安岡章太郎のレビュー一覧

  • ガラスの靴・悪い仲間

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    ◼️所感
    安岡章太郎は戦中戦後の不可解な事件や一貫しない世論から世の中はよく分からんものだと悟ったらしい。それと同時に自分の内面に関心が向ったようで、今まで無意識だった感情を観察することで、はっきりと自分を認識出来るようになったとか。これを「自己認識というあそび」と表現しており、遊びと言えるぐらいのめり込んだのだろう。だからこそこの小説ような深く密度の濃い内面描写が出来るようになったのだと思われる。これを見習って「自己認識というあそび」を自分も実践してみたくなった。

    またもうひとつ安岡章太郎の面白いところは自己認識として意識される感情がだいたい自己嫌悪や劣等感に偏っている点。ただそれらは、だ

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    2025年09月23日
  • 夕陽の河岸

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    戦前と戦後を行き来しつつ、取り留めのない事柄に丁寧に目を向けて書かれた作品群に好感をもった。「虫の声」で安岡は紀州に向かう。犬を見に行くためだ。そこで若き頃の中上と思われるN君が車を運転して紀州の街並みを案内する。この話を筆頭に、犬の出てくる話がその後幾つも出てきた。これまで読んできた安岡の前半期の小説に犬のイメージはなかったが、ひょっとすると晩年期にかけて安岡の生活の周りを犬が歩いていたのかもしれない。彼は犬を撫でていたのかもしれない。

    小品集とまとめられた随筆がどれもすばらしかった。「土佐案内記」では大岡昇平の人柄が垣間見え、「瓦解」では色川武大について綴られる。少ない枚数であるが、その

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    2025年07月01日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    戦中から戦後、高度成長期ころにかけての半自伝的な短編が多い。母親やおそらくはモデルを同じくする友人たちが描かれる。どうにもならない将来や友人との優劣意識を伴う関係、女性体験、そして母親との葛藤‥ある種自虐的に著者独特のユーモアを交えて描かれるが、ときには自身を鋭いナイフで切り裂いたように血が流れ出す瞬間があり、はっとさせられた。

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    2024年08月04日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    ネタバレ

    「ガラスの靴」は前読んだときから随分印象が変わった。以前は主人公の抱く恋愛感情に浮ついた心地よさみたいなものを強く感じたけれど、今度は僕と悦子の間にあるじめじめとした人間の匂いを一文一文から感じた。こんな文章あったっけと思うことが幾度もあった。

    「青葉しげれる」「相も変わらず」は、順太郎という主人公の登場する連作で、母との関係が描かれた話。大学生ごろの年齢設定だからか、「三四郎」「それから」っぽさを感じた。
    「相も変わらず」がこの作品集の中で一番好き。「悪い仲間」などにもあった、家族から逃れようとするも最後の最後に逃れられないことに気づくという主人公の姿にひどく共感を覚える。さりげない描写に

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    2022年06月11日
  • ガラスの靴・悪い仲間

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    ネタバレ

    1920年生まれの作者。
    ある人から「サアカスの馬」を勧められて、それを読み、よかったので、短編集に手を出してみた。
    夢中になって読んだ。
    独特な、劣等感、罪悪感、諦めの感覚、自己嫌悪、自己憐憫、ユーモア感覚、文体、に中毒のようになってしまったのだ。
    ひとまずは身辺雑記や私小説的な題材と言えるが、大きく見れば戦争の影響もあり、太宰同様見方次第でスケールが大きくなることもありそうだ。
    再読するときは、あらすじありきではなく、細部の描写や小道具やユーモアに注目せよ>未来の自分へ。

    ■ガラスの靴★ 009 1951年=昭和26年=31歳。芥川賞候補。……春樹「ノルウェイの森」そっくり! ていうか、

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    2020年02月19日
  • ガラスの靴・悪い仲間

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     昭和26年から昭和29年(西暦でいえば1951年から1954年)にかけて発表された、全13編からなる初期短編集。
     このうち「陰気な愉しみ」と「悪い仲間」が芥川賞受賞作。
     クセがあるようでないようで、解説にも書かれていたが非常にニュートラルで読みやすい文体を書く人だな、と思う。
     かなり以前の作品であるから、使われている単語や歴史的な背景には古臭いものもあるのだが、その文体だけはとても現代的。
     思うに当時にこの文体を読んだ人は、確かに「モダンな文体だ」と思っただろう。
     殆どの作品の根底に横たわっているのは「自己嫌悪」であり「罪悪感」であり、「自己憐憫」であるように思える。

