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荘子 全訳注
「胡蝶の夢」「朝三暮四」「知魚楽」「万物斉同」「庖丁解牛」「寿(いのちなが)ければ則ち辱多し」「無用の用」などがよく知られているが、それだけではない、西洋哲学を凌駕する深い哲学・思想がある。最重要である「道」が「一」であり、また結局は「無」であり、人間には決して把えられないものであるという根本テーゼを定立した。宇宙論、生き方、処世、芸事まで、幅広い哲学を展開した、汲めども尽きぬ名著。(講談社学術文庫) ※『荘子 上 全訳注』と『荘子 下 全訳注』を合本とし、電子書籍化した『荘子 全訳注 合本版』も配信中です。 -
荘子 全訳注 合本版
「胡蝶の夢」「朝三暮四」「知魚楽」「万物斉同」「庖丁解牛」「寿(いのちなが)ければ則ち辱多し」「無用の用」などがよく知られているが、それだけではない、西洋哲学を凌駕する深い哲学・思想がある。最重要である「道」が「一」であり、また結局は「無」であり、人間には決して把えられないものであるという根本テーゼを定立した。宇宙論、生き方、処世、芸事まで、幅広い哲学を展開した、汲めども尽きぬ名著。(講談社学術文庫) ※この電子書籍は、2014年に講談社学術文庫として刊行されました、『荘子 上 全訳注』『荘子 下 全訳注』を合本とし、電子書籍化したものです。この電子書籍とは別に『荘子 上 全訳注』、『荘子 下 全訳注』もそれぞれ電子書籍で配信中です。 -
僧侶と海商たちの東シナ海
「894年遣唐使廃止」は日本を変える出来事ではなかった。 列島を取り巻く大海原をたくましく乗り越え、「外」と日本を繋ぎ続ける人たちがいた― 利を求め海を闊歩する海商たちと、 彼らの助けを得て、最新の知識を求めて大陸へ渡ろうとする僧侶たち。 多くの記録を史料に残した僧たちの足跡を辿ることで、海域交流の実相に迫り、歴史世界としての東シナ海を描き出す! [本書の内容] 序章 中世日本と東シナ海 第1章 「遣唐使以後」へ 最後の遣唐使、出発 海商の登場 「遣唐使以後」の入唐僧たち 第2章 古代から中世へ 平安王朝の対外政策 帰国しなかった僧たち 密航僧の出現 第3章 大陸へ殺到する僧たち 「中世」の始まり 日宋仏教界をつないだ人脈―入宋僧円爾 日元関係の波紋と仏教交流―入元僧龍山徳見 第4章 「遣明使の時代」へ 混乱の海、統制の海 仏教交流の変質 補章 遣明使の後に続いたもの ※本書は2010年に講談社選書メチエより刊行された『 選書日本中世史4 僧侶と海商たちの東シナ海』を原本とし、改訂を加え補章を付して文庫化したものです。 -
齟齬の誘惑
「社会とは、いくつもの齟齬感や、違和感や、隔たりの意識が複雑に交錯しあう苛酷な空間にほかなりません」――。 東大生の心を慄(ふる)わせた伝説の入学式式辞のほか、大学は知と人が行き交い別れる「寄港地」たれと説く「第三世代の大学」論、運動論、映画論など、仏文学・映画評論の大家が、学問と教育に関わるすべての人に真摯に呼びかける、知の革新のための書! [目次] いま、この書物の読者となろうとしているあなたに 一 齟齬の誘惑 二 真実の位置 三 第三世代の大学 四 東京大学をめざす若い男女に 五 視線の論理・視線の倫理 総長日誌 学術文庫版へのあとがき 「社会に生きているわたくしたちは、何かを理解することで変化するのだし、当然、その変化は社会をも変容させる契機をはらんでいるはずです。ところが、「何かを理解したかのような気分」の蔓延は、そうした変化や変容の芽を、いたるところでつみとってしまいます。」 ――「いま、この書物の読者となろうとしているあなたに」より -
蕎麦の事典
故・司馬遼太郎が「よき江戸時代人の末裔」と称賛した市井の研究者によって体系化された、「蕎麦」に関する膨大な知見。江戸時代の文芸や大衆文化に登場する蕎麦、全国各地に根付いたさまざまな食し方、植物としてのソバと製粉の過程、蕎麦打ちの用語、そば店の隠語、蕎麦をめぐる史跡・習俗・諺など、あらゆる資料を博捜し、探究した1155項目。※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。 -
ソフィスト
名著、復刊。 ソフィストとは「にせものの知識を売物にして人を欺くような言論を試みる者」というような悪名を被されているが、本来はけっしてそのような悪い意味ではないのだというところに、本書の著者は出発点をおく。そしてソフィストの概念を克明に追求して明らかにし、ソフィストが西洋の思想史において持つ意味や果たした役割を積極的に評価し、その上で古来ソフィストに冠せられてきた悪名の由来を丹念に解き明かそうとするものである。 -
存在と思惟 中世哲学論集
本書の著者クラウス・リーゼンフーバー神父(1938-2022年)は、フランクフルトに生まれ、1958年にカトリックの修道会であるイエズス会に入会したのち、1967年に来日して長年にわたり上智大学で教鞭を執りました。ドイツ哲学に深い造詣をもつばかりか、西田幾多郎をはじめとする日本の哲学思想に通じていた著者は、西洋中世の哲学・神学について研究し、あるいは教育するとともに、一般向けの講座を精力的に行って多くの日本人に親われました。 しかし、専門論文が多いこともあってか、一般向けの著作はほとんどなかったと言わざるをえません。古代から現代に至る西洋哲学全体に対する該博な知識と透徹した理解に基づいた知恵の結晶を多くのかたに触れていただく機会になることを願って、ここに学術文庫オリジナルの精選論文集をお届けします。 以下の目次にあるように、本書で中心的に選ばれたのは、著者にとって重要な研究対象であるトマス・アクィナス(1225頃-74年)をめぐる論考です。「言語」、「存在」、「神」という哲学にとっても神学にとっても最重要の概念を正面から取り上げ、トマスの論を精緻にたどるだけでなく、独自の読みを加えることで、そこに潜む可能性を最大限に引き出す――「思惟」というものの醍醐味がふんだんにつまった論考群は、読むたびに発見に満ちた宝と言えるでしょう。 惜しまれながら2022年に逝去したリーゼンフーバー神父の偉大な遺産を本書を通して知っていただけることを心から願っています。 [本書の内容] 中世思想における至福の概念 トマス・アクィナスにおける言葉 トマス・アクィナスにおける存在理解の展開 存在と思惟――存在理解の展開の可能性を探って トマス・アクィナスにおける神認識の構造 神の全能と人間の自由――オッカム理解の試み 解 説(山本芳久) -
『孫子』の読書史 「解答のない兵法」の魅力
