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非人や芸能民、商工民など多くの職能民が神人(じにん)、寄人(よりうど)等の称号を与えられ、天皇や神仏の直属民として特権を保証された中世。彼らの多くは関所料を免除されて遍歴し、生業を営んだ。各地を遊行し活動した遊女、白拍子の生命力あふれる実態も明らかにし、南北朝の動乱を境に非人や遊女がなぜ賤視されるに至ったかを解明する。網野史学「職人論」の代表作。
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Posted by ブクログ
網野善彦さんの本は面白くて好きだが、これはちょっと難しめだった。収められた論文はほとんど専門誌に投稿されたもので、つまり本職の歴史学研究者を対象としており、歴史上の用語はどんどん出てくるし、いちいちそれの解説なんて付いてない。 私はこれまで非人に関する本も、網野さんの本も、中世あたりに関する歴史の本...続きを読むも数冊読んできたので、かろうじてまあまあ理解できた。漢文は読めなかったけれど。もしそれらの本を読んでいなかったら、この書物にはお手上げだったかもしれない。 しかし内容はなかなか面白く、死体処理などを任され、年貢を免除されていた「非人」は中世(鎌倉時代)初期にはその「穢」が、穢を清める装置として機能し、世の「聖」にも結びついていたという。遊女も同様だ。 網野さんによると、非人や遊女が社会的蔑視の対象となり、どんどん迫害されていくのは南北朝の動乱期以降だという。そのへんの経緯については、この本ではあまり追求されていないが、古代型の「王権=聖なるもの」が失墜していく過程で「穢」も「聖」との連携を絶たれてしまったのだろう、と推測できる。 よく考えたら、源頼朝の幕府も奇妙なものではあるが、当時はまだ京都の王朝の聖性は守られていたようだし、南北朝時代を経て戦国時代へと推移するなかで、天皇の「王権」は喪われ、「聖」をわかちあう共同体としての日本社会は解体し、個人の能力、軍事的権勢の競争の中から時の支配者が生まれてくるという時代に至ったのではないだろうか。 国家における統合的なものとしての「聖」の消滅という、共同体社会にとっては重大きわまりないターニングポイントとして、南北朝を捉えるという考え方は、たいへん興味深い。
非人・遊女は中世前期において、天皇、神仏の直属民であった。また非人は、その職能が「穢」の清目という呪術的色彩を濃厚に持っていたため、供御人、犬神人、寄人とともに、いわば「聖別」された存在として畏れられてもいたのである。この畏れの意識は人々の差別の意識に容易に転化されることになる。中世後期、天皇・神...続きを読む仏の権威は著しく低下したため、同時に彼ら彼女らの職能民としての社会的地位も同時に低下することになったのである。こうした転換が文明の流れの中で大きく作用していったが、聖から賤へと転落しながらも文化形成の重要な一要素の役割を担ってきたのである。
ちょっと興味があったので、買って見ました。 当時の遊女というか、芸能関係者について、知りたいなと。
もとは、川端康成などの小説に出てくる社会からはみ出た女性たちの存在に興味をもち、こういった女性はどこから出てきたどうゆう身分の人たちなのか不思議に思ったのがきっかけ。だから本書を読むにあたって一番期待したのは非人ではなく遊女だったが、読み終わってみて、主題は非人、遊女はどちらかというとオマケだと気づ...続きを読むいた。 近現代で差別の対象となった/なっている人たちの根源をさぐろうとするのが狙いなのか何なのか、とにかく種々の被差別民が登場する。今の被差別民は古代、すくなくとも中世までは職能民であり、その身分は天皇大王によって保障されていた、つまり元は被差別民どころか神聖な身分ですらあったが、室町戦国を境に天皇の権威が失墜し、それに附従していた人たちも卑賤な存在に転落して、今に至る、というのが本書の主眼。 中世までは庶民だけでなく皇族の貴婦人も自由に各地を旅し、いまの倫理基準では乱交とみなされてしまうことも、当時はある程度認められていたらしい (但し、おそらくは未婚に限って)。遊女も元は天皇皇族のために特殊な職務を帯びた人たちであったのが、身分を失って、職能にたよって生きてゆくとなったとき、そこに男を慰める女性が生まれたらしい。 論題自体はおもしろいものの、文庫でありながら内容は専門書で、体裁としては論文集。一篇おわるごとに大量の文献が並ぶ。筆者が書くのも基本的には過去に提起されたみ方や推論に対する反論であって、過去にどういう議論があったのか知らないと辛いところも多々あるし、そもそもその時代の日本史を知らないとつらい。 