところに本書の独自性がある。その結果として、本書のボリュームの大半を占める第一章(易経の成立)と第二章(易学の展開)がおのずから先秦から清代に至る思想史になっているのであるが、これは余人には真似のできない著者の独壇場と云ってよい」 【本書の内容】 第一章 易経の成立 第一節 通説とその批判 第二節 易の発生基盤 第三節 経 第四節 左伝に見える易 第五節 彖と象 第六節 陰陽 第七節 繋辞 第八節 十翼の完成 第二章 易学の展開 第一節 前漢の易 第二節 後漢の易学 第三節 王弼、それ以後 第四節 宋・明の易説 第五節 清朝の易学 第三章 筮法 第四章 易と中国人のものの考え方 解題 三浦國雄 ※1960年にサーラ叢書(平楽寺書店)より刊行された同名書の文庫化です。 -
「世間体」の構造 社会心理史への試み
世間の目を意識する日本人特有の行動原理とは? 世間に対して体面・体裁をつくろい、恥ずかしくない行動をとろうとする規範意識――それが世間体である。唯一絶対神をもたない日本人は、それを価値規準とし、世間なみを保つことに心を砕いてきた。世間の原義と変遷、また日本人特有の羞恥、微笑が生まれる構造を分析し、世間体を重んじる意味を再考する。世間論の嚆矢となった出色の日本文化論。(講談社学術文庫) -
武士の町 大坂
江戸時代の大坂と言えば「天下の台所」、つまりは町人の都というイメージが強いだろう。司馬遼太郎は、幕府直轄の武士はわずか二百人と述べている。しかし、江戸時代のはじめからおわりまで、一貫して大坂は「武士の町」だったのだ! 大坂に武士はほんとうは何人いたのか? 武士たちはどうやって大坂の生活を楽しんでいたのか? 大坂城はどんな構造だったのか? 奉行所では何が行われていたのか? 大塩平八郎はなぜ決起したのか? なぜ「大坂は町人の町」という言説が生まれたのか? 「武鑑」や、大坂町奉行所の絵図面、代官たちの日記、幕府にのこされた数々の文書など、数多くの史料を駆使して、大坂という町で、いかに武士が生き、歴史を動かしていたのかに光をあてる快心作。 -
キリスト教入門
キリスト教抜きに世界のスタンダードは理解できない! 旧約・新約聖書を丁寧に解説、「救世主」「アダムとイヴ」「三位一体」「クリスマスツリーと十字架」「原理主義」「進歩主義とグローバリゼーション」などのキーワード/トピックから、キリスト教理解を立体的に組み上げる。信仰生活のリアル、各宗派とのかかわり方など、実践的なガイドも盛り込んだ、非キリスト教文化圏に住まう「普通の日本人」のための最良の入門書! 混迷の時代、普遍宗教が示す未来とは? [目次] はじめに 教養としてのキリスト教 キリスト教を読む キーワードで考えるキリスト教 三次元で読むキリスト教 知の道具箱 おわりに 学術文庫版へのあとがき -
芸 秘伝伝授の世界
絵画、舞踊、演劇、武術、茶、花、刀剣鍛造・鑑定……体を使って文化価値を創造する「芸」は、いかに習得し、創造していくものなのか。師匠から弟子への相伝作法から見る日本人の精神構造。家元制度というシステムの背景。千利休や芭蕉、世阿弥の芸術論や「秘伝」の哲学と社会的役割など、「芸道」という独特の文化社会を考察する! 目次) 第一章 芸道の成立 芸と芸道/「型」の理論/芸道成立の実例 第二章 芸道の系譜 遊芸の系譜/武芸の系譜/大衆芸能の系譜 第三章 秘伝の相伝 秘伝伝授の歴史/家元制度と相伝 第四章 芸の習得 一生修行の世界/仏道の行/遊芸の行/芸の習得と想像 第五章 至芸の境 守・破・離/名人と天才 解説「芸」における弟子の効用 内田 樹(神戸女学院大学名誉教授・武道家) 本書は『芸の世界 ――その秘伝伝授』(1980年刊 講談社)を改題したものです -
漱石人生論集
