学術・語学 - 講談社学術文庫作品一覧

  • 大清帝国への道
    4.0
    従来、「異民族の征服王朝」もしくは「最後の中華王朝」とのみ捉えられてきた清は、満・漢・藩の「三つの貌」を持つ帝国だった。ヌルハチが統合した北方の一小国は、やがて長城を越えて北京に入城し、さらに中央アジアを制圧、康熙・雍正・乾隆という三帝のもとで最盛期を迎える。満洲語史料を読み解き、現代に続く多民族国家の形成過程を解明する。(講談社学術文庫)
  • 試験と競争の学校史
    4.0
    私たちの国の学校は、なぜこれほど過剰に「試験」にとらわれてきたのか。著者は、画一的な「試験の実施」こそが、近代の日本に「学校」を普及させる動因だったという。夜を徹して行われる進級試験、衆人環視・戦慄畏縮の口頭試問、時に三割を超えた落第の恐怖。国民皆学実現の裏で、今に至る教育論争にも長い影を落とす「淘汰と競争」の起源を探る。(講談社学術文庫)
  • トロイア戦争全史
    4.3
    トロイア戦争の全貌を伝える144話の物語。壮大なギリシャ神話の一大要素、トロイア戦争を主題とするギリシャ、ラテンの古典作品は数多い。しかし、いずれもが戦争の一部を記すのみで、その全容を語るものはない。本書は、これら古典群の記述をジグソーパズルを組み上げるように綴り合わせ、発端から終焉に至るまで、戦争の推移と折々のエピソードを網羅して、その全貌を描いた物語である。(講談社学術文庫)
  • ドイツ貴族の明治宮廷記
    3.0
    明治中期、宮中近代化のために招聘され、新宮殿での憲法発布式典を見届けて帰国したお雇い外国人、モールの日本滞在記。威厳ある若き天皇への謁見、知性と品位を備えた皇后への賞讃、「宮中衣裳問題」での伊藤博文との衝突など、欧化を急ぐ立憲国家成立期の宮廷社会を知る必読文献。さらに関西、箱根、日光、磐梯山への旅など、各地の風物も豊かに描く。(講談社学術文庫)
  • オイディプスの謎
    5.0
    ギリシァ悲劇の白眉『オイディプス王』と『コロノスのオイディプス』。作者ソポクレスは二つの物語で深遠な問いを立てる。人間の本性とは何か? 苛烈な運命の下で、人間はいかに生きるべきか? 前五世紀、栄華を誇ったアテネはその後大敗戦、疫病の猖獗を経験する。大国難の中にあっても、人間は高貴なる魂を保持せねばならぬと訴えたのである。(講談社学術文庫)
  • 骨から見た日本人 古病理学が語る歴史
    4.0
    骨は情報の宝庫である。古病理学は古人骨を研究対象とし、現代の医学で診断し、その個体の病気の経過と症状を明らかにする。骨にあらわれたヒト化の道のり、縄文人の戦闘傷痕と障害者介護、弥生時代以降の結核流行、江戸時代に猖獗をきわめた梅毒と殿様のガン……。発掘された人骨を丹念に調べあげ、過去の社会構造と各時代の与件とを明らかにする。(講談社学術文庫)
  • 本居宣長「うひ山ぶみ」
    4.3
    師と仰ぐ賀茂真淵との生涯一度きりの対面=「松坂の夜」以来、刻苦勉励を重ねること35年。寛政10年(1798)、畢生の大作『古事記伝』を仕上げた宣長は、古学の入門書『うひ山ぶみ』を一気に書き上げた。古学の扱う範囲、学ぶ者の心構え、学問のあるべき姿、契沖に始まる近世古学の歴史的意味、古学の目的とその研究方法など、国学の大人(うし)が初学者に授けた学びの要諦とは?(講談社学術文庫)
  • 西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇
    5.0
    西洋史の泰斗ジャック・ルゴフが「先駆的民俗学者」と呼んだティルベリのゲルウァシウスによる奇譚集。南フランス、イタリアを中心にイングランドやアラゴンなどの不思議話を129篇収録。幽霊、狼男、人魚、煉獄、妖精、魔術師……。奇蹟と魔術の間に立つ《驚異》は「人間と世界の在り方の反省へと、謙虚に誘う」神聖な現象だった。中世人の精神を知るために必読の第1級史料。(講談社学術文庫)
  • ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて
    4.0
    エブロ河を越えアルプスを越え、南イタリアの地カンナエでローマ軍団を打ち砕いたハンニバル。戦いに勝ちながら、最終的にローマという果実を刈り取らなかったのは何故なのか――。地中海世界の覇権をかけて大国ローマを屈服寸前まで追いつめたカルタゴの勇将、アレクサンドロス・カエサル・ナポレオンに比肩する天才の戦略と悲劇的な生涯を描く。(講談社学術文庫)
  • 関東軍 在満陸軍の独走
    3.3
    日露戦争直後から太平洋戦争終結までの40年間、満州に駐屯し、日本の対中国政策の尖兵的役割を演じた関東軍。陸軍中央の統制に背いて独走し、軍事的衝突を策した彼らの行動は、日本の運命に重大な影響を及ぼした。張作霖爆殺事件や満州事変、ノモンハン事件等の歴史的大事件を中心に、膨大な史料に基づいて、関東軍の歴史と独走の実態を描き出す。(講談社学術文庫)
  • 坂本龍馬
    3.0
    倒幕、大政奉還、新体制というシナリオまで描出しながら、歴史的転換点に立ち会うことなく、わずか33歳で刺客の手に倒れた坂本龍馬。その像はさまざまに伝えられる。民権派やデモクラシーの象徴として、海軍の先駆者として……。しかしはたしてそれらは実像であろうか。御国と皇国、徳川家と天朝など、新旧の価値が交錯する時代の精神を丹念に読み解き、龍馬像の真実に迫る。(講談社学術文庫)
  • 荘子の哲学
    4.0
    千葉雅也氏推薦! 「中島先生の荘子がなければ、僕の哲学も文学もなかった。ここからすべてが始まったのです。衝撃的なこの「変化の哲学」を、皆さんにもぜひお読みいただきたい。」 中国・日本はもちろん、これまであまり言及されてこなかった欧米圏での研究をも渉猟。「無為自然」や「万物斉同」といった概念に替え、自己および世界の変容を説く「物化」思想をその核心として取り出し、ドゥルーズら現代の西洋哲学と突き合わせることで、言語、道、他者、自由にかかわる荘子の思索を新たな相貌のもとに甦らせる。世界の哲学に通暁する著者がダイナミックに描く、新時代の標準たる驚くべき読解の書! [本書の内容] プロローグ ■第1部 書物の旅路 『荘子』古今東西 第一章 『荘子』の系譜学 第二章 中国思想史における『荘子』読解――近代以前 第三章 近代中国哲学と『荘子』――胡適と馮友蘭 第四章 欧米における『荘子』読解 ■第2部 作品世界を読む 物化の核心をめぐって 第一章 『荘子』の言語思想――共鳴するオラリテ 第二章 道の聞き方――道は屎尿にあり 第三章 物化と斉同――世界そのものの変容 第四章 『荘子』と他者論――魚の楽しみの構造 第五章 鶏となって時を告げよ――束縛からの解放 エピローグ 参考文献ガイド 『荘子』篇名一覧 学術文庫版へのあとがき
  • 幕末の天皇・明治の天皇
    -
    公卿的天皇から軍服姿の天皇へ 近代天皇像の形成過程を追う 幕末から明治へ、時代は激しく動き世の中は一変する。その中で、俄にクローズ・アップされる天皇の存在。天皇は、維新後、夥(おびただ)しい回数の行幸と巡幸を繰り広げた。雲の上の見えない存在から見える天皇・見せる天皇へ。薄化粧をした女性的天皇からヒゲを蓄えた軍服姿の天皇へ。維新の前と後の全く対照的な天皇像を通して、明治とはどのような時代であったかを解明する。 孝明天皇は、攘夷の成功を祈願するために賀茂社と石清水八幡宮に行幸した以外は、御所の外に出たことのない、一般の人びとの前には、姿をあらわしたことのない<見えない>天皇だった。いっぽう明治天皇は、巡幸や行幸などで、積極的に民衆と接したように<見える>天皇だった。父と子で、なぜこれほどまでに違ったのか。それは幕末と明治とでは、求められる天皇像が、大きく異なったからである。――<本書「はじめに」より>
  • 現代倫理学入門
    4.1
    私はこの本で、現代の倫理学で議論される原理的な問題と応用倫理学で取り扱われる内容を、明確に描き出したい。それには日常生活で出会う倫理問題を考えることが、現代倫理学の中心問題を理解する早道だと思う。難しい術語や学説の違いを知るより、現代の倫理学者達の議論の中身に入ってもらいたいという気持ちで書いた。何よりもまず、読み物として面白く通読できるよう心がけた。(「あとがき」より)
  • 世界の神話入門
    3.3
    いつの時代も私たちを惹きつけてやまない神話。 文学や絵画はもちろんのこと、現代でもアニメやゲームのキャラクターとして神話のモチーフは取り入れられています。神話の知識がなければ興味は半減してしまうでしょう。 神話が人を楽しませ、ときには人を感動させるのは人間世界の真実の断面を私たちの目の前に投げ出して見せてくれるからです。神話は人間そのもののあり方、本質に迫ろうとします。そして倫理や法などの根本理念を考えさせます。 西洋古典学の第一人者が世界の神話の成り立ちや共通点を、ギリシア神話を中心にやさしく紹介する、神話を味わうために最適の一冊。(原本:『入門・世界の神話』講談社、1965年) 目 次 はじめに 第1章 神話のさまざま 1 大蛇退治――アポロンと素戔嗚尊 2 花物語――ヒヤシンスとすいせん 3 星座――天に上ったくまの母子 4 七夕祭り 5 湖畔に立つポプラとかしの木 第2章 神話の成り立ち 1 裁く神から踊る神まで 2 『死と少女』 3 金色のひつじの皮衣 4 オデュッセウスと百合若 5 史謡の世界――トロイの木馬 第3章 世界の神話 1 永遠の生を求めて 2 ノアの大洪水 3 ピラミッドの秘密 4 美しく奥深い北欧の神話 5 さるのつくった岩橋 第4章 世界のはじめ――ギリシア神話(1) 1 世界のはじめ(天地開闢) 2 神々の誕生 3 人類のはじめ 4 黄金時代 第5章 オリュンポスの神々――ギリシア神話(2) 1 オリンピックの由来 2 銀の弓と竪琴との神――アポロン 3 処女神宮のいわれ――アテーナとポセイドン 4 海のあわから生まれた女神――アフロディテ(ヴィーナス) 5 酒と芝居の神――ディオニュソス 6 商人とどろぼうの親方――ヘルメス神 7 月の女神アルテミス 第6章 海と地下の神々 1 ほら貝ふきのトリトオン 2 六粒のざくろの実 第7章 英雄時代 1 ヘラクレスの一生 2 迷宮と牛人退治 3 スフィンクスのなぞ 4 白鳥の皇子 5 さかはぎの駒 第8章 日本の神話 1 よみがえり 2 日の御子 3 海幸彦と山幸彦 4 因幡の白うさぎ 5 金色の鵄 第9章 伝説と史実 1 トロイア遠征の伝説 2 帰還の物語 3 説話の世界 4 神話の永遠性 5 神話と現代 索引
