小説 - 講談社文芸文庫作品一覧

  • 寂兮寥兮
    3.4
    幼なじみの万有子と泊は、ごっこ遊びの延長の如き微妙な愛情関係にあったが、それぞれの夫と妻の裏切りの死を契機に……。ふたりを軸に三世代の織りなす人間模様は、過去と今、夢とうつつが混じり合い、愛も性もアモラルな自他の境なき幽明に帰してゆく。デビュー以来、西欧への違和を表現してきた著者が親炙する老子の思想に触発され、生と性の不可解さを前衛的手法で描いた谷崎潤一郎賞受賞作。
  • 一族再会
    -
    早く死に別れた生母を思い求めることに始まり、一族のさまざまな生き方、在り方を、時代、社会、歴史とのかかわりにおいて捉え、言葉の、高い緊張の世界に、鮮やかに凝集した、江藤淳渾身の力作。深い感動を呼びおこす名篇。
  • せみと蓮の花・昨日の恥 坪田譲治作品集
    -
    「人間はみな死ぬる。解り切ったことである。然し誰しも直ぐ死ぬるようには考えていない。」(「せみと蓮の花」)ーー老境の童話作家が、過ぎ去った起伏の多い人生と、なつかしい人々への愛憎こもごもを、昔語りにも似た闊達自在さで描いた10篇。幼少期の思い出、肉親との葛藤、師の鈴木三重吉、小川未明のことなど、〈童心の文学〉といわれた譲治の心の陰影が、ユーモアに包まれて独得の味わいを醸し出す。
  • 日本の文学論
    -
    歌論、俳論というのは、日本の古典文学論ではあるが、それは古今集や新古今集の序文に見られ、また歌合の判詞などにも納得の行く形で表現されている。歌の心と詞、日本的美意識については、西洋の論理ですべて割り切れるものではない。明晰を越えた直観、それを著者は新たな批評の言葉として提起している。従来の日本語の批評言語を読み直すことで、日本文学の豊かさを示唆する画期的文学論。
  • 故人
    -
    自分を文学の世界に導いてくれた、兄のように慕う先輩作家が、原稿を郵便で出した帰途、トラックに轢かれ死んだ。理不尽な死を前に混乱、自失する家族や友人たち。青年は深い喪失感を抱えながら、社会との折り合いに惑い、生と死の意味を問い続ける。三四歳で早世した山川方夫の人生を、彼の最も近くで生きた著者が小説に刻んだ鎮魂の書。
  • 春・花の下
    3.0
    理性と感情がみごとに調和した、清澄な文体でつづる傑作短篇集。巡る春に託して老女の家へのこだわりを描く「春」、死別したはずの母親についての怖ろしい疑惑が湧き上る「花の下」、娘を中心として家族全体で死にゆく母を看とる「去年の梅」の他、「ありてなければ」「迎え火」「夜の明けるまで」「春過ぎて」「市」「降ってきた鳥」「湖」の秀作10篇を収録した。
  • 管絃祭
    4.0
    有紀子の同級生の夏子や直子は、「広島」で爆死した。夏子の妹は、4人の肉親を失う。皆、その後を耐えて生きる。沈潜し耐える時間――。事物は消滅して初めて、真の姿を開示するのではないか、と作者は小説の中で記す。夏の厳島神社の管絃祭で、箏を弾く白衣の人たちの姿は、戦争で消えた「広島」の者たちの甦りの如くに見え、死者たちの魂と響き合う。広島に生まれ育った作家が「広島体験」を描いた、第17回女流文学賞受賞作。
  • 死の影の下に
    -
    無意識の記憶の突然の喚起をきっかけとして、主人公の城栄は、静岡県の田舎で伯母に育てられた牧歌的な日々の回想に誘いこまれる。早くも「喪失」の意味を知った少年は、伯母の死後、冒険的実業家の父親と暮らし始め、虚飾に満ちた社交界をつぶさに観察することになる。新しいヨーロッパ文学の方法をみごとに生かした、戦後文学に新たな地平を拓き、戦後文学を代表する、記念碑的長篇ロマン。
  • ラフォルグ抄
    -
    19世紀末フランスの夭折詩人ラフォルグ。象徴派が勃興する中、近代の倦怠を知的な抒情とした天才が遺した散文集『伝説的な道徳劇』は、若き日をヨーロッパで過ごした吉田健一にとって「前世か何かで自分が書いたことをそれまで忘れていた感じだった」と語らしめ、耽読して止まなかった魂の邂逅の書であった。同じく遺作の詩集『最後の詩』と共に名訳で贈る。
  • 唐山感情集
    -
    上田敏に『海潮音』あれば、日夏耿之介に『唐山感情集』あり。博識にして幽玄神秘な詞藻をもって他に類を見ない詩的世界を構築した日夏耿之介は漢詩の風韻、酒と多情多恨の思いを嫋々たる日本語に移し替え、さらに独自の境地に遊ぶ。唐から民国にいたる1200年にわたる名詩を選び出した稀有な訳詩集。

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  • 現代文士廿八人
    -
    中村武羅夫が文壇に名を売り出すきっかけになったのは雑誌『新潮』に明治41年(1908)からほぼ毎月発表した「作家訪問記」でした。今日風にいえば「直撃取材」し、そこで得た個人的印象、いわば「独断と偏見」を臆面もなく堂々と記したことで、読者の反響を呼び起こしたのです。 本書はその連載を書籍化したもので、版元を変えながら刊行されつづけた隠れたベストセラーであり、明治の文壇を知る好資料です。
  • 帰れぬ人びと
    4.0
    父が女性と暮らす家へ続く川べりの道を、ひとり歩く少年。かつての仄暗い賑わいの記憶を底深く秘めて佇む町――帰るべき場所を持たない喪失感と哀しみを抱きながら、それでも前を向いて行きようとする人びとに、年齢に似合わぬ静謐なまなざしを著者は注ぎ続けた。大人になる直前の老成。どうしようもない人生への諦観。あまりにも早熟な十八歳の才能を示す、最初期作品集。
