講談社文芸文庫作品一覧

  • 雲は天才である
    -
    詩や短歌では叙情味あふれる作品で天性の才能を発揮し、矛盾に満ちた明治という時代への鋭い考察も相俟って今もなお熱烈な読者を持つ石川啄木が心血を注いだ小説。故郷・渋民村の高等小学教の教員時代に書き出され、青年たちの鬱屈と貧しき者、弱き者の心に共振していく初期短篇三作と、唯一新聞に連載された中篇を収録し、短い生涯を駆け抜けた啄木文学の可能性を提示する。
  • 雲・山・太陽 串田孫一随想集
    3.0
    哲学、文学、音楽、美術など、多方面のジャンルにわたる厖大な著作から、山行と旅に関わる芳醇なエッセイを収録。さりげなく、平易、明晰な言葉で語る、人と自然との関係・対話、深い思索と瞑想、その豊かな叡知の世界。「春の富士」「北穂高岳」「遠い未来の山人に」「風光る日」など、若き日から60年を越える、独創的山の文学の精髄。哲学者・詩人・希有な登山家・串田孫一の、山と旅の随想集。
  • 暗い絵・顔の中の赤い月
    3.6
    新人・野間宏、戦後日本に颯爽と登場――初期作品6篇収録のオリジナル作品集 1946年、すべてを失い混乱の極みにある敗戦後の日本に、野間宏が「暗い絵」を携え衝撃的に登場――第一次戦後派として、その第一歩を記す。戦場で戦争を体験し、根本的に存在を揺さぶられた人間が、戦後の時間をいかに生きられるかを問う「顔の中の赤い月」。ほかに「残像」「崩解感覚」「第三十六号」「哀れな歓楽」を収録する、実験精神に満ちた初期短篇集。 ――草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ雪風が荒涼として吹き過ぎる。はるか高い丘の辺りは雲にかくれた黒い日に焦げ、暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに黒い漏斗形の穴がぽつりぽつりと開いている。その穴の口の辺りは生命の過度に充ちた唇のような光沢を放ち、堆い土饅頭の真中に開いているその穴が、繰り返される、鈍重で淫らな触感を待ち受けて、まるで軟体動物に属する生きもののように幾つも大地に口を開けている。
  • 暗い流れ
    -
    ハレー彗星が地球に大接近し、湯河原で幸徳秋水が逮捕された明治43(1910)年、著者5歳から書き起こし、関東大震災の翌年、田舎の代用教員を辞し東京に出て地元の有力者の書生となった大正13年20歳を目前にする頃までを、北海道の原野を背景に描く自伝小説。抗し難い性の欲望に衝き動かされた青春の日々を独得の語り口で淡々と綴る傑作長篇。日本文学大賞受賞。
  • 黒い裾
    4.0
    千代は喪服を著(き)るごとに美しさが冴えた。……「葬式の時だけ男と女が出会う、これも日本の女の一時代を語るものと云うのだろうか」――16歳から中年に到る主人公・千代の半生を、喪服に託し哀感を込めて綴る「黒い裾」。向嶋蝸牛庵と周りに住む人々を、明るく生き生きと弾みのある筆致で描き出し、端然とした人間の営みを伝える「糞土の墻」ほか、「勲章」「姦声」「雛」など、人生の機微を清新な文体で描く、幸田文学の味わい深い佳品8篇を収録した第一創作集。
  • 黒髪 別れたる妻に送る手紙
    4.3
    京都の遊女に惹かれて尽し、年季明けには一緒になろうとの夢が、手酷く裏切られる顛末を冷静に書いた「黒髪」。家を出てしまった妻への恋情を連綿と綴る書簡体小説の「別れたる妻に送る手紙」と、日光までも妻の足跡を追い捜し回るその続篇「疑惑」。 明治9年、岡山に生まれ、男の情痴の世界を大胆に描いて、晩年は両眼ともに失明、昭和19年没した破滅型私小説作家の"栄光と哀しみ"。
  • 群棲
    4.0
    向う三軒両隣ならぬ“向う二軒片隣”の四軒の家を舞台とし、現代の近郊の都市居住者の日常を鋭く鮮かに描き出す。著者の最高傑作と評され、谷崎潤一郎賞も受賞した“現代文学”の秀作。
  • 慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り 漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨とその時代
    4.0
    夏目漱石、宮武外骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾崎紅葉、斎藤緑雨の七人がみな、幕末維新動乱真っ只中の慶応三年生まれの同い年だということに、著者が興味を感じ続けてきたことからすべてが始まる。明治期の文学に造詣の深い著者が膨大な文献を渉猟することで浮かび上がってきた、七人の傑物たちの姿や相互に絡み合う関係を生き生きと筆致で描くことで、明治初期から日清戦争までの時代を鮮やかに浮かび上がらせる本書は、2001年講談社エッセイ賞を受賞した。鋭い批評性を保ちながらも、ひたすら頁を繰っていきたくなる面白さに満ちた文芸評論の傑作。
  • 鶏肋集/半生記
    4.0
    子守り男に背負われて見た、花の下での葬式の光景。保養先の鞆ノ津で、初めて海を見た瞬間の驚きと感動。福山中学卒業と、京都の画家橋本関雪への入門志願。早稲田大学中退前後の、文学修業と恋の懊悩。陸軍徴用の地マレー半島で知った苛酷な戦争の実態。明治31年福山に生れ、円熟の作家が心込めて綴った若き日々・故郷肉親への回想の記。
  • 拳銃と十五の短篇
    4.8
    うわべは優雅な村人であった亡父の形見の6連発拳銃。母の心臓に、雷に打たれたようにある6つの小さい深い穴。さりげない筆致と深く暖かな語りのうちに、生きることへの声援をおくる三浦哲郎の鮮やかな短篇連作の世界。野間文芸賞受賞。
  • 芸者小夏
    -
    故・丸谷才一氏が愛した、花柳小説の金字塔――温泉芸者の子に生まれ、水商売の中で育った夏子。この宿命の絆を断ち切りたいと希いながらも、外に道はなく、夏子は15で芸者小夏となった。純情を捧げた初恋の教師に裏切られ、夏子は日ましに「女」になっていく……。若き日に色町に親しみ男女の機微を知る著者が、戦後の脂の乗りきった時期に書き継ぎ、「夏子もの」として人気を博した連作小説の第1作。
  • 原色の呪文 現代の芸術精神
    5.0
    独創的な芸術作品のみならず、優れた芸術論やエッセイも多数遺した岡本太郎。1968年刊行の『原色の呪文』から、現代芸術に関する文章を抜粋、「黒い太陽」「わが友、ジョルジュ・バタイユ」「対極主義」「ピカソへの挑戦」「坐ることを拒否する椅子」「芸術の価値転換」「モダーニズム克服のために」などを収録。若き芸術家たちに絶大な影響を与えた芸術論の名著。
  • 現代詩試論/詩人の設計図
    -
    「折々のうた」で知られた大岡信の評論活動は、二十二歳の時に書かれた『現代詩試論』から始まった。詩人として、詩と信じたものの中でつかんだ言語感覚を、そのまま文字にたたき込む努力をした。散文でどこまで詩の領域に近づけるか、拡大できるか。『詩人の設計図』は、「エリュアール論」から、鮎川信夫、中原中也、小野十三郎、立原道造、パウル・クレー等へ及ぶ詩論。
  • 現代詩人論
    -
    大正末期から戦後まで、混迷の時代の中で輝かしい光を放った詩人たち――西脇順三郎、金子光晴、中野重治、中原中也はじめ、「四季」の三好達治、立原道造、戦後「荒地派」の鮎川信夫、田村隆一さらに清岡卓行、谷川俊太郎に及ぶ、23人の魅力の源泉に迫る。「詩」と「批評」という二筋道を、一筋により合わせ得る道を自らの内に探求してきた著者の、刺激に満ちた詩人論。現代詩を語る上で、必読の詩人論が誕生した!