華々しい戦史も、将軍たちの勇壮な逸話も、ましてや必勝の極意もない小さな兵法書は、なぜ2400年にわたる世界史的ベストセラーになりえたのか? 曹操、蒋介石、毛沢東、山鹿素行、吉田松陰、旧陸海軍、公安警察、労働組合、電通、そしてイギリス軍やアメリカ軍へと読み継がれてきた歴史を辿りつつ、形篇や勢篇、行軍篇など実際のテキストを吟味し、その「魅力」の源泉に迫る! 【目次】 はじめに 中国王朝名一覧 ■第一部 書物の旅路ーー不敗への欲望 第一章 戦いの言語化ーー『孫子』の原型 第二章 成立と伝承 第三章 日本の『孫子』ーー江戸時代末期まで 第四章 帝国と冷戦のもとで ■第二部 作品世界を読むーー辞は珠玉の如し 第一章 帝王のためにーー『群書治要』巻三三より 第二章 形と勢ーー永禄三年の読み 第三章 不確定であれーー銀雀山漢墓出土竹簡「奇正」 第四章 集団と自然条件ーー西夏語訳『孫子』より おわりに 参考文献 学術文庫版へのあとがき 【本書の主なトピック】 □『孫子』古典化の秘密は非万能・抽象・非戦志向にあり □日清・日露戦争の勝利で進んだ『孫子』の聖典化 □米軍を『孫子』研究に向かわせた毛沢東率いる人民解放軍の脅威 □電通PRセンター初代社長が仕掛けた企業経営者向け『孫子』キャンペーン □帝王・皇族は『孫子』から何を学んだのかーー『群書治要』 □なぜ勝ち負けが生ずるのかーー形篇・勢篇 □無限に変化し、不確定であれーー銀雀山漢墓出土竹簡「奇正」 □”China Rising”で『孫子』は21世紀世界の必読書へ -
太平記<よみ>の可能性
太平記よみの語りは、中世・近世を通じて人びとの意識に浸透し、天皇をめぐる2つの物語を形成する。その語りのなかで、楠正成は忠臣と異形の者という異なる相貌を見せ、いつしか既存のモラル、イデオロギーを掘り崩してゆく。物語として共有される歴史が、新たな現実をつむぎだすダイナミズムを究明し、戦記物語研究の画期となった秀作、待望の文庫化。 これほど、読むたびに知的興奮を覚えさせられる本は、めったにない。10年前、兵藤さんからこの本を贈られ、一気に読んでそのスリリングな議論展開のとりこになって以来、『太平記<よみ>の可能性』は、文字通り私の座右の書になった。そのときどきの私の関心に応じて、さまざまな読み方ができ、そのたびに啓発される。この本自体、豊かな<よみ>の可能性にみちているのだ。――<川田順造「解説」より> 〔原本:1995年刊行の講談社選書メチエ〕 第1章 太平記の生成 第2章 もう1つの「太平記」 第3章 天皇をめぐる2つの物語 第4章 楠合戦の論理 第5章 近世の天皇制 第6章 楠正成という隠喩(メタファー) 第7章 『大日本史』の方法 第8章 正統論から国体論へ 第9章 歴史という物語 -
台湾の歴史
経済発展と民主化を達成し、ますます存在感を高めている「台湾」は、どんな歴史を歩み、どこへ向かうのか。2024年1月の総統選挙を控えて、その歴史と現在を知る文庫版。 その歴史は「海のアジア」と「陸のアジア」がせめぎ合う「気圧の谷間」が、台湾という場所を行ったり来たりした歴史だった。その動きから生じる政治・経済の国際的な激動の中で、多様な人々が織りなしてきた「複雑で濃密な歴史」を見つめることなしに、現在の台湾を理解することはできない。 はるか以前から、さまざまな原住民族(先住民族)が生きていた台湾島が、決定的な転機を迎えたのは17世紀のことだった。オランダ東インド会社が初めて「国家」といえる統治機構をこの島に持ち込んだのである。短いオランダ統治の後、明朝の遺臣・鄭成功ら漢族軍人の時代を経て、清朝による統治は200年に及ぶが、1895年、日清戦争に勝利した日本の植民地支配が始まる。そして1945年に始まった中華民国による統治は、当時の民衆に「犬が去って、豚が来た」と言われるものだった。その中で、本省人・外省人の区別を超えて「台湾人」のアイデンティが育まれ、1990年、直接選挙による第1回総統選で「初の台湾人総統」李登輝が登場する。 『台湾――変容し躊躇するアイデンティティ』(2001年、ちくま新書)を、大幅増補して改題し、文庫化。 目次 はじめに――芝山巖の光景 第一章 「海のアジア」と「陸のアジア」を往還する島――東アジア史の「気圧の谷」と台湾 第二章 「海のアジア」への再編入――清末開港と日本の植民地統治 第三章 「中華民国」がやって来た――二・二八事件と中国内戦 第四章 「中華民国」の台湾定着――東西冷戦下の安定と発展 第五章 「変に処して驚かず」――「中華民国」の対外危機と台湾社会の自己主張 第六章 李登輝の登場と「憲政改革」 第七章 台湾ナショナリズムとエスノポリティクス 第八章 中華人民共和国と台湾――結びつく経済、離れる心? 第九章 「中華民国第二共和制」の出発 結び 補説1 総統選挙が刻む台湾の四半世紀――なおも変容し躊躇するアイデンティティ 補説2 「台湾は何処にあるか」と「台湾は何であるか」 学術文庫版あとがき 参考文献 台湾史略年表 索引 -
田沼意次の時代
◇この男は、列島を「ひとつの社会」にしようと企てた◇ 低い家格から前代未聞の大出世を果たした男は、それまで幕藩体制が規定してきた列島の社会のあり方を一新しようと試みた。 税制改革、通貨一元化、蝦夷地の大規模開発……彼が企てた改革は未完に終わったが、その後の歴史展開に確かな足跡を残すものであった。 戦前は「日本史三大悪人」の汚名を着せられた田沼意次の評価を一転させた、記念碑的論考。 【本書より】 田沼意次の時代は、日本の改革と保守とが激闘した、江戸時代では最も面白い時代である。 【本書の内容】 はじめに プロローグ──郡上一揆と田沼意次の登場 第一章 田沼意次の虚像と実像 1 田沼意次の履歴 2 つくられた悪評 第二章 吉宗の退陣と意次の登場 1 吉宗退陣と家重継嗣 2 左近将監の罷免 3 将軍の座を逃した松平定信 4 田沼意次の登場 5 幕府の権力構造と田沼意次の位置 第三章 田沼意次の政策 1 暗殺で阻止しようとした田沼の政策 2 流通税の導入 3 通貨の一元化政策 4 蝦夷地の調査とその開発政策 5 印旛沼の干拓とその挫折 第四章 田沼時代の社会 1 文人たちの時代 2 天災と災害の時代 エピローグ──「遺書」を通してみた意次の人柄 おわりに 解説 -
大乗仏教の誕生 「さとり」と「廻向」
人びとを救いのない業報の束縛から解放する、恩寵と救済の宗教――大乗仏教は、どのような思想的変転の中から出現したのだろうか。「さとり」と「廻向(えこう)」という大乗仏教のキーワードを軸に、その独自の論理を解明していく。 「マーヤー夫人の処女懐胎」と「マリアの受胎告知」など、ブッダとイエスをめぐる説話に驚くべき類似がいくつも見られるのはなぜだろうか。本書はまず、仏教とユダヤ教、キリスト教など、西アジアの諸宗教の影響関係を聖典文献学から探る。なかでも、ペルシアに栄えたゾロアスター教がメシア信仰や阿弥陀仏信仰、さらに大乗仏教の成立に与えた影響に着目する。 また、自分の積んだ善業の結果を「さとり」という超世間的なものに転換したり、自己の功徳を他人に振り向けたりする「転換の思想」すなわち「廻向」は、「業も果も本質的には空(くう)である」という「空の思想」に支えられている、という。そして、この阿弥陀仏信仰と「空の思想」を両輪として、大乗仏教は育まれたのである。 原始仏教と他宗教を比較する広い視野から、難解な思想を平易に説き明かす。巻末解説を、チベット学の今枝由郎氏が執筆。 『「さとり」と「廻向」――大乗仏教の成立』(講談社現代新書1983年刊、人文書院1997年刊)を改題して文庫化。 -
第二次世界大戦 忘れえぬ戦争
