【感想・ネタバレ】杳子・妻隠のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年01月26日

『杳子』のみ読んだ。
「海という言葉に呼び起されて、ひとすじの鋭い線が、水平線が、彼の情欲の生温いひろがりの中を走った。水平線を仰いで杳子と二人だけで砂浜に立つ気持を思って、彼は痛みに近いものを軀に感じた。」
この一節の表現にものすごい迫力を感じた。ここからこの物語がぐらっと揺らいでSは杳子の方へ一...続きを読む段と深く踏み込んでいく様に思えた。

「(…)テーブルにそって軀を杳子のほうに伸ばした。杳子は彼の顔を見つめて、しばらく掌の中で首をかしげていたが、それから頬杖をゆっくり倒して唇を近づけてきた。」
脳裏に焼き付く場面

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Posted by ブクログ 2023年11月17日

「だけど、あなたに出会ってから、人の癖が好きになるということが、すこしわかったような気がする」

外界から遮断された2人の、2人だけで進んでいく物語が好きだから面白かった。2人だけではアンバランスだしとても凸凹がぴったり合わさっているとは言えないけど、妹という外部の人間が介入してくるとそれはそれで均...続きを読む衡が崩れる。ギリギリのところで耐えている杳子の心と2人のぐらぐらとした関係が似ていた。

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Posted by ブクログ 2023年10月27日

筆致に圧倒された。
だれかと関係を持つ、ともに生活を送る。
まったくの孤独ではないはずなのに、閉塞的なその関係によってより孤独が深まっていくような、そんな苦しさと寂しさと、やるせなさのようなもの。自分の中で上手く言語化できなかった感覚が、描かれていたような気がした。

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Posted by ブクログ 2022年10月06日


“内向の世代”としてどんどん深化していった中期以降の古井由吉とは内容を異にする初期の大名作。
当時より観察力・透明な筆致は完成しているが、何より表題の『杳子』のひたむきな表現に心が動く。
他作を同様にお薦めは出来ないが、本書に関しては戦後の必読書と言いたい。

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Posted by ブクログ 2022年09月10日

(「杳子」)神経症を病む女子大生の杳子は山でS氏と出会い、その後二人の恋愛とも取れるような関係が始まる。S氏は杳子の病気をどうにかしようとするけれど、だんだん彼女の内面的で閉塞的な世界観に引き摺り込まれるようにも思えた。なぜS氏は杳子に惹かれていくのか?精神の奥底で彼女に通じるところがあるからのよう...続きを読むにも思える。S氏も杳子自身も杳子の姉も彼女のことを病気だというけれど、みんな同じだし、誰にでもこういう面はあるのではないかな。
時間をおいてじっくりと再読したい一冊。第64回芥川賞受賞作品。

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Posted by ブクログ 2021年07月20日

ひたすら陰鬱な作品で,メランコリーが全体を支配しているのが特徴。70年代「内向の世代」の代表作で,ある種の純文学の王道だろう。

今にも落ちそうな危うさで,といっても落ちたからといって何事も起こりそうもない,といった徒労。閉ざされた世界における不安は,現代でも十分通じるところがある。

「病的」とい...続きを読むうのを書こうとすると大抵は意欲作扱いされると思うのだが,本書はそれを普通にこなしてしまった。更に,本作が問うのはごく一般的な「存在の境界線」であり,読者の平衡感覚すら奪ってしまう。果たしてどこからがメタ視点なのだろう。

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Posted by ブクログ 2020年04月14日

Twitterでちらほらと見かけて手に取りました。芥川賞受賞作の「杳子」には圧倒されました。底が見えない深い文章、体の内側から世界がはみ出していく感覚、そしてまた世界が体の内側へ収斂していく感覚、絶妙な均衡を保って静止している世界に佇んでいる自分……少しでも身動ぎすれば、崩れて行くように思われる世界...続きを読む。上手く言葉が見付からないのですが「杳子」はこれまで読んできたどの本にも感じたことの無い不思議な感覚を味わいました。感情と言うよりも、肉体を通して世界を感じている作品のように思えました。とにかく凄いとしか言いようない作品。併録の「妻隠」は何処か懐かしさを感じるような色合いがありますが(登場する老婆や景色に)この作品は登場人物が発する匂いが帯のように漂っていて、只管それが拡散されて密度が高まっていくように感じられました。初めて古井由吉は読みましたが、他にも読んでみたくなりました。