『吾輩は猫である』を1905年に発表し、文壇に登場してから絶筆となった1916年の『明暗』まで、10年余りの作家活動で人生を深く考察した夏目漱石。その読み手として著名な直木賞作家・出久根達郎氏が、「漱石の作品のすべてが人生を論じている」として選んだ随筆、講演、書簡などから、人間と人生を凝視した警句と人生訓を読み取る。(講談社学術文庫) ※この電子書籍の底本である、講談社学術文庫の原本は、2001年4月に講談社より講談社文芸文庫として刊行されました。『漱石人生論集』は、講談社学術文庫を底本とし電子化した電子書籍のほかに、講談社文芸文庫を底本とし電子化した電子書籍も配信中です。電子書籍の講談社文芸文庫版には、電子書籍の講談社学術文庫版に収録されている「解説」(出久根達郎)が収録されていません。 -
そば学大全 日本と世界のソバ食文化
日本が誇る伝統食にして健康食、そば。しかし、植物であると同時に作物でもあるソバの文化は、日本だけのものではない。ソバの本場・信州で研究を積んだ農学者が、世界のソバ食文化を探訪して日本のそばの魅力を再発見する。さらにその栄養と味覚、健康食品としての機能や、品種改良についても解説。 江戸の農書に表れる「ソバめくそ」「めくそ飯」とは何か? 「普通種」よりも収量が多くて安定しているダッタンソバ、ニガソバは、なぜ日本で栽培されなかったのか? なぜ「手打ちそば」が上等なのか? 朝鮮半島のシミョン、カルクッス、中国の「猫の耳たぶ」マオアルドウ、ネパールのソバの腸詰、ウクライナのソバカーシャ、スロベニアのソバ団子、フランスのガレットに、イタリアのポレンタ・・・各地のソバ食レシピをみれば、日本の「そば切り」を本流とする麺食ばかりがソバではない。縄文時代から親しまれる、ソバをもっと楽しむ本。〔原本:平凡社、2002年刊〕 -
未完のレーニン 〈力〉の思想を読む
◇◆資本主義の「外」は断じてあり得る!◆◇ 『主権者のいない国』『永続敗戦論』『武器としての資本論』著者が、はじめて世に問うた単著であり、 その政治学・思想史学の確固たる原点として記念されるべき主著、ついに文庫化。 ◆「革命」のコペルニクス的転回とはいかなるものか?◆ レーニンという思想史上の事件そのものである人物の思想、その核心を、 二つの著作『国家と革命』『何をなすべきか?』のテクストを鋭い視角のもと読み込むことで、 現代に生きる私たちに意義あるものとして、新たに捉え直す。 著者の政治思想研究の確固たる原点にして、いまいっそう強く響く、鮮烈な論考! ◇著者からのメッセージ◇ どう見ても間違った構造のなかに自分たちがいることに気づいているのに、それをどうすることもできないという苦悩こそ、新型コロナウイルスと同じように、世界中に広がってきた精神状態にほかならない。 だからこそ、「外部」は開かれうることの可能性をもう一度探求してみることの意義は、いままさに高まったのではないか。レーニンは、第一次世界大戦の勃発と、第二インターナショナルの破産という、それこそ苦悩の極みから起ち上がって、ボリシェヴィキ革命を成就させた。本書が取り組む彼のテクストは、今日のわれわれはまだ絶望するには早すぎることを教えてくれる。そのような意味で、本書の原稿が書かれた初発の問題意識から読者が何かを感じ取ってくれることを著者としては心から願っている。 ―「文庫版まえがき」より― ◆本書の内容◆ 第一部 躍動する〈力〉の思想をめぐって 第一章 いま、レーニンをどう読むか? 第二章 一元論的〈力〉の存在論 第二部 『何をなすべきか?』をめぐって 第三章 〈外部〉の思想―レーニンとフロイト(I) 第四章 革命の欲動、欲動の革命―レーニンとフロイト(II) 第三部 『国家と革命』をめぐって 第五章 〈力〉の経路―『国家と革命』の一元論的読解(I) 第六章 〈力〉の生成―『国家と革命』の一元論的読解(II) 第七章 〈力〉の運命―『国家と革命』の一元論的読解(III) 解説 《革命のテクスト》の文体 [國分功一郎] 付録 レーニンの生涯 ※本書の原本は、二〇〇七年に講談社選書メチエより刊行されました。 ※巻末付録は『現代思想の海チャート図 レーニンからバトラーまで』(法律文化社)を初出とするものです。 -
