ルーズ・ベネディクトと言われると、『菊と刀』が思い浮かぶ。
だが、この『レイシズム』も、古典でありながらも、現代に通じる、というよりも、現代で改めて考え直さなければならない一冊だった。
人種差別はよくない、ということは誰でも知っている。しかし、なぜよくないかを、「人種」で説明しようとする。例えば
...続きを読む、肌の色だとかわかりやすい外見を使って。
しかし、目を向けるべきなのは、「人種」でなく、「差別」の方であり、人種差別とは、「外見の特徴」という、「わかりやすい基準」に目を向けた、差別なのだ。
読みながら思ったのは、こうした、差別がなぜ起こっているのか、ということをこれほどまでに詳しく、網羅的に書かれている本が、第二次世界大戦の時代に書かれていたにもかかわらず、現代でも解決されていないのはなぜかということ。
それどころか、より複雑さを増してきているようにも思える。
今まで見えてこなかった、隠されてきたものが顕在化されたり、意識化されたりしたから、かもしれないが、解決策が示されているのにも関わらず、根強く残り続けているのには、「わかりやすさ」があるように思える。
『私たちはそういうシンボリックなものに心を奪われてしまいますから、私たちが具体的な対人関係を軽視して、抽象的なことばかり考え詰めてしまうパターンはこれからも続くでしょう。でもだからこそ確固としたもの、事実といえるところにまで立ち返って、そこから話を始める必要があるのではないでしょうか。『レイシズム』は、その拠り所となる本だと思います。』(訳者あとがきより)
複雑性に耐えられなくなったとき、例えば、自分にとってわからない知識が目の前に出てきたら、「検索する」ように、「解決策を探す」のではなく、じっくりと腰を据えて考えてみる。回答を思いついても、それを保留にしておく。
「答えを出すこと」に急ぎすぎてしまった自分にとって、「寝かせる」という発想は『ネガティブ・ケイパビリティ』に通じていくような気がします。