私的領域よりも公的領域に、そして労働や仕事よりも活動に、人間としての善き生を思い描くアーレントの議論は、ポリス的な生き方(公的領域で人々が交わる)を理想化しすぎでは?という不満はある。
でも、読むといろんな疑問がわいてきて、つまりそれだけいろんな閃きの可能性に満ちていて、興奮ずくめの読書だった。と
...続きを読むくに活動についての第5章は、§24の誕生と始まり、§33の許し、§34の約束など、人間への希望を感じさせる発想がたくさんあって感動した。
むずかしくて分からない箇所も多かったけど、何度も読み返して食らいつきたい。
【疑問リスト】
Q. 公的領域における「現れ」だけがリアリティのすべてなの?
・他人によって見られ、聞かれること=「現れ」が世界と自分自身にリアリティを与える、というふうに言ってしまうと、たとえばレイプ被害者や自死遺族などのように、誰にも言えないし言いたくもない、自分自身思い出したくもないような経験をした人たちの、辛い過去や傷つきにはリアリティがない、と見放すことになってしまわないか?
Q. アーレントは「喜び」についてどんな考えを持っていたのだろう?
・アーレントは「私的なもの」を生命ゆえの必然性や必要の領域として描いているが、「私的なもの」の典型である家は、必然(生命への従属)だけでなく喜び(生命への愛)もあるのでは?
・自然と人間の物質代謝を支える労働ではなく、自然の循環過程に抗して世界を作り上げる仕事=制作の方により高い価値を置いたアーレントは、書く人ではあったかもしれないが、「喜んでオムレツを作る人」ではなかったのかもしれないと思った。労働のくりかえしにだって喜びはある、と個人的には思う。
Q. 書かれたものだけがすべてなの?
・活動、言論、思考は物になる(=書かれる)ことで初めてリアリティを得るという考えは、たしかにその通りだなと思ういっぽうで、書くことを特権視する西洋の知的伝統そのまんまだとも思った。また人間のあり方をめぐって、ギリシャ語やラテン語の語源にさかのぼって考えようとするなど、アーレントの議論にはエリート主義の傾向がひそんでいるように感じられた。
・書かれた歴史の後ろで人知れず世を去っていった数多の無名の人たちの、書かれることのなかった生のリアリティは?
・歴史的資料として残らなかった口承は?
【目次】
プロローグ
第一章 人間の条件
1 〈活動的生活〉と人間の条件
2 〈活動的生活〉という用語
3 永遠対不死
第二章 公的領域と私的領域
4 人間──社会的または政治的動物
5 ポリスと家族
6 社会的なるものの勃興
7 公的領域──共通なるもの
8 私的領域──財産
9 社会的なるものと私的なるもの
10 人間的活動力の場所
第三章 労働
11 「わが肉体の労働とわが手の仕事」
12 世界の物的性格
13 労働と生命
14 労働と繁殖力
15 財産の私的性格と富
16 仕事の道具と労働の分業
17 消費者社会
第四章 仕事
18 世界の耐久性
19 物化
20 手段性と〈労働する動物〉
21 手段性と〈工作人〉
22 交換市場
23 世界の永続性と芸術作品
第五章 活動
24 言論と活動における行為者の暴露
25 関係の網の目と演じられる物語
26 人間事象のもろさ
27 ギリシア人の解決
28 権力と出現の空間
29 〈工作人〉と出現の空間
30 労働運動
31 活動の伝統的代替物としての製作
32 活動の過程的性格
33 不可逆性と許しの力
34 不可予言性と約束の力
第六章 〈活動的生活〉と近代
35 世界疎外
36 アルキメデスの点の発見
37 宇宙科学対自然科学
38 デカルト的懐疑の勃興
39 内省と共通感覚の喪失
40 思考と近代的世界観
41 観照と活動の転倒
42 〈活動的生活〉内部の転倒と〈工作人〉の勝利
43 〈工作人〉の敗北と幸福の原理
44 最高善としての生命
45 〈労働する動物〉の勝利
謝辞
訳者解説
文庫版解説(阿部齊)