作品一覧
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3.01巻660円 (税込)近代の日本文学史にそびえ立つ《小説の神様》志賀直哉。その知友、父母、祖父ら一族の人びとの過去へ遡りつつ、直哉との関わりのひとつひとつの襞を解きほぐして、作品の核心に迫る。のちには自分自身の一族をあつかった名作『流離譚』を発表するにいたるまでの著者独自の方法意識が書かせた、作家・作品論の白眉。作家が鋭い感性で作家を論究する、小説的評論=長編エッセイの魅力。
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3.7
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3.0昨年の春、中古のルノーを買って乗り始めてから、間もなく一年になるが、其の間に私は、交通違反でつかまった事が三回ある。その三回とも、奇妙な事に、友人の安岡章太郎が関係しており、これは私には、ただの偶然とはとても思えない。――阿川弘之 私が仕事にかかるふりをしていると、襖がすこしずつ開いて、その隙間から嘲けるような笑いをうかべて、彼はじっと窺っているのである。私もそっと彼の部屋をのぞくと、安岡は布団の上に寝そべって天井を眺めながら鼻毛をぬいているのであった。――遠藤周作 浪人三年、落第一年、秋風がふくと終わらない夏休みの宿題を想い出してゾッとする。出がけには必ず忘れものをし、約束の時間を一時間まちがえてウロウロ。泥棒に入られれば何も盗まれるものがなく警察に困惑され、文学賞の授賞式では緊張してシドロモドロになる。どうも自分の身体の中には一匹の虫が棲んでいて、それが自分を終始とちらせたり、失敗やへまをくり返させたりしているらしい――青春時代をユーモラスにつづる自伝的回想、作家仲間との楽しいやりとり、鋭さを笑いで包んだ社会観察など、著者の魅力が凝縮された随筆集。阿川弘之と遠藤周作によるエッセイを新たに収録。〈解説・中島京子〉
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ユーザーレビュー
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Posted by ブクログ
ネタバレ「ガラスの靴」は前読んだときから随分印象が変わった。以前は主人公の抱く恋愛感情に浮ついた心地よさみたいなものを強く感じたけれど、今度は僕と悦子の間にあるじめじめとした人間の匂いを一文一文から感じた。こんな文章あったっけと思うことが幾度もあった。
「青葉しげれる」「相も変わらず」は、順太郎という主人公の登場する連作で、母との関係が描かれた話。大学生ごろの年齢設定だからか、「三四郎」「それから」っぽさを感じた。
「相も変わらず」がこの作品集の中で一番好き。「悪い仲間」などにもあった、家族から逃れようとするも最後の最後に逃れられないことに気づくという主人公の姿にひどく共感を覚える。さりげない描写に -
Posted by ブクログ
ネタバレ1920年生まれの作者。
ある人から「サアカスの馬」を勧められて、それを読み、よかったので、短編集に手を出してみた。
夢中になって読んだ。
独特な、劣等感、罪悪感、諦めの感覚、自己嫌悪、自己憐憫、ユーモア感覚、文体、に中毒のようになってしまったのだ。
ひとまずは身辺雑記や私小説的な題材と言えるが、大きく見れば戦争の影響もあり、太宰同様見方次第でスケールが大きくなることもありそうだ。
再読するときは、あらすじありきではなく、細部の描写や小道具やユーモアに注目せよ>未来の自分へ。
■ガラスの靴★ 009 1951年=昭和26年=31歳。芥川賞候補。……春樹「ノルウェイの森」そっくり! ていうか、 -
Posted by ブクログ
昭和26年から昭和29年(西暦でいえば1951年から1954年)にかけて発表された、全13編からなる初期短編集。
このうち「陰気な愉しみ」と「悪い仲間」が芥川賞受賞作。
クセがあるようでないようで、解説にも書かれていたが非常にニュートラルで読みやすい文体を書く人だな、と思う。
かなり以前の作品であるから、使われている単語や歴史的な背景には古臭いものもあるのだが、その文体だけはとても現代的。
思うに当時にこの文体を読んだ人は、確かに「モダンな文体だ」と思っただろう。
殆どの作品の根底に横たわっているのは「自己嫌悪」であり「罪悪感」であり、「自己憐憫」であるように思える。
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Posted by ブクログ
作家・安岡の母方の親族の系譜。明治以降の時代と、人物の人間味(悩み、栄達・・・)など考えさせられ、しみじみとした感慨を感じます。家族・一族が希薄になった寂しさのようなものが底流に流れています。莞爾とした自らの鏡の顔を見て、号とした初代沖縄知事・安岡莞爾(土佐藩を脱藩、後年に高知県知事を勤めたという)漢詩作家・西山麓、日生の初期の役員・入交千別、昭和恐慌時の蔵相・片岡直温などが印象に残る人たちですが、寺田寅彦、丸山明なども連なる錚々たる一族です。そして焦点は次第に自堕落な生活をしたと親族の間で評判が悪かったと言う西山麓へ。構成が見事です。