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Posted by ブクログ 2018年11月18日

『ピース又吉がむさぼり読む新潮文庫20冊』からピックアップした一冊。
閉ざされた世界での男女の恋愛というものは、かくも重くて暗いものなのか。そもそも恋愛とは実は明るいものではないのかもしれない。そんなことを考えながら読み終えたとき、又吉が帯の惹句に書いている「脳が揺れ…めまいを感じ」たという症状にワ...続きを読むタシも見舞われた。

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Posted by ブクログ 2015年08月16日

初めて古井由吉さんの小説を読みました。普段、小説は一気に読んでしまうことが多いのですが、あまりに内容が重くて途中でしんどくなってしまって、日にちをかけて読破しました。

『杳子』
心の健康って何だろう?って考えさせられる内容でした。
杳子は神経を病んでいて、異常といえる思考を持っているんだと思います...続きを読む。けれど文章を読んでいると、だんだんそういう考え方もわからなくもないと思えてきてしまう自分がいました。普段生活していて考えることはないけど、考えてみると実は世界の実体は誰にも理解できません。だからこそ見え方は人それぞれで、誰かの思考が間違っていると言い切ることはできないのではないかと感じました。

病気が直ったという杳子の姉と健康だという杳子の彼、自分の癖に慣れてしまって自分ではわかっていない彼らは、他人から見たらどうなのでしょうか。自分では健康だと思っている人も、他人からみたら異常だと思われているのかもしれません。同じ人に対する意見も人それぞれ異なり、正解はわからないのだと思います。

『妻隠』
『杳子』で衝撃を受けた後読むと、だいぶ読みやすく感じました。不安定さを孕む夫婦の物語でした。
夫の顔が知らない人に見えたり、逆もあったりと、こちらの物語でも見え方の多様性を感じました。

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Posted by ブクログ 2016年06月12日

面白かったです。

杳子はおそらく、世界に意味づけをすることが出来ない少女です。事物は、外から明解な意味を着せられないと、存在自体が不可解で重たくなる。世界をそういう重たいものとして捉えているのが杳子。そして、その杳子と何か通じるものがあるから傍にいたい青年。

この小説に私が惹かれたのは、杳子を通...続きを読むして、世界が美しく見えたからではないかと思います。美しく描き出す文章の力もさることながら…。意味や定義に汚されていない世界。一般的な価値が関係のない世界。そこに(能動的にではないと思いますが)閉じこもる若い男女。私自身は意味にあふれる世界で闊達に生きていけて、ちっとも純粋じゃないなとよく思っていたので、いっそう惹き込まれたのかもしれません。

感性まかせではない、しっかりした骨組みも感じられる小説です。

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Posted by ブクログ 2022年09月19日

「杳子」
大学生の時にしばらくお付き合いをしていた女性は小柄で可愛らしく、真面目で読書家、友達思いのキュートな人だった。
彼女が北海道へ一人旅に出かけた時に、私は多分何かに嫉妬したのだろう。
彼女が私より旅行を選んだような気がした。
その頃から私は自分の中にあるウジウジとした女々しい思いを彼女に少し...続きを読むずつ吐き出すようになっていたと思う。
私は彼女の本質を知らなかっただろう。そして自分の女々しい思いをぶつけることが彼女の心から私を遠ざけるのだという事を知らなかった。
この作品の「杳子」は心を病んでいるのだけれど、自分が病んでいる事を知っている。そして彼女を取り巻く世の中と人々は彼女を救い出すことができない。
動けなくなった山の「底」で杳子は彼女を救える男に出会い、助けを求める。
男は杳子を救えるのは自分の他いないと知る。
男と杳子は2人だけの空間を作りその中で抱き合いながら生きていくことになるのだろう。

「妻隠(つまごみ)」
妻隠とは一体どういう意味なのだろうか。
辞書を引いても作品を読み終えてもわからない。

多分会社の組合運動に加わっていた男性が、その時の疲れからだろうか体調を崩して1週間近くの休みを取る。
その間会社勤めの身では見ることのなかった日常が目の前に広がる。
果たして自分と妻はどこにいるのか?
自分を包む現実の世界で自分達はどの様に見られ、どの様に生きているのか?
今の自分達の生き方は世の中を構成する真っ当な生き方なのか、疑問が沸く。

気になる事:
妻隠の中に「独壇場」という表現が有る。
本来なら独擅場で独壇場はその誤用だとされていたけれど、今では作家も使うほど正しい言葉として認識されているのだろうか?