  • 現代文士廿八人
    -
    中村武羅夫が文壇に名を売り出すきっかけになったのは雑誌『新潮』に明治41年(1908)からほぼ毎月発表した「作家訪問記」でした。今日風にいえば「直撃取材」し、そこで得た個人的印象、いわば「独断と偏見」を臆面もなく堂々と記したことで、読者の反響を呼び起こしたのです。 本書はその連載を書籍化したもので、版元を変えながら刊行されつづけた隠れたベストセラーであり、明治の文壇を知る好資料です。
  • 舷燈
    5.0
    海軍予備学生に志願し従軍した牧野の青春は敗戦とともに打ち砕かれた。心は萎えていた――身内に暗い苛立ちを棲みつかせ、世間に背を向け頑なに生きる男。短気で身勝手で、壮烈な暴力をふるう夫に戸惑い反撥しながらも、つき従う妻。典型的な夫婦像を描く作品の底に、亡き戦友への鎮魂の情を潜め、根源的な哀しみを鋭く突きつける傑作。
  • 恋と日本文学と本居宣長・女の救はれ
    4.0
    『忠臣藏とは何か』『日本文学史早わかり』と並ぶ、丸谷才一の古典評論三部作。中国文学から振り返って、『源氏物語』『新古今和歌集』という日本の文学作品を検証した孤立無援の本居宣長の思考を蘇らせ、さらにはその視点で近代日本文学をも明確に論じる。女系家族的な考えから日本文学を俯瞰した「女の救はれ」を併録した『恋と女の日本文学』を発表時の題に戻し刊行。
  • 恋人たち/降誕祭の夜 金井美恵子自選短篇集
    3.0
    言葉の町を歩き、言葉のシーツにくるまれ、言葉の包帯を巻いて、あるいは言葉の肉料理を食べ、そして言葉の性交を行う――言葉だけで出来た建物の中で、肉体、時間、空間、世界、あらゆるものを生成する無数の言葉と戯れる陶酔。衝突を繰りかえす豊穣なイメージを道しるべに、著者自らが選んだ短篇集、第二弾。
  • 公園 卒業式 小島信夫初期作品集
    -
    著者十六歳、岐阜中学校校友会誌に掲載された小品から、昭和二十年代までの初期作品を集成。第一高等学校時代の透明感溢れる心象風景を綴った伝説的佳品「裸木」や、同人誌「崖」に発表された「往還」「公園」などの戦前作品、また、著者固有のユーモアの深淵を示す「汽車の中」「卒業式」「ふぐりと原子ピストル」など、〈作家・小島信夫〉誕生の秘密に迫る十三篇を収録。
  • 甲州子守唄
    3.8
    「笛吹川」の現代版 庶民の無常の世界を独特の語りで描いた世捨て人の文学 明治末から大正、昭和と三代にわたる日本近代の歩みが、笛吹川のそばに住む貧しいオカア一家を舞台に展開する一大ロマン。生糸の暴落と農村の貧窮、明治天皇の崩御、関東大震災、戦争と出征、空襲と食糧難、敗戦とヤミ商売――その間には息子・徳次郎の二十年近くのアメリカへの出稼ぎがあり、薄情者となって帰国した息子とその一家をオカアの眼差しから描く。土俗的な語りによる時代批判。
  • 口福無限
    4.0
    「人間共通の口福に対する貪欲がなくならない限り、食愛による発明は無限に続くだろう。そして大きく展けるだろう。」梔子や薔薇や牡丹の二杯酢<花肴>、胡麻油粥に金木犀の花びらをふりかけた<心平粥>、鶏卵の黄身の味噌漬け<満月>、海老のしっぽや魚の骨へのこだわり……。酒と美味を愛した昭和の大詩人・草野心平が、生活の折々に親しみ味わった珍味美肴の数々を詩情で掬って綴る、滋味溢れるエッセイ集。
  • 木枯の酒倉から・風博士
    3.0
    はたから見ると何をしているのか、と疑われるような青春。内部では、いかに壁を破れるか、と深く呻吟している青春。人生的に、文学的に必要以上の重荷を敢えて背負い、全人生的、全文学的な苦吟の果て、初期坂口安吾は誕生する。苦吟の果ての哄笑、ファルス。「木枯の酒倉から」「風博士」「黒谷村」「竹藪の家」等、初期安吾を代表する秀作を収録。
  • 刻

    3.0
    二つの国と二つの言語。夭逝した芥川賞作家の内面の葛藤を描く長篇小説――若くして亡くなった、在日韓国人女性作家。日本で生まれ育ち、韓国人の血にわだかまりつつも、日本人化している自分へのいらだちとコンプレックス。母国に留学し直面した、その国の理想と現実への想い。芥川賞作家の女の「生理」の時間の過程を熱く語る長篇と、「私にとっての母国と日本」という1990年にソウルで、元原稿は直接韓国語で書かれた講演を収録。 ◎アイデンティティを追求した李良枝の私小説は、「目に見えない」心のミステリーを解明しようとした鮮烈なテキストなのである。日本から、見知らぬ「母国」へやってきた「刻」の主人公は、だから、母語ではない母国語の文字の前で落ち着きを失う。その「私」の1日においては、だから、一刻一刻、親近感と距離感の間で心のゆらぎを覚えて、最終的には選ぶことができないのだろう。<リービ英雄「解説」より>
  • 告別
    3.6
    告別への予感はその時もう生まれていた筈だ。しかしそれはもっと以前に、もっともっと遠い昔に既に生まれていたのかもしれない――異国で識り合った女・マチルダとの深い愛を諦め妻と2人の娘のいる家庭へ戻った上條慎吾。娘・夏子の自殺、上條の死、二つの死は響き合い世界は暗く展かれてゆく。福永武彦の代表的中篇小説「告別」、「形見分け」を併録。
  • 試みの岸
    3.5
    馬喰・十吉は、海への憧れを一艘の貨物船に託した。一族の悲劇はそこに始まる。甥の余一は、崖から落ちる十吉の愛馬アオに変身し、港町で従姉・佐枝子が自死したという噂を耳にした。駿河湾西岸地方を舞台に、運命に試される純粋な人間の行為を「光と影」の綾なす世界に、鮮やかに刻印する3部作。
  • 故人
    -
    自分を文学の世界に導いてくれた、兄のように慕う先輩作家が、原稿を郵便で出した帰途、トラックに轢かれ死んだ。理不尽な死を前に混乱、自失する家族や友人たち。青年は深い喪失感を抱えながら、社会との折り合いに惑い、生と死の意味を問い続ける。三四歳で早世した山川方夫の人生を、彼の最も近くで生きた著者が小説に刻んだ鎮魂の書。
  • コチャバンバ行き
