あらすじ
夜道で出くわしたシェパード、突撃演習中に非業の死をとげた友、火葬を怖れて故郷・土佐に土葬されている伯父。歳月のかなたから《影法》のようにふとたち現れる、あの懐しき者たちの姿……。「伯父の墓地」(第18回川端康成文学賞受賞)ほか、死と生のあわいにたたずみ、人生の《黄昏》の景観を、濃淡あざやかな筆致で捉えて、透徹の境地を伝える珠玉の全10篇。「虫の声」「朝の散歩」「犬」「春のホタル」「夕陽の河岸」「土佐案内記」「瓦解」「「あめふり」の歌」「地鳴り」収録。
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Posted by ブクログ
戦前と戦後を行き来しつつ、取り留めのない事柄に丁寧に目を向けて書かれた作品群に好感をもった。「虫の声」で安岡は紀州に向かう。犬を見に行くためだ。そこで若き頃の中上と思われるN君が車を運転して紀州の街並みを案内する。この話を筆頭に、犬の出てくる話がその後幾つも出てきた。これまで読んできた安岡の前半期の小説に犬のイメージはなかったが、ひょっとすると晩年期にかけて安岡の生活の周りを犬が歩いていたのかもしれない。彼は犬を撫でていたのかもしれない。
小品集とまとめられた随筆がどれもすばらしかった。「土佐案内記」では大岡昇平の人柄が垣間見え、「瓦解」では色川武大について綴られる。少ない枚数であるが、そのなかに心に留めておきたい内容が詰め込まれていた。そして、「「あめふり」の歌」。「あめふり」という歌への世代間の認識のずれ。これもまた、読めてよかった。