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イザベラ・バードの日本紀行 合本版
1878年、イギリスの女性旅行作家が、欧米人未踏の内陸ルートで東京―函館間を旅した見聞録。世界を旅した大旅行家の冷徹な眼を通じ、維新後間もない北海道・東北の文化と自然を活写。京都・奈良・伊勢など関西方面への旅も収載した、原典初版本の完訳。 ※この電子書籍は、2008年に講談社学術文庫として刊行されました、『イザベラ・バードの日本紀行 (上)』『イザベラ・バードの日本紀行 (下)』を合本とし、電子書籍化したものです。この電子書籍とは別に『イザベラ・バードの日本紀行 (上)』、『イザベラ・バードの日本紀行 (下)』もそれぞれ電子書籍で配信中です。 -
万葉集原論
「おそらく、私は「万葉集原論」を生涯の課題としていくことだろう」。 本書は日本を代表する文学者、中西進の真骨頂である。 現存する最古の歌集『万葉集』。七、八世紀の歌、四千五百首余が二十巻に収められ、額田王、柿本人麻呂などの著名な歌人、天皇、皇族から、防人、遊女に及ぶ作者と作品の豊かさは、世界的にみても異彩を放っている。 この『万葉集』研究の第一人者であり、幅広い文学活動でも知られる著者は、古代日本文学の本質に迫ると同時に、世界のなかの日本文化を問う視座を持ち続けてきた。 『万葉集』とは何か。真摯にそれを見極めんとした本書が示すのは、学問とは何か、その方法はいかにあるべきかという切実な問題意識に裏打ちされた、著者だからこそ到達しえた比類なき『万葉集』の姿である。(原本:『万葉集原論』桜楓社、1976年) 【主な内容】 学術文庫版まえがき 一 万葉集研究の方法 文学史の方法――その「歴史」について 文学研究の方法 万葉集研究の方法 研究と批評 二 万葉集の構造 万葉集の構造 万葉集の生成 万葉集の原点 万葉集の集団性 三 万葉集の表現 万葉歌の形式 万葉歌の方法 古代的知覚――「見る」をめぐって 古代文学の言語 万葉集の漢語 桜楓社版後記 解題 犬飼公之 -
アステカとインカ 黄金帝国の滅亡
一六世紀、スペイン人によるアメリカ大陸征服史が始まる。黄金を探すコロンブス、ピサロ、コルテス……。抵抗する、モクテスマ、トパック・アマルなどのインディオたち。栄華を誇った帝都と文明は、いかに滅ぼされたのか? 西欧と非西欧の壮絶なる戦いの記録を、既存の、スペイン人主体の史料では触れられなかった「敗者の視点」から再検証、植民地時代から現在へ続くラテンアメリカの被征服史を辿る。 プロローグ 黄金の夢 第一章 コロンブスの目指したジパンゴ 第二章 冒険者バルボア 第三章 メキシコの発見 第四章 首都の攻防 第五章 対決 第六章 「悲しき夜」 第七章 英雄の敗北 第八章 太平洋と中央アメリカ 第九章 南の海の探検 第一〇章 カハマルカの悲劇 第一一章 クスコ占領 第一二章 征服者たちの争いとインカ 第一三章 アラウコの国とパンパ 第一四章 ムイスカの黄金 第一五章 エル・ドラードとアマゾンの国 エピローグ 征服者たちの黄昏 あとがき 年表 民族と地域 人名検索 2002年小学館より刊行されました -
インド思想史
インド最古の聖典『リグ・ヴェーダ』にはじまり、世界的にも類がないほど深遠な思想を生みだしてきたインド。ウパニシャッド、ジャイナ教、仏教、マハーバーラタ、正統バラモンの六派哲学、ヒンドゥー教から、近代のガンジーやタゴールに至るまで、3000年以上にわたる複雑で多様な思想の全領域をコンパクトに大観する。 アーリヤ人の侵入や農村社会の成立、王朝の興亡など、それぞれの時代の社会変動の影響も踏まえつつ、各思想大系の特質を明らかにすることで、〈解脱〉をもとめてやまない人類の思索の歴史が描き出される。 世界的なインド哲学、仏教学者であり、比較思想の開拓者でもあった著者による、半世紀以上にわたって読み継がれてきた不朽の概説書。原本:『インド思想史 第2版』岩波書店、1968年) 第一章 アーリヤ人の侵入とリグ・ヴェーダの宗教 第二章 農村社会の確立とバラモン教 第三章 都市の興隆と自由な思索の出現 第四章 国家統一と諸宗教の変動 第五章 統一国家崩壊後における諸宗教の変遷 第六章 クシャーナ帝国時代における新思想 第一節 時代の趨勢 第二節 仏 教 第三節 ジャイナ教 第四節 南インド文化の開花 第七章 集権的国家における諸哲学学派の確立 第一節 正統バラモン系統 第二節 仏 教 第三節 ジャイナ教 第八章 諸王朝分立時代における諸学派の継続的発展 第一節 バラモン教およびヒンドゥー教 第二節 仏 教 第九章 回教徒の侵入と思想の変化 第一節 中世的宗教の発展 第二節 近代的思惟の発展 第十章 外国資本主義制圧下における思想運動 第十一章 〔附論〕科学思想 -
日本幻獣図説
河童、鬼、天狗、人魚、龍、雷獣、そして予言獣。異界からやってきた”不可思議な生き物“は、多くの日本人を魅きつけ、ある時は恐れられ、ある時は敬われながら伝承されてきた。江戸時代から明治時代を中心に、各地の絵図・ミイラ・報道記事を通して、妖怪という名前には収まらない奇想天外な生き物たちのめくるめく世界に迫る。絵図を多数収録! 【目次】 1章 幻獣名鑑 河童 鬼 天狗 人魚 龍 雷獣 その他の幻獣たち 2章 予言する幻獣 件 アマビコ アマビコの系譜 予言獣の共通性 吉祥の幻獣たち 異形の幻獣 3章 記録のなかの幻獣 メディアと幻獣 江戸の幻獣文献 幻獣のデザイン 4章 幻獣の背景 予言獣の創造 諷刺としての幻獣 ミイラの伝承 -
日本人の死生観
仏教学に民俗学の方法を接続し、日本人の宗教を深く掘り下げた五来重。本書は、厖大な著作を遺した宗教民俗学の巨人の「庶民宗教論」のエッセンスを知るのに最適な1冊である。 日本人の死生観とは、すぐに連想される「ハラキリ」や殉死など、武士道的なものだけではない。貴族や武士の死生観、いわば「菊と刀」ばかりでなく、「鍬」を持つ庶民の死生観は、一体どんなものだったのか。本書では、教祖・教理・教団から成る西洋起源の宗教や、文献研究と哲学的思弁にこだわる仏教学ではなく、仏教伝来以前からの霊魂観や世界観が息づく根源的な「庶民の死生観」を明らかにしていく。 著者によれば、庶民にとってあらゆる死者は一度は怨霊となる。それは鎮魂によって「恩寵をもたらす祖霊」に変えなくてはならない。そのための信仰習俗や儀礼の有様を探索し、日本列島を歩きに歩いた著者の視線は、各地に残る風葬や水葬の風習、恐山のイタコと円空仏、熊野の補陀落渡海、京都の御霊会、沖縄のイザイホウ、遠州大念仏、靖国神社などに注がれる。 巻末解説を、『聖地巡礼』『宗教と日本人』の著者・岡本亮輔氏(北海道大学准教授)が執筆。〔原本:角川書店、1994年刊〕 -
中国の神話 神々の誕生
「子は怪力乱神を語らず」。孔子に代表される儒教の合理的精神のもと、早くに歴史の中に取り込まれ、断片的にしか伝わることがなかった中国神話。『山海経』や『楚辞』、甲骨資料などわずかに残された痕跡から、一つ目、一本足で猿面の山神を主人公に、古代中国史の泰斗が神話世界を大胆に復元する! 最古の地誌であり、儒学の厳しい検閲の網を逃れて現代にまで生き残った、さまざまな怪物が登場する『山海経』。そこには一本足で、声は雷のごとく、黄帝が生け捕りにして皮をはいで鼓をつくり、その骨をばちに打ち鳴らすと五百里四方にとどろいたという山の怪物が登場する。また別の個所では楽園の番人を殺して不死の木の実を盗んだ罪によって、足にかせをはめられ、両手と髪を縛ってある山の木に逆さ吊りにされた怪物も現れる。このいずれもが「き」という音で呼ばれる、本書の主人公である。 司馬遷が『史記』で歴史のはじめにおいた黄帝と、その強敵である蚩尤はともに風雨、とりわけ風を呪術的に自在に操る力を持っていた。風の神は同時にふいごを使う鍛冶神にも通じ、そして「き」もまた、鍛冶と深いかかわりがあったという。 多くは猿面で一つ目、一本足で表象されるこの山神を出発点に、柳田國男や折口信夫の民俗学的手法や日本神話、時にはバビロニアのマルドゥク伝説からもヒントを得ながら、古代のはるか遠い祖先神をめぐるひとつの物語として中国の神話を大胆に復元し、さらにその後、儒教化によって神話が歴史へ、呪術が宗教へと変容するまでを描く。神話世界を冒険するかのようなスリリングな魅力に満ちた一冊。 (原本:『中国の神話――神々の誕生』筑摩書房、1971年) 第一章 異形の神像 第二章 瞽師の伝承――中国の語部 第三章 風の神の発見 第四章 鍛冶師と山の神 第五章 文化的英雄の誕生――三皇五帝 第六章 神話の世界の消失 第七章 乱――エピローグ あとがき 解説 蜂屋邦夫 -
天文学の誕生 イスラーム文化がもたらしたもの
イスラームは天文学を必要とし、天文学はイスラームなくして発展し得なかった。 論証と幾何学により天文現象をモデル化しようとした古代ギリシアの試みは、2世紀エジプト・アレクサンドリアのプトレマイオスに受け継がれ、その主著『アルマゲスト』において、天動説による宇宙モデルはひとつの完成を見た。 しかし、その後のローマ帝国において人々が必要としたのは、天文学という知的探求そのものではなく、占星術とホロスコープであり、星々の位置を定める手段のみであった。ギリシア科学やプトレマイオスによる幾何天文学を展開・発展させる者がヨーロッパ世界において現れるのは、コペルニクスの登場まで待たねばならなかった。 だが、地動説を打ち立て天文学のみならず科学を大きく転回させたコペルニクスは、明らかにプトレマイオスの天文学を受け継いでいた。7世紀には断絶を迎えていたはずの幾何天文学は、16世紀のコペルニクスまで、いかにしてたどり着いたのだろうか。 実は『天球回転論』では、サービト・イブン・クッラ、バッターニー、ザルカーリー、イブン・ルシュド、ビトルージーらイスラーム世界の学者への言及がされている。コペルニクスは、イスラーム地域の天文学者たちの成果を、参照すべき先人の業績とみなしていたのである。 イスラーム世界、とりわけアッバース朝では、それまでのペルシアの伝統を受け継ぎ、翻訳事業を振興し、占星術を重視した。他方で、異教徒との議論において自らの教義の正当性を揺るがぬものとするため、世界の仕組みについての合理的な説明を厳密に組み立てる「論証」が求められた。そうした要請のもとイスラームの学者たちは、古代ギリシアやインドの知的達成に学び、その中でプトレマイオスは再発見されたのである。さらに彼らは、天体モデルの整合性を追究し、観測結果に基づいてプトレマイオス天文学の修正を目指し、より厳密な幾何天文学を構築しようとした。その集大成を、地動説という形で成し遂げたのがコペルニクスだったのである。 コペルニクスの登場が近代天文学、ひいては近代科学の始まりであるとするならば、イスラームによる天文学研究は、近代科学の礎となる重要な活動であったと言える。 本書は、イスラーム世界において天体への考察が科学として磨き上げられていった歴史を、簡明かつ鮮やかに描き出すものである。 *本書の原本は、2010年に岩波科学ライブラリーより刊行されました。 -