1939年9月1日早朝、ドイツ軍が宣戦布告なくポーランドへ侵攻。ここに第二次世界大戦の幕が上がった。 第一次世界大戦の惨禍を経て、パリ不戦条約や国際連盟の設立により平和を誓ったはずだった世界が、未 曾有の大戦へと突き進んでしまったのはなぜか。ファシズムの台頭、植民地主義帝国の衰退、アメリカ自 由主義の伸長、資本主義と共産主義の対立……列強各国の緊迫した外交とイデオロギーの衝突が、世界を ふたたび戦火に巻き込んでいく。その果てに待っていたのは、ホロコーストや原爆投下といった人類史上 最悪の惨劇であった。 ローズヴェルト、チャーチル、スターリン、ヒトラー、ムッソリーニ、ド・ゴール、ティトー――歴史を動 かした指導者たちは、あの時代に何を思い、いかなる決断を下したのか。日中戦争を起点とし、太平洋戦 争へと突き進んだ日本は、どのような運命を辿ることになったのか。名著『第一次世界大戦』(講談社学 術文庫)の著者が鮮やかに描く、「戦後秩序の原点」となった大戦争の全貌。 [本書の内容] 序 章 悲劇の発端 大戦の様相 I 「彼らの最も輝かしいとき」 ついにダウニング街一〇番地 フランス休戦の賦 野望、海峡に散る 静かな幕間 II 大戦における一九四一年 迫りくる独ソ戦 スターリン、沈黙を破る 宣戦の詔書 III 雪原のかなた、砂漠の果て 第二戦線を、いま 偶然とみえるダルランの存在 カサブランカの集いを経て IV 去りゆく者と、よみがえる者と 最初の三首脳会談まで みずからを解放したパリ クリミアの短い蜜月 V すべてが語り尽くされる頃 死のさまざまな影 米英ソ大同盟の最後の歩み あとがき 参考文献 解説 戦後を戦前、戦中にしないために(池上 彰) 略年表 *本書の初版は1986年に社会思想社より現代教養文庫として刊行された。文庫化にあたっては『歴史・人間・運命 山上正太郎歴史叙述集2』(2000年、文元社)所収版を底本とした。 -
大日本人名辭書
本書は、明治十九年初版発行、昭和十一年新訂版発行、昭和四十九年に小社より復刻版を刊行した『大日本人名辞書』(全五巻)をそのままの内容で縮刷し、学術文庫に収録するものである。本書はもと田口卯吉の編集にかかり、独創的な名辞典として広く流布普及した。以来半世紀にわたって改訂増補を重ね、ここにみる「新訂版」として完成した。人物の網羅、記事の精確、収録の広汎等我が国人名辞典の王者として不朽の名著である。(講談社学術文庫)※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。 -
竹林の七賢
◆◇自由に生きるって、こういうことなんだぜ!◇◆ 儒教の権威が失墜し、政治社会が揺れ動くアナーキーな魏晋時代、自由闊達な思想が炸裂した! 詩を詠み、議論を戦わせ、楽器をかき鳴らし、そして心ゆくまで痛飲し、葛藤を抱えながら己の思想を貫こうとした彼ら。 権力に睨まれ刑死した者あり、敢えて世俗にまみれた者あり、いずれも激烈に生きたその群像を、シャープな筆致で簡明に描ききる! 中国史、中国思想に興味のあるものならば、「竹林の七賢」と彼らがおこなった「清談」というものについて、強い印象がのこっているだろう。 しかしながら、彼らがどのような背景をもつ思想家で、どのような知的交流をしたのか、具体的なことを知っているだろうか? 政治・社会が流動し価値観が変わりゆく時代にあって、それぞれの切実さをもって己の思想を生きた彼らは、いずれも「世俗を離れた、純粋な知的探求者」という一面的な見方ではとうてい捉えきれない思想家たちであった― 彼らの人間くさい生き様と、為した仕事のエッセンスを知る、とてもコンパクトで、楽しい一冊。 【本書「はしがき」より】 七人の人物が「竹林の七賢」という一つのグループにまとめられはしたものの、そのなかにはさまざまのタイプの人間が含まれていて実に個性豊かである。それだけではなく、一人の人間についても、その性向と行動とが一見すると矛盾するかのように思われる場合すらないではない。その点においてもまた、儒教が唯一絶対の価値の源泉であった漢代とは異なって、価値が多様化した魏晋の時代の一つの指標をみとめることができるのだが、「竹林の七賢」の面々は、ある場合には文学作品や哲学論文によって、ある場合にはそのライフ・スタイルによって、それぞれに強烈でしたたかな自己主張を行なったのである。 *本書の原本は、1996年に『風呂で読む 竹林の七賢』として世界思想社より刊行されました。 -
地中海世界 ギリシア・ローマの歴史
古代ローマ史の泰斗による、古代地中海世界の歴史。講談社現代新書で好評を博したシリーズ「新書西洋史」全8冊のうちの第2巻として刊行されたが、単なる概説書にとどまらず、古代史への新しく、大きな視座を提供した、定評ある意欲作。 本書は、ほぼ2000年にわたるギリシア・ローマの歴史を扱うが、「ギリシア」と「ローマ」という二つの歴史を扱っているのではない。「ギリシア・ローマ」という一つの世界の一貫した歴史として追及する。 現在の西半球の主要な歴史の担い手とその文化は、地中海世界を母胎として生み出されたものであった。ラテン的・ゲルマン的世界、ギリシア的・スラブ的世界、オリエント的・アラブ的世界は、地中海世界の崩壊の中から生み出された第二次的世界であり、キリスト教的東西ヨーロッパ文明、イスラム的アジア文明は、地中海世界の転生の中から生まれたものだった。地中海世界は、それらすべてのものの出発点であり、母胎であり、故郷なのである。巻末解説を、東大名誉教授・本村凌二氏が執筆。〔原本:『新書西洋史2 地中海世界――ギリシアとローマ』講談社現代新書、1973年〕 -
「知の商人」たちのヨーロッパ近代史
古来、思想は<出版>という形で普及し、後世へ残った。ならば、知の媒介者たる「印刷・出版業」から16世紀から20世紀の近代を眺めてみよう。そこには、名著を支えた蒐書家や出版人などの人間模様、「知」の商品化による印税騒動など、歴史に埋もれた事件が浮かび上がってくる! 思想史でも書物史でもない、碩学によるユニークな書。 本書は1985年4月、筑摩書房から刊行された『知の商人―近代ヨーロッパ思想史の周辺』を改題、加筆修正したものです。 目次 1 商品としての思想 エルセフィエル書店 リヴァイアサンの顔 ハーリーとソマーズ 知の商人―ストラーンのばあい 知の商人―エディンバラの出版業者 バーゼルのトゥルナイゼン 固有名詞の読み方 『ケール版ヴォルテール全集』始末記 イギリスのワイン アメリカ革命の導火線 『エディンバラ評論』の運命 紅茶の話 ジン横丁 2 知識人層の成立 音楽の商品化 うたは世につれ 『共産党宣言』の英訳者 パリ・コミューンと芸術家たち 芸術至上主義と無政府主義・ 黒猫のスタンラン 大学と女性 ディーツ出版社 ユニウスとジュニアス ブラウンス・アルヒーフ マスク・ヴェーバーをめぐる女性 3 ファシズムのもとで グーテンベルク図書組合 マリク書店とハートフィールド 亡命知識人とスイス 左翼読書クラブ 一九三〇年代の墓標 ウォーバーグ家の人びと 空襲下のコンサート 内容抜粋) 「私は昨夜、ヴォルテールが死んだということを聞きました。これで人びとは、安心して彼の著作を買うことができるでしょう。彼はもう、あとからあとから書き直すということができないからです」(一七七八年一月十七日)。この知らせは誤報で、ウォルポールの安心は四ヵ月余り早すぎたのだが、ヴォルテールの止まるところを知らない改訂癖に蔵書家が悩んでいたことは、誤報ではない。 1「『ケール版ヴォルテール全集』始末記」より ルイジ・エイナウディ研究所 本を愛した外科医 あとがき 学術文庫あとがき 人名索引 -
