哲学・宗教・心理 - 筑摩書房作品一覧

  • はじめてのギリシア神話
    4.4
    この世界はどんな風に作られ存立しているか。それを描いたギリシア神話自体は、どのように成立したのだろう。現代人も魅了するそのあらすじやキャラクターを紹介しながら成立の歴史的背景を探る、新しい時代のギリシア神話解説本登場!
  • はじめての哲学的思考
    4.3
    誰もが納得できるような考えに到達するための、力強いさまざまな思考法に満ちている哲学。その思考法のエッセンスを、初学者にも理解できるよう伝える。
  • 反〈絆〉論
    4.0
    東日本大震災後、絶対的価値となった〈絆〉という一文字。テレビは「優しさ」を声高に称揚するようになり、列島中がその大号令に流されて、権威を当然のものとして受け入れてしまったかに見える。だが、そこには暴力が潜んでいないだろうか。陰影のある、他の「繊細な精神」を圧殺する強制力がはたらいているのではないだろうか。哲学にしかできない領域から、〈絆〉からの自由、さらに〈絆〉への自由の、可能性を問いただす。
  • 反原発の思想史 ──冷戦からフクシマへ
    4.2
    日本の反原発運動は、毛沢東理論の「誤読」による近代科学批判が大きな転機となった。それが「1968年」を媒介にニューエイジ・サイエンスやエコロジーと結びつき、工作舎や「宝島文化」を背景にしたサブカルチャーの浸透によって次第に大衆的な基盤をもつようになったのである。複雑に交差する反核運動や「原子力の平和利用」などの論点から戦後の思想と運動を俯瞰し、「後退りしながら未来へ進む」道筋を考える。
  • 反戦と西洋美術
    4.0
    ロシアによるウクライナ侵攻を、報道やSNSで目の当たりにして、私たちはあらためて戦争とその表象の関係性という問題を突きつけられている。何が真実か、誰がどんな立場でどんな意図を持ち発信しているのか。勝者の側で描かれた「戦争画」の時代を経て、17世紀には現代の「反戦」意識に通じる美術の流れが登場する。その後急速に激甚化する戦争の時代を背景に醸成され、雄弁に、あるいは抑制気味にと、その倫理的・感性的・政治的な役割を巡り、揺れる「反戦」のイメージの変遷を捉えなおす。
  • ハンナ・アーレント ──屹立する思考の全貌
    3.6
    何ものにも依らないユニークな「手摺なき思考」が注目されたアーレント。本書は、全体主義が勃興して消えて行った激動の現代史を考察し続けた彼女の思索の最深部に迫る一書である。哲学、政治、思想という三つの補助線を駆使しながら主要な各作品を詳細に読みとき、時代を超えて屹立する思考の全貌を把握する。悪の問題、世界疎外、経験と思考、……人間の現実を徹底して追究した問題群を、いま改めて問いなおす。
  • ハーバート・スペンサー コレクション
    4.0
    19世紀、日本をはじめ世界中に圧倒的影響を及ぼしたスペンサーは、20世紀に入ると、社会的ダーウィニズムを唱えた弱肉強食の冷酷な思想家として激しい批判にさらされ、忘却された。しかし、そうした理解は正当だろうか? 否。自由の意味を根源から問うたその議論は、いまこそ再評価されるべきである。本書では、彼の思想の核心を伝える論考を精選して収録。そこからは国家の強制による福祉ではなく、個人の自発的な意志に基づく協力の原理を探究し、社会的弱者への慈悲を説いた姿が浮かび上がる。国家を無視する権利まで容認する、その徹底した自由の理論を詳らかにする。文庫オリジナル編訳。
  • バイアスとは何か
    4.2
    物事を現実とは異なるゆがんだかたちで認識してしまう現象、バイアス。それはなぜ起こるのか、どうすれば避けられるのか。本書では、現実の認知、他者や自己の認知など日常のさまざまな場面で生じるバイアスを取り上げ、その仕組みを解明していく。探求の先に見えてくるのは、バイアスは単なる認識エラーではなく、人間が世界を意味づけ理解しようとする際に必然的に生じる副産物だということだ。致命的な影響を回避しつつ、それとうまく付き合う方法を紹介する画期的入門書。
  • バタイユ入門
    3.7
    聖なるものへの覚醒とはなにか。エロチシズムとはなにか。熱き情念に突き動かされながら、人間の思考のあり方を問い、その限界の彼方を指し示した人、バタイユ。ヘーゲルを頂点とする西欧文明における理性の体系に対し、「非-知」「好運」を看板に掲げて果敢に戦いを挑みつづけた。現代のヨーロッパはいまだ彼が投げかけた問いの内にあり、そこにまたバタイユの思想を問う意味がある。「死とエロチシズム」の思想家の活動の全貌を新たな視点から明快に解き明かす入門書。
  • パリのマリア
    3.0
    何度もその前にマリアが出現し、埋葬後56年経てなお生前の姿を保っていたカトリーヌ・ラブレー。硬直した体を暗闇のベッドに横たえ眠らずに神の声を聞き、毎週金曜日にはその聖痕から血を流す。神父が運んでくる小さな聖体パンのみが食事という超常的な50年を送ったマルト・ロバン。第2次大戦中にパリの修道院でレジスタンスを支援しながら同時に戦場にある若い兵士を訪問したイヴォンヌ=エメ。たった100年ほど前に起きた奇跡の主人公たちを紹介し、その魅力を探る魂の書。
  • パワハラ上司を科学する
    4.4
    「パワハラとは何か? どうしたら防げるのか?」―― 実は、多くの人がわかっていない。著者は、パワハラ測定の尺度を開発し、誰が行為者になり、どのような性格特性の上司がパワハラしやすいかを10年以上にわたり研究。科学的データを基に、対策を実施してきた。「仲がよければいい」「関わらなければいい」など、多くの人がやってしまっている誤った対応を明らかにし、本当に防ぐにはどうすればいいのかに迫る。
  • 比較文明学の50人
    -
    古くから、日本の思想や宗教はつねに自己を他者と熱心に比較してきた。そうした知的伝統から、きわめて独創的な比較文明論が数多く産み出されてきた。本書では、本居宣長、岡倉天心、鈴木大拙、賀川豊彦らを経て、現代の梅棹忠夫、伊東俊太郎、石牟礼道子、緒方貞子に至る鋭敏な比較文明的感覚を持っていた日本の50人を選出。比較文明学会に所属する17人の研究者が、日本の比較文明学とはなにかを問いつつ、50人が繰り広げる豊かな知の世界を縦横無尽に論じる。
  • 非戦の哲学
    4.0
    同時多発テロを契機に、アメリカ主導の「世界戦争」が始まった。帝国化するアメリカの要請に唯々諾々としたがって、日本は自衛隊を海外に派遣し、国是である平和憲法は空洞化しつつある。国連や国際法が無力化しつつある中で、日本はどのような道を選ぶべきなのか。「文明衝突戦争」の時代における日本の平和主義を再構築し、地球的平和への寄与を提唱する。
  • 人が人を罰するということ ――自由と責任の哲学入門
    4.2
    人間は自由意志をもつ主体であり、過ちを犯した者が咎められ罰されることは、古くから共同体における基本的なルールと考えられてきた。一方、自由の存在を否定し「刑罰は無意味だ」とする神経科学や社会心理学の立場がある。はたして人間は自由な選択主体か。私たちが互いを責め、罰することに意味はあるのか。抑止、応報、追放、供犠といった刑罰の歴史的意味を解きほぐし、自由否定論、責任虚構論の盲点を突く。論争を超えて、〈人間として生きること〉を根底から問う哲学的探究。
  • 人はなぜ宗教を必要とするのか
    3.6
    宗教なんてインチキだ、騙されるのは弱い人間だからだ―「無宗教」を標榜する日本人は、たいていそう考える。しかし、そんな「無宗教」者も、「本当の生き方」を真剣に模索しはじめたとき、また、人の死など身にあまる不条理を納得したいと願ったとき、無宗教ではいられなくなってくるのではないだろうか。宗教に対する誤解にひとつずつ答え、そもそも宗教とはどういうものなのかを説き、「無宗教」から「信仰」へと踏みだす道すじを平易に語っていく一冊。
  • 人はなぜ物語を求めるのか
    4.0
    人の思考の枠組みのひとつである「物語」とはなんだろう? 私たちは物語によって救われたり、苦しめられたりする。その仕組みを知れば、人生苦しまずに生きられるかもしれない。物語は、人生につける薬である!
