本書は、第一次世界大戦後から、現代までの世界を描いています。
万能であった科学が破綻をし、幸福をもたらすだろうことか、災難をもたらしたのが、第二次世界大戦であった。
全体主義の台頭を許し、世界を分断に至らしめた状況に対して、深い反省のもと、その問いに答えるのが本書であることが冒頭に述べられている。
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過去から現代へ、世界をめぐる哲学の旅はまだ終わっていない。
別巻があるので、シリーズの総括と、現代のさらなる論点はそこで語られる。これは、現代Ⅰと考えていただいたほうがいいかもしれない。
本書は、主義、論と、哲学者の名前、著者と、その概説でほぼ埋められていて、難解極まりない。所詮、数行で、哲学者が意図している思想を言語化できるはずもなく、その連綿とつづく、思想の系譜については、つながりや、共通点、差異についても説明が不十分と思われる。各章についても、併記されていて、関連性をもったものもあるが、基本的には独立しています。つまり、複数の書が、一定の関連性のものに一つにまとめられています。章末には、参考文献が紹介されているが、参考ではなく、ほんとうに内容を理解をするために必要な文献であり、必読文献と感じた。
気になったものは、以下です。
・論理実証主義(カルナップ)いわゆる分析哲学、論理・数学の主張は、分析命題であり、経験科学の主張は、総合命題である。
・二元論 分離的二元論(エア)⇒ヒュームの法則。ムーア、ミル:功利主義、ヴィトゲンシュタイン:論理哲学論考、哲学探究、クリプキ:規則のパラドクス)
⇒混合的二元論(クワイン、オースティン、サール、アンスコム)⇒化合的二元論(濃い倫理的概念:ウィリアムズ、サイモンブラックバーン:徳認識論
・20世紀前半のヨーロッパ大陸思想概観 ①独:新カント派 コーエン、リッケル ②墺:マッハ 論理実証主義が、ドイツ現象学 フッサール、ハイデガー、ベリクソンへつながっていく
⇒ポンティ、サルトルへ⇒、戦後、ベンヤミン、アドルノら、フランクフルト学派へ
・構造主義 ストロース、フロイト ⇒ラカン、レヴィナス ⇒社会哲学へ引き継がれ、フランス構造主義、ポストモダン主義への流れを生み出していく
・20世紀の流れ:経済的かつ政治的 資本主義:アメリカ と 共産主義:ソビエト連邦 へ移行していく
・ヨーロッパ世紀末的思想 クリムト、ランボー 、スペングラーの「没落する自意識」
・大衆社会を捉えた哲学者 西:ガセット、オルテガ 大衆は、自分自身を指導することも、社会を支配することもできない、大衆を批判的に見る。
・ベンヤミン:大衆を複製化された技術を受容する存在 ⇒フッサール:イーデンで現象学を創始。⇒実証主義的傾向から離れて、生活世界に根ざした本来の知の基盤に立ち返らなければならない⇒自然科学とその技術を過信した世界からの反省⇒ハイデガー:技術批判「存在と時間」、他ユンガー、ヘルダーリン
・仏:ポスト構造主義 リオタール、近世の理念である、進歩、平等といった「大きな物語」への懐疑、知の問題がより分散的、多元的になることをポストモダンと呼んだ。
差異と二項対立、ダブルバインド思考のドゥルーズ、デリダらポスト構造主義、アガンベン、フーコー:権力論、レヴィナス;他者と相対主義、メリヤスー:相関主義、非哲学的内在主義:ラフュエル、破壊的可塑性:マラブー。
・ジェンダー:女とは誰なのか
・人は女に生まれるのではない、女になるのだ。ボーヴォワール。
・解剖学上の性差(セックス)と身体に与えられた文化的社会的な意味(ジェンダー)との区分
・近代の「批評」を、現代において再定義する。ボードレール:フランス象徴主義、スウェーデンボルグ、フーリエ、ランボー、ラマルメら象徴の詩学、ベルクソンの記憶の哲学、サルトルの想像力の哲学、シュールレアレズム、実存主義、構造主義、ポスト構造主義は、批評と哲学の言葉に互いに共鳴しあっている。
・近代日本の批評を独自の書法で完成させたのが、小林秀雄。本居宣長⇒平田篤胤⇒折口信夫⇒井筒俊彦:日本が生んだ東洋解釈学の巨人⇒そして、小林秀雄
・イスラームのファルサファ=フィロソフィア:イスラーム世界の新プラトン主義:英知
・クルアーンとハディース:クルアーンはすでに確定しているテキストであるに対して、クルアーンは現在も校正をしつづけている規範。
・イスラームにとって、テキストの言葉は単なるその字義を理解することではなく、身につけて実践していくことである。
・現代イスラーム哲学とは、単なる翻訳されたテキストではなく、理解するためのもの。日本人は、「理解できない」、ただの日本文化の1つとして翻訳されたテキストとしての認識である。