チベット旅行記
仏教の原典を求めて、1900年当時厳重な鎖国をしていたチベットに、困難を乗り越えて、単身入国・帰国を果たした河口慧海師の旅行記です。最高の旅行記かつ、生活・風俗・習慣の的確な記録として、チベット研究の第一級の基本文献です。『西蔵旅行記』(1904、博文館)を底本とし、挿絵も全点収録しています。また、改訂版(1940年)と英訳本(1909年)も参照し、完全な形になっています。(講談社学術文庫) -
チベット旅行記 合本版
仏教の原典を求めて、1900年当時厳重な鎖国をしていたチベットに、困難を乗り越えて、単身入国・帰国を果たした河口慧海師の旅行記です。最高の旅行記にして、生活・風俗・習慣の的確な記録として、チベット研究の第一級の基本文献です。『西蔵旅行記』(1904、博文館)を底本とし、挿絵も全点収録しています。また、改訂版(1940年)と英訳本(1909年)も参照し、完全な形になっています。(講談社学術文庫) -
忠臣蔵 もう一つの歴史感覚
日本人の心の中に「大石内蔵助」という名は一つの男の理想像として刻み込まれている。しかし、このイメージは、実は歴史上の実像とは隔たりがある。それでは、「忠臣蔵」という共同幻想をつくったのは、本当はだれなのか。そして、この壮大なフィクションは、なぜこれほど日本人に愛され続け、『仮名手本忠臣蔵』はどのようにして歌舞伎最大の古典となったのか。明晰な構成と文体で鮮やかに描き出す、第一人者による意欲作。(講談社学術文庫) -
中世イタリアの都市と商人
海賊さながらに武装する商人、巨大化するガレー船、移住する地主と小作人、都市・農村行政を支える公証人……。 古文書館に眠る証書や帳簿、登記簿などの史料を丹念に掘り起こし、中世イタリア都市社会・地中海世界を生き生きと再構成。のちの中世イタリア史研究の芽はすべてここにあるとも形容される、稀代の中世社会史学者の到達点。 (解説:池上俊一) * * * [本書の内容] 1 地中海商業と海賊 2 ジェノヴァ・キオス・イングランド 3 地中海貿易とガレー船 4 イタリア中世都市の「市民」と「非市民」 5 中世末期イタリアにおける職人・労働者の移動 6 中世末期イタリアにおける公証人の活動 7 イタリア中世都市論再考 8 イタリア中世都市論再考――清水廣一郎氏遺稿 解説 かけがえのない細部を慈しむ 池上俊一 -
中世武士団
平安時代後期から戦国時代の終わりまで、中世をになった特徴的存在が武士団です。 「土」と結びついたイエ支配権の強力さと独立性、生活の実際と意識のあり方、10世紀初頭の武士団の実体と鎌倉武士団への発展の過程、「板碑」が語る武士団の歴史、安芸国の小早川氏に見る鎌倉的武士団から南北朝・室町的武士団への変貌の経過と武士団の支配下の荘園の様相、北陸の雄たる朝倉氏の城下町、越前一乗谷の考古学的発掘の成果をとり入れた戦国武士団の一面。そして中世から近世へと移りゆくなかで武士団が喪失した「自立性」への惜しみない哀悼。 本書は、日本中世史の泰斗が「中世武士団」という社会集団の実態と特色、そして中世社会の構造を、歴史書、文学作品、碑文、考古学資料を駆使し鮮やかに描き出し、高い評価を受け続けている作品です。30年以上前の著作ではありますが、学生や研究者にとっては今なお必読書であり、一般読者層にとっては最良の日本中世史入門といえる名著です。 〔原本/1974年、小学館「日本の歴史」12巻『中世武士団』〕 ※本書の原本は1974年、小学館より「日本の歴史」第十二巻『中世武士団』として刊行されました。講談社学術文庫収録にあたっては、同社より1990年に刊行された「文庫判 日本史の社会集団」第三巻『中世武士団』を底本とし、2005年に山川出版社から刊行された「石井進の世界」第二巻『中世武士団』を参照しました。 【目次より】 中世武士団の性格と特色――はじめに 曾我物語の世界 敵討とその周辺 「兵」の館をたずねて 「兵」から鎌倉武士団へ 板碑は語る 武士団とは何か 小早川の流れ(一)――鎌倉時代の歩み 小早川の流れ(二)――南北朝・室町時代の武士団 埋もれていた戦国の城下町――朝倉氏の一乗谷 失われたもの、発見されるもの――おわりに -
中世ヨーロッパの結婚と家族
学術文庫ですでに、『中世ヨーロッパの城の生活』、『中世ヨーロッパの都市の生活』、『中世ヨーロッパの農村の生活』、『大聖堂・製鉄・水車』、『中世ヨーロッパの家族』、『中世ヨーロッパの騎士』が好評を博している、ギースの「中世ヨーロッパシリーズ」の7冊目。本作では、人間の社会を構成する最も基本的な単位、「家族」と、その核心をなす「結婚」から、中世の社会史を掘り下げる。初訳。古今のあらゆる社会において、「家族」は、人が食べ、学び、経済生活を送る普遍的な場であったが、同時に、常に変化し続けるものでもあった。今日の家族は、ヨーロッパ中世が生み出した歴史の産物なのである。古代には、貴族の一夫多妻は当然であり、ローマ時代の「ファミリア」は、血族だけでなく奴隷や召使いをも含んでいた。中世の1000年間に、「解消不能な一夫一婦制」という原則はどのように定着し、「夫婦と子どもたちが一つの家に住む」という家族観はなぜ生まれたのか。14世紀の大災厄、黒死病以降に、家族のあり方や、子どもへの接し方はどう変わったのか。貴族や中流階級、農民や職人など、様々な人々の「結婚」と「家族」の進化の道筋を丹念に描く。[原著:Frances and Joseph Gies, Marriage and the Family in the Middle Ages,1987 ]目次/第一部 起源 第一章 歴史家、家族を発見 第二章 原点――ローマ人、ゲルマン人、キリスト教/第二部 中世前期 第三章 ヨーロッパの家族――五〇〇―七〇〇年 第四章 カロリング朝時代 第五章 アングロ・サクソン時代のイングランド/第三部 中世盛期 第六章 十一世紀の家族革命 第七章 十二世紀――新しいモデル 第八章 黒死病以前の農民たち――一二〇〇―一三四七年 第九章 貴族の系譜――長子相続がもたらす危機 第一〇章 中世の子どもたち/第四部 中世後期 第一一章 黒死病の影響 第一二章 中世後期の農民の家族――一三五〇―一五〇〇年 第一三章 イングランドの土地持ち紳士階級の家族 第一四章 十五世紀のフィレンツェ――商人の家族/第五部 中世末期 中世の終わり 第一五章 遺産/訳者あとがき -
中世ヨーロッパの色彩世界
