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“杳子は深い谷底に一人で坐っていた。”神経を病む女子大生〈杳子〉との、山中での異様な出会いに始まる、孤独で斬新な愛の世界……。現代の青春を浮彫りにする芥川賞受賞作「杳子」。都会に住まう若い夫婦の日常の周辺にひろがる深淵を巧緻な筆に描く「妻隠」。卓抜な感性と濃密な筆致で生の深い感覚に分け入り、現代文学の新地平を切り拓いた著者の代表作二編を収録する。
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Posted by ブクログ
杳子の心と身体のありようを彼らは便宜上「病気」と呼んでいるけれど、あれは彼女なりの世界の受け取り方でしかないんだよね。彼女は世界を過剰に身体的に知覚してしまう(することができる)というだけ。世界の知覚の仕方なんて人それぞれ違うわけで、それを周りの人間が「治したい」というのはやっぱり「自分にとって都合...続きを読むの良い状態に変えたい」ということでしかないよね。杳子の、発作、症状、とよばれるものの細部が、側から見てどう見えるのか、杳子自身にとってはどんな状況なのか、が丹念に描写されているのがおもしろかった。杳子もSもそれぞれ勝手な人間だが、どちらともにさほど悪感情を抱かずに済んだ。
僕が高校時代の芥川賞作品。本の裏表紙の案内には現代の青春小説となっていたが、戦後昭和の青春小説だろう。文章は洗練されて美しい。杳子と姉と彼の3人の登場人物による格別ストーリーはないけど2人の大学生の恋愛を瑞々しいエロシズムの目線が青春の眩しさを感じた。本の前半は分かりづらかったけど、6章の夏休み海辺...続きを読むにデートしたあたりから、この本の主題がわかって来て、杳子の姉が現れてから素直に読み進められた。
純文学とは何なのか? そのわかりやすい例がこの作品のように思う。 異なものを描く事がそうではないかな。 『杳子』には質感がある。 それを質感を伴って体感させる事を通して理解や共感に繋がる可能性がそこにはある。 わかるがわからない作品。 人もまたそうだと思う。
筆致に圧倒された。 だれかと関係を持つ、ともに生活を送る。 まったくの孤独ではないはずなのに、閉塞的なその関係によってより孤独が深まっていくような、そんな苦しさと寂しさと、やるせなさのようなもの。自分の中で上手く言語化できなかった感覚が、描かれていたような気がした。
“内向の世代”としてどんどん深化していった中期以降の古井由吉とは内容を異にする初期の大名作。 当時より観察力・透明な筆致は完成しているが、何より表題の『杳子』のひたむきな表現に心が動く。 他作を同様にお薦めは出来ないが、本書に関しては戦後の必読書と言いたい。
ひたすら陰鬱な作品で,メランコリーが全体を支配しているのが特徴。70年代「内向の世代」の代表作で,ある種の純文学の王道だろう。 今にも落ちそうな危うさで,といっても落ちたからといって何事も起こりそうもない,といった徒労。閉ざされた世界における不安は,現代でも十分通じるところがある。 「病的」とい...続きを読むうのを書こうとすると大抵は意欲作扱いされると思うのだが,本書はそれを普通にこなしてしまった。更に,本作が問うのはごく一般的な「存在の境界線」であり,読者の平衡感覚すら奪ってしまう。果たしてどこからがメタ視点なのだろう。
『ピース又吉がむさぼり読む新潮文庫20冊』からピックアップした一冊。 閉ざされた世界での男女の恋愛というものは、かくも重くて暗いものなのか。そもそも恋愛とは実は明るいものではないのかもしれない。そんなことを考えながら読み終えたとき、又吉が帯の惹句に書いている「脳が揺れ…めまいを感じ」たという症状にワ...続きを読むタシも見舞われた。
場面描写や心理描写が多く読むリズムが遅くなりがち。 霧のように掴めない杳子は、決して万人から愛されるようなキャラクターではないと思う。 しかし彼女に惹かれる主人公目線で描写することで、自然とこちらも杳子という存在に惹かれていく。 私は杳子が好きになった。
杳子と妻隠。2つとも自分にとってはとてもリアルだった。読み進めて後半なにかおこるのではないかとドキドキしながらページをめくった。 杳子は自分の話になるが…精神を病んだ方と関わったことがあって、懐かしいというか、共感できるところがいっぱいあった。 妻隠も携帯とかない時代…どことなく昭和的なエロチックな...続きを読む感じもあり、古井さんの文章の素晴らしさで、しっかりと文学になっていた。自分的にはとてもじわじわとくる作品だった。
脚本家いながききよたか氏の話から興味を持って読みました。 『杳子』は芥川賞受賞作品 彼女の庇護者のようなつもりの彼氏の一字一句が、彼女を妖しく表しているようで、そこに愛を感じました。 杳子は精神的に不安定な人物ですが、賢い人です。とても魅力溢れるご婦人で、幸せになってほしいと願いたくなります。 映...続きを読む像化したら面白いだろうなと思いました。 『妻隠』は夫婦の話。 この作品は特に〝夕方の風景〟が妙にリアルで懐かしさが感じられます。 主人公寿夫は発熱で会社を休んで一週間。日常でありながら非日常を経験しているようです。妻の礼子の日頃見られない姿を見て色々と思うところが出てきて、なにかと面白いです。少し艶美なシーンがあるのかと思いましたが、寿夫の性格なのかサラリとしたものでした。 2作品とも主人公は男性で、妻や恋人を丸く包み込むような人物でした。 作者の古井由吉もそうなのでしょうか。
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