  • 古典について
    3.5
    日本書紀の時代から、この国の基盤には大陸から摂取した文明の影響がありました。営々と築き上げられてきた日本の漢学文化は、中国古典の碩学、吉川幸次郎(1904-80年)の目にどのように映じていたのでしょうか。  ふとしたことで手にした本居宣長『うひの山ぶみ』によって、宣長の「信徒」となったと告白する著者は、江戸時代に日本の漢学の全盛を見ます。伊藤仁斎や荻生徂徠を生んだ元禄・享保期の儒学と、戴震や段玉裁、王念孫ら清朝の儒学に共通性を見出して、それを「近世の覚醒」と名付け、日本における覚醒が実は100年近くも大陸に先んじていたことを指摘します。  江戸時代に頂点を極めた漢学が、明治になって文化そのものが根本から変容していくことを万葉集の偏重に象徴的に見る第1部「古典について」、古代から江戸末期にいたる日本の漢学受容という類のない通史をコンパクトに描いた第2部「受容の歴史」、そして著者が愛してやまない儒者たちを素描した第3部「江戸の学者たち」。日本思想の基層をなす漢学という視座から、この国の学問的伝統を再発見する極上の教養書です! 【目次】 1 古典について 古典について――あるいは明治について 一 明治の記憶/二 明治への距離/三 明治の得失/四 万葉と古今/五 詩における理知/六 学術の文章/七 美と真の共存/八 注釈の学/九 辞典の学/一〇 日本書紀/一一 書紀学の変遷/一二 東洋史学/一三 太平 2 受容の歴史 受容の歴史――日本漢学小史 一 日本における外国文明の受容/二 そのインドその他との対比/三 文学および文学教育における受容/四 学問一般における受容/五 外国文明受容の心情/六 外国文明受容の歴史/七 受容の歴史のはじめ/八 空海その他/九 菅原道真/一〇 受容の中だるみ/一一 中国新文明の受容/一二 五山の禅僧/一三 江戸時代における受容の教育/一四 江戸時代における外国書の輸入と覆刻/一五 家康の政策/一六 藤原惺窩/一七 林羅山/一八 朱舜水その他/一九 伊藤仁斎 その一/二○ 伊藤仁斎 その二/二一 荻生徂徠 その一/二二 荻生徂徠 その二/二三 荻生徂徠 その三/二四 荻生徂徠その四/二五 江戸末期における受容/二六 むすびと希望 3 江戸の学者たち 仁斎と徂徠――論語古義と論語徴 伊藤仁斎 古義堂文庫 仁斎と小説 古義堂 二つの伊藤仁斎論――スパアとツアトロフスキ 伊藤東涯 安積澹泊 本居宣長――世界的日本人 一冊の本――本居宣長『うひ山ふみ』 学問のかたち 中京の二学者――河村秀根と岡田挺之と 息軒先生遺文続編の序 解 説(小島 毅)
  • 〈名奉行〉の力量 江戸世相史話
    -
    時代劇でおなじみの名奉行や悪代官の意外な実像から、驚くほど便利な江戸の暮らしまで、研究者ならではの視点で江戸の風もあざやかに切り取った短編集。 桜吹雪で知られる「遠山の金さん」の父は、とある試験を転機に異例の大出世を遂げた名官吏だった!?  「おれがわるかつた」、「ゆるせゆるせ」とざっくばらんに詫びる「暴れん坊将軍」吉宗の肉声に、文字通り女房を「借金のカタ」に差し出してしまった旗本、年利一二〇〇%の超高金利金融「烏金」利用者の実態に、宛名に記された「殿」と「様」の格付けをめぐるひと悶着……。 読めばもっと江戸が好きになる。第一人者の篋底から取り出された珠玉の掌編の数々! (原本:『大江戸世相夜話』中公新書、2003年) 【本書の内容】 はしがき   遠山金四郎の入墨 遠山金四郎の入墨/遠山金四郎父子/江戸の受験参考書/名奉行の「条件」/官職名の由来/銭形平次と目明/親の歳を間違える金四郎   お代官様――悪の代名詞 将軍吉宗の肉声/遊芸を許す田沼意次/お代官様――悪の代名詞/秘薬「熊胆」の値段/「謙譲の美徳」の裏側 二十二時間・二十三日間・三年間/白いカラスは吉兆か/殿と様はどちらが偉いか   大御所の犯罪 大御所の犯罪/無 尽/談合体質の根深さ/拾った金は誰のものか/象をめぐる暗闘/国民の生命の重み/女房を借金のカタに置いても   女髪結い繁盛記 便利すぎて困る/女髪結い繁盛記/江戸の贈答事情/江戸の高利貸し/証文の怖さ または、江戸の女性はしたたか/地獄の沙汰も金次第   放蕩息子の矯正 読み書き算盤/放蕩息子の矯正/「うろたえる」老人たち/天明七年のポスター/上流女性をどう呼ぶか 初出一覧 あとがき 学術文庫版あとがき
  • 中世ヨーロッパの社会観
    4.0
    人体に、建造物に、蜜蜂に、チェス盤に―― 隠喩で捉えられた社会像 中世ヨーロッパは教皇・皇帝という聖俗権力の下の階層秩序的な社会であった。人体諸器官に喩えれば君主は頭、元老院は心臓、胃と腸は財務官と代官、武装した手は戦士、足は農民と手工業者、そしてそれらは魂であるところの聖職者の支配に服する――ほかに建築・蜜蜂・チェスなどを隠喩として社会の構成と役割を説明する中世人の象徴的思考を分析。
  • 形を読む 生物の形態をめぐって
    4.0
    「この本では、生物の形態を、一般にヒトがどう考え、どう取り扱うかについて、私の考えを述べた。いままで、形態そのものを扱った本は多いが、こういう視点の本はないと思う。」 生物の形に含まれる「意味」とはなにか? 形を読むことは、人間の思考パターンを読むことである。解剖学、生理学、哲学から日常まで、古今の人間の知見を豊富に使って繰り広げられる、スリリングな形態学総論。ものの見方を変える一冊!
  • 漢方医学 「同病異治」の哲学
    4.7
    江戸時代に吉益東洞(一七〇二-一七七三)が礎をつくり、華岡青洲(一七六〇-一八三五)が西洋医学と融合させ、独自の進化を遂げた日本漢方医学。同じ病でも人次第で治療が変わる「同病異治」の哲学とは何か? 高齢化社会で多病を抱える患者への対応、200種を超える生薬を組み合わせ、がん治療の補助療法としての期待も高まる今、病との付き合い方を変える、東洋思想医学の可能性を考察する。漢方では関節リウマチであっても一人一人、また昨日と今日ではその性質が違うと考える。こうした極めて東洋的な考え方は、これからの医療を考える上で重要であろう。西洋の文化が直線的で四角定規であるのに対し東洋の文化は曲線であり、円である。わが国が担うべきは、単に薬という物質的なものだけでなく、文化的・精神的な考え方もひっくるめた、真の東西医学の融合ではないだろうか――「まえがき」より(本書は2013年、講談社選書メチエより『漢方医学』の題名で刊行されました。)
  • 純粋な自然の贈与
    3.8
    モースの贈与論、マルクスの剰余価値説、キルケゴールの愛の思想、レヴィ=ストロースの構造主義を超えて、価値増殖の本質を解き明かす未来の贈与価値論、ここにはじまる! 贈与は結びつけるエロスを、貨幣は分離するロゴスを持つ。すべての富は、物質性をもたない「無」の領域から「有」の世界に贈り物としてやってくる。古式捕鯨の深層構造を探る「すばらしい日本捕鯨」、モースの思想的可能性を再発見する「新贈与論序説」などを収録。贈与の原理を、経済や表現行為の土台に据え直し、近代の思考法と別の世界を切り開く。
  • ジャンヌ・ダルク 超異端の聖女
    5.0
    痛快で、やがて悲しい――。ジャンヌ・ダルクの生涯を一言であらわすならば、このようになるでしょうか。時は15世紀、英仏100年戦争の末期。フランスを二分する未曾有の国難のなか、パリを追われた失意の国王シャルル7世のもとに彗星のごとくあらわれたのが、ジャンヌ・ダルクです。甲冑を身にまとい馬上の人となった彼女は破竹の勢いで敵方を打ち破り、またたくまにシャルル7世をランスでの戴冠に導きます。しかし華々しい栄光もつかの間、ジャンヌはイギリス軍に引き渡され、異端者として生きたまま火あぶりにされてしまうのです。「声」に導かれるまま生まれ育った村を旅立ったのが16歳、火刑台に立たされたときには19歳でした。本書は、100年戦争の政治的背景から、中世におけるお告げや聖女の系譜など、彼女が生きた当時の世界を浮かび上がらせることで、ジャンヌ・ダルクの全体像をあざやかに、しかも親しみやすい筆致で描きだします。名もない羊飼いの娘だったジャンヌを突き動かした「声」、ついにはシャルル七世をも動かし、フランスを熱狂させたものとは、いったい何だったのでしょうか。カトリックの聖人は数多くいますが、異端者として火刑にまでなりながら、500年後に聖女として認定されたのは彼女だけです。「普通の女の子」が国を救い、国家意識を創ることを可能にしたヨーロッパ中世とは、そして彼女を「守護聖女」として今なお現役で生かしているフランス人の心性とはいったいどのようなものなのでしょうか。異端にして聖女、華やかで苛烈なジャンヌ・ダルクの世界に、あなたも飛び込んでみませんか?(原本:講談社現代新書、一九九七年)【本書の内容】プロローグ序 章 ジャンヌ・ダルクとはだれか第1章 ジャンヌ・ダルクの先駆者たち――カリスマと聖女第2章 神の「声」を聞いた少女第3章 中世の政治と宗教――少女戦士はいかにして誕生したか第4章 戦場の乙女第5章 ジャンヌの最期/エピローグ/あとがき/学術文庫版あとがき/おもな参考文献
  • 雨の科学
    -
    「雲から雨が降る」という、一見あたりまえの自然現象の仕組みと奥深さを探究した、気象学の入門書。 なぜ雨は、滝のようにつながって落ちてこないのか。雨粒はどんな形をしているのか。小雨の雨粒と、大粒の雨粒は、どのくらい大きさが違うのか。雲粒と雨粒の境目はどこにあるのか。なぜ、雨が降りやすい雲と、降りにくい雲があるのか。水蒸気が凝結するための「雲粒の種」とは。自己増殖し、自己組織化して雨を降らせる、生物のような積乱雲の生涯とは――。 傘とレインコートで日常的な雨対策をし、冬にも豪雪に見舞われる日本列島の降雨事情は、地球上でも特異なものだという。その地形的特質から、近年多発する集中豪雨のメカニズムとエルニーニョ現象、温暖化のカギを握る雲の種類、さらに、「人類の夢」である人工降雨や気象の人工調節の可能性まで、雲・雨・雪の研究に尽くした第一人者が、平易に解説する。北海道大学名誉教授・藤吉康志氏が巻末解説を執筆。〔原本:『雨の科学――雲をつかむ話』2005年5月、成山堂書店刊〕〈目次〉1 地球に降る雨のミクロな特徴第1章 雨粒の形と大きさ第2章 雨の強さと雨粒の大きさ分布第3章 雨が降る雲、降らない雲第4章 多くの雨は雪が融けたもの第5章 雨の降り方は人間活動によって変わる2 雲の組織化第6章 積乱雲の生涯第7章 生物のような積乱雲第8章 集中する豪雨第9章 人工衛星から観る雲の群第10章 地形の働きによる降雨の強化と集中3 雨の気候学第11章 気候域と雨量第12章 亜熱帯域の降雨第13章 雨のテレコネクション第14章 雨の経年変化第15章 水惑星の水問題解説 藤吉康志索引