  • 庄野潤三ノート
    5.0
    小学校、旧制中学、就職先の放送局で庄野潤三の後輩として過ごした阪田寛夫は、いつしか庄野文学最大の理解者となった。習作から刊行当時の最新長篇、そして随筆集までも順に丁寧に読み解くことによってのみ、鮮やかに見えるその豊穣な世界――正確かつ簡潔でありながら深い愛情に溢れる筆致が、読む者を思わず感動へと誘う。類まれな作家論の達成。
  • 内省と遡行
    4.0
    1969年、漱石論で文芸評論家として出発した著者が、『日本近代文学の起源』を経て85年の『探究』連載を前に格闘した、哲学的評論「内省と遡行」と「言語・数・貨幣」。否定に否定を重ねながら、〈内部〉に留まることを徹底して〈内部〉を自壊に導き、〈外部〉へ出ることをめざした本書は思想家誕生の軌跡であり、「驚くべき戦争の記録」(浅田彰)でもある。極限まで思考する凄味に満ちた名著。
  • 報いられたもの/働き手
    -
    一九三二年の初演時「世界に誇りうる英国演劇の傑作」「イプセン以後最大の作品」と評された『報いられたもの』。自分が心からしたいことのみをしようと、ある日突然、仕事も家庭も捨てた男が巻き起こす喜劇を描く『働き手』。第一次大戦後のイギリス社会の矛盾と人間の本質を衝き、興行成績を度外視して「自らの魂の満足のため」に書いた、円熟期モームの四大問題劇中の名作二篇。
  • 藁屋根
    4.0
    戦時中に結婚して初めて一緒に住んだ大きな藁屋根の家、そして戦後に疎開先から戻って住み込んだかつての飛行機工場の工員寮を舞台に、大寺さん連作のうちでも若かりし日にあたる三作と、恩師である谷崎精二を囲む文学者の交流と彼らの風貌を髣髴とさせる「竹の会」、アルプス・チロルや英国の小都市を訪れた際の出来事を肩肘張らぬ筆致で描いて印象深い佳品が揃う短篇集。
  • 詞華美術館
    -
    柿本人麿、紀貫之、式子内親王、藤原定家、後鳥羽院、芭蕉、蕪村、茂吉、石川淳、石原吉郎、西東三鬼、寺山修司からラブレー、ネルヴァル、アポリネール、ランボー、マラルメ、ジョイス、トーマス・マン、フォークナー、ダニエル・キースまで。古今東西の言語芸術から最も壮麗で美味な部分を収集し、二十七の主題の部屋に陳列した、超一級の言語美術館。
  • 写生の物語
    -
    『万葉集』や『おもろさうし』に特徴的でその後は顧みられなくなった語法、子規や啄木など明治期歌人の試み、また塚本邦雄・岡井隆といった現代前衛歌人の新作、そして俵万智『チョコレート革命』に至るまでの短歌(謡)表現を貫くものは何か? 起源以前と死後を等価とし、表現を緻密に追いつづけることで見えてくる豊穣な世界。
  • 天窓のあるガレージ
    4.0
    日常から遠く隔たった土地の悠久の歴史を物語る遺構や人を寄せ付けない奥深い自然の中に身を置いた主人公が自らの経験を通じて「私」を超えていこうとする試みは、やがて若者や女性といった身近な他者の異質な感性に刺激されて一層深化した世界感覚によって変貌を遂げる。後に高い評価を受ける都市を舞台にした作品群の嚆矢となった表題作を始め、転形期のスリルに満ちた傑作短篇集。
  • 文芸的な、余りに文芸的な/饒舌録 ほか 芥川vs.谷崎論争
    4.0
    昭和二年二月号『新潮』合評会での谷崎の小説に対する芥川発言に端を発し、舞台を『改造』に移して文学史上に残る〈筋のない小説〉を巡る論争が始まった。――芸術とはなにか。何が文学を文学たらしめているのか――本書では二人の文学観の披瀝と応酬を雑誌発表順に配列し、「新潮合評会」とその俎上に載った小説二篇、論争掲載中の昭和二年七月に自殺した芥川への谷崎の追悼七篇を収録する。
  • ヘンリー・ジェイムズ傑作選
    5.0
    十九世紀的世界観を脱して新たな文学技法を追究し、心理小説の祖として、また現代文学の礎を築いた先駆者として、再評価の高まるヘンリー・ジェイムズ。多様な解釈を許す作風から難解なイメージがつきまとうが、読む人、読む時代により素晴らしさが再発見され続ける、稀代のストーリーテラーでもある。百を超える作品から、リーダブルで多彩な魅力溢れる「モーヴ夫人」「五十男の日記」「嘘つき」「教え子」「ほんもの」を収録。
  • 橇・豚群
    -
    昭和初期に隆盛したプロレタリア文学運動の潮流の中で、写実的な文章と複眼的想像力による傑作短篇を立て続けに発表して一躍脚光を浴びながらも、肺病による喀血から郷里・小豆島での療養生活を余儀なくされた黒島伝治。官憲の横暴に対する農民の知恵がドラマを生む「豚群」、戦争の悲惨さと裏腹の滑稽な現実を鮮やかに描いた「橇」、「渦巻ける烏の群」など時代を超えた輝きを放つ代表作集。
  • 空吹く風/暗黒天使と小悪魔/愛と憎しみの傷に 田中英光デカダン作品集
    3.0
    太宰治をして「この荒れ果てた竹藪の中にはかぐや姫がいる」と言わしめた「空吹く風」、戦後の混乱の中で春をひさぐ女たちに真実の愛を夢想する「暗黒天使と小悪魔」、運命の女との愛欲の果てに傷害事件に至る顛末を描いた「愛と憎しみの傷に」。共産党の活動など生きる意味への絶望ゆえか女に溺れ、薬と酒で破滅へと突き進んでいく自らの姿を見据え、人間の本性を浮き彫りにする小説集。
  • 天使よ故郷を見よ 上
    -
    フィッツジェラルド、ヘミングウェイ、フォークナーらと同時代に生まれ、1929年、本書発表後、一躍アメリカ文壇の寵児となったウルフ。長身で冷蔵庫を机に立ったまま執筆した、10年で5万冊を読破した等、様々な逸話に彩られ、37歳で夭逝する。本書は主人公ユウジーンの誕生から両親との確執、兄の死、恋愛の悦びや青春の苦悩を越え成長していく孤独な魂を、詩情溢れる描写で情熱的に謳い上げた自伝的小説。