グリム兄弟とアンデルセン
「ヘンゼルとグレーテル」や「赤ずきん」を伝えた勤勉な学者肌のグリム兄弟と、「人魚ひめ」や「マッチ売りの少女」を生んだ奔放な旅人アンデルセン。対照的な人生を送った童話の巨星たちのあいだには、しかし実際の接触のみならず、意外な共通点もあって……。 童話の最高峰と並び称される両者の著作と生涯を突き合わることで見えてくる、童話に秘められた深層、そしてそこに表れる深い人間理解とは? 全集の翻訳も手掛けたドイツ文学の第一人者による、共感溢れる、忘れがたい一冊。 [本書の内容] まえがき 1 アンデルセンとグリム兄弟との出会い 2 グリム兄弟の生涯 3 アンデルセンの生涯 4 学究者と作家――著作の比較 5 生の軌跡――愛と孤独 6 メルヒェンの語り手 7 グリム兄弟と私 8 アンデルセンと私 9 結び グリム兄弟とアンデルセンの年表 -
星界の報告
ガリレオにしか作れなかった高倍率の望遠鏡に、宇宙はどんな姿を見せたのか?──1609年7月に初めて製作した望遠鏡の倍率は3倍。その4カ月後には、他の誰にも追随できない20倍の倍率を実現したガリレオは、翌年初頭から天体観測を開始した。人類が初めて目にしたレンズの先には、月の表面の起伏が、天の川をなす無数の星が、そして木星をめぐる四つの衛星が現れた。人類初の詳細な天体観測の貴重な記録、待望の新訳!※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。 -
愛と欲望のナチズム
《すべての性欲を解き放て!》 第三帝国が企てた「快楽」と「生殖」をめぐる大衆動員の実態とは? ナチズム研究をリードする著者による衝撃的論考の増補文庫化! 産めよ殖やせよ。強きゲルマン人の子らを━ナチスは人間の欲望、とりわけ性欲を解放させることで、人々を生殖に駆り立て、社会を支配せんとした。 「厳格で抑圧的なナチズム」という通説のイメージを、膨大な同時代資料を渉猟することによって覆し、性と権力、快楽と大衆操作が絡み合い展開した「欲望の動員」の実態に光を当てる、決定的研究! 【本書「はじめに」より】 本書はこのような観点から、第三帝国下の「性-政治」の実態を描き出そうとするものである。そこでの性と権力の複雑なからみ合いを、体制側の狙いと個々人の実践との齟齬や矛盾にも留意しつつ、性教育、同性愛、裸体文化、婚外交渉などの争点ごとに検証していきたい。その際とくに、従来の一般的な見方とは異なって、ナチズムが市民道徳への反発から性的欲求の充足を奨励し、ある種の「性の解放」を促進したプロセスに注目する。ダグマー・ヘルツォークの研究が明らかにしているように、彼らにとって性は生殖のためだけのものではなく、快楽や喜びをもたらす一種の刺激剤でもあったのであり、それを徹底的に活用した点にこそ、この運動の動員力を説明する手がかりがあると考えられる。その意味で本書は何よりも、生殖と快楽の問題にとりつかれた体制の「欲望の動員」のメカニズムを解明することをめざしている。 【本書の内容】 はじめに 第一章 市民道徳への反発 第二章 健全な性生活 1 性的啓蒙の展開 2 性生活の効用 第三章 男たちの慎み 1 男性国家の悪疫 2 結婚を超えて 第四章 美しく純粋な裸体 1 裸体への意志 2 ヌードの氾濫 3 女性の魅力 第五章 欲望の動員 1 新しい社交 2 悪徳の奨励 3 道徳の解体 おわりに 補章 注 図版出典 あとがき 学術文庫版あとがき 索引 *本書の原本は、2012年に講談社選書メチエより刊行されました。 -
アイヌの世界観 「ことば」から読む自然と宇宙
動植物を神格化し、自然も神も人も、すべては平等である――! アトゥイ(海)、アペ(火)、コロ(支配)、カラ(創造する)、ウク(受取る)・・・・・・。驚くべき自然観察者であるアイヌ。その、名付けの意味、語源、語彙構成や使用法を丹念に拾いながら、彼らの宇宙観、霊魂観、動植物観を言語学的に分析。認識人類学的アプローチで、”アイヌ文化”を旅します。本書は1994年から長らく講談社選書メチエの一冊として刊行されてきました。今回、学術文庫に収録するにあたり、補章として「現代に生き続けるアイヌの世界観」を追加しています。*コ「ロ」、カ「ラ」、ウ「ク」=「 」内字は小文字です目次プロローグ第一章 アイヌの宇宙観1 モシリ(世界)2 アイヌ・モシリ(人間の世界)の誕生3 カムイ・モシリ(神々の世界)4 ポクナ・モシリ(下方の世界)5 アイヌの他界観6 相補二元的宇宙観第二章 霊魂とカムイ1 霊魂の観念2 カムイの概念3 語彙素構成からみる神性の認識4 人間的なカムイ像5 カムイとジェンダー6 人間との関係第三章 アイヌの植物命名法1 植物名が語る認識のプロセス2 基本名からみる命名のプロセス3 対照名からみる命名のプロセス4 類別的認識5 植物観と神格化第四章 動物の分類と動物観1 動物の個別名と包括名2 個別化の原理3 類別カテゴリーの外延4 類別化の原理5 動物分類と空間分類の連繋6 動物のシンボリズムと神格化の基盤第五章 諸民族との比較1 日本上代における世界観との比較2 北方諸民族における世界観3 アイヌの世界観第六章 世界観の探究――認識人類学的アプローチ1 言語と文化2 イーミックな観点とエスノ・サイエンス3 「もの」の名称から認識の体系へ4 象徴体系としての世界観5 メタファーとしての動物6 言語の象徴表現と世界観7 認識人類学の意義補章 現代に生き続けるアイヌの世界観あとがき学術文庫版あとがき索引 -
悪魔の話
悪魔。神の教えと対をなし世界の半分を支配するとされた闇の帝王たち。その誕生から性格、分類、風貌、材質、総数、そして悪魔と契約する方法まで。ヨーロッパが育んだ「悪魔」の観念は、どこから生まれどこへ行くのか。その歴史を追い、人類史上最大の悲劇が生起する過程にまで迫る。人の世のいたるところにいる悪魔たちを凝視した決定版〈悪魔学入門〉。 -
アストロノミカ
本書は、紀元1世紀、帝政を迎えた古代ローマに生きた詩人マルクス・マーニーリウスによる、天文学・占星術について記された最古の文献の一つです。作者マーニーリウスについては『アストロノミカ』の著者であること以外、確かなことは知られておらず、本作に見られる記述から初代皇帝アウグストゥスから第二代皇帝ティベリウスの時代に書かれたことを推測できるにすぎません。 古代において、天文学と占星術のあいだの区別は存在しませんでした。執筆当時のローマを見れば、アウグストゥスが生まれた日に占星術師プブリウス・ニギディウスが「地上世界の主が生まれた」と断言したと伝えられ、アウグストゥス自身も天文学や占星術を利用していたことが知られています。未来を知ることができる技術がとりわけ政治家にとって重要な意味をもつことは想像に難くないでしょう。だからこそ、マーニーリウスは本作の第一巻の序歌にこう記しました。 「生きた身ながら果てしない大空を巡ること、そして星座や 逆行する惑星の動きを知ることは喜ばしい。 だがこれらの知識だけでは不充分だ。大宇宙の心臓部さえも知悉すること、 それが星座を介して生物を生み出し支配する方途を 認識すること、そしてアポッローンの調律に従い それを詩に語ることはいっそう激しい喜びとなる。」(1.13-19) つまり、星座の分布や天体の動きに関する知識だけでなく、それらがいかなる力をもって地上に働きかけるのかという問題にまで踏み込んでいく必要がある、言い換えれば「天文学」の知だけでなく「占星術」の知をも身につけて初めて宇宙について知ることができる、と詩人は宣言しているわけです。 それゆえ、本書には古代の宇宙に関する知識のすべてが書かれています。「教訓詩」と呼ばれる韻文としてそれを綴った本作は、きわめて貴重な古典にほかなりません。残念なことに、本作にはラテン語原典から韻文の形で日本語に訳出したものは存在しませんでしたが、気鋭の訳者を得て、ここにその偉業が成し遂げられました。星空を眺め、宇宙に思いを馳せながら、ぜひ手にしていただきたい1冊です。 [本書の内容] 第一巻 第二巻 第三巻 第四巻 第五巻 訳者解説 訳者あとがき 図 表 -
アテネ 最期の輝き
紀元前338年、ギリシャ敗戦! その後「民主政」はどうなった? 教科書に載らない歴史の真実を明かす、第一人者によるアテネ「亡国」のドラマ。 * 紀元前338年、アネテやテーベを中心とするギリシア連合軍は、フィリポス2世とアレクサンドロス率いるマケドニア軍に歴史的な大敗を喫した。アテネが誇る民主政はしかし、それを契機にかつてない平和と繁栄を謳歌する――。デモステネスら政治家たちの闘いの跡を追いつつ、アレクサンドロス躍進の陰で「黄昏」と呼ばれたアテネの実像を明らかにする、第一人者による画期の書! * [目次] はじめに 序章 「黄昏のアテネ」に迫る 1 「黄昏のアテネ」とデモステネス 2 「政治家」と「政治グループ」 第1章 決戦へ 1 デモステネスの生きた時代 2 デモステネスの前半生 3 反マケドニアの政治家として 4 「宿敵」アイスキネスとの対立 第2章 敗戦――マケドニアの覇権 1 戦後処理 2 デモステネスの活躍 3 アレクサンドロスの時代の幕開け 4 マケドニアの傘の下で 第3章 対決――「冠の裁判」 1 裁判が始まるまで 2 「弁論家の戦い」 第4章 平穏――嵐の前の静けさ 1 デモステネスの隣人たち 2 アテネ民主政の姿 3 動乱の前ぶれ 第5章 擾乱――ハルパロス事件 1 ハルパロス事件とは 2 事件当時のアテネの情勢 3 ハルパロス裁判 4 裁判の背後の人間模様 第6章 終幕――デモステネスとアテネ民主政の最期 1 民主政アテネの最後の闘い 2 愛国者たちのそれぞれの最期 終章 1 デモステネスの遺したもの 2 「黄昏」の民主政 史料について 主要参考文献 関連年表 あとがき 学術文庫版へのあとがき -