  • 日々是修行 ――現代人のための仏教一〇〇話
    4.2
    仏教の本質は修行である。苦を生み出すものが「この私」であるなら、心を鍛え、私自身を変えることで、苦しみから自由になれるはずだ。現代に生きる私たちにとって、ひたすら信じる救済の宗教よりも、釈迦本来の合理的な教えの方が、むしろ馴染みやすい。初期仏教の思想をベースに、生活に結びつく叡智一〇〇話を紹介。
  • 不安を生きる
    -
    私たちの社会には今、漠然とした不安が広がっている。将来の変化を見通せず、未来への希望が持てない。会社もアテにできず、心底頼れる人も見当たらない。そんな思いを抱く人が増えている。こうした事態は、都市化が進展し、かつて私たちを支えていたムラ的な共同体が衰弱してしまったことと無縁ではない。しかし、便利な生活を手に入れ、自由を享受する私たちは、もう後戻りすることはできない。不安とどう向き合い、どう生きればいいのか。この問いを多角的に追究した本書は、現代社会を生きる私たちにとって示唆に富む一冊である。
  • 風水 ――中国哲学のランドスケープ
    3.5
    中国独特の自然学として発展した“風水”。著者は19世紀の西洋人としてこの奇妙な体系に出会った。風水は、「理」=自然の一般秩序、「数」=自然の数的比率、「気」=活力に満ちた微妙なエネルギー、「形」=自然の外形という四つの概念から成り立ち、人間の運命を左右する。風水の前提となる陰陽五行説の概要から、専用道具・羅盤の使い方、さらには中国人の居住地選びにどのような影響を及ぼしているかまでを説く。近代的風水研究の嚆矢となった一冊。
  • 風土のなかの神々 ――神話から歴史の時空を行く
    -
    日本の神々とは日本人にとってどのような存在だったのか。神々は日本の風土のなかでどのような役割を担っているのか。日本の神は、自然を畏敬し国土の安寧を願う出雲系と、天皇による国家支配を正当化する高千穂・日向系に分かれる。高千穂・日向・出雲で景観問題の解決に奔走した著者が神話の舞台を歩き、「古事記」「日本書紀」編纂の場である飛鳥の遺跡に身を置いて、神々の来歴にひそむ謎を解く。【目次】序章 女神はなぜ洞窟に隠れたか――高千穂神話の世界から/第I部 出雲の神々の世界へ/第一章 スサノオの国づくりと和歌の起源――出雲平野の「わが心すがすがし」/第二章 斐伊川水系大治水計画――昭和・平成のオロチ退治/第三章 天下経営の大神――出雲大社表参道神門通りの道づくり/第四章 水に臨む神々――城原川流域委員会/第五章 疫病神の活躍――鞆の浦まちづくり/第II部 風土に生きる神々/第六章 巨大ナマズと戦う神々――要石とプレートテクトニクス/第七章 「ふるさと見分け」の方法――姥ヶ懐・裂田溝の危機/第八章 白き山の姫神――在地神と外来神/第九章 座問答――古代の大合併と合意形成の知恵/第十章 神々誕生の海岸――宮崎海岸侵食対策事業/第III部 神話から歴史への旅/第十一章 飛鳥にて――『古事記』『日本書紀』編纂スタートの地/第十二章 神話と歴史をめぐる三つの疑問/第十三章 飛鳥浄御原宮――神話と歴史を編む/第十四章 前例としての日本神話/第十五章 古代からの伝言――危機の時代のリスクマネジメント
  • フェミニズム入門
    4.0
    男性の、男性による、男性のための思想体系がいかに虚構と欺瞞にみちているか。フェミニズムの問題提起によってなんとあっけなく揺さぶられるものにすぎないか。近代主義から近代批判、イリガライやクリステヴァなどのポスト・モダンに至るまでのフェミニズム思想の破壊力の変遷をたどりつつ、さらにリプロダクション、性暴力、国家と性など最も現代的なテーマに果敢に挑戦する。現代の生と性の意味を問いなおす女と男のための痛快なフェミニズム思想入門。
  • 不在の哲学
    5.0
    古来、西洋哲学は確固とした普遍的「実在」を求めてきた。本書は、そうした客観的・統一的な脱自己中心的世界としての「実在」ではなく、対立概念である「不在」こそが「真にあること」ではないかという問題に取組む。言語=理性を習得してしまった人間は、客観的・統一的な「実在」こそ普遍的であり、それを、多元的・自己中心的な「私の世界」よりも優位に置く図式に、なかなか抗うことができない。そして、自分が住んでいる世界の相貌を語りつくすことができない。それはなぜなのか。不在を生み出す時間、自己と他者というトリック等、数々の哲学のアポリアに迫る、渾身の書下ろし。
  • ふしぎなお金
    3.5
    財布は拳銃や刀に似ている。護身用であり、権威にもなるからだ。財布は人を殺すための道具ではないけれど、「人は金のために人を殺したり、金のために自分の首を吊ったりして、金はやはり隠然たる凶器の光を忍ばせている」――。お金とはいったい何なのだろう? 「千円札裁判」で日本現代美術史に一石を盗じた赤瀬川原平が、お金の本質について考える。
  • 不思議なテレポート・マシーンの話 ──なぜ「ぼく」が存在の謎を考えることになったか?