  • トクヴィル 平等と不平等の理論家
    4.0
    ポピュリズム、ポストトゥルース、グローバリズムに直面する今こそ読む――"アメリカのデモクラシー"その根源への探究デモクラシーこそは歴史の未来である――誕生間もないアメリカ社会に トクヴィルが見いだしたものは何か。歴史的名著『アメリカのデモクラシー』では何が論じられたのか。「平等化」をキーワードにその思想の今日性を浮き彫りにする、鮮烈な思考。あらゆる権威が後退し混沌の縁に生きる私たちは、いまこそトクヴィルに出会い直さなければならない!いま日本の思想界をリードする著者が、第29回(2007年) サントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞し、現在に至る地位を築いた好著の文庫化。文庫化にあたり、現在の政治・思想状況をふまえた「補章」を増補。トクヴィルの「今日的意義」は増すばかりである。ある意味で、「トクヴィル的」とでも呼ぶべき状況がますます強まっている―(「補章」より)【本書の主な内容】第一章 青年トクヴィル、アメリカに旅立つ第二章 平等と不平等の理論第三章 トクヴィルの見たアメリカ第四章 「デモクラシー」の自己変革能結び トクヴィルの今日的意義補章 二十一世紀においてトクヴィルを読むために
  • 老子 全訳注
    4.0
    老荘思想の根本経典。『老子』のテクストに基づく「原文」を元に、最新の研究の成果を盛り込んだ「読み下し」「現代語訳」「解説」を付しました。『老子』には、「無為自然」「道」「徳」の根本思想、「小国寡民」「無為の治」の政治哲学、「不争」の倫理思想、養生思想など、古代中国の思想の根幹があります。『荘子』『呂氏春秋』『韓非子』『荀子』『淮南子』などに多大なる影響を与えた偉大なる書物です。
  • 仕事としての学問 仕事としての政治
    4.5
    「職業としての学問」、「職業としての政治」の邦題で読み継がれてきたマックス・ウェーバーの二つの講演が、いま読むにふさわしい日本語で甦る。ドイツ語の原語Berufには、生計を立てることとしての「職業」という意味だけでなく、神からの「召命」や「天職」という意味も含まれる。「学問」も「政治」も単なる「職業」ではない、とはどういうことか? 今ますます切実さを増す問いに答える新たなスタンダード!
  • アーネスト・サトウの明治日本山岳記
    3.5
    アーネスト・サトウの名は、幕末明治の日本に訪れたイギリスの外交官として知られている。しかしサトウが、日本の「近代登山の幕開け」に大きく寄与したことを知る人は案外少ない。本書は、サトウの登山家としての著作を抜粋・編集。富士山、日本アルプス、日光と尾瀬、吉野と熊野。描かれる明治の登山道は、現在はすでに廃れて使われなくなっていたり、逆に今もそのままの景色が読み取れるなど、興味をそそる。詳細な地図も掲載。
  • 法哲学入門
    3.8
    知の愛である哲学が非常識の世界に属するのに対し法学は常識の世界に属する。両者の出合うところ人間存在の根源的問題が立ち上がる。世界を支配する理性が社会において自然法として現れ、個人の内にも浸透し秩序を齎(もたら)すという順接的関係が疑われるところに生まれる諸問題。正義の根拠、人間性と社会秩序、法と実力など、法哲学の論点を易しく解説。
  • 日本人と地獄
    3.0
    古代インドに発祥する「地獄」は、この風土でどのような変容をとげたのか? 仏教典籍、『霊異記』、冥界めぐり譚、絵草紙、和歌・川柳や能・狂言などを広く渉猟して、地獄の構造とイメージを読み解く。また、火山・温泉や飢饉・災害など、現世にある地獄を史料に探る。天上の極楽浄土の対極には、地下の恐怖世界が広がっている。読む「地獄事典」です。
  • フロイトとユング
    3.8
    十九世紀末、フロイトによって確立された精神分析学。彼の高弟ユングは後に袂を分かち、一派をなす――。人間存在の深層を探究した彼らの存在は、今なお我々に多大な影響を与え続けている。彼らは何を追い求め、何を明らかにしたのか。二人の巨人の思想の全容と生涯を、それぞれの孫弟子にあたり日本を代表する第一人者が語りつくした記念碑的対談。
  • 西田幾多郎の生命哲学
    3.0
    純粋経験、自覚、場所、絶対無、行為的直観、絶対矛盾的自己同一……。一見、難解なことばにみずからの思索を託しながら、西田が終生追い求めたひとつの問題とは何だったのか。ほぼ同時代を生きたベルクソンとの交錯に着目し、ひいてはドゥルーズら現代思想につながる「生命の哲学」として西田哲学を再評価し、注目され続ける、俊秀の記念碑的力作。
  • お雇い外国人 明治日本の脇役たち
    4.0
    明治時代、日本の招きにより、近代化の指導者として大勢の欧米人が渡来した。その国籍は英、米、独、仏等にわたり、活躍の場も政治、法制、軍事、外交、経済、産業、教育、学術と多岐にわたった。日本での呼称そのままに、自らをYATOIと称する彼らが果たした役割はいかなるものであったか。日本繁栄の礎を築いた「お雇い外国人」の功績をさぐる。
  • 人間不平等起源論 付「戦争法原理」
    5.0
    体格、体力、手先の器用さなどの「自然」に基づく不平等ではなく、地位、身分の区別、貧富の差といった「人為」によって作り出された不平等は、人間を惨めで不幸にする。そんな不平等の起源と根拠を問い、不幸を回避するための道筋を示す。格差社会が深刻化している今、ますます重要性を帯びるルソーの主著を、原文を感じさせる日本語で新訳! 断片のみが残された作品『戦争法原理』の復元されたテクストを本邦初訳で併録した。
  • 般若心経
    -
    262字に秘められた不滅の真理、時を超えて読み継がれる直観と叡智の経典! "色即是空・空即是色"……。「般若心経」は、大乗仏教の基本経典「大般若経」600巻の精髄を300字に満たぬ字句の中に収めたものといわれる。本書は法隆寺本梵文と和訳、玄奘による漢訳を掲げ、その原意と内容、テキストの広範な紹介等、現代仏教学の成果をとり入れて校注した。「心経」のみならず広く仏教を知るための最上の書。
  • 史的唯幻論で読む世界史
    3.0
    古代ギリシア文明は黒人の文明であり、古代インド文明を築いたとされるアーリア人は存在しなかった――。ヨーロッパが語る白人中心主義の歴史観が彼らの誇りを支え、今なお世界を覆っている欺瞞と危うさを鮮やかに剔抉、その思想がいかにして成立・発展したかを大胆に描き出す。史的唯幻論が、白人によって作りあげられた「幻想の世界史」を鋭く告発する。
  • 仏教の来た道
    -
    インドから西域に伝わった仏教は、中国、朝鮮、日本へと東漸し、それぞれの地にしっかりと根をおろした。仏教伝播の道筋には、敦煌や雲岡の石窟をはじめ仏教文化の遺産が数多く見られる。また仏教伝播の立役者は、仏図澄(ぶっとちょう)、法顕(ほっけん)、玄奘三蔵ら布教・求法(ぐほう)に燃える僧たちであった。今なお残る史跡や文物、伝道僧の事績に光を当て、仏の来た道をたどり返す。
  • 反哲学史
    4.2
    ニーチェによって粗描され、ハイデガーによって継承された「反哲学」は、西洋2500年の文化形成を導いてきた「哲学」と呼ばれる知の様式を批判的に乗り越えようとする企てである。この新しい視角を得れば、哲学の歴史も自ずからこれまでとは違って見えてくる。古代ギリシアから19世紀末にいたる哲学の道筋をたどり直す「反哲学史」。講談社学術文庫『現代の哲学』の姉妹編。
  • ユダとは誰か 原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ
    4.0
    キリスト教世界で「裏切り者」「密告者」の汚名を一身に受けてきたユダ。イエスへの裏切りという「負の遺産」はどう読み解くべきなのか――。原始キリスト教におけるユダ像の変容を正典四福音書と『ユダの福音書』に追い、初期カトリシズムとの関係から正統的教会にとってのユダと「歴史のユダ」に迫る。イエスの十字架によっても救われない者とは誰か。
  • 酒池肉林 中国の贅沢三昧
    3.2
    中国の厖大な富が、大奢侈となって降りそそぐ。甍(いらか)を競う巨大建築、万余の船を浮かべる大運河。果てしない宴と後宮三千の美女、美食と奇食、大量殺人・麻薬の海。そして贅のフロンティアを心に求めた精神の蕩尽まで。紂王(ちゅうおう)・始皇帝・煬帝(ようだい)などの皇帝から貴族・大商人へと受け継がれ、四千年を華麗に彩った贅沢三昧のなかに、もうひとつの中国史を読む。(講談社学術文庫)
  • 西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン
    4.0
    悪魔と処女の子マーリンは、キリスト教の力で悪魔由来の邪悪さが消え、不思議な予言力を持つ。サクソン人の襲撃を受けるブリテンを守る王族三代コンスタン→ユテル→アーサーを導き、最終的にアーサー王の戴冠を成功させる。本書の物語の特徴は、なんといっても聖杯伝説とアーサー王伝説のマリアージュです。また本書では異なるふたつの結末が収録されています。本邦初訳の中世ロマンが読みやすい訳と解説付きで登場! (講談社学術文庫)
  • 日本神話の源流
    3.8
    太平洋の海洋文化圏、中国・朝鮮半島の遊牧・農耕文化圏、北方狩猟文化圏と接する日本列島。先史時代より、いくつもの波のように日本に到来した人々がいた。我々のルーツはどこなのか。日本神話は、東南アジア地域ばかりか、印欧語族の古神話と、同一の構造を備えていることも明らかになった。日本神話の起源・系統、その全体構造や宗教的意味を、比較神話学で徹底的に解読する。(講談社学術文庫)