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    2018年01月06日
  • 鏡川(新潮文庫)

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    作家・安岡の母方の親族の系譜。明治以降の時代と、人物の人間味(悩み、栄達・・・)など考えさせられ、しみじみとした感慨を感じます。家族・一族が希薄になった寂しさのようなものが底流に流れています。莞爾とした自らの鏡の顔を見て、号とした初代沖縄知事・安岡莞爾(土佐藩を脱藩、後年に高知県知事を勤めたという)漢詩作家・西山麓、日生の初期の役員・入交千別、昭和恐慌時の蔵相・片岡直温などが印象に残る人たちですが、寺田寅彦、丸山明なども連なる錚々たる一族です。そして焦点は次第に自堕落な生活をしたと親族の間で評判が悪かったと言う西山麓へ。構成が見事です。

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    2013年08月25日
  • 走れトマホーク

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    安岡章太郎の73年の短編集を読む。一編目の「瀑布」、カナダ、トロント滞在中にナイアガラの滝、そしてある不用意な一言をきっかけにアメリカ、バッファローのインディアン・リザベーションに日系二世の牧師を訪ねることになる話。
    ただそこにいて好きなことをしていれば良いと言われた二ヶ月半に感じる何かを喪失したような「空白感」を持ちながらも、そこにいる事で感じ気づき、固定観念や偏見も解きほぐされる体験をしていく。
    「大体、フォールを滝と訳すことが間違っているのではないか?滝というからには、竜という超自然的な神格化された生きもののイメージがある。」「しかも翻訳されれば、“滝”の生命はフォールの中に香みこまれる

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    2025年01月25日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    安岡章太郎の「質屋の女房」に収録された短編たちがフレッシュだった。小島信夫がこの文庫の解説で「ガラスの靴」について書いている「新鮮」さとは少し違う意味で。
    それぞれの短編で描かれる、戦争、徴兵までの、童貞喪失、“男”になるまでの、決めかねる将来までの、あるいは占領下、“戦後”という時代にあったモラトリアム。そこには熟れる寸前に残った青さのようなギリギリのフレッシュさがあった。
    モラトリアムは猶予された期間ではあるけれど、そこには気楽さや安心感、希望よりも「漠然とした不安の未来」「前途には悲惨なものが待っている」という思いが渦巻き不安や焦燥感が募る。それでも、周りが動いたり決めたりし始めるなか、

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    2024年12月21日
  • ガラスの靴・悪い仲間

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    もちろん内容は現代向きではないけど、第三の新人と言われた人なだけあって、現代作家さんにも見られる文体や作風を感じることができる。暗い中になんとも可笑みのある気の抜ける表現はとても面白くセンスの塊だと思った。

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    2023年05月23日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    ネタバレ

    肥った女

    源氏名君太郎が面白すぎる。
    最後はちょっぴり切ない

    吉原のシーンは暗夜行路の影響受けてそう

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    2021年09月25日
  • 僕の昭和史

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    大正生まれの作家、安岡章太郎氏による、私的な昭和史。

    教科書的な歴史では分からない、リアルな市民目線の歴史の変遷が感じられる。

    あと何年で徴兵に取られると怯えながら過ごす高校、大学時代の青春を実体験できる。

    徴兵されて戦地に送られたものの、発病して日本に送還された。同じ部隊の仲間は南方で玉砕、またはシベリア送還になった。戦後はカリエスを患って寝たり起きたりで作家活動し、結局90歳近くまで天寿を全うした安岡さんは強運というしかない。

    呑気で鷹揚な感じの安岡タッチだが、悲運で死んだ友人は数知れず。結構ふてぶてしくなかったらこんな苛烈な時代には生きていかれないだろう。

    東京オリンピック、ベ

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    2019年07月27日
  • 夕陽の河岸

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    ★3.5のおまけで。
    上手い作家の上手い文章、珠玉とはまさにこういうことなんでしょう。エッセイ的な感じではあるものの、そこを超えて「景色」を読者に喚起する力は並大抵のもんじゃぁないでしょう。
    今まで読んできたエッセイ的作品の中でも相当に上位にある作品かと思われ。

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    2018年11月11日
  • ガラスの靴・悪い仲間