  • 雲は天才である
    -
    詩や短歌では叙情味あふれる作品で天性の才能を発揮し、矛盾に満ちた明治という時代への鋭い考察も相俟って今もなお熱烈な読者を持つ石川啄木が心血を注いだ小説。故郷・渋民村の高等小学教の教員時代に書き出され、青年たちの鬱屈と貧しき者、弱き者の心に共振していく初期短篇三作と、唯一新聞に連載された中篇を収録し、短い生涯を駆け抜けた啄木文学の可能性を提示する。
  • 春の華客/旅恋い 山川方夫名作選
    -
    急激に変貌していく戦後日本を背景に新しい感性による現代文学の興隆を牽引し、短い作家活動のうちに数多くの鮮烈な作品を残した山川方夫。その早熟ぶりが同世代の仲間を震撼させた学生時代の作品から、時代を先取りしたモチーフや研ぎ澄まされた文体によってジャンルの枠を超えた才能を開花させた後期作品まで、不慮の事故による早逝が惜しまれる著者の多彩な魅力が凝縮された傑作選。
  • 黴 爛
    3.7
    明治四四年、夏目漱石の推挙で「東京朝日新聞」に連載し、自身の結婚生活や師・尾崎紅葉との関係等を徹底した現実主義で描き、自然主義文学を確立、同時に第一級の私小説としても傑作と謳われる「黴」。翌々年発表の「爛」では、元遊女の愛と運命を純粋客観の目で辿り、文名を確立する。川端康成に「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋声に飛ぶ」と言わしめた秋声の、真骨頂二篇。
  • 猫道 単身転々小説集
    -
    失礼ですが御主人は? 収入は? 本籍地は? 保証人は? バブル後期の東京で"単身女性の安全な住まい"を求めて漂流する長編「居場所もなかった」に加え、後の"家族"キャト、ドーラ、ギドウ、モイラ、ルウルウをめぐる住居転々の短編。さらに不意の別れを描く「モイラの事」、その悲しみを越える単行本未収録の「この街に、妻がいる」、作者と猫の書き下ろし近況エッセイ二編も収録。
  • 明日なき身
    4.5
    離婚を繰り返し、生活に困窮して生活保護と年金で生きる老人の日常の壮絶。高齢化社会を迎えた今、貧困のなかで私小説作家は、いかに生きるべきか……。下流老人の世界を赤裸々に描きつつも、不思議に悲愴感はない。自分勝手なダンディズムを貫き哀感とユーモアを滲ませる、二十一世紀の老人文学。
  • 幽 花腐し
    -
    中華街のバーで、二十年以上前に遇った女の幻影に翻弄される男の一夜を描く、事実上の初小説「シャンチーの宵」、芥川賞候補作「幽」、同受賞作「花腐し」ほか全6篇。知的かつ幻想的で、悲哀と官能を湛えた初期秀作群。社会から外れた男が生きる過去と現在を、類稀な魅力を放つ文体で生々しく再現し、小説の醍醐味が横溢する作品集。
  • 黄金の時刻の滴り
    -
    夢中で読んできた小説家や詩人の生きた時に分け入り、その一人一人の心を創作へと突き動かし、ときに重苦しい沈黙を余儀なくさせてきた思いの根源に迫る十二の物語。それは「黄金の時刻」である現在を生きる喜びを喚起し、あるいは冥府へと下降していく作家の姿を描き出す。永遠の美の探求者が研き上げた典雅な文体で紡ぎ出す、瑞々しい詩情のほとばしる傑作小説集。
  • 凡人伝
    -
    主人公の英語教師はあるときふと思い立つ。世に偉人伝は数多あるが、第二のナポレオンは現れない。ならば失敗に鑑みる『凡人伝』を書くほうがよほど有益だ。神童と謳われ、その後凡人の道を歩む自分の伝記を書こう、と。自然主義、プロレタリア文学隆盛時に全く新たな分野を開拓、「ふつうの人々」の生活に寄りそい、上質で良識ある笑いを文学にもたらした、ユーモア小説の第一人者による傑作長篇。
  • 我が愛する詩人の伝記
    -
    「各詩人の人がらから潜って往って、詩を解くより外に私に方針はなかった。私はそのようにして書き、これに間違いないことを知った」。藤村、光太郎、暮鳥、白秋、朔太郎から釈迢空、千家元麿、百田宗治、堀辰雄、津村信夫、立原道造まで。親交のあった十一名の詩人の生身の姿と、その言葉に託した詩魂を優しく照射し、いまなお深く胸を打つ、毎日出版文化賞受賞の名作。
  • 木菟燈籠
    4.0
    そこはかとないユーモアやはにかみを湛えたかざりのない文章でどこか懐かしいような風景を描き上げて多くのファンを持つ"小沼文学の世界"。季節や時代の移ろいに先輩の作家や同僚の教員、学生時代の友人など愛すべき人々の風貌を髣髴とさせる、この著者ならではの好短篇集。
  • 諷詠十二月
    5.0
    「この書は詩歌の理解に熱心な、あるいは熱心ならんと欲せらるる、比較的年少の初学の読者を聴者として、著者の素懐を仮りに題を設けて説かんと企てたもの……」。昭和17年9月、太平洋戦争のさなかに書下された本書は、万葉から西行、子規、晶子の短歌、菅原道真、新井白石、頼山陽の漢詩、芭蕉、蕪村、虚子の句、朔太郎、犀星の詩等々、秀作を鑑賞し、美と真髄を明かす、詩歌入門の不朽の名著。
  • 自伝的女流文壇史
    3.0
    少女小説作家として一世を風靡し、若くして文壇にデビューした吉屋信子が描き上げた、「女流文壇」の草分けともいうべき十人の肖像。男性が中心だった近代日本の文壇史において「女流」と一括りにされながら個性豊かに輝いた女性作家たちの魅力を、折に触れての交流の中から余すところなくすくい上げた自伝的エッセイ。章ごとに一人の作家にフォーカスした構成になっていますので、どこからでも読むことができます。
