古井由吉のレビュー一覧

  • 杳子・妻隠

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    純文学とは何なのか? そのわかりやすい例がこの作品のように思う。

    異なものを描く事がそうではないかな。
    『杳子』には質感がある。
    それを質感を伴って体感させる事を通して理解や共感に繋がる可能性がそこにはある。
    わかるがわからない作品。
    人もまたそうだと思う。

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    2025年07月11日
  • 仮往生伝試文

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    始めてまとめて読む。こんなに日記の部分辛気臭かったっけ。感想というか解釈多かったか。出るたび読んでたのより浮遊感がある。当時すごく陰気だと思ってたのは若かったからか。
    歴史に分類した方がよかったか。哲学か。まあ、どちらにせよ読みでがある。

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    2025年03月02日
  • 杳子・妻隠

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    ネタバレ

    「礼子はとっさに彼の顔を見分けられなかった。しばらくの間とはいえこの家の中に、それも彼の寝床の中に、見も知らぬ男がうずくまっていた。なるほど夫婦という現実などはちょっと揺られると、案外頼りないものだ。それにしても、いったん夫の姿をそんな風に見つめてしまったからには、これからも事あるごとに、夫の姿の中に見もしらぬ男を見るようになりかねない……。」197頁

    ←聞き手である主人公が妻に起こったフレームの混乱についてこんな正確に理解して共感できるのって、ありえなすぎて嬉しい

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    2024年10月22日
  • 杳子・妻隠

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    ネタバレ

    「だけど、あなたに出会ってから、人の癖が好きになるということが、すこしわかったような気がする」

    外界から遮断された2人の、2人だけで進んでいく物語が好きだから面白かった。2人だけではアンバランスだしとても凸凹がぴったり合わさっているとは言えないけど、妹という外部の人間が介入してくるとそれはそれで均衡が崩れる。ギリギリのところで耐えている杳子の心と2人のぐらぐらとした関係が似ていた。

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    2023年11月17日
  • 杳子・妻隠

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    筆致に圧倒された。
    だれかと関係を持つ、ともに生活を送る。
    まったくの孤独ではないはずなのに、閉塞的なその関係によってより孤独が深まっていくような、そんな苦しさと寂しさと、やるせなさのようなもの。自分の中で上手く言語化できなかった感覚が、描かれていたような気がした。

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    2023年10月27日
  • 辻

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    【読もうと思った理由】
    直前の「文学の淵を渡る」でも書いたが、伊坂幸太郎氏と平野啓一郎氏の現役人気作家の両名が、古井氏のことを絶賛している。平野氏は「小説家が尊敬する小説家」といい、伊坂氏は「完璧な小説は?」と問われれば「先導獣の話」と答えるかもしれないと、それぞれが、最大級の賛辞を送っている。また著名な作家でいうと又吉直樹氏や大江健三郎氏も、古井氏のことを好感や敬意を持って語っている。

    伊坂幸太郎氏の「小説の惑星 ノーザンブルーベリー編」に「先導獣の話」が掲載されており、初めて読んだ際は、正直それほどのインパクトはなかった。それから一定期間が空き、平野啓一郎氏の「小説の読み方」で「辻」の短

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    2023年08月15日
  • 文学の淵を渡る(新潮文庫)

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    【読もうと思った理由】
    古井由吉氏を知ったきっかけが、平野啓一郎氏の「小説の読み方」と伊坂幸太郎氏の「小説の惑星 ノーザンブルーベリー編」だ。現在人気の作家二人が揃って、古井由吉氏を絶賛している。平野啓一郎氏は、小説家が尊敬する小説家と評価しているし、伊坂幸太郎氏は、完璧な小説を挙げるとすると、「先導獣の話」を挙げるかもしれないと、最大級の賛辞を送っている。

    また古井氏と言えば、芥川賞受賞のエピソードが有名だ。第64回芥川賞を受賞したときのノミネート作品が、実は古井氏の作品が2作品あった。「杳子(ようこ)」と「妻隠(つまごみ)」だ。一人の作家が同じ回に2作品ノミネートされるのは、かなり稀だ。

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    2023年08月13日
  • 山躁賦

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    迷路、しかも靄のたちこめた中を徘徊するような感覚でした。もちろん快楽原則にそくした徘徊なのですが、それは不安を迫り出させる徘徊でもある。一種、ゲシュタルト崩壊をいざなう、この文体が、確固と属していた世界から離解させるような効果を持っているように思いました。かつ、ニヒリスティックな質感を湛えた視点により、二重の意味で不安定化するのだが、それが素晴らしい酩酊であるという、宜しき小説体験でした。そう、素晴らしいです。

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    2023年05月07日
  • 辻

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    辻、という言葉をキーにして彩られた、魔と聖と人の交わる物語たち。まさに辻交うように逢魔や、また光の雑る、そんな成り行きをカットアップしているのですが、勿論、古井由吉文体の美学により、いともカオティックな読書体験に導かれますね。とにかく読んだことのない質感、読んだことのない物語、読んだことのない構成、清新にして混沌として暗黒、暗黒にして至純、端的にものすごく面白かったです。個人的に白眉は、暖かい髭、始まり、白い軒、割符、でしたね。連作が、始まり、で締めくくられているのが良い。それに清らかな終点であって。

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    2023年04月30日
  • 辻

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    古井文学の到達点と感じた。
    内省に内省を重ねてきた後期の作品群から飛躍し、大江や中上文学の様な神話的物語に転換している。近年無かった『槿』の様な濃厚なエロスも彷彿とさせ、作者のパワーがギュッと結晶した作品になってると思う。

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    2022年12月13日
  • 木犀の日 古井由吉自選短篇集

