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16歳での懸賞小説当選作(「活版屋の話」)。18歳の懸賞脚本当選作(「出産」)。19歳の時の文壇出世作「黒い御飯」。早熟の才能明らかな最初期から、第2回横光賞「朝霧」や、「花火」「青電車」に到る、永井龍男の短篇の精髄。「往来」「胡桃割り」「ある夏まで」など、14篇の秀作群。後年の短篇の冴えを予感する短篇世界!
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Posted by ブクログ
中学生ころだったか、教科書に「黒い御飯」が載っていた。三人の男兄弟の末っ子が、小学校入学前を回想し、父や家族との思い出を語るという作品。 「頬のこけた、髭をはやした顔、そして自分で染め直した外套を着て、そろそろ、そろそろ、下駄を引き摺るようにして歩く父の影が、私の心へ蘇える。」 ある4月1日、父が...続きを読む突然、家の台所にある釜を使って兄の紺がすりを染め直し、主人公が新たに学校へ着ていく服にする、と言った。 その翌朝。「綺麗好きの母が、あれ程よく洗った釜で炊いた、その御飯はうす黒かった。 うす黒い御飯から、もうもうと湯気が上がった。 『赤の御飯のかわりだね』 誰かがそんなことを云う。」 国語の先生が「この『赤の御飯のかわりだね』がもつ意味を、よく考えてください。」と言ったのを今でも覚えている。 「黒い御飯」は、文庫本でたった6ページの小品。だが、表題となった「黒い御飯」についてのくだりは最終ページまで出てこない。読者は表題を知っていても、内容との関係がつかめないまま読み進むことになる。 ほかにもこの作品集には表題の趣旨が最後の方まで読み進まないと出てこない作品が多い。 「菜の花」「往来」「朝霧」… それらの作品は読み進めるうち表題が何だったかも忘れてしまうが、ある瞬間、「ああ、こういう意味で、この題がついてたんだ」と、ぱあっと広がる瞬間が来る。読者はそこで文字通り“膝をうつ”。読者の心を掴んで持って行く描写力は本当にうまいと思う。 あと、この作者がうまいと思うのは、会話の描写。簡潔だけど、人物がちゃんと描けている。「往来」の、主人公と妻と2人の幼い子どもの会話は、無駄な記述がなく、本当に実在の家族の日常会話を切り取ったように新鮮で、それでいて小説の味も十分出ている。 最近の作家も少し、永井龍男作品から会話描写の術を学んだほうがいい。 (2010/12/5)
どの短編も前半は説明臭いところがあるけれど、後半で見事に締めてくれる。最後は洒落た感じでもひねりが効いた文でもないのに、これ以上物語が続くとは思わせない。 贅肉無しの完璧な人が、瞬発力を要する様々な競技をして、着地なりゴールなりをばっちり決める。そんな感じです。
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