明日、何を着ていこう――冠婚葬祭をのぞけば、服選びで色がもつ意味を気にする人はいないだろう。ところが中世ヨーロッパではそうはいかない。たとえば緑は恋を、青は誠実さを意味し、黄は忌避される色だった。中世の色は現代よりもはるかに饒舌で、絵画や文学で描かれた人々の衣服の色には、単なる色の美しさや好みを超えた、さまざまな意味が託されている。中世の人びとはどんな色に囲まれ、どんな気持ちで色を身につけていたのか、あるいは目の前の人物が纏う色から何を読みとっていたのか。 多彩な史料から複雑で精緻な色彩コードを読み解き、中世人の日々の感情生活を豊かに描き出す。あの絵画もこの伝説もいっそう深く理解できる、色が語る中世世界への招待!(カラー口絵付き。電子書籍版はオール・カラー図版) 待ちに待った初めての逢瀬。恋焦がれた女性が鮮やかな青に緑のオウムをちらしたドレス着て現れたら、相手の男性は有頂天になるだろう。なぜなら、そのドレスの意味するところは「誠実にあなたを愛します」。ところがある日、夢に現れた彼女が全身緑の衣をまとっていたら、悲嘆に暮れてしまうかもしれない。青が意味する誠実さに対し、緑は恋の色であると同時に変動の色でもある。彼女の心変わりが青を脱がせ、緑を着せたのだ――。 このように単なる色の好みや色づかいの美しさを越えて、中世の色は複雑な精神世界を織りなしている。「中世の色は饒舌であり、中世の人びとは意味もなく色をつけることはない」。たとえば黄色には負のイメージがつきまとい、縞柄は道化師や娼婦、気まぐれな運命女神のものである。権威と権力を示す赤、醜い色からやがて「悲しみの色」として大流行する黒……。 ブリューゲルやジョット、ヤン・ファン・エイクの絵画、数々の華麗な装飾写本の挿絵に、アーサー王物語をはじめとする騎士物語、貴族の家計簿や財産目録など多彩な史料から、当時の染色技術も視野にいれつつ、色彩に込められたメッセージを読み解き、色から見えてくる中世世界を描き出すのが本書である。 グリーンゲイブルスのアンはなぜ「赤毛」を嫌ったのか、ルーレットやバカラなどのカジノ台はなぜ緑のフェルトでおおわれているのか、囚人服は縞柄で、スーツにダークカラーが多いのはなぜなのか。現代社会に今なお息づく色彩に秘められた歴史に迫る!(原本:『色で読む中世ヨーロッパ』講談社選書メチエ、二〇〇六年) 【本書の内容】 序 章 色彩文明の中世 第1章 中世の色彩体系 第2章 権威と護符の赤 第3章 王から庶民までの青 第4章 自然感情と緑 第5章 忌み嫌われた黄 第6章 子どもと芸人のミ・パルティと縞 第7章 紋章とミ・パルティの政治性 第8章 色の価値の転換 終 章 中世人の心性 -
中右記 躍動する院政時代の群像
道長が「この世をば我が世とぞ思う……」と口ずさんでから約70年。道長の玄孫にあたり、のちに右大臣に昇る藤原宗忠は宮廷での日々を綴り始めた。宗忠が職を辞するまで、52年にわたり書き続けられた『中右記』は、華やかな宮廷生活はもちろんのこと、「武者の世」へと大きく時代が動いていく院政期社会の実像を伝えてくれる。貴族の旅行や交通事情、京で起こったさまざまな犯罪、落馬を恐れる貴族と牛車に四苦八苦する武士たち――宗忠は時に家族との死別に涙して仏事に奔走し、息子たちの栄達を願って心を砕く一方、自らを妨げた者、助けてくれた者の一覧を記すような面も日記のなかで見せている。 膨大な日記の海から、著者ならではの視線で重要な記述をすくいあげ、およそ900年前を生きた多様な階層の人々の暮らしをあざやかによみがえらせる、不朽の院政期社会史。 院政期の第一級史料である『中右記』は実にさまざまなことを語ってくれる。従一位、右大臣にまで昇りつめた宗忠の日々の苦労や悲喜こもごもはもちろん、熊野詣や伊勢への具体的な旅程と旅先ならではの交流、当時の警察・裁判機構の長官である検非違使別当として記した京の犯罪とその取り締まりの実態、それをめぐる人間模様、強訴を繰り返す悪僧たちの躍動、京の民衆が熱狂した田楽、そして警備などを通じて静かに存在感を増していく武士たちの姿……。 宗忠が生きた時代は、白河院による院政が始まり、「武者の世」の足音が聞こえはじめた、激動の予感に満ちた時代である。摂関家を中心とする藤原一門の栄華には翳りがさし、宗忠の日記には王朝貴族の秩序が崩れていくことへの悲憤や嘆きもにじむ。同時に武門の随兵・郎等のあり方からは、院政時代特有の武士像もうかがえる。 膨大な日記のなかから宝物のような手がかりをすくいあげ、同時代の日記や史料をも駆使して、900年前を生きた人々の体温や息遣いまで感じられるほどに、当時の世界が描き出される。(原本:そしえて、1979年) 【本書の内容】 はしがき 一 立身の道 二 熊野・伊勢への旅 三 検非違使の記録 四 院政期諸階層の生態 五 宮廷貴族の晩年 藤原宗忠関係年譜 解 説 髙橋昌明 -
張騫 シルクロードの開拓者
武帝から西域出使の命を受け、未知なる国へと出立した張騫(ちょうけん)(?-前114)。13年もの旅を経て帰国後、下級官僚から大中大夫への大昇進、失態から死罪宣告されるも、並ぶ者なき唯一の「西域専門家」として復権を遂げる――! 文化・物資の東西交流の大道を築いた英雄の波瀾万丈な出使記録と、シルクロード開通の功績を丹念に考察。 NHKの名番組「シルクロード」(1981)(1985)、「大黄河」(1986)を手がけたNHKプロデューサーにして中国文学研究者が、軽やかな筆致で描写。知られざる張騫の生涯と功績から、中国視点でのシルクロードを活写する。 本書の原本は1991年9月、筑摩書房 ちくまライブラリーより刊行されました。 目次 プロローグ 天の河へ行った男 語り継がれる張騫 第一章 張騫登場の背景 匈奴の馬蹄に戦く漢王朝 耳よりな情報と武帝の経略 奇特な応募者張騫――出身と時代風潮 第二章 第一次張騫出使―経過と成果 拘留十年、節を通す はじめて飲んだ葡萄酒――パミールを越えて 13年目の帰国と報告 第三章 第二次張騫出使――経過と成果 不倒翁の面目 烏孫内属 広がる波紋・張騫効果 第四章 人跡たえぬ流砂の道 葡萄・珍宝そして音楽――西域から漢へ 汗血馬来る――李広利の大宛遠征 絹の威光と穿井法――漢から西域へ 第五章 張騫につづくもの――西域経営の功労者 烏孫の「女王」解憂公主 最初の西域都護――鄭吉 虎穴に入らずんば虎子を得ず――西域に殉じた班超 エピローグ 墓前に思う 解 説 井上文則(早稲田大学教授) -
ツァラトゥストラはこう言った
