作品一覧

  • 暗い絵・顔の中の赤い月

    暗い絵・顔の中の赤い月

    小説・文芸

    4.0
    1巻1,650円 (税込)
    新人・野間宏、戦後日本に颯爽と登場――初期作品6篇収録のオリジナル作品集 1946年、すべてを失い混乱の極みにある敗戦後の日本に、野間宏が「暗い絵」を携え衝撃的に登場――第一次戦後派として、その第一歩を記す。戦場で戦争を体験し、根本的に存在を揺さぶられた人間が、戦後の時間をいかに生きられるかを問う「顔の中の赤い月」。ほかに「残像」「崩解感覚」「第三十六号」「哀れな歓楽」を収録する、実験精神に満ちた初期短篇集。 ――草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ雪風が荒涼として吹き過ぎる。はるか高い丘の辺りは雲にかくれた黒い日に焦げ、暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに黒い漏斗形の穴がぽつりぽつりと開いている。その穴の口の辺りは生命の過度に充ちた唇のような光沢を放ち、堆い土饅頭の真中に開いているその穴が、繰り返される、鈍重で淫らな触感を待ち受けて、まるで軟体動物に属する生きもののように幾つも大地に口を開けている。
  • わが塔はそこに立つ

    わが塔はそこに立つ

    小説・文芸

    -
    1巻1,925円 (税込)
    親鸞と時代の社会主義思想に激しく引き裂かれ、自らの底深くに敢えて矛盾を取り込み、超えようと苦闘する、主人公・海塚草一の青春の葛藤。昭和10年代・京大時代を背景に、性・宗教・文学・社会――混沌の坩堝の中の青春を描いた、自伝的長篇小説。〈全体小説理論〉の実践化として、『青年の環』へとひきつがれてゆく問題作。
  • 真空地帯

    真空地帯

    小説・文芸

    5.0
    1巻825円 (税込)
    木谷上等兵は二年の刑を終え原隊に戻ってきた。なぜ自分が無実の罪に問われたか、誰が自分を陸軍刑務所に突き落したのか? 秘密のカギを握る者は誰だ、そして真の“犯人”は! 巧みな構成の展開にしたがい“秘密”の核心は軍法会議、すなわち天皇制絶対主義のからくりに集約される。戦後はじめて、軍隊機構の末端である兵営の緻密な描写を通して、日本軍国主義を批判した問題作。

ユーザーレビュー

  • 暗い絵・顔の中の赤い月

    Posted by ブクログ

    彼には彼等の行動が間違いであるとは考えられなかった。しかしまた彼は、彼等の行動に深い底から、心と体をゆすられるように感じながら彼自身が間違っていたとも考えなかった。

    0
    2026年02月21日
  • 暗い絵・顔の中の赤い月

    Posted by ブクログ

    「残像」が特に好きだった。ストーリーのプロットではなく、日本語の表現の美しさを楽しむという感じだった。

    0
    2025年09月14日
  • 真空地帯

    Posted by ブクログ

    最初は少し退屈だった。本の厚さを見ながら読むのを止めようかとも思った。しかし、木谷が真情を語り始めるに連れ、次第に引き込まれていった。

    人は誰しも、自分を大事にしながら生きている。仕事の後、一杯の珈琲でも、或いは公園のベンチでの缶ビールでも、ささやかな慰めを自分に与えて生きていく人がいる。一丁四方の兵営という真空地帯の中でも、安西二等兵は利己的な手抜きで自らを慰め、安西を気遣い不寝番の交代を申し出る弓山二等兵は、幹部候補生の試験に希望を見いだしている。

    しかし、軍法会議と陸軍刑務所は、そんな兵隊の一人だった木谷上等兵のささやかな自尊心を完全に打ち砕き、便紙一枚の自由すら与えない。刑期を終えた木谷の心に残っているもの、それは憤怒、復讐心、そして何より、真実を知りたいという思い。おそらくそういった感情が綯い交ぜになった状態で、彼は中隊に戻ってくる。

    大岡昇平、五味川純平、野間宏・・・。彼らは、多感な時期に経験した理不尽なる軍隊経験をドラマチックかつ私小説的に描き出し、戦後派と呼ばれた。本書も刊行後一年を待たずに映画化されたくらいだから、その同時代的共感の大きさを窺い知ることができる。しかし、60余年を経た今日では、戦後派文学は殆ど読まれない。最早理解できない、エグさについていけない、というのが現代的反応だろう。しかし私は、この兵営という真空地帯とそこにささやかな自己を抱えて生きる兵隊たちを、現代の会社や社畜たちのデフォルメのように感じた。70年の時を超えて、押し潰されていく木谷の悲痛な声に心揺さぶられ、その意味で久々に文学することができた。

    0
    2015年01月26日
  • 暗い絵・顔の中の赤い月

    Posted by ブクログ

    野間宏。真空地帯があまりに面白くて、デビュー作の暗い絵がどうしても読みたくって読みました。

    「暗い絵」「顔の中の赤い月」「残像」「崩壊感覚」「第三十六号」「哀れな歓声」の六編を収録。

    デビュー作である「暗い絵」は正直よくわからなくて、でも、ブリューゲルの絵についての冒頭の長々とした記述が異様なものであることは伝わりました。
    一枚の絵についての描写が、こんなに長く冒頭に続く小説は珍しいのではないでしょうか。
    この描写を読んでいると、永遠に暗い絵の風景が広がり続けるんじゃないかという錯覚すら覚えます。