  • 新撰 小倉百人一首
    -
    「沖の石の讃岐以外は悉皆非代表歌、式子と定家とあと二、三人を除けば、他は一切凡作――」。定家の百人一首が「凡作」揃いだとの批判は多い。だがあえて定家と同じ人選で、まったく別の「百人一首」を編んだ強者はいない。本書は前衛歌人・豪腕アンソロジストが放つ、定家への挑戦状である。どちらが秀歌か。読者ひとりひとりの判断を待つ。※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。

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  • 戦後的思考
    5.0
    1995年、戦後50年目に発表された「敗戦後論」は、単行本刊行後、百を越える批判を左右両翼から浴びた。本書はその反響の醒めぬなか、それらを正面から受け止め、「批判者たちの『息の根』をとめるつもり」で書き始められた。「戦後的思考」とは何か。戦前と戦後はなぜ「つながらない」のか? 今こそ我々に必要な、生きた思想と格闘する画期的論考を、増補改訂を施し、21世紀に再度問う。*解説は収録されていません。
  • 湯川秀樹歌文集
    4.5
    日本人として初めてのノーベル賞(物理学賞)受賞者であり、反核平和運動にも積極的に関わった理論物理学者は、兄に東洋史家である貝塚茂樹、弟に中国文学者の小川環樹を持ち、自身も漢籍、古典、和歌に親しむ粋人でもあった。本書は、幼少青年期の記憶から、長年暮らした京都への愛惜、耽読した古典への思いを綴る随筆と、歌集「深山木」を収録。偉大な科学者とは別の、愛すべき横顔を伝える。
  • 東京の横丁
    -
    「俺は二、三日うちに死ぬ気がする。晩飯の支度なんか放っておけ。淋しいからお前もここに坐って一緒に話でもしよう」妻にそう語りかけた数日後、永井龍男は不帰の人となった。没後発見された手入れ稿に綴られた、生まれ育った神田、終の住処鎌倉、設立まもなく参加した文藝春秋社の日々。死を見据えた短篇「冬の梢」を併録した、最後の名品集。
  • 苦心の学友 少年倶楽部名作選
    5.0
    読書青年が熱狂し、数十万部を発行した雑誌『少年倶楽部』に昭和二年から連載され、絶大な人気を博した長篇小説。伯爵家の三男の学友に選ばれた普通の家の少年が、上流家庭の生活に面くらい、とまどい、苦労を重ねる日々をユーモラスに描く。当時の世相を自然主義やプロレタリア文学とは一線を画した視点から鮮やかに描いた「社会小説」の傑作であり、ユーモア文学の最高峰。
  • 星に願いを
    -
    ブルームーン(六月十五日)。妻は庭のブルームーンの咲いたのを三つ切って来て、書斎のサイドテーブルに活ける。――山の上の家で、たんたんとした穏やかな日常。子供も成長し、二人きりの老夫婦に、時はゆったりと流れてゆく。晩年の庄野作品の豊かさと温もりを味わえる上質の文学。
  • 明治深刻悲惨小説集
    3.0
    死、貧窮、病苦、差別――明治期、日清戦争後の社会不安を背景に、人生の暗黒面を見据え描き出した「悲惨小説」「深刻小説」と称された一連の作品群があった。虐げられた者、弱き者への共感と社会批判に満ちたそれらの小説は、当時二十代だった文学者たちの若き志の発露であった。「自然主義への過渡期文学」という既成概念では計れない、熱気あふれる作品群を集成。
  • 「文壇」の崩壊
    4.0
    文壇事情に精通し、匿名批評も多くし、四十九歳で世を去った昭和の文芸批評家、十返肇。軽評論家と称され、正当な評価を受けていたとは言いがたい彼はしかし、文学への深い愛と理解力、該博な知識をもって、昭和という激動の時代の文学の現場に、生き証人として立ち会い続けた希有なる評論家であった。今なお先駆的かつ本質的な、知られざる豊饒の文芸批評群。
  • 「私小説」を読む
    -
    志賀直哉、藤枝静男、安岡章太郎を貫く「私小説」の系譜。だが、著者はここで日本文学の一分野を改めて顕揚したり、再定義を下したりはしない。本書は、我々が無意識・無前提に受け入れている「読みの不自由さ」から離れ、ひたすら、いまここにある言葉を読むこと、「作品」の表層にある言葉の群との戯れを通じ、一瞬ごとの現在を生きようとする試みなのである。「読むこと」の深見と凄みを示す、文芸批評の名著。
  • 白暗淵
    3.0
    「七十の坂にかかる道すがらの作品群になる。あれもなかなか越すに苦しい坂だった」(著者から読者へ)。爆風に曝された大空襲から高度成長を経て現代へ――個の記憶が、見も知らぬ他者たちをおのずと招き寄せ、白き「暗淵」より重層的な物語空間が立ちあがる。現代文学を最先端で牽引しつづける著者が、直面した作家的危機を越えて到達した連作短篇集。
  • 私の万葉集 全五冊合本版
    -
    限りなく尊くまた懐かしく面白い万葉の歌。 詩歌の実作者が書いた『万葉集巻』巻一から巻二十までの鑑賞。 8世紀後半に成立した『万葉集』は、きわめて難解である一方、我々の心に残る多くの親しまれた歌がある。 その膨大な数の歌を、通読した大岡信の鑑賞に、日本の美学の起源をみる。 『万葉集』を、現代人が味わい楽しむ「生きた」歌集にするために、現代詩人が挑む。
  • 風の系譜
    -
