講談社文芸文庫作品一覧

  • 講談社文芸文庫 解説目録 2023年4月現在
    無料あり
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    ※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。 不朽の名作をラインナップする講談社文芸文庫。未来に伝えるべき小説、詩歌、評論、随筆、翻訳など文芸の精髄を刊行するシリーズの最新版刊行目録の電子版。
  • 手の変幻
    値引きあり
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    絵画映像など全ゆる手の変幻清岡卓行の想像の冒険――ミロのヴィーナスがあのように魅惑的なのは、彼女が、その両腕を故郷であるギリシアの海か陸のどこか、いわば生ぐさい秘密の場所にうまく忘れてきたからだ。絵画・映像・音楽その他のあらゆる「手」の変幻を捉え、美や真実の思いがけない秘密の瞬間を析出した、清岡卓行の鮮やかな詩的想像力。エッセイ文学の名品。
  • 俳優修業
    値引きあり
    3.0
    「虚実皮膜」の間を飛翔する花田清輝の精神の冒険――東洲斎写楽の役者絵についての精妙な分析にはじまり、「芸」という虚と実の「皮膜」の「遊び」から、「役者」という虚にして虚ならず実にして実ならざる追求者に話を展開し、沢村淀五郎の芸談だとする『四徳斎雑記』を補助線として、独自な精神を奔放に飛行させる、花田清輝の世界。転形期をしたたかに生きる、不撓不屈の諧謔の精神。常に精神の前衛でありつづけた著者の代表的作品。
  • 蘭を焼く
    値引きあり
    4.0
    著者の50年に及ぶ文業のうちでも、第一の傑作短篇集――男女の関係性の善悪は、つねに社会の規範の中にあるが、ここに登場するヒロインたちは、もっとも女性的に生きることで、社会への反逆者となり、そこには満ちあふるるエロティシズムと頽廃とが生と死を越えて、抽象にまで至る愛のリアリティをもって存在する。表題作のほか「公園にて」「予兆」など、8篇を収録。
  • 無きが如き
    値引きあり
    -
    原爆投下から30数年後、〈女〉は長崎を訪れた。坂の上の友人の家で、人々と取り止めのない話を交わしながら、死んでいった友たちや、14歳で被爆した自らの過去を回想する。日々死に対峙し、内へ内へと籠り、苦しみを強いられ生きる、被爆者たち。老い。孤独。人生は静まり返っているが、体験を風化させはしない。声音は、低く深く響く。原爆を凝視する著者が、被爆者の日常を坦々と綴る名篇。
  • 小さな部屋・明日泣く
    値引きあり
    4.7
    朽ちかけた貸部屋に我物顔に出入りする猫、鼠、虫たち。いつしか青年は、凄まじい〈部屋〉を自分と同じ細胞をもつ存在と感じ熱愛し始める――没後10年目に発見された色川武大名義の幻の処女作「小さな部屋」、名曲「アイル・クライ・トゥモロウ」そのままの流転の人生を辿る女を陰影深く描く「明日泣く」など12篇。戦後の巷を常に無頼として生きながら、文学への志を性根にすえて書いた色川武大の原質とその変貌を示す精選集。
  • 明夫と良二
    値引きあり
    4.4
    磊落な浪人生の兄と、気立ての優しい中学生の弟。男の子二人のおかしみに満ちたやりとりを見守る姉は、間もなく嫁いでゆく。自然に囲まれた丘の上の一軒家に暮らす作家一家の何気ない一瞬に焼き付けられた、はかなく移ろいゆく幸福なひととき--。著者没後10年。人生の喜び、そしてあわれを透徹したまなざしでとらえた家族小説の傑作、初文庫化
  • 狂人日記
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    4.3
    狂気と正気の間を激しく揺れ動きつつ、自ら死を選ぶ男の凄絶なる魂の告白の書。醒めては幻視・幻聴に悩まされ、眠っては夢の重圧に押し潰され、赤裸にされた心は、それでも他者を求める。弟、母親、病院で出会った圭子――彼らとの関わりのなかで真実の優しさに目醒めながらも、男は孤絶を深めていく。現代人の彷徨う精神の行方を見据えた著者の、読売文学賞を受賞した最後の長篇小説。
  • 雲は天才である
    値引きあり
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    詩や短歌では叙情味あふれる作品で天性の才能を発揮し、矛盾に満ちた明治という時代への鋭い考察も相俟って今もなお熱烈な読者を持つ石川啄木が心血を注いだ小説。故郷・渋民村の高等小学教の教員時代に書き出され、青年たちの鬱屈と貧しき者、弱き者の心に共振していく初期短篇三作と、唯一新聞に連載された中篇を収録し、短い生涯を駆け抜けた啄木文学の可能性を提示する。
  • 星に願いを
    値引きあり
    -
    ブルームーン(六月十五日)。妻は庭のブルームーンの咲いたのを三つ切って来て、書斎のサイドテーブルに活ける。――山の上の家で、たんたんとした穏やかな日常。子供も成長し、二人きりの老夫婦に、時はゆったりと流れてゆく。晩年の庄野作品の豊かさと温もりを味わえる上質の文学。
  • 鳥の水浴び
    値引きあり
    -
    名作『夕べの雲』から三十五年。時は流れ、丘陵の家は、夫婦二人だけになった。静かで何の変哲もない日常の風景。そこに、小さな楽しみと穏やかな時が繰り返される。暮らしは、陽だまりのような「小さな物語」だ。庄野文学の終点に向かう確かな眼差しが、ふっと心を温める。読者待望の、美しくもすがすがしい長篇小説。
  • 伊東静雄
    値引きあり
    -
    萩原朔太郎が「日本に尚一人の詩人がある」と激賞した伊東静雄の第一詩集『わがひとに与ふる哀歌』。その詩群に魅了された著者が伝記的通説を排除し、註釈に徹した画期的詩人論。『哀歌』全篇に用心深く隠された連繋を、「私」と「半身」というふたりの擬作者に割り振り、『古今和歌集』、ヘルダーリンの詩、セガンティーニの絵に範例を求めつつ詩人の「意識の暗黒部との必死な格闘」を読み解く。
  • 折口信夫文芸論集
    値引きあり
    3.0