    3.7
    不思議なテレポート・マシーンとの出会いをきっかけに、哲学の基本的な問題をめぐって丁寧に議論を繰り広げる。論理的思考の展開方法も学べるやさしい哲学対話。
  • 不動智神妙録/太阿記/玲瓏集
    5.0
    宮本武蔵の『五輪書』、柳生宗矩の『兵法家伝書』とならぶ三大兵法書の一つ『不動智神妙録』。書いたのは武士の家に生まれながらも得度し、大徳寺住持となった禅僧・沢庵宗彭。剣の修行は心の修行に他ならないという「剣禅一如」が初めて説かれた一書で、戦いのみならず万事に対処できる心と体の動きが解説されている。将軍家剣術指南・柳生宗矩に授けられたことから柳生新陰流の聖典となったが、小野派一刀流など他の流派でも広く読まれ、幕末の剣聖・山岡鉄舟も愛読した。併録した『太阿記』は凡人が凡人のまま剣の達人になる道筋を示したもの。『玲瓏集』はわれわれの視野がいかに分別心によって曇らされているかを説く。
  • 不道徳的倫理学講義 ──人生にとって運とは何か
    4.2
    我々がこの世界で何をなし、何を受け取るかは、「運」というものに大きく左右されている。しかし、あるべき行為や人生をめぐって議論が交わされるとき、なぜかこの「運」という要素は無視されがちだ。特にその傾向は、道徳や倫理について学問的な探究を行う倫理学に顕著である。それはいったいなぜだろうか。本書では、運が主に倫理学の歴史のなかでどう扱われ、どのように肯定や否定をされてきたのか、古代ギリシアから現代に至る人々の思索の軌跡を追う。そしてその先に、人間のあるがままの生をとらえる道筋を探る。
  • 文読む月日(上)
    5.0
    1日を1章とし、1年366日、古今東西の聖賢の名言を、日々の心の糧となるよう、結集・結晶させた、一大「アンソロジー」。最晩年のトルストイが、序文だけでも100回以上の推敲を重ね、6年の歳月を費やし、心血を注いで完成させた。総勢170名にものぼる聖賢の名言の数々は、まさに「壮観」。トルストイ自身、「自分の著述は忘れ去られても、この書物だけは、きっと人びとの記憶に残るに違いない」と語り、臨終の数日前にも、娘タチヤーナに10月28日の章を読ませて、「みんないい、みんな簡潔でいい……、そうだ、そうだ……」と呟いたという。トルストイを敬愛してやまない訳者の「心訳」による、わが国初の完全訳。上巻は1月から5月までを収録。
  • フロイト入門
    4.0
    エディプス・コンプレックス、リビドー、欲動論、夢判断…。フロイトは新たな概念を編み出し、「こころ」の広大な闇に挑んだ。その思想革命の生成と展開を読み解く! 「無意識」の発見・「精神分析」という科学の誕生。
  • フロイト入門
    3.3
    1900年に謹か数百部で刊行された『夢判断』は世紀を超えて影響を与え続けている。エディプス・コンプレックスの発見と夢の分析を通した無意識世界への探究。フロイトが開花させた精神分析は、複雑な家族構成や葛藤に彩られた彼の生涯と思索の軌跡を映しだす鏡でもある。現代に甦るフロイト像を描きだす清新な入門書。
  • フーコー入門
    4.0
    「真理」「ヒューマニズム」「セクシュアリティ」といった様々な知の〈権力〉の鎖を解き放ち、「別の仕方」で考えることの可能性を提起し続けた哲学者、フーコー。我々の思考を規定する諸思想の枠組みを掘り起こす〈考古学〉においても、我々という主体の根拠と条件を問う〈系譜学〉においても、彼が一貫して追及したのは〈思考のエチカ〉に他ならなかった。稀代の哲学者の変容しつつ持続する歩みを明快に描き出す、新鮮な入門書。
  • フーコーの言説
    3.0
    その言説のほぼすべてが出揃った今こそ、読み直さねばならない──。ミシェル・フーコーの探究は、知・権力・自己との関係という三つを軸に、多様性と絶え間ない変貌によって特徴づけられる。そうした彼の言説群を貫いて存続する「フーコー的」なものがあるとすれば、それはいったい何か。前史ともいえる50年代のテクストから『性の歴史』第四巻『肉の告白』まで、精確な読解によって思考の全貌が明らかにされる。フーコー研究・翻訳の第一人者による待望の書。
  • 武士道の精神史
    -
    侍の気構えと行動を規定してきた「武士道」。軍国主義につながったとして、マイナスのイメージも持たれる一方、日本人の美徳を支える倫理的礎として肯定的なイメージを持っている人も、これまた多い。歴史的にみれば武士道は、武家社会が発展した中世に自然発生し、『甲陽軍鑑』等の書物で明文化されていくが、戦闘なき徳川時代になって精神的な「徳義」へと転回した。やがて武家以外の庶民階級にも浸透して、一般の生活経済倫理にまで影響を及ぼすようになっていく。「武士道」の豊かなる実態の歴史を、実証主義史学の方法を用いつつ鮮やかに描き出し、その本質に迫る。
  • 仏教と日本人
    3.7
    水子地蔵、閻魔が死者を裁く地獄、妻帯する僧侶、神仏の併用、そしてお葬式……インドに発し中国を経て伝来した仏教は、わが国独特のすがたに変容し、定着した。こうして日本人の心情に深く根ざした仏教は、では、どのような民族的精神風土の上に受け容れられたのか。また、仏教とふれることで、日本人の宗教意識にどのような変化が生まれたのか。日本文化のはらむ「業」、その光と影を透徹した思惟で見定める一冊。
  • 仏教のこころ
    3.3
    かつてインドに「仏教」はなく、「ブッダの教え」「ブッダの考え」があった。はたして「ブッダの教え」とはいったいなんだろうか。「仏教」とは違うのだろうか。人々が仏教に求めているものとは何なのか、仏教はそれにどう答えてくれるのか、著者の考える仏教のすがたをまとめた文章に、河合隼雄氏、玄侑宗久氏との対談を加えた一冊。
  • 仏教の身体感覚
    3.0
    仏教は、呪術性と身体性を強めることによって、人々を救済する宗教となった。たとえば、坐禅。あるいは、念仏。こうした呼吸法をともなう身体感覚をつうじて、仏の教えははじめて深々と腑に落ちる。宗教とは信仰の世界の話であり、論理の積み重ねだけで語ることはできない。仏教は、老病死に向き合う高齢者にどう応えられるのか。生きることに虚しさをおぼえる人々に、どう語りかけることができるのか。現代から、あらためて問う。身体感覚から読み解く仏教史2500年。
  • 仏教論争 ──「縁起」から本質を問う
    3.3
    二千五百年もの歴史をもつ仏教。その始点にして中核と言い得るのが「縁起」なる法則だ。だが、「これが縁起だ」という定説は、仏教全体としてはいまだ存在していない。本書は、和辻哲郎、三枝充悳といった第一級の知識人、仏教学者が縁起をめぐり繰り広げた論争を俎上に載せ、なぜ彼らが虚構を実体視する罠に陥ったのかを検証。縁起とは何であり、仏教とは何であるかを、透徹した思考で浮かび上がらせた、類例なき書である。
  • ブッダ ──大人になる道
    4.2
    ブッダが唱えた原始仏教の言葉は、合理的でとってもクール。日常生活に役立つアドバイスがたくさん詰まっています。今日から実践して充実した毎日を生きよう。【目次】第1章 ブッダ―大人になる道/第2章 ブッダはなぜ出家したのか/第3章 ブッダ心理学、基礎の基礎―心とは何か?/第4章 世界に居場所を見つける―地球サイズの人間になろう
  • ブッダたちの仏教
    3.0
    インドで誕生した仏教は、二千年以上の年月をかけ、アジアの広範な地域に伝播し、各地の文化に大きな影響を与えつつ、自らも多様に変化した複雑な宗教である。神によるのではなく、歴史上の一人の人間ゴータマ・ブッダが発見した真理に端を発した仏教は、さまざまなブッダを輩出し、それぞれの仏教が独自性をもちながら多彩な変容を生み出し展開してきた。仏教の歴史をブッダたち「仏」と、それに基づく「教え」という二つの極をもつ運動としてとらえるダイナミックな論考。
  • ブッダという男 ――初期仏典を読みとく
    3.8
    ブッダは本当に差別を否定し万人の平等を唱えた平和主義者だったのか? 近代の仏教研究は仏典から神話的装飾を取り除くことで、ブッダを平和主義者で、階級差別や男女差別を批判し、業や輪廻を否定した先駆的人物として描き出してきた。だがそれは近代的価値観を当てはめ、本来の内容を曲解したものにすぎない。では、ブッダの真の偉大さは一体どこにあるのか。これまでのブッダ理解を批判的に検証し、初期仏典を丹念に読みとくことでその先駆性を導き出す革新的ブッダ論。
  • ブッダの幸福論
    3.6
    私たちの生き方は正しいのだろうか? ブッダが唱えた「九項目」を通じて、すべての人間が、自分の能力を活かしながら、幸せに生きることができる道を提案する。【目次】序章 ブッダの生きた幸福の境地/第1章 「生き方」はどうすればわかる?/第2章 正しい生き方をやってみる/第3章 慈しみの心を育てる/第4章 人生に意味はあるのか?