  • 殿様と鼠小僧 松浦静山『甲子夜話』の世界
    -
    幕政での栄達という青雲の夢破れ、47歳で平戸藩主を隠退した松浦静山は、以後82歳で没するまで、学芸に親しみ、怪談奇談に耳をそばだて、隠居仲間やお抱え相撲取り・弓職人など多彩な人々との交流を楽しんだ。老いのため息を洩らしつつ、本所下屋敷での隠居暮らしを生き生きと綴った江戸後期屈指の随筆『甲子夜話』を中心に、「老侯の時代」を活写する一級の江戸社会史。(講談社学術文庫)
  • 西洋中世奇譚集成 妖精メリュジーヌ物語
    -
    ※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 15世紀、フランスのポワトゥー地方。領主の命で、書籍商クードレットは家門の歴史を物語る。伯父を殺したレイモンダンは、森で出会った絶世の美女メリュジーヌと結婚。開墾、城塞、街、武勲溢れる子供たち……。しかし幸福な繁栄は、破棄された約束から暗転する。地方貴族の数奇な運命を描く一大叙事詩。(講談社学術文庫)
  • 諸子百家
    3.0
    春秋・戦国の乱世に自らの理想を実現すべく諸国を巡った諸子百家。快楽至上主義の楊朱と兼愛の戦士・墨子の思想がなぜ天下を二分するほど支持されたのか。五徳終始説と大地理説で新王朝の出現を促進した鄒衍(すうえん)の雄大な構想、「白馬は馬に非ず」とした公孫龍(こうそんりゅう)の緻密な論理とは。新出土資料で判明した老子、孫子、孔子などの実像も、興味深く説き明かす。(講談社学術文庫)
  • 密教とマンダラ
    4.3
    「NHK市民大学」のテキストに加筆修正した、決定版入門書。真言宗・天台宗という日本の密教を、世界の仏教史中に位置づけ、歴史、教義の概略、大日如来をはじめとする数多くのほとけを体系的に紹介。諸経典をふまえて密教諸尊を視覚的に配置したマンダラについて、代表的な胎蔵マンダラと金剛界マンダラを中心に、種類、構造、思想、それぞれのほとけのマンダラにおける役割や、マンダラの多様な展開について、平易に解説する。(講談社学術文庫)
  • 江戸幕府崩壊 孝明天皇と「一会桑」
    4.4
    薩摩、長州を中心とする反幕府勢力が、武力で倒幕を果たしたという「常識」は本当か。第二次長州戦争は、なぜ幕府の敗北に終わったのか。王政復古というクーデタ方式が採られた理由とは。強烈な攘夷意思をもつ孝明天皇、京都の朝廷を支配した一橋慶喜、会津藩の松平容保、桑名藩の松平定敬。敗者の側から、江戸幕府体制がいかに、そしてなぜ崩壊したかを描き出す。(講談社学術文庫)
  • アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか
    3.9
    アフォーダンスとは環境が動物に提供するもの。身の周りに潜む「意味」であり行為の「資源」となるものである。地面は立つことをアフォードし、水は泳ぐことをアフォードする。世界に内属する人間は外界からどんな意味を探り出すのか。そして知性とは何なのか。20世紀後半に生態心理学者ギブソンが提唱し衝撃を与えた革命的理論を易しく紹介する。(講談社学術文庫)
  • 読む哲学事典
    -
    ◇◆◇「愛とは何か」を解るために、「暴力とは何か」を考える。◇◆◇ ◇◆◇さまざまな概念を対にして展開する、縦横無尽な思考の一大パノラマ!◇◆◇ 本質と時間/愛と暴力/ここと私/正義と詩人…… ある概念と別の概念を対にしてみると、思いもよらない連関が生まれ、ありふれた言葉から豊かな哲学の問題が立ち上がってくる! 現代哲学の重要論点のみならず、文学、芸術、宗教、科学、政治を自由闊達に横断。一人ですべての項目を書き切った事典にして、どこから読んでも愉しめる上質の哲学エッセイ。 【本書より】 哲学事典を引く人が、「存在」とか「記憶」とかの意味をまったく知らない、などということは考えにくい。求められているのは日常では一見自明な言葉に哲学者が見出す亀裂であり、それを通して見えてくる思いがけない意味連関ではなかろうか? 概念間の連関が重要なのだ。ゆえに、哲学事典は一貫した視点で、一人が全項目を書くべきなのだ。 これは、すべてを網羅するという事ではない。多くの知識を蓄える事が問題ではない。問題は、越境的な精神の自由を確保する事なのである。本書では、諸概念の連関を強調するため、事項を単独で説明するのではなく、一対の概念に対して説明をした。読者は、関連する事項説明をたどることによって、梁と梁が大きなドームをなすイスラム建築のように、あるいはたがいに連関して図形を構成する夜の星空のように広がる、概念の天蓋が見渡せよう。 【本書の内容】 愛と暴力 アキレスと亀 一者の実在性/真理と悲劇 イロニーとユーモア 運と偶然 可能性と反実在論 共同感覚と感覚質 言語と意味/ Sinn(意)とBedeutung(指示)/実在論と反実在論 検証主義とプラグマティズム ここと私/意識と想像的なもの/想像的な私と象徴的な私 自然とユートピア/美と判断力 自由と問題 正義と詩人 全体論と解釈/現象学と志向性/心的な用語(mental term)と命題的態度 疎外論と物象化論 存在と存在論/数と算術/性質と類似性/実体と普遍論争 知識と信念 超範疇と超越論的 美のイデアと芸術 文化相対主義と普遍的正義論 弁証法と(再)定義/観念論とヘーゲルの弁証法―意図と欲望 保守主義と左翼 法と革命 本質と時間/時間様相―過去現在未来/期待と希望 メタ言語と主体性 ヨブの苦しみと罪の名 歴史と伝統/ヘーゲルの歴史観/反時代的 索引 *本書の原本は、2006年に講談社現代新書より刊行されました。(増補あり)
  • 老子
    4.2
    『老子』は、『論語』とならぶ中国の代表的な古典である。その思想は、人間はその背後に広がる自然世界の万物のなかの一つであるという自然思想の立場をつらぬくことにある。したがって老子は、人間の知識と欲望が作りあげた文化や文明にたいして懐疑をいだき、鋭く批判する。無知無欲であれ、無為であれ、そして自然に帰って本来の自己を発見せよ、という。中国思想研究の第一人者が説く老子の精髄。
  • 中国の神話 神々の誕生
    -
    「子は怪力乱神を語らず」。孔子に代表される儒教の合理的精神のもと、早くに歴史の中に取り込まれ、断片的にしか伝わることがなかった中国神話。『山海経』や『楚辞』、甲骨資料などわずかに残された痕跡から、一つ目、一本足で猿面の山神を主人公に、古代中国史の泰斗が神話世界を大胆に復元する! 最古の地誌であり、儒学の厳しい検閲の網を逃れて現代にまで生き残った、さまざまな怪物が登場する『山海経』。そこには一本足で、声は雷のごとく、黄帝が生け捕りにして皮をはいで鼓をつくり、その骨をばちに打ち鳴らすと五百里四方にとどろいたという山の怪物が登場する。また別の個所では楽園の番人を殺して不死の木の実を盗んだ罪によって、足にかせをはめられ、両手と髪を縛ってある山の木に逆さ吊りにされた怪物も現れる。このいずれもが「き」という音で呼ばれる、本書の主人公である。 司馬遷が『史記』で歴史のはじめにおいた黄帝と、その強敵である蚩尤はともに風雨、とりわけ風を呪術的に自在に操る力を持っていた。風の神は同時にふいごを使う鍛冶神にも通じ、そして「き」もまた、鍛冶と深いかかわりがあったという。 多くは猿面で一つ目、一本足で表象されるこの山神を出発点に、柳田國男や折口信夫の民俗学的手法や日本神話、時にはバビロニアのマルドゥク伝説からもヒントを得ながら、古代のはるか遠い祖先神をめぐるひとつの物語として中国の神話を大胆に復元し、さらにその後、儒教化によって神話が歴史へ、呪術が宗教へと変容するまでを描く。神話世界を冒険するかのようなスリリングな魅力に満ちた一冊。 (原本:『中国の神話――神々の誕生』筑摩書房、1971年) 第一章 異形の神像 第二章 瞽師の伝承――中国の語部 第三章 風の神の発見 第四章 鍛冶師と山の神 第五章 文化的英雄の誕生――三皇五帝 第六章 神話の世界の消失 第七章 乱――エピローグ あとがき 解説 蜂屋邦夫
  • 漢詩の名句・名吟
    -
    漢詩は、平安時代から現代まで、多くの日本人の心をとらえてきた。その歴史・地理的な背景や、日本の漢詩受容を押さえて、丁寧に作品を読み解き、漢詩の豊かな抒情の世界に遊ぶ。奔放自在な「詩仙」李白、謹厳実直な「詩聖」杜甫、閑寂の自然詩人・王維など、珠玉の名作を読む醍醐味を味わいつつ、自由闊達に読むことをも可能にする最良の入門書。 [本書の内容] 序章 漢詩をどう読むか I 李白と酒 II 月の光 III 登楼・重陽 IV 杜甫の律詩 V 蘇州詩話 VI 閑寂・江南の春 VII 旅愁・シルクロード VIII 唐詩と日本人
  • 徳政令 中世の法と慣習
    4.5
    永仁の徳政令――日本史上、飛びぬけて有名なこの法の本質を「「もとへもどる」という現象」と喝破し、躍動する13世紀の社会を深く鮮やかに描き出した不朽の名著、待望の文庫化!  日本人は「所有すること」をどのように捉えていたのか。サブスクリプション制やフリマアプリの登場によって、所有の概念がかつてないほど揺らいでいる今こそ読みたい、中世人の法と慣習を解き明かす一冊。(原本:岩波新書、1983年)  「今国家の債務を消すために、その他一切の債権債務を破棄する、つまり天下一同の徳政を実行すれば、日本経済は収拾のつかない混乱におちいるかもしれないし、意外にも大したことなくすぎてしまうかもしれない。いずれにせよ、少なくとも現時点ではそれが「夢のような話」にすぎないことはいうまでもない。  だが、中世社会ではそれは夢ではなかった。永仁徳政令B‐3条のように、あるいは室町幕府の徳政令がもっぱらそれを主張していたように、債権債務破棄の徳政令を発布するという現実的な道があったからである」(第一〇章「新しい中世法の誕生」より)。  日本の歴史のなかでも、単行法としてずば抜けて有名な法「永仁の徳政令」。永仁五(1297)年に出されたこの法は、21世紀の日本のみならず、制定された13世紀当時から有名な法であった。現在からは想像もつかないが、法の実在さえ法廷でまじめに争われた時代にあって、ある法の存在を同時代の人々が短時日のうちに共有したということ自体が、極めて異例のことであった。実際に、永仁の徳政令の立法からわずか二週間後には、この法に基づいた訴訟が起こされて、土地が返却されている。その後も、この法に基づいて多くの土地が売り主のもとに戻ることになった。  新幹線もSNSもない時代に、なぜこのようなことが可能だったのか。そしてなぜ徳政令は、現在もなお異色の有名法であり続けているのか。そもそも幕府自身は当初そう言っていなかったにもかかわらず、この法はなぜ「徳政」と呼ばれたのか。  永仁の徳政令にまつわる数々の謎を解き明かし、売買や贈与から浮かび上がる所有に対する意識や、「天下の大法」と呼ばれる社会規範の存在、幻の政治改革「弘安徳政」、さらにその背後にある合理主義的な政治的思潮の登場に至るまで、この不思議な法を軸に中世社会の本質に迫る。著者のエッセンスがふんだんに盛り込まれた日本中世社会史の金字塔! 【主な内容】 一 無名の法、有名の法 二 徳政令の出現  三 なぜ徳政なのか  四 天下の大法 五 贈与と譲与 六 消された法令 七 前代未聞の御徳政 八 人の煩い、国の利 九 徳政の思想 一〇 新しい中世法の誕生 あとがき 解 説(小瀬玄士)