    釈迢空の別名を持ち、学者にして詩人、詩人にして学者という生涯を送った折口信夫は、古代から近代にいたる日本文化を貫く本質をとらえ、詩歌、小説、文学研究、民俗学研究と他の追随を許さない多岐にわたる業績を残した。源氏物語、隠者の文学、短歌の滅亡、近代文学など折口が関心を寄せた日本文学の諸相を多彩な切り口で整理し、批評家としての全体像に迫る画期的評論集。
  • 安吾のいる風景 敗荷落日 現代日本のエッセイ
    値引きあり
    5.0
    昭和34年、荷風散人逝く。享年79歳。時に夷斎石川淳、60歳、「一箇の老人が死んだ」に始まる苛烈極まる追悼文「敗荷落日」を記す。融通無碍の精神と和漢洋に亘る該博な知識とに裏打ちされた奔放自在な想像力、一貫する鋭い反逆精神。「安吾のいる風景」「三好達治」「京伝頓死」「秋成私論」「本居宣長」ほか中期評論エッセイ24篇。
  • 惜櫟荘主人
    値引きあり
    -
    「低くくらし、高く思う」を精神の支柱に据え、処女出版・漱石の『こゝろ』以来、本作りの全てに最高を求め、先見の明と強い信念で多くの優れた全集・叢書等を上梓、出版事業に激しく情熱を燃やした人間味豊かな岩波茂雄。17歳で入店以来“岩波文化”の黄金時代を共に築き上げ、互いに最も信頼しつつ、強烈な個性をぶつけあった著者が肌身を通して語る、追慕の情溢れる偉大な出版人の記録。
  • 白い屋形船・ブロンズの首
    値引きあり
    -
    脳溢血で、右半身、下半身不随、言語障害に遭いながら、不撓不屈の文学への執念で歩んだ私小説の大道。読売文学賞「白い屋形船」、川端賞「ブロンズの首」ほか、懐かしく優しい、肉親・知友、そして“ふるさと”の風景。故郷の四万十川のように、人知らずとも、汚れず流れる文学への愛が、それのみが創造した美事な“清流”。
  • ささやかな日本発掘
    値引きあり
    3.0
    東京日本橋の地下鉄ストアで見つけた乾山の5枚の中皿。古道具屋で掘り出した光琳の肖像画。浜名湖畔の小川で、食器を洗っていた老婆から譲り受けた1枚の石皿。その近くの村の、農家の庭先にころがっていた平安朝の自然釉壺……。美しいものとの邂逅が、瑞々しく生々と描かれる名随筆26篇。読売文学賞受賞。
  • 水
    値引きあり

    5.0
    水差しから救いの水を飲んだ直後息絶えた病床の母(「水」)。「死にたくない、俺ひとり」妻の胸で叫ぶ癌を病む夫(「谷」)。生と死のきわどさ、戦き、微かな命の甦りの感覚を、生理と意識の内部に深く分け入っていく鋭敏な文体で描出した、「影」「水」「狐」「衣」「弟」「谷」の6作による初期連作短篇集。
  • 屍の街・半人間
    値引きあり
    4.5
    真夏の広島の街が、一瞬の閃光で死の街となる。累々たる屍の山。生きのび、河原で野宿する虚脱した人々。僕死にそうです、と言ってそのまま息絶える少年。原爆投下の瞬間と、街と村の直後の惨状を克明に記録して1度は占領軍により発禁となった幻の長篇「屍の街」。後遺症におびえ、狂気と妄想を孕んだ入院記「半人間」。被爆体験を記した大田洋子の“遺書”というべき代表作2篇。
  • 厄除け詩集
    値引きあり
    4.5
    そこはかとなきおかしみに幽愁を秘めた「なだれ」「つくだ煮の小魚」「歳末閑居」「寒夜母を思ふ」等の初期詩篇。"ハナニアラシノタトヘモアルゾ「サヨナラ」ダケガ人生ダ"の名訳で知られる「勧酒」、「復愁」「静夜思」「田舎春望」等闊達自在、有情に充ちた漢詩訳。深遠な詩魂溢れる「黒い蝶」「蟻地獄(コンコンの唄)」等、魅了してやまぬ井伏鱒二の詩精神。4部構成の『厄除け詩集』。
  • 木犀の日 古井由吉自選短篇集
    値引きあり
    3.8
    〈都会とは恐ろしいところだ〉。5年間地方で暮らし、都会に戻った私は毎朝のラッシュに呆然とする。奇妙に保たれた〈秩序〉、神秘を鎮めた〈個と群れ〉の対比、生の深層を描出する「先導獣の話」のほか、表題作「木犀の日」、「椋鳥」「陽気な夜まわり」「夜はいま」「眉雨」「秋の日」「風邪の日」「髭の子」「背中ばかりが暮れ残る」の10篇。内向の世代の旗頭・古井由吉の傑作自選短篇集。
  • 一色一生
    値引きあり
    4.5
    染織家・志村ふくみは、数十年、さまざまな植物の花、実、葉、幹、根を染めてきた。それらの植物から染まる色は、単なる色ではなく、色の背後にある植物の生命が、色をとおして映し出されているのではないか。それは、人と言葉と表現行為と、根本的に共通する。芸術と人生と自然の原点に佇んで思いめぐらす深い思索とわがいのちの焔を、詩的に細やかに語るエッセイ集。
  • 戦艦大和ノ最期
    値引きあり
    4.2
    昭和20年3月29日、世界最大の不沈戦艦と誇った「大和」は、必敗の作戦へと呉軍港を出港した。吉田満は前年東大法科を繰り上げ卒業、海軍少尉、副電測士として「大和」に乗り組んでいた。「徳之島ノ北西洋上、「大和」轟沈シテ巨体四裂ス 今ナオ埋没スル三千の骸(ムクロ) 彼ラ終焉ノ胸中果シテ如何」戦後半世紀、いよいよ光芒を放つ名作の「決定稿」。
  • ガラスの靴・悪い仲間
    値引きあり
    3.7
    初期作品世界デビュー作「ガラスの靴」芥川賞受賞「悪い仲間」「陰気な愉しみ」他、安岡文字一つの到達点「海辺の光景」への源流・自己形成の原点をしなやかに示す初期短篇集。幼少からの孤立感、“悪い仲間”との交遊、“やましさ”の自覚、父母との“関係”のまぎらわしさ、そして脊椎カリエス。様々な難問のさなかに居ながら、軽妙に立ち上る存在感。精妙な“文体”によって捉えられた、しなやかな魂の世界。
  • ゴットハルト鉄道
    値引きあり
    4.4
    “ゴット(神)ハルト(硬い)は、わたしという粘膜に炎症を起こさせた”ヨーロッパの中央に横たわる巨大な山塊ゴットハルト。暗く長いトンネルの旅を“聖人のお腹”を通り抜ける陶酔と感じる「わたし」の微妙な身体感覚を詩的メタファーを秘めた文体で描く表題作他2篇。日独両言語で創作する著者は、国・文明・性など既成の領域を軽々と越境、変幻する言葉のマジックが奔放な詩的イメージを紡ぎ出す。
  • 歴史について 現代日本のエッセイ
    -