    4.0
    安穏・安全な「生」とは何か? 読売文学賞受賞の明篇――湘南で多少の土地を持ち、家を貸して自適生活する主人公。妻は仕事で不在がち。「安全な生活」とは何か……。元上司との様々なやりとりのあと、上司は妻を失う。南米・ボリビアでのバスの乗客の、何の苦痛もない死……。ささやかな生活の描写の中に、人生の哀歓をつむぎ出す、永井龍男独自の「美学」の結晶。『皿皿皿と皿』を併録。読売文学賞受賞作品。
  • この百年の小説 人生と文学と
    -
    西欧文学に100年以上遅れて出発し、そのエッセンスを学びながら追いかけてきた日本の近代文学。明治期の誕生以降、発展を続けているその歴史を、漱石、鴎外、露伴、谷崎、芥川、川端、三島、大江、石原らの代表的な作品を取りあげながら概観し、青春、恋愛、少年、心理、老年、歴史等々、「人生と文学」の断面から照射した、壮大かつ心揺さぶる精神のドラマ。博覧強記の小説家が遺した名著。
  • 湖畔 ハムレット 久生十蘭作品集
    4.2
    女装、泥酔、放火――、模範少年はなぜ一見、脈絡のない事件を起こしたのか? 少年の心理を過去現在の交錯する戦後空間に追い、母と息子の残酷極まりない愛の悲劇に至る傑作「母子像」(世界短編小説コンクール第一席)、黒田騒動に材を採り破滅に傾斜する人間像を描破した「鈴木主水」(直木賞)等、凝りに凝った小説技巧、変幻自在なストーリーテリングで「小説の魔術師」と評される十蘭の先駆性を示す代表的7篇。
  • 小林秀雄
    4.3
    人は詩人や小説家になることができる。だが、いったい、批評家になるということは、なにを意味するであろうか(本文より)ーー中原中也、富永太郎らとの交友関係、未発表の書簡や広汎にわたる資料を駆使して、小林秀雄の批評の成立、構成、その精神に迫る。『夏目漱石』『作家は行動する』などで出発した批評家・江藤淳の自身への問いは、確固たる地位を築く記念碑的評伝となった。新潮社文学賞受賞。
  • 小林秀雄と中原中也
    -
    現実よりも自身の裸の心を守り抜こうとした詩人と、その世界に深く共感するがゆえに背反せざるをえない知性で武装された批評家――。「自分が人間であることのすべてを負っている」と言うほど絶対的な影響を受けた中原中也の特異な生の在り様を「内部の人間」と名付け、小林秀雄の戦後の歩みに「ヴァニティ」(中原中也)を超えた人間探究の軌跡を見出す、秋山駿の出発点。
  • 金色の死
    3.5
    潜在的な<妻殺し>を断罪 江戸川乱歩の「パノラマ島綺譚」に影響を与えたとされる怪奇的幻想小説「金色の死」、私立探偵を名乗る見知らぬ男に突然呼びとめられ、妻の死の顛末を問われ、たたみ掛ける様にその死を糾弾する探偵と、追い込まれる主人公の恐怖の心理を絶妙に描いて、日本の探偵小説の濫觴といわれた「途上」、ほかに「人面疽」「小さな王国」「母を恋ふる記」「青い花」など谷崎の多彩な個性が発揮される大正期の作品群7篇。 清水良典 『小さな王国』のような政治小説も、探偵小説も、怪奇幻想小説も、足フェチ小説も、母恋い小説も、みんな谷崎文学という偉大な大樹の、大正期の枝に生った果実である。昭和に入って谷崎文学は急速に日本の伝統に近づき、大家として飛躍的な成長を遂げた。(中略)谷崎の大正期は、決して失われた時代ではない。むしろ作家谷崎が、全力を傾けて拡大と成長に努めた時代だったのであり、その土台が彼を「大谷崎」へと押し上げたのである。――<「解説」より>
  • 紺野機業場
    -
    芸術選奨受賞の聞き書長篇。淡々と綴る浄福の世界――北陸の海端の、さびしい河口の町。快活で研究心に富み、情に厚く飾り気のない人柄の、小さな織物工場を営む老主人・紺野友次。家族の消息やありふれた日常の中に、年中行事、信仰、習俗などにささえられた、100年にも及ぶ一族の歴史が描かれ、懐かしい日本の原風景が刻される。地方に生活する人々の真情を淡々と綴る浄福の世界。芸術選奨受賞作品。
  • 崑崙の玉/漂流 井上靖歴史小説傑作選
    -
    中国の古代から人々が執心してやまない「玉」の産地として聞こえた、誰も知らない崑崙山を目指して黄河の源流へと遡っていく一行に襲いかかる苦難の行方を描いた「崑崙の玉」。著者の独擅場とも言うべき西域・中国もののみならず、戦乱の世において非運に倒れた武将たちの運命を見据えた戦国もの等も収録。透徹した視線と自在な筆致が冴える傑作短篇集。
  • 五月巡歴
    -
    突然舞い込んだ「メーデー事件第二審の証人として法廷に出て頂きたくお願い申し上げる次第であります」との手紙。20年前の己れの遠い過去の甦りに、怯えを隠せぬ男の、同時に捲き込まれる現勤務先での一就業規則違反事件。昭和27年、高揚するメーデーのデモ隊に加わって、皇居前広場に乱入し逮捕された者、逃げ惑った学生らのその後の時間の重みと心の傷の襞を鮮烈に追う長篇力作。
  • 獄中十八年
    -
    敗戦直後の、あらゆる価値が崩壊したかに見えた世相にあって、徳田球一と志賀義雄の「獄中十八年、非転向」がどれほど眩しく見えたか。それは多くの若者や文学者が続々と入党したことからも明らかです。共産主義者としての来し方を述べた本書は、親しみやすい語り口もあってベストセラーとなりました。多分に政治的文書であると同時に、ある時代の息吹を伝えるすぐれた文学的回想として文芸文庫に収録するゆえんです。
  • 極楽 大祭 皇帝 笙野頼子初期作品集
    -
    群像新人賞「極楽」を含む最初期の作品三篇。地獄絵を描くことを人生の究極の目的とした男の心象を追求した「極楽」、現実からの脱出を願う七歳の子供の話「大祭」、初期の代表作「皇帝」。著者の原点三篇を収録。(講談社文芸文庫)
  • 五勺の酒・萩のもんかきや
    3.0
    たった5勺の酒に酔う老教師の口舌の裡に、天皇制を批判する勢力の既にして硬直し始めた在り方を、痛罵し、昭和20年代の良心としての存在を確立した名篇「五勺の酒」をはじめ、萩の街の中で、見出した戦争の傷跡を鮮烈に描き出した「萩のもんかきや」など12の名篇。中野重治の詩魂と精神の結晶とも呼ぶべき中短篇集。