  • 戦国期の室町幕府
    4.0
    土一揆の勃発、足軽・町衆の台頭―― 戦乱の京都、民衆たちは歴史の表舞台に登場した 民衆が歴史の表舞台に登場し、日本文化の伝統が形成された戦国時代の京都。その実像とはどのようなものか。本書は山門と五山の争い、幕府財政、警察制度、徳政一揆等を素材に政治経済都市としての中世末期の京都を概観、応仁の乱後の自治都市成立までを精緻な論証に基づいて活写する。中世史研究に一石を投じ高い評価を得た幻の名著、待望の電子化。
  • 我と汝
    -
    「まことに、〈われ〉は、〈なんじ〉と出会うことによってはじめて、真の〈われ〉になるのである。わたしが〈われ〉となるにしたがって、わたしは相手を〈なんじ〉と呼びかけることができるようになるのである」。 「すべての真実なる生とは、まさに出会いである」。 オーストリア生まれのユダヤ人哲学者マルティン・ブーバー(1878-1965年)は、ウィーン大学で哲学や美術史を学んだのち、神秘主義的なユダヤ教の一派であるハシディズムに傾倒しつつ、ユダヤ人のパレスチナ復帰を目指すシオニズム運動に参加する。1916年にはドイツ語圏ユダヤ人の指導的機関誌となる『ユダヤ人』を創刊してその編集にあたり、またフランツ・ローゼンツヴァイク(1886-1929年)とともにヘブライ語聖書(旧約聖書)のドイツ語訳を行う。その後フランクフルト大学で教鞭をとるも、1938年にドイツを脱してイスラエルに移住。以後はヘブライ大学に勤め、エルサレムで人生を終えている。 第一次世界大戦に志願兵として参加し、塹壕のなかで着想を得て執筆されたローゼンツヴァイクの『救済の星』(1921年)の刊行後ほどなく、本書は敗戦の爪痕も未だ深いドイツで1923年に刊行された。 ブーバーの主著でもあるこの本は、「ひとは世界にたいして二つのことなった態度をとる。それにもとづいて世界は二つとなる」という一文で始まる。二つの世界のうち、一つは〈われ〉‐〈なんじ〉の世界であり、もう一つが〈われ〉‐〈それ〉の世界である。世界は、単に人間の経験の対象となるときには〈われ〉‐〈それ〉という根源語に属し、これに反して関係の世界は、もうひとつの根源語、〈われ〉‐〈なんじ〉によって作り出されるという。 「対話の思想家」と称されるブーバーは、さらに「はじめに関係あり」と語る。「私」ではなく「あなた」でもなく、〈われ〉と〈なんじ〉、そして〈われ〉と〈それ〉の出会いから始まる世界とは、どのようなものなのか。そしてそれは私たちの生に何をもたらし、どのように変えていくのか。ユダヤ思想のエッセンスに満ちた普遍的名著が、いま〈あなた〉に語りかける! (原本:『孤独と愛――我と汝の問題』創文社、一九五八年) 【目 次】 第一篇 根源語 第二篇 人間の世界 第三篇 永遠の〈なんじ〉 資料 あとがき〔一九六二年〕(佐藤貴史訳) 訳者解説 学術文庫版解説(佐藤貴史)
  • 大乗仏教の誕生 「さとり」と「廻向」
    4.5
    人びとを救いのない業報の束縛から解放する、恩寵と救済の宗教――大乗仏教は、どのような思想的変転の中から出現したのだろうか。「さとり」と「廻向(えこう)」という大乗仏教のキーワードを軸に、その独自の論理を解明していく。 「マーヤー夫人の処女懐胎」と「マリアの受胎告知」など、ブッダとイエスをめぐる説話に驚くべき類似がいくつも見られるのはなぜだろうか。本書はまず、仏教とユダヤ教、キリスト教など、西アジアの諸宗教の影響関係を聖典文献学から探る。なかでも、ペルシアに栄えたゾロアスター教がメシア信仰や阿弥陀仏信仰、さらに大乗仏教の成立に与えた影響に着目する。 また、自分の積んだ善業の結果を「さとり」という超世間的なものに転換したり、自己の功徳を他人に振り向けたりする「転換の思想」すなわち「廻向」は、「業も果も本質的には空(くう)である」という「空の思想」に支えられている、という。そして、この阿弥陀仏信仰と「空の思想」を両輪として、大乗仏教は育まれたのである。 原始仏教と他宗教を比較する広い視野から、難解な思想を平易に説き明かす。巻末解説を、チベット学の今枝由郎氏が執筆。 『「さとり」と「廻向」――大乗仏教の成立』(講談社現代新書1983年刊、人文書院1997年刊)を改題して文庫化。
  • 日本の地名 付・日本地名小辞典
    3.7
    地名には歴史的・文化的に貴重な価値が含まれています。日本の地名はバリエーションも多く、その起源についてもさまざまなものがあります。 地名の成り立ちや命名の仕方について研究する地名学は、柳田國男も取り組んでいた。もともとは地理学との関係が深いが、歴史学、民俗学、言語学などのアプローチが必要でもある。 いくつか具体的にみてみましょう。 大和語(ツル=水流=津留など)・アイヌ語(ホロ=大=美幌など)・朝鮮語(フル=火・村=布留など)・マライ語(アゴ=真珠の首飾り=英虞など)などを起源とするケース、もともとの地名が方言によって違っているケース(タロウ=太郎・田老=巨大または小平地など)、時代の流行によっているケース(開墾が盛んだった時代は、「田代」「新開」「新田」など)がなどです。 また、地名は発生した後に、その伝播のしかたにも特徴があります。もともとの地名が伝わっていくときに、扇状に伝わるということがあります(親不知付近では混在している「しとる」「してる」が、南では扇状にその範囲が広がる)。また、「空洞」と呼ばれる「地名のない部分」が発生したりします(たとえば中国・四国地方では、山の呼び名に「岳」を使用しないことが多い)。 地名を研究することで、隠された歴史の痕跡を読み取ることが可能なのです。 「文化化石」としての地名を研究する学問として、「地名学」を提唱した著者が、その集大成として刊行されたのが、本書です。 また、本書巻末には約1000項目の「日本地名小辞典」が付いております。 身近な地名の謎に迫るためにも好著ですし、歴史学・民俗学の補助としても役に立つ一冊です。 【原本】 『日本の地名 付・日本地名小辞典』(角川新書 1964年刊) 【目次】 はじめに 第一章 地名学とはどんな学問か 第二章 どうして研究したらよいか 第三章 むずしい地名の意味をどうして解くか     1 富士山のフジの意味     2 「名古屋」の意味     3 「船越」の意味 第四章 地名にはどんなタイプがあるか     1 語根型     2 民族型     3 時代型 第五章 地名はどんな形で分布するか     1 波紋形の分布     2 相似関係の分布     3 現状に境界線が集まる現象     4 「空洞」といわれる「地名のない部分」の現象     5 伝播する地名     6 双子地名 第六章 地名の発生年代は決められるか 第七章 地名の正しい書き方 第八章 郷土の地名の調べ方 第九章 地名研究の参考書 おわりに 付録 日本地名小辞典
  • スウェーデンボルグ 科学から神秘世界へ
    4.0
    18世紀のスウェーデンが生んだ稀代の科学者にして神秘思想家、エマヌエル・スウェーデンボルグ(1688-1772年)。この異才の存在こそが、カントに『視霊者の夢』(1766年)を書かせ、またバルザックをして『セラフィタ』(1834年)の執筆にむかわしめました。日本では、禅学の大家である鈴木大拙(1870-1966年)が紹介したことで知られています。 スウェーデンボルグは84年の生涯のうち、その半分を科学者として過ごします。11歳でウプサラ大学に入学したあと、イギリスやフランスに遊学して天文学や機械工学を学び、先駆的な航空機を含め多彩な発明品の設計図を残します。その後、スウェーデン国王カルル12世の知遇を得たことをきっかけに、王立鉱山局の監督官として59歳まで働くことになります。監督官として勤めるかたわら、地質学をはじめ数学、宇宙学、解剖学など多岐にわたる分野で精力的に執筆活動を続け、科学者として当時のヨーロッパに名を馳せますが、50代のときに大きな転機が訪れます。それが相次ぐ神秘体験でした。 スウェーデンボルグを科学者から神秘主義神学者へと変貌させた、神秘体験とは一体どのようなものだったのでしょうか。それはこの天才にとってどのような意味をもっていたのでしょうか。そして、彼が見た死後の世界とはどのようなものだったのでしょうか。科学から神秘世界へ、大きな飛躍があるように見え、ともすれば矛盾に満ちたものになりそうなその生涯は、実のところ極めて合理的な精神に貫かれていたのです。 2005年にユネスコの世界記憶遺産に認定された膨大な手稿も含め、スウェーデンボルグが遺した思考の軌跡を辿っていくと、そこにはこの思想家が持ち続けたたぐいまれな合理的思考の輝きと、ニュートンやカントをはじめとする当時の科学者や哲学者が、人間や魂、宇宙など世界の真理に迫るべく探求を重ねていた18世紀の時代精神が浮かび上がってきます。 日本ではいまだ知る人ぞ知る存在でありながら、ゲーテ、シェリング、ドストエフスキー、コナン・ドイル、エドガー・アラン・ポー、ボルヘスなど、綺羅星のごとき思想家や作家たちに影響を与え続けた巨人の生涯と思想の全貌を本書は活き活きと簡潔に描き出しています。ヨーロッパ思想の奥深さを知る、絶好の入門書です!