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    要再読。無意識、理不尽さ、発狂、正常と異常、日常と非日常などについて途中から意識しながら読みました。気を抜くと迷子になりそう。登場人物もこの社会の中で迷子になっているように思えました。難しかったけど中毒になる。

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    2022年11月12日
  • 杳子・妻隠

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    “内向の世代”としてどんどん深化していった中期以降の古井由吉とは内容を異にする初期の大名作。
    当時より観察力・透明な筆致は完成しているが、何より表題の『杳子』のひたむきな表現に心が動く。
    他作を同様にお薦めは出来ないが、本書に関しては戦後の必読書と言いたい。

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    2022年10月06日
  • 杳子・妻隠

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    ネタバレ

    (「杳子」)神経症を病む女子大生の杳子は山でS氏と出会い、その後二人の恋愛とも取れるような関係が始まる。S氏は杳子の病気をどうにかしようとするけれど、だんだん彼女の内面的で閉塞的な世界観に引き摺り込まれるようにも思えた。なぜS氏は杳子に惹かれていくのか?精神の奥底で彼女に通じるところがあるからのようにも思える。S氏も杳子自身も杳子の姉も彼女のことを病気だというけれど、みんな同じだし、誰にでもこういう面はあるのではないかな。
    時間をおいてじっくりと再読したい一冊。第64回芥川賞受賞作品。

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    2022年09月10日
  • われもまた天に

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    「われもまた天に」(古井由吉)を読んだ。
    矯めつ眇めつするほどの人生など生きてこなかった私ではあるけれど、還暦を過ぎてから殊更に古井由吉の文章が沁みてくる。

    『ほんとうのことは、それ自体埒もない言葉の、取りとめもないつぶやき返しによってしか、表わせないものなのか。』(本文より)

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    2022年05月07日
  • 槿

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    ふつうの物語としてめちゃめちゃおもしろい、ほとんどの人間が神経症にかかっている、それから解説にもあるけれどホテルのエレベーターをおりてから國子の部屋に向かうまでのながれはぞっとするほどすばらしい。ただ妻子持ちの四十代でこんなんなのか、という所感は否めない。

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    2022年03月06日
  • ゆらぐ玉の緒

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    「ゆらぐ玉の緒」(古井由吉)を読んだ。
    この作品群はひときわ死の影が濃いような気がする。
    しかしまあ古井氏の文章にはいつも唸らされる。
    『春先は病みあがりに似る。』(本文より)
    読む者の想いが時空を超えて彷徨い、辿り着いたそのいつかのどこかの春先の自分に戻り「あゝ!」と腑に落ちる。

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    2022年01月30日
  • ゆらぐ玉の緒

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     2016(平成28)年刊。2020(令和2)年に82歳で亡くなった古井由吉さんの、77-78歳頃に執筆した短編小説集である。やはり古井さんは、日本語の現代芸術小説の最高峰に位置する、孤高の作家であった。
     私が古い文学に出会ったのは高校生の頃で、言葉の鋭利さを研ぎ澄まし、自身の心の内奥のミクロな部分にまで分け入るようなその世界に驚嘆し、何冊も買って読みふけった。特に当時新刊本だった新潮社ハードカバーの『眉雨』(1986《昭和61》年)、今は講談社学芸文庫から出ているらしいが当時は集英社文庫にあった名作『山躁賦』(1982《昭和57》年)は、何度繰り返し読んだか知れない。
     当時たまたま古井さ

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    2022年01月09日
  • 杳子・妻隠

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    ひたすら陰鬱な作品で,メランコリーが全体を支配しているのが特徴。70年代「内向の世代」の代表作で,ある種の純文学の王道だろう。

    今にも落ちそうな危うさで,といっても落ちたからといって何事も起こりそうもない,といった徒労。閉ざされた世界における不安は,現代でも十分通じるところがある。

    「病的」というのを書こうとすると大抵は意欲作扱いされると思うのだが,本書はそれを普通にこなしてしまった。更に,本作が問うのはごく一般的な「存在の境界線」であり,読者の平衡感覚すら奪ってしまう。果たしてどこからがメタ視点なのだろう。

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    2021年07月20日
  • こんな日もある 競馬徒然草

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    30年以上にわたる「優駿」誌上での連載からのセレクション。競馬好きとはどこかで聞いた気もするが、この連載のことは知らなかった。まったく期待を裏切らない内容だった。

    この本の概ね前半は私がリアルタイムでは知らない競馬、グラスワンダーあたりからが実際に見ていた競馬になる。思い出の馬、忘れかけていた馬の名前が次々と現れると、自分がいつどこで何をしていたのかも思い出される。毎年々々おなじような競馬が繰り返されるかにも見えるが、そのあいだにも時は着々と進んでいる。ここ7,8年は競馬から離れていたのだが、戻るきっかけをもらったような気がする。

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    2021年07月04日
  • 半自叙伝

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     2012年刊行の『古井由吉自撰作品』全8巻の「月報」に連載された「半自叙伝」、1982年-83年刊行の『古井由吉作品』全7巻に掲げられた「創作ノート」とを合わせて1冊とした書物。1937年生まれの著者の戦時体験・戦後体験、学生時代・教員時代、専業作家への転身とその後の心境が淡々と綴られていく。古井は1945年5月の東京西南部空襲で焼け出されていて(安吾が『白痴』で描いた空襲では?)、父方・母方の生家のある岐阜県大垣市・同美濃町に相次いで疎開している。朝鮮戦争の記憶が生々しく描かれたところがとくに重要。

     1977年-1980年刊行の文学同人誌『文体』の編集作業をめぐるエピソードや、『作品』

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    2019年07月31日