  • 武道的思考
    4.1
    「いのちがけ」の事態を想定し、高度な殺傷術として洗練されてきた日本の武道。幕末以来、武道はさまざまな歴史的淘汰にさらされ、それに耐え、そのつど「変身」を遂げつつ生き延びてきた。本来の意味は失われても、「心身の感知能力を高め、潜在可能性を開花させるための技法の体系」である武道には、今こそ見るべき叡智が満ちている。達見の武道論。
  • ブリタニカ草稿 ──現象学の核心
    3.0
    現象学の始祖エトムント・フッサールが、『ブリタニカ百科事典』の求めに応じ、「現象学」の項目のために執筆した、ドラマチックな推敲のあとが窺える四つの草稿の集成。変化しつづけたフッサールの思索が成熟した時点で書かれた本書は、まさに“現象学とは何か”その核心を語る。そのため、完成稿(第四草稿)は、始祖自身による最も完備した好適な入門書ともなっている。これら草稿は、ハイデガーとの共同作業を経て完成したが、とくに第二草稿には両者の一致と相違が如実に現れていて、20世紀を主導した両者の現象学的哲学の本質を考えるための重要なヒントもここにある。詳細な訳者解説を付す。
  • 文語訳聖書を読む ──名句と用例
    4.0
    明治期に出来上がって以来、一世紀以上にわたり愛読されてきた文語訳聖書。格調が高く、歯切れのよい翻訳は、文学はもとより、日常の日本語にいたるまで強い影響を与えた。本書は、キリシタン時代にさかのぼって文語訳成立の経緯をたどった後、名著をはじめ、多岐にわたる作品のなかで聖句や名句がどのように用いられてきたのか、言語文化へのはたらきを見ていく。日本人の精神生活と表現世界を豊かにした源泉へと読者をいざない、いまだ色あせることのない言葉の輝きを伝える。
  • 分析哲学講義
    3.9
    フレーゲとラッセルの論理学研究に始まり、クワイン、ウィトゲンシュタインらの活躍を経て、現在では哲学の全領域に浸透した分析哲学。言語や概念の分析を通じて世界を捉えるその手法は幅広い。哲学史上の優れた議論を素材に、その先を自ら考えるための一冊。「道具」としての分析哲学を伝える、珠玉の入門講義。
  • 分裂病と他者
    -
    精神病理から人間存在の本質にいたる思索をさらに深め、分裂病者にとっての「他者」の問題を徹底して掘り下げた木村精神病理学の画期をなす論考。ハイデッガー、西田幾多郎らに加え、デリダ、ラカン、レヴィナスなどの構造主義と正面からわたり合い、自己と他者との関係のありかたを「あいだ=いま」という本質的な項を媒介として見つめ直す。研ぎ澄まされた治療感覚をもって、患者の生き方を知覚し、治癒をめざして真摯な長い対話を重ねる著者の思策と営為。今、「臨床哲学」の地平が開かれる。
  • プラグマティズム入門
    3.9
    十九世紀後半にパースが提唱し、ジェイムズが定義づけたプラグマティズムは、従来の西洋哲学の流れを大きく変えた。二〇世紀半ばにはクワインによって再生されたことで、今やアメリカ哲学の中心的存在となったその思想運動は、いかなる意味で革命的だったのか。プラグマティズム研究の日本における第一人者が、その本当の狙いと可能性を明らかにし、アメリカでの最新研究動向と「これからのプラグマティズム」を日本で初めて紹介。いま最も注目される哲学の全貌を明らかにする。
  • プラトン入門
    3.6
    ヨーロッパ哲学の絶対的な「真理」主義の起源をなす人物として、ポストモダン思想家から最悪の評価を与えられている人、プラトン。しかしプラトンこそ実は、異なった人間どうしが言葉を通して共通の理解や共感を見出しうる可能性を求めた「普遍性」の哲学者であった。プラトン評価を逆転させる、目から鱗の一冊。
  • 兵学思想入門 ──禁じられた知の封印を解く
    -
    江戸初期に学問として体系化され、甲州流・山鹿流といった兵法として花開いた兵学。自己を律することを求めるだけでなく、独自の国家観を中心に、修己・治人・治国・平天下へと繋げていくものとして豊かな内容をもったその体系は、やがて明治維新の原動力となった。それが西洋兵学の流入によって変容し、二十世紀の戦争の時代にその精神性の強調によって誤解されるに至ったのはなぜか。現代兵学の観点から批判的考察を交え、思想としての日本兵学の特質を総合的に論じる。
  • 崩壊概論
    -
    透徹した懐疑が矛盾の総体たる世界を熾烈なまでに問いただす。信念は解体され、拠って立つ基盤は崩壊する――。幻影の破棄と新たな幻影を希求した本書は、シオランが母語であるルーマニア語ではなくフランス語で初めて著した作品。未来に倦み、同時に言いようのない渇きに襲われながら、思想家は敗滅へと向かう人間の宿命を凝視する。繊細と皮肉、陶酔と幻滅、憤怒と倦怠、明視と錯乱……。不眠の夜々に咲いた断章群、それは、まぎれもなく現代の黙示録としてわれわれの精神に浸潤し、揺さぶりをかけるだろう。解説 大谷崇
  • 方丈記
    4.1
    日本古典文学中屈指の名文『方丈記』。著者鴨長明が見聞し体験した、大火、大風、遷都、飢饉、大地震などが迫真の描写で記録され、その天災、人災、有為転変から逃がれられない人間の苦悩、世の無常が語られる。やがて長明は俗界から離れ、方丈の庵での閑居生活に入りその生活を楽しむ。しかし、本当の心の安らぎは得ることができず、深く自己の内面を凝視し、人はいかに生きるべきかを省察する。本書は、この永遠の古典を、混迷する時代に生きる現代人ゆえに共鳴できる作品ととらえ、『方丈記』研究第一人者による新校訂原文とわかりやすい現代語訳、理解を深める評言によって構成した決定版。
  • 法哲学講義
    4.3