アドルノ 非同一性の哲学
本書は、20世紀を代表するドイツのユダヤ系思想家であり、フランクフルト学派の中心人物テオドール・ヴィーゼングルント・アドルノ(1903-69)の波乱に満ちた生涯と、その不屈の思想を丁寧にたどる決定版ガイドです。 フランクフルト・アム・マインに生まれ、哲学、社会学、心理学、音楽学を貪欲に学んだ早熟の天才アドルノは、わずか21歳で哲学博士号を取得。コーネリウスのゼミで終生の友人ホルクハイマーと出会い、戦後にフランクフルト「社会研究所」の所長に就任します。ここに集った研究者たちとともに形成されたのが、後に「フランクフルト学派」と呼ばれる思想潮流です。 ナチス政権下で教授資格を剥奪されたアドルノは、イギリスを経て1938年にアメリカへ亡命します。1949年に帰国した後、ホルクハイマーと共に社会研究所を再建、亡くなるまでその活動を続けました。 近代合理性の闇を暴き、西欧文明の自己批判を徹底したアドルノ。アメリカの大衆文化批判、反ユダヤ主義への応答、そして「新しい主体」や芸術と哲学の連帯を模索する彼の思想は、現実とのすさまじい緊張関係の中から生み出されるもので、安易な解釈を許しません。 本書では、音楽への情熱、クラカウアーやベンヤミンとの友情、ホルクハイマーとの共同作業など、その思想を育んだ生涯をたどり、主要著作『啓蒙の弁証法』『否定弁証法』『美の理論』の読解を通して、危機の時代に生きた知の巨人の核心に迫ります。アドルノ研究の泰斗による、最良の概説書です。 [本書の内容] まえがき プロローグ 肯定的なアドルノを求めて 第一章 音楽の揺りかご 第二章 星々の友情 第三章 否定弁証法のオリジン 第四章 亡命のオデュッセウス 第五章 理性の原史をたずねて――『啓蒙の弁証法』の射程 第六章 新たな「唯物論」へ――『否定弁証法』と「客観の優位」 第七章 『美の理論』の告げるもの エピローグ パウル・ツェランとアドルノ 主要著作ダイジェスト キーワード解説 読書案内 あとがき 学術文庫版あとがき アドルノ略年譜 *本書の原本は、1996年に「現代思想の冒険者たち」第15巻として小社から刊行されました。 -
アフリカ史
様々な学問分野を自由に越境し、「知ることの楽しさ」を生涯発信し続けた<知の道化師>、山口昌男。その学問の真髄とも言える「アフリカ」研究を、丸ごと1冊・通史に編纂。思いがけなくも豊かなアフリカの相貌、実験的とも言える日本との対比、自身が描いたスケッチや、貴重すぎる図版を193点も掲載! 彼の地で暮らし、深い人脈を得た泰斗だからこそ書けた本作は、参考文献すらただの文字情報に終わらない、圧巻の充実ぶり。没後10年。今こそ、目からウロコのアフリカ通史を、吟味する! *本書は、『世界の歴史 第6巻 黒い大陸の栄光と悲惨』(講談社 1977年)を改題したものです。 目次 はじめに 人類史とアフリカ 1 アフリカの古代世界 1)アフリカにおける人類の起源 2)アフリカの古代的世界 3)黎明の輝き・ 4)サヴァンナの帝国 5)東アフリカの王国 6)アフリカの王権文化――そのパラダイム 2 大発見の神話学 1)プレスター- ジョンの王国を求めて 2)アフリカの「黄金伝説」――ジンバブウェ遺跡とモノモタパ 3)探険ラッシュの世紀 3 伝統国家の栄光 1)草原の覇者たち 2)古都の盛衰 3)奴隷の故郷 4)アフリカと奴隷貿易 4 東海岸――交易都市の繁栄 1)世界へ開かれたアフリカ 2)制海権をめぐる争い 5 南アフリカのナポレオンたち 1)南アフリカの原住民たち 2) 南アフリカの清教徒たち 3)シャカ王のズールーランド 4)スワジ王国 5)バストランドのモシェシュ王 6)ムジリカジのンデベレ 6 ヨーロッパによる仮死 1)ヨーロッパ列強のアフリカ分割 2)開拓者たちの運命 3)アフリカ侵略の二つの型 4)セネガルーー仏領アフリカの優等生 5)最後の抵抗者サモリ= トゥレ 7 再生への胎動 1)マフディー運動 2)キリスト教的反抗 8 試行錯誤の現代史 1)両大戦間のアフリカ 2)エティオピアの反抗 3)第二次大戦後のアフリカ 4)コンゴ動乱 5)ナイジェリアの内戦 6)アンゴラの独立と内戦 おわりに 参考文献 年 表 図版参考資料一覧 索 引 解説 今福龍太 -
雨の科学
「雲から雨が降る」という、一見あたりまえの自然現象の仕組みと奥深さを探究した、気象学の入門書。 なぜ雨は、滝のようにつながって落ちてこないのか。雨粒はどんな形をしているのか。小雨の雨粒と、大粒の雨粒は、どのくらい大きさが違うのか。雲粒と雨粒の境目はどこにあるのか。なぜ、雨が降りやすい雲と、降りにくい雲があるのか。水蒸気が凝結するための「雲粒の種」とは。自己増殖し、自己組織化して雨を降らせる、生物のような積乱雲の生涯とは――。 傘とレインコートで日常的な雨対策をし、冬にも豪雪に見舞われる日本列島の降雨事情は、地球上でも特異なものだという。その地形的特質から、近年多発する集中豪雨のメカニズムとエルニーニョ現象、温暖化のカギを握る雲の種類、さらに、「人類の夢」である人工降雨や気象の人工調節の可能性まで、雲・雨・雪の研究に尽くした第一人者が、平易に解説する。北海道大学名誉教授・藤吉康志氏が巻末解説を執筆。〔原本:『雨の科学――雲をつかむ話』2005年5月、成山堂書店刊〕〈目次〉1 地球に降る雨のミクロな特徴第1章 雨粒の形と大きさ第2章 雨の強さと雨粒の大きさ分布第3章 雨が降る雲、降らない雲第4章 多くの雨は雪が融けたもの第5章 雨の降り方は人間活動によって変わる2 雲の組織化第6章 積乱雲の生涯第7章 生物のような積乱雲第8章 集中する豪雨第9章 人工衛星から観る雲の群第10章 地形の働きによる降雨の強化と集中3 雨の気候学第11章 気候域と雨量第12章 亜熱帯域の降雨第13章 雨のテレコネクション第14章 雨の経年変化第15章 水惑星の水問題解説 藤吉康志索引 -
アルチュセール全哲学
「真空の哲学」の核心 〈認識論的切断〉とは 「認識論的切断 coupure epistemologique」とは何か。『マルクスのために』『資本論を読む』でマルクス研究を一新し、フーコー、デリダ、ブルデュー、ドゥルーズらを育てたルイ・アルチュセールは、精神的肉体的苦闘、あるいは自身の「認識論的切断」を経て、いかなる地平に到達したのか。その思想的全生涯をもれなく論じた、第一人者による決定版! 形而上学の名前で呼ばれうる西欧哲学がその可能性を出し尽くしつつある現在、この伝統的思考様式を可能にした条件と地平を露出させ、同時にそれとはまったく異質の軌道がどういうものでありうるかを、われわれは徹底的に考えることを要請されている。そのひとつの模範的思索をアルチュセールはわれわれに遺産としてのこしてくれたのである。そのバトンを受けとるのは、われわれである。――<本書より> -
暗号 情報セキュリティの技術と歴史
※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 ソーシャル、モバイル、クラウド、スマート……。爆発的発展を遂げる情報化社会は、有史以来、軍事・外交の「秘匿」を担った暗号の役割を、「認証」へと一変させた。情報セキュリティを担う現代暗号の特性とは? 「共通鍵暗号」「公開鍵暗号」「零知識対話証明」の数理も平易に解説。暗号の歴史と倫理、その技術基盤のすべてがわかる格好の入門書。(講談社学術文庫) -
アーリヤ人の誕生 新インド学入門
ヨーロッパのラテン語・ギリシア語とインドのサンスクリット語に共通の祖となる、失われた起源の言語――。そんな仮想の言語の話し手として「アーリヤ人」は生み出された。そして、それは瞬く間にナチス・ドイツの人種論に繋がる強固な実体を手に入れる。近代言語学の双生児「アーリヤ人」は、なぜこれほどまでに人々の心を捉えて離さないのか。 言語学誕生の歴史から、「すべての起源」インドに取り憑かれた近代ヨーロッパの姿が克明に浮かび上がる! 「インド学」はインドで発達した学問ではない。18世紀末からサンスクリット語文献を集めてきたヨーロッパを中心に発達してきた。私たち日本人が抱く「インド」イメージもまた、近代ヨーロッパという容易には外しがたい眼鏡を通して形成されている。 植民地インドで「発見」された古典語サンスクリットの存在は、ラテン語やギリシア語との共通性から、ヨーロッパとインドに共通する起源の言語の存在を想像させた。類稀な語学の才に恵まれたイギリス人ウィリアム・ジョーンズ(1746-94年)によるこの「発見」によって、近代言語学は誕生する。同時にオリエンタリズムがヨーロッパを席巻し、『シャクンタラー姫』をはじめとするサンスクリット語文献が次々にヨーロッパで翻訳された。 その奔流のなかで『リグ・ヴェーダ』を英訳したのが、ドイツ出身で英国オックスフォード大学に職を得たフリードリヒ・マックス・ミュラー(1823-1900年)である。彼は比較言語学の成果から、『リグ・ヴェーダ』の成立年を紀元前1200年頃と推定し、「アーリヤ人の侵入」を紀元前1500年頃とした。日本の教科書でもよく知られる記述の源は、ここにある。 19世紀ヨーロッパで言語学とともに誕生した「アーリヤ人」は、20世紀にはナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を生み、さらにはインダス文明が発見されたインドに逆流して、考古学的成果と対峙しながらさらなる波紋を生んでいく――。 近代言語学の双生児「アーリヤ人」は、なぜこれほどまでに人々の心を捉えて離さないのか。なぜ言語は常に民族という概念を呼び寄せずにいられないのか。言語学誕生の歴史をひもとくことで「起源」というロマンに取り憑かれ、東洋を夢見た西洋近代の姿を克明に描き出す。インドの実像に目を開く一冊。(原本:『新インド学』角川書店、2002年) 【本書の内容】 第1章 インド学の誕生ー―十八世紀末から十九世紀初頭のインド・カルカッタ 第2章 東洋への憧憬ー―十九世紀前半のヨーロッパ 第3章 アーリヤ人侵入説の登場ーー―十九世紀後半のヨーロッパ 第4章 反「アーリヤ人侵入説」の台頭――二十世紀のインド 第5章 私のインド体験ー――多様性との出会い 補 章 出版二十年後に -