イギリス貴族
政・官・軍のリーダーとして大英帝国を支えつつ、空前の豊かな生活を送った貴族たち。その知られざる実態とは!? イギリスの貴族は、国の主導者として法律を作り、政治を司り、軍隊を指揮する一方で、宏壮な邸宅では社交、狩猟、スポーツに熱中した。今では世界中に広がる「英国的」な文化にも、彼らエリートが育んだものが多い。イギリスを知るには、貴族への理解が不可欠なのだ。とはいえ、そうした貴族の実態は、多くのイギリス人にとって謎に包まれてきた。 たとえば、貴族の身分はどのように決まるのか、カントリー・ハウスでの豪奢な生活はどのようなものか。貴族と紳士の違いは何か。どのような社会的役割を果たし、他方で社交に興じていたのか。そもそも、貴族の起源とは? 多くの事例とともに、軽妙な語り口でわかりやすく紹介する好著。(解説・新井潤美) プロローグ――大英帝国の先頭に立つ者 第一章 貴族は稀族 第二章 貴族の豊かな生活 第三章 貴族の教育 第四章 ノブレス・オブリージュ 第五章 金と暇が生み出したもの 第六章 貴族の生き残り作戦 エピローグ されど、貴族 参考文献 あとがき 解説 新井潤美 -
南朝全史 大覚寺統から後南朝へ
謎多き南朝。その実像は、政治・文化的実体をともなった本格政権だった! 大動乱の時代として日本史に深く刻まれた南北朝時代。しかし南朝の実像は謎に包まれてきた。 室町幕府に対し劣勢に立ちながら、吉野山中に長きにわたり存続できたのはなぜか。 厖大な史料を博捜し、政治・文化的実体をもつ本格政権としての南朝に光を当て、 起源である鎌倉時代の大覚寺統から後南朝まで「もうひとつの朝廷」二百年を描き切る決定版。 【本書より】 本書は、こうした南朝研究の課題と研究手法上の特殊性をふまえて、南朝の前史から説き始め、ピークというべき建武の新政、その後身としての南朝をへて、北朝に吸収された後の抵抗運動としての後南朝の段階をふくめた、いわば南朝の全部をひっくるめた総合的な叙述をすることを目指している。そうすることによって、南朝をつらぬく原理というか、真っすぐ通った一本の柱のようなものの存在を明らかにすることができる。 【本書の内容】 第一章 鎌倉時代の大覚寺統 大覚寺統の成立 両統対立の開始 両統対立の展開 両統の相剋 第二章 建武の新政 綸旨万能の成果と限界 軍事指揮と恩賞宛行 王統からみた建武の新政 第三章 南朝の時代 南北朝の併立 後村上天皇の時代 長慶天皇の時代 後亀山天皇と南北朝の合体 第四章 南朝を読みとく 南朝史料としての『新葉和歌集』 南朝の組織と制度 南朝と地方との関係 大覚寺統傍流の末路 ※本書の原本は2005年に講談社選書メチエより刊行されました。 -
妖怪学とは何か 井上円了精選
妖怪博士の妖怪退治!! 「コックリ」「天狗」「狐憑き」から、「妖怪屋敷」「西瓜(スイカ)の幽霊」「経を誦(よ)む古木」まで、全国の妖怪事象を蒐集しつつ、御一新の世になお蔓延る迷信を一網打尽にせんとした奇特な哲学者を突き動かしたものとは一体何だったのか? 「妖怪学講義録」「おばけの正体」など、妖怪学の創始者・井上円了の精華をオリジナルに厳選した、決定版アンソロジー。 [目次] 編者序文 妖怪談 妖怪学講義録 『妖怪学雑誌』論説 (真怪論/妖怪学と諸学との関係/忘憂術/論怪) おばけの正体 補遺 (妖怪学講義細目/妖怪学講義参考書目/井上円了調査地一覧) 注 -
科学史・科学哲学入門