    強靭なる精神漲るエッセイ。情熱溢れる、鋭い思考――運命に対峙して歴史の狭間を主体的に生きる実存は、いかに可能か。ドラマの構造と、それはどう絡むのか。10代に一度は受洗したキリスト教を棄て、しかもなお「精神の極北としての神」を求める求道者・木下順二。民話劇『夕鶴』、『子午線の祀り』の作者が明かす濃密な創作世界の「原風景」。故郷での幼・少年期、漱石『三四郎』にも似た上京以後の「本郷」での生活、趣味の乗馬、歌舞伎・能への深い考察。エッセイの精粋。
  • 逢魔物語
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    『八犬伝』の伏姫、『番町皿屋敷』のお菊、三ツ目小僧……。物語、伝説、夢、フォークロアなどを鮮やかな媒介として、「秩序」「制度」からはぐれ、はずれた生や、愛たちを問う、「新しい時代」の女性作家・津島佑子の果敢な力業。時代が生んだ「生」の新たな意味を問う、中篇連作集。
  • アメリカと私
    値引きあり
    -
    著者20代最後の年、1962年より2年間のプリンストン滞在記。この間、公民権運動の高揚、キューバ危機、ケネディ暗殺など、激動期を迎えていたアメリカ社会の深部を見つめ、そこに横たわる自他の文化の異質性を身をもって体験する。アメリカという他者と向き合うことで、自らのアイデンティティの危機を乗り越え、その後の「国家」への関心、敗戦・占領期研究への契機ともなった、日本文化論の歴史的名著。
  • 補陀落渡海記 井上靖短篇名作集
    値引きあり
    4.0
    熊野補陀落寺の代々の住職には、61歳の11月に観音浄土をめざし生きながら海に出て往生を願う渡海上人の慣わしがあった。周囲から追い詰められ、逃れられない。時を俟つ老いた住職金光坊の、死に向う恐怖と葛藤を記す表題作のほか「小磐梯」「グウドル氏の手套」「姨捨」「道」など、旺盛で多彩な創作活動を続けた著者が常に核としていた散文詩に隣接する人生の不可思議さ、奥深さを描く9篇。
  • ジョン・レノン対火星人
    値引きあり
    4.2
    住所はなく、消印は「葛飾」、そして差し出し人の名前は、「すばらしい日本の戦争」……名作『さようなら、ギャングたち』に先立つこと1年、闘争、拘置所体験、その後の失語した肉体労働の10年が沸騰点に達し、本書は生まれた。<言葉・革命・セックス>を描きフットワーク抜群、現代文学を牽引する高橋源一郎のラジカル&リリカルな原質がきらめく幻のデビュー作。
  • 室町小説集
    -
    三種の神器の一つの“玉”を巡り、吉野川源流の山奥での武家、公家、入道、神官入り乱れての争奪の顛末。南北朝の対立が生んだ吉野・川上村の伝説が、博渉、強靱な思考の虚々実々の息吹で鮮烈に蘇る。転換期の奔流するエネルギーの“魔”を凝視しつづける常に尖鋭なアヴァンギャルド・花田清輝が、“日本のルネッサンス草創期”の“虚実”を「『吉野葛』注」「画人伝」「力婦伝」等の5篇で構築する連作小説。
  • 愛の生活・森のメリュジ-ヌ
    値引きあり
    4.1
    《わたしはFをどのように愛しているのか?》との脅えを、透明な日常風景の中に乾いた感覚的な文体で描いて、太宰治賞次席となった19歳時の初の小説「愛の生活」。幻想的な究極の愛というべき「森のメリュジーヌ」。書くことの自意識を書く「プラトン的恋愛」(泉鏡花文学賞受賞作)。今日の人間存在の不安と表現することの困難を逆転させて、細やかで多彩な空間を織り成す、金井美恵子の秀作10篇。
  • 詩礼伝家
    5.0
    哀惜の想いで描いた恩師・阿藤伯海への鎮魂歌――川端康成とは東大同級で、上田敏令嬢への恋に破れたためか、生涯独身の漢詩人・阿藤伯海。法政教授時代は斎藤磯雄に、太平洋戦争下の昭和16年から19年まで旧制一高教授時代は、著者・清岡を初め、若き三重野日銀総裁、高木中央大学学長らに、多大な影響を与えた、高雅な人格と美意識を生きた文学者。痛切な哀惜の想いで描かれた、清岡卓行の恩師への「鎮魂歌」。
  • マチウ書試論 転向論
    値引きあり
    4.4
    『芸術的抵抗と挫折』『抒情の論理』の初期2著からユダヤ教に対する原始キリスト教の憎悪のパトスと反逆の倫理を追求した出世作「マチウ書試論」、非転向神話をつき崩し"転向"概念の根源的変換のきっかけとなった秀作「転向論」、最初期の詩論「エリアンの手記と詩」など敗戦後社会通念への深甚な違和を出発点に飛翔した吉本隆明初期代表的エッセイ13篇を収録。
  • 万延元年のフットボール
    値引きあり
    4.3
    友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。障害児を出産した菜採子。苦渋に満ちた登場人物たちが、四国の谷間の村をさして軽快に出発した。万延元年の村の一揆をなぞるように、神話の森に暴動が起る。幕末から現代につなぐ民衆の心をみごとに形象化し、戦後世代の切実な体験と希求を結実させた画期的長篇。谷崎賞受賞。
  • 虚妄の正義 現代日本のエッセイ
    -
    文学、芸術の全域にわたる鋭い文明批評の全7章――「変化しつつあるものは何だろうか? 芸術でない。政治でない。我々の時代の家庭である。」鋭敏な感性のきらめく詩集『月に吠える』や『青猫』でその天才的な稟質を示した近代詩人・朔太郎の、もう一つの詩人の優れた業績である〈アフォリズム集〉。警句と深い考察にみちた「結婚と女性」「芸術について」「孤独と社交」「著述と天才」「思想と闘争」など全7章。
  • 不意の声
    4.3
    孤独な内奥の世界を追究。読売文学賞受賞の名篇――「チチキトク」の電報を受け取った時、女は父の幻影を見た。父の死後に結婚した夫とは、諍が絶えず、しばしば現われる父の霊に励まされながら、陰惨な殺人を重ねる。意識の底からつき上る、不気味な想念。愛憎渦巻く夫婦生活を背景に、現実と非現実の交錯する、妖しく孤独な内奥の世界を苛烈に描く衝撃作。読売文学賞受賞作品。
  • 箱の話・ここだけの話 現代日本のエッセイ
    -
    混迷を生き貫く思考の発条。花田清輝の秀抜の遺著――『乱世今昔談』をどうしても『ここだけの話』と改題希望した著者の遺志を実現し、遺著『箱の話』と合わせ、花田清輝の常にインターナショナルな、発見的思考の持続を顕彰し、混迷する思想・時代状況を生き、貫いて行く根源力を提示。今日さらに重要な意味を加え続ける、花田清輝の貴重な1冊。
  • 新編映画的思考 現代日本のエッセイ
    -