  • 心臓の動きと血液の流れ
    -
    血液循環説を確立 科学革命の先鞭をつけた名著 ラテン語からの新訳 私たちの体内の血液はどのように流れているのか。広汎な解剖学的探索と精密な実験によって、血液は血管の中を絶えず循環している事実を発見、今では自明とされる血液循環説が確立した。科学革命の先鞭をつけ、近代医学への道筋を開いたハーヴィの名著のラテン語からの画期的な新訳。著者略伝、心臓血管系理解への便覧、詳細な解説付き。
  • 物理学の原理と法則 科学の基礎から「自然の論理」へ
    3.0
    ■世界の真理は、単純明快! てこの原理からE=mc2、量子力学まで全部わかる!■ 中学校理科から量子力学まで物理学全体を見渡し、歴史のエピソードや文学作品を引きながら「基本の基本」をわかりやすく伝授。さらに、人間の思考は自然の論理をどこまで捉えられるのか、という根源的問いにまで誘う。宇宙物理学の先端で研究に取り組み、科学とは何かを深く問い続けてきた名手が放つ、画期的入門テキストにして深遠なメッセージ。 「文系のための物理学入門」の決定版! □単純、簡明、統一、原理主義□ 物理学者は、多様で複雑に見える自然だが、真理は意外に単純明快であり、論理を忠実にたどっていけば必ず真理に到達できると信じている。アインシュタインが述べたように、「神は老獪だが、意地悪ではない」のである。そのための自然を解剖していく手法は、本書に書いたような原理・法則・原則に則っている。どのような建築物もレンガ一つひとつの積み重ねから成り立っているように、壮大な物理学の成果も、最も基本的な原理の上に構築されているのである。―本書より (本書は2011年にPHPサイエンス・ワールド新書より刊行された『物理学の原理と法則』を大幅に改稿・加筆し文庫化したものです)
  • ジークフリート伝説
    4.2
    ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』は、多くの音楽ファンの心を烈しく揺さぶる一大傑作である。また『ニーベルンゲンの歌』は古代ゲルマンの英雄伝説を素に、13世紀初頭に成立した一大叙事詩である。両者に共通する「ニーベルング(ゲン)」は地下に住む妖精の名前である。そしてこの侏儒がとてつもない財宝を所有していた。この財宝をめぐってさまざまな闘争が繰り広げられ、壮大な物語へと発展していくのである。この物語の主人公ジークフリートのルーツはどこにあるのか。古代ゲルマンの「竜退治」「財宝獲得」の英雄伝説や北欧の伝承『歌謡エッダ』『サガ』などの系譜を辿り、また、主人公の人間像と楽劇の魅力を徹底的に読み解き、ドイツ文化の特質とその精神の核心に鋭く迫る。 〔文庫書き下ろし〕 第1章 ニーベルンゲン伝説の生成 第2章 北欧への伝承 第3章 ドイツ中世英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』 第4章 新しいタイプの伝承 第5章 ドイツ・ロマン派による伝承 第6章 19世紀における戯曲作品 第7章 ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』4部作 第8章 20世紀のジークフリート伝説 結び ジークフリート伝説の系譜
  • イスラームの「英雄」 サラディン――十字軍と戦った男
    4.3
    マムルーク朝のバイバルスとともに、イスラーム史上の英雄と称されるアイユーブ朝のサラディン。アラブと十字軍の50年以上にわたる覇権争いに終止符を打ち、十字軍から聖地エルサレムを奪回した「イスラーム世界の英雄」として知られる彼は、同時代のアラビア語史料や伝説に「アラブ騎士道の達人」「慈悲深い高潔な人物」と謳われ、ヨーロッパでも智者、果敢な騎士、寛大な性格の人物と評されました。アラブ側は異教徒と勇敢に戦った英雄として、ヨーロッパ側はアラブ騎士道の体現者として、サラディンを描きつづけています。そのような伝説に彩られた人物の実像とはどのようなものだったのでしょうか。本書は、サラディンが、どのような政治・経済・社会状況にあって、どのように考え、どのように行動したかを明らかにします。さらに、伝説と事実を峻別したうえで、架空の伝説も人々の願望の表れとしてとりあげ、「人間としてのサラディン像」をあざやかに描き出す、「英雄」の実像に迫った本格的伝記です。 〔原本/1996年、講談社選書メチエ〕 【本書の内容】 プロローグ――サラディンの生きた時代 第一章 修行時代  1 誕生  2 カリフ権力の衰退と十字軍の侵攻  3 少年サラディン  4 ヌール・アッディーンとの出会い  5 エジプト遠征 第二章 エジプトの若きスルタン  1 アイユーブ朝の創設  2 バイナル・カスラインの戦い  3 サラディンの補佐役たち  4 イエメン征服の謎  5 シリアへの進出  6 新体制の確立 第三章 カイロからエルサレムへ  1 エジプト経済の繁栄  2 聖戦(ジハード)へ向けて  3 エルサレム奪回  4 アッカーをめぐる攻防  5 サラディンの死 エピローグ――サラディン以後
  • 食はイスタンブルにあり 君府名物考
    3.3
    かつて500年に亘り、栄華を極めたオスマン帝国。 東洋と西洋、イスラムとキリスト教という文明と宗教の交差が生み出した 大首都・イスタンブルで、当時、人々はなにを食べ、どんな暮らしをしていたのか? 1500坪の台所で260余名のコックが、年に600万円予算で贅を尽くしたトプカプ宮殿の献立。 食事が足りないと鍋を投げて暴動を起こした、屈強たるイエニチェリ軍団の食い意地。 施しこそ敬虔な信仰の証、と貧者への給食すら豊かだったこの帝国を、 当時の料理書や、市場で売られた食材物価表までたどって、細やかに検証。 オスマン帝国の興亡を「食」で大胆に考察する。 目次 巻ノ一 古都は食をはぐくむ 巻ノ二 遊牧の遺産 巻ノ三 ケバブのみがトルコ料理にあらず 巻ノ四 イスタンブルの市場めぐり 巻ノ五 君府料理尽し 巻ノ六 貧者の給食 巻ノ七 トプカプ宮殿の台所 巻ノ八 スルタンの食卓 巻ノ九 祝祭の饗宴 巻ノ十 「土」風から「洋」風へ 学術文庫版あとがき  今でも、トルコ語で「大鍋を覆す」といえば反乱を起こすことを指すが、事態がそこまでいかなくとも、俸給支払いの日のスープをイェニチェリたちが飲むのを拒むとなれば、帝都の騒擾につながりかねず、下手をすれば当面の政権の担当者たる大宰相の首が文字通り飛んでしまう。トプカプ宮殿の中庭でのイェニチェリへのスープの振舞いは、(略)、一大国事でもあった――― 巻ノ八 スルタンの食卓より 本書の原本は、1995年、NTT出版より刊行されました。
  • イタリア・ルネサンス再考 花の都とアルベルティ
    -
    花の都フィレンツェの驚異的絶頂の世紀を描く 万能の文化人アルベルティとともに、ヨーロッパを照らした「人文主義」の光源を探る 輝かしき15世紀(クアトロ・チェント)。繁栄をきわめるメディチ家と有力家族たちが、パトロンとなって花開く芸術。贅美溢れるモノの帝国にして、聖なる雅都となったフィレンツェ。社交と祝祭、聖と俗、科学と魔術、中世と近代が渾然一体となった都市を動かしていた思想とコードとはなにか。ダ・ヴィンチをして劣等感に臍を噛ませた万能人アルベルティを通して描く新ルネサンス像。〈解説・山崎正和〉 聖ベルナルディーノの言葉「イタリアは世界でもっとも知性的な祖国、トスカーナはイタリアでもっとも知性的な地方、そしてフィレンツェはトスカーナのもっとも知性的な都市である」は、わたしの確信を代弁している。昨今では、フランスやドイツやイギリスのルネサンスを、イタリアとひとまとめにして連続的に論ずる流儀がはやりのようだけれど、あんな北方の、田舎臭い文化活動、青白く屈折した意識の覚醒を「ルネサンス」と呼んで、個人と家族と都市がスクラムを組んで絢爛たる文化を開花させたイタリアと一緒にしてほしくないものだ。――<「あとがき」より>
  • 日本の禍機
    4.3
    世界に孤立して国運を誤るなかれ──日露戦争後の祖国日本の動きを憂え、遠くアメリカからエール大学教授・朝河貫一が訴えかける。歴史学者としての明解な分析に立って、祖国への熱い思いが格調高く述べられ、読む者の心に迫る。彼の忠告も空しく、軍国主義への道をつき進んだ日本は、戦争、敗戦へと不幸な歴史を辿った。日米の迫間(はざま)で、日本への批判と進言を続けた朝河。彼の予見の確かさと祖国愛には、今もなお学ぶべきものが多い。 目次 ●前篇 日本に関する世情の変遷  日本に対する世評の変化  満州における日本に対する世の疑惑の由来  反動説──感情的反対者──利害的反対者  東洋における世界の要求  一八九九年以前  一八九九年以後  日露戦争以後 ●後篇 日本国運の危機 ・第1章 戦後の日本国民多数の態度に危険の分子あることを論ず   国権説は機に後れたり   国勢は劇変して国民の態度はこれに副わず   国民の危険なる態度、国運の危機 ・第2章 日本と米国との関係に危険の分子少なからざることを論ず   米国人の日本に関する感情の変遷   日本人の米国に関する思想の浅薄   日、清、米の重大なる関係   米国と新外交、清国の信頼   米国人民の東洋に関する輿論   米国為政者の東洋に関する思想 ローズヴェルト氏、タフト氏   結論 日本国民の愛国心