・現代のイスラーム哲学:復古主義、伝統主義、近代主義、イクバール、ハーン、ファールーキー、ダラス
・中国の現代哲学:清朝末の西洋文化の中国への輸入期、文革後の1980年代の文化ブーム、改革開放
・昨今の中国の現代哲学の特徴、政治哲学への並々ならぬ関心である。1990年代は、リベラリズムから中国経済の大発展と大国化に伴って、国家主義の風潮が台頭してきた。
・「日本哲学」は、西洋と東洋の異質な文化が接触する中で多元的対話を行いながら発展してきた。西洋と神道、仏教、儒学、国学の知との蓄積。
・西周「哲学」:日本哲学の父、「理外の理」、船山信一:観念論、井上哲次郎:現象即実在論、西田幾太郎:日本型観念論の大成者
・仏教思想との融合:井上円了、「哲学一夕話」、「哲学の中道」、清沢満之
・西⇒井上⇒西田の連続性、純粋経験の哲学の継承の道。
・アジアの中の日本、20世紀末から停滞、衰退期へとはいった。
・明治日本で哲学が仏教と出会ったのと同様のことが中国大陸にもみられたことは、東アジア的哲学のある種の宿命を示している。
・西田幾太郎と、牟宗三は、近現代の東アジアを代表する哲学者と目される。それは、東アジア近代の共通課題としての哲学と仏教との結びつきを高いレベルで成し遂げたからである。
・丸山眞男、枝谷行人は、日本のポストモダン批判
・近代の超克(困難を乗り越え、それにうちかつこと):①自分たちは十分に近代化されている ②美化された伝統思想への根拠ない自信を前提としていた。
・敗戦後の日本にとって哲学とは、西洋の現代思想であり、それ以外ではなかった。
・アフリカ哲学 ①北アフリカのイスラーム哲学、②アフリカ出身であるが、欧米哲学の文脈で語ることができる哲学 ③サハラ砂漠以南の哲学
・タンペルのエスノフィロソフィー、コンゴの存在論、認識論
・ムビティのアフリカの時間概念
・まとめ:問題提起 ①グローバルな世界哲学というものがあり得るのか? ②現代の新しい地平 ラテンアメリカやアフリカの哲学との出会い
・一元論か多元論か、多元的世界観は、世界のうちなるあらゆる種類の断絶や対立を実在的なものとみなしつつ、それでも、それぞれの局面には隣接的なるものと同時に、連結的、連合的なものの存在の余地があることを承認する哲学である。
目次は以下の通りです。
はじめに
第1章 分析哲学の興亡
1 科学主義と「事実/価値」の分離
2 分離型二元論の展開
3 分離型二元論から混合型二元論へ
4 化合型二元論への道
第2章 ヨーロッパの自意識と不安
1 はじめに ヨーロッパ大陸思想概観
2 大衆社会と思想 オルテガとベンヤミン
3 実証主義および技術への懐疑
4 今日への課題 結論にかえて
第3章 ポストモダン、あるいはポスト構造主義の論理と倫理
1 フランスのポスト構造主義とその世界的影響
2 ポストモダンの論理
3 他者と相対主義
4 否定神学批判とその先へ
5 人間の終焉以後、ポストモダンの倫理
第4章 フェミニズムの思想と「女」をめぐる政治
1 ジェンダーは嫌われる アンチ・ジェンダーの時代に
2 人間と御名との間で 生物学的決定論から逃れる
3 女の多様性の再想像 本質主義論争から「ジェンダーであるセックス」へ
4 おわりに ふたたび、アンチ・ジェンダーの時代に
第5章 哲学と批評
1 批評を再定義する
2 意味の構造
3 無限の神、無限の意味
第6章 現代イスラーム哲学
1 はじめに
2 文化の翻訳と伝統イスラーム学
3 日本文化としての「現代イスラーム哲学」
4 イスラーム史におけるハディースの徒
5 オリエンタリズムとイスラームの現代
第7章 中国の現代哲学
1 はじめに
2 西学東漸と現代哲学の輝かしい黎明期
3 現代哲学の再登場と1980年代の文化ブーム
4 中国の現代哲学の新しい流れ
第8章 日本哲学の連続性
1 はじめに
2 観念論展開の起点
3 現象即実在論の確立
4 「日本型観念論」の完成と発展
5 おわりに 西・井上・西田の連続性
第9章 アジアの中の日本
1 思想的伝統という問題
2 東アジア的な哲学は可能か
3 美化ではなく共同の探究へ
第10章 現代のアフリカ哲学
1 はじめに 西洋中心主義の陰で
2 「暗黙大陸」の言説から汎アフリカ主義へ
3 アフリカに哲学はあるか
4 エスノフィロソフィーとその批判
5 現代のアフリカ哲学のテーマと傾向
6 まとめ
終章 世界哲学史の展望
1 「世界哲学史」全8巻を振り返って
2 世界と魂
3 多元的世界観へ
あとがき
編・執筆者紹介
年表
人名索引