本書が83年岩波新書黄版として刊行されたころは、網野氏を始めとする日本中世史に関する著作や論文が一般読者にも届き出していた頃だった。その一翼を担っていた笠松氏の著名な本書が学術文庫入りしたことは、感慨を覚える。
一般読者向けの新書ということもあるのだろうが、改めて読んでみて、読書の関心を次から
...続きを読む次へと引っ張っていく展開の妙に感心したし、何よりも文章が取っつき易い。もっとも、その一文一文の背後に相当の史料探索や関連領域研究の蓄積があることが窺われる。
日本史上に有名な永仁の徳政令。なぜ「徳政」と呼ばれたのか、どうしてこれほど人口に膾炙したのか。
鎌倉期の法令の在り方、土地を巡る争いと裁判の方式から始まり、あるべきところへ戻す徳政の本質、仏物・僧物・人物の区分と境界、「贈与」の特性、安達泰盛の改革と公家法の変革などなど、興味深い考察が次々に俎上に上る。
現代の人間の眼からは、どうしてこんな法制が実施されたのか不思議に思ってしまう徳政令について、考えるヒントをたくさん与えてくれる、名著と読んで相応しい一冊。