本書『ツァラトゥストラはこう言った』がニーチェ畢生の書にして、ドイツ文学史上屈指の作品であることは言を俟たない。故郷を捨てて山に入ったツァラトゥストラは「私は惜しみなくあげたいし、頒かち与えたい。人間たちのあいだで賢者がもう一度愚かさを愉しみ、貧者がもう一度豊かさを愉しむようになるまで」という言葉とともに山から下り、人間たちの世界に入っていく。「神の死」を告げ、しかし人類は現状に甘んじることなく高みを目指して進んでいくべきだとする「超人」の思想を伝えるツァラトゥストラは、生きとし生けるものは現状以上を目指すという原理、すなわち「力への意志」の原理に「超人」が基づいていることを説く。しかし、没落を始めるツァラトゥストラは、この世に新しいものなど起こらず、すべては同じことの繰り返しであるという「永遠回帰」の思想にたどりつく――。 生田長江による最初の邦訳(1911年)以来、すでに本書の日本語訳は15種類を数える。そのすべてに目を通した上で作られた本訳書は、21世紀にふさわしい日本語で「声に出して読める翻訳」を実現するものである。学術文庫『愉しい学問』の訳者が満を持して送り出す、渾身の訳業! [本書の内容] 第一部 ツァラトゥストラの序説 ツァラトゥストラは語る 三段階の変身/徳の講座/背後世界論者/肉体の軽蔑者/情熱にひそむ喜びと苦しみ/青ざめた犯罪者/読むことと書くこと/山に立つ樹/死の説教者/戦争と戦士/新しい偶像/市場のハエ/純 潔/友/千の目標と一つの目標/隣人愛/創造者の道/老いた女と若い女/毒ヘビにかまれる/子どもと結婚/自由な死/惜しみなく与える徳 第二部 鏡をもった子ども/至福の島にて/同情者たち/司祭たち/有徳者たち/汚い奴ら/毒ぐもタランチュラ/有名な識者たち/夜の歌/舞踏の歌/墓の歌/自己克服/崇高な人/教養の国/純粋無垢の認識/学 者/詩 人/大いなる出来事/占い師/救 い/賢い世渡り法/最も静かな時 第三部 放浪者/幻影と謎/不本意な幸福/日の出前/卑小にする徳/オリーブ山にて/通り過ぎるということ/離反した者たち/帰 郷/三つの悪/重さの地霊/新旧の石板/快復しつつある人/大いなるあこがれ/もう一つの舞踏の歌/七つの封印 第四部・最終部 蜜の捧げ物/助けを求めて叫ぶ声/王たちとの対話/ヒ ル/魔術師/失 業/最も醜い人間/進んで乞食になった人/影/正 午/歓迎のあいさつ/晩 餐/高等な人間/憂鬱の歌/学 問/砂漠の娘たちのもとで/目覚め/ロバ祭り/夜の放浪者の歌/しるし 訳 注 訳者あとがき 索 引 -
包み結びの歳時記
古代、人は生きるために必要にかられて、結ぶこと・包むことを考えました。神が人間だけに授けた特殊な技法「包みと結び」が私たちの精神文化の基調となり、“礼法”という域に昇華するまでには、どんな変遷を辿ったのでしょうか。今や当たり前の景色となった「包み」と「結び」の起源を年中行事や風習から訪ね、由来と意味を解説。日本人の豊かな美の世界を堪能する! 本書は、1991年10月、福武書店より刊行されました。 目次 はしがき 一 年中行事と歳時 はじめに 1年中行事の始まりと広がり 2「包み」の働き 3「結び」のしくみ 4暮らしの中の包み結び 5年中行事と包み結び 6中国の歳時記 二 新年の季寄 はじめに 1門松 2しめ飾り 3結び昆布 4生花初め 5馬騎初め 6着衣始め 7おけら祭り 8お年玉 9掛鯛 10幸木 11猿廻し 12しめ縄の四手 13綱引き 14包み蓬莱 15蘇散 16綯い初め 17縫初め 18初髪結い 19箸包み 20常陸帯の神事 21宝引縄 22万歳と鼓 23結び柳 24大黒天と布袋 三 春の季寄 はじめに 1梅若忌 2事始め 3桜餅 4凧 5新茶 6針供養 7三つ葉 四 夏の季寄 はじめに 1青簾 2菖蒲打ちと菖蒲の枕 3葵祭り 4鵜縄 5団扇 6扇子 7蚊帳 8柏餅 9祇園会 10鱚 11薬玉 12三社祭り 13代掻きと田植え 14襷 15端午の節句と粽 16茅の輪 17夏帯 18夏足袋 19夏場所 20匂い袋 21袋掛け 22 浴衣 23蚊遣り火 五 秋の季寄 はじめに 1牛祭り 2風祭り 3霞網 4鴨 5菊供養 6島田帯祭り 7ずいき祭り 8相撲節会と衣裳 9晴明神社祭 10俵編み 11七夕 12中元 13盆行事 14重陽 15風呂敷 六 冬の季寄 はじめに 1綾取り 2亥の子餅 3襟巻 4縁結び 5事納め 6紙衾 7角巻 8七五三と紐解き 9しめ作り 10障子 11頭巾 12歳暮祝い 13鎮魂祭 14縄跳び 15袴着 16日蔭の鬘 17鰤 18頬被り 19足袋 20羽織と胸紐 21節分 七 通過儀礼 はじめに 1新生児 2誕生祝い 3褌祝い 4結納祝い 5婚礼 6岩田帯 7還暦祝い 8葬礼 9法要 10水引 11熨斗(のし) 12袱紗(ふくさ) 八 日本文化における包み結び はじめに 1神道的なもの 2仏教的なもの 3陰陽五行的なもの 4再び年中行事を考える 5包み結びとのかかわり あとがき -
鶴屋南北 かぶきが生んだ無教養の表現主義
19世紀、遊里とかぶきの全盛を過ぎ、文化と衰退と爛熟が肌で感じられた江戸化政期。それは地震・噴火・洪水と、鎖国の綻びの時代でもあった。「四谷怪談」「桜姫東文章」などで知られる四代目鶴屋南北は、奇抜な趣向で当時の「現代」を写しとり、かぶきに新たな地平をひらく。彼は世に何を仕掛けたのか。伝統の革新とは何か。稀代のかぶき研究者畢生の渾身作。 -
定本 中世倭人伝
中世アジアの海の世界を鮮烈に描いた書籍の決定版! 苛烈な略奪を繰り返し諸国を悩ませた前期倭寇。その結果生まれた倭人居留地「三浦(さんぽ)」は、朝鮮に巣食う「腫瘍(しゅよう)」とまで呼ばれ、後期倭寇は、アジアに進出してきたヨーロッパ勢力をも巻き込み、銀をめぐる密貿易で世界史に躍り出る……。彼ら倭寇・倭人は日本のものとは明らかに異なる「倭服」に身をつつみ「倭語」を操る、国籍や民族を超えた集団だった。14世紀から16世紀にかけて東アジアの海を舞台に、国家や民族集団からドロップアウトし、しばしば暴力をともないながら、自由に、どこまでもしたたかに生きた人々を描き出す。 「倭人は帯方の東南、大海の中に在り」。邪馬台国の史料としてよく知られる『魏志倭人伝』。ここからおよそ1200年後の朝鮮王朝の記録に、再び「倭人」は現れる―― 14世紀後半、女性や子供にも容赦ない前期倭寇の略奪が『朝鮮王朝実録』に恐怖の記録として生々しく克明に記された。倭寇に苦しむ朝鮮王朝がとった懐柔策によって15世紀に誕生したのが、倭人居留地の三浦である。エネルギッシュで、自由奔放で、論理を越えた倭人がひしめく三浦は、猫のひたいほどの場所でありながら、周辺の朝鮮社会に巨大な経済的影響をあたえ、やがてソウルの政財界まで巻きこんだスキャンダルを引き起こしていく――。 三浦を中心に、倭寇王の後継者として豊臣秀吉が登場するに至る中世東アジアの海域世界を描いた『中世倭人伝』。文庫化にあたって、原本には入れられなかったソウルの倭人たち、江南沿海域を中心とする後期倭寇の猖獗、石見銀山の爆発的増産によって世界を駆け巡った日本銀、さらに16世紀ヨーロッパの古地図に描かれた、銀と海賊に特徴づけられる日本像などの論考を増補し、倭人たちが躍動する海の世界を大きく広げた決定版登場!(原本:岩波書店、1993年) 【本書の内容】 学術文庫版はしがき I 中世倭人伝 「魏志倭人伝」によるプロローグ 一 国境をまたぐ地域 二 「三浦」──異国のなかの中世 三 密貿易の構造 中華の崩壊によるエピローグ 文献案内 あとがき 『中世倭人伝』韓国語版刊行によせて II 倭人群像 一 三浦の鎮城と関限――薺浦を中心に 二 倭人たちのソウル 三 三浦の乱時のソウル倭館 四 石見銀山と倭人ネットワーク 五 海賊、銀山、ザビエル――ヨーロッパ製古地図を読む 六 琉球王国と「倭寇」 七 中世日朝貿易における経典の輸入 学術文庫版あとがき -
哲学者ディオゲネス 世界市民の原像