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Posted by ブクログ 2022年05月24日

ピース又吉が第二図書係補佐で題材としていたため読んだ。
しかし、自分の頭では理解できなかった。読書が下手になったのだろうか。
だけど、雰囲気は全体に好きだった。

杳子は神経症を患う彼女を持つ男の視点で物語は進んでいく。
最終的には杳子が健康になるために、病院へ行くと宣言して終わる。
恋人のためを思...続きを読むって自分の体を治そうとする姿によって、自分の恋人へ姿勢を改めようと反省した。
彼女は私とデートする時はいつも身なりを整えてくる。それに対して、私は不潔感漂う姿でデートに行く。そんな容姿では彼女に対して甚だ失礼だろう。
相手を思うからこそ自分を変えると言う精神は忘れてはいけない。

妻隠は全くわからなかった。
閉塞的な夫婦の関係を物語にしているとは思うのだが、それ以上のことは何もわからない。何故だろう。
この小説も淡い雰囲気があり、とても好きだ。だからこそ、もう一度読んで少しでも理解を増やしたい。

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Posted by ブクログ 2021年01月30日

古井由吉氏の作品ははじめてだったが、
いかにも純文学を読んでいますという時間を過ごした
世にも奇妙な物語にしても面白いと思った

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Posted by ブクログ 2020年12月23日

「杳子」が小川洋子さんのラジオで紹介されていて、気になって読んだ。1971年の芥川賞受賞作品。掴みどころがなく何とも言えない気分になるが、美しい文章だと思った。小川洋子さんが、「繰り返し読むことで発見がある」と評されている。他の古井由吉作品も読んでみたいと思った。

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Posted by ブクログ 2016年11月17日

なーんか背筋が寒いのよね。
文章が、どすーんと鎮座していて
その文章を読むのに何手間もかかる感じです。

前者の作品は
強迫観念に取り付かれた女性と
人生を無為に過ごす男性の物語。

だんだんと男性が女性に引きこまれて
やんでいくさまが実に背筋が寒いです。
ですが、女性は、やっぱり強いね。

後者の...続きを読む作品は…
二人だけの日常に
思わぬ影がさしていく作品。
二人だけの世界は、ありえないのよね。
そして、なにやら意味ありげな発言が
でてくるのが気になるところ…
(そうではないと信じたいですが)

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Posted by ブクログ 2016年02月26日

少しでも力を加えると崩れさってしま心の脆さが文章で上手く表現されていると感じる。

「杳子」不安になる。杳子、主人公も、杳子の姉も、その不安定さが不安にさせる。ぎりぎりのところでかろうじて正気を保っている。そんな危うい、絶妙な感覚が読み手の平衡感覚を失う。

「妻隠」人間関係の不安定さが不安になる。...続きを読む老婆や「ヒロシ」という闖入者によって、崩れそうな夫婦。かろうじて保たれているその関係。安堵と溜息が混ざり合うよな感情になる。

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Posted by ブクログ 2015年12月09日

両作品ともに当事者間だけに起こり、そしてそのまま終局を迎える密室空間の趣きがあるんですが、妻隠の方はそれを脅かさんとする酔狂な連中がおって、あれ、ここに奥さん放したらやばいんじゃないか、ってところに放ってしまう危うさ、スリルは自明。しかし、旦那は何気に気が気じゃないという風でもなく、隙間からその様子...続きを読むを伺う様はそれまた直裁的に淫らであって、密室の愉しみの二面性を表すシーンなのかなと思いました。杳子もクライマックスは必ず室内で起きますし。

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Posted by ブクログ 2015年09月21日

杳子--おそらく統合失調症である女との交際を実に細かく描写している。登場人物は二人以外にほとんどいないのに、描写の細密さによって最後まで読ませてしまう。これはすごい作品だ。
妻隠--正直、よく分からなかった。

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Posted by ブクログ 2023年06月14日

閉塞された男女の世界を、
透明人間になって傍から見聞きして書いたような偏執的な描写。
冷徹で枯れていて、思考や目線の端々が几帳面の域を超えている。

その文体から映し出される登場人物は、
そのままそっくり具現化されたようで、
深淵は多層化され、
滑らかで湿り気のある混沌と、
儚げで印象的な齣撮りの時...続きを読む間の中に、
絶えずその性質を留まらせている。

庇護欲でなく同族であることの共通理解が、
男女を一風変わった関係で成立させ、
それがどの抽斗から出てきた恋愛なのか分からなくとも、一応箪笥には収まっているように見せる。

踠いているような、
真っ直ぐ進んでいるような、
その歩き方を絶えず指先まで意識しながらいるような、そんな話でした。

杳子面倒臭いけど、多分可愛い。
話が一筋縄でいかないのを身悶えしながら、
読み進めたが、結局、どうなったんですね?(白目)

