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文学に憧れて家業の魚屋を放り出して上京するが、生活できずに故郷の小田原へと逃げ帰る。生家の海岸に近い物置小屋に住みこんで私娼窟へと通う、気ままながらの男女のしがらみを一種の哀感をもって描写、徳田秋声、宇野浩二に近づきを得、日本文学の一系譜を継承する。老年になって若い女と結婚した「ふっつ・とみうら」、「徳田秋声の周囲」なども収録。
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Posted by ブクログ
究極の私小説家と言われる長太郎の作品を初めて読んだ。長太郎の身の回り半径5mに起きた出来事が題材という感じなので、確かに”究極”の私小説なのだが、私小説と言われると違和感があった。それが、作品全体の”即物的”な乾いた感覚であることに思い当たった。いわゆる私小説的な情緒、情感といったところは無い。 作...続きを読む品より長太郎自身が気になってしまうのも事実。軍国的時代と資本主義的な生産活動に背を向けた、一人アナーキスト活動と思えてならない。 つげ義春の「無能の人」「ねじ式」を思い出した。 長太郎に関わった周りの人も小説の題材とされてしまい、困ったんではないかと思います。
基本的に繰り返しという意味ではハルキさんと同であるはずなのに川長さんは何故にこれほど読ませるのか。私小説ならではの味わいと限界を示してくれた。
川崎長太郎を初めて読みました。 徳田秋声、宇野浩二の流れを汲むとは知らなんだけど、この流れは西村賢太にも続いていると思う。 年老いた頃の作品も多くあり、過去の回想も交えながらも、静かに時間を眺める視線は読んでいて安心感をすらおぼえる。 芥川や太宰とは違い、長々と生き抜く。それは見方によっては退屈...続きを読むであるかもしれないが、それはそれで凄みのある生き様が独特の語りで聞かせる。 印象に残るのは、「ふっつ・とみうら」「日没前」「墓まいり」
主人公は文学に憧れて家業を放り出して上京するが食えずに生家に戻り、実家からほど近い海岸にある漁師が網などを保管する物置を住処に寝起きする50過ぎのダメ男。 定職もなく妻もなく、物置小屋をねぐらに、ビール箱を机に私小説や匿名批評などを書き送って暮らしをたてる、負け組、駄目男の日常を綴った私小説を集め...続きを読むた短編集「抹香町/路傍」の紹介。 「抹香町」に収められた短編はどれも貧しく、愚かしくて虚しい川崎長太郎自身の私生活が綴られている。 どの短編も、生きることの虚しさ、人間が織りなすの面倒くさい柵、将来に対する不安と諦観が漂い、ポジティブな材料は何一つないが、不思議と絶望感も無い。 主人公は、自らが招いたどん詰まりの境遇に対して、戦うわけでもなく、また抗うわけでもなく筆一本を頼りに恥も外聞もなく逃げ回り、なんとか生き抜いているだけの典型的なダメ人間。 彼の綴るやたら句読点の多いた文章からは、絶望感の代わりにダメ男の哀愁と侘しさが漂い、踠き逃げ回り、しぶとく生き続ける地を這う虫のような力強さを感じる。 特に表題の「抹香町」は、枯れかかったダメ男の心象風景や、場末の街や娼家などの風景描写、主人公の無様な姿を見事な文章で描写されている。 時代背景は戦後間もない頃の小田原が舞台で作者が50代の頃のお話。 作者の分身「川上竹六」は物置小屋を寝ぐらに執筆活動をしながら糊口を拭い、どん詰まりの貧乏生活を送っていた。そんなある日のこと、退屈と寂寞と虚空が入り混じった、胸苦しさで締め付けられるような気持ちになり、その気を紛らわす目的で小田原の赤線街「抹香町」へ行く事から話は始まる。 赤線街の抹香長の路地を歩いていると、店の門柱の前にポツンと立っている薄化粧の女に目を留める。薄化粧で娼婦らしくない佇まいに惹かれ、竹六はその女を買う。 女の身の上を聞くと竹六が睨んだとおり素人で、早くから両親を亡くし、百姓の婆さんに育てられた気の毒な身空の女「松ちゃん」。 半月前からこの娼家で客を取り、後半月もすると年季が明けて故郷へ帰る。 身の上話を聞いているうちに50の竹六は年甲斐もなく熱を上げ、故郷へ出向いて会いに行くと、しつこくいい寄るが、ぴしゃりと断られ、しょんぼりと店を後にする。 その後も何度か買いに行くが、とうとう年季が明けて女は国に帰った後だった。 仕方なく竹六は他の女を買う。するとあんなに胸を苦しめた「退屈と寂寞と虚空」な気持ちがなくなりすっかり白けた気分になった。 それ以来、竹六は抹香町通いをやめ、貧乏くさい退屈な日々の生活に戻る。 50過ぎのおっさんがのケチな女遊びで寂しさと性欲を紛らわすだけの小説。 このしょうもない小説の中で好きな箇所は、竹六が胸苦しい寂しさと、これまたどうにも抑えきれない性欲を抱えて女を漁りに抹香町を歩き回って様子が描かれたシーン。 