『杳子』のみ読んだ。
「海という言葉に呼び起されて、ひとすじの鋭い線が、水平線が、彼の情欲の生温いひろがりの中を走った。水平線を仰いで杳子と二人だけで砂浜に立つ気持を思って、彼は痛みに近いものを軀に感じた。」
この一節の表現にものすごい迫力を感じた。ここからこの物語がぐらっと揺らいでSは杳子の方へ一
...続きを読む段と深く踏み込んでいく様に思えた。
「(…)テーブルにそって軀を杳子のほうに伸ばした。杳子は彼の顔を見つめて、しばらく掌の中で首をかしげていたが、それから頬杖をゆっくり倒して唇を近づけてきた。」
脳裏に焼き付く場面