私たちが生きている現代世界において、決定的な役割を果たしているのは、「西欧近代科学」であるといえるでしょう。しかし一方で「科学」は、時間的・空間的な規定を受けており、普遍的・絶対的ではないことを認識する必要があります。 本書では科学の起源を問い直します。ラテン語の《scientia(知識)》に淵源し、古代ギリシアに生まれた「自然現象を自然現象として認め、ある原理的な体系から、そうした個々の現象の説明を与える」という思惟構造が、西欧で独自の発展を遂げたものです。 キリスト教敵世界では、「神の意志」と「理性による世界支配」が、自然界と人間界両方の秩序の根幹であるとの考え方が」だんだんと支配的になります。そして中世ラテン世界は、十字軍を経て、アラビア文化圏から流入したギリシア・ローマの「科学」的遺産を吸収し、本格的な「西欧・近代・科学」へと発展していきました。その流れの中で、アニミズムの否定、自然の世俗化、それが進展しての実証主義が支配的になります。魔術から技術へという流れです。そして未来はつねに「進歩」をもたらすものでなければならないというドグマのようなものが支配的になったのです。 そしてこの科学の考え方が、私たちの思考法をどのように呪縛しているのかを、点検していきます。「観測の問題」「言語による外界の把握」「造られた科学」「《整合性》と《簡潔性》」などなど、実際の例を取り上げながらやさしく解説していきます。まさに「科学史」の入門書といえる一冊です。 【原本】 村上陽一郎『科学・哲学・宗教』(レグルス文庫)第三文明社 1977年刊 【目次】 I 科学・哲学・神学 1 科学を準備したもの 2 科学のなかのヴェクトル 3 科学の反省 4 未来への展望 キリスト教の自然観と科学 1 キリスト教と近代合理主義 2 キリスト教からの科学の「離脱」 3 現代への示唆 II 科学的知識と信仰との異同 植木屋の譬え話 自然科学での実際の話 誰が素粒子を見たか 「見える」ことが「存在する」ことか 「……を見る」と「……として見る」 「……として見る」の基礎構造 「ことば」による把握 「……を見る」ことと「……を存在させる」こと 科学は何によって造られるか 自然科学的理論の「流行」 簡潔性と整合性 価値の世界との「整合性」 「心」の私秘姓 「こころ」の存在 こころと素粒子 自分の「こころ」と他人 人間の「こころ」の特殊性 こころの普遍化への二つの方法 あとがき 学術文庫版あとがき -
室町社会の騒擾と秩序 [増補版]
「ハードボイルド」で「アナーキー」な、現代人には到底受け入れがたい中世社会を活写しながら、そこに存在する中世人独自の秩序を魅力的に描いてきた著者の原点! 「荘園制と室町社会」および原本に未収録だった幻の博士論文「序章」の一部と「終章」を収録。「喧嘩両成敗」も「大飢饉」も「耳鼻削ぎ」も、すべてはここから始まった――。 流罪に処されると、そのほとんどが道中で殺害されてしまい流刑地にたどり着くことさえできない一方で復讐を目的に自害し、また諸大名の軍勢が御所を取り巻いて将軍に異議申し立てを行うかと思えば、没落が確定した大名屋形には都市民衆が火事場泥棒に押し寄せる――。室町時代は現代人の目にはなんとも騒がしく物騒な社会に映る。しかし、それはよく言われる「自力救済」の暴力のみが支配する無秩序なものでは決してなかった。多様でいささか奇異な法慣習や民間習俗を分析対象としながら、その背景にある複雑で微妙なバランス織りなされる中世人の論理を、著者ならではの筆致で活き活きと豊かに描き出す。 さらに、そのようないわば中世的文化の「野蛮さ」が、江戸時代最初の100年を通していかに変容しひっそりと払拭されていくのか、それでもなお残りつづけているものとは何なのか、各主題を通じてその変容が浮かび上がる。 