    遠い先ばかり見つめていた父は、絶望している。堅実な実際家の母は、希望をかけている。父と母の半生を中心に、複雑な一族の系譜を私小説作家が揺るぎなく描ききった長篇小説。新たに発見された、著者の手の入った原稿で野口冨士男の処女作ともいえる作品を七十余年の時を経て、初文庫化。
  • 山躁賦
    5.0
    確かなものに思われた日常の続きをふと見失った「私」は、病み上がりのけだるい心と体で、比叡高野等の神社仏閣を巡る旅に出る。信仰でも物見遊山でもない中ぶらりんの気分で未だ冬の山に入った「私」を囲み躁ぐ山棲みのモノ達――。現在過去、生死の境すら模糊と溶け合う異域への幻想行を研ぎ澄まされた感覚で描写。物語や自我からの脱出とともに、古典への傾斜が際立つ古井文学の転換点を刻する連作短篇集。
  • エオンタ/自然の子供 金井美恵子自選短篇集
    -
    過去と現在。記憶と現実。存在と不在。 自己と他者。周到に仕組まれた言葉の奔流が、確かと信じられている輪郭をことごとく溶かし、境界を混じりあわせ、めまいにも似た乱反射を読む者に引き起こす。「読むことが、私の生きている証し」老練な読者たる著者が、最初期二作品を含む初期作品群から、現在の眼で選んだ短篇集、第三弾。
  • 酔いざめ日記
    -
    昭和七年(二七歳)から、亡くなる直前の昭和四三年(六四歳)までの木山捷平の日記、初文庫化。詩から始まり、昭和八年に太宰治たちと同人誌「海豹」創刊後、小説を発表し、様々な作家と交遊を深めた木山。生活は困窮をきわめ、体調をくずしながらも書き続けた日々。作家の心情、家庭生活、そして何よりも、自らの死までも、じっと作家の眼で冷静に描ききった生涯の記。
  • ドストエフスキー
    4.0
    同じ言葉でも誰がどんな状況で語るかで、その意味は異なり、ときに正反対に受け取れる。このラズノグラーシエ=異和こそがドストエフスーを読む鍵となる。登場人物は対話の中で絶えず異和と不協和に晒され、そのダイナミズムが読む者を強烈に惹きつけるのだ。批評家バフチンを起点に、しかし著者単独で小説内部に分け入り、文学的核心を精緻に照射する。ドストエフスキー論史の転換点を成す衝撃的論考。
  • さして重要でない一日
    4.5
    未知の空間、会社という迷路を彷徨う主人公。トラブル、時間、おしゃべり、女の子、コピー機。著者独特の上品なユーモアの漂う、なにか、もの哀しくも爽やかな空気の残像。会社員の日常を鮮やかに切り取った、野間文芸新人賞受賞作。サラリーマンの恋と噂と人間関係、奇妙で虚しくて、それでも魅力的な「星の見えない夜」も所収。
  • 濁った激流にかかる橋
    4.0
    激流によって分断された町の右岸と左岸。それをつなぐ唯一の異形の橋。かつての小川は氾濫をくり返し、川幅は百倍にもなり、唯一の橋は拡張に拡張を重ね、その全貌を把握できぬほどの複雑怪奇さを示す。そして右岸と左岸にはまったく気質の異なる人々が住む。この寓話的世界の不思議な住民たちの語る9つの物語。諧謔的かつ魔術的なリアリズムで現代の増殖する都市の構造を剔抉した読売文学賞受賞作。
  • ミイラになるまで 島田雅彦初期短篇集
    3.0
    現代文学を牽引し続ける著者の初期短篇7作品。文学と社会への強烈な批評精神と、アイロニックな饒舌文体で繰り広げる島田文学の原点。収録作「観光客」「聖アカヒト伝」「ある解剖学者の話」「砂漠のイルカ」「アルマジロ王」「断食少年・青春」「ミイラになるまで」
  • 北條民雄 小説随筆書簡集
    4.7
    ハンセン病療養所での隔離生活という極限状況で創作されたすべての小説(完成作品)を中心に、川端康成や中村光夫と交わした数多くの書簡、一部の未完小説と随筆も収録。創作期間わずか数年で夭逝した天才作家の、魂の軌跡を辿る。
  • 酒と戦後派 人物随想集
    -
    「近代文学」創刊同人(荒正人、平野謙、佐々木基一、小田切秀雄、山室静、本多秋五)、藤枝静男、野間宏、原民喜、堀辰雄、椎名麟三、梅崎春生、高橋和巳、三島由紀夫、大江健三郎、安岡章太郎、辻邦生、石川淳、中村真一郎、武田泰淳・百合子、竹内好、丸山真男、渡辺一夫、大岡昇平他。20世紀日本を代表する文学者をユーモラスに、時に感動的に素描する。戦後派屈指の文章の上手さ、描写の確かさ、知的センスに舌を巻くはず。
  • ノルゲ Norge
    5.0
    染色家の妻の留学に同行し、作家はノルウェーに一年間滞在した。光り輝く束の間の夏、暗雲垂れ込める太陽のない冬、歓喜とともに訪れる春。まっさらな心で出会った異郷の人々との触れ合いを縦糸に、北欧の四季、文学、芸術を横糸に、六年の歳月をかけて織り上げられた精神の恢復と再生のタペストリー。野間文芸賞受賞作。
  • かかとを失くして 三人関係 文字移植
    3.4
    独特な作風と言語・文化への鋭く繊細な洞察から生まれる多和田ワールドの魅力が横溢する作品集。「かかとを失くして」「三人関係」「文字移植」
  • 落葉・回転窓 木山捷平純情小説選
    -
    男と女の出会いと恋愛の機微を永久の時間のなかで紡ぎ出す短篇小説の魔術師・木山捷平。その鮮麗なる筆致は読む者すべてを魅了する。「村の挿話」「猫柳」「空閨」「増富鉱泉」「男の約束」「落葉」「回転窓」「留守の間」「口婚」「好敵手」「七人の乙女」を収録。
  • 飛魂
    4.6
    虎使いとなるため、師とともに人里離れた森の中の寄宿舎で修行を続ける女性達の深遠なる精神の触れ合いを描いた作品。表題作ほか、「盗み読み」「胞子」「裸足の拝観者」「光とゼラチンのライプチッヒ」を収録。
  • 谷崎潤一郎論
    -