イギリス貴族
政・官・軍のリーダーとして大英帝国を支えつつ、空前の豊かな生活を送った貴族たち。その知られざる実態とは!? イギリスの貴族は、国の主導者として法律を作り、政治を司り、軍隊を指揮する一方で、宏壮な邸宅では社交、狩猟、スポーツに熱中した。今では世界中に広がる「英国的」な文化にも、彼らエリートが育んだものが多い。イギリスを知るには、貴族への理解が不可欠なのだ。とはいえ、そうした貴族の実態は、多くのイギリス人にとって謎に包まれてきた。 たとえば、貴族の身分はどのように決まるのか、カントリー・ハウスでの豪奢な生活はどのようなものか。貴族と紳士の違いは何か。どのような社会的役割を果たし、他方で社交に興じていたのか。そもそも、貴族の起源とは? 多くの事例とともに、軽妙な語り口でわかりやすく紹介する好著。(解説・新井潤美) プロローグ――大英帝国の先頭に立つ者 第一章 貴族は稀族 第二章 貴族の豊かな生活 第三章 貴族の教育 第四章 ノブレス・オブリージュ 第五章 金と暇が生み出したもの 第六章 貴族の生き残り作戦 エピローグ されど、貴族 参考文献 あとがき 解説 新井潤美 -
イギリス紳士のユーモア
山高帽にこうもり傘、優美なマナーとさりげないダンディズム。英国紳士たちの悠揚せまらぬ精神から大英帝国を彩るユーモアが生まれた。当意即妙、光る知性、グロテスクなまでにブラック、自分を笑う余裕。ジョンソン博士、イヴリン・ウォー、チャーチルほか、帝国最上の産物たる紳士の最高のユーモアを味わいつつ、英国流人生哲学の真髄にせまる。(講談社学術文庫) -
イギリス東インド会社 軍隊・官僚・総督
21世紀の経済大国・IT大国として存在感が高まっているインドは、18世紀半ばから20世紀半ばまでの200年間、植民地としてイギリスに支配されてきた。 このイギリス支配の基礎を築いたのが、イギリス東インド会社である。しかし、その存在があまりに大きいために全体像はつかみにくく、特に日本では、その規模と活動範囲がずっと小さいオランダ東インド会社に比べても、イギリス東インド会社についての研究や著作は非常に少ない。しかし著者は、現在のインドの経済成長と今後の可能性を見るとき、東インド会社にさかのぼるイギリスのインド支配の歴史と遺産を見直すことが必要だという。 1600年にエリザベス1世がロンドンの商人に特許を与えたことに始まるイギリス東インド会社は、商社として発足しながら独自の軍隊を持ち、領土の支配者に変身していった。1858年に実質上消滅したときには、すでに商業的な機能さえもたない完全な植民地統治機関になっていたのである。 オランダやフランスとの貿易競争、会社経営と企業統治の実態、会社の軍隊と国王軍・インド政府軍の関係、さらに巨大な官僚制を支えた社員採用と社員教育や、歴代総督のプロフィールまでを通観する。 巻末に東京大学名誉教授で『東インド会社とアジアの海』の著者、羽田正氏が解説を執筆。〔原本:2009年 中央公論新社刊〕 目次 はじめに 第一章 商社の時代 一 イギリス軍インド会社とは何者か 二 オランダ、ポルトガルとの競争 三 アウトサイダーの挑戦 四 統一東インド会社の誕生 第二章 商社から領土の支配者へ 一 フランスの挑戦 二 ベンガルでの領土獲得 三 社員の不正蓄財 第三章 ベンガルの支配者から全インドの支配者 一 会社経営における商業原則の後退 二 会社と政府によるインドの共同統治 三 企業統治の変遷 第四章 インド貿易の自由化 一 会社を牛耳った「海運族」 二 私貿易人 第五章 会社の軍隊 一 会社軍と国王軍 二 会社軍 三 会社軍の部隊編制 四 二つの英軍の統合の試み 五 会社軍将校の勝利 六 インドの大反乱後も傭兵頼みのインド政府軍 第六章 インドの高級官僚―ジェントルマンリー・ルーラー 一 社員の採用と行政官教育 二 東インド会社一家 三 公開試験の時代へ 四 ICSはインドにおける超エリート 第七章 三億人の支配者インド総督 一 その起源 二 ベンガル総督 三 会社の時代の総督│クライヴからカニングまで 結びにかえて あとがき イギリス東インド会社関連年表 解説(羽田正) -
イザベラ・バードの旅 『日本奥地紀行』を読む
日本観光文化研究所所長時代に行われた幕末・明治期の紀行文を読む講義のうち、昭和51年9月から52年3月まで全7回の『日本奥地紀行』の講義録。一英国人女性旅行家が目をとめた不思議な国「日本」の事象をきっかけに、その資料的価値、バードの視点の出色さを指摘するにとどまらず、著者自身の比類ない観察眼と聞き取り調査に裏打ちされた該博な見識が縦横無尽に紡ぎ出され、宮本民俗学の入門書ともなっている。(講談社学術文庫) -
維新暗殺秘録
開国に揺れる万延元年(1860)の「桜田門外の変」から、明治4年(1871)の広沢真臣惨殺まで、暗殺事件でみる幕末維新史。 維新前夜の傑物で英雄豪傑と称される清河八郎や、肥後藩の儒学者で明治政府に出仕した横井小楠といった「大物」から、勤皇派の恨みを買って三条河原でなぶり殺された目明しの「猿(ましら)の文吉」といった弱者まで、30の事件を取り上げる。田中光顕や谷干城が語る坂本龍馬の最期、若き伊藤博文が山尾庸三とともに風説を信じて斬り捨てた相手、佐久間象山の息子が仇討ちを狙っていると聞かされた暗殺者・河上彦斎の平然ぶり、幕吏への情報漏洩が疑われて殺された絵師・冷泉為恭の妻とのロマンスと、まさに秘話の集成である。 明治33年(1900)に生まれ、故郷・土佐の歴史を中心に多くの著作をなして司馬遼太郎の信頼も厚かった著者は、「暗殺は文明と野蛮を問わず、古代から現代まで人間社会の一現象として起こる」といい、「明治維新とか、昭和維新とか、変革を呼ぶ時代に暗殺の頻度が多いことは既に歴史が証明している」という。本書はまさに「昭和維新」が叫ばれたテロの時代、昭和5年(1930)に発表され、その後、何度も版を変えて読み継がれてきた。 巻末には、100件を超える事件が並ぶ「維新暗殺史年表」。幕末維新史の研究者、一坂太郎氏が解説を執筆。 〔原本:1967年白竜社刊、1978年新人物往来社刊、1990年河出書房新社刊〕 目次 暗殺談議――序に代えて 大老 井伊直弼 土佐藩参政 吉田東洋 島田左近と宇郷玄蕃 本間精一郎 目明し 猿の文吉 平野屋寿三郎と煎餅屋半兵衛 国学者 塙次郎・鈴木重胤・中村敬宇 播州家老森主税と用人村上真輔 江州石部事件 多田帯刀と村山加寿江 千種有文家臣 賀川肇 儒学者 池内大学 清河八郎 雙樹院 如雲 大藤幽叟 大坂町奉行与力 内山彦次郎 絵師 冷泉為恭 因州藩暗殺事件 姉小路公知 佐久間象山 水戸藩士 住谷寅之介 一橋家用人 原市之進 坂本龍馬と中岡慎太郎 御陵衛士頭 伊東甲子太郎 秋月藩士 臼井亘理 パークス要撃事件 奥羽鎮撫使参謀 世良修蔵 参与 横井小楠 兵部大輔 大村益次郎 参議 広沢真臣 維新暗殺史年表 解説(一坂太郎) -
異常の構造
臨床の場に身を置きつづけながら、綺羅星のような著作および翻訳を遺した稀代の精神病理学者木村敏(1931-2021年)。その創造性は世界的に見ても人後に落ちない。 著者の名を世に広く知らしめるとともに、社会精神医学的な雰囲気を濃く帯びていることで、数ある著作のなかでもひときわ異彩を放つ名著に、畏友・渡辺哲夫による渾身の解説を収録。 「異常」が集団のなかでいかに生み出され、また「異常」とされた人々のうちでなにが生じているのか、社会および個人がはらむ「異常の構造」が克明に描かれる。私たちはなぜ「異常」、とりわけ「精神の異常」に対して深い関心と不安を持たざるを得ないのか。「自然は合理的である」という虚構に支配された近代社会が、多数者からの逸脱をいかに異常として感知し排除するのか。同時に患者のうちで「常識の枠組み」はどのように解体され、またそのことがなぜ「正常人」の常識的日常性を脅かさずにはおかないのか――。 「あとがき」に刻印された「正常人」でしかありえない精神科医としての著者の葛藤は、社会における「異常」の意味を、そして人間が生きることの意味を今なお私たちに問いかけ続けている。(原本:講談社現代新書、1973年) 【本書の内容】 1 現代と異常 2 異常の意味 3 常識の意味 4 常識の病理としての精神分裂病 5 ブランケンブルクの症例アンネ 6 妄想における常識の解体 7 常識的日常世界の「世界公式」 8 精神分裂病者の論理構造 9 合理性の根拠 10 異常の根源 あとがき 解 説(渡辺哲夫) -
〈イスラーム世界〉とは何か 「新しい世界史」を描く
ジャーナリズムで、また学問の世界でも普通に使われる用語、「イスラーム世界」とは何のことで、一体どこのことを指しているのだろうか? ムスリムが多い地域のことだろうか、それとも、支配者がムスリムである国々、あるいはイスラーム法が社会を律している地域のことだろうか。ただ単に、アラビア半島やシリア、パレスチナなどの「中東地域」のことを指しているのだろうか? 本書は、高校世界史にも出てくるこの「イスラーム世界」という単語の歴史的背景を検証し、この用語を無批判に用いて世界史を描くことの問題性を明らかにしていく。 前近代のムスリムによる「イスラーム世界」の認識、19世紀のヨーロッパで「イスラーム世界」という概念が生み出されてきた過程、さらに日本における「イスラーム世界」という捉え方の誕生と、それが現代日本人の世界観に及ぼした影響などを明らかにする中で、著者は、「イスラーム世界」という概念は一種のイデオロギーであって地理的空間としては存在せず、この語は歴史学の用語として「使用すべきではない」という。そして、地球環境と人類史的視点から「新しい世界史」を構想し叙述する方法の模索が始まる。 本書は刊行当時、歴史学者・イスラーム学者の間に議論を引き起こし、アジア・太平洋賞特別賞を受賞した。文庫化にあたり、原本刊行後の議論を踏まえて「補章」を加筆。〔原本:『イスラーム世界の創造』東京大学出版会、2005年〕 -
