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私は川上のどことも知れぬところで誰とも知れぬ親に産んでもらった――けれども人間はいずれ生れて川に流されるものではないのか。どんな人でも多かれ少なかれ水に流されながら生きて行くのではないのか――。有田川の氾濫のたびに出自を失いながら、流れ着いた先で新たな生を掴み取る紀州女、千代の数奇な生涯。『紀ノ川』『日高川』に並ぶ、有吉文学における紀州三部作。
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Posted by ブクログ
ようやく紀州川三部作の二つ目を手に取りました。 物語に抑制が効いていて、それでいていかにも大衆小説というか大河物語。結末の爽やかさ然り、今の小説家には見られない得も言われぬ品の良さ、しかもさくさくと読める。 川シリーズと言いながら、本作は蜜柑が影の主役かと。それに絡めた時代と土地の説明がさらりと行わ...続きを読むれていて、史実勉強にもなります。 一言で言えば良い小説です。
有田の正月は顔が黄色い 星月夜に川あかりの中歩く 舌の賢い京都、見てくれ大事の東京市場 ストーリーの面白さに加えて、方言が心地よかったし、ちょっとした表現に心をつかまれた。
紀ノ川が大好きだったので期待して読んだ。美しい紀州弁とそこで生きる様々な人々と生活の描写、さすが有吉佐和子。 二度も氾濫した川に流されその都度運命が変わった千代の一生。それでも彼女は自分で進むべき人生を切り開いて行った。好きなみかん作りに一生携わり、家庭も築き、劇的に変わる時代を生き抜く様は爽快。...続きを読む ただこれは完全に個人の好みの問題だが、今回の主人公は少したくまし過ぎたかな。残すは日高川・・また違ったタイプの女性が主人公なのだろうか。
紀伊半島の南西を走り、和歌山湾(淡路島の南島)に流れ込む有田川。その両岸には今もところどころでみかん畑が山肌を埋めている。 時は明治の初め、有田川の上流からタンスの引き出しに乗せられ流れてきた女の子が御霊(ごりょう)の山持ちの家に拾われ大切に育てられた。が、自分が拾われた子だと知り、有田川の氾濫で...続きを読む川に流されたことをきっかけに家を離れ滝川原の蜜柑農家で面倒見てもらうことになった。それが千代10歳のこと。そこからは蜜柑一筋の人生を辿るが、赤ん坊だった妹の悠紀のことだけは忘れない。愛しい、会いたい、思いを募らせているうちにひょんなことから御霊の家で生存を知られ、父母が会いにきた。そこからまた交流が始まるが、結婚も決まっていたので御霊には戻らず、さらに下流の箕島へ嫁いで行った。 嫁いでからも波瀾万丈。とにかくこの時代自体が波瀾万丈な世の中だったのだ。二人の息子を育て、育ったかと思ったら次男と妹の悠紀が男女の関係かと疑いを持ち、悠紀と断絶。あれほど愛しいと憧れていた妹が世にも穢らわしい存在になってしまう。そんな息子も兵隊に取られ、次男は戦死。守るべき存在がいなくなってしまうと妹との仲も元に戻る。 蜜柑職人としての紆余曲折も描かれている。「蜜柑のおばん」と呼ばれ一目置かれていたのに、年老いてくると頑固になり、人のいう意見を聞かなくる。自分は新しいことから乗り遅れていると気づかず、気づいた時には自分の畑だけ虫にやられていたという現実。これって世の老人たちには耳痛い話ですよね。 物語の終盤には、有田川がまた大きく氾濫し、1000人以上の死者を出す。昭和28年、実際に起こった災害だ。今のように自治体や政府が避難所や食糧を用意してくれない。大きな家は場所を提供し、食事も用意する。完全ボランティア。そんなことを今の金持ちはできるだろうか。 有田川の流れに身を任せ、自然に翻弄されて、それでもひたすら蜜柑を愛した女の一生でした。
主人公の千代が人懐っこい愛嬌のある面から、頑固で意地の悪い面まで、彼女の一代記を通して様々な面を見せてくれるのが面白かった。有田川の流れのように、穏やかに流れることもあれば、荒れ狂うこともある。人間の深みを見ることが出来た。
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