    『細雪』の刊行、文化勲章受章とまさに谷崎評価の絶頂期、それまで雑誌や新聞の注文に応じて執筆していた著者が、初めて「僕の方から頼んで書かせてもらった」挑戦的評論。武田泰淳は「乱れが無さすぎるほどよく整理された論文」として、その手さばきを有能な外科医の手術に喩え、「病根を知る者の緊張が、彼を徹底的にする」と絶賛した。読み物としても面白い独創的年譜に、補遺を加えた決定版。
  • わが胸の底のここには
    -
    私は己れを語ろうと決意した。憎悪すべき己れの過去を。生きようとする生命の火を、情熱を燃え上がらせるために――。終戦直後から五年に亘り執筆した、著者の代表作ともいえる自伝的長編小説を初文庫化。没後50年記念刊行。
  • 人形愛 秘儀 甦りの家
    4.3
    美しい少年の人形を夜ごと愛撫する女。夢によって浸透された存在になっていく現実の少年。奇妙な透明感と、夢と現実の交歓。高橋たか子の独特な神秘主義を端正な文体で感覚的に描く幻想美の世界。男女の恋愛の、より深く深くと求めた内部の実在を鮮やかに浮かび上がらせた、華麗なる三部作。
  • 死の淵より
    -
    つめたい煉瓦の上に/蔦がのびる/夜の底に/時間が重くつもり/死者の爪がのびる(「死者の爪」)。死と対峙し、死を凝視し、怖れ、反撥し、闘い、絶望の只中で叫ぶ、不屈強靱な作家魂。醜く美しく混沌として、生を結晶させ一瞬に昇華させる。"最後の文士"と謳われた高見順が、食道癌の手術前後病床で記した絶唱63篇。野間文芸賞受賞作。
  • 草のいのちを 高見順短篇名作集
    4.0
    自らの出生の秘密を語る「私生児」、左翼体験の暗部を飄々とした筆致で描く「嗚呼いやなことだ」など戦前4作品と、敗戦後の荒廃からの精神の甦りを高らかに謳い上げる表題作、リベラリズムの内に潜む頽廃を一知識人に戯画化する「あるリベラリスト」など戦後4作品を収める。ユーモア溢れる文体から生まれる批評精神を1冊に凝縮。
  • 如何なる星の下に
    3.3
    昭和十三年、自ら浅草に移り住み執筆をはじめた高見順。彼はぐうたらな空気と生存本能が交錯する刺激的な町をこよなく愛した。主人公である作家・倉橋の別れた妻への未練を通奏低音にして、少女に対する淡い「慕情」が謳い上げられるのだった。暗い時代へ突入する昭和初期、浅草に集う人々の一瞬の輝きを切り取り、伊藤整に「天才的」と賞賛された高見順の代表作にして傑作。
  • 新東京文学散歩 漱石・一葉・荷風など
    -
    東京をこよなく愛し、住んだ文人たち。近代文学の中心・東京は、先の戦争で焦土荒廃の地と化した。野田宇太郎は、消え失せたそこに文学者の影を求め東京を、やがて全国を「文学散歩」し始める。『新東京文学散歩 上野から麻布まで』の後篇を、戦後七十年を機に読者のもとに届けつつ、近代文学の香りと共に、改めて東京文学散歩へ誘う……。
  • 白鳥評論
    5.0
    「多年文学を本質的に重要視しないで年を取ってきたのに、いつの間にか私の肉体の骨髄までも文学病に冒されているのである。自分はむしろ悲んでいる。」 辛辣な文化欄記者として名を馳せ、のちには評論家として、 独自のシニシズムに貫かれた透徹した視点で生涯にわたり旺盛な批評活動を展開した正宗白鳥。その膨大な評論群から、文学論と作家論の秀作を厳選。
  • 読書と人生
    4.5
    なにを、どう読み、いかに生きるか。真摯な問いかけが深い感動を呼ぶ、永遠の読書論。ファシズムに抗し獄死した近代日本を代表する哲学者による読書案内であり、秀逸な人生論でもある。混迷の時代を生きる現代人必読の書。
  • 私の万葉集 五
    3.0
    大岡信が、六年間に亘って「万葉集」に立ち向かった『私の万葉集』の最終巻。巻十七から二十。この第五巻は「歌日記」が中心であり、万葉最末期の歌 移り行く 時見るごとに 心痛く 昔の人し 思ほゆるかも 大伴家持天平時代の人間を生き生きと伝える、大岡信渾身の、実作者による日本美起源の鑑賞、完結。
  • ああ玉杯に花うけて 少年倶楽部名作選
    3.5
    昭和2年に『少年倶楽部』に連載され、大反響を呼んだ少年小説の金字塔。いじめや暴力、友情等、普遍的テーマに切り込む爽やかな傑作。
  • 金達寿小説集
    4.0
    昭和五年、十歳で渡日後、働きながら文学者を志し、在日朝鮮人文学者の嚆矢として活躍、のちに古代史研究でも大きな業績を残した異才。川端康成、中村光夫、佐藤春夫らに高く評価されながらも「もはや新人でない」からと芥川賞を逸した「朴達の裁判」始め、日大芸術科在学中の習作から壮年期までの小説を精選、小説家・金達寿の真骨頂を示す記念碑的作品集。
  • 新東京文学散歩 上野から麻布まで
    -
    「文学散歩」という言葉を創案したのは、野田宇太郎である。東京の文人の辿った跡を丹念に歩き尽くしたこの作品――東京は、近代文学史上に名を刻んだほとんどの文学者の私生活の場所でもあった……。近代文学の真実に触れる事、すなわち東京を知ることと考えた著者の、生涯をかけた仕事『新東京文学散歩』は、文学を愛する読者に献げた、文学案内の礎でもある。
  • 女性作家が選ぶ太宰治
    3.6
    「ほとんど奇跡のような成り立ち方をしている」(川上未映子選「古典風」)、「彼自身が、ひとつの作品」(桐野夏生選「思い出」)、「この甘やかさに浸らずにいられない」(松浦理英子選「秋風記」)――七人の女性作家がそれぞれの感性で選ぶ、未だかつてない太宰短篇選集。
  • 男性作家が選ぶ太宰治