  • ゴットハルト鉄道
    4.4
    “ゴット(神)ハルト(硬い)は、わたしという粘膜に炎症を起こさせた”ヨーロッパの中央に横たわる巨大な山塊ゴットハルト。暗く長いトンネルの旅を“聖人のお腹”を通り抜ける陶酔と感じる「わたし」の微妙な身体感覚を詩的メタファーを秘めた文体で描く表題作他2篇。日独両言語で創作する著者は、国・文明・性など既成の領域を軽々と越境、変幻する言葉のマジックが奔放な詩的イメージを紡ぎ出す。
  • ゴーギャンの世界
    5.0
    なぜ、35歳の富裕な株式仲買人ポール・ゴーギャンが、突然、その職を投げ打って、画家をめざしたのか? 「野蛮人」たらんとした文明人、傲岸と繊細、多くの矛盾、多くの謎をはらんで、「悲劇」へと展開するゴーギャンの「世界」。著者の詩魂が、ゴーギャンの魂の孤独、純粋な情熱、内なる真実と交響する。文献を博渉し、若き日の「出遇」から深い愛情で育んだ、第一級の評伝文学。毎日出版文化賞受賞作。
  • ゴーストバスターズ 冒険小説
    4.0
    謎のゴーストを探し求めてアメリカ横断の旅に出るブッチ・キャシディとサンダンス・キッド。そしてBA-SHOとSO-RAもアメリカを旅し、「俳句鉄道888」で、失踪した叔父を探すドン・キホーテの姪と巡り合う。東京の空を飛ぶ「正義の味方」超人マン・タカハシは、ついにゴーストからの呼び出しを受ける……。隠されたゴーストの正体とは? 時空を超え、夢と現を超え、疾走する冒険小説。
  • 西海原子力発電所/輸送
    -
    原子力発電所をかかえる閉鎖的な地域社会のなかで起きた一件の不審火。原発の危険性と経済的依存との葛藤を劇的に描きつつ、〈原爆文学〉と〈原発文学〉とを深く結びつけた記念碑的労作「西海原子力発電所」。チェルノブイリ原発事故を受け、核廃棄物輸送事故による被爆と避難生活がもたらした生活の破壊と人間の崩壊を予言した「輸送」。3・11でフクシマ原発事故を経験した現在から、先駆的〈核〉文学はいかに読み解かれるか。
  • 西行論
    4.0
    若年のある時、在俗の名門武士が不明の動機で出家遁世した。真言浄土の思想に動かされながら、同時代の捨て聖たちとは対照的な生きざまを辿り、詩歌を通じてしか、いっさいの思想を語らなかった――西行とは何ものであったか。豊潤な感性を強靱な論理で見事に展開する西行論。「僧形論」「武門論」「歌人論」の3部構成で西行の〈実像〉に鋭く迫る!
  • 才市・簑笠の人
    -
    念仏に生き、83歳で一生を終えた、下駄職人・浅原才市。下駄作りの際に出るかんな屑に書き残した、1万首に及ぶ信仰の歌……。「わしのこころわ わやわやで/くもともとれの/きりともとれの/かぜともとれの」……無名の庶民の営為に心惹かれて、その謎めく生涯を深く追究した、伝記小説「才市」。一所不住・清貧孤独に徹した良寛の境涯に迫る「蓑笠の人」。信仰を主題の力作2篇。
  • 砂丘が動くように
    3.0
    海沿いの砂丘のある町にやってきたルポライターの男が、少年に誘われ迷い込んでゆく奇妙な町の夜と昼の光景。超能力を持つ少年と盲目のその姉。女装する美しい若者。夜の闇に異常発生する正体不明の無数の小動物キンチ。刻々に変化して砂防林にも拘らず死滅へと向かう砂丘。現代人の意識の変容を砂丘の物質のイメージに托しつつ未来宇宙への甦りを象徴させる。第22回谷崎潤一郎賞。
  • 桜 愛と青春と生活
    -
    六尺二十貫、ロス五輪、ボートの日本代表選手・田中英光。太宰治を敬愛すること深く、太宰の逝った翌年、文化の日、三鷹禅林寺の太宰の墓前にて自裁。巨大な体躯をもてあますような傷つきやすい魂を持ち、純粋に、戦中・戦後を生きようとして果てた著者の初期秀作「桜」、また、結婚までの青春の錯綜を描く「愛と青春と生活」。
  • 桜の森の満開の下
    4.0
    なぜ、それが"物語・歴史"だったのだろうか――。おのれの胸にある磊塊を、全き孤独の奥底で果然と破砕し、みずからがみずから火をおこし、みずからの光を掲げる。人生的・文学的苦闘の中から、凛然として屹立する"大いなる野性"坂口安吾の"物語・歴史小説世界"。
  • 酒と戦後派 人物随想集
    -
    「近代文学」創刊同人(荒正人、平野謙、佐々木基一、小田切秀雄、山室静、本多秋五)、藤枝静男、野間宏、原民喜、堀辰雄、椎名麟三、梅崎春生、高橋和巳、三島由紀夫、大江健三郎、安岡章太郎、辻邦生、石川淳、中村真一郎、武田泰淳・百合子、竹内好、丸山真男、渡辺一夫、大岡昇平他。20世紀日本を代表する文学者をユーモラスに、時に感動的に素描する。戦後派屈指の文章の上手さ、描写の確かさ、知的センスに舌を巻くはず。
  • 叫び声
    4.1
    新しい言葉の創造によって"時代"が鼓舞される作品、そういう作品を発表し続けて来た文学者・大江健三郎の20代後半の代表的長篇傑作『叫び声』。現代を生きる孤独な青春の"夢"と"挫折"を鋭く追求し、普遍の"青春の意味"と"青春の幻影"を描いた秀作。
  • ささやかな日本発掘
    3.0
    東京日本橋の地下鉄ストアで見つけた乾山の5枚の中皿。古道具屋で掘り出した光琳の肖像画。浜名湖畔の小川で、食器を洗っていた老婆から譲り受けた1枚の石皿。その近くの村の、農家の庭先にころがっていた平安朝の自然釉壺……。美しいものとの邂逅が、瑞々しく生々と描かれる名随筆26篇。読売文学賞受賞。
  • さざなみの日記
    4.3
    平凡にひそやかに生きる女たちの心のさざ波……「明るく晴れている海だって始終さざ波はあるもの、それだから海はきらきらと光っている。」――手習いの師匠を営む母と年頃の娘、そのひっそりと平凡な女所帯の哀歓を、洗練された東京言葉の文体で、ユーモアをまじえて描きあげた小説集。明治の文豪・幸田露伴の娘として、父の最晩年の日常を綴った文章で世に出た著者が、一旦の断筆宣言ののち、父の思い出から離れて、初めて本格的に取り組んだ記念碑的作品。