句読点が多く読みづらい文章だが、句読点を論理の切れ目ではなくリズムと流れで捉えて読むと文章からなんとも言えぬ哀愁と侘しさと自虐的なユーモアが伝わってくる。 以下本文より。 竹六はむさぼるような、遠慮のない目つきでみて行った。電気で縮ららせた頭髪、塗りたくった、胸のむかつくような脂粉の顔、和服、洋服とまちまちだが、どれも安っぽく、あくどく、けばけばしいそんな、なりや化粧によくはまっている、野卑な丈夫そうなみだらがましい女達。同情より、一層頑なな反発を覚え、消毒液の匂いまで、段々鼻についてき、竹六は吐き気を催すような気分になった。何か、物欲しげに迷い込んだ、自分の酔狂もいまいましくなり、ついでに、いいとしながら、アロハシャツの青年などと一緒に、路地をまごまごしている己の姿が、みじめっぽいものように写ってきた。しかし、両脚は、彼の思惑や、顰めっ面とは関係無く、次から次へと廻って行くのである。 抹香町の風景や、そこにいる人々の風景、次第に嫌悪感を募らせる竹六の移りゆく心の動きが実に見事な文体で表現され、理性は女を嫌悪し下半身は逆に女を求めて歩き回る竹六(作者自身)の無様な姿が自虐的なユーモアを込めて見事に描かれている。 女を求めて赤線街をうろつき回る枯れかかった五十路男の姿はただ醜く、みじめな姿にしか映らないが、作者の筆にかかると、汚物のような男の姿から哀愁と侘しさが漂い、そんなダメ男になんとなく肩入れしたくなる。 「抹香町」を初めて読んだ19の頃は、しみったれた主人公と、やたら句読点が多く、年寄りの小便のように勢いもなくダラダラ続く描写にうんざりして短編を1−2つ読んで投げ出してしまった。 当時の自分は、どうせ自堕落に生きるのなら坂口安吾や太宰のように命を燃やし、火だるまになってまっすぐ地獄に落ちる生き方に共感しても、川崎長太郎のように醜態晒しながら虫のように這い回り、逃げ回っているだけのダメ男に「哀愁」や「侘しさ」感じることができず、しみったれた奴だと嫌悪感しか抱けなかった。 それが今では川崎長太郎の小説に哀愁や侘しさや強さを感じるようになった。 若い時は自分より優れた者になるために戦い、挑む「マッチョな強さ」、言い換えるなら「弱さを否定した強さ」に憧れ、勢いだけで戦いを挑んでは無駄に傷つき挫折していた。 しかし歳をとると自分より優れた者になろうとはしない。むしろ竹六のようにダメな自分を直視して、「ゴキブリならゴキブリで結構。それならよりゴキブリらしく」と居直る強さ、虫のように逃げ回り、しぶとく生き残る「弱さを前提とした強さ」に共感する。 ダメ男の「弱さを前提とした強さ」が醸し出す臭気が「哀愁」と「侘しさ」となって文章に漂い、40を過ぎてこの小説を読み返した自分を惹きつける。 とは言え実際の職場でこんなダメな男が自分の側にいたら、胸倉つかんで「テメェー何やってんだよ!」と怒鳴りつけるだろう。現実は往々にして残酷なものなのだ。
講談社文芸文庫ダメ人間私小説といえば葛西善蔵、嘉村礒多、そしてこの川崎長太郎である。 奇しくも「か」から名前が始まるこの三人の作品が書店で近くに並んでいることを考えると恐ろしい偶然を感じる。 誰だって己の芸術に可能性があるのならば貧しい魚屋家業など継ぎたくはないのだ。 いや可能性はなくとも魚屋...続きを読むよりも芸術を選ぶ。 それがダメ人間なのだ。 生き様こそ芸術の根幹をなす(こともある)。 この作品集では他二人の「か」ダメ作家と比べて老境に入ってからのダメぶりに特徴があるように思う。 いい歳こいて実家の物置小屋に住んで腹が減っては母屋の台所で盗み食いをし、金に余裕があれば赤線に行く。 俺もこういう歳の重ね方をしたいものだ。 若き日の瑞々しいダメさはトリを飾る「徳田秋声の周囲」くらいで少し文体も違うので、この作品集の中では少し毛色の違う作品といえるか。 やはり昔のダメ私小説は面白い。 昨夏に復刊した文庫もあるのでその辺も攻めてみたい作家。 ただ講談社文芸文庫三大「か」ダメ私小説家ではやはり葛西善蔵が頭一つ抜けているように思うし若い鮮烈さが足りないような気がするので、星は4つ。
しっかりしろよーと言いたくなる作者の、私小説。 でもついつい読んでしまうのはなんでだろう。好きなんだろうなぁ、この時間の流れが。 劇的な何かが起こるわけでもない。 きっとみんな、こうした人生を送っている。