禁酒令、耳鼻削ぎ刑、梟首(晒し首)、都市民衆に開かれた禁裏など、魅力あふれる意外な視点から、中世社会を動的かつ大きな展望のもとに描いたデビュー作の決定版! (原本:吉川弘文館、2004年) 【本書の内容】 序章 ふたつの室町文化 第1部 室町社会の法慣習 第一章 「御所巻」考――異議申し立ての法慣習 第二章 中世社会の復讐手段としての自害――復警の法慣習 第三章 政権抗争劇のなかの都市民衆――掠奪の法慣習 第四章 室町幕府「流罪」考――失脚者の末路をめぐる法慣習 第五章 室町殿の紛争解決法――紛争解決の法慣習 第2部 室町時代の都市生活 第一章 足利義持の禁酒令について 第二章 正長の徳政一揆と山門・北野社相論 第三章 ある室町幕府直臣の都市生活――『碧山日録』と「春公」についてのノート 第四章 荘園制と室町社会 第3部 戦国時代の文化変容 第一章 室町後期における都市領主の住宅検断 第二章 織豊政権の成立と処刑・梟首観の変容 第三章 「耳鼻削ぎ」の中世と近世 第四章 戦国期における禁裏空間と都市民衆 終 章 あとがき 学術文庫版あとがき -
オーストリア皇太子の日本日記
本邦初訳!「サラエボの悲劇」の主人公が綴る日本紀行 長崎―熊本―下関―宮島―京都―大阪―奈良―大津―岐阜―名古屋―宮ノ下―東京―日光―横浜 1892年末、オーストリア帝国帝位継承者、皇太子フェルディナントは世界周遊の旅に出た。翌年長崎に到着した彼は東京を目ざすが、その途次、各地で日本文化との出会いを堪能しつつ、のちにウィーン民族学博物館日本部門の礎をなす18000点もの美術品等の蒐集も行う。21年後、サラエボで暗殺される悲運の皇太子若き日の日本紀行。 園内は無数の提灯がまるで妖精のようにきらきらと輝き、真昼のような光に満ちあふれていた。日本人というのは、まことに照明の達人だ。簡素きわまりない装置を巧みに用い、すばらしい効果を生み出す術をじつによく心得ている。(熊本クラブの庭園にて) -
菩薩 由来と信仰の歴史
観音菩薩をはじめ、弥勒菩薩、文殊菩薩、地蔵菩薩、日光・月光菩薩・・・などなど、様々な姿で親しまれ、信仰の対象となっている菩薩とは、いったいなにか。それぞれの名前の由来や、役割と利益、形像の特徴、日本への伝来と信仰の歴史などを分かりやすく解説する。菩薩とは、サンスクリット語のボーディ=サットバに由来し、「悟りを求める人」という意味を持つ。それも、ただ自分中心の修行ではなく、仏の慈悲行を通して一切衆生を救おうとする、大乗仏教の理想的修行者像を意味する。最初は釈迦菩薩だけだったのが、大乗仏教の発展の中で、弥勒、観音、勢至・・・など「十方世界」に多くの菩薩が修行につとめていると考えられるようになったという。なかでも観音菩薩は、ヒンドゥー教の影響も受けて、十一面、千手千眼、馬頭など、多様な変化観音に分化し、その性格や利益をそれぞれに示している。写真や図版、イラストをまじえて、20以上におよぶ各尊の特徴も示した、仏教学の入門書。仏像鑑賞の手引きにも最適。〔原本:『菩薩―仏教学入門―』 東京美術、1982年刊〕 -
メッカ イスラームの都市社会
カーバ神殿を擁する巡礼地・メッカ。七世紀初頭、アラビア半島の灼熱の岩肌に囲まれたこの地が、なぜ都市に発展し、世界の<聖地>となったのか。ムハンマドの生涯や、コーランはじめ文化、風習、儀礼など、ムスリム知識人が守った伝承“ハディース”から、多角的に考察。西欧的学問の思考からは見落とされてきた、イスラーム精神の本質に迫る。 