    「映画的思考」とはなにか? 常に新しく鮮鋭な精神――19世紀末の象徴主義者の音楽的思考が、20世紀前半期における超現実主義者や抽象芸術家の絵画的思考や幾何学的思考に席をゆずったとすれば……。アヴァンギャルド芸術の否定の上に立つ、新しいレアリストは、映画的思考の持主かもしれません。「映画」やその周辺を語ることにより、真に新しい思考を導く、常にインターナショナルである著者の、鮮鋭な名エッセイ。
  • コチャバンバ行き
    4.0
    安穏・安全な「生」とは何か? 読売文学賞受賞の明篇――湘南で多少の土地を持ち、家を貸して自適生活する主人公。妻は仕事で不在がち。「安全な生活」とは何か……。元上司との様々なやりとりのあと、上司は妻を失う。南米・ボリビアでのバスの乗客の、何の苦痛もない死……。ささやかな生活の描写の中に、人生の哀歓をつむぎ出す、永井龍男独自の「美学」の結晶。『皿皿皿と皿』を併録。読売文学賞受賞作品。
  • 恥部の思想 現代日本のエッセイ
    3.0
    低俗視されていた映画などB級文化の優性の発見――単行本刊行時「恥部を軽蔑するな! 恥部こそ生産的だ!」という挑発的な名コピーで、活字文化信仰を震撼させた快著。映画、演劇、ミュージカル、演歌、浪曲などを低俗と見なす風潮に敢えて抵抗し、溌剌とした批評精神と快適極まる説得力で、「B級文化」を「合法化」した先駆的なエッセイ群。常に既成価値を転倒し、未来性を追求する著者の強靱な力業。
  • 私の『マクベス』
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    画期的と世評の高い翻訳と原作の真髄を説く評論――生の深奥に潜む根源の暗黒を描くシェイクスピアの名作を、改訳に改訳を重ね、画期と評される木下順二訳で収める。原文の台詞がもつ旺盛なエネルギーとイメージの喚起力を、いかに日本語に定着させるか。原作と翻訳の間に必然的に介在する「訳し得ぬもの」を、自からの翻訳体験を通して詳密に語り、『マクベス』理解の最良のアプローチとなった長篇評論「なぜシェイクスピアが訳せないか」を併録。
  • 紺野機業場
    -
    芸術選奨受賞の聞き書長篇。淡々と綴る浄福の世界――北陸の海端の、さびしい河口の町。快活で研究心に富み、情に厚く飾り気のない人柄の、小さな織物工場を営む老主人・紺野友次。家族の消息やありふれた日常の中に、年中行事、信仰、習俗などにささえられた、100年にも及ぶ一族の歴史が描かれ、懐かしい日本の原風景が刻される。地方に生活する人々の真情を淡々と綴る浄福の世界。芸術選奨受賞作品。
  • 近代の超克 現代日本のエッセイ
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    近・現代をいかに超えるか? 著者の代表的エッセイ――〈前近代的なものを否定的な媒介として近代を超える〉……著者の生涯を貫ぬいて実践された主題に添って書かれた「柳田国男について」は、柳田国男の現代的な再発見を促がし、フォークロアや口承文芸、〈近代〉から排除されたB級文化話芸などが、教養主義的価値観から解放され陽の目を見た。活字中心の価値観に、根柢的改変を迫った、衝撃的エッセイ。
  • 愛酒樂酔 現代日本のエッセイ
    -
    発酵学・微生物学の権威である「酒博士」坂口謹一郎の、酒をめぐる軽妙酒脱なエッセイと、500首に及ぶ短歌。愛酒の世界を語り、酔の境地を示す、坂ロイズムの集大成。「世界の酒の旅」「パリの生活から」「玩物喪志」ほかを収める歌エッセイ集『愛酒樂酔』に、「私の履歴書」を併録。 ◎まことに人間にとって酒は不思議な「たべもの」である。迷えと知って神が与えたものであろうか。<本文より>
  • 海図
    4.0
    妻子と別居中の男は、宗子という女と暮らしている。女は海に憑かれた元海軍少尉の父親から、精神的に独立できないでいる。男・女・父親――各々の微妙で危うい関係は7篇の短篇に鮮やかに描出され、時間の経過とともに揺れやがて一つの長篇に固着する。画期的連環小説の手法で家族の崩壊、愛の変容、人生の内面を浮彫りにする読売文学賞受賞作。
  • 漱石人生論集
    -
    「小生は何をしても自分は自分流にするのが自分に対する義務であり且つ天と親とに対する義務だと思います。天と親がコンナ人間を生みつけた以上はコンナ人間で生きて居れと云う意味より外に解釈しようがない」(書簡より)屈指の漱石の読み手である出久根達郎が、厭世家ではあるが決して人生を悲観しない漱石の生き方の真髄を全集の中から選んで編集した、今に新しい人生論集。
  • 懐かしい年への手紙
    値引きあり
    4.5
    郷里の村の森を出、都会で作家になった語り手の「僕」。その森に魂のコミューンを築こうとする「ギー兄さん」。2人の"分身"の交流の裡に、「いままで生きてきたこと、書いてきたこと、考えたこと」のおよそ総てを注ぎ込んで"わが人生"の自己検証を試みた壮大なる"自伝"小説。『万延元年のフットボール』『同時代ゲーム』に続きその"祈りと再生"の主題を深め極めた画期的長篇。
  • やすらかに今はねむり給え/道
    -
    昭和20年5月から原爆投下の8月9日までの日々――長崎の兵器工場に動員された女学生たちの苛酷な青春。一瞬の光にのまれ、理不尽に消えてしまった〈生〉記録をたずね事実を基に、綿密に綴った被爆体験。谷崎潤一郎賞受賞作「やすらかに今はねむり給え」のほか恩師・友人たちの最期を鮮烈に描いた「道」を収録。鎮魂の思いをこめた林京子の原点。
  • 鷹

    -
    「万人の幸福のために」もっと上等のたばこをつくりたい、そう考えたために国助は専売公社を追われた。ある日、巷の古ぼけた食堂で見知らぬ男に声をかけられ運河のほとりの秘密たばこ工場に雇われる。表題作「鷹」のほか「珊瑚」「鳴神」を収録。透徹する深遠な幻想と独特の文体のリズムに痛烈な世相批判を籠める傑作諷刺小説。
  • もう一つの修羅
    -
    常に現在を超えインターナショナルであり続けること。強靱な思考とダイナミックな論理の滲透力――そして何よりも明晰・華麗なレトリック。忌憚のない鋭い批評ゆえに同時代に敬遠された文学者花田清輝が、時間の流れの雲間から、今再び輝き出す。血と暴力を象徴する“修羅”を転倒し、“もう一つ”の言葉の“修羅”の世界を開示する知的快感溢れる力業!