イスラームの「英雄」 サラディン――十字軍と戦った男
マムルーク朝のバイバルスとともに、イスラーム史上の英雄と称されるアイユーブ朝のサラディン。アラブと十字軍の50年以上にわたる覇権争いに終止符を打ち、十字軍から聖地エルサレムを奪回した「イスラーム世界の英雄」として知られる彼は、同時代のアラビア語史料や伝説に「アラブ騎士道の達人」「慈悲深い高潔な人物」と謳われ、ヨーロッパでも智者、果敢な騎士、寛大な性格の人物と評されました。アラブ側は異教徒と勇敢に戦った英雄として、ヨーロッパ側はアラブ騎士道の体現者として、サラディンを描きつづけています。そのような伝説に彩られた人物の実像とはどのようなものだったのでしょうか。本書は、サラディンが、どのような政治・経済・社会状況にあって、どのように考え、どのように行動したかを明らかにします。さらに、伝説と事実を峻別したうえで、架空の伝説も人々の願望の表れとしてとりあげ、「人間としてのサラディン像」をあざやかに描き出す、「英雄」の実像に迫った本格的伝記です。 〔原本/1996年、講談社選書メチエ〕 【本書の内容】 プロローグ――サラディンの生きた時代 第一章 修行時代 1 誕生 2 カリフ権力の衰退と十字軍の侵攻 3 少年サラディン 4 ヌール・アッディーンとの出会い 5 エジプト遠征 第二章 エジプトの若きスルタン 1 アイユーブ朝の創設 2 バイナル・カスラインの戦い 3 サラディンの補佐役たち 4 イエメン征服の謎 5 シリアへの進出 6 新体制の確立 第三章 カイロからエルサレムへ 1 エジプト経済の繁栄 2 聖戦(ジハード)へ向けて 3 エルサレム奪回 4 アッカーをめぐる攻防 5 サラディンの死 エピローグ――サラディン以後 -
出雲神話
国引き、八岐大蛇、国譲りなど、日本神話では最も重要な舞台であるにもかかわらず、大和朝廷に対抗したという出雲国の実態は未だ明らかになっていない。比較神話学、民俗学、宗教学、歴史学などの様々な知見からなる議論をまとめ、記紀や風土記、神賀詞などの資料を読み解き、出雲神話の虚像と実像を浮かび上がらせる最良の入門書!(解説・三浦佑之) 【本書で扱うトピック】 八岐大蛇の神話にはどのような意味があるか? なぜ、記紀と風土記の内容は、大きく異なるか? 大和朝廷と出雲国は、実際に敵対関係にあったか? なぜ、出雲は死者や他界と結びつけられてきたか? いかにして、オオクニヌシは国家的英雄神となったか? なぜ、古代出雲は宗教王国だったといえるか? 【目次】 まえがき 1 出雲神話の謎 2 二つの出雲神話 3 出雲国造家の台頭と自家の売りこみ 4 スサノオの神話 5 オオナムチの神話 6 国譲り神話と諸氏族 7 出雲土着の神々 参考文献 解説 -
出雲神話の誕生
記紀と『風土記』の記述の相違 神話に隠された秘密を明かす 記紀神話の3分の1以上を占める出雲神話。しかしその出典たる『出雲国風土記』には、記紀とは異なる舞台、神々の美しく雄大な詩が綴られていた。それらを抹殺し、出雲国を強大な国であるかのように仕立てあげた大和朝廷の策略とは、どのようなものだったのか。国引き説話や大神の麗しい物語が、支配者によってねじまげられ、被支配者たちに受け入れられていく過程を解き明かす。 出雲の弱小国がどういう理由で神代巻の3分の1も占めるとともに、それに基づいて起こった錯覚によって、1000年もの長い間、大和朝廷に対立する強大な出雲国を、われわれに想像させてきたのであろうか。まず読者のすべての方に申したいが、これまでの出雲観のすべてを完全に拭い去って、白紙の立場で新しく出雲を見直す心がまえを持っていただきたいと思う。――<本書より> -
伊勢神宮と出雲大社 「日本」と「天皇」の誕生
こうして「日本」は形づくられた! なぜ、大和は出雲を必要としたのか? 朝日と夕日、太陽と蛇、陸と海、現世と他界― 天武・持統の大和王権を守る「両端の象徴的霊威」をになうものとして伊勢・出雲をとらえ直し、日本の起原に鋭く迫る試み。 「神とは何か」という民俗学による理論的分析の視点と、歴史学による記紀をはじめとする文献研究、考古学の発見を融合させた、新しい古代探究! 【本書の内容】 第一章 伊勢神宮の創祀 第二章 〈外部〉としての出雲 第三章 祭祀王と鎮魂祭 終 章 〈日本〉誕生への三段階 ※本書の原本は、2008年に講談社選書メチエより刊行されました。 -
イソップ寓話 その伝承と変容
動物に仮託して人間生活の諸相を描いたイソップ寓話。「兎と亀」「蟻ときりぎりす」「牛のまねをする蛙」「狐とぶどう」――西欧はもとより日本においても、これらの話を知らぬ者はいまい。では、イソップその人についてや、イソップ寓話の成立についてはどうか? 古今の文献を駆使してその成立と伝承の歴史をたどり、わが国への伝来とその変容、普及の過程を究明する。(講談社学術文庫) -
イタリア・ルネサンス再考 花の都とアルベルティ
花の都フィレンツェの驚異的絶頂の世紀を描く 万能の文化人アルベルティとともに、ヨーロッパを照らした「人文主義」の光源を探る 輝かしき15世紀(クアトロ・チェント)。繁栄をきわめるメディチ家と有力家族たちが、パトロンとなって花開く芸術。贅美溢れるモノの帝国にして、聖なる雅都となったフィレンツェ。社交と祝祭、聖と俗、科学と魔術、中世と近代が渾然一体となった都市を動かしていた思想とコードとはなにか。ダ・ヴィンチをして劣等感に臍を噛ませた万能人アルベルティを通して描く新ルネサンス像。〈解説・山崎正和〉 聖ベルナルディーノの言葉「イタリアは世界でもっとも知性的な祖国、トスカーナはイタリアでもっとも知性的な地方、そしてフィレンツェはトスカーナのもっとも知性的な都市である」は、わたしの確信を代弁している。昨今では、フランスやドイツやイギリスのルネサンスを、イタリアとひとまとめにして連続的に論ずる流儀がはやりのようだけれど、あんな北方の、田舎臭い文化活動、青白く屈折した意識の覚醒を「ルネサンス」と呼んで、個人と家族と都市がスクラムを組んで絢爛たる文化を開花させたイタリアと一緒にしてほしくないものだ。――<「あとがき」より> -
異端審問
――皇帝ジギスムントが宮中伯ルートヴィッヒに向かって命令する。「囚人を受け取り、よろしく異端者として扱え」。今度はルートヴィッヒがコンスタンツの帝国代官に向かって命令する。「我ら双方によって断罪されたる者としてこの者を受け取り、よろしく異端者として焼け」。―― 1415年に異端として裁かれた宗教改革の先駆者、ボヘミアのヤン・フス処刑の克明な描写にはじまる本書は、中世のヨーロッパで異端審問がどのようにして生まれ、そして制度として定着していったのかを、具体的なエピソードを丁寧に積み重ねながら、当時の人々の息遣いもあざやかに描き出す。法も手続きも無視して「すべて殺せ」という13世紀の異端狩りの熱狂から、ウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』にも登場した、世界で最も有名な異端審問官ベルナール・ギーによって組織化・マニュアル化された14世紀の冷徹無比な異端審問を経て、15世紀末スペインでの過酷な弾圧に至る、その道のりの背後には、いかなる時代精神が見いだせるのか。 西洋中世史不朽の名著『異端カタリ派の研究』(岩波書店、1989年)の著者が、多彩な史料を駆使して知られざる中世世界への扉を開く!(原本:講談社現代新書、1996年) 【解説(轟木広太郎・ノートルダム清心女子大学准教授)より】 本書は、一三、一四世紀における異端審問の成立と制度的確立の経緯を、およそ関連するすべての種類の史料を博引旁証しながら描き切った労作である。……ヨーロッパ中世という日本人にはどこか掴みどころのない、しかしそれでいて魅惑的な個性を放つ時代の雰囲気を初学者に感得させると同時に、このテーマに興味を持つ専門家にとってもいまだ探求のヒントを数多く掘り出すことのできる鉱脈たり続けていると思う。(本書「解説」より) 【本書の内容】 第一章 薪と硫黄の匂い――異端審問とは何か 第二章 剣と火と異端者――異端審問の誕生まで 第三章 異端審問創設の頃 第四章 異端審問の制度化 第五章 審問官ベルナール・ギー 第六章 裁かれる者たち 第七章 スペインの火刑台 あとがき 参考書目抄 解説「異端審問と交差する四つの歴史の道筋」(轟木広太郎) -
市川團十郎代々
2002年5月の十三代目市川團十郎襲名を控えて、江戸時代前期にさかのぼる市川團十郎家の歴史を、豊富な絵画資料と歌舞伎研究の第一人者の解説で読む。 歌舞伎を観ることは、役者を観ることである。そして、江戸歌舞伎の中で常に特別な位置を占め、最も大きく重い名前とランク付けされてきたのが、「市川團十郎」の名跡だった。並み居る役者の中から、まず卓越した天性と技量を持って抜け出した初代。親譲りの荒事を様式的に練り上げた二代目。「歌舞伎十八番」を公表して團十郎の名と権威を改めて確立した七代目。近代化の苦悩の中で歌舞伎界のリーダーとして縦横の活躍を見せた九代目。生来の美貌で戦後の歌舞伎を立て直した「海老さま」十一代目・・・。それぞれの時代を生きた個性豊かな十二人の團十郎を豊富な役者絵や舞台写真をまじえて活写する。「歌舞伎十八番」演目解説、團十郎デザインのいろいろ、市川團十郎家系図、関係年表も完備。巻末解説を、元国立劇場理事で十二代目と長く親交のあった織田紘二氏が執筆。〔原本:『市川團十郎代々』講談社刊、2002年〕 -
一外交官の見た明治維新
薩英戦争と下関戦争、開港をめぐる激しい外交戦、熱い政治談義、刺激的な国内旅行そして戊辰戦争― 英国青年外交官が「幕末日本」を全身で体感する! 攘夷の嵐が吹き荒れ、政局が緊迫する文久二(一八六二)年、一人のイギリス人通訳官が日本の地を踏んだ。 西郷隆盛ら雄藩・幕府の要人、果ては天皇、あるいは市井の人々との出会いを重ね、日本文化の奥深さに魅了され、そしてときには命の危険を乗り越えながら、彼は日本史上の最大転換点を目撃する。 日本人が長く読み継いできた幕末史の第一級証言を、英国外交史研究を踏まえた新訳で読む。 イギリス外交史、日英関係史を研究する訳者が、これまでの研究蓄積を踏まえ、本書の歴史的意義を問い直す、懇切な解説掲載。 -