目次)) 序 章 西欧的知の枠組/多様化する世界/「常識」をこえるイスラーム/イスラームとは/イスラームの成立/イスラーム的知の枠組/オリエンタリズムの克服 一 前 史 メッカの歴史地理/考古学の成果/ソロモンとシバの女王/紀元前のアラビアの歴史/紀元前後のアラビア/一神教革命 二 系図と部族 父系の系図/「部族」の概念/メッカは「部族社会」か/氏族の系図/クライシュの子孫ではない人々/マワーリー/ハリーフ/個人の社会 三 メッカのはじまり カーバ神殿/アブラハムとメッカ/ジュルフム族のメッカ追放/フザーア族とキナーナ族/クライシュ族のクサイイ 四 メッカの発展 牧民社会メッカ/集団意識の実態/イーラーフの制度/フムスの概念/ウカーズの定期市 五 メッカの社会 急成長するメッカ/ムハンマドの生涯/平等な人間関係/メッカの商人/アラビア文字の文書 六 メッカとイスラーム 自由都市/ムハンマドに対する例外的措置/預言者と信徒/メディナ/イデオロギーとしてのイスラーム おわりに 学術文庫版あとがき 内容抜粋) イスラームが勃興した七世紀から十四、五世紀までのイスラーム世界にわりあてられた(教科書の)ページ数は、同時期のヨーロッパ史のそれの半分以下なのだ。筆者の見解では、この時代のイスラーム世界とヨーロッパ世界をくらべれば、人口といい、政治力といい、経済力といい、文明の力ともいうべきものといい、前者が後者を圧倒していた。わりあてページ数は逆でなくてはいけない、と信じている。 ――――「序章」より *本書は1991年に中公新書より刊行されたものを一部、加筆修正したものです。 -
物理学の原理と法則 科学の基礎から「自然の論理」へ
■世界の真理は、単純明快! てこの原理からE=mc2、量子力学まで全部わかる!■ 中学校理科から量子力学まで物理学全体を見渡し、歴史のエピソードや文学作品を引きながら「基本の基本」をわかりやすく伝授。さらに、人間の思考は自然の論理をどこまで捉えられるのか、という根源的問いにまで誘う。宇宙物理学の先端で研究に取り組み、科学とは何かを深く問い続けてきた名手が放つ、画期的入門テキストにして深遠なメッセージ。 「文系のための物理学入門」の決定版! □単純、簡明、統一、原理主義□ 物理学者は、多様で複雑に見える自然だが、真理は意外に単純明快であり、論理を忠実にたどっていけば必ず真理に到達できると信じている。アインシュタインが述べたように、「神は老獪だが、意地悪ではない」のである。そのための自然を解剖していく手法は、本書に書いたような原理・法則・原則に則っている。どのような建築物もレンガ一つひとつの積み重ねから成り立っているように、壮大な物理学の成果も、最も基本的な原理の上に構築されているのである。―本書より (本書は2011年にPHPサイエンス・ワールド新書より刊行された『物理学の原理と法則』を大幅に改稿・加筆し文庫化したものです) -
ルイ・ボナパルトのブリュメール18日
本書は、ジャーナリストとしてのカール・マルクス(1818-83年)が執筆した代表作、待望の新訳です。書名にあるルイ・ボナパルト(1808-73年)は、よく知られているとおり、ナポレオン1世の甥にあたります。1836年に武装蜂起を起こしたものの失敗して国外追放処分を受けたルイは、4年後にもクーデタを試みて失敗、終身禁固の刑を宣告されました。6年後の1846年に脱獄してイギリスに亡命しましたが、そこに勃発したのがヨーロッパ全土を巻き込む1848年の革命でした。 急遽フランスに帰国したルイは、同年9月には憲法制定議会の議員に選出され、貧困層のあいだに根強く残るナポレオン崇拝を利用して、12月には大統領選挙で勝利します。そうして、3年後の1851年12月2日にはクーデタを起こし、反対派の議員を逮捕して議会を解散、国民投票で圧倒的な支持を得ると、ついに翌1852年12月には皇帝に即位し、ナポレオン3世(在位1852-70年)として第二帝政を開始することになるのです。 