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    自分は小説を読むのが好きですが、選り好みが激しいです。
    たとえば、戦後の作家ですと、「第一次戦後派」「第二次戦後派」と呼ばれる作家たちは結構つまみ食いしてきましたが、その後に登場した「第三の新人」はほとんど手付かず。
    小島信夫を少し齧ったくらいです。
    第三の新人を飛ばして「内向の世代」は古井由吉さんが大好き。
    大江健三郎以降は割と万遍なく目配りしていて、近年もきっかけがあれば手に取ってきました。
    ただ、文壇で重要な地位を占める作家も含め、取りこぼしがかなり多いです。
    端的に言うと、系統的な読書をしてこなかったということですね(そんな読書は不健全なので向後もするつもりはありませんが)。
    ただ、食

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    2018年01月27日
  • ガラスの靴・悪い仲間

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    # ガラスの靴・悪い仲間

    戦前戦後の雰囲気が味わえる。
    今と変わらない人々が暮らしていたんだなあと。
    いい文章。

    ## ガラスの靴
    ファンタジーの時間は終わる。それも外的な力により強制的に。
    シンデレラのガラスの靴のように残されたかのように見えた時間も、あっという間に割れて消える。
    素直に読める。青春。
    戦後すぐの話。

    ## ジングルベル
    父親の就職の世話をする話。
    終戦直後。

    ## 宿題
    小学生時代の思い出。
    夏休みの宿題をやらずに学校に行けなくなる。
    戦前。

    ## 愛玩
    ダメ父親の話。毛を売るためにウサギを飼育するがうまくいかない。
    終戦直後。

    ## 蛾
    耳に蛾が入る。
    戦後か

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    2018年10月19日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    学生時代(出征前)を描いた作品が一番多く、終戦直後がひとつ、戦後10年以上経った時代を舞台にしたものが2つ。芥川賞受賞作を含む。
    発表された時期はバラバラ。安岡章太郎の代表作を集めたと言っていいだろう。
    「ガラスの靴」は恋愛(それも未熟な恋愛)小説の傑作。若さと才能だけではなく、あの時代に生きていたからこそ書けた。今の上手い作家が同じ時代を舞台にしたところで、これは絶対に書けない。「待つことが、僕の仕事だった。」忘れられない。
    代表作だけあって、どれも良かったし、戦争中に浪人していた、母に愛された取り柄のない一人っ子の気分というのは、彼だからこそ書けたと思うが、自分が中年となり、かつては不在な

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    2016年02月29日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    短編集

    個人的には表題作の『質屋の女房』よりも、
    『悪い仲間』や『陰気な愉しみ』の方が好きで、
    社会に劣等感を抱きつつ中々前に進めない登場人物たちに非常に好感が持てます。

    『ガラスの靴』も読後感の素晴らしい作品です。

    短編で読みやすい作品ばかりですので、是非手に取ってほしいです。

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    2015年02月15日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    青春期はある意味、モラトリアムであるとおもいます。
    産みの苦しみを経て青年は次のステージへと進んでいくのが一般的な成長だと思うのです。

    しかし、ここでの主人公はモラトリアムとも言えない、本当に無駄な時間、糞みたいな時間を過ごしています。
    「誇り」も「覚悟」も無いから、女も抱けず、軍人にもならず、学生にもなれず、母親からも独立できずにいます。

    こんなクソ野郎が主人公のくせに、苦悩感が薄くさらりと仕上がっています。
    でも、それでも苦悩感が残っているんです。

    そんなバランスがとても心地よかったです。

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    2014年11月21日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    ネタバレ

    ■ガラスの靴
     バイトをさぼって配達先のメイドとよろしくやっちゃう話。「魅力のとぼしい」女に惹かれるっていうのがこの作品に共通して不思議なところ。

    ■陰気な愉しみ
     戦争で働けない身体になってしまい、現代で言うナマポ的なものを受け取ることで劣等感を感じる(と、同時にそれを愉しみにもしている)主人公のお話。自分と境遇は違うが、その気持ちは不思議と分かる気がする。

    ■悪い仲間
     伊坂幸太郎が書く型破りな友人キャラに近いものを感じるけど、みんなそれぞれに背伸びしてるところが面白い。

    ■夢みる女
     この本の中で異彩を放つ童話的な話。なんか怖い。

    ■肥った女
     やっぱりここでも外見的には醜い感じ

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    2012年11月05日
  • 質屋の女房(新潮文庫)

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    10の短編集。しっかりとした文章が印象的。「陰気な愉しみ」は「檸檬」を彷彿とさせる。他の作品では総じて、母、父との関係、家族であるがゆえの空虚感や重圧感が、苛々と覆ってくる。12.6.20

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    2012年06月22日