読み疲れするし、
の割には感情を揺さぶられるでもない。

理解が追いつかないながらも、
本能的感覚で、
ただその凄さをぼんやり感じる事はできる。

妻隠のほうが読み易い。
思考の並びや、妻の描写に、
ハッとさせられる所が多々あった。

DQNの中で妻がオンナになるとことか、
その後何食わぬ顔で帰って来るとこ、
それに夫が何も示さないとこ、
桃に関心が無さそうに適当に摘むとこが、
わりと印象に残った。

なにか冷たいのか、
冷たい中に熱があるのか、
判然としないなかに、
嫌にまとわりつく読み味が、
読後にはサラッと流れていくようだった。

本格小説といった印象だが、
果たして本格とは一体何をもってして本格とするのか。

古井由吉をもう少し読み込めば、
分かるようになるかもしれない。

#読書 #読書録 #読書

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Posted by ブクログ 2022年05月24日

読書開始日:2022年4月9日
読書終了日:2022年5月17日
【杳子】
病人と健康人。
この違い、中々に難しい。
精神ならなおさら。
病気を病気で確定させることで、周りはある種の安心につながる。
杳子の姉はそれを望んだ。
姉以外もそれを望んだ。
でも杳子は、自身の病気を認識することを拒んだ。
...続きを読むんななかSが現れた。
Sは杳子の病気に対して、初めは好奇心や興奮を覚えるが、それが次第に情に変わっていった。
その変遷が、杳子の決心に結びついた。
癖ってある種の病気だ。
健康的な癖、病的な癖、その線引きはどこだろう。
杳子のように、毎日の出来事が全て違うように見えることが当たり前の世界では、姉のような反復がより奇怪に感じる。
その杳子自身も毎日の出来事が全て違うと見える癖に苛まれている。
病気ってなんだろう。
【妻隠】
寿夫が欠勤したことで見えてきた礼子の詳細。
ふとしたことがきっかけで、当たり前の風景が違って見えることがある。
ゲジュタルト崩壊のような。
ふときたときに、人間は動物に戻る時がある。
杳子の場合は、動物の時間が長いことによるある種の精神病。精神病なのか健康なのか。
養老孟司論から推測する。
夫婦の関係を築いても相手を知り尽くすことは不可能。そこに意味がある。
寿夫は新鮮な一面を見せる礼子を片腕に抱き、慈しむ。
きっかけは、欠勤と老婆と礼子の同郷人ヒロシ。


渺とかすむ顔
杳子は動物、同じという人間特有の感覚がない
風に顔を背けることをしない。風を蔑ろにする。
性行為をすることにより杳子の失調に近づけるが、性の興奮がそれを上回る。それが心地よくなる。
そのため、杳子とのいとなみでは成熟せず、若い男が性を求める中に留まっていた。
健康になるってどういうこと?まわりの人を安心させるっていうことよ
杳子は中途半端な状態。病気を病気と認識することで健康にはなる。だが、病気を病気と認識してそれが完全な癖となった自分に耐えられるかが怖い。
【妻隠】
心をたのしませるったって、自分一人楽しめばいいもんではない。自分も、人も、ほとけにもよろ
一視同仁
夫婦の現実などはちょっと揺られると案外頼りない

惰性になった接吻の匂い

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Posted by ブクログ 2022年05月13日

杳子はよかった。
精神的にちょっと病んでる女の子から見えてる世界の描写がうまい。
冒頭の、岩が頑張って均衡を保って立ってると思ったのに、なぜか急に岩が自ら空に伸び上がってるように見えてきた…
みたいな描写が妙に心に残って離れない。
どういう世界の見え方なの。
やば。こわ。すご。
病んでる女の子を好き...続きを読むになる男の子も少し変わっているというか昏いところがあるというのもとてもよく分かる。

妻隠は、今の私にはあまり意味が分からない。
気怠い夏の空気、馴れた夫婦の物憂げな雰囲気はよく伝わってきた。

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Posted by ブクログ 2020年09月01日

「杳子」            山の中で出会った杳子という神経を病む女子大生に恋愛感情を抱く青年。杳子の不可解な行動に翻弄されながらも、彼女を理解し守ろうと努める。             杳子の姉も、かつて同じような病気であった。姉妹は反目しながらも同じ軌道上を生きていた。
「妻隠」(つまごみ)
...続きを読む体調をくずし会社を休み、一週間家で静養している男。閉鎖的な空間の中、うつろな状態で、成熟した妻の肢体を見ながら、夫婦の共同生活による絆の深さとともに、脆さも感じていく。            どちらの作品も、感性あふれる状況描写や表現力に圧倒され、非常に強い印象が残る一冊だった。