  • さして重要でない一日
    4.5
    未知の空間、会社という迷路を彷徨う主人公。トラブル、時間、おしゃべり、女の子、コピー機。著者独特の上品なユーモアの漂う、なにか、もの哀しくも爽やかな空気の残像。会社員の日常を鮮やかに切り取った、野間文芸新人賞受賞作。サラリーマンの恋と噂と人間関係、奇妙で虚しくて、それでも魅力的な「星の見えない夜」も所収。
  • 作家の日記
    3.0
    作家としての精神を育んだフランス留学時代の内的記録――1950年6月、第1回カトリック留学生として渡仏し、1953年2月、病によって帰国するまでの2年7ヵ月の、刺すような孤独と苦悩に満ちた日々。異文化の中で、内奥の〈原初的なもの〉と対峙して、〈人間の罪〉の世界を凝視し続けた、遠藤周作の青春。作家としての原点を示唆し、その精神を育んだフランス留学時代の日記。
  • 作家は行動する
    -
    「人間の行動はすべて一種のことばである」ーー文体は書きあらわされた行動の過程、人間の行動の軌跡である。ニュー・クリティシズムやサルトルの想像力論の批判的摂取を媒介に、作家の主体的行為としての文体を論じた先駆的業績であり、著者自らの若々しい世代的立場を鮮烈に示した初期批評の代表作。石原慎太郎、大江健三郎らの同世代の文学と併走しつつ、文学の新たな可能性の地平を提示する。
  • 数奇伝
    3.0
    著作のほとんどが発禁となったことで知られる叛骨の思想家。思わぬ病で歩行の自由を失い、余命の長からぬことを悟った彼が「生きながらの屍の上に自ら撰せる一種の墓誌」として語る生い立ちは、まさに「数奇」というほかない。幼少期に見た土佐の民権運動、大阪や東京での勉学の日々、作州津山での灼熱の恋と別れ、ジャーナリズムの夜明けと大陸への渡航、従軍、筆禍での下獄……。近代日本人の自叙伝中の白眉。
  • 実朝考 ホモ・レリギオーズスの文学
    -
    宮廷文化に傾倒し、武芸軟弱を以て侮られた、鎌倉三代将軍・源実朝は、庶民に共感する単純強靱な歌を詠んだ。それなぜ生まれたのか。その実体に迫る過程で、著者が見たものは〈絶対的孤独者〉の魂だった。死と直面し、怨念を抱えて戦争の日々を生きぬいた著者が、自己を重ね、人間の在り方と時代背景を鋭く考察。時を越えて共有する問題点を、現代の視点で深く追究した、画期的第一評論。
  • サハリンへの旅
    5.0
    自己形成の原点――サハリンへの2週間の“帰郷”の実現。祖母、義姉、親族、同胞達との交歓。言葉なき言葉――“陸封”34年を隔て異郷の地に再会した離散一族、民族の“それぞれの立場”を抱擁し、アイデンティティ同一性を真摯に追求しつづける李恢成積年の願望――パルチャ(運命)の旅!

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  • さようなら、ギャングたち
    4.1
    詩人の「わたし」と恋人の「S・B(ソング・ブック)」と猫の「ヘンリー4世」が営む超現実的な愛の生活を独創的な文体で描く。発表時、吉本隆明が「現在までのところポップ文学の最高の作品だと思う。村上春樹があり糸井重里があり、村上龍があり、それ以前には筒井康隆があり栗本薫がありというような優れた達成が無意識に踏まえられてはじめて出てきたものだ」と絶賛した高橋源一郎のデビュー作。
  • 猿のこしかけ
    4.0
    「あれはいったい何だったろう」かと、淡いかなしみと共に想い出しつつ、いいものだと思う娘と父の深い係わりを描く「平ったい期間」。各々手応えのある人生を感じさせた「三人のじいさん」。ほかに「葉ざくら」「晩夏」「捨てた男のよさ」など。父・露伴が逝ってからの「十年の長短」を思いはかる著者が、再び父と暮らした日々や娘時代の忘れ難い思いをまとめた「猿のこしかけ」に、同時期の5篇を加えた珠玉の随筆集。
  • 山躁賦
    5.0
    確かなものに思われた日常の続きをふと見失った「私」は、病み上がりのけだるい心と体で、比叡高野等の神社仏閣を巡る旅に出る。信仰でも物見遊山でもない中ぶらりんの気分で未だ冬の山に入った「私」を囲み躁ぐ山棲みのモノ達――。現在過去、生死の境すら模糊と溶け合う異域への幻想行を研ぎ澄まされた感覚で描写。物語や自我からの脱出とともに、古典への傾斜が際立つ古井文学の転換点を刻する連作短篇集。
  • 山頭火随筆集
    5.0
    明治15年、近在屈指の大地主の長男として生まれ、9歳の時母自殺。以降徐々に家は没落、時代の傾斜と並ぶようにやがて不幸の淵に沈んでゆく。大正14年出家。大正15年4月、解くすべもない惑ひを背負うて、行乞流転の旅に出た。分け入っても分け入っても青い山(「俳句」大正15年)九州から東北まで漂泊托鉢。行乞生活を記録した句は数奇な生涯を凝縮。俳句、随筆、行乞記の3章でその真髄を纏める。
  • 三匹の蟹
    3.4
    『大型新人」として登場以来25年、文学的成熟を深めて来た大庭みな子の、あらためてその先駆性を刻印する初期世界。群像新人賞・芥川賞両賞を圧倒的支持で獲得した衝撃作「三匹の蟹」をはじめ、「火草」「幽霊達の復活祭」「桟橋にて」「首のない鹿」「青い狐」など、初期作品を新編成した7作品群。
  • 残光のなかで 山田稔作品選
    3.0
    ゾラを偲ぶ旅で出会った老文学者の孤独な姿を描いた「残光のなかで」、パリの街とそこで勁くつましく暮らす人々をやさしく見つめる「メルシー」「シネマ支配人」等、フランス滞在に材を求めた作品群に、記憶のあわいの中でゆらめく生の光景を追った「糺の森」「リサ伯母さん」等、8篇を収録。ユーモアとペーソスの滲む澄明な文体で、ひそやかで端正な世界を創り出した山田稔の精選作品集。
  • しあわせ/かくてありけり
    -
