古井由吉のレビュー一覧
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今、作家で、この人の新作が読みたい、というののトップにいるのは古井由吉なんじゃないかしら、と思ったり。この人の作品は、ゆっくりと一日数ページでいいから、たんたんと、読んでいきたい気分にさせる。そして、70歳を越えての、この創作意欲に、感服する。引き続き、この「やすらい花」の連作短篇後は、新潮から群像に一度、場所を移して、さらに隔月で連作短編をまた発表し続けているわけで。すごい、と思う。そして、それをできるだけ長く続けてほしい、と思う。僕の思う、理想型の日本語の美しい文章。ソリッドで、ほとんど無駄がなくて、でも想いの入り込める隙間はきちんとあって、という。(10/11/25)
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どこか冷めていて美しい文体
授業を受けて、朗読会に通い、追っかけをしている作家さんです。
日本純文学の最高峰、古井由吉さん、御年74歳。
1970年ごろに書かれた、「雪の下の蟹」「子供たちの道」「男たちの円居」を収
録しています。
雪に閉じ込められる「雪の下の蟹」
孤児の姿が胸に痛い「子供たちの道」
山小屋の人間模様が生々しい「男たちの円居」
どこか冷めていて美しい文体は、じっくり読んでしまいます。
ご本人の知的なお人柄と、口調を思い出すようなあとがきも、興味深いです。
デジタルなイメージの電子書籍で、こんなしっかりした小説を読めるのが、不思
議な感覚です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「男の性欲はしょうもないものだけれども、ある時期から衰えてきた。昔の流行歌で「男はみんなオオカミよ」というのがあったけれど、いまの女性は狼という感じは受けないでしょう。「草食系」とか呼ばれている男の子が増えているけれども、草食獣だって雄雌はあります。性の方は、肉食獣より激しいです。」(160-161頁)ここでの最後の一文に虚を突かれたのは私だけではないはず。少し吹き出しました。
いまや通念、あるいは常識と思い込まれているものが、実はほんの数十年のうちで大きく変貌していることを「普通に」語って聞かせる著者の恐ろしさ。裏の見開きにはパイプを片手に写る古井氏の静かな佇まい、その彼の口から性と生と -
Posted by ブクログ
今回の旅はこの小説とともにあった気がした。長距離列車で移動しながら、うつらうつらとなったりしながら読み進めていたのだけど、その感じがこの小説の感じと非常に合っていたと思う。この世とあの世。今と昔。夢とうつつ。あいつと自分。不思議な空気感が漂っていて、最初はそれが慣れないのだけど、徐々にそれが心地よくなってきて。堀江さんの「河岸忘日抄」と似た雰囲気があるけれど、それよりもこっちの方が数段上を行っている。。。たぶん今の現役の日本人の作家で最高峰はこの人だと思う。いや、わからないけど。何の理由もないけど直感的にそう感じた。こんな小説を、この域の小説を書ける人はこの人しかいないんじゃないだろうか。。。
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行きつ戻りつ。何度も、何度も繰り返し読み続けた。わからない、というわけでもなくて、その都度発見がある、というか。それに気づいて読み続けていたのだと思う。きっと僕は、この物語の文章そのものに魅了されていたのだ。不意に立ち上がってくる情景。すると一気に物語のディテールが際立つ。没入するという感じではなくて、より客観的に見渡す風景、とくに“辻”の。現れるのは、いつも同じ“辻”の風景だった。たしかに、僕はその場で立ち止まる。四方を見まわすものの、視線そのものは何処へ向かうともなく、見当も立たない。導きを物語の文章に見出して、僕は従うだけだった。
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脚本家いながききよたか氏の話から興味を持って読みました。
『杳子』は芥川賞受賞作品
彼女の庇護者のようなつもりの彼氏の一字一句が、彼女を妖しく表しているようで、そこに愛を感じました。
杳子は精神的に不安定な人物ですが、賢い人です。とても魅力溢れるご婦人で、幸せになってほしいと願いたくなります。
映像化したら面白いだろうなと思いました。
『妻隠』は夫婦の話。
この作品は特に〝夕方の風景〟が妙にリアルで懐かしさが感じられます。
主人公寿夫は発熱で会社を休んで一週間。日常でありながら非日常を経験しているようです。妻の礼子の日頃見られない姿を見て色々と思うところが出てきて、なにかと面白いです。少 -
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後藤明生。今だと完全にクズ扱いされる男性像だけど、この当時はまるで問題視されない「モテ自慢」の域だったのかと驚愕。そんなに昔ではないのに。
黒井千次。多人数視点の現代的な構成だが、いかにも小説的な登場人物の行動の突飛さにやや違和感を覚えるのはやはり時間の為せる技か。
阿部昭。私小説風だけど障害者の兄弟など現代にも通じるテーマを扱っていて、本書の中では一番印象的。
坂上弘。阿部昭にも通じる家族の葛藤を扱うが、近親相姦的な描写が生理的に無理。
古井由吉。現代的な視点でみると一番の問題作ではないか?男性作家による「女性」という主題の扱いがとにかく難しくなったと痛感する。