    4.0
    「この作品が自分は一番嫌いだ」(奥泉光選「道化の華」)、「不思議な明るさに包まれた怯えの百面相」(堀江敏幸選「富嶽百景」)、「『男性というものの秘密』を知っている作家」(松浦寿輝選「彼は昔の彼ならず」)――七人の男性作家がそれぞれの視点で選ぶ、他に類を見ない太宰短篇選集。
  • 恋人たち/降誕祭の夜 金井美恵子自選短篇集
    3.0
    言葉の町を歩き、言葉のシーツにくるまれ、言葉の包帯を巻いて、あるいは言葉の肉料理を食べ、そして言葉の性交を行う――言葉だけで出来た建物の中で、肉体、時間、空間、世界、あらゆるものを生成する無数の言葉と戯れる陶酔。衝突を繰りかえす豊穣なイメージを道しるべに、著者自らが選んだ短篇集、第二弾。
  • その言葉を/暴力の舟/三つ目の鯰
    -
    東京で三年ぶりに再会した、故郷の俊才の変わり果てた姿「その言葉を」。他人の怒りと攻撃性を誘発せずにはおかない、風変わりな先輩との四年間「暴力の舟」。父の葬式で一堂に会した親族たちの、幼い頃は窺い知れなかったそれぞれの事情「三つ目の鯰」。七〇年代の青春の一光景を映し出す、瑞々しい初期中篇三作。
  • 原民喜戦後全小説
    -
    広島への原爆投下の惨劇を克明に描いた傑作「夏の花」三部作、亡妻への痛切な思いが滲む「美しき死の岸に」ほか、壮絶な体験と苦悩を刻んだ小説群。戦後70年を経て尚鮮烈な光を放つ戦争文学の金字塔を、文芸文庫スタンダードとして新装版刊行。
  • お供え
    3.7
    毎朝、何者かに家の前の「カド」にお供えを置かれ、身に覚えのないまま神様に祀り上げられていく平凡な未亡人。山菜摘みで迷い込んだ死者たちの宴から帰れない女。平穏な日常生活が、ある一線を境にこの世ならぬ異界と交錯し、社会の規範も自我の輪郭さえも溶融した、人間存在の奥底に潜む極限の姿が浮かび上がる七作品。川端康成文学賞受賞。
  • 新編 日本の旅あちこち
    -
    木山捷平は、昭和三十年代後半から四十年代前半の彼の晩年ともいえる日々を、日本中を旅する取材執筆に費やした。北海道から九州まで、日本の津々浦々を巡り「新しい紀行文」を書き続け、それは詩や小説にも昇華した。それぞれの土地に、死の陰を刻みながら・・・。初めての北海道旅行での詩「旅吟」から、病床で書かれた最後の詩「オホーツク海の烏」を収録、二九篇厳選。
  • 虹の彼方に
    4.3
    1973年夏、東京拘置所。『カール・マルクス』『ウルトラマン』等、夢見る囚人達と所長『ハンプティ・D』の間で演じられる可笑しくも悲痛な思想劇。『さようなら、ギャングたち』『ジョン・レノン対火星人』と並び著者の原点を示す秀作。
  • ジョン・レノン対火星人
    4.2
    住所はなく、消印は「葛飾」、そして差し出し人の名前は、「すばらしい日本の戦争」……名作『さようなら、ギャングたち』に先立つこと1年、闘争、拘置所体験、その後の失語した肉体労働の10年が沸騰点に達し、本書は生まれた。<言葉・革命・セックス>を描きフットワーク抜群、現代文学を牽引する高橋源一郎のラジカル&リリカルな原質がきらめく幻のデビュー作。
  • さようなら、ギャングたち
    4.1
    詩人の「わたし」と恋人の「S・B(ソング・ブック)」と猫の「ヘンリー4世」が営む超現実的な愛の生活を独創的な文体で描く。発表時、吉本隆明が「現在までのところポップ文学の最高の作品だと思う。村上春樹があり糸井重里があり、村上龍があり、それ以前には筒井康隆があり栗本薫がありというような優れた達成が無意識に踏まえられてはじめて出てきたものだ」と絶賛した高橋源一郎のデビュー作。
  • 夜明けの家
    4.0
    「老耄が人の自然なら、長年の死者が日々に生者となってもどるのも、老耄の自然ではないか。」――主人公の「私」が、未明の池の端での老人との出会いの記憶に、病、戦争、夢、近親者の死への想いを絡ませ、生死の境が緩む夜明けの幻想を語った表題作をはじめ、「祈りのように」「島の日」「不軽」「山の日」など「老い」を自覚した人間の脆さや哀しみと、深まる生への執着を「日常」の中に見据えた連作短篇集。
  • 聖耳
    3.0
    眼の手術後、異様に研ぎ澄まされていく感覚の中で、世界が、時空が変貌を遂げていく。現代文学の極北を行く著者の真骨頂を示す連作集。「夜明けまで」「晴れた眼」「白い糸杉」「犬の道」「朝の客」「日や月や」「苺」「初時雨」「年末」「火の手」「知らぬ唄」「聖耳」
  • 槿

    槿

    4.0
    男の暴力性を誘発してしまう己の生理に怯える伊子(よしこ)。20年も前の性の記憶と現実の狭間で揺蕩う(たゆたう)國子。分別ある中年男杉尾と二人の偶然の関係は、女達の紡ぎ出す妄想を磁場にして互いに絡み合い、恋ともつかず性愛ともつかず、「愛」の既成概念を果てしなく逸脱してゆく。 濃密な文体で、関係の不可能性と、曠野の如きエロスの風景を描き切った長篇。谷崎潤一郎賞受賞。
  • ゴーストバスターズ 冒険小説
    4.0
    謎のゴーストを探し求めてアメリカ横断の旅に出るブッチ・キャシディとサンダンス・キッド。そしてBA-SHOとSO-RAもアメリカを旅し、「俳句鉄道888」で、失踪した叔父を探すドン・キホーテの姪と巡り合う。東京の空を飛ぶ「正義の味方」超人マン・タカハシは、ついにゴーストからの呼び出しを受ける……。隠されたゴーストの正体とは? 時空を超え、夢と現を超え、疾走する冒険小説。
  • 鳥の水浴び
    -
