古井由吉のレビュー一覧

  • 杳子・妻隠

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    ネタバレ

    少しでも力を加えると崩れさってしま心の脆さが文章で上手く表現されていると感じる。

    「杳子」不安になる。杳子、主人公も、杳子の姉も、その不安定さが不安にさせる。ぎりぎりのところでかろうじて正気を保っている。そんな危うい、絶妙な感覚が読み手の平衡感覚を失う。

    「妻隠」人間関係の不安定さが不安になる。老婆や「ヒロシ」という闖入者によって、崩れそうな夫婦。かろうじて保たれているその関係。安堵と溜息が混ざり合うよな感情になる。

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    2016年02月26日
  • 仮往生伝試文

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    異常に難解なようでいて実は何もないのではと思いながらも数年読み続けて今に至る。読むたびに首を傾げ続けているので愛読書とは呼べまい…。
    引用されている古典には全て出典があり、日記も天気や旅行などが連載時期に一致するし、幼少のエピソードなどは古井の他作品にも見つかるものがある。これをフィクショナルな次元と現実の往還と呼ぶべきなのか、しかし古典の間接引用をどこからがフィクションと呼ぶべきなのかわからない。
    かといって佐々木中が書いているような言葉の問題なのかとも思えない。それは単なる形式の問題にしか思えないし、謎である。意味と形式がごっちゃになってすんなりとした理解を妨げてるのか。かといって理解

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    2016年01月22日
  • 仮往生伝試文

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    たまには純文学をと思い、以前から気になっていた古井由吉作品のなかから本作をチョイス。……なのだが、本作は典型的な純文学というわけではなく、そもそも小説と呼んでよいのかどうかさえさだかではない。まず、タイトルの意味はなにか。「往生伝」とは、平安後期に記録されている聖人たちの極楽往生の様子のことである。いわばその現代版が本作にあたる。こう書いてもなんのことだかわかりにくいが、じっさい読んでみてもよくわからない。そして、構成もまたわかりづらく、本作は各章ごとにまず「往生伝」が登場したあと、それにかんする著者の論攷が入り、さらに随筆風の日記という特殊な形になっている。さきほど小説と呼んでよいかどうか迷

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    2017年02月20日
  • 杳子・妻隠

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    杳子--おそらく統合失調症である女との交際を実に細かく描写している。登場人物は二人以外にほとんどいないのに、描写の細密さによって最後まで読ませてしまう。これはすごい作品だ。
    妻隠--正直、よく分からなかった。

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    2015年09月21日
  • 雨の裾

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    久しく触れていなかった、上質な文学。スマホもネットも登場しないどころか、穏やかで落ち着きのある文章にはカタカナも少ない。
    安易な言葉と早いテンポの刺激的なストーリーが氾濫する今日、ときにはこういう大御所の作品に触れてバランスを取ることも大事だと気づかされた。

    8話の短編は、どれも死が身近にある。現実と幻想とが入り交じり、時間も空間も行き来して、ときには怪談のような異世界に紛れ込んだよう。なのに、地に足が着いていて、味わい深い随筆のようにも思えるから不思議だ。

    学生時代、芥川賞受賞作の「杳子」を読んで心が揺さぶられたことを思い出す。精神を病んだ女性を描いた作品を理解した自分が、少し大人になっ

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    2015年08月11日
  • 木犀の日 古井由吉自選短篇集

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    どこにでもあるようなありふれた日常生活も目を見開いて凝視し続けていくと見えてくるものがある。それは神経をジワジワと冒す狂気のようなもの。夢とよばれるものかもしれない。素潜りをするように日常の海の底へ向かって潜り、息継ぎのために浮上し、また潜っていく。何かが喉の奥で粘りつき、ひりつくような感覚を覚えながら。エッセイと小説の狭間を揺れつつ私小説風に集束していくようだ。年代順に並べられた十篇。「先導獣の話」「椋鳥」「陽気な夜まわり」「眉雨」「髭の子」がよかった。再読するとよさそうだと読みながら思った。

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    2014年07月26日
  • 野川

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    生活の中でたまーにある、たくさんの人といるのに急に自分の回りにフィルターがかかって自分以外がスクリーンの中にいるような感覚になる。この人の、句点の連なりによる淡々とした、ボソボソと喋っているような長ーい文章がけっこう好み。

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    2013年04月22日
  • 人生の色気

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    とても優しい語り口。
    染みてくる言葉たち。
    “読書は、自分を見つけることもできれば、自分を離れることもできるという、不思議な効用があります。”
    “面白いことを追うためには、面白くないことにうんと耐えなければいけません。”
    “七分の真面目、三分の気まま。

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    2013年04月02日
  • 人生の色気

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    話し言葉を綴っているのに、言葉の豊かさはさすが。
    人間は時代や社会と無縁に生きているわけではない。そんなシンプルなことを深く実感させられた。
    自分の生きているこの時代をもっと深くとらえながら生きてゆきたいと強く思う。

