志水速雄のレビュー一覧
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アーレントの軽快な文章構成のおかげでスラスラ読み進められるが、一つの言葉に対して特有の意味をもたせる彼女のスタイルに慣れるまでが大変。
本著で考察される労働、仕事、活動という三つの題目が西洋の歴史のなかで、どのようにして各時代を渡ってきたのか、その経緯をアーレントは入念に考察する。
古代ギリシャを筆頭に言語の起源を辿ることで、その「言葉」そのものの語源、根本に立ち返りながら、意味の変遷過程を見据え、現代性を再考し、今一度冷静に捉え直す。
プラトンやソクラテスによってテオリアが活動の上位に置かれ、それ以降の西洋史を大きく支配することに至るが、近代において生産消費の活動そのものがその上位の位置を -
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私的領域よりも公的領域に、そして労働や仕事よりも活動に、人間としての善き生を思い描くアーレントの議論は、ポリス的な生き方(公的領域で人々が交わる)を理想化しすぎでは?という不満はある。
でも、読むといろんな疑問がわいてきて、つまりそれだけいろんな閃きの可能性に満ちていて、興奮ずくめの読書だった。とくに活動についての第5章は、§24の誕生と始まり、§33の許し、§34の約束など、人間への希望を感じさせる発想がたくさんあって感動した。
むずかしくて分からない箇所も多かったけど、何度も読み返して食らいつきたい。
【疑問リスト】
Q. 公的領域における「現れ」だけがリアリティのすべてなの?
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本当に読み応えのある深い本でした。本書は20世紀の哲学者ハンナ・アレントの代表作の一つで1950年代に書かれました。訳者の志水氏も最後に述べているように、どちらかと言えば難解な本ですが、アレントの言葉の定義がわかってくると徐々にスラスラと読めるようになってきます。志水氏が最後に本書の概要をとてもわかりやすく説明されていますが、読者の皆さんはまずは自力で本書を読み進め、最後に自分の理解を補う上で志水氏の解説を読むと良いかと思います。
本書は人間の「活動的生活」を「労働」「仕事」「活動」の3つに分類し、アレント氏がそれぞれを定義づけます。そして人類の歴史(古代ギリシャ以降)において、この3つの序 -
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人間の条件
(和書)2012年01月17日 19:52
1994 筑摩書房 ハンナ アレント, Hannah Arendt, 志水 速雄
最近ハンナ・アレントさんの影響を非常に受けている。
去年、地震があった頃、大杉栄さんの本を読んでいた。そのあたりが奇遇ではあったが、政治哲学というものを自分自身の関係性の中で考えることが必要だと感じるようになった。
僕は政治というものを軽蔑していた。なぜならばナザレのイエスもソクラテスも政治的敗北によって死んでしまったと思っていたからである。どうせ政治的には負けるに決まっていると半ば絶望だと認識していた。しかし自分が生きるなかの関係性において政治的に -
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アーレントのいう「人間の条件」とはつまり、生命それ自体=生命を維持しなければならないということ、世界性=耐久性をもった人工的環境がなければならないということ、多数性=一人一人違った人間が共生しているということ、の3つである。
そして人間はこの3つの条件に基づき、消費物を生産する「労働」、耐久財を製作する「仕事」、公的領域に出現して他者と関係を結ぶ「活動」を行っている。
本書は、「労働」「仕事」「活動」それぞれの特性を、哲学史的背景とともに掘り下げながら、3つのうち何が最も重要だとみなされてきたかという、ヒエラルキーの変遷を記述するものである。
アーレントの議論は時系列に沿って展開するわけではな -
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10年程前に精読し、書き込みなどでかなり痛んでしまったので、今回新たに買い直して再読しました。
私は長年「なぜこんなに辛いのに死んではならないのか?」「なにを心の中心に置けば安心できるのか?」「私はなにのために生きれば良いのか?」といった問いに苦しまされ、若い頃から哲学や宗教などの思想を学んできましたが、この本以上に心にしっくりくる思想には未だに出会ったことがありません。かなりさりげなくですが、アレントも指摘している通り、あらゆる哲学は、それぞれに参考になり面白みもあるけれど、結局は都合の良い究極の真理(=神)を創造しているに過ぎないようにしか思えないからです。宗教も同じことですが、それはただ -