    名作『夕べの雲』から三十五年。時は流れ、丘陵の家は、夫婦二人だけになった。静かで何の変哲もない日常の風景。そこに、小さな楽しみと穏やかな時が繰り返される。暮らしは、陽だまりのような「小さな物語」だ。庄野文学の終点に向かう確かな眼差しが、ふっと心を温める。読者待望の、美しくもすがすがしい長篇小説。
  • やさしい女・白夜
    3.8
    小金にものを言わせ若い女を娶った質屋がその妻に窓から身投げされ、テーブルの上に安置された遺体を前に苦渋に満ちた結婚生活を回想する――。人を愛すること、その愛を持続することの困難さを描いたドストエフスキー後期の傑作「やさしい女」とヴィスコンティによる映画化で知られる初期の佳品「白夜」を読みやすい新訳で収録。
  • 私の万葉集 四
    3.0
    『私の万葉集』第四巻。ここでは、大岡信が「万葉集」巻十三から十六までを取り上げる。特に力を入れている巻十六は歌数こそ少ないものの、その多様性と知的興味を誘う魅力溢れた刺激的巻である。正岡子規もこの巻十六について書いているように、「滑稽的美」を感じる特異かつ最も重要な一巻である。
  • 靴の話/眼 小島信夫家族小説集
    3.0
    芥川賞受賞作「アメリカン・スクール」から戦後文学の金字塔といわれる「抱擁家族」までの十年間の短篇作品を精選。この間、アメリカ留学、家の新築、妻の手術、妻の死、再婚と、著者自身へもめまぐるしい「事件」が生じ、〈関係〉をめぐるドラマが主題となる。見知らぬ男からの一方的な関係、監禁という関係、友人の中にいる異質な友との関係、友人と妻の姦通……。「抱擁家族」へとなだれ込む、貴重な短篇集。
  • 私の万葉集 二
    3.0
    巻二の補遺及び、巻五から巻七までを取り上げる。巻五は、『万葉集』全二十巻の中でも特異であり、大伴旅人と山上憶良の二人に尽きるといっても過言ではなく、しかも、濃密かつ心に残る和歌の抒情の魅力が詰まった巻として有名。『万葉集』の面白さを存分に感じる一冊。
  • 私の万葉集 一
    3.0
    限りなく尊くまた懐かしく面白い万葉の歌。 詩歌の実作者が書いた『万葉集』の鑑賞。 8世紀後半に成立した『万葉集』は、きわめて難解である一方、我々の心に残る多くの親しまれた歌がある。 その膨大な数の歌を、巻一から巻二十まで通読した大岡信の鑑賞に、日本の美学の起源をみる。 『万葉集』を、現代人が味わい楽しむ「生きた」歌集にするために、現代詩人が挑む。
  • 吉田松陰 武と儒による人間像
    4.0
    激動する時代のなかで、閃光を放つかのように、短き生涯を終えた吉田松陰。その透徹した志や無類の誠実さとして現れた至純の精神の成り立ちを、<武>と<儒>という原理の統一のなかに見出す。僧黙霖、橋本左内、佐久間象山、山鹿素行、山本常朝と対比されることで、松陰の俊傑ぶりや人間的魅力が浮かびあがる。史実に対し文学的想像力で肉迫した、著者晩年の代表作。野間文芸賞受賞作。
  • 砂の粒/孤独な場所で 金井美恵子自選短篇集
    2.0
    一筆ずつ塗り重ねられる精緻な絵画のように、あるいは一針ずつ施される絢爛たる詩集のように――一語一語選び抜かれた言葉は、思わぬつながりを持つ次の言葉を連れてきて、夢中でそれらを追ううちに思いもよらない地平に連れ去られていく。時空間も記憶も等質な粒子となって混じり合い、拡散し、迷宮のような読書体験をもたらす、著者初の自選短篇集。
  • 新しい人よ眼ざめよ
    4.3
    神秘主義詩人ウィリアム・ブレイクの預言詩(プロフェシー)に導かれ、障害を持って生まれた長男イーヨーとの共生の中で、真の幸福、家族の絆について深く思いを巡らす。無垢という魂の原質が問われ、やがて主人公である作家は、危機の時代の人間の<再生>を希求する。新しい人よ眼ざめよとは、来たるべき時代の若者たちへの作者による、心優しい魂の呼びかけである。大江文学の一到達点を示す、感動を呼ぶ連作短篇集。
  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集
    4.0
    若くして父となったかれは生活のため配電工となった。都市生活者の現実に直面するうち3人の子供の父となり、妻はすでに子供たちのものになってしまった。今日も短絡事故(ショート・サーキット)が起こり、現場にかけつける――。野間文芸新人賞受賞の表題作に、海燕新人文学賞受賞のデビュー作「木を接ぐ」をはじめ、働くということ、生きるということをつきつめた瑞々しい初期作品5篇を収録。
  • 有田川
    4.0
    私は川上のどことも知れぬところで誰とも知れぬ親に産んでもらった――けれども人間はいずれ生れて川に流されるものではないのか。どんな人でも多かれ少なかれ水に流されながら生きて行くのではないのか――。有田川の氾濫のたびに出自を失いながら、流れ着いた先で新たな生を掴み取る紀州女、千代の数奇な生涯。『紀ノ川』『日高川』に並ぶ、有吉文学における紀州三部作。
  • 私の万葉集 三
    3.0
    大岡信の『私の万葉集』第三巻(全五巻)。 ひさかたの 天の香具山 この夕  霞たなびく 春立つらしも   人麻呂のゆったりとした万葉人の息吹を伝えたい。著者の思いは、愛情深く、平易な文体で現代につなげていく。「万葉集」巻八から十二までを、たとえば恋の歌、それは、日本人の永遠に通ずる心の古典として……。

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