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    2013年08月28日
  • 人生の色気

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    先日とある先輩に勧められたので読んでみました。

    大学時代に芥川賞受賞作「沓子」を読んで以来です。

    これは数年前に出版されたもので、語りおろしのエッセイのような体裁をとっています。大作家と思いつつ、金沢と立教での合計8年間の教師生活の話が「戦後」をリアルに描写している。

    基本的に1人称なのですが、対談相手が結構大物だったりします。

    古井由吉は70歳を超えた現在でも書き続いているのに驚きました。物事への距離のとり方が絶妙ですね。こんな風に歳をとりたいです。少年のような好奇心を内包しつつ、成熟と円熟を重ねること。なかなかそんな大人はみつからないですね。

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    2012年10月31日
  • 白髪の唄

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    「ときたまわけもない恍惚感、のようなものに取り憑かれることはないか?」

    「うん、あるよ。この本を読んだ時は特にそうだったよ。」

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    2012年04月06日
  • 蜩の声

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    ネタバレ

    こういう文章がとても好きだ。
    現実と幻想の狭間で言葉があふれかえるようでいて
    落とされるべき場所に落ち、落ち着く言葉。
    湿った男女の情感も廊下の徘徊も子供の背中も
    しんとした湖の底を覗きこんで見ているような
    いつまでも覗きこんでいたいような気持ちにさせてくれる。

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    2012年03月20日
  • 蜩の声

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     連作8編を収めた短編集。どれも季節の移ろいに合わせ、日常の中に過去の記憶が浮かんでくる。
     主人公はたいてい家の中にいて、そこで思考が奔放に駆け回るうちに、季節感や周囲の環境と身体との境界がどんどん曖昧になっていく。
     さらに、気がつけば現在と過去の記憶も曖昧になっていく。
     その曖昧さを表出させるのは研ぎ澄まされた聴覚と嗅覚であり、特に匂いに対する感性の鋭さは凄まじく、そこから透明感のある官能が発せられる。
     匂いの密度が濃さは文体に依るものであろうが、正直まぁちょっと読んでて疲れちゃいますな。

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    2011年12月07日
  • 木犀の日 古井由吉自選短篇集

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    いいなぁ。

    でも、何回か読み返してしまう。

    ぼーっと読んでると付いてけません。

    この人の本に評価なんてして良いのでしょうか

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    2009年10月07日
  • 木犀の日 古井由吉自選短篇集

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    あれれ、この人は一体何だろう。古井由吉の作品は、初めて読んだけれども、どうしてこんなに戸惑い惹きつけられるのかわからない。棒の先でつっつくようなことをしながら、しばし寝かせておきたい本。

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    2009年10月04日
  • 杳子・妻隠

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    杳子よりも妻隠の方が個人的には断然よかった。
    今となっては当たり前のように言われる、精神疾患・境界知能と呼ばれる人たちに当てはまるのが杳子ではないだろうかという気持ちで読んでいた。ある意味とてもリアルでフィクションのために加工されたキャラクターでは全くなく、身近に杳子のような人間がいる世界を見ている気分だった。
    妻隠の方が日本の純文学っていう感じがする。アイディアとなる核がいくつかあり、それが絡み合っていて面白かった。そして人間の心情がこちらの方が、うまく描けていると感じた。共感できたという方が正しいかもしれないが。

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    2025年10月18日
  • 杳子・妻隠

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    このような文章で物語を構築することが出来るのか、と思わされ小説というフォーマットの奥深さを知った不思議な読後。

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    2025年03月26日
  • 人生の色気

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    ふらっと手に取った雑誌の一文とタイトルに惹かれてすぐさまネットで探しました
    作者の自伝のような内容で語り口が優しく、文字を読むというより、お祖父さんに人生について話を聞かせて頂いてるような気分でした

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    2025年03月23日
  • 杳子・妻隠

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    人称が不思議な小説でした。三人称で書いてるけど殆どは彼から観た視点で、なんで私じゃなくて彼にしたんだろうとか考えたけど分かりませんでした。これは杳子も妻隠どちらも同じでした。描写や観察眼がすごいです。

    山の谷底で出会った女の子が岩がなんかすごいの、かくかくしかじか。岩の塔が空にむかって伸び上がろうとする力によって支えられるているように見えるの。とか言われたら、全力逃避対象でしょうね。とか思いつつも、彼女(病気を持つ)の見える世界は僕らの見ている世界とは違うということをちゃんと受け止めなくてはとも思った。

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    2025年02月06日
  • 杳子・妻隠

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    ネタバレ

    「杳子」は、大人の女性と少女が何度も入れ替わるような危うい魅力のある人物だった。
    執拗なまでに細部にこだわる描写で、その神経質さにこちらまで鬱屈してくるようだ。第三者である杳子の姉が登場してから面白くなったと感じた。それまでは杳子もSもそれぞれ生活を送れているのか不安になるほど、生きている人としての現実味がなかった。
    姉という他人の目があって初めて、2人の会話がようやく人間らしいものになった気がする。姉という観察対象がいることで客観的になったのかもしれない。2人きりだと、どんどん深みにはまっていく感じがあって危ういけれど、それが一緒になるということかもしれないとも思った。いつまでも安心させてく

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    2025年01月17日