    母と別れた父親の“果たせぬ夢”であった慶応幼稚舎に入学。しかし母は芸者屋の主人でありみずから左褄もとっていたので、家業や住所は“秘匿”する習性がついていた。幼時・少年時に住んだ土地を訪ねるに始まり、時代を写し自らの来しかたを凝視して読売文学賞を受賞した表題作と短篇の名品と呼ぶべき「しあわせ」を併録した鏤骨の一冊。
  • シェイクスピアの面白さ
    -
    木下順二、丸谷才一らが師事した英文学者にして名翻訳家として知られる著者が、シェイクスピアの芝居としての魅力を縦横に書き尽くした名エッセイ。人間心理の裏の裏まで読み切り、青天井の劇場の特徴を生かした作劇、イギリス・ルネサンスを花開かせた稀代の女王エリザベス一世の生い立ちと世相から、シェイクスピアの謎に満ちた生涯が浮かび上がる。毎日出版文化賞受賞。
  • 紫苑物語
    4.3
    優美かつ艶やかな文体と、爽やかで強靱きわまる精神。昭和30年代初頭の日本現代文学に鮮烈な光芒を放つ真の意味での現代文学の巨匠・石川淳の中期代表作――華麗な"精神の運動"と想像力の飛翔。芸術選奨受賞作「紫苑物語」及び「八幡縁起」「修羅」を収録。
  • 屍の街・半人間
    4.5
    真夏の広島の街が、一瞬の閃光で死の街となる。累々たる屍の山。生きのび、河原で野宿する虚脱した人々。僕死にそうです、と言ってそのまま息絶える少年。原爆投下の瞬間と、街と村の直後の惨状を克明に記録して1度は占領軍により発禁となった幻の長篇「屍の街」。後遺症におびえ、狂気と妄想を孕んだ入院記「半人間」。被爆体験を記した大田洋子の“遺書”というべき代表作2篇。
  • 詞華美術館
    -
    柿本人麿、紀貫之、式子内親王、藤原定家、後鳥羽院、芭蕉、蕪村、茂吉、石川淳、石原吉郎、西東三鬼、寺山修司からラブレー、ネルヴァル、アポリネール、ランボー、マラルメ、ジョイス、トーマス・マン、フォークナー、ダニエル・キースまで。古今東西の言語芸術から最も壮麗で美味な部分を収集し、二十七の主題の部屋に陳列した、超一級の言語美術館。
  • 志賀直哉・天皇・中野重治
    -
    医師として、遅咲きの小説家として、独自の文学世界を築きあげた藤枝静男。平野謙と本多秋五という刺激を与え続けた友人、そして深く傾倒した師・志賀直哉の存在。志賀直哉に関わる作品を中心に名作「志賀直哉・天皇・中野重治」など、藤枝文学の魅力をすくいとった珠玉の随筆選。文学の師に関わる思いと藤枝文学の底流が、ここにある!
  • 式子内親王・永福門院 現代日本のエッセイ
    4.0
    「人間を超えるものの認識なしにこうした歌が読めるであろうか」ーー。式子内親王の3つの「百首歌」、少ない贈答歌などへの細やかな考察を通し、詩人の特性、女として人としての成長、歌境・表現の深化・醇化を「思うままの作品鑑賞」で綴る。三十一文字に自己の心と想念を添わせ、独創的な視点と豊かな感性で展開する「式子内親王」「永福門院」「いま一章、和歌について」を収録した名評論集。平林たい子賞受賞作。
  • 仕事部屋
    4.0
    《芸術の友よ。御身に捧ぐるに今この美しい言葉の花束を以てする。是こそ新興芸術派の巨匠・井伏鱒二の心の贈物である》(春陽堂、昭和6年刊『仕事部屋』広告文)。全集等未収録の幻の名作というべき「仕事部屋」を始め、「丹下氏邸」他初刊本の全14篇をそのままに収録。昭和初年代のモダニズム、都市小説の新風俗が描かれて、井伏鱒二の文学に新たな光を当てる真の芸術の友への贈物。
  • 詩集「三人」
    -
    反骨の詩人金子光晴と妻・森三千代、息子・森乾が綴った詩を、光晴が手書きで私家製の詩集にまとめあげた、家族愛と戦争への嫌悪に満ちた、貴重な戦中詩集。 戦争よ。/破砕くな。/年月よ。/もつてゆくな。 父とチヤコとボコは/三つの点だ。/この三点を通る/三人は一緒にあそぶ。 (中略)三本の蝋燭の/一つも消やすまい。/からだをもつて互いに/風をまもらふ。(「三点」より)
  • 静かな生活
    3.9
    精神の危機を感じて外国滞在を決意した作家の父に、妻が同行する。残された3人の兄弟妹の日常。脳に障害を持った長男のイーヨーは"ある性的事件"に巻き込まれるが、女子大生の妹の機転でピンチを脱出、心の平穏が甦る。家族の絆とはなんだろうか――。〈妹〉の視点で綴られた「家としての日記」の顛末に、静謐なユーモアが漂う。大江文学の深い祈り。
  • 静かなノモンハン
    4.5
    昭和14年5月、満蒙国境で始まった小競り合いは、関東軍、ソ蒙軍間の4ヵ月に亘る凄絶な戦闘に発展した。襲いかかる大戦車群に、徒手空拳の軽装備で対し、水さえない砂また砂の戦場に斃れた死者8千余。生還した3人の体験談をもとに戦場の実状と兵士達の生理と心理を克明に記録、抑制された描写が無告の兵士の悲しみを今に呼び返す。芸術選奨文部大臣賞、吉川英治文学賞受賞の戦争文学の傑作。
  • 私説聊斎志異
    -
    官吏の登竜門である科挙の試験に生涯落第し続けて、その鬱屈をバネに幻想怪異譚『聊斎志異』16巻を書いた、清代の蒲松齢。著者・安岡章太郎は、己れの屈折した戦時下体験をこの作者に重ね合わせつつ、回想小説風に筆を進める。時代と社会と個人の根っこの関係を自在に描いて、人間存在の不可思議な面白さを生きいき剔出する。後の『流離譚』などの作品とも通ずる名篇。
  • 七・錯乱の論理・二つの世界
    -
    常に世界に開かれている透徹したリアルな眼。文学・思想の至高を終生求めつづけた強靱な芸術家魂。ブリリアントな論理と秀抜この上ないレトリック。真の前衛・花田清輝の初期小説・「七」「悲劇について」、「復興期の精神」と比肩する初期エッセイ集「錯乱の論理」、「沙漠について」「動物・鉱物・植物」等の名篇を含む「二つの世界」を合わせて収録。
  • 詩とダダと私と
    -
    吉行文学の抑えた描写に垣間見える詩情――学生時代、萩原朔太郎に影響を受けての詩作が、その文学的出発となった作家の、生涯変わらぬ本質の現れであった。若き日に書いた詩の数々、苦悩の中で文学を志した戦中戦後の回想、昭和初期文壇で異彩を放った父エイスケの詩篇、恩師が翻訳した「ダダの歴史」をあわせて収録。吉行淳之介の全体像把握に必須のユニークな詩文集。