本書は、この過程をジャーナリストとしてつぶさに見ていたマルクスが、1848年の革命から1851年のクーデタに至る歴史を追いながら、何が起きたのか、なぜナポレオンは次々にみずからの野望を実現することができたのかを分析したもので、ルイが皇帝になった1852年に雑誌で発表されました。ここに見られるのは、巧みに民意を利用して選挙に大勝し、政治と憲法をほしいままにしていくプロセスにほかなりません。同じ光景は、それから150年以上を経た今日、さまざまな国で再現されているものだと言えるでしょう。 ――こうした背景を踏まえつつ、数多くの巧みな翻訳を送り出してきた訳者が「慣れない畑」にもかかわらず育て上げた豊かな果実が、この新しい翻訳です。底本は、1869年にハンブルクで単行本として出版された改訂第2版を用いました。 本書の日本語訳としては岩波文庫(1954年)と平凡社ライブラリー(2008年)のものが広く親しまれてきましたが、第2版の翻訳である前者はいかんせん古いと言わざるをえず、後者は新しいものの第1版の翻訳で、必ずしも一般的とは言えません。そのような状況が長らく続いてきた中、練達の訳者による第2版の新訳、たくさんの人たちのニーズに応える、まさに待望の1冊になることでしょう。 [本書の内容] 政治党派一覧 関連年表 はじめに ルイ・ボナパルトのブリュメール18日 訳者あとがき -
仕事
南太平洋のマエンゲ族の一日当たりの平均労働時間は四時間だという。古代ギリシアにおいて多忙は倫理的悪であり、中世の修道士にとって労働とは神から課された罰であった。 しかし近代になると、労働の価値に大逆転が生じる。「労働の尊厳」が高らかに謳われ、経済のみならず政治・文化を含むありとあらゆる活動が労働化する、完全な意味での労働社会が人類史上初めて誕生する。 この逆転はいかにして、なぜ起こったのか。古代から中世を経て近代にいたる労働観の変遷をコンパクトに描き出し、現在の労働中心主義は決して当たり前のものでもなければ、長い歴史に裏打ちされたものでもないことをあざやかに浮かび上がらせる。 人は生産労働なしに生きることはできない。しかし労働に従事するかぎり人間は自由になることはない。この相克を超えて、本当の意味で「労働から解放」されることは可能なのか――。 労働の価値が再び大転換しつつある今こそ必読の労働論! かつて多忙は悪であり、余暇こそが自由人の本性にふさわしいとされた。しかし、近代においては資本主義も社会主義も等しく「労働はすばらしい」、「労働は人間を成長させる」と労働の尊厳を謳う。 労働が近代を創造したのであり、労働なしに近代は理解できない。そして、あらゆる人間が精神的にも物質的にも「労働する」社会、当事者が精神的・物質的活動を「労働」として表象する社会は、すなわちあらゆる人間が「奴隷となる」社会である。もし古代人が近代社会を見たら、最悪の社会の到来と仰天するだろう。 非西欧社会、古代、中世の労働観の変遷を踏まえたうえで、ベンジャミン・フランクリンやウェーバー、サン=シモン、コント、マルクス、アレント、ヴェイユなど主要な労働思想を参照しながら、近代的労働観の成立過程を明瞭簡潔に描き出し、我々が当然のものと刷り込まれてきた労働中心主義を見事に解体していく。 人間は労働に従事する限り自由にはなれず、しかし労働なしでは生きていくことができない。そうだとすれば、本当の意味での「労働からの解放」はいかにして可能になるのか。人類と働くことの関係を根底から問い直す、骨太の労働論にして近代論。(原本:『仕事』弘文堂、1988年) 【本書の内容】 はしがき 第一章 未開社会の労働観 第二章 古代ギリシアの労働観 第三章 西欧中世の労働観 第四章 近代の労働観 第五章 労働の批判的省察 注 解説(鷲田清一)
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