    法哲学とは、“法と法学の諸問題を根本的・原理的なレベルに遡って考察する学問”である。それは法学だけに留まらず、倫理学・政治哲学・経済学・歴史学といった領域とも交わる。法概念論や正義論をはじめ、法哲学における中心的議論はどのような性格を持っているのか。ケルゼン、ハート、ドゥオーキンなど代表的法哲学者への批判を行いつつ、明快に要点を解説。各章末には文献解題を付す。今日望みうる最良の法哲学概論。
  • 法然入門
    3.4
    この世を生きる意味はどこにあるのか。私たちは、人生の「意味」を求め「物語」を必要とする存在である。とはいえ現実は、不条理と不安に満ちた人生の大海を漂いながら、答えのないままに、そのときどきの欲望に引きずられて生きてゆくしかない私。法然は、そうした自己愛、愚かさ、無知にこそ人間の本質があると認め、まさに「極悪最下」の者こそ救われる物語を用意した。悪人が善人になる必要はない、ただ生まれつきのままに、ありのままに念仏せよ―日本史上最大の衝撃を仏教界にもたらした易にして奥深い思想を、やわらかに解きほぐす入門書。
  • 法然の衝撃 ──日本仏教のラディカル
    -
    著者は、世界の宗教史でただ一人あげよ、といわれたら法然をあげるという。なぜか。一言でいえば、「凡夫」のための宗教は、法然を持ってはじめて世に出現したからである。「凡夫」とは、「自己中心性」から逃れられない人間のことである。自己のためにはすべての欲望が総動員される。神仏を祈願するといっても、内容は、是が非でも自己の欲望を遂げようという脅迫であることも少なくない。「凡夫」に救いはあるのか。あるとすればいかなる教えなのか。この世の一切の営みを超えた宗教的価値の絶対性をはじめて明確に主張した法然の革命的意義を新たな視角から解き明かす。
  • 法然の手紙を読む
    -
    浄土宗の開祖・法然は様々な人から教えを乞われていた。本書では、法然が熊谷直実のような武士から式子内親王、北条政子に至る人々に宛てた手紙を平易な訳文とともに紹介する。仏教を専門としない相手に書かれた手紙には、称名念仏による極楽往生こそ救いの道であることが、わかりやすくかつ論理的に説かれている。また文面からは、身分や年齢にかかわらず相手を尊重し、権力とは正面から対峙しない、優しくも強かな法然の人柄が窺える。本書はそうした手紙の読解を通じて、現実から逃げるのではなく往生を見据えて現実を強く生きるという、本願念仏の持つ実践的な力を提示する。文庫オリジナル。
  • 保守思想とは何だろうか ――保守的自由主義の系譜
    -
    一般的に、保守思想と自由主義(リベラリズム)は水と油のように相容れないとみなされる。しかし本来、正しい「保守」であれば自由主義を擁護するし、本物のリベラルであれば「保守」たらざるをえない。本書では、デヴィッド・ヒューム、福澤諭吉、フランク・ナイトという三つの偉大な知性を召喚し、歴史の転回点に立った彼らが、近現代世界の黎明期に見出した共通の主題「保守的自由主義」を抽出する。彼らが追究した思考を追体験することで、同じく歴史の転回点に立つ私たちが、二元論に惑わされずに保守思想の本質にたどり着くための道筋をさぐる。
  • 保守思想のための39章
    3.7
    バブル崩壊と冷戦の終焉から十年すぎた。しかし今なお、経済の立て直しから有事への対処などに至るまで、依然として議論だけが続いている。しかも、その空疎な対立と不毛な論争の蔭で、学級崩壊、官民を問わない不正行為の続出、各種犯罪の増加など、日常の社会そのものは緩慢な自死の過程をたどりつつある。そして、資本主義の挫折と帝国主義の再来、それが世界の大状況となっている。この危機に、私たちはどう臨めばよいのだろうか。単なる郷愁やかたくなな復古ではなく、美徳と良識にもとづいて公共空間を再建するため保守思想の真髄をさぐる。
  • ホスピス ――いのちと癒しの倫理学
    2.7
    患者本人と周りの者に、より人間的なふれあいがあれば、おだやかな心で死を迎えられる。残された最期の充実した日々には「生きがい」と「死にがい」も感じられる。そういう「有終の死」を可能にする「生命倫理」とは何か。国内外のホスピス活動の動向を精力的に探りながら、いのちと癒しに関わる今日的な問題を考える。
  • ほとけの姿
    -
    ほとけとは何か。ほとけとは、どんな姿でどこにいるのか。著者は生涯をかけこのテーマを追い求めた。三十三間堂の千手観音立像千一躯や広隆寺弥勒菩薩半跏像ほか1300体を超える国宝仏の修復家であり、仏像彫刻家にして天台宗の僧侶でもある著者が、伝え遺したかった渾身の著書。挿絵70点以上を添え、やさしい言葉で語りかけるように綴った滋味深い仏教入門書。
  • ほんとうのフロイト ――精神分析の本質を読む
    4.0
    フロイトの慧眼は人間論にある。人間の欲望と不安に関するフロイトの深い洞察にこそ、普遍的な人間性の本質がある。人間性に関するフロイトの理論――幼児性欲論やエディプス・コンプレックス、リビドー論、去勢不安など――は独特な仮説で、科学的に証明できない。だがその理論が指し示す現象の意味を吟味し、仮説の裏側にある本質を考察するという「本質学の観点」から諸理論を捉えなおせば、現代的な意義が明らかになり、見過ごされてきたほんとうのフロイト像が見えてくる。
  • ほんとうの法華経
    4.1
    仏教最高の教典といわれる「法華経」。だが、その真意はあまり理解されていない。なぜなら鳩摩羅什による漢訳を、日本語に重訳したものが読まれてきたからだ。そこで登場したのが、植木雅俊による画期的なサンスクリット原典からの翻訳。その訳業で、仏教のほんとうの教えが明らかにされた。日本を代表する宗教社会学者・橋爪大三郎との対話の中で、ブッダ本来の教えとは何か、法華経の正しい読み方とはいかなるものかが次々と解き明かされる。全く新しい、最高の仏教入門書!