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読み終わるのに3ヶ月ぐらいかかった。
本書の内容は殊更に述べる必要もないだろう。人間の活動力を労働、仕事、活動(言論など人々の間で行われるもの)に分け、今日は人々が種々の利害に囚われず活動する公的領域がなく、労働だけが支配し、人々が政治に参加せず(=活動せず)ただ生産と消費に終始する虚しい社会になったよね、という話。
僕が注目するのは、以下のようなことである。
アレントは、ただ食っちゃ寝の「労働」の虚しさから人を救うのは永続する世界を作り出す仕事で、何のために作るんだかわからない「仕事」の虚しさから人を救うのは物語を作り出す「活動」であるという。
そして、注目すべきは(あとがきでもスルーされ -
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少しだけ読むのは難解だが、通読すれば、得るものが多い。
労働と仕事と活動。それぞれの言葉をこれでもかというぐらい腑分けし、精緻にその語の深奥から展開していく。
普段、私は言葉に無自覚であることを本書で思い知った。
アレントは、古典とりわけプラトンなどのギリシャ哲学や、ラテン語などの語源的な意味と、語彙をめぐる歴史的な変遷に照らし合わせながら、言葉の意味を現代に照射している。
読後は、悟ったような清々しさはないが、それがアレントの言いたかったことだろう。つまり、何かを抽象化、それが生命尊重であれ、語った瞬間にこぼれ落ちるものがある、ということ。
カント、マルクスをはじめとする -
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何度くり返し読んでも新しい発見がある本です。それだけ難解ともいえますが。「公的領域と私的領域」で古代ギリシア・共和制ローマに政治の理念型を見いだしている点、activityの最後の章actionで言論speechへの言及が多い点から、議論と説得、つまり公共性の先駆的理論家、というのが通説になっています。ですが、アーレントは過去に郷愁をいだくような人とは思えませんし、現実を鋭く見つめる研究者です。語られた言葉は、その瞬間に生きた精神を失い、人間世界の不死性にかかわるには、記録された死んだ文字だという記述があります。信条を異にする人を説得するのは容易ではありません。『人間の条件』は、お話し合いで解
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公的領域。活動。言論活動で政治生活。差異をもった他者との対話。集会での発言。言葉で説得。各個人の経済利益の調整ではなく、共通の利益や関心について話し合う。自分がだれであるかを示す開かれた場。多様な意見をもつ人々が自発的に政治に関わる。政治に自ら積極的に参加し、公共的な役割に身を投じ、戦争のときには国のために勇敢に命を捧げる。スポットライトを浴びる場。自らの卓越さをしめす場。素晴らしい領域。人はポリス的動物(アリストテレス)。言葉を発することのできる存在。古代ギリシアのポリス素晴らしい▼しかし、経済論理で動く政府、政治の大衆化が公的領域を侵食し始めた。社会的領域。大衆の世界。画一主義(全体主義の
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Posted by ブクログ
(01)
一義的には労働批判であり,特に近代の人間の条件として現れた労働についての批判である.しかし,射程は宇宙的であり,地球規模をも超えており.個と全体との間にある様相を世界として,活動と仕事という人間の他の条件により,労働に並置して,批判を企てている.
古代ギリシア(*02)の市民文化を説き起こし,近代英語の語幹に残る原義を用い,デカルトやマルクス,あるいはハイデッガーを越える議論を目論んでいる.宗教,経済はもちろん,政治や権力,そして科学の姿をひととおり描いたうえで,家や個人,プライバシーの領域にも縦横無尽に切り込んでいる.
芸術や歴史,あるいは倫理,そして愛や救済についても筆は及んでお -
Posted by ブクログ
人間の条件 ハンナ・アレント ちくま学芸文庫
政治思想家と言う触れ込みだけれど
哲学者と言うべきだと思う
しかし法律書を読むように気の重い文章である
単語がシックリとこないしクドイ
それでも内容に惹かれて五百ページも読むことになる
プルードンの格言に
「財産とは盗みなり」とあるという
しかも彼は財産をすべて人間社会から
取り上げてしまうことで
暴政を発生させてしまうことの方を恐れたとある
コレこそ何とかしなければならない
パラドキシカルで皮肉な話だ
視野を広げた意識の成長によって邪な自らを
管理する方法を編み出せるはずであると思う
(私とあなたが双方に選び合うことで出合いが起こる
個と集