40代に入ってからすべてを捨てて絵を書き始め、後に伝説となった画家の生き様を若き作家を語り手として描く。
天才と狂気を感じるストリックランドの絵描きとしての人生、傍若無人な彼が関わる3人の女性との関係、パリとタヒチという文化と自然の対比など、重層的な構造をもつ小説。単純に、若い作家視点で語られるス
...続きを読むトリックランドのエピソードは、ミステリアスで引き込まれるし、恋愛小説としても読みごたえがある。しかし人生について、どの世代の人にとっても非常に考えさせられる要素が散りばめられており、何度も読み返す価値のある味わい深い作品でもある。本当に幸せな人生とは……人生に何を見い出すか……。ストリックランドだけでなく、その周辺にいる人々の様々なエピソードからも人生の意味を問いかけてくる。
傲慢で変人にしか見えなかったストリックランドの印象も、終盤では違った見え方もしてくる。そして彼が走り抜けた後半生に思いを馳せつつ、読者は自らの人生について考え込まざるをえなくなるのだ。読後すぐに他訳でも読んでみたいと思わせてくれた傑作。