  • ポパー〔第2版〕
    5.0
    ウィーン出身の哲学者カール・ポパー(1902‐1994)。その思想は「批判的合理主義」として知られ、主として科学哲学や政治哲学の領域でこれまでに大きな影響を与えてきた。だが、この「知の巨人」の反証主義などの思想はたびたび誤解され、批判にもさらされてきた。本書は、ポパーを最も深く、かつ正確に理解する著者がそうした誤解を正し、ポパーの明晰さそのままに知の体系を解説するものである。『開かれた社会とその敵』の新訳も担当した著者による、いちばん信頼できる伝記として、また専門的見地に基づいたポパー哲学全体を俯瞰できる最良の入門書としても広く読まれてきた定番書、待望の改訂版。
  • 丸山真男 ――ある時代の肖像
    -
    「進歩」が輝いた戦後の一時代は、丸山真男の時代でもある。「超国家主義者」、「日本ファシズム」批判に始まる論考と発言は、進歩的論壇の流れをつくり、今も広く読者を集める。講和問題や朝鮮戦争、ベトナム反戦や憲法九条、天皇問題などに現われる軌跡をたどり、戦後日本の夢と悔恨をふりかえる。
  • 丸山眞男と加藤周一 ──知識人の自己形成
    3.0
    戦後を代表する知識人である丸山眞男と加藤周一は、いかにしてその思想を育んだのか? ともに青少年期に戦争を体験し、その時代の空気の中で「日本人のものの考え方とはいかなるものか」という問題意識を深めてきた。当時の政治や文化の動向を丹念に追い、その思索や行動の跡を示すノートやメモ等の豊富な資料とともに、出生から敗戦まで二人の自己形成過程を比較対照し、20世紀の日本に生まれた知的風土の根源に迫る。
  • マンダラの密教儀礼
    -
    インド・チベット密教や日本密教の世界観が凝縮されたマンダラ。日本には主に掛図の形で伝えられたため、神秘的な美術品として鑑賞されがちだが、本来それは、宗教儀礼のなかで具体的に用いられてきたものである。さらに、ヨーガ・瞑想における「悟りのための手段」としてだけでなく、秘儀を授ける入門儀礼「灌頂(かんじょう)」や本尊を決める「投華得仏(とうけとくぶつ)」など、僧院の集団儀式のなかで使われるという特徴がある。どのように制作され、どのように用いられるのか。数々のマンダラ作品やサンスクリット文献を軸に、密教儀礼の核心に迫る。仏教図像学の第一人者による貴重な書。
  • (見えない)欲望へ向けて ――クィア批評との対話
    4.0
    性差や異性愛といった規範が作用する場から見えない欲望を引き出し、新たな解釈を生産すること。本書は、そうしたクィア批評の声に耳を傾けながら、「自分ではない」ものへの同一化による読むことの快楽と、性的な快楽を混線させる試みである。セジウィックの理論や英文学の古典から、ホモソーシャルな欲望、文学共同体の規範を学ぶ快楽、プライヴァシーという概念装置等を縦横に論じるとともに、クィア批評と精神分析の思想的往還を、ジジェク、バトラー、コプチェク、ベルサーニらを読むことで辿った。クィアなるものが含む解放性と固有性のパラドックス、批評的・思想的探究と政治的意味の緊張をも見据えた名著。
  • ミシェル・フーコー ――近代を裏から読む
    4.1
    フーコーは、私たちが自明視する世界のありようを、全く違ったしかたで見せる。最高傑作『監獄の誕生』を糸口にフーコーの思考の強靱さと魅力を描き出す。正常と異常の区分を生み出す「知」の体系と結びつき、巧妙に作用する「権力」。そうした秩序が社会の隅々にまで浸透する近現代の先に何を見定めたのか。革命的入門書。
  • 満たされない自己愛 ――現代人の心理と対人葛藤
    4.0
    人は誰でも、自分を価値ある人間だと信じたい。人からも認められたい。しかし自己評価と他者評価は、しばしばズレる。そのとき自尊心は踏みにじられ、アイデンティティは深く傷つく。「自己愛」は、われわれに共通する心の性向である。他人から正当に評価されないことに対する恐怖と嫌悪、そこに生まれる葛藤こそが、現代人の人間関係を特徴づけるもっとも重要なテーマなのではないか。本書では、「満たされない自己愛」をキーワードに、自己にとらわれがちな現代人が直面する対人葛藤の深層に迫る。
  • ミトラの密儀
    -
    ミトラ教は紀元前3世紀頃のペルシャで信仰され、ヘレニズムの文化交流によって地中海世界に伝播した。民族宗教という出自であるにもかかわらず、一時はローマ帝国でキリスト教と覇を競うほど隆盛を誇ったが、秘儀的な宗教であったがゆえ詳細の多くは謎に包まれてきた。獅子頭人身の異貌、牡牛を屠る図像の異教神が、なぜ異文化の民に受け入れられていったのか? 起源、教義、儀礼、キリスト教への影響、凋落の理由等、この密儀宗教の全貌を膨大な資料で解き明かした第一人者による古典的研究。貴重図版多数収録。
  • 民衆という幻像 ──渡辺京二コレクション2 民衆論
    5.0
    冬の夜、結核療養所で聞こえた奇妙な泣き声。日中衰弱しきって運び込まれた母娘は、朝を待たずに逝った。それを知った著者は、娘の体をさする瀕死の母親のやせた腕を幻視する──「小さきものの実存と歴史のあいだに開いた深淵」、それは著者の原点にして終生のテーマとなった。近代市民社会と前近代が最深部で激突した水俣病闘争と患者を描く「現実と幻のはざま」、石牟礼道子を日本文学に初めて現れた性質の作家と位置付けた三つの論考、大連体験・結核体験に触れた自伝的文章など39編からは、歴史に埋もれた理不尽な死をめぐる著者の道程が一望できる。
  • 民主主義を疑ってみる ――自分で考えるための政治思想講義
    -
    近年、民主主義の危機が叫ばれ、その重要性を訴える議論が巻き起こっている。だが、民主主義を擁護するだけで本当に今日の「危機」は回避できるだろうか。むしろ、民主主義それ自体がポピュリズムなどの現象を招いているのではないか。本書では、政治思想が「民主政」批判から始まったことに注目しつつ、民主主義だけでなく、それを補完・抑制する原理としての自由主義や共和主義、社会主義などを取り上げ、それぞれの歴史的展開や要点を整理していく。主主義を機能不全から救い出すために何が必要か、その核心に迫る白熱の講義。
  • 「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題
    4.2
    「正しさは人それぞれ」といって他人との関係を切り捨てるのでもなく、「真実は一つ」といって自分と異なる考えを否定するのでもなく――考え方の異なる者同士がともに生きていくために、「正しさ」とは何か、それはどのようにして作られていくものかを、さまざまな学問のこれまでの議論を概観したうえで考える。
  • 無縁所の中世
    3.0
    中世において、朝廷・幕府以上の存在感を持っていた寺社=境内都市=無縁所。そこには、「世を仕損なった」人たちが、移民となって流れ込んできた。なぜ人は、有縁の世から逃れ、無縁世界で一時の命を繋ぎ再起を賭けようとしたのか。また、無縁世界が有縁世界に対抗しえたのは、どんな思想、どんな実力によるものなのか。網野善彦や民俗学の知見を批判的に乗り越えつつ、たしかな史料で日本中世を描く。
  • 無学問のすすめ ――自分の頭で考える思想入門
    3.0
    「学問」って、そんなに必要? やるとバカになるんじゃないの? 原発事故が起こって発言をし始めた知識人はみんな興奮しているだけじゃないの? 本書は、吉本隆明、福沢諭吉、小林秀雄、江藤淳、池上彰、養老孟司、内田樹、三島由紀夫、アーレントなど、さまざまな知識人の著作を俎上に載せ、誰もが薄々気づきながら言えなかったことに切り込んでいく。学問は使っても、使わなくてもいい。自分の身体の声を聞き、自分の頭で考える「素人」たれ! 「学問」から「無学問」へ。いま読まれるべき、新しい思想がここにある。
  • 無思想の発見
    4.0
    日本人は無宗教・無思想・無哲学だという。さて無思想とは、どのような事態か。もしかするとそれは、「ゼロ」のようなものではないのか。つまりゼロとは、「なにもない」状態をあらわしつつ、同時に数字の起点でもある。ならば、「思想がない」というのも、ひとつの「思想」のあり方ではないか。日本の風土と伝統が生んだ「無思想という思想」を手がかりに、現代を取り巻く諸問題、さらには、意識/無意識とはなにかを、大胆に、されど精緻に考え尽くし、閉塞した現代に風穴を開ける。
  • 無宗教からの『歎異抄』読解
    4.0
    日本人は「無宗教」を自認しがちだが、信仰を得ることで精神的に豊かな暮らしを営む人びとも少なくない。真の宗教心とはどんな生き方をひらくものだろうか? 日本人に親しまれてきた宗教書『歎異抄』を、無宗教者の視点から読み解き、自由自在の精神をつかむ過程を明らかにし、「宗教とはなにか」に答える。
  • 無量寿経
    1.0