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Posted by ブクログ 2020年05月09日

ヨウコは精神を病んだ女性の描写が細かく、優れているのは分かるが読み進めるのに時間がかかる..妻籠は比較的ライトな語り口だが、危うさも兼ね備えている。描写が上手い。事あるごとに淫ら、という言葉が連発されているような。

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Posted by ブクログ 2020年04月17日

「杳子」は統合失調症の女とそこはかとなくメンヘラ男の恋愛、「妻隠」は現実感のないままに夫婦をやっている男女の話という感じなんだけど、文章がすごい。何気ない風景が一瞬でブレて観念の世界へ入り込んでいく、でも地に足つかないわけではなく、むしろ現実感が気持ち悪いくらいに臭ってくるような不思議な感じ。力のあ...続きを読むる文章、あこがれるなあ。
作中で杳子の女性性が強調されるのでどうしてもそういう方向を意識してしまうのだけど、この文体、女性っぽい観念の世界を男の人のやり方で歩いている、という印象ですごく不思議。

「健康になるって、どういうこと」
「まわりの人を安心させるっていうことよ」
というところには、思わず笑ってしまったが、杳子の神経質な緊張が恐ろしくリアルなので読んでいて神経を優しく逆なでされるような気分になる。ふっと緩み、またあっという間に引きちぎれそうに張りつめる神経を持ち、突如攻撃的になる女。そことつながるチャンネルを持っているのに、他人の視点で観察するように眺める男。共感できないとか、分からないというより、そちらへ引きずられて行きたくない、と思って距離を取りたくなる。

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Posted by ブクログ 2019年03月23日

古井著作初読。
言葉の硬さがないため早く読み終わることができたが、関係の不確かさと揺らぎいいようのない危うさを覚える本。
うす暗がりの、男女の恋愛。輪郭がぼやける。腕と身体を結ぶイメージが崩れる。隠している心の奥底。怯えと苛立ち。

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Posted by ブクログ 2018年12月05日

平坦な話の流れの中に、登場人物の心情の変化が事細かに表現されている。

男女の仲とは脆く危うい面も持ち合わせているものなのだな、と感じた。

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Posted by ブクログ 2016年06月22日

ピース又吉のエッセイがすごく心に残っていて手に取りました。

「病んでいる」とか「夫婦だ」とか定義付けることに何の意味もないような気がしてくる。社会的には必要なんだろうけど、当人にとっては。
ストーリーは好みではない(たぶんあんまり理解できてない)ものの、面白い描写があちこちにあって、その感覚を想像...続きを読むすることは楽しかった。
暗くてじっとりして生々しいんだけど、素っ頓狂な感じ。

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Posted by ブクログ 2015年09月14日

又吉効果で読者が増えた古井由吉。初めて読んだが、なかなかクセが強い文体だわ。杳子は正直、描写の濃密さに辟易してしまったが、妻隠は楽しめた。夫婦という不思議な関係性を、うまく言葉で切り出している気がする。
どうでもいいけど、どっちも読んでいて気になったのが、体をよじるという表現が頻繁に出てきたこと。古...続きを読む臭い言葉ではないけど、一般生活ではあまり聞かない言葉なだけに気になった。あと、官能性を表現するのに、太ももがよく出てくる。逆に胸については、あまり描かれなくて、古井さんは脚フェチなのかな、と勝手に想像してしまった。

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Posted by ブクログ 2015年05月26日

比喩ではなく実際に眩暈を感じた、
というピース又吉の帯コメントで気になり購入。

な、なるほど。
杳子の言ってることを真剣に聞いていると度々眩暈を感じそうにはなりましたが…。

いやでも確かに後半に出てくる杳子の姉について考えようとするとなかなかクラりと来るものがあります。

好みではない内容だった...続きを読むけれど、危うい空気感が上手いなと思いました。


しかし個人的には『妻隠』のなんとも言えない夫婦の心の揺れ動きにざわざわ。


なかなか一言で言い表せない《恋愛小説》でありました。

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Posted by ブクログ 2015年03月11日

気になってた古井由吉作品。
こういう文体好き。表面のちょっとした仕草からどんどん内面の襞に入り込んでいって、時間がすごく過ぎたような感じになって、でもほんの一瞬の些細な出来事。

妻隠よりも表題作の方が好き。
映像化するなら菊池凛子だなあ。

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