  • 使徒的人間──カール・バルト
    -
    聖書のもつダイナミズムを解き放ち、人間の救済を志向する。 理性への信頼に基づく近代主義、あるいは人間中心主義を根底とした自由主義神学の内部から、それを打ち破るかのように登場したカール・バルト。神学を人間学へと解消する潮流に抗し、キリストと行動をともにした使徒によるドキュメントとして聖書をとらえ、神の言葉と啓示がもつ直接性の復活を果たす。使徒という存在に近代の超克を読みとり、来るべき人間として思想と文学の起点にすえる、画期的な長篇評論。 佐藤優 使徒は、人間を救済するという自覚を持つ人間だ。この救済は、個別具体的である。救済の一般理論は存在しない。(略)神の存在が生成において人間に理解されることに対応し、富岡氏の思想的営為も常に生成過程にある。イエス・キリストという名に徹底的に固執することによって、日本人の歴史物語、特に天皇と救済の関係について、いつか適切な言葉が見つかることを信じながら、富岡氏は評論活動を展開しているのだと私は見ている。――<「解説」より> ※本書は、講談社刊『使徒的人間――カール・バルト』(1999年5月)を底本として使用しました。
  • 死の影の下に
    -
    無意識の記憶の突然の喚起をきっかけとして、主人公の城栄は、静岡県の田舎で伯母に育てられた牧歌的な日々の回想に誘いこまれる。早くも「喪失」の意味を知った少年は、伯母の死後、冒険的実業家の父親と暮らし始め、虚飾に満ちた社交界をつぶさに観察することになる。新しいヨーロッパ文学の方法をみごとに生かした、戦後文学に新たな地平を拓き、戦後文学を代表する、記念碑的長篇ロマン。
  • 死の淵より
    -
    つめたい煉瓦の上に/蔦がのびる/夜の底に/時間が重くつもり/死者の爪がのびる(「死者の爪」)。死と対峙し、死を凝視し、怖れ、反撥し、闘い、絶望の只中で叫ぶ、不屈強靱な作家魂。醜く美しく混沌として、生を結晶させ一瞬に昇華させる。"最後の文士"と謳われた高見順が、食道癌の手術前後病床で記した絶唱63篇。野間文芸賞受賞作。
  • 詩への小路 ドゥイノの悲歌
    3.0
    著者が愛読してきたライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」の訳をはじめ、長年にわたる詩をめぐる思索が結晶した名篇。登場するのは、マラルメ、ゲオルゲ、ヴァレリー、ソフォクレース、アイスキュロス、ダンテ、夏目漱石、ヘルダーリン、シラー、ボードレール、グリンメルスハウゼン、グリュウフィウス、ドロステ=ヒュルスホフ、ヘッベル、マイヤー、メーリケ、シュトルム、ケラー、クライスト、アル・ハラージー…
  • シベリヤ物語
    4.0
    逃亡兵が闇の中で射殺され横たわる「小さな礼拝堂」。凍てつく酷寒の町に一人出されて道路掃除する「掃除人」。シベリヤの捕虜収容所体験をもつ作家の冷静な眼は、己を凝視し、大仰な言挙げとは無縁の視座から出会った人々、兵士、ロシヤの民衆の生活を淡々と物語る。「舞踏会」「ナスンボ」「勲章」「犬殺し」等11篇により、人間の赤裸に生きる始原の姿を綴る現代戦争文学の名著。
  • 写生の物語
    -
    『万葉集』や『おもろさうし』に特徴的でその後は顧みられなくなった語法、子規や啄木など明治期歌人の試み、また塚本邦雄・岡井隆といった現代前衛歌人の新作、そして俵万智『チョコレート革命』に至るまでの短歌(謡)表現を貫くものは何か? 起源以前と死後を等価とし、表現を緻密に追いつづけることで見えてくる豊穣な世界。
  • 上海
    4.3
    1925年、中国・上海で起きた反日民族運動を背景に、そこに住み、浮遊し彷徨する1人の日本人の苦悩を描く。死を想う日々、ダンスホールの踊子や湯女との接触。中国共産党の女性闘士芳秋蘭との劇的な邂逅と別れ。視覚・心理両面から作中人物を追う斬新な文体により不穏な戦争前夜の国際都市上海の深い息づかいを伝える。昭和初期新感覚派文学を代表する、先駆的都会小説。
  • 上海・ミッシェルの口紅 林京子中国小説集
    4.0
    戦争の影迫る上海の街で、四人姉妹の3番目の「私」は、中国の風俗と生活の中で、思春期の扉をあけ成長してゆく。鮮烈な記憶をたどる7篇の連作小説「ミッシェルの口紅」と、戦後36年ぶりに中国を再訪した旅行の記「上海」。長崎で被爆して「原爆」の語り部となる決意をした著者が、幼時を過ごしたもう一つの文学の原点=中国。
  • 終着駅
    4.0
    敗戦直後の焼け跡・東京で、ウニ三という正体不明の男が、どぶにはまって変死。その位牌は、まるで死のバトンの如く引き受けた男たちに、つぎつぎと無造作な死を招き寄せる。絶対的価値が崩壊した後、庶民はいかに生き、いかに死んでいったのか? 独白体、落語体、書簡体など、章ごとに文体を変え、虚無と希望の交錯する時代を活写。『軍旗はためく下に』の戦争テーマを深化した、純度高い傑作。焼け跡闇市に生き、死んだ、無名の人たちへの哀歌! 吉川英治文学賞受賞作品。
  • 春秋の花
    -
    妥協を許さぬ小説や批評の書き手で知られる大西巨人は幼少期より古今東西の詩文を愛好してきた。成長し老境に至るまで折りに触れ愛唱してきた断章は、柿本人麻呂、西行、正岡子規、石川啄木、与謝野晶子、斎藤茂吉、斎藤史、松尾芭蕉、西東三鬼、金子兜太、島崎藤村、三好達治、佐藤春夫、茨木のり子、森鴎外、夏目漱石、樋口一葉、有島武郎、中野重治、小林秀雄、吉本隆明、柄谷行人…と、万葉の世から現代まで幅広く、また意外性すら湛えて季節毎に丁寧に並べ置かれている。 文学を愛する者として人後に落ちない大西巨人が年月をかけ丹精して選んだ詩文の精髄がここにある。
  • 小説作法
    -