逸楽と飽食の古代ローマ 『トリマルキオの饗宴』を読む
※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 『トリマルキオの饗宴』は、古代ローマが生んだ風刺小説の金字塔『サテュリコン』の最も有名な場面である。そこに描かれた山海の珍味と美酒、かしずく少年奴隷たち、黄金の腕輪と銀の尿瓶……解放奴隷の成金富豪が催す饗宴の一部始終を解読。厖大な文献、考古・美術資料を駆使して、繁栄を謳歌するネロ帝時代の社会と、人々の人生観を再構築する。(講談社学術文庫) -
イブン・ジュバイルの旅行記
本書は通称「イブン・ジュバイルの旅行記」、原題「旅路での出来事に関する情報覚え書き」の全訳です。才智あふれるジュバイルが美文で綴ったこの「旅行記」は、12~13世紀にあっては優れたメッカ巡礼案内として広く読まれ、また後にはイブン・バットゥータ(14世紀)などの旅行記のお手本とされ、多くの旅行記編者が都市の記述を「借用」してきました。そして現在、中世イスラム社会の事情を知る上では欠かせない、貴重な文献となっています。 敬虔なイスラム教徒で、ムワッヒド朝のグラナダ太守に書記として仕えていたジュバイルは、太守が戯れに「酒盃七杯飲むべし」と下した厳命に抗えず、禁を犯してしまいます。それを悔いた太守が盃七杯に金貨を満たして与えると、ジュバイルは罪を償うためにその金貨を元手にメッカ巡礼に旅立ちました。キリスト教徒の巡礼者と同船してアレクサンドリアへ。メッカでは大モスクやカアバ神殿の威容に触れ、メディナからバグダッドへ。そして「東方の真珠」ダマスクスでウマイヤ大モスクに圧倒され、十字軍支配下にあったエルサレムでは、かのサラーフ・アッディーン(サラディン)の勝利の目撃談に触れる……。ベドウィンの襲撃、船の難破に遭うなど、艱難辛苦の旅を詳述した「旅行記」ですが、十字軍時代の地中海東方事情を知るための基本図書でもあります。 〈原本:『旅行記』関西大学出版部、1992年〉 【目次より】 まえがき(監訳者による) 1 グラナダ~エジプト 2 メッカ巡礼 3 聖都メッカ 4 メディナ~バグダード 5 マウシル~アレッポ 6 ダマスクス 7 アッカ 8 シチリア~アンダルス -
イミタチオ・クリスティ キリストにならいて
著者のトマス・ア・ケンピスは14世紀終盤ドイツで生まれ15世紀後半まで生きた修道士。神秘思想家として数々の著作を残している。その著作は文章のわかりやすさ、章節の短さなどから普通の庶民にとって読みやすいこと、また救いに繋がる安らぎと瞑想を誘う深みを与えてくれることから、中世以降現代まで『聖書』に次ぐ多くの読者を獲得したと言われている。 内容構成は全四巻、章としては114章を数えるが、それぞれの章は数ページからなるものが多く、どの章も深い味わいを持っている。「キリストにならい、世の空しいものを軽んずべきこと」「自身について謙遜であるべきこと」「過度の親しみを避けるべきこと」「艱難の効用について」「心配ごとはすべて神にゆだねるべきこと」「自愛が、最高善からとりわけ人を引き離すこと」「誰がいっているのかということよりも、何がいわれているかに心を用いよ」など、生き方の知恵としてキリスト教徒でない日本人の心にもひびき、参照すべき項目が多い。 -
いろはうた 日本語史へのいざない
いつ、誰によって、どんな目的で作られたのか。その源流は何か。どのような人たちに伝承、利用されてきたのか――。日本の言語文化史の中核であった「いろはうた」に秘められた日本語の歴史と、そこに見えてくる現代語表記の問題に迫る。日本語をめぐる知的な営為のあり方を探り、従来の国文法を超克した日本語の姿を描く、日本語史研究の古典的名著。 -
インテリジェンスの基礎理論
テロリズム、インテリジェンス、サイバーセキュリティ等は、遠い世界のことと思いがちですが、こうした問題は意外にも私たちの日常生活とも密接に結びついています。20世紀の冷戦構造があった時代には、世界情勢の中心は米ソを軸とした二極の対立でしたが、ソ連崩壊後の世界では、民族・宗教・思想の対立が複雑化・混沌とし、テロや紛争が各地で絶え間なく起こっています。 社会の諸課題が複雑化して既存の知識や分析枠組みが通用しにくくなる中、ガバナンス的思考は今後更に重要になるでしょう。こうした領域の一端に触れることによって、ガバナンス的な思考センスを身につけるためにも有効な一冊です。 さて、インテリジェンスとは何を指すのでしょうか? 「インテリジェンスとは、『政策決定者が国家安全保障上の問題に関して判断を行うために政策決定者に提供される、情報から分析・加工された知識のプロダクト、あるいはそうしたプロダクトを生産するプロセス』のことを言う」。 この定義にしたがって、本書では、情報分析の素材となる情報の収集方法、情報の加工の方法、またその過程における有効な方法と陥りやすい誤りなど、実践的な知識を提供しています。 そして、CIAやモサド、MI6や公安などインテリジェンス機関の活動の一端についての紹介やコラムで実際の事件を扱います。インテリジェンス機関と犯罪捜査機関との相違点もあきらかにされます。 得られた情報に、分析という加工を経たプロダクトの優劣の考え方、また、ミラー・イメージング、クロス・チェックといったプロダクト生成時の問題や改善法などについても述べられます。 インテリジェンス入門として、情報収集と情報加工の教科書として、格好の入門書です。 [原本] 『インテリジェンスの基礎理論 第二版』立花書房 学術文庫に収録するにあたり、全面的に改訂した。 【目次より】 学術文庫版はしがき 第一章 インテリジェンスとは何か 定義、機能、特徴 第一章の補論 第二章 インテリジェンス・プロセス 第三章 インテリジェンス・コミュニティ ― 日米の組織 第四章 インフォメーションの収集 第五章 インフォメーションの分析 第六章 その他のインテリジェンス機能 第七章 インテリジェンスの課題 伝統的な課題から新たな課題へ 第八章 インテリジェンス組織に対する民主的統制 【巻末資料】 解説 佐藤優 -
インドの宗教とキリスト教
「キリスト教のライバルは存在するか」。『聖なるもの』(一九一七年)で知られるドイツの宗教学者ルードルフ・オットーは、ヒンドゥー教の一派、ヴィシュヌ派こそが値すると考えた。「救済」をめぐって驚くほど類似が見られる両者の徹底的な検討を通して、宗教の本質に迫る。比較宗教学の古典。 「ヌミノーゼ」と名付けられた、非合理的な神秘経験を宗教経験の本質として析出した『聖なるもの』。ルター派の敬虔なプロテスタント神学者ルードルフ・オットー(1869-1937年)による洞察は、その後ミルチャ・エリアーデやロジェ・カイヨワに引き継がれ、宗教を研究するうえで重要な柱となる「聖と俗」をめぐる研究の土台を築いた。 『聖なるもの』と同時期に研究が進められていたと考えられるのが、本書『インドの宗教とキリスト教』である。18世紀後半、英国による植民地化を通じてサンスクリット文献がもたらされたされたヨーロッパでは、『リグ・ヴェーダ』や『バガヴァッド・ギーター』など次々にそれらの翻訳がおこなわれ、ヨーロッパの起源のひとつとしてオリエントへの関心が急激に高まっていた。 そのような文脈のなかで、オットー自身も『ヴィシュヌ・ナーラーヤナ』などのサンスクリット文献の翻訳・注釈に取り組み、そしてヒンドゥー教、そのなかでも彼が「献信の宗教」と呼ぶヴィシュヌ派に、キリスト教に匹敵する救済論を見出す。ルター派とヴィシュヌ派の比較の末に見いだされる、真の救済とは―。 オットーが終生、一貫して求めたものは、「聖なるもの」の普遍的な弁証であった。ルター派という一つの神学に自らの立場を置きながら、他の神学にも心を開き、あまつさえ神学を有しない宗教体験に対しても視野を開いたオットーの独自性がいかんなく発揮されたインド宗教研究の古典にして比較宗教学の名著。(原本:『インドの神と人』人文書院、1988年) 【本書の内容】 序 第一章 キリスト教のライバル―ーインドの恩寵(恵み)の宗教 第二章 神をめぐる戦い――シャンカラとラーマーヌジャ 第三章 救済の問題ー―いかにして達成されるか 第四章 インドの恩寵の宗教とキリスト教――異なる精神、異なる救い主 結 び 補 説 一 隠れたる神と献信者の神 二 贖いと贖罪 三 本源的堕落の理念 四 同一性神秘主義の同一体験 五 神は個人的存在ではない 六 すべては恩寵から 訳者あとがき 学術文庫版あとがき -
ウェルギリウス小品集
古代ローマ文学の「黄金時代」前期を代表する詩人プブリウス・ウェルギリウス・マロー(前70-前19年)について、確かな真筆として伝わるのは『牧歌』全10歌、『農耕詩』全4歌、そして『アエネーイス』全12歌の三作品のみである。しかし、これらの作品より前に詩人が若い頃に書いた詩があったことには古代の証言がある。本書は、それらの作品の集成であり、古来Appendix Vergiliana(ウェルギリウス作品の補遺ないし拾遺、あるいは付録といった意味)として伝わるものの本邦初訳となる。 本書に収録された作品の中には、ウェルギリウスの真筆でないことが明らかなものも含まれている。末尾に位置する『有徳の士の教育について』、『「そうだ」と「否」について』、『生まれ出ずるバラ』は後4世紀の詩人アウソニウスの作であり、『マエケーナースに捧げるエレゲイア』もウェルギリウス真筆でないことは明白である。他の詩編についても、多かれ少なかれ真作かどうかについて疑問がもたれている。しかし、これらの作品には価値がないのかといえば、そうではない。 古代には、権威ある大家の名のもとに、あるいは、その名前に関係づけられて伝わる作品が多数存在しており、そこには作品の受容とテキストの伝承の様態が関わっている。大家としてある詩人の権威が確立すると、そこに群がるように、さまざまな形で別の無名の詩人による作品が生まれる。大家の作風や表現を模倣しながら別の詩形式や主題で詩作したもの、大家が描いた物語の続編、大家の作品のパロディーなどがそれである。そうした伝統は、古典文学の最初期から、すなわちホメーロスにおいてすでに認められるが、大家の作に帰せられた無名詩人の作品は、現代のわれわれが「偽作」や「贋作」といった言葉で考えるものとはおよそ異なっている。それらはむしろ核をなす傑出した詩作のまわりに文学伝統の山裾を広げる営みであり、実際、本集成についても、頂きが高ければ高いほど山裾が八方に大きく広がるように、内容面でも形式面でも実に多様な詩から成っていることが分かる。 つまり、本書は「ウェルギリウス」という偉大な名の求心力によって形成された古代文学の遺産であり、貴重な文学的財産にほかならない。文学とは、文化とは、こうした巨大な裾野をも含めた営みであることを、本邦初訳となる本書とともに体感していただくことができれば幸いである。 [本書の内容] 呪いの歌(/リューディア) ブヨの歌 アエトナ 女将 マエケーナースに捧げるエレゲイア キーリス プリアーポスの歌 カタレプトン モレートゥム 有徳の士の教育について 「そうだ」と「否」について 生まれ出ずるバラ 付録 訳者解説 -
