野間宏のレビュー一覧
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最初は少し退屈だった。本の厚さを見ながら読むのを止めようかとも思った。しかし、木谷が真情を語り始めるに連れ、次第に引き込まれていった。
人は誰しも、自分を大事にしながら生きている。仕事の後、一杯の珈琲でも、或いは公園のベンチでの缶ビールでも、ささやかな慰めを自分に与えて生きていく人がいる。一丁四方の兵営という真空地帯の中でも、安西二等兵は利己的な手抜きで自らを慰め、安西を気遣い不寝番の交代を申し出る弓山二等兵は、幹部候補生の試験に希望を見いだしている。
しかし、軍法会議と陸軍刑務所は、そんな兵隊の一人だった木谷上等兵のささやかな自尊心を完全に打ち砕き、便紙一枚の自由すら与えない。刑期を終え -
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野間宏。真空地帯があまりに面白くて、デビュー作の暗い絵がどうしても読みたくって読みました。
「暗い絵」「顔の中の赤い月」「残像」「崩壊感覚」「第三十六号」「哀れな歓声」の六編を収録。
デビュー作である「暗い絵」は正直よくわからなくて、でも、ブリューゲルの絵についての冒頭の長々とした記述が異様なものであることは伝わりました。
一枚の絵についての描写が、こんなに長く冒頭に続く小説は珍しいのではないでしょうか。
この描写を読んでいると、永遠に暗い絵の風景が広がり続けるんじゃないかという錯覚すら覚えます。
でもストーリーとしては、筆者の経緯や、歴史的背景を知っていないとわかりにくいものだったと思 -
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ネタバレ軍隊機構の末端である兵営の緻密な描写を通して、日本軍国主義を批判した問題作。とのこと。
初めての野間宏。
最初は退屈な小説だな、と思いました。木谷のことも、曾田のことも、軍隊のこともあまり掴めなくて、さらに物語がなかなか動かない。
でも、中盤から、色んなことがわかってくると、俄然面白くなって先が気になりました。
戦争に関する小説だと、何かしろ天皇の存在とか、当時の社会的な思想のようなものが見られるのだけど、この本はそうではなかったです。
単純に、組織機構の腐敗に的が絞られていたように思います。悲劇的な雰囲気もありません。
だから身近で読み易くもありました。野間宏の文章はあまり読み易くはな -
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野間宏の初期の短編集。
巻末の年表を確認すると収録作は終戦直後1946年に発表された『暗い絵』から、一番遅い『崩壊感覚』でも1948年3月で、氏の代表作である『真空地帯』より前に書かれた作品のみになっています。
野間宏といえば本書収録の「暗い絵」と長編の「真空地帯」くらいしか知らなかったので、個人的に氏の作品を知るいいきっかけとなりました。
第一次戦後派作家としての野間文学が良くわかる短編集だと思います。
各作品の感想は以下のとおりです。
・暗い絵 ...
野間宏によって本格的に書かれた小説としては最初の作品であり、氏が注目されるきっかけとなった作品です。
後の大東亜戦争に取り込まれる前 -
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ネタバレ「暗い絵」――
ブリューゲルの絵の描写が印象的だ。
草もなく木もなく実りもなく
吹きすさぶ雪嵐が荒涼として吹きすぎる。
はるか高い丘のあたりは雪にかくれた黒い日に焦げ、
暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに
黒い漏斗形の穴がぽつりぽつり開いている……。
野間宏の卓越した筆致力。
この描写は、
特高警察監視下における
京大左翼活動家たちの苦境を
見事に表現している。
主人公・深見進介もまた活動家の一員だが、
他の仲間との距離感は複雑である。
仲間の一人は自分たちの行動を「仕方のない正しさ」と述べ、
活動の結果獄死を遂げる。
しかし、深見進介は言う。
「やはり、仕方のない正しさ