  • 風前雨後 現代日本のエッセイ
    -
    蘆花を終生苦しめた重圧の背後にあるもの、スコットの人類冒険史上最大の運命悲劇、江藤新平、川路聖謨、シェイクスピアの世界、──人間への旺盛な興味と探究。不遇の運命とその背後の社会・国家への鋭い考察。英文学、社会評論、翻訳、評伝、社会運動など、その枠を超え、屹立する、比類なき知性と実行力をもつ著者の、精神の動向を闊達自在に展開する「蘇峰と蘆花」「諷刺文学序説」「怒りの花束」ほか収録。ジャンルを超えて思考する豊穣強靱な精神世界!
  • 式子内親王・永福門院 現代日本のエッセイ
    4.0
    「人間を超えるものの認識なしにこうした歌が読めるであろうか」ーー。式子内親王の3つの「百首歌」、少ない贈答歌などへの細やかな考察を通し、詩人の特性、女として人としての成長、歌境・表現の深化・醇化を「思うままの作品鑑賞」で綴る。三十一文字に自己の心と想念を添わせ、独創的な視点と豊かな感性で展開する「式子内親王」「永福門院」「いま一章、和歌について」を収録した名評論集。平林たい子賞受賞作。
  • 冥途の家族
    3.0
    父親の両腕、両脚にからまれ、しがみつくように寝る幼い娘。デキの良い娘に、何ひとつ不自由させず、こよなく愛する父親。やがて娘は成長し、家を出て、絵かきのセンセと同棲する。父の脇腹にカタマリができ、娘の渡米中に父親は癌死する。濃いつながりを持つ父と娘、母と娘、家族群像を鮮かに描き、女流文学賞を受賞した、富岡多惠子の初期を代表する傑作!
  • 月は東に
    -
    起きてしまった知人の配偶者との「関係」の事実を、男は謝罪し弁明するほどに、ますます窮地に陥ってゆく。露呈する主人公の心の「やましさ」を、作家の眼が凝視する。救いを願う個我の微妙な感情と心理を描いた、意欲的長篇。夏目漱石、志賀直哉らと日本の近代小説が探求し続けてきた、人間の「倫理とエゴ」の重く切実な主題を共有する、『幕が下りてから』に続く著者中期の代表作。
  • 寝園
    3.0
    持ち株の暴落で事業に失敗し破産しかかった青年梶と、その梶を強く慕う奈奈江や、幾組かの男女の"愛"の葛藤。伊豆山中の狩猟の最中に起きた突発的傷害事件への発展。「純文学にして通俗小説」なる"純枠小説"を自ら実践し、恋愛における現代人の"危機意識"を緻密な文体で追った「紋章」「家族会議」等の先駆となった画期的名篇。
  • 女の宿
    -
    大阪に住む友人の女流画家とその義妹の家に宿をかりた私。そこに偶然訪れた二人の女客。隣家から響く無遠慮な女の声。さりげない日常の中に、時代の枠に縛られながら慎しく生きる女たちの不幸と哀しみとを刻み込む、女流文学賞受賞作「女の宿」。ほかに名篇「水」、「泥人形」「幸福」など、人々の真摯な生きざまを見事に描き上げた13篇を収録。
  • 花の町/軍歌「戦友」
    4.0
    昭和16年、陸軍徴用員として従軍した著者は翌年2月シンガポールに入り、昭南タイムズ、昭南日本学園等に勤務。市内の一家族の動向を丹念に描いた長閑で滑稽で奇妙に平和な戦時中の異色作「花の町」をはじめ、「軍歌『戦友』」「昭南タイムズ発刊の頃」「シンガポールで見た藤田嗣治」「或る少女の戦時日記」「悪夢」など、この体験に関わる文業を集成、9篇収録。
  • わが母の記 花の下・月の光・雪の面
    4.0
    80歳の母を祝う花見旅行を背景にその老いを綴る「花の下」、郷里に移り住んだ85歳の母の崩れてゆく日常を描いた「月の光」、89歳の母の死の前後を記す「雪の面」。 枯葉ほどの軽さのはかない肉体、毀れてしまった頭、過去を失い自己の存在を消してゆく老耄の母を直視し、愛情をこめて綴る『わが母の記』三部作。〈老い〉に対峙し〈生〉の本質に迫る名篇。ほかに「墓地とえび芋」を収録。
  • 日本のルネッサンス人
    -
    永徳「洛中洛外図」や光悦“鷹が峯”をめぐる様々な流説等を媒介にして、中世から近代への転形期を美事生き抜いた、日本のルネッサンス人に、転形期特有の“普遍性”を発見し、誰よりも激しく現在を、更に未来を生きる“原点”を追求する花田清輝の豊かな歴史感覚、国際感覚、秀抜なレトリック。若き日の「復興期の精神」を成熟させた批評精神の凱旋!