    阿弥陀仏の名を称えるだけで、だれでも浄土(安楽)に生まれることができる──。法然や親鸞がその解釈に骨身を砕き、長く日本人に親しまれてきた浄土仏教の最重要経典。煩悩に縛られ、悪行をやめられぬまま、混迷を極めた世の中を生きるごく普通の人々。そうした凡夫を救うために四十八の誓願をたてた法蔵菩薩は、想像を絶する修行を経て阿弥陀仏となり、誓願のすべてを実現する。この阿弥陀仏の物語を、釈迦はいまだ悟りに到達できない阿難に向けて説く。全文の漢訳と読み下し、さらに懇切丁寧に施された解説により、万人のための宗教というその核心が鮮やかに立ち現れる。文庫オリジナル。
  • メルロ=ポンティ入門
    4.4
    われわれはこの世界に生きており、現代の歴史に属している。それにしては、そのことがぴんとこない。世界や歴史と無関係に、ささやかな人生がここにある。だからといってとるに足らないことなど何一つなく、ものごとを考えて決断する時には、歴史の論理の中を、同じ世界の他者たちとともに生きる。現実的とはどういうことで、真実を語るとはどのような意味か。メルロ=ポンティ哲学をひもときながら、われわれのもとに到来する出来事を真剣に取扱う姿勢について考える入門書。
  • 黙示録論 ──現代人は愛しうるか
    4.0
    ロレンス畢生の論考にして20世紀の名著。「黙示録」は抑圧が生んだ、歪んだ自尊と復讐の書といわれる。自らを不当に迫害されていると考える弱者の、歪曲された優越意思と劣等感とを示すこの書は、西欧世界で長く人々の支配慾と権力慾を支えてきた。人には純粋な愛を求める個人的側面のほかに、つねに支配し支配される慾望を秘めた集団的側面があり、黙示録は、愛を説く新約聖書に密かに忍びこんでそれにこたえた、と著者は言う。この隠喩に満ちた晦渋な書を読み解き、現代人が他者を愛することの困難とその克服を切実に問う。巻頭に福田恆存「ロレンスの黙示録について」を収録。
  • もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら
    3.6
    シド・ヴィシャスの生まれ変わりと囁かれる新進気鋭のパンクロッカーまなぶ。彼の前に立ちふさがる謎の宗教思想「仏教」! その教えにリアルパンクロックを見たまなぶは、恐るべき腕力を誇る老僧に導かれ、仏の道へと足を踏み入れる……。吹き荒れる暴力と悟りの果てに青年は何を見るのか。本邦初、ヴァイオレンス仏教解説!シャル・ウィ・ニルヴァーナ!!
  • 物語は人生を救うのか
    3.8
    世界を解釈し理解するためにストーリーがあった方が、人は幸福だったり、生きやすかったりします。実話とは? そして虚構とは? 偶然と必然って? 私たちの周りにあふれているストーリーとは何でしょう?
  • 物と心
    5.0
    著者は現象の背後に実在を想定する二元論の仮構を否定する。そして自らが見て触れて感じている現実世界にどっしりと足をつけ、それを超越しているかのごときものをどう捉えたらよいのか問い進めてゆく。独自の哲学「立ち現われ一元論」のエッセンスが詰まった、大森哲学の神髄ともいえる名著。
  • モンテーニュ入門講義
    4.3
    宗教戦争のさなか、通念や世間の道徳に懐疑の目を向けつつ、自然に従って生きることの喜びを説いたモンテーニュ。その著『エセー』では、自己の判断力を試し鍛えていくさまが、自由な文体によって描き出される。異文化への関心と共感、戦時における人間の狂気や暴力、性の歓び、ボルドー市長としての政治経験、旅と読書の愉楽など、扱われるテーマは実に幅広く、われわれの心を揺さぶる文章に充ちている。ストア的克己主義と節度ある快楽主義とを往還し、メメント・モリの受容から拒否へと至る過程で、独自な思想が紡がれていく。類まれな開明的人物の核心に迫る出色の講義。文庫オリジナル。
  • モーセと一神教
    4.5
    フロイトはその最晩年、自身の民族文化の淵源たるユダヤ教に感じてきた居心地の悪さに対峙する。それは、〈エス論者〉として自らが構築してきた精神分析理論を揺るがしかねない試みであり、「生命と歴史」という巨大な謎と正面から格闘することでもあった。「もはや失うものがない者に固有の大胆さでもって、……これまで差し控えておいた結末部を付け加えることにする」――ファシズムの嵐が吹き荒れる第二次世界大戦直前のヨーロッパで、万感の思いを込めて書き上げられた、巨人の恐るべき遺書。
  • 「野性」の哲学 ――生きぬく力を取り戻す
    -
    現代人は人工空間に生きている。身体感覚が極端に希薄な社会では、凶悪犯罪や自殺が日常化し、魂の拠りどころも見えにくい。こんな時代だからこそ「野性」のエネルギーを解放し、根源的な生命力を取り戻さなければならない。信長の決断力、龍馬の行動力、松下幸之助の直観力等を手掛かりに喪われた「野性」の回復を訴える。
  • 柳田国男論・丸山真男論
    4.0
    体液のように流れる柳田の文体と方法にかたちをあたえ、彼のえがいた稲の人としての「日本人」の鮮明な画像と、そこに見えかくれする「山人」や「アイヌ」の影に徹底した考察を加える「柳田国男論」。丸山の戦争体験の批判を入口に、『日本政治思想史研究』における徂徠学の評価の分析を軸にすえ、丸山政治学が幻想の「西欧」という虚構の立場を設定して初めて切り拓いた地平を検証する「丸山真男論」。近現代の代表的な思想家を俎上にのせ、雄勁なスケールでその核心を論じる。
  • 柳宗悦 ──美の菩薩
    4.0
    なぜ美しいものを作ろうとも思っていない名もなき工人が、時として驚くべき美を生み出すのか。その理由を解き明かそうとした柳は、『無量寿経』にある「すべてが美しい世界をつくる」という阿弥陀仏の誓いに出会い、はたと気づく。ものの美しさは、この宗教的救済によってもたらされていたのだと。そして、美しいもの=救われたものを日本民藝館に陳列し、人もものも、すべてが救われる「浄土」が現に存在することを、人々に伝えようとした。阿弥陀仏の本願と美を結びつけ、仏教の再構築を構想した柳宗悦。この稀有な思想家の核心に迫った著者初期の代表作を、増補して文庫化。
  • 病いの哲学
    3.3
    末期の状態にある人は死ぬほかないーー。死の哲学はそう考える。これに抗し、死へ向かう病人の生を肯定し擁護すること。本書はプラトン、パスカル、デリダ、フーコーといった、肉体的な生存の次元を肯定し擁護する哲学の系譜を取り出し、死の哲学から病いの哲学への転換を企てる、比類なき書である。
  • 唯信鈔文意
    -
    南無阿弥陀仏と唱えれば来世で仏になれる。このシンプル極まりない法然の教えは庶民層から大歓迎された。しかし同時に「なぜ念仏だけでいいのか」という問いも浮上する。その問いに答えるべく、親鸞は当時よく読まれていた仏教書『唯信鈔』を解説する形で本書を執筆した。親鸞の答えはこうだ。念仏は修行などかなわない我々のために阿弥陀が用意した「行」であり、阿弥陀のはたらきそのものである。そして念仏すると阿弥陀の心が無意識下に入り込み、それが将来我々を浄土に連れていく。だから念仏の他は必要ない。『教行信証』と並ぶ代表作にして親鸞思想のエッセンスが詰まった最高の念仏入門。
  • ユダヤ教 キリスト教 イスラーム ――一神教の連環を解く
    3.4
    ユダヤ教もキリスト教もイスラームも「たったひとりの神」を持つ宗教である。もとをたどれば同じひとりの神だった。それが「それぞれの神」になったとき、地球の表面が変わった。宗教史のうえでは突発的・変則的であった一神教が、なぜ諸宗教をしのぐまでに発展し、世界の底流となりえたのか――。出発点であるユダヤ教と、そこから枝分かれしたキリスト教とイスラームを視野に入れ、より大きな広がりのなかで一神教の特質を把握する。「聖戦」「不寛容」「平等」「福祉」「契約」などの題材にふれながら、歴史に決定的な影響を与えた三宗教の連環を解き、一神教の光と闇にせまる比較宗教学の入門書。
  • ユダヤ古代誌1
    4.5
    ヨーロッパのキリスト教徒や知識人たちにもっとも広く読まれてきた『ユダヤ古代誌』。天地創造から説き起こし、紀元後66年のユダヤ戦争直前までの記述で終わる全20巻は、ヨセフスが敗軍の指揮官のひとりとしてローマに降ったのち、皇帝の厚遇のもとに書かれた。政治的には親ローマ派であり、思想的にはユダヤ教、ユダヤ文化の弁護者であったヨセフスの大著は、ユダヤ史を知るうえできわめて貴重な史料であるばかりでなく、イエスと同時代の散逸した記述を数多く含む文献として、キリスト教徒たちの関心をひきつけてきた。原著1~4巻までを収める文庫版第1巻は、天地創造からアブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフをへてモーセの事蹟に言及する。
  • 輸入学問の功罪 ――この翻訳わかりますか?