    でもストーリーとしては、筆者の経緯や、歴史的背景を知っていないとわかりにくいものだったと思います。それを知っていてもよくわからなかったです。でもよかった。

    暗い絵以外は、分かりやすいものが多かったです。なかでも「崩壊感覚」はとてもよかったです。久々にクラクラした小説でした。

    私が長年知りたいと思っていたことの一つに、戦争によって転換を迫られた価値観があります。
    敗戦によって何かを奪われたり、大きな喪失感を覚えたりすることによって価値観が変化したり、男性であれば兵営生活や野戦による経験、女性であれば身近な人の死や苦しい生活の経験などを通して築かれていった価値観というものにとても興味がありました。

    この小説には、そういったものを知る糸口が示されていたように思います。ああ、これこれ。これが知りたかったの。という感じで、スッと自分の中に入っていきました。坂口安吾の白痴なんかも、それに近いものがあったんですが、どうも腑に落ちないような部分があったりして。でもこれは違いました。

    野間宏の人生や社会活動には賛否両論あると思いますが、私は小説は好きです。久々に、安部公房以来のヒットでした。ただ現在出版されているもので、容易に手に入るものが少ないというのが非常に残念な点です。

    0
    2011年07月17日
  • 真空地帯

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    軍隊機構の末端である兵営の緻密な描写を通して、日本軍国主義を批判した問題作。とのこと。

    初めての野間宏。

    最初は退屈な小説だな、と思いました。木谷のことも、曾田のことも、軍隊のこともあまり掴めなくて、さらに物語がなかなか動かない。
    でも、中盤から、色んなことがわかってくると、俄然面白くなって先が気になりました。

    戦争に関する小説だと、何かしろ天皇の存在とか、当時の社会的な思想のようなものが見られるのだけど、この本はそうではなかったです。
    単純に、組織機構の腐敗に的が絞られていたように思います。悲劇的な雰囲気もありません。
    だから身近で読み易くもありました。野間宏の文章はあまり読み易くはなかったけれど、組織のイメージはつきやすかったです。

    ストーリーの本質ではないけれど、私がとても興味深かったのは、学徒兵です。
    学徒兵でちょっと要領が悪い者が居たりすると、よってたかって攻撃する。男性の世界、力の世界と言えども、女性的ですらあるなあと思いました。

    そして、タイトルでもある「真空地帯」とは兵営のことで、本文に何度か真空地帯が出てきます。
    「たしかに兵営には空気がないのだ。それは強力な力によってとりさられている、いやそれは真空管というよりも、むしろ真空管をこさえあげるところだ。真空地帯だ。ひとはそのなかで、ある一定の自然と社会とをうばいとられて、ついには兵隊になる。」(p.231)
    「彼の求めているのは欲望の遂行だけだろうか。そいつをやれば、たしかにその時、真空地帯の上に虹がかかる。彼はその虹の上をわたって地帯の外へでて行くのだ。どこか外へ、・・・・・・とおいところへ、こえて行くのだ。」(p.224)
    「曾田は機関銃中隊横から酒保の方がくをかえながら考えたが、彼はあの木谷の打った拳骨の打撃が自分の身体をとらえているものをこなごなに打ちくだくのを感じた。木谷の手は真空地帯をうちこわす。」(pp.413-414)
    うまく私には解読できないんですが、兵営は「真空地帯」という表現がとても斬新に思えました。ただ、社会と隔絶されているとか、孤立している、とかではなく、「空気がない」。
    空気がなければ人間は死んでしまうんだけれど、生きている。空気のないところで兵隊は生きている。それは本当に生きている状態なんでしょうか・・・?
    そして木谷は、その空気のない兵営で、流れに身をまかせて、ただ時間が過ぎるのを待っているのではないのです。

    ストーリーは、なんだか釈然としないまま、木谷は大きな濁流に呑まれ、目的を果たせないままに野戦送りになって終わります。
    これが軍隊か、と現実を突きつけられたような気がしました。

    この話は、単に軍隊について書かれた、過去の物語ではなくて、巨大な組織の末端という存在について考えさせられます。決して現代とも無関係ではないと思うのです。


    最後に、安西(学徒兵)がノートに書き散らしたという言葉が興味深いので書き留めておきます。
     苦しいか、おい、苦しいか、苦しいといえ。
     心などもうなくなってしまった。自分をどうすることもできない。犬のようにたたきまわされても、なんともないし、ひとりでに手があがるだけ。
     自分がこんなになるとは思えなかった。胃袋が口のところまででてきている。
     靴は重いし服はだぶだぶ。ざらざらざら。おかあさん・・・・・・また、今日も蝉、せみです。

    この言葉の意味は結局解釈できないままでした。

    0
    2011年07月02日

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