ギリシアの枠を飛び越えた「犬哲学者」の実像 甕(かめ)の中に住まい、頭陀袋(ずたぶくろ)を下げ、襤褸(ぼろ)をまとって犬のようにアテナイの町をうろつき、教説を説いたシノペのディオゲネス。おびただしい数の逸話で知られる「犬哲学者」の思想とは、いったいどのようなものだったのか。アリストテレス的人間観や当時の伝統・習慣を全否定し、「世界市民」という新しい理念を唱導・実践した思想家の実像を探り出し、われわれ現代人の生き方を模索する。 「犬」と呼ばれたシノペのディオゲネス。ひとは彼についてどれほどのことを知っているだろうか。(略)昼日中にランプを灯してアテナイの雑踏を往来しつつ「わしは『人間』を探している」と言い放ったとか、なにかそういう類の奇抜な逸話が知られているだけではあるまいか。だが、知るべきはこの男の生き方、その根底にあった「世界市民」思想だ。――<「序章」より> -
哲学宗教日記 1930-1932/1936-1937
真の信仰を希求する魂の記録! 死後42年たって新発見された幻の日記 『論考』から『探究』へ―大哲学者が書き残した、自らの思考の大転換、宗教的体験、そして苛烈な内面の劇! “隠された意味”は何か!? 私の本『論理哲学論考』には素晴らしい真正の箇所と並んで、まがい物の箇所、つまり、言ってみれば私が自分特有のスタイルで空所を埋めた箇所も含まれている。1930.5.16 真の謙虚さとは、1つの宗教的問題である。1930.10.18 私はすべてを自分の虚栄心で汚してしまう。1931.5.6 人は職人の比喩に惑わされているのだ。誰かが靴を造るというのは1つの達成である。しかしいったん(手元にある材料から)造られたなら、靴はしばらくの間は何もしなくても存在し続ける。しかしながら、もし神を創造主と考えるのなら、宇宙の維持は宇宙の創造と同じくらい大きな奇跡であるはずではないのか、1937.2.24――<日記本文より> 『論考』がウィトゲンシュタインにとっての原罪であり、それを克服するためにこそ、この日記が書かれたのだという言葉に、おそらく多くの読者が驚き、いぶかしがられることと思う。――<訳者解説「隠された意味へ」より> *本書の原本『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記 1930-1932/1936-1937』は、 2005年に小社より刊行されました。 【目次】 はじめに 編者序 編集ノート 謝辞 凡例 第一部 一九三〇ー一九三二 第二部 一九三六ー一九三七 コメンタール コメンタールで使用された参考文献と略号 人名索引 隠された意味へ ウィトゲンシュタイン『哲学宗教日記』(MS183)訳者解説) 訳者あとがき 訳者あとがき補遺(学術文庫化にあたって) -
哲学入門
西欧古典文化の研究者としてわが国の第一人者である著者が、平明な文章で哲学とはなにか、科学史をどのように理解するかを問う。著者の学生時代をふりかえり周辺の教師像を描く随筆とあわせて、読者を深い思索の道へとさそってくれる。哲学そのものを問いながら、いっぽうでは哲学を難解な言葉から解放して、やさしい言葉で一般の読者に話しかけることは至難のわざであるが、本書には、こうした著者の努力がみごとに結晶している。 -
哲学の慰め
本書は、「最後のローマ人」と評されるアニキウス・マンリウス・セウェリヌス・ボエティウス(475/77頃-526年頃)が生涯の最期に残した著作である。 ローマ貴族の家に生まれ、アテナイに留学したあと故郷で研究・執筆を行ったボエティウスは、プラトンやアリストテレスの著作をラテン語訳したほか、神学者としては三位一体論を扱う著作を書き、音楽の理論書である『音楽教程』(講談社学術文庫)を、数学の理論書である『算術教程』をものして、四学科(幾何学、算術、天文学、音楽)の基本的な体系を中世に伝えた。 プラトンの『国家』で語られる「哲人政治」を理想としたボエティウスは、政治家としても東ゴート王国のテオドリック王のもとで宰相の地位にまで昇り、510年には西ローマ帝国の執政官となる。しかし、コンスタンティノープルとローマ教会の首位権をめぐる抗争、東ローマ帝国と東ゴート王国の対立に巻き込まれ、叛逆罪の嫌疑をかけられてパヴィアに投獄、処刑された。本書は、獄中で処刑直前に書かれたものにほかならない。 散文と韻文が交互に配され、人格化された「哲学」との対話形式を採った本書は、中世には聖書に次いで読まれた著作として知られる。研鑽を積んできたギリシア哲学を土台としつつ、自身の悲痛な体験を背景に抱えながら、理性によって俗情を克服し、徳と善の中で生きる境地を示した本書は、古代哲学の倫理学的な美しさを今に伝える古典である。 本書の日本語訳は、これまで4種類を数える。その中で最も古いものが、スピノザの翻訳で知られる畠中尚志(1899-1980年)による1938年のものである。「旧字体・旧かな遣い」のままになっていたこの名訳を、「新字体・新かな遣い」にして、お届けしたい。今日の読者にとって読みやすくなる工夫を施すとともに、『畠中尚志全文集』(講談社学術文庫)で熱意あふれる解説を執筆した國分功一郎氏が再び解説を担当した本書は、最新の校訂・研究に基づく他の訳書が存在する中でも、唯一無二の価値を持ち続けるだろう。 [本書の内容] 第一部 第二部 第三部 第四部 第五部 ボエティウス――生涯・業蹟・文献 解 説(國分功一郎) -
天球回転論 付 レティクス『第一解説』
地球は動いている――。プトレマイオスからおよそ1400年続く天文学を覆したコペルニクス(1473-1543年)。ケプラー、ガリレオ、そしてニュートンへと続く「科学革命」は、この発見に始まる。それは「革命」という言葉の華々しさとは裏腹に静かに、本人さえその帰趨を自覚しないままに始まった。 コペルニクスはいかにして地動説に至ったのか。『天球回転論』全6巻のうち、地球の運動について記された第1巻と、『天球回転論』の公刊に先立ってコペルニクスの地動説を初めて世に知らしめた弟子ゲオルク・ヨアキム・レティクス(1514-74年)の『第一解説』の本邦初訳をあわせて収録。 コペルニクスが生涯をかけた書物『天球回転論』が、ニュルンベルクの出版社から届けられた1543年5月24日、それを待っていたかのように同日コペルニクスは他界する。「プトレマイオスを模倣しようとした」、「天文学の再興者」と言われるほどに、その構成や研究に対する姿勢は、プトレマイオスの『アルマゲスト』に倣ったものだった。ただ一点、「地球が動いている」ということを除いては――。 1400年の長きにわたって支配的であったプトレマイオスの天文学およびアリストテレスの自然学体系に、『天球回転論』がうがった小さな穴は、やがて大きなひび割れとなって従来の伝統的宇宙観を根本から打ち破り、人間の世界に対する認識を大きく変容させることになった。 神学者や世間の反応をおそれて長らく原稿の公開をためらっていたコペルニクスに、出版を強く勧め最終的に承諾させたのが唯一の弟子レティクスである。かたくなに出版を渋るコペルニクスは、レティクスがまず『天球回転論』を簡潔にまとめたものを世に出すことで妥協した。この『第一解説』の好評に力を得て、コペルニクスはついに公開を決意する。『第一解説』は、その後もコペルニクス説の入門的概説として版を重ねることになった。 コペルニクスはいかにして地動説を導き出し、前代未聞の「地球の運動」をどのように語ったのか。文字通り「世界を動かした」書物の最重要部分と本邦初訳となる『第一解説』を収録! (『完訳 天球回転論』みすず書房、2017年より第一巻を収録、レティクス『第一解説』は新訳) 【本書の内容】 『天球回転論』第1巻目次より 宇宙は球形であること/大地もまた球形であること/地球の大きさに対する天の広大性について/地球が、いわば中心として、宇宙の真中に静止しているとなぜ古代の人たちは考えたのか/地球に複数の運動が付与されうるか、および宇宙の中心について/地球の三重運動についての論証……など。 レティクス『第一解説』目次より 恒星の運動について/古代の天文学者たちの仮説が廃棄されねばならない主な理由/天文学全体の新仮説……など。 -
