感情タグBEST3
Posted by ブクログ 2022年05月07日
「われもまた天に」(古井由吉)を読んだ。
矯めつ眇めつするほどの人生など生きてこなかった私ではあるけれど、還暦を過ぎてから殊更に古井由吉の文章が沁みてくる。
『ほんとうのことは、それ自体埒もない言葉の、取りとめもないつぶやき返しによってしか、表わせないものなのか。』(本文より)
Posted by ブクログ 2022年01月03日
古井由吉の遺作を含む四篇を収めた単行本。
収録作はいずれも一見すると身辺雑記のようで、テンポの良い文体もあいまって、すいすい読めてしまうのだが、気が付くと語り手の想念の迷宮に入り込んでいて、読み進むほどに、ちょうど真っ直ぐに進んでいたはずなのに迷子になってしまったような不安を覚えさせられた。
「...続きを読むその晦渋な意味がようやく読み取れそうで、こんなに端的なことだったのか、と安堵の息を吐くと、束ねたつもりの意味がばらばらに散ってしまい、そんなことを幾度かくりかえした末に、眼も頭も疲れはてて目を覚ます。」(「遺稿」より)
「読み取るように誘いながら、もうひと掴みのところで散乱する」(同上)
これらのフレーズは、そのまま古井由吉の文章を表したもののように読めた。
夢幻的といえば良いのだろうか。
現実のこととも思えず、さりとて夢と割り切るには明晰な、奇しい世界。
それをこんな風に描き出せる作家はそうそういないと思う。
古井由吉の本を日本語で読めることのいかに恵まれていることか、そんなことを思わされる一冊だった。
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最後に菊地信義の装丁の素晴らしさについても。
本体は薄いグレーとクリーム色のツートンカラー。そこに梗概が印字されたビニールカバーがかけられている。
このビニールカバー、少し手擦れるとカバーに印字された文字が本体に影を作り、ちょうど水面にゆらゆら揺れる葉陰のように見えるようにできている。
夢と現のあわいを漂うような作品と絶妙にマッチした秀逸な装丁で、何度眺めても飽きることがない。
絶対に単行本で持つべき一冊。
Posted by ブクログ 2021年04月17日
肉体的に衰弱していく自分自身の姿を、巧みな表現力で書き表したユニークに著作だ.頭は活発に活動しているなかで、身体の動きは儘にならないもどかしさがよく分かる.小生より10歳上だが、語彙が豊富で流石に一流作家だと感じた.表題作で地下鉄を降りて方角を間違える場面は、自分がコントロールできない歯がゆさがよく...続きを読む描写されていると感じた.