作品一覧
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3.7金沢を舞台に旧制四高生・片口安吉の青春の光と影を描く「歌のわかれ」、敗戦直後、天皇感情を問うた「五勺の酒」。この二篇のほか、「村の家」「萩のもんかきや」など著者の代表的な短篇七篇を収める。詩篇「歌」、自作をめぐる随筆を併録。文庫オリジナル。 〈巻末エッセイ〉石井桃子・安岡章太郎・北杜夫・野坂昭如 ■目次 歌(詩) 【Ⅰ】 歌のわかれ/春さきの風/村の家/広重/米配給所は残るか/第三班長と木島一等兵/軍楽/五勺の酒/萩のもんかきや 【Ⅱ】 「春さきの風」「五勺の酒」の線/「春さきの風」のとき/「第三班長と木島一等兵」おぼえがき/五十年まえと三十年まえ 【中野重治をめぐって】 ある機縁(石井桃子)/我慢と律義と剽軽と(安岡章太郎)/「茂吉ノート」など(北杜夫)/青春の書(野坂昭如)
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3.0
ユーザーレビュー
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Posted by ブクログ
「歌」
リアリズムこそが文学の至上目的であり
その実現のためには
センチメンタルやメランコリーを排除しなければならないという
若き作者の決意表明をしたためたポエム
「おまえは歌うな」という衝撃的な出だしが印象に残る
まあイキってますね
堀辰雄も参加していた「驢馬」という同人誌に発表されたもの
「歌のわかれ」
落第生でありながら、どこかお気楽で
未成年のくせに酒ばかり飲み歩いている主人公は
文学で身を立てる自分を漠然と夢に見ながら
モラトリアムな日々を送っていた
金沢の高校をなんとか卒業し
東京の大学に潜り込むのだけど
そこであるとき贔屓の作家を訪問した際に幻滅を感じた
作家といっても自堕落に -
Posted by ブクログ
1945年敗戦後、共産党から参議院選に立候補している頃の短篇作品
天皇と戦争責任についてなどを発表していた著者だが、この作品を読むと、天皇に対してひとりの人間としての切なさや辛さを背負い込ませる、日本国民としての憐憫の情が伝わってくる
なぜ、ひとりの人間が 私は神ではない などと言わせられなきゃならないんだ
菊の御紋の入った五勺の酒を飲みながら、未練の言葉に埋もれてゆく
敗戦と、アメリカの言いなりになっている悔しさ、それに甘んじている情けなさ
酒でも飲まなきゃ口にすることさえできないとばかりに、天皇についても語る
国が負けたという、この時期のなまなましい言葉を聞く機会に出会わない
報 -
Posted by ブクログ
「民主と愛国」に中野重治が大分出て来たのでそこから。
戦前の作品は発禁や伏せ字にならなかったのかな、と。
「五勺の酒」は戦後すぐの共産党員でもそういう感情になるのか、と。
ただ一番面白かったのは野坂昭如の巻末エッセイの一節、野坂の本を友人に託して中野に渡した後の友人とのやり取り。
友人:御本人が直接お出になった
野坂:へえ
友人:野坂の使いの者ですといったら、ずい分おどろいていらしたね
野坂:そりゃそうだろうな、手紙でいいところなんだから
友人:あのおどろきようは、どうも野坂参三とまちがえたんじゃないだろうか
作り話かも知れないが、同じく安岡章太郎の巻末エッセイのポンヒキの下りを読むと