つげ義春が「貧困旅行記」所収の「大原・富浦」で、「ふっつ・とみうら」に言及していたので知った作家。 その後、西村賢太界隈でも見聞きして気になっていた。 確かにそのふたりがラブコールを送るだけある。 文体も面白くて、わざと助詞を飛ばす砕けた表現。 「根が云々」に似た言い回しも一冊の中で数回登場した。 ...続きを読む構成がどうこうではなく、尻切れトンボだったり、それがまたいい抒情を出していたり。 徹底することで生まれる味。 で、いま個人的映画祭をしている小津安二郎と、芸者を巡って張り合っていた、というのも面白情報。 ■父の死 たった4ページ。父の死の床で遺言を聞く。魚屋を次男に継がせろと言われた、長男私。親の期待を裏切って文学へと。文学極道。 ■無題 徳田秋声推薦の文壇デビュー作。 カフェ「ゆたか」女給の、お明とお安と。タイプの違うふたりとの関係について。ぐずぐずしているうちに山路と結婚したお明が、借金の依頼に来て、一晩泊まってくくればと持ち掛ける。が、電報為替の扱い時間がオーバーしており、別れる。翌日絶好の手紙が来る。が、また話して、結局関係を持って。グダグダ。ラストがブツ切りで、小説としての完成度云々より、コジラセたあれこれをアケスケに書き残す営為自体が凄い。 ■軍用人足 徴用された参五が、命令されるままに軽トラに、沖縄出身の城間と乗って、向かった先は小隊長宅。徴発してきた食料を運び込み、小隊長の奥さんに感謝の言葉と煙草を貰う。そんな出来事のスケッチ。 軍隊なので私生活から切り離され、文学極道の自意識がないためか、割と普通の小説。 ■抹香町 小田原の赤線地帯の名称らしい。「抹香町もの」で戦後プチブームになったという。 川上竹六56歳。東京から帰り、実家近くの物置小屋に暮らす。健康のため散歩。気晴らしに抹香町のほうへ。半月前からだという初めての女の部屋へ。故郷に帰ったら訪ねていくから会ってくれと約束。その証拠に、髪を「おくれよ。おくれよう」とねだったところに、他の客が来て「帰ってっ!」「又きてっ」。それから何度か通ったが、女はあるときふっと帰ってしまった。しらけてしまった。 という話。 もう、駄目な男だわ……しかしこの、自身のドン詰まりを解放してくれるかもしれないと、女に一瞬期待をかけて、でもありえないということはもうわかっているという、悪あがきと諦念は、つげ義春でまんま同じものを読んだ気がする。 「無題」にもつながるが、確かつげ、お隣の奥さんを共同便所かどこかで犯しかけて手酷く追い払われたのに、でも少し後に関係持ったみたいな話を描いていたような(ヤカンの水を口移しで飲ませてくれていたような)。 その作品でも、似た切望感を覚えた記憶。 ■ふっつ・とみうら つげ義春が「貧困旅行記」所収の「大原・富浦」で、言及していたのが本作。 「健康問題で胃腸の悪くなった作者が、歩きながら屁をこくことで空気中に拡散して誤魔化す」みたいな記述があったように強烈に記憶しているが、実際はそこまでの露悪的表現ではなかった。 また不思議な語感のタイトル、富津(ふっつ)富浦(とみうら)どちらも地名。 60を超えて30も年下の「P子」と所帯を持ち、房総へフェリー旅行をするというもの。 「抹香町」のブームで集まってきた(邪推するに)グルーヴィー的な女性読者らとただれた関係になり、その中のひとりと、という、なんとも裏山怪しからん話である。 しかもこのP子が実にまめまめしく世話を焼いてくれて。 火葬場の煙突を見かけて、自分の死後残された女を思う。 と、P子素晴らしい台詞〈あの、ね。あんた死んだら、遣ったお金貰って、私アフリカへ行くわ。行けるでしょ。――そう、あんたの法事済ましてからね。アフリカへ行って、お金なくなったら、異土の乞食(かたい)になって、それから死ぬわ〉。 結局は妻萌えのおのろけ小説だった! ■路傍 小川。65歳で脳出血。5年後70歳の今は後遺症に悩まされながら、健康のため歩く。結婚10年目の妻に見送られて。で、久しぶりに会ったのは、時子。40歳のころ、東洋軒の女中である時子およびお君と交際していた。お君は結婚。時子と砂浜で寝そべって、あわや関係が越えそうになったが、足を突っ張って拒否されて、それから通わなくなった。という回想。その後の小川の零落の生活。そして30年後、また会っているのだ。 という、なんというまあプレイボーイになりそうな、なれなさそうな、交際記録。うらやまけしからん。 砂浜で〈こうしているといい気持だろ。砂がひんやりして――〉というのも、なんだかつげにありそうな。ちょっと違うが、猫の肉球を瞼にあてて(ひとりだが)似た台詞を言っていたんじゃないかしらん。 ■日没前 父の死。弟への家業相続。弟の妻が、義母を疎む。母の死。弟の不倫。私はいま75歳。 ■墓まいり 母の33回忌。親族が集まる。甥(弟の子)が商売で苦戦している。弟の不倫は続いている。 ■徳田秋声の周囲 若く、徳田秋声宅に出入りしていたころ、細君を亡くした徳田秋声に、言い寄っていた山田順子(ゆきこ)について。 ◇解説 秋山駿 ◇年譜、著者目録、参考文献
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