上杉謙信
「彼は大名の座から逃げようと思えば逃げられる境遇にあった。事実一度は逃げ出した。しかし四囲の情勢から過重な大任を引き受け、進んで戦乱のなかに身を投じて行った――」。 のちに「越後の龍」、「軍神」とまで称され、戦上手の代名詞となった上杉謙信は、どのようにして歴史の表舞台に躍り出たのか。本書は、謙信の単なる一代記にとどまらず、謙信の父であり、文字通り戦いに明け暮れる生涯を送った「戦の鬼」長尾為景の下剋上を中心に、複雑な越後の政治情勢から丁寧に説き起こす。家督を継いだ謙信は、独立心旺盛な国衆の反乱や裏切りに苦しみつつも、武田信玄や、北条氏康ら戦国の雄との対陣を繰り返し、やがては織田信長をも破る強国へと越後を導いていく。その苦難の道のりは、思わず引き込まれてしまうような血の通った文章で活写される一方で、いたずらに対象を美化することなく、透徹したまなざしで戦国武将上杉謙信の実像に迫る。早逝が惜しまれる研究者による、刊行から半世紀経てもなお色褪せることのない謙信伝の古典!(原本:人物往来社、1966年) 解説(山田邦明・愛知大学教授)より ......歴史の大きな流れをどうつかみ、具体的に現れる事象をどう評価するか、個々の人間の動きや、彼らが織りなすドラマをいかに表現するか、そうしたことを考えさせてくれるものとして、活力にあふれた本書は大きな価値を持ち、光彩を放っている。 -
埋もれた日本地図
「現地はつねに文献以上の何物かをもっている。しかし問いがなければ、現地は何も答えてくれない」。沖縄・八重山諸島から九州、大和、紀伊、関東、東北…… 日本各地を旅し、森かげや海のほとりに息づく、いにしえから百年千年つづいてきたものを、ひとびとの生き方のうちに見る。個々の事象の羅列では見えない、習俗の背後の全体性を、他界観や宇宙観ごと考えながら、ていねいに掘り起こす。「中央の高級社会だけにあると信じられてきた優雅さや高貴さや幽玄は、すべて庶民の生き方の中にこそある」。「日本の歴史」には載らない、名もなき生者と死者たちの生きた場所から、現在にも連なる精神史をひもとく、谷川民俗学の真髄。 本書の原本は『埋もれた日本地図』(筑摩書房、1972年)です。 【目次】 1 埋もれた日本地図 大王崎紀行 八重山民謡誌 由布島由来記 月夜の愛の歌 関東地方に遺る古代朝鮮の文化 追分宿の女たち 庶民遺文抄 下北半島紀行 獅子島の若者たち 白鳥伝説を訪ねて 霧島山麓のカヤカベ信仰 2 琉球の宇宙観と他界観 太陽の洞窟――琉球の宇宙観 あかるい冥府――琉球の他界観 沖縄の日本兵 -
宇宙の哲学
宇宙の歴史は有限か無限か? 「この宇宙」はどのように生まれたのか? 時間以前には何があったのか? …… 宇宙の謎をめぐる人類の探究の歴史を、ケプラーのSF的宇宙探索物語、パスカルの無限空間への恐怖、ニュートンの普遍力学、カントのコペルニクス的転回、ラプラスの魔、パースの進化論的宇宙論といった魅力的なトピックとともに、コンパクトかつ深く辿る! ビッグバン宇宙論や多宇宙論など、物理学の最新成果を踏まえた、哲学の泰斗による「新しい自然哲学」構築の試み。 解説は、『なぜ宇宙は存在するのか』の野村泰紀氏(理論物理学/カリフォルニア大学バークレー校教授)。 [目次] ■講義 自然哲学の行方 第一講 コスモロジーの自立 (われわれの生きる宇宙/…新しい自然哲学の時代のとばぐち/…) 第二講 ケプラーの夢 (伝統的思考法からの独立/…世界初のサイエンス・フィクション/…) 第三講 無限宇宙の永遠の沈黙 (…沈黙する宇宙と人間の孤独/…パスカルの根源性と先駆性) 第四講 時空をめぐる論争 (ニュートン力学が切りひらいた問い/カントによる時空論の総合/…) 第五講 レヴォリューションーー回転か革命か (世界観の転換/…時空やカテゴリーは固定的か) 第六講 決定論の崩壊 (ラプラスの魔/…非決定論の方へ) 第七講 ビッグバンの方へ (「人類の偉大な一歩」/…哲学に役割は残されているか/…) ■補講 宇宙の時間、有限か無限か 補講一 有限説と無限説 (カントの「誤り」を超えて/…宇宙の歴史は無限か/…) 補講二 カントのアンチノミー (アンチノミーが暴くもの/…ゼノンのパラドクスから一九世紀の数学・論理学へ) 補講三 パースの宇宙論 (進化論的宇宙論ーーカオスからコスモスへ/…現実の「外」へと目を向ける方法) ■解説 新しい自然哲学は未解決問題に挑めるか 野村泰紀 ■人名索引 -
裏切り者の中国史
復讐に取り憑かれた伍子胥、人心を操り権力に固執した王莽、女のために国を売った呉三桂……。極め付きの裏切り者たちが行き着く先は? 『史記』『戦国策』『三国志』『世説新語』等の史料から、歴史を動かした個性溢れる悪漢たちを描き切る。春秋時代から明末清初まで、二五〇〇年にわたって興亡の絶えない中国をかき回した反逆者たちの数奇な人生。 中国古典の第一人者・井波律子氏による評伝集にして、中国史・中国文学のファン必携の一冊。 【主な登場人物】 ・母国の君主に父兄を殺され、敵国の呉に奔った伍子胥(ごししょ) ・品行方正を装い、世論を操作して王朝を簒奪した王莽(おうもう) ・三世代かけて国を滅亡させた諸葛亮のライバル司馬懿(しばい) ・貴族に出し抜かれ、皇帝になりそこなった繊細な桓温(かんおん) ・反乱を引き起こすも、夢半ばで息子に殺された安禄山(あんろくざん) ・英雄を処刑したため、中国史上最も忌み嫌われた秦檜(しんかい) ・恋人を奪われて激怒し、身を売り国をも売った呉三桂(ごさんけい) ほか、呉起、始皇帝、商鞅、張儀、蘇秦、趙高、則天武后、楊貴妃、項羽、劉邦、諸葛亮、永楽帝、朱元璋、李自成など多数。 【目次】 はじめに 第1章 復讐の鬼――伍子胥 第2章 自立するコスモポリタン――戦国時代のパフォーマー 第3章 頭でっかちの偽善者――王莽 第4章 持続する裏切り――司馬懿 第5章 気のいい反逆者――王敦と桓温 第6章 危険な道化――安禄山 第7章 極め付きの「裏切り者」――秦檜 第8章 恋に狂った猛将――呉三桂 年表 参考文献 あとがき -
浮気な王の宮廷生活 スペイン・ハプスブルクの落日
政治には関与せず無気力。日々、絵を描き芝居を観て祝宴に列し、女性とみれば女優に修道女、宮廷の侍女から街の娼婦まで口説かずにはいられない。そんな愛欲に溺れる己に苦しみ、罪悪感から神にすがっては懺悔する…。 華やかなりしスペイン帝国をみるみるうちに凋落の一途へと導いた、国王フェリペ4世(1605-65 在位 1621-65)。 悪名高き意志薄弱な王は、いかに誕生したのか。その放埒な生活と晩年の不如意な人生と死を第1部に。凋落するスペイン帝国の実態を第2部に構成。様々な噂話やエピソードかスペイン・ハプスブルクの影を活写する。 目次 はじめに 第一部 第1章 スペイン国王フェリペ四世、誕生 王子の誕生と教育/王子の理想像/結婚、そして王位継承へ/寵臣オリバーレスと王家の人々 第2章 浮気な国王の放埒な宮廷生活 祝宴につぐ祝宴/王宮での日々/芝居を楽しむ/十七世紀式闘牛、マヨール広場にて/《狩猟をするフェリペ四世》/宮廷式求愛/宮廷画家ベラスケスと絵画コレクター/宮廷のおどけ者たち 第3章 フェリペ四世の告白できない告白 スキャンダルの始まり/女優〈ラ・カルデローナ〉との恋の戯れ/女子修道院に忍び込む/賢夫人イサベル王/ライバルは「ドン・フアン」/伯爵暗殺 第4章スペイン帝国の危機と王家の不幸 マントヴァ継承戦争とネーデルランド/カタルーニャとポルトガルの反乱/寵臣オリバーレスの失脚/権力の後継者ルイス・メンデス・デ・アーロ/イサベル王妃とバルタサール・カルロスの死/跡継ぎが生まれない!/「大地の息子」フアン・ホセ・アウストリア以後 第5章 世俗を逃れて/恩寵を求めて 神秘家マリア・コロネル/「余に天罰を!」/魂の国からのアドバイス 第6章 国王の晩年と黄昏れゆくスペイン 苦悩の晩年と国王の死/ハプスブルク家からブルボン家へ 第二部 17世紀スペインへの望遠鏡(テレスコープ) ハプルブルク・スペインのかたち/人々の生活とカトリック教会/異端審問と「アウト・デ・フェ」/黄金世紀、百花繚乱 《注》 あとがき 主要参考文献 人名索引 学術文庫版あとがき 本書は、『浮気な国王フェリペ四世の宮廷生活』(岩波書店 2003年3月刊)を改題、加筆・一部修正したものです。 -
永遠の平和のために