    4.3
    難解な思想・哲学書の翻訳に手を出して、とても理解できないと感じ、己の無知を恥じ入る。読者をそのように仕向ける背後には、日本の近代化における深刻な問題が控えているのである。カント、ヘーゲル、マルクスの翻訳の系譜とそこに反映された制度的拘束をあぶり出し、日本の学問と翻訳の可能性を問う。
  • ようこそ、心理学部へ
    3.8
    犯罪から食欲、記憶から感情までを扱い、生理的仕組みを解明し日常的な行動の改良を目指す――。ひと口に心の学問というけれど、その世界は深くて広い。講義形式で心理学を体験できる入門書。
  • よく生きる
    3.5
    「よく生きる」。これは人間にとって究極の問いである。人は強くて、同時に弱くなければならない。人は強くなければ自分の存在を守れない。しかし、それは動物としての生存の維持である。人は、弱くなったとき、他者の心を理解し、真の交わりに入る。古今東西の哲学、宗教、文学を通してこの真実を明らかにする。
  • 吉本隆明という「共同幻想」
    3.0
    吉本隆明は戦後最大の思想家!? 「学生反乱の時代」には熱狂的な読者を生み、多くの言論人が影響を受けた。だが、彼ら彼女らは吉本思想を「正しく」読み取っていただろうか? 「マチウ書試論」、転向論、「大衆の原像」論、『言語にとって美とはなにか』、『共同幻想論』など難解な吉本思想の核心を衝き、特異な読まれ方の真実を説く。補論「吉本隆明に見る“信”の構造」を収録した増補決定版!
  • 読む聖書事典
    3.3
    天地創造、アダムとエバの楽園追放、モーセの十戒、イエスの誕生、最後の晩餐──聖書には有名なエピソードは多いが、その全容はあまり知られていない。本書では多くの人名、地名、用語をとりあげ、物語のつながりや深層がわかるように説く。豊富な図版とともに読めば、西洋・中東文化にいまも色濃く影を落とす歴史の背景が目に見えるように浮かんでくる。巻末には旧約・新約聖書の内容や成り立ちをはじめ、ユダヤ・キリスト教の基礎を押さえられる解説、年表、関連地図などを収録。用語事典としてはもちろん、読み物としても楽しい、聖書入門書の決定版。
  • 読めば分かるは当たり前? ――読解力の認知心理学
    4.3
    読解力は一朝一夕で身につくものではなく、絶えず鍛えていかなくてはならないものです。まずは、自分の読解力の現状や、自分が望んでいるような「読解力がある状態」にどうやったらたどり着けるのか、その道筋を考えます。そして、自分の読解のクセやつまずきを知って、読解力を高めるためにもっともよい練習方法は何か選べるようになる事が重要です。この本を通して、皆さん自身で練習方法を見つけたり、練習方法を編み出すことができるようになってほしいと思います。 【目次】第一章 三つの読解/第二章  読んで理解するための心の「道具」/第三章 文字を読むのは簡単か/第四章 単語を知っているということ――ボキャブラリー/第五章 文の意味を読み解く/第六章 文章全体を把握する/第七章  表象構築のために何ができるか/第八章 心を動かす読解/第九章 状況モデルの批判とアップデート/第一〇章 おわりにーー読解力の地図は描けたか
  • 弱いニーチェ ──ニヒリズムからアニマシーへ
    3.0
    ニーチェは一般のイメージとは異なり、「強い」価値や精神を否定していた。ニーチェの言う「超人」とは、「弱い」方向へと疾駆する、人間の生んだ「高い価値」とは無縁な総合的人間である。超人のなかでは、無数の他者やものやことが闘争しており、その過程で偶発的に生まれる〈あいだのいのち〉を感受して生きること(=アニマシー)こそニーチェが目指したものだった。世界哲学の視点からニーチェを読み直すことではじめて見えてくる生命力あふれる人間像に、混迷の時代を生き抜く新しい力を見出す。
  • ヨーロッパ思想史 ――理性と信仰のダイナミズム
    4.0
    アウグスティヌスからトマス・アクィナスに至って完成した知の体系は、ドゥンス・スコトゥスとオッカムのウィリアムにより解体される。すると、エラスムスやルターが人文主義やプロテスタンティズムを興隆させる。ロックらが近代哲学の基礎を築き、カントとヘーゲルが思想体系を完成させるも、やがてマルクスの社会思想やフォイエルバッハの人間学などで解体される――このように理性と霊性の総合から解体への転換期に新思想が創造されるというダイナミズムに注目し、ヨーロッパ思想史全体を描き出す野心的試み。
  • ヨーロッパ思想を読み解く ――何が近代科学を生んだか
    4.5
    なぜヨーロッパにのみ、近代科学を生み出す思想が発達したのだろうか。それは「この世」の向こう側を探る哲学的思考が、ヨーロッパにのみ発展したからなのだ。人間の感覚器官で接することのできる事物の背後(=向こう側)に、西洋人は何を見出してきたのだろうか。バークリ、カント、フッサール、ハイデガー、ニーチェ、デリダらが繰り広げてきた知的格闘をめぐって、生徒との10の問答でその論点を明らかにし、解説を加える。独自の視点と思索による、思想史再構築の試み。
  • ヨーロッパの死者の書
    -
    エジプトやチベットでは、古代から死に臨む者を安らかに死後の世界へ導くための「死者の書」というものが存在する。固有の「死者の書」をもたないカトリック文化が支配的なヨーロッパが生み出した「死者のためのマニュアル」とは。本書では、オリエントやエジプトの信仰、ケルトの伝承から影響を受けた転生思想や地獄煉獄の系譜から見えてくる「死者の書」の風景をさぐり、黙示録、祈り、聖者伝などキリスト教における智恵の体系を豊富な文献により紹介しながら、魂の癒しを求めつづけるヨーロッパ人の死生観を明らかにする。

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