  • 武士の町 大坂
    5.0
    江戸時代の大坂と言えば「天下の台所」、つまりは町人の都というイメージが強いだろう。司馬遼太郎は、幕府直轄の武士はわずか二百人と述べている。しかし、江戸時代のはじめからおわりまで、一貫して大坂は「武士の町」だったのだ! 大坂に武士はほんとうは何人いたのか? 武士たちはどうやって大坂の生活を楽しんでいたのか? 大坂城はどんな構造だったのか? 奉行所では何が行われていたのか? 大塩平八郎はなぜ決起したのか? なぜ「大坂は町人の町」という言説が生まれたのか? 「武鑑」や、大坂町奉行所の絵図面、代官たちの日記、幕府にのこされた数々の文書など、数多くの史料を駆使して、大坂という町で、いかに武士が生き、歴史を動かしていたのかに光をあてる快心作。
  • 執権 北条氏と鎌倉幕府
    4.8
    北条氏はなぜ将軍にならなかったのか。なぜ鎌倉武士たちはあれほどに抗争を繰り返したのか。執権政治、得宗専制を成立せしめた論理と政治構造とは。承久の乱を制し、執権への権力集中を成し遂げた義時と、蒙古侵略による危機の中、得宗による独裁体制を築いた時宗。この二人を軸にして、これまでになく明快に鎌倉幕府の政治史を見通す画期的論考!【本書より】・鎌倉北条氏は、そもそもどのような家であったのか。・「得宗」とは、いったいどういう意味なのか。・これは事実自体がほとんど知られていないが、鎌倉将軍には実は四人目の源氏将軍が存在した。第七代将軍源惟康がその人である。鎌倉幕府が空前の強敵蒙古帝国と対峙したこの時期、なぜ鎌倉幕府は源氏の将軍を戴いていたのであろうか。―これらの問題を追究するためには、どのような方法が有効なのであろうか。まず、鎌倉幕府の通史や北条氏歴代の伝記を書くつもりはない。なぜならば、この本は北条氏という「一族の物語」ではなく、「一族の物語」の底を流れる「基調低音」を書くことが目的だと思うからである。表面的に幕府や北条氏の歴史をなぞっても、我々が求める答には辿り着けないはずである。そこで私は鎌倉北条氏歴代のなかからキー・マンとして二人の「執権」を選んだ。承久の乱で仲恭天皇を廃位し後鳥羽・土御門・順徳の三上皇を配流(流刑)した「究極の朝敵」、第二代執権北条義時と、蒙古帝国の侵略を撃退した「救国の英雄」第八代執権、北条時宗である。世間一般の評価に極端な隔りのあるこの高祖父(ひいひいおじいさん)と玄孫(ひいひいまご)の人生に注目することにより、答に迫りたいと考える。この試みが成功し、見事、解答に至れるかどうかは、わからない。「とりあえず付き合ってやるか?」と思った読者と共に旅に出るとしよう。【本書の内容】はじめに―素朴な疑問 第一章 北条氏という家 二章 江間小四郎義時の軌跡―伝説が意味するもの 第三章 相模太郎時宗の自画像―内戦が意味するもの 第四章 辺境の独裁者―四人目の源氏将軍が意味するもの 第五章 カリスマ去って後 おわりに―胎蔵せしもの
  • 本能寺の変
    4.3
    なぜ、明智光秀は、あのとき、織田信長を討ったのか――古来より数えきれぬほど繰り返し問われてきたこの問いに、本流の歴史学的思考が真っ向から取り組んだ画期的論考が、最新の研究を反映する大幅増補をくわえて文庫化。信長は何と戦い、何に負けたのか。この日本史上最大の政変の核心を衝く試みは、"戦国時代とは/室町幕府とは/日本の中世・近世とは/何か"という根本的な問いへと至る。本格的歴史学研究でありながら、歴史小説・大河ドラマファンも楽しめる、驚きと発見に満ちた知的挑戦!
  • 物理学と神
    4.3
    かつて神の存在証明を果たそうとした自然科学は、その発展とともに神の不在を導き出した……というのは、本当だろうか? 現代物理学の描く世界からは、宇宙に最初の一撃を与え、サイコロ遊びに興じる至高の存在はいまだ消え去っていないのではないか? 古代ギリシアから近代科学の黎明、そして量子力学まで、「神という難問」に対峙し翻弄される科学の歴史を、名手が軽妙かつ深く語り切る。唯一無二のサイエンス・ヒストリー!
  • 日本近代科学史
    -
    鉄砲伝来、江戸期の蘭学、洋学、明治期以降のダーウィニズム、太平洋戦争の軍事科学から高度成長期へーー。西欧科学を受け容れ、科学的思考を吸収しながら、日本人はいかに変わっていったのか? 科学史研究の第一人者、村上陽一郎の初の単著『日本近代科学の歩み』(三省堂選書 1968年刊を、改題、文庫化。
  • 日中戦争 前線と銃後
    5.0
    1930年代、社会システムの不調は盧溝橋事件発生へと至った。目的なきまま拡大する戦いの中、兵士たちは国家改造を期し、労働者や農民、女性は、自立と地位向上の可能性を戦争に見い出す。大政翼賛会の誕生はその帰結であった。前線の現実と苦悩、社会底辺の希望を、政治はいかにうけとめ、戦争が展開したか。統計資料から雑誌まで多彩な史料で当時日本の実像を浮かび上がらせ、日中戦争とは何だったのかを問う、著者渾身の一冊。(講談社撰書メチエ『日中戦争下の日本』改題)
  • 群衆心理
    3.9
    民主主義が進展し、「群衆」が歴史をうごかす時代となった19世紀末、フランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンは、心理学の視点に立って群衆の心理を解明しようと試みた。フランス革命やナポレオンの出現などの史実に基づいて「群衆心理」の特徴とその功罪を鋭く分析し、付和雷同など未熟な精神に伴う群集の非合理的な行動に警告を発した。今日の社会心理学の研究発展への道を開いた古典的名著である。
  • 石の宗教
    4.0
    日本人は古来、石には神霊が籠ると信じてきた。庶民は自然石を拝み、石を積み、あるいは素朴に造型して、独自の多様な石造宗教文化を育んだ。仏教以前の祈りの時代から連綿と受け継がれてきた先祖たちの等身大の飾らない信心の遺産。路傍の石が体現する宗教感情と信仰を解き明かし、埋もれていた庶民信仰の深い歴史を掘り起こす。
  • 時間の非実在性
    4.0
    マクタガートの「時間の非実在性」は、A系列(過去、現在、未来)・B系列(より前、より後)のふたつの概念を導入し、時間が実在しないことを証明した論文として名高い。これまで日本には全訳がなかったが、ついに、本書が本邦初訳となって登場した。本書は、それだけではない。訳者・永井均氏が、段落ごとに詳細な注解と論評を加えている。訳者独自の付論も掲載。全訳とともに、こちらも必読。まさに「時間の哲学」の決定版だ!
  • ユダヤ教の誕生――「一神教」成立の謎
    3.5
    放浪、奴隷、捕囚。民族的苦難の中で遊牧民の神は成長し、ついには全宇宙を創造・支配する唯一なる神ヤハウェに変貌する。なぜ彼らは「一神教」を成立させ、「律法の民」となったのか? キリスト教やイスラームを生み、歴史の果てにイスラエル国家をも造り上げた「奇跡の宗教」の軌跡を、『聖書』の精読を通して、神理解の変化に焦点を当てつつ探究する。
  • 地図から読む歴史
    4.1
    過去の景観の残片は、さまざまな形で地図に姿を留めている。地名や地形、道路、寺社などの位置関係と実地の検分から、そこに生きた人々の「地表経営」とその意図を解明する<歴史地理学>の楽しみ。聖武天皇の都・恭仁京の全貌、信長の城地選定基準、江戸建設と富士山の関係など、通常の歴史学ではアプローチできない日本史の側面に新たな光をあてる。
  • 中世の非人と遊女
    3.8
    非人や芸能民、商工民など多くの職能民が神人(じにん)、寄人(よりうど)等の称号を与えられ、天皇や神仏の直属民として特権を保証された中世。彼らの多くは関所料を免除されて遍歴し、生業を営んだ。各地を遊行し活動した遊女、白拍子の生命力あふれる実態も明らかにし、南北朝の動乱を境に非人や遊女がなぜ賤視されるに至ったかを解明する。網野史学「職人論」の代表作。
  • 「日本」 国号の由来と歴史
    4.0
    『古事記』のなかに「日本」はない。『日本書紀』には、ある。これはいったい、どういうことなのか? そもそも「日本」という言葉は、古代中国において、日の昇る木・扶桑のもとにある地をさした。中国の世界像のなかで生まれたのだ。それが、「倭国」を「日本国」と改めるというかたちで承認された。以来、近代日本に至るまでの国号の歴史をあとづける力作!
  • 天才数学者はこう解いた、こう生きた 方程式四千年の歴史
    3.0
    ピタゴラス、アナクサゴラス、ユークリッド、アルキメデス、アル=フワリズミ、タルターリャ、フェラーリ、カルダノ、ヴィエト、デカルト、ジラール、ハリオット、ウォリス、ニュートン、ラグランジュ、ガロア、アーベル……。小数、負の数、虚数、超越数……。方程式との格闘は、数のフロンティア拡大の歴史でもありました。方程式の視点から4000年の数学史を読み解く絶好の入門書です。
  • 再発見 日本の哲学 吉本隆明 詩人の叡智
    4.0
    吉本隆明の思想の本質とはなにか? 「共同幻想」「自己表出」などの独特の用語は何を意味するのか? 初期の詩「固有時との対話」にこそ、吉本思想の本質がすべて現れていると著者はいう。「固有時との対話」を詳細に読み解きつつ、初期から最晩年に至るまで、一貫して通底する吉本の思想の根幹を、あざやかに浮き彫りにする快著!