    瀬戸内寂聴、吉村昭、河野多惠子、津村節子、新田次郎ら錚々たる作家を輩出した同人誌『文学者』を主宰し、文壇の大御所として絶大な人気を博していた昭和二十年代後半、『文學界』に連載され、異例の反響を得た名著。人物の描き方から時間の処理法、題の付け方、あとがきの意義、執筆時に適した飲料まで。自身の作品を例に、懇切丁寧、裏の裏まで教え諭した究極の小説指南書。
  • 小説の未来
    -
    村上春樹『スプートニクの恋人』、村上龍『希望の国のエクソダス』、川上弘美『センセイの鞄』、大江健三郎『取り替え子』、高橋源一郎『日本文学盛衰史』、阿部和重『ニッポニアニッポン』、町田康『くっすん大黒』、金井美恵子『噂の娘』、吉本ばなな『アムリタ』など、1990年代の日本文学を深く読み込んでその本質を読解したうえで、現代文学に初めて接する若者の読者に紹介できるレベルまでやさしく丁寧に伝えようとして書かれた、実験的でありつつも実践的な文芸批評の傑作。
  • 少年たちの戦場
    -
    「私は怖れていたのだ。私などが絶対に踏み込んでは行けない場所を頑なに守っている生徒という他人が怖かったのだ」――敗戦の色濃くなった昭和20年の初め、農村に学童疎開した34名の少年たちの、不安と飢えの日。最もおとなしいはずの生徒の脱走の波紋。没後見つかった引率教師の当時の日記に綴られた、激しく揺れる文字。少年らの裡に生まれる孤独を見据えて描く、鮮烈な秀作。
  • 庄野潤三ノート
    5.0
    小学校、旧制中学、就職先の放送局で庄野潤三の後輩として過ごした阪田寛夫は、いつしか庄野文学最大の理解者となった。習作から刊行当時の最新長篇、そして随筆集までも順に丁寧に読み解くことによってのみ、鮮やかに見えるその豊穣な世界――正確かつ簡潔でありながら深い愛情に溢れる筆致が、読む者を思わず感動へと誘う。類まれな作家論の達成。
  • 書物の解体学
    -
    欧米を代表する文学者思想家に批評の直感で挑んだ画期的作家論集! バタイユ、ブランショ、ジュネ、ロートレアモン、ミシェル・レリス、ヘンリー・ミラー、バシュラール、ヘルダーリン、ユング――現代の世界に多大な影響を与えた欧米の作家・詩人・思想家9人の著作は、翻訳を通じて、どこまで読み解くことが可能なのか。批評家としての経験のみを手がかりに、文字通り縦横無尽に論じた画期的作家論集。
  • ショート・サーキット 佐伯一麦初期作品集
    4.0
    若くして父となったかれは生活のため配電工となった。都市生活者の現実に直面するうち3人の子供の父となり、妻はすでに子供たちのものになってしまった。今日も短絡事故(ショート・サーキット)が起こり、現場にかけつける――。野間文芸新人賞受賞の表題作に、海燕新人文学賞受賞のデビュー作「木を接ぐ」をはじめ、働くということ、生きるということをつきつめた瑞々しい初期作品5篇を収録。
  • 死霊I
    4.2
    晩夏酷暑の或る日、郊外の風癲病院の門をひとりの青年がくぐる。青年の名は三輪与志、当病院の若き精神病医と自己意識の飛躍をめぐって議論になり、真向う対立する。三輪与志の渇し求める<虚体>とは何か。三輪家4兄弟がそれぞれのめざす窮極の<革命>を語る『死霊』の世界。全宇宙における<存在>の秘密を生涯かけて追究した傑作。序曲にあたる1章から3章までを収録。日本文学大賞受賞。
  • 詩礼伝家
    5.0
    哀惜の想いで描いた恩師・阿藤伯海への鎮魂歌――川端康成とは東大同級で、上田敏令嬢への恋に破れたためか、生涯独身の漢詩人・阿藤伯海。法政教授時代は斎藤磯雄に、太平洋戦争下の昭和16年から19年まで旧制一高教授時代は、著者・清岡を初め、若き三重野日銀総裁、高木中央大学学長らに、多大な影響を与えた、高雅な人格と美意識を生きた文学者。痛切な哀惜の想いで描かれた、清岡卓行の恩師への「鎮魂歌」。
  • 白い人 黄色い人
    3.1
    第2次世界大戦中のドイツ占領下のリヨンで、友人の神学生をナチの拷問にゆだねるサディスティックな青年に託して、西洋思想の原罪的宿命、善と悪の対立を追求した「白い人」(芥川賞)汎神論的風土に生きる日本人にとっての、キリスト教の神の意味を問う「黄色い人」の他、「アデンまで」「学生」を収めた遠藤文学の全てのモチーフを包含する初期作品集。
  • 白い屋形船・ブロンズの首
    -
    脳溢血で、右半身、下半身不随、言語障害に遭いながら、不撓不屈の文学への執念で歩んだ私小説の大道。読売文学賞「白い屋形船」、川端賞「ブロンズの首」ほか、懐かしく優しい、肉親・知友、そして“ふるさと”の風景。故郷の四万十川のように、人知らずとも、汚れず流れる文学への愛が、それのみが創造した美事な“清流”。
  • 白兎・苦いお茶・無門庵
    4.0
    敵の戦車に人間爆弾となって廃兵が飛び込む訓練を繰り返す。そんな理不尽きわまる敗けいくさ。夫たちが徴兵され、著者がいみじくも名付けた半後家たちとの置き去りにされた生活。“一年が百年にも感じられる”流謫の生活の中でも、市井に生き続ける“在野”の精神を飄々たる詩魂で支え、正に“人生の歌”を歌った木山捷平、中期・晩年の代表的短篇。
  • 白暗淵
    3.0
    「七十の坂にかかる道すがらの作品群になる。あれもなかなか越すに苦しい坂だった」(著者から読者へ)。爆風に曝された大空襲から高度成長を経て現代へ――個の記憶が、見も知らぬ他者たちをおのずと招き寄せ、白き「暗淵」より重層的な物語空間が立ちあがる。現代文学を最先端で牽引しつづける著者が、直面した作家的危機を越えて到達した連作短篇集。
  • 寝園
    -
    持ち株の暴落で事業に失敗し破産しかかった青年梶と、その梶を強く慕う奈奈江や、幾組かの男女の"愛"の葛藤。伊豆山中の狩猟の最中に起きた突発的傷害事件への発展。「純文学にして通俗小説」なる"純枠小説"を自ら実践し、恋愛における現代人の"危機意識"を緻密な文体で追った「紋章」「家族会議」等の先駆となった画期的名篇。

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