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  • インド思想史
    3.0
    インド最古の聖典『リグ・ヴェーダ』にはじまり、世界的にも類がないほど深遠な思想を生みだしてきたインド。ウパニシャッド、ジャイナ教、仏教、マハーバーラタ、正統バラモンの六派哲学、ヒンドゥー教から、近代のガンジーやタゴールに至るまで、3000年以上にわたる複雑で多様な思想の全領域をコンパクトに大観する。 アーリヤ人の侵入や農村社会の成立、王朝の興亡など、それぞれの時代の社会変動の影響も踏まえつつ、各思想大系の特質を明らかにすることで、〈解脱〉をもとめてやまない人類の思索の歴史が描き出される。 世界的なインド哲学、仏教学者であり、比較思想の開拓者でもあった著者による、半世紀以上にわたって読み継がれてきた不朽の概説書。原本:『インド思想史 第2版』岩波書店、1968年) 第一章 アーリヤ人の侵入とリグ・ヴェーダの宗教 第二章 農村社会の確立とバラモン教 第三章 都市の興隆と自由な思索の出現 第四章 国家統一と諸宗教の変動 第五章 統一国家崩壊後における諸宗教の変遷 第六章 クシャーナ帝国時代における新思想  第一節 時代の趨勢  第二節 仏 教   第三節 ジャイナ教   第四節 南インド文化の開花 第七章 集権的国家における諸哲学学派の確立  第一節 正統バラモン系統  第二節 仏 教   第三節 ジャイナ教  第八章 諸王朝分立時代における諸学派の継続的発展  第一節 バラモン教およびヒンドゥー教   第二節 仏 教  第九章 回教徒の侵入と思想の変化  第一節 中世的宗教の発展   第二節 近代的思惟の発展  第十章 外国資本主義制圧下における思想運動 第十一章 〔附論〕科学思想
  • 読書国民の誕生 近代日本の活字メディアと読書文化
    4.0
    日本人はなぜ、いつ、「読者」になったのか? そして何を、どのように、読んできたのか? 出版資本と鉄道による中央活字メディアの全国流通、旅行読者の全国移動、新聞縦覧所と図書館という読書装置の全国普及――官・民による、これら三つの全国的要素の融合から、明治期に活字メディアを日常的に読む習慣を身につけた国民、すなわち「読書国民」が誕生してくる過程を、出版文化研究の第一人者が活写。私たちの読書生活の起源がここにある! [目次] はじめに ■第一部 流通する活字メディア 第一章 全国読書圏の誕生 第二章 「中央帝都の新知識」を地方読者へ――新聞社・出版社による地方読者支援活動の展開 ■第二部 移動する読者 第三章 車中読者の誕生 第四章 「旅中無聊」の産業化 ■第三部 普及する読書装置 第五章 読書装置の政治学――新聞縦覧所と図書館 第六章 図書館利用者公衆の誕生 あとがき 学術文庫版へのあとがき [主なトピック] ○暴力沙汰まで! 「東京vs.大阪」新聞市場争奪戦争 ○過疎地域を開拓せよ! 新聞社・出版社による地方読者支援活動 ○駅は戦場! 漫画雑誌の隆盛はここから始まった ○お部屋訪問! 温泉地の貸本屋 ○「情報にお金を払う」習慣を生んだ新聞縦覧所 ○自由民権運動は下からの「読書国民」の創出 ○読書の価値を再発見した日清戦後の一等国意識 ○まるで監獄……帝国図書館の規律空間 ○樋口一葉も友人と……女性が一人で行けない図書館
  • 魏武注孫子
    4.3
    ■英雄たちが読み継いできた『孫子』は、曹操が定めたものだった!■ □1800年受け継がれた”スタンダード”□ 「三国志」の激戦を戦い抜いた「魏武」曹操が、自らの軍事思想を込めて全篇にわたって付した注とともに校勘したその全文が、いまここに明らかに! 読みやすい現代語訳に、懇切な語釈を付した全訳注。 曹操が実践の応用に足るように定本をつくったからこそ『孫子』は現代まで兵法の根本として重んじられてきたことが、よくわかる! さらに、曹操や諸葛亮ら英傑たちが、戦場において孫子の説く兵法をいかに具体化させたかを分析する「実戦事例」も掲載。 『孫子』の真髄がより具体的にわかるようになり、さらには「三国志」の世界もより深く理解することができる画期的全訳。 *本書は講談社学術文庫のための訳し下ろしです。 【本書より】 曹操は、『孫子』の本文が持つ意味を深め、自身の解釈に合うような校勘をしながら、そこに自己の軍事思想を込めたのである。『孫子』は、これ以降、曹操が定めた本文を基本とした。