  • 再発見 日本の哲学 和辻哲郎 人格から間柄へ
    -
    近代日本の思想史を代表する哲学者の一人、和辻哲郎。彼が、構築しようとした「倫理学」とは、どのようなものだったのか。西田幾多郎やハイデッガーなど、同時代の哲学者とも干渉しあいながら、「人間=じんかん」を考察したその思想形成の現場に迫る。(講談社学術文庫)
  • 再発見 日本の哲学 大森荘蔵 哲学の見本
    -
    隣の部屋のテーブルは、誰も見ていなくてもあるだろうか。つまり、知覚されていなくても物はあるのだろうか。普通はあると考える。でも、本当にそう言えるだろうか。ここに、哲学の思考が生まれる。全身で自らの思索を刻んでいった稀有な哲学者、大森荘蔵の哲学を、筆者自身の思考も交叉させつつ、鮮やかに浮き彫りにした快著! (講談社学術文庫)
  • イスラーム的 世界化時代の中で
    -
    イスラームの基本的概念と、20世紀終盤の世界的な「イスラーム復興」の動きを社会人類学者が解説。急進的な「イスラーム主義」運動は、「近代欧米社会より遅れている」から発生した一部の特殊な勢力ではなく、1970年代以降に、近代化と近代教育を経験したムスリムによって担われてきた「イスラーム復興」の動きの中で生じてきたものだという。2000年に執筆され、その後のイスラームをめぐる動向を的確に予見した必読書。(講談社学術文庫)
  • 全国妖怪事典
    4.0
    日本人はなぜ、妖怪に惹かれるのか――。妖怪とは自然への畏怖や闇に抱く恐怖が表現された、日本人の心理や生活の記憶を留める民俗資料である。柳田國男以来の妖怪研究の伝統をふまえ、文献に現れた七百四十余の妖怪を都道府県別に整理・分類、種別や出現場所、特徴等を紹介した、本邦初の本格的妖怪事典。妖怪を愛するすべての人に贈る必携の一冊。
  • 仏典のことば さとりへの十二講
    -
    人はなぜ迷い、悩むのか。苦しみは自分の感覚器官が生み出す欲望に執着することで起こる。万物が流転する世間では、すべてが互いにつながりをもち、支え、対立し、そして助けあって存在している。そこに「私のもの」など何もない――。仏教の基本教理を表す12のことばを通して、無限の広がりを持つ釈尊の教えを平易に説く、現代人必読の仏教入門。(講談社学術文庫)
  • 宗教哲学入門
    4.0
    宗教とは何か。その役割はどこにあるのだろうか。人は生あるかぎり「苦」を背負って歩む。物質的豊かさにもかかわらず、「退屈」と「不安」に苛まれる。手応えのない「空虚」な生に悩む。この現代的「苦」からの救済の道を、キリスト教、仏教、イスラム教という三大宗教はどのように指し示すのか。「信なき時代」における宗教の存在意義と課題を問い直す。(講談社学術文庫)
  • 〈弱さ〉のちから ホスピタブルな光景
    4.0
    「そこに居てくれること」で救われるのは誰か? ケアにあたるひとが、ケアを必要としているひとに、逆にときにより深くケアされ返す反転が《ホスピタブルな光景》には起きている。看護、ダンスセラピー、グループホーム、小学校、ゲイバー――。斯界の第一人者が反転の意味を追い、ケアの現場に立つ13人へのフィールドワークをとおしてケア関係の本質に迫った、臨床哲学のこころみ。(講談社学術文庫)
  • 知の百家言
    4.5
    有史以来、フィロソフィー(知を愛すること)は人類とともにあった。先人たちの「知を愛する」営為の結晶である言葉を選び出し、その含蓄を引き出して、紹介する。<教養>としての哲学ではなく、激動の時代を生き抜くために、生きることに渇きを感じる強烈な好奇心に、思い考えること=生きることと直結するような「哲学」を提示する珠玉のエッセー集。(講談社学術文庫)
  • 大阪商人
    -
    密貿易を組織した毛剃九右衛門〔けづり八右衛門〕、独占的地位で巨利をあげた糸割符商人。江戸城出入りの特権商人尼崎屋は新田開発をし、寒天輸出を一手に担う。廻船により各地物産は、荷受問屋を通して、流通する。秘伝南蛮吹の精銅技術をもとに鉱山開発までした住友家。「天下の町人」となった呉服商。江戸の経済を牛耳っていた商都大阪の活況を描く。(講談社学術文庫)
  • 中世の音・近世の音 鐘の音の結ぶ世界
    5.0
    音に託された意味の変化から中近世の日本社会を読む。中世において誓いの場や裁判の場で撞かれていた神聖な鐘は、次第に日常的な音になり、危険や時刻を知らせる役割を果たすようになった。神の世界と人間をつなぐ音から、人間同士をつなぐ音へ。その変遷を、史料に加え民俗学の成果も多分に用いて考察する。記録には残りにくい当時の人びとの感性や感覚を追うことで、中近世の社会・文化を描き出す。(講談社学術文庫)
  • 狂気と王権
    3.0
    元女官長の不敬事件、虎ノ門事件、田中正造直訴事件、あるいは明治憲法制定史、昭和天皇「独白録」の弁明など、近代天皇制をめぐる事件に「精神鑑定のポリティクス」という補助線を引くと、いったい何が見えてくるか。「反・皇室分子=狂人」というレッテル貼り。そして、「狂気の捏造」が君主に向けられる恐れはなかったのか? 独自の視点で読み解くスリリングな近代日本史。(講談社学術文庫)
  • 古代エジプト 失われた世界の解読
    3.5
    ヒエログリフ(神聖文字)、スフィンクス、死者の書…。本書一冊で古代エジプトがわかる、概説書の決定版。どのような国土にどのような人々が、どのように暮らしていたのか。紀元前三〇〇〇年あたりからアレクサンドロス大王に征服されるまでの二七〇〇年余り、三十一王朝の歴史をひもとき、数少ない資料を丹念に解読し、その宗教、死生観、言語と文字、文化などを概観する。(講談社学術文庫)
  • 西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史
    3.5
    エッダ、サガに登場する粗野でたくましい死者のイメージは、中世後期の『黄金伝説』『奇跡をめぐる対話』では、生者に助けを求める哀れな姿となる。その背景には何があったのか? キリスト教と「贖罪規定書」そして告解の浸透……。「真実の告白が、権力による個人形成の核心となる」(M・フーコー)過程を探り、西欧的精神構造の根源を解き明かす。(講談社学術文庫)
  • 冒険商人シャルダン
    4.0
    多様な宗教と言語が行き交うペルシアで成功を収めた商人にして旅行記作家のジャン・シャルダンは、新教への迫害が続く息苦しい故郷・パリを捨ててロンドンに移住し、爵位を得た。しかし、彼の最大の悩みは、怠け者の長男の行く末だった――。時代に翻弄されつつ「一級史料」を書き残した市井の人物の生涯と、彼らが生きた17世紀の社会を活写する。(講談社学術文庫)
  • クビライの挑戦 モンゴルによる世界史の大転回
    4.0
    13世紀初頭に忽然と現れた遊牧国家モンゴルは、ユーラシアの東西をたちまち統合し、世界史に画期をもたらした。チンギス・カンの孫、クビライが構想した世界国家と経済のシステムとは。「元寇」や「タタルのくびき」など「野蛮な破壊者」というイメージを覆し、西欧中心・中華中心の歴史観を超える新たな世界史像を描く。サントリー学芸賞受賞作。(講談社学術文庫)
  • 最後のロシア皇帝ニコライ二世の日記
    3.0
    帝政ロシア最後の皇帝となったニコライ二世。その生涯は歴史の流れの大転換を一身に体現するものであった。訪日の際の大津事件、日露戦争、第一次世界大戦への突入、革命の進行に伴う退位と抑留等、歴史的事件の渦中で彼は何を見、どう動いたのか。処刑の直前まで書き続けられた日記から、日常の政務、革命への態度、人間関係、日本観などを読み解く。(講談社学術文庫)
  • 生命誌とは何か
    4.0
    ※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 私とはなにか、私たちはどこからきてどこへ行くのか――。この根源的な問いにたいし、分析と還元を旗印とする科学、とりわけ「生命科学」は、有効に答えてきただろうか。「生命誌」は、科学によって得られる知識を大切にしながら、生き物すべての歴史と関係を知り、生命の歴史物語を読み取る作業である。博物学や進化論、DNA、ゲノム、クローン技術など、人類の「生命への関心」を歴史的に整理し、科学を文化としてとらえる。(講談社学術文庫)
  • 新装版 日本風景論
    -
    ※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 明治の大ベストセラー。明治期の地理学者による、日本を地理学的に解説した初期の書籍であり、詩情豊かな文章でこの国の風土を讃えるものです。科学的・実証的な論述でありながら、日本文学の古典を豊富に引用し、明治画壇きっての名手である樋畑雪湖・海老名明四の挿画とあいまって、日本の自然の美しさを述べた古典的名著です。日本人の景観意識に重要な変革を与えた記念碑的作品です。(講談社学術文庫)
  • 〈玉砕〉の軍隊、〈生還〉の軍隊 日米兵士が見た太平洋戦争
    4.0
    「降伏は名誉」とする米兵と、捕虜となることを恥、自決を名誉と考える日本兵。「バンザイ突撃」は、「9時から5時まで戦う」米兵の目には自殺行為にしか映らなかった。究極の文化衝突の場、戦場で両軍兵士は何を目にし、互いの認識をどう変えたのか――。日米元兵士への緻密なインタビュー調査を通して、「兵士」の誕生から戦地における彼らの思想と行動までを比較文化的観点から探究。「戦闘の社会学」が解明する、戦場の真実。(講談社学術文庫)
  • 「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》
    3.9
    フランスのオノレ・ブランという技術者による「互換性部品」に始まる近代の標準革命。アメリカでその技術は、困難を乗り越え、「アメリカ式製造方式」として確立された。さらにテイラーによる作業の標準化は、アメリカを製造業大国にする。公的機関が標準を決めるデジューレから市場での占有によるデファクトの時代へ。「標準」をキーワードに、製造の現場のドラマと国家、企業、市場の関係、そして背後に潜む思想を探ります。(講談社学術文庫)
  • 近代日本思想の肖像
    3.0
    日本の近代史においては、文学者や文芸批評家が、思想の中心的な担い手となってきた。もちろん、広く影響力をもった哲学者もいるが、近代日本思想の影響力の中心につねに文学があったのは、なぜなのか。吉本隆明、柄谷行人、三島由紀夫、丸山眞男、埴谷雄高など、文学と哲学が交錯する地点でその思想の特質を再検証する、注目の社会学者の力作論考。

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