  • つげ義春日記
    値引きあり
    3.9
    伝説の漫画家が私生活の苦闘を描いた幻の日記、待望の初文庫化。 昭和50年代、結婚し長男も誕生して一家をかまえた漫画家つげ義春は、寡作ながらも「ねじ式」「紅い花」など評価の高い作品群が次々と文庫化され、人気を博す。生活上の安定こそ得たが、新作の執筆は思うように進まず、将来への不安、育児の苦労、妻の闘病と自身の心身の不調など人生の尽きぬ悩みに向き合う日々を、私小説さながら赤裸々に、真率かつユーモア漂う筆致で描いた日記文学の名篇。解説・松田哲夫。
  • 私説聊斎志異
    -
    官吏の登竜門である科挙の試験に生涯落第し続けて、その鬱屈をバネに幻想怪異譚『聊斎志異』16巻を書いた、清代の蒲松齢。著者・安岡章太郎は、己れの屈折した戦時下体験をこの作者に重ね合わせつつ、回想小説風に筆を進める。時代と社会と個人の根っこの関係を自在に描いて、人間存在の不可思議な面白さを生きいき剔出する。後の『流離譚』などの作品とも通ずる名篇。
  • 番茶菓子 現代日本のエッセイ
    3.7
    《時間は一度勝負だ。過ぎた時間は書き直せない》と覚悟した著者が、日常の暮らしでの人と人との出会いと記憶の断片を、掌篇小説の如き味わいの小品12章につづる。「花の小品」「きものの四季」「新年三題」「一日一題」ほか、作家・幸田文の凜とした資質のきらめく、珠玉の名文。
  • 駅・栗いくつ
    3.0
    「男と女のなかには距離がひそむ。親子のあいだにも寸法は残されている。駅も距離だし、国も距離だし、ことばも距離だし、風も著物も距離だ」(『駅』「さとがえり」)――男と女の縁、夫婦、親と子、幼な友達、嫁と姑。ささやかな日常の中に人生の機微を掬い取り、鮮やかに命を吹き込む、幸田文の強靱な感性。連作的随筆『駅』の12章と小説『栗いくつ』を収録。
  • 星と月は天の穴
    3.7
    結婚生活に失敗した独り暮しの作家矢添と画廊で知り合った女子大生紀子との奇妙な交渉。矢添の部屋の窓下に展がる小公園、揺れるブランコ。過去から軋み上る苦い思い出……。明晰・繊細な文体と鮮やかな心象風景で、一組の男女の次第に深まる愛の〈かたち〉を冷徹に描きあげ人間存在の根本を追究する芸術選奨受賞作。
  • 夢の島
    4.3
    巨大な都市のゴミの捨て場所――夢の島。バイクを疾駆させ、主人公を惹きつける若い女。ゴミの集積地が、"魅惑の場所"に鮮やかに逆転する――時代の最尖端での光芒を放つ、日野文学の最高傑作。芸術選奨受賞作。
  • 兵隊宿
    -
    乗船直前、自分の家に泊った3人の出征将校の姿に、未知の大人たちの世界を知り微妙に変わる少年の心の襞。川端康成文学賞受賞「兵隊宿」と、「少年の島」「流線的」「緋鯉」「虚無僧」ほか共通の主人公による9つの短篇群。『往還の記』『式子内親王・永福門院』等、日本の古典を材に優れた評論を持つ著者の『儀式』『鶴』に続く代表的名篇。
  • 雲の影・貧乏の説
    3.0
    漢籍・仏典・古典籍等に深く博い知識を有し雄渾壮大な想像力と強烈な意志力で異彩を放ち天才をうたわれ明治文壇屈指の名文家蝸牛庵幸田露伴。「少年時代」「雲の影」「釣談」「江戸と江戸文学」「美人論」「簡素治新ということ」「貧乏の説」「淡島寒月氏」「樋口一葉」「明治文壇雑話」など、最後の文語体文学者が記した口語体エッセイ30篇。
  • 新編 文学の責任
    -
    碩学・吉川幸次郎の中国文学の高弟であり、戦後日本文学の思想を根源的に、果敢に継承しようとして早逝した著者。『悲の器』で圧倒的な出発を果たし、『邪宗門』『散華』等々、70年代までの現代日本を代表する文学・思想者、高橋和巳の文壇的出発前を含めた初期の思想を凝集した「志」エッセイ。
  • ものみな歌でおわる・爆裂弾記 現代日本の戯曲
    -
    『復興期の精神』の著者の代表的戯曲3篇を収録――虚実交錯する二元的批判構図を持ち、特異な発想と構想で、常に戦後文学に先鋭な問題を提起し続けた『復興期の精神』の著者・花田清輝の、代表的戯曲3篇。明治18年、自由民権運動を背景に、女壮士・新聞記者・講釈師・演歌師などを配して、その過激な運動の壊滅までの顛末を描いた諷刺喜劇「爆裂弾記」のほか、「ものみな歌でおわる」「首が飛んでも――眉間尺」を収録。
  • 鞆ノ津茶会記
    3.0
    秀吉の暴威と隠者の酒宴。『黒い雨』に通底する最晩年の傑作――茶会の作法や規則なども全く知らないが、鞆ノ津の城内や安国寺の茶席で茶の湯の会が催される話を仮想した……秀吉の九州攻略から朝鮮出兵へと至る時期。作家の郷里・備後を舞台に、小早川隆景に恩顧を受けた、武将や僧侶が集まる宴で噂話に花が咲き、戦国末期の生々しい世相や日常が、色鮮やかに甦る。著者の想像力に圧倒される、最晩年の名作。 ※本書は、1989年1月福武文庫版『鞆ノ津茶会記』、1999年1月刊『井伏鱒二全集27』(筑摩書房)を底本としました。
  • 当世凡人伝
    -
    なんの変哲もないありふれた人生。独得の語り口で、あるがままに描き出し、したたかに生きる平凡な人々の日常に滲む哀しみを、鮮やかに浮彫りにする、富岡多惠子の傑作短篇集。川端康成文学賞受賞「立切れ」ほか、地方都市で妻と二人ひっそりと暮す退官した警視・松尾文平に纏る「薬のひき出し」、「名前」「ワンダーランド」「幼友達」「富士山の見える家」など12篇の傑作短篇を収録。
  • またふたたびの道・砧をうつ女
    4.0
    日本の敗戦による、サハリンからの辛うじての帰国。劇変する状況、分断された祖国、一家離散の家族の悲劇。群像新人賞受賞の出世作「またふたたびの道」および、母を描く感動の名作で芥川賞受賞作「砧をうつ女」、父を描く「人面の大岩」。インターナショナルな視座から時代に正面し、たじろがぬ、常に真摯に力走する、在日作家・李恢成の初期秀作群。
  • 鴎外・漱石・龍之介 意中の文士たち(上) 現代日本のエッセイ
    -
