志水速雄のレビュー一覧
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第1章 人間の条件
[要旨]
〈活動的生活〉は人間の3つの基本的な人間の条件である、労働・仕事・活動を示すものである。その中核は、不死への努力である。一方で、それと本性上矛盾する形であるのが、〈観照的生活〉である。これは、絶対的な「静」を理想としており、永遠なるものの経験をその中核にもつ。そして、ローマ帝国の没落や永遠なる個体の生命を説くキリスト教の福音が、西洋人の排他的な地位を占めるようになったという2つの事件を通して、不死への努力が空虚なものとなったことで、前者は後者の侍女となり下がってしまった。近代がこうした伝統と訣別し、ヒエラルキーの転倒がマルクスとニーチェによって行われたが -
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この本は、生き甲斐を考える上での思考の土台を作ってくれる。自分探しの前に読むべき。
人間の条件を、「労働」「仕事」「活動」の三点から、数多くの思想家の言葉や書物や当時の科学の発見を引用しながら、淡々と現したものである。その幅は広く、そして深い。理解に達しているとは言い難く、これから何度も読むことになりそうだ。
結局のところ、どう生きるかは、どう世界を捉えるかとほぼ同義である。故にその前提を何処に置くかが重要である。生物学的にヒトだとしても「人間の条件」を必ずしも有しない、というのがこの本の言いたいことでもある。
友情ものの物語では、「ヒトは一人では生きていけない」という思考停止ワードだけで終わ -
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本書では、「活動的生活」の中核たる不死への努力を浮き彫りにしている。第1章によれば、「活動的生活」は、労働、仕事、活動という三つの活動力からなる。第2章によれば、かつてポリスでは家族という私的領域を前提とし、その上に公的領域での政治的活動は展開されていた。しかし、公的でもなく私的でもない社会的領域が近代に勃興したという。第3章の議論によれば、「労働」とは、生命維持の必要物を生産するための活動であり、マルクスのようにこれを「仕事」と混同すべきではない。第4章は、「仕事」を扱っている。「仕事」とは、耐久性のある物をもたらす行為であり、これが活動や言論が存続するための条件となる。第5章によれば、「活
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500頁を超え、さまざまなテーマやアイデアが布置されているこの著書をレヴューするのは難しい。
観照(理論)と対照させながら、〈活動的生活〉内の、労働、仕事、活動の推移を見るというのが概略。
第1、2章の読みにくさを通り越せば、いくらかアレントの言いたいことが視えてくる。
神を利用する必要のなくなったあとの哲学書は、別のところに人間の行動の根拠や目的、担保を求めなければならず、
アレントのそれへの応答が〈約束〉や〈許し〉なんだろうけど、代置された概念は、なんと脆くみえることだろうか。
それが人間のもつ困難だ。
そのことからか、アレントは仕事に依拠した科学への関心を示しているんだろう。
活動、 -
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名著だと思う。ハイデガー・ブルトマン・ヤスパース等に薫陶をうけながらも、ナチスの台頭によって、フランスへ逃れ、ユダヤ人として収容所暮らしもしたアレントが、国を失った人間の「生存の恐怖」を感じながら、亡命先のアメリカで1958年に上梓した政治哲学の書である。テーマは「私たちが行っていること」を理解することで、文中では「どうすべきか」という主張を抑制しているが希望も語っている。全体として、西洋古典文明・キリスト教・デカルトの懐疑・ガリレオの科学革命などの分析を通し、生命観・宗教・科学などを分析し、これらの営みが深く政治に関わっていることを指摘している。人間の行動は「労働」(生存のため消費されすぐに
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これはいい本だと思う。広く勧めたい。
しかし、かと言ってここでのハンナ・アレントの思想に深く共感できるわけではなく、そもそも彼女の思想は私には非常に隔絶したところから不意にやってくる「他者の声」にすぎない。それでも、この本は素晴らしく豊かな示唆に満ち、読者に沢山の思考をもたらすだろう。考えさせてくれる本である。
ただし、論述が下手なせいもあり、また、発想があまりに独創的なせいもあって、少々わかりづらいかもしれない。たとえばアレントは「活動力」を「労働」「仕事」「活動」の3つに分けるのだが、「労働 Labor」と「仕事 work」の違いは、どうもわかるようでわからない。
先が見えない(論旨のみと -
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1958年、ユダヤ系ドイツ人であるハンナ・アレントによって出版された政治理論を扱う英語版の訳書。彼女自身、ユダヤ人であるという偶然性によってナツィによる迫害を受けた経験をもつため、人間は先天的な要素ではなく後天的で自発的な行動が見止められる存在であろうと説かれている。
アレント思想のその後の軸ともなる用語-例えば「労働labor」「仕事work」「活動action」-はたくさん出てくる。けれども、ここで強調されるのは、人間が、有機体として種の生命を担うと同時に、個人として独自的な生も担い、誰一人として同じ人間などいないということ。『人間の条件』では、そのような人びとが、それぞれの独自性を保ちな -
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現代では、人が「必要」から解放され、自由のままに自分が自分であることを表現できる「公的領域」が無くなってしまっている
■本書のメッセージ
・人間は「労働」「仕事」「活動」という3つの活動力で、人間は環境に関わる
・かつてギリシアのポリスにおいては、「活動」が公的領域でなされた。言論によって、自分が何者であるか、他者と異なるということを示していた
・しかし、現代にかけて、公的領域は消滅した。人間の自由な活動は無くなり、生命維持のための必要にかられた労働偏重の世界となっている
・公的領域は無くなり、私的領域が全体に拡大しつくした現代において、本当に、個人本来が自由に生き、行動をすることは極めて困