そして筆者自身がいうように、元は方々で発表した文章を寄せ集めたもので、もう少し整理したいと思いつつも果たせず、発刊の期が熟したために半ば未完成なままになったのだとか。実際、同じことがなん度もでてきて、まとまりは確かにない。第二部は遊女が中心かと思ったら割と非人系の話が多くて、タイトルとあっていないなとしばしば感じる。 ----- p.152 ……非人や遊女・傀儡子は、たしかに公民、平民百姓を基盤とする「社会秩序」とは異質の存在ではあるが、決して社会秩序の全体から「忌避」されていたわけでも、国家全体の枠外に置かれていたわけでもない。……中世前期---少なくとも鎌倉期まで、遊女・傀儡子は決して賎視されていたわけではなく、むしろ天皇に直属する形で宮廷に出入りしていたのであり、非人もまたこの時期には聖なる存在として畏れられた一面が確実にあった……。それは基本的には天皇、神仏に直属する供御人、神人、寄人と同質の存在であった。……中世前期の「職人」身分は、このように……「聖」なるものに直属することによって、自らも平民とは異なる「聖」なる存在としてその職能---「藝能」を営んだ点に、その重要な特質があるといえよう。しかし南北朝の動乱を境に、天皇、神、仏の権威が低落し、権威の構造、そのあり方自体が大きく転換した結果、中世後期以降……、……実利の世界に転生することが難しく、「聖」なるものに依存する度合いの強かった人々が賎視の対象となっていく……。 女性については、江戸明治と女性が鳥籠に閉じ込められて自由などなかった、というのが一般論であるのに対し、実際の当時の女性たちはそんなことはなかった、といろいろ論証をあげながら語るが、紫式部や清少納言が、誰にでも顔をみせる女房という立場ほどみっともないものはないと語ったらしいように、実際、身分や立場などによっては本当にそうだったのだと思う。貴族が廃れて武家社会になってからは、武士の奥方がつまりはそれを引き継ぎ、いわゆる日本の奥ゆかしい女性像につながったのではないかと思う。 本書は総じて、なるほどと感心感嘆するところも多いものの、筆者の仮説であることが多く、しかも次から次に説明の対象が替わるので、一つ一つの主題が解決されぬまま次の主題に映る感じがして、正直悶々とする。 ----- p.232 「後藤紀彦……はまた、天皇、上皇、高位の貴族に寵愛されて、その子を生んだ数多くの遊女・白拍子がおり、鎌倉期はこうした女性を母にもつことは、官位の昇進になんら妨げになることはなく、遊女・傀儡はこうした実情を背景として、可也はやくから、前者は光孝天皇の……、後者は村上天皇の「姫君」を祖とするという伝承を伝えていた、という……事実に言及した。」 紫式部作とされる『源氏物語』の帝のモデルおよび紫式部が内裏で女房をしていたころの帝が村上天皇らしい。とゆうことは、紫式部のあの時代に舞妓、遊女が天皇の子を産んでいたのか。登場人物の中に一人くらいはそういう出自もいるんだろうか。承久の乱の直接的原因となった伊賀局は白拍子、つまり遊女だったらしい。
タイトルのごとく、網野本の中では非人扱いされる前の犬神人や遊女に少し考察がなされている ただ、他の著作とかなり被る部分は多く、散漫になったのは残念 なんとなく、中世の人々は自由闊達な人々であったという結論から最初にきて逆算してるように感じるのは邪推なのでしょうかね
私にとって目から鱗の書籍でした。 近年海外からの圧力もありジェンダーレス、多様性、男女差別等の議論が不可避のものとなっていますが 本書では、地道に地道に真摯に積み上げてきた研究者達の灯が霧を晴らすがごとく中世日本のの景色を浮かび上がらせてくれます。時折ルイス・フロイスのなんだこれは?!という叫びの...続きを読むような報告書も交えながら、世界的にも珍しい女性が広く識字する稀有な文化が社会変動によって変遷していく日本の姿を旅します。 特に心に残ったのは以下の部分 ーーー 未開の柔らかな特質を強く持つ社会が、それ自体の内発的な発展のなかで、畿内の政治権力を中心として、すでに高度の文明のなかで鍛え上げられてきた中国大陸の、家父長制に基づく硬質の律令制度を受容した点である。 ーーー この文は奈良時代の律令制度を指していますが、キリスト教伝来しかり、未文化なものが、後発の型を押し付けた途端にチカラを失っていく様を其処此処に見るにつけ、果たして元々あったものは劣っていたのか疑問に感じる事は少なくありません。 型なきやわらかきもの。しかし生命力を帯びたものを大切にしながら型と組み合わせる二輪駆動。そういう在り方を目指したい、と思うのです。
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中世の非人と遊女
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