    作家としてのみならず学究・評者として非凡であった福永武彦が、深く心の裡に愛した文学者について自ら記した文章を蒐めて、「意中の文士たち」と名づけたエッセイ集上下巻のうち、上巻を収める。鴎外・漱石・芥川・荷風・谷崎・梶井基次郎・中島敦、そして川端康成への、いわば福永武彦の「感謝の現れ」をオマージュとして捧げた文章である。
  • 春・花の下
    3.0
    理性と感情がみごとに調和した、清澄な文体でつづる傑作短篇集。巡る春に託して老女の家へのこだわりを描く「春」、死別したはずの母親についての怖ろしい疑惑が湧き上る「花の下」、娘を中心として家族全体で死にゆく母を看とる「去年の梅」の他、「ありてなければ」「迎え火」「夜の明けるまで」「春過ぎて」「市」「降ってきた鳥」「湖」の秀作10篇を収録した。
  • 山川登美子 「明星」の歌人 現代日本のエッセイ
    3.0
    ――山川登美子は、挽歌を詠むために生まれてきたような歌人だと思う。――その特性を、「三すじの挽歌」に焦点を合わせ、死を見つめ、自らの歌を詠み出す心の軌跡を濃やかに自在に辿る。深い思考が「通念」を超えて、「明星」の歌人・登美子を自立させ、日本の女歌の歴史の中に鮮やかに位置づける。豊かな感性が切り開く、独創的な登美子論。毎日芸術賞受賞作の名著。
  • インド綿の服
    4.7
    「足柄山からこんにちは」――自然に囲まれて暮らす一家の様子を、長女はユーモアあふれる楽しい手紙で知らせてくれる。山の豊かな四季。そこで営まれる若さと活力に満ちた生活。その便りは“私たち”に大きな喜びを与えてくれる。表題作をはじめ「楽しき農婦」「足柄山の春」など、家族の愛の交流を描く足柄山シリーズ6篇。
  • われら青春の途上にて 青丘の宿
    3.0
    祖国が分断され、まだ多くある差別の中で、若い青春を、本当の生きかたとは何か、を真摯に問いながら生きる群像。李恢成の初期中篇「われら青春の途上にて」「青丘の宿」ほか父親の死を契機に、対立し、相反する2つの組織が手を結ぶ、僅かに残された“黄金風景”を描く「死者の遺したもの」収録。
  • 落花 蜃気楼 霊薬十二神丹
    -
    闊達自在、卓抜典雅な文章で貫ぬかれた揺るぎない批評眼、飛翔する想像力。世相を鋭く風刺し、幻想的世界と現実とが交錯する石川文学中期作品群7篇。──かつて東北の鄙びた温泉場で、俄に腹痛におそわれた〈わたし〉が、土地に伝わる丸薬でそれを治した話に始まる「霊薬十二神丹」ほか、「落花」「近松」「今はむかし」「蜃気楼」「かくしごと」「狐の生肝」を収録。
  • ゆう女始末 おまえの敵はおまえだ
    -
    九州の僻地の医院に嫁した古い箏歌を口ずさむ老女の話「越天楽」、黄金の鶏を求め竹林に分け入り片目片足を失った竹細工人の話「金鶏」、ロシヤ帝国皇太子ニコラスの負傷事件により自決した魚問屋に働く女の話「ゆう女始末」の奇談3篇と、理想の虚しさを鋭く風刺した著者初の戯曲・芸術祭主催公演「おまえの敵はおまえだ」、「一目見て憎め」の戯曲2篇を収録。
  • 影 裸婦変相 喜寿童女
    -
    三品財閥の女婿である外交官の鳥栖庄五は役所の機密書類を密かに持ち帰る途中、秘密探偵社の一団に誘拐される――社会機構を痛烈に風刺した「影」をはじめ、幻想的世界と現実とが妖しく交錯する「裸婦変相」、喜寿を迎えた名妓お花が11歳の幼女に変貌する奇談「喜寿童女」ほか、「ほととぎす」「大徳寺」など、鋭い批評眼と絶妙な文体で描かれた中期作品群より7篇を収録。
  • 抹香町 路傍
    3.9
    文学に憧れて家業の魚屋を放り出して上京するが、生活できずに故郷の小田原へと逃げ帰る。生家の海岸に近い物置小屋に住みこんで私娼窟へと通う、気ままながらの男女のしがらみを一種の哀感をもって描写、徳田秋声、宇野浩二に近づきを得、日本文学の一系譜を継承する。老年になって若い女と結婚した「ふっつ・とみうら」、「徳田秋声の周囲」なども収録。
  • アヴァンギャルド芸術
    -
    常に時代を"転形期"として捉え、前近代的なもの、B級の芸術を否定的媒介にして"モダニズム"を超える思考の提出。世界の秀れた前衛の思想をラジカルに踏んだ強力な視座、常にダイナミックな"変革"を志す世界的発信性の獲得。思想の追尋者・花田清輝の代表作。
  • 愛について
    3.0
    この道はどこへ行くんでしょうか――偶然の邂逅から始まる若い男女の愛。その2年後の妻の謎の事故死。『武蔵野夫人』『花影』で新しい"愛のかたち"を文学史上に画した著者が、現代の市民社会とその風俗の中に、男と女、家庭、"愛の死と再生"のテーマを"連環"する10章で問う。
  • 黒髪 別れたる妻に送る手紙
    4.3
    京都の遊女に惹かれて尽し、年季明けには一緒になろうとの夢が、手酷く裏切られる顛末を冷静に書いた「黒髪」。家を出てしまった妻への恋情を連綿と綴る書簡体小説の「別れたる妻に送る手紙」と、日光までも妻の足跡を追い捜し回るその続篇「疑惑」。 明治9年、岡山に生まれ、男の情痴の世界を大胆に描いて、晩年は両眼ともに失明、昭和19年没した破滅型私小説作家の"栄光と哀しみ"。
  • おまんが紅・接木の台・雪女
    -
    片隅に生きる職人の密かな誇りと覚悟を顕彰する「冬の声」。不作のため娼妓となった女への暖かな眼差し「おまんが紅」。一葉研究史の画期的労作『一葉の日記』の著者和田芳恵の晩年の読売文学賞受賞作「接木の台」、著者の名品中の名品・川端康成賞受賞の短篇「雪女」など代表作14篇を収録。
  • しあわせ/かくてありけり
    -
    母と別れた父親の“果たせぬ夢”であった慶応幼稚舎に入学。しかし母は芸者屋の主人でありみずから左褄もとっていたので、家業や住所は“秘匿”する習性がついていた。幼時・少年時に住んだ土地を訪ねるに始まり、時代を写し自らの来しかたを凝視して読売文学賞を受賞した表題作と短篇の名品と呼ぶべき「しあわせ」を併録した鏤骨の一冊。
  • 偉大なる暗闇――師 岩元禎と弟子たち
    3.0