天皇の軍隊
日本人にとって「軍隊」とはなんだったのか。大日本帝国軍隊は、天皇に直隷するまさに「天皇の軍隊」であった。天皇は軍人の「頭首」として、斃れた将兵の魂魄を守る者としても存在した。しかし、天皇の名による軍隊生活の実態とは…。徴兵の恐怖感、凄惨な私的制裁、兵士たちの性生活と花柳病、遺された家族の貞操…。戦争が長期化するなかで、軍隊は大衆化し、軍官僚は肥大化して「天皇の軍隊」は大きく変質していった。(講談社学術文庫) -
天文学の誕生 イスラーム文化がもたらしたもの
イスラームは天文学を必要とし、天文学はイスラームなくして発展し得なかった。 論証と幾何学により天文現象をモデル化しようとした古代ギリシアの試みは、2世紀エジプト・アレクサンドリアのプトレマイオスに受け継がれ、その主著『アルマゲスト』において、天動説による宇宙モデルはひとつの完成を見た。 しかし、その後のローマ帝国において人々が必要としたのは、天文学という知的探求そのものではなく、占星術とホロスコープであり、星々の位置を定める手段のみであった。ギリシア科学やプトレマイオスによる幾何天文学を展開・発展させる者がヨーロッパ世界において現れるのは、コペルニクスの登場まで待たねばならなかった。 だが、地動説を打ち立て天文学のみならず科学を大きく転回させたコペルニクスは、明らかにプトレマイオスの天文学を受け継いでいた。7世紀には断絶を迎えていたはずの幾何天文学は、16世紀のコペルニクスまで、いかにしてたどり着いたのだろうか。 実は『天球回転論』では、サービト・イブン・クッラ、バッターニー、ザルカーリー、イブン・ルシュド、ビトルージーらイスラーム世界の学者への言及がされている。コペルニクスは、イスラーム地域の天文学者たちの成果を、参照すべき先人の業績とみなしていたのである。 イスラーム世界、とりわけアッバース朝では、それまでのペルシアの伝統を受け継ぎ、翻訳事業を振興し、占星術を重視した。他方で、異教徒との議論において自らの教義の正当性を揺るがぬものとするため、世界の仕組みについての合理的な説明を厳密に組み立てる「論証」が求められた。そうした要請のもとイスラームの学者たちは、古代ギリシアやインドの知的達成に学び、その中でプトレマイオスは再発見されたのである。さらに彼らは、天体モデルの整合性を追究し、観測結果に基づいてプトレマイオス天文学の修正を目指し、より厳密な幾何天文学を構築しようとした。その集大成を、地動説という形で成し遂げたのがコペルニクスだったのである。 コペルニクスの登場が近代天文学、ひいては近代科学の始まりであるとするならば、イスラームによる天文学研究は、近代科学の礎となる重要な活動であったと言える。 本書は、イスラーム世界において天体への考察が科学として磨き上げられていった歴史を、簡明かつ鮮やかに描き出すものである。 *本書の原本は、2010年に岩波科学ライブラリーより刊行されました。 -
東京裁判への道
「A級戦犯」被告28人はいかにして選ばれたのか? 昭和天皇「不訴追」の背景は? 無視された証言と証拠、近衛の自殺、木戸の大弁明――アメリカに眠る膨大な尋問調書から明かされる真実。極東国際軍事裁判をめぐる歴史ドラマが、ここに開幕する! 第一人者による東京裁判研究の金字塔! 「A級戦犯」被告28人はいかにして選ばれたか 「天皇不訴追」決定の真実、無視された証言と証拠、近衛の自殺、木戸の大弁明──アメリカに眠る膨大な尋問調書から明かされる真実。極東国際軍事裁判をめぐる歴史ドラマが、ここに開幕する! 「A級戦犯」28人はいかにして選ばれたのか。天皇不訴追の決定プロセスの真実とは。釈放されていく「大物」たち、免責された毒ガス・細菌戦。冷戦が本格化してゆく中で、無視された証言・証拠……アメリカに残されていた膨大な尋問調書を丹念に読み解き、語られざる歴史の実相と当事者達の人間ドラマを描き出す。東京裁判はこうして始められた! -
東京のヤミ市
新宿、渋谷、新橋、池袋、上野……焼け跡となった街に、ふたたび人とモノがあつまり、立ち上げられたマーケット。「戦後東京」の原風景を形づくったと語られ、いまや歴史の中に霞みつつあるヤミ市とは、いったい何だったのか。食べるものも着るものも「あるべきところにあるべきものがない」敗戦直後、人々は統制経済の網の目をかいくぐり、生きるための商いを、そこで営んだ。ゴザの上に芋を並べた露店は、やがて電気ガス水道をそなえた商店となり、カストリと焼き鳥の飲み屋ができ、ありとあらゆる雑貨が流れ込んでゆく。そうして日々の暮らしを立て直そうとする庶民たちの「復興」は、テキ屋たちのプロデュースにより加速され、巨大な盛り場を生み出していった。丹念なフィールドワークにより都市生活文化の探究を続けてきた著者が、ヤミ市のリアルな姿を蘇らせる!【本書の内容】第一章 望遠レンズでみるヤミ市 バルーンに乗って一九四七年の東京探訪/新宿はヤミ市のターミナル/渋谷―エネルギッシュな三角地帯/新橋―巨大など呑み屋街/銀座・有楽町―ヤミ市のできない都心/上野広小路―アメ横の母体/池袋―ボランタリーチェーンの理想と現実 第二章 覗きこむヤミ市 ヤミ市建築の変化―ヨシズ・バラック・マーケット/ヤミ市の地域・建築設計―新宿/ヤミ市建築の豪華版―新橋「新生マーケット」/ヤミ市の店舗建築とディスプレイ1―昼のマーケット/ヤミ市の店舗建築とディスプレイ2―バラック長屋の飲食店街/ヤミ市の店舗建築とディスプレイ3―三階建ての夜の街/インフラストラクチャーの構築 第三章 ヤミ市にひしめく人びと 第一世代の出自/初期ヤミ市商人からの脱却/ヤミ市地下活動へ/ヤミのプロ商人/ヤミ市を生き抜く 第四章 ヤミ市料理のレシピ 「国際的なメニュー」の登場―配給では食べられない時代/洋食編/韓国・朝鮮料理編/和食編/中華料理編/ドリンク編/デザート編 第五章 太陽の下のヤミ市 ブティック/荒物屋/日用雑貨・化粧品屋/パチンコ屋/生鮮食料品店/電気器具店 第六章 新宿ヤミ市・夜のシナリオ 夜のマーケット・それぞれの風景/酒場の作法 第七章 新焼け跡再興のプロデューサー テキ屋と焼け跡商売/「組」型経営管理法/東京のカポネ/土地をめぐるヤミ市の論理 第八章 ヤミ市の生活文化論 ヤミ市文化の闇/ヤミ市の産んだ食文化/ヤミ市パチンコ屋を逆照射する/カラオケと軍歌の相似性/ヤミ市の時代を駆け抜けて 主要参考文献 ヤミ市年表 ヤミ市キーワード集