佐藤優氏が逮捕勾留される事になった事件の回顧録。この本に初めて興味を持ったのは週刊新潮に連載されていた「頂上対決第182回」の対談相手が取り調べを行った元検事、西村尚芳氏だったからである。
事件当時、鈴木宗男議員と田中真紀子議員と佐藤優氏がTVニュースに映りまくり、良くは分からずとも何やら大変な事件
...続きを読むが起こっており「外務省は悪い人たちのいるところだ」みたいな印象を子供ながらに抱いていた。ので、長らくきっと事件の弁明みたいな事が書いてあるのだろうくらいにしか思ってなかったのだが「悪い人」であるはずの佐藤氏の名前をアチラコチラで頻繁に目にすると、流石にこの認識は大分違うらしいと気にはなっていた。文章を読むと俗悪さの欠片もない。凄い。ではなぜこんな凄い人が捕まったのか。またなぜ評価をくれているのか。知りたくなった。
元外交官とは知りつつも、よもやここまで世界情勢が絡んでくるとは思わず、イスラエルの知識まで増えるとは思わなかった。事件のみならず現在を理解するうえでも大変役に立ったし、僅かな海外経験の肌感覚も記述と合致してかなり納得できた。
事件の専門的な細部までは分からないし、伏せられていることもあって全容では無い。ただ、私の実質識字率は5%からは少し上がったと思う。今後も上げ続けていかなければ。
「利害が激しく対立するときに、相手とソフトに話ができる人物は手強い」激しく同意。西村検事はずっと敵なのに、信用できる人。小説ならば胸熱なキャラだけど、実在する人で、20年後の対談でもそれは揺らがない。「国益」という言葉が多用されていたが、つまるところ、命がけで挑める何かがあるか。そんなものを持つ人は明治大正時代あたりで消えたと半ば本気で考えていたが、私の視野が狭窄だっただけだった。破廉恥事件ばかりに目が行くが、こんな真剣な大人たちがいてくれることに救われる想いがする。
『自壊する帝国』もあまり時間を開けずに読むつもりだし、今後氏の著作は極力読んでいきたい。