    夏目漱石が『三四郎』の“偉大なる暗闇”広田先生のモデルとしたとの“伝説”の旧制一高独逸語教授・岩元禎。頑固一徹、情容赦なく落第点をつける徹底した厳格さの古典的理想主義の哲学者。その変り者の生涯と精神の軌跡。近代ヨーロッパ文化と初めて遭遇し苦闘するその姿を漱石など関連の人物たちと対比させた多面的評伝にして明治の精神史。思想探求の書。第13回平林たい子賞受賞。
  • 私の東京地図
    -
    上野池之端清凌亭のころ、丸善時代、芥川龍之介や中野重治らとの出逢い。非合法活動、結婚、敗戦……住み馴染んだ東京の街、戦禍で失われた街。様々な思い出を、人々の善意と真摯な営みの中に描く。戦争責任追及の渦中に身を晒しながら自らの過去を探り、心に自らを問い、自らを確かめるように書き刻んだ名作。
  • 大陸の細道
    -
    M農地開発公社嘱託として満州に赴いた木川正介。喘息と神経痛をかかえ、戦争末期の酷寒の中で、友情と酒を味方に人生の闘いをはじめる。庶民生活の中の「小さくて大きな真実」。“日本の親爺”木山捷平が、暖かく、飄逸味溢れる絶妙の語りくちで、満洲での体験を私小説世界に結晶させた。芸術選奨受賞作。
  • まぼろしの記・虫も樹も
    -
    父祖の地小田原下曽我で、病を克服し、自然と交流する日々。野間文芸賞受賞の名作「まぼろしの記」をはじめとする、尾崎一雄最晩年の代表的中短篇、「春の色」「退職の願い」「朝の焚火」「虫も樹も」「花ぐもり」「梅雨あけ」、さらに、「楠ノ木の箱」計8篇を収録。危うい“生”と理不尽な“死”を、透徹した静寂さの上に浮彫りにした深い感動を呼ぶ名篇。
  • 無縁の生活・人生の一日
    4.3
    日常の深底に澱む不透明で苛酷な世界。人生の悲哀を呑みこんだ苦いユーモアと豊かな情感とに支えられる阿部昭の小説空間。「自転車」「猫」「窓」「散歩」「手紙」「童話」「道」ほかの短篇で繋ぐ『無縁の生活』、「人生の一日」「水のほとりで」「天使がみたもの」などを収める芸術選奨新人賞受賞『人生の一日』。2つの作品集から20篇を収録。
  • 人間・歴史・風土 坂口安吾エッセイ選
    3.0
    自然の風土の中で生きる人間をとおして作られるのが真実の歴史であるとする安吾独得の歴史観を背景に、自ら現地に足を運び、卓抜した洞察力を働かせてものした歴史紀行の中から「天草四郎」「安吾・伊勢神宮にゆく」「飛騨・高山の抹殺」など10篇を収録。司馬遼太郎の「街道をゆく」や松本清張の「古代探究」などの紀行文学のさきがけとなった画期的エッセイ。
  • 彼岸花
    -
    その生涯を通して、優れた才気と誠意で学者、芸術家ほか多彩な人々の信頼を得、驚嘆すべき多くの出会いと豊かな交流を持った名編集者・小林勇。幸田露伴、寺田寅彦、小宮豊隆、安倍能成、野呂栄太郎、名取洋之助、中谷宇吉郎、斎藤茂吉、小泉信三、渋沢敬三等々、一筋に生きた人々の美しさ、勁さ弱さを尊重し、愛惜する。33人の偉大で慕わしい人々への鮮やかなレクイエム。
  • 成熟と喪失 ―“母”の崩壊―
    値引きあり
    4.2
    「成熟」するとは、喪失感の空洞のなかに湧いて来るこの「悪」をひきうけることである(本文より)――「海辺の光景」「抱擁家族」「沈黙」「星と月は天の穴」「夕べの雲」など、戦後日本の小説をとおし、母と子のかかわりを分析。母子密着の日本型文化の中では、「母」の崩壊なしに「成熟」はありえない、と論じ、真の近代思想と日本社会の近代化の実相のずれを指摘した、先駆的評論。
  • 石の来歴 浪漫的な行軍の記録
    値引きあり
    4.0
    現実と非現実の交錯を描く芥川賞受賞作。石に異常な執着を示す男の人生。長男の死、妻の狂気、次男の学生運動、夢と現実の交錯のなかで描かれる奥泉光の芥川賞受賞作。他に「浪漫的な行軍の記録」所収――太平洋戦争末期、レイテで、真名瀬は石に魅せられる。戦後も、石に対する執着は、異常にも思えるほど続くが、やがて、子供たちは死に弄ばれ、妻は狂気に向かう。現実と非現実が交錯する、芥川賞受賞作「石の来歴」。兵士たちの、いつ終わるとも知れぬ時空を超えた進軍、極限状況の中でみたものは……。帝国陸軍兵士の夢と現を描く、渾身の力作、「浪漫的な行軍の記録」所収。
  • 妖 花食い姥
    2.5
    深い怒りと悲しみに培われて女の内部に居据わる〈業〉を凄絶に描いた「ひもじい月日」(女流文学者賞受賞)、『春雨物語』を踏まえた鬼気迫る傑作「二世の縁 拾遺」、夢幻と現実が見事に融合する「花食い姥」、ほかに「黝い紫陽花」「妖」「猫の草子」「川波抄」を収録。伝統的優美と豊かな知性が研きあげた隠微な官能、妖気を漂わせる特異の世界、円地文子傑作短篇集・7篇。
  • 年月のあしおと(上)
    4.0
    1~4巻1,023~1,353円 (税込)
    明治・大正・昭和の文学的追想。ことに大正から昭和の時代風俗、文壇の裏面史をぎっしりと埋め込み、芥川龍之介をはじめ同時代の作家の風貌をいきいきと捉えた、自伝的文壇回想録。正篇を上下二巻に編集、上巻には大正4年終生の友人・宇野浩二との親交を深めた三保松原の旅行、父・柳浪が病気療養のため東京から知多半島師崎に転ずる前後までを収録。野間文芸賞、毎日出版文化賞受賞作品。<上下巻>
  • 拳銃と十五の短篇
    4.8
    うわべは優雅な村人であった亡父の形見の6連発拳銃。母の心臓に、雷に打たれたようにある6つの小さい深い穴。さりげない筆致と深く暖かな語りのうちに、生きることへの声援をおくる三浦哲郎の鮮やかな短篇連作の世界。野間文芸賞受賞。
  • 普賢 佳人
    3.7
    中世フランスの女流詩人の伝記を書く主人公〈わたし〉。友人庵文蔵、非合法の運動をする文蔵の妹ユカリ――日常の様々な事件に捲込まれ、その只中に身を置く〈わたし〉の現実を、饒舌自在に描く芥川賞受賞作「普賢」のほか処女作「佳人」、「貧窮問答」など。和漢洋の比類ない学識と絶妙の文体、鋭い批評眼で知られた石川淳の文学原理を鮮明に表出する初期作品群4篇。

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