古井由吉のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
異常に難解なようでいて実は何もないのではと思いながらも数年読み続けて今に至る。読むたびに首を傾げ続けているので愛読書とは呼べまい…。
引用されている古典には全て出典があり、日記も天気や旅行などが連載時期に一致するし、幼少のエピソードなどは古井の他作品にも見つかるものがある。これをフィクショナルな次元と現実の往還と呼ぶべきなのか、しかし古典の間接引用をどこからがフィクションと呼ぶべきなのかわからない。
かといって佐々木中が書いているような言葉の問題なのかとも思えない。それは単なる形式の問題にしか思えないし、謎である。意味と形式がごっちゃになってすんなりとした理解を妨げてるのか。かといって理解 -
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たまには純文学をと思い、以前から気になっていた古井由吉作品のなかから本作をチョイス。……なのだが、本作は典型的な純文学というわけではなく、そもそも小説と呼んでよいのかどうかさえさだかではない。まず、タイトルの意味はなにか。「往生伝」とは、平安後期に記録されている聖人たちの極楽往生の様子のことである。いわばその現代版が本作にあたる。こう書いてもなんのことだかわかりにくいが、じっさい読んでみてもよくわからない。そして、構成もまたわかりづらく、本作は各章ごとにまず「往生伝」が登場したあと、それにかんする著者の論攷が入り、さらに随筆風の日記という特殊な形になっている。さきほど小説と呼んでよいかどうか迷
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Posted by ブクログ
久しく触れていなかった、上質な文学。スマホもネットも登場しないどころか、穏やかで落ち着きのある文章にはカタカナも少ない。
安易な言葉と早いテンポの刺激的なストーリーが氾濫する今日、ときにはこういう大御所の作品に触れてバランスを取ることも大事だと気づかされた。
8話の短編は、どれも死が身近にある。現実と幻想とが入り交じり、時間も空間も行き来して、ときには怪談のような異世界に紛れ込んだよう。なのに、地に足が着いていて、味わい深い随筆のようにも思えるから不思議だ。
学生時代、芥川賞受賞作の「杳子」を読んで心が揺さぶられたことを思い出す。精神を病んだ女性を描いた作品を理解した自分が、少し大人になっ -
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先日とある先輩に勧められたので読んでみました。
大学時代に芥川賞受賞作「沓子」を読んで以来です。
これは数年前に出版されたもので、語りおろしのエッセイのような体裁をとっています。大作家と思いつつ、金沢と立教での合計8年間の教師生活の話が「戦後」をリアルに描写している。
基本的に1人称なのですが、対談相手が結構大物だったりします。
古井由吉は70歳を超えた現在でも書き続いているのに驚きました。物事への距離のとり方が絶妙ですね。こんな風に歳をとりたいです。少年のような好奇心を内包しつつ、成熟と円熟を重ねること。なかなかそんな大人はみつからないですね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「杳子」は、大人の女性と少女が何度も入れ替わるような危うい魅力のある人物だった。
執拗なまでに細部にこだわる描写で、その神経質さにこちらまで鬱屈してくるようだ。第三者である杳子の姉が登場してから面白くなったと感じた。それまでは杳子もSもそれぞれ生活を送れているのか不安になるほど、生きている人としての現実味がなかった。
姉という他人の目があって初めて、2人の会話がようやく人間らしいものになった気がする。姉という観察対象がいることで客観的になったのかもしれない。2人きりだと、どんどん深みにはまっていく感じがあって危ういけれど、それが一緒になるということかもしれないとも思った。いつまでも安心させてく