イマヌエル・カント(1724-1804年)が1795年に発表したこの小著の日本語訳の主なものは四種類あります(高坂正顕訳(1949年)、宇都宮芳明訳(1985年)、中山元訳(2006年)、池内紀訳(2007年))。それらはすべて『永遠平和のために』というタイトルで出され、多くの読者の手にされてきました。 では、なぜあえて新しい訳を出すのか――練達の訳者は、思案した末、やはり新しい日本語訳が必要だという結論に達して、本書を仕上げました。その一例は、本書第1章のはじめにある「Friede, der das Ende aller Hostilitaten〔原文はaにウムラウト〕bedeutet」という個所です。既存の訳の訳文を一覧にすると次のようになります。 (高坂正顕訳)「平和とはあらゆる敵意の終末を意味し」 (宇都宮芳明訳)「平和とは一切の敵意が終わることで」 (池内紀訳)「平和というのは、すべての敵意が終わった状態をさしており」 (中山元訳)「平和とはすべての敵意をなくすことであるから」 これらの日本語を読むと、カントは誰もが「敵意」を捨て、心のきれいなよい人になった状態を「平和」と呼んでいる、と思うのではないでしょうか? そのとおりだとすれば、ほんの少しでも「敵意」を抱くことがあるなら、決して「平和」は訪れない、ということになります。しかし、そもそも「敵意」をまったく抱かないなどということがありうるのだろうかと考えると、カントは現実離れした理想を語っていたと感じられてきます。 でも、ここでちょっと考えてみよう、と本書の訳者は言います。原文にある「Hostilitaten」を「敵意」と訳すのは本当に正しいのだろうか、と。確かに「Hostilitat」(単数)は「敵意」だけれど、カントがここで書いているのは「Hostilitaten」という複数形です。これは「敵対行為、戦闘行為」を意味します。だから、この個所は次のように訳すべきでしょう。 (本書)「平和とは、あらゆる戦闘行為が終了していることであり」 上の四種の訳文とはずいぶん意味が異なるのではないでしょうか。こんなふうに、この著作は現実離れした理想を語ったものではなく、現実から離れずに「永遠の平和」というプロジェクトを提示したものなのです。カントの本当の意図は、本書を通してこそ明らかになるでしょう。 [本書の内容] 第1章 国どうしが永遠の平和を保つための予備条項 その1/その2/その3/その4/その5/その6 第2章 国と国のあいだで永遠の平和を保つための確定条項 永遠の平和のための確定条項 その1/永遠の平和のための確定条項 その2/永遠の平和のための確定条項 その3 補足 その1/その2 付 録 -
〈英国紳士〉の生態学 ことばから暮らしまで
自転車を「bike」と呼ぶか「cycle」と呼ぶか、眼鏡は「spectacles」かはたまた「glass」か。イギリスの階級意識はこんなところにも現れる。言葉遣い、アクセントにはじまり、家や食べ物、ファッション、休暇を過ごす場所……あらゆるものに微妙な、あるいは明白な階級をあらわす名札がついている。「世界中でもっとも階級にとりつかれた国」、作家ジョージ・オーウェルはイギリスをそう評している。 そんなイギリスで「紳士」たらんと、ほかの階級から嘲笑を浴びつつ精一杯背伸びしてきたのが、本書の主人公「ロウアー・ミドル・クラス」の人々である。「英国紳士」と聞いて真っ先に思い浮かべるシャーロック・ホームズや、日本で人気のジーヴズは、実は彼らと同じ階級に属するヒーローなのだ。 ワーキング・クラスとは断固区別されたい、しかしアッパー・クラスには決して届かない。上の階級の趣味や持ち物をまねると、たちまち流行して彼らが所属する階級の証となり、揶揄の対象になってしまう。隣人と差をつけるべく、アップライト・ピアノを買い、レースのカーテンを飾り、ささやかなことに一喜一憂する姿は、滑稽でありながらもいじましく、愛おしい。 彼らが揶揄されはじめたヴィクトリア朝から、かつての階級を超越した「スーパー・クラス」が登場する現代に至るまで、およそ100年間の悪戦苦闘を豊かなエピソードで描きだす。ほろ苦くもおかしいイギリス階級文化論。(原本:『階級にとりつかれた人びと』中公新書、1999年) -
英国流 旅の作法 グランド・ツアーから庭園文化まで
18世紀、古典教養を学ぶため、貴族の子弟や家庭教師がこぞってイタリアへと旅した、「グランド・ツアー」。 フランス革命が始まって海外渡航が難しくなると、今度は湖水地方への国内旅行へとシフトチェンジ、 ガイドブック片手に風景観賞(ピクチャレスク美)で美意識を磨く。 はたまた馬車が流行りだせば、「自らの歩き、詩想を深めるべし」と徒歩旅行が大ブームに。結果、ワ-ズワスはじめ、世界的ロマン派詩人を次々生み出した――。 どんな時代もどんな状況でも、「旅で学ぶ」「旅で成長する」という信念を守り続けた英国人。 彼らは、なぜこれほどまでに旅に焦がれ続けたのか。 旅の効用とは、一体何なのか。 その飽くなき情熱と、彼らが愛してやまない理想郷「田園」の精神的意味を 様々な史料、図版とともに考察する。 学術文庫版解説・桑木野幸司「イタリアが造った英国の風景」 本書は『イギリス的風景 教養の旅から感性の旅へ』(NTT出版 2007年刊)を加筆修正、改題したものです。 -
英雄伝
本書の著者コルネリウス・ネポス(前100頃-前25年頃)について、その詳細はほとんど知られていない。北イタリアのティキヌム(現在のパヴィア)周辺に生まれたと考えられ、ローマが内乱状態に突入する中で、キケロ(前106-前43年)と手紙のやり取りをし、アッティクス(前110-前32年)と深交を結んだほか、詩人カトゥッルス(前84頃-前54年頃)はみずからの詩集『カルミナ』をネポスに献呈している。生涯の大部分をローマで過ごしたが、政治には参加せず、もっぱら文筆業に勤しんだことが推測できるにすぎない。 他の著作家たちによる言及から、ネポスがものした著作には、世界史の概略を語った『年代記(Chronica)』、古来伝わる著名人の言行や逸話を集めた『範例集(Exempla)』のほか、『カト伝』、『キケロ伝』などがあったことが知られるが、これらはすべて失われ、今日残っているのは、さまざまな分野で活躍した偉人たちの生涯を集成した『著名な人物について(De uiris illustribus)』(前35/34年)と呼ばれる著作の一部のみである。それが『英雄伝』の名で親しまれている本書にほかならない。 本書におけるネポスの記述は、取り上げられる英雄たちをもっぱら賞賛する点に加え、彼らの性格を照らし出すエピソードを紹介しつつ、そこから倫理的教訓を導き出す点に特徴がある。これは歴史書というより伝記文学の系譜に属するものであり、対象を賞賛する姿勢と矛盾しない形で、あるいはその賞賛をより引き立たせる効果を狙って主人公の短所や悲運に言及することで、いつの世にも変わらぬ人間精神の愚鈍さ、例えば名誉心や権力欲といったものの実相に読者の目を向けさせる効果をもつ。英雄たちがたどった波瀾万丈な人生をたどる楽しみにとどまらず、古典としての教えに満ちた作品を初の文庫版でお届けするものである。 [本書の内容] 序 文 一 ミルティアデス 二 テミストクレス 三 アリステイデス 四 パウサニアス 五 キモン 六 リュサンドロス 七 アルキビアデス 八 トラシュブロス 九 コノン 一〇 ディオン 一一 イピクラテス 一二 カブリアス 一三 ティモテオス 一四 ダタメス 一五 エパメイノンダス 一六 ペロピダス 一七 アゲシラオス 一八 エウメネス 一九 ポキオン 二〇 ティモレオン 二一 諸王について 二二 ハミルカル 二三 ハンニバル 二四 カ ト 二五 アッティクス 断 片 訳者解説 固有名索引 -
英雄伝説の日本史
歴史を彩る「英雄」は、どのように語り継がれ、創作され、人々の記憶と歴史認識のなかに定着してきたのだろうか。特に、政争や戦乱の敗者が伝説を介し、復活し、再生する過程を、中世から近世、近代への長いスパンでたどっていく。その「蘇り方」は決して直線的ではなく、多くの屈折と虚像を伴うが、その道筋を追うことが、新しい歴史学の楽しみとなる。 たとえば、安倍晴明のライバル蘆屋道満や、酒呑童子退治の坂田金時ら、実在の疑わしい英雄は、歴史のなかでどのようにリアリティーを吹き込まれていったのだろうか。 そして、平将門や菅原道真らの怨念への畏怖が語らせる「敗者の復活」。坂上田村麻呂や藤原利仁、源頼光に託された、「武威の来歴」の物語。鎮西八郎為朝や源義経が、西国や東北、さらに大陸へと伝説を拡大させた「異域の射程」。本書はこれらを三つの柱とし、伝説のなかに中世史の再発見を試みる。江戸の浄瑠璃や歌舞伎、往来物から、近代の国定教科書まで、伝説の変貌の過程から「歴史の語られ方」を豊かに汲み上げる。〔原本:『蘇る中世の英雄たち――「武威の来歴」を問う』中公新書、1998年〕 -
《英雄》の世紀 ベートーヴェンと近代の創成者たち
ベートーヴェンはナポレオン戴冠の知らせを聞いて作曲中の第三シンフォニーの楽譜を床にたたきつけたといいます。「ボナパルト」なるタイトルを持つはずだったこの交響曲は標題をあらため、英雄交響曲《シンフォニア・エロイカ》として発表されました。ナポレオンに落胆したものの、革命の時代に終止符をうつ「英雄」を待望していたのです。 ドイツ人作曲家ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827年)の生きた18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパは、革命の進行する激動の世紀でした。この時代の人々にとって、自前の代表者をもちえないドイツですら、「英雄」とは実在する観念でした。どのようにして英雄像はリアリティを持ったのでしょうか。 馬上のナポレオンを目撃したヘーゲル。皇帝となったナポレオンに謁見したゲーテ。 ナポレオンという「英雄」は幻想にすぎなかったのか。ベートーヴェンの生涯をたどりつつ同時代の偉人たちをとおして、「英雄の世紀」を臨場感あふれる筆致で描きます。 西洋史の泰斗が達意の文章でおくる近代創成のロマン!! 【本書の内容】 はじめに 第一章 英雄(エロイカ)の世紀 第二章 啓蒙の賢人から普遍の天才へ 第三章 啓蒙都市民の誕生 第四章 ヨーロッパ国際関係のなかのドイツ 第五章 ナポレオン革命 第六章 ナポレオン・ショック 第七章 市民と英雄 第八章 古典主義からロマン主義へ 第九章 静穏の一八二〇年代 主要参考文献 学術文庫版あとがき 関係年表
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