……曹操の存在無くして、現行の『孫子』を考えることはできない(本書「解題」) 【本書の内容】 始計篇 第一 【実戦事例一 白馬の戦い1】 【実戦事例二 烏桓遠征】 作戦篇 第二 【実戦事例三 官渡の戦い1】 謀攻篇 第三 【実戦事例四 赤壁の戦い1】 【実戦事例五 下ヒの戦い】 軍形篇 第四 【実戦事例六 官渡の戦い2】 兵勢篇 第五 【実戦事例七 白馬の戦い2】 【実戦事例八 合肥の戦い】 【実戦事例九 呉の平定】 虚実篇 第六 【実戦事例十 蜀漢滅亡】 軍争篇 第七 【実戦事例十一 諸葛亮の外交】 【実戦事例十二 夷陵の戦い】 【実戦事例十三 博望坡の戦い】 【実戦事例十四 穣城の戦い・ギョウ城の戦い】 九変篇 第八 【実戦事例十五 五丈原の戦い】 行軍篇 第九 【実戦事例十六 諸葛亮の信】 地形篇 第十 【実戦事例十七 泣いて馬謖を斬る】 九地篇 第十一 【実戦事例十八 第一次北伐】 火攻篇 第十二 【実戦事例十九 赤壁の戦い2】 用間篇 第十三 【実戦事例二十 孟達を誘う】 原文 解題 曹操の生涯 年表
  • 室町幕府論
    4.0
    〔あなたはまだ、義満の"本当の凄さ"を知らない〕 朝廷権力の「肩代わり」から「主体」の政権へ――室町幕府を読み直す画期的論考! かつて京都には百メートルを超える巨大な塔が建っていた。この「大塔」、眩く輝く金張りの仏閣、華やかな祭礼― 首都京都の強大な経済力を背景に空前の「大規模造営」を為した室町幕府は、朝廷を凌ぐ威光を確立したのである。 弱体政権論を覆し、足利政権が「権力」と「権威」を掌握してゆく過程とはいかなるものであったか。 絶頂の義満時代を軸に、鋭い筆致で描き出す! 【本書より】 「当時の人々は相国寺大塔を見上げ、また北山第の意匠に驚かされつつ、新たな天下の到来を実感していたのである。」 【本書の内容】 はじめに 第一章 天龍寺―足利尊氏・義詮の時代  1 軍事政権としての室町幕府   2 荒廃する朝廷社会  第二章 相国寺―足利義満の時代2  1 後円融朝の失政   2 足利義満の朝廷改革 第三章 相国寺大塔と北山第―足利義満の時代2  1 相国寺大塔   2 北山殿足利義満   3 財政史から見た義満の権力 第四章 南北朝期の公武関係―研究史的考察  1 「京都市政権」という罠   2 権限吸収論批判 第五章 復興期の社会―足利義持の時代1  1 復興ビジネス   2 室町時代の首都圏 第六章 守護創建禅院―足利義持の時代2  1 守護による寺院創建   2 足利義持の政治   3 公武統一政権  おわりに―虚空を突く大塔  あとがき  参考文献一覧  索引 *本書の原本は、2010年に講談社選書メチエより刊行されました。
  • 女神誕生 処女母神の神話学
    -
    太古の「大女神」、「大母神」から、処女であり母でもある「処女母神」へ――。普遍的な女神の変質は何を意味するのか。そして処女母神アマテラス、アテナ、マリアは、なぜ至高女神の地位を得たのか。時代も地域も異なる神話の共通点から、人類社会の原像を見出し、神話の新たな可能性を探る比較宗教学の試み! スサノオとの宇気比によって生じた男神の母となったアマテラス、脚にかけられた精液を羊毛で拭き取り、それを捨てた大地から生まれた子の母となったアテナ、そして「主の言葉によって」母となったマリア。処女懐胎神話はほかにもギリシア神話のダナエや釈迦の母マーヤー、『マハーバーラタ』のクンティなど枚挙にいとまがない。しかし、それらの母の多くが、子の誕生時に亡くなるか、あるいはその後の場面から姿を消してしまうのに対し、至高女神として君臨するアマテラスをはじめ、アテナもマリアも、それぞれの宗教のなかで主導的立場を占めつづける。 時間的にも空間的にも異なる信仰にあって、なぜ、彼女たちは「処女にして母」という超越性とともに、それぞれの宗教のなかで燦然と輝く存在となったのか。 また、「処女母神」は、農耕や牧畜が始まった社会で生まれた新たな女神であり、それ以前には旧石器時代の石像に象徴される、自然の富の授与者としての「大女神」や「大母神」が広く存在していた。そんな「大女神」の系譜をひく処女女神アルテミスは、いかにして現代の優美な「ダイアナ」に変容していったのだろうか。  比較神話学の手法によって、男性が生み出した神話の向こうに遠く浮かび上がる女性の姿を繊細にとらえ、単純な二項対立を超えた社会における男女の在り方を多彩な視点から描き出す、唯一無二の試み。 (原本:『女神の神話学――処女母神の誕生』平凡社(平凡社選書)、1999年) 序章 女神とは何か 第1部 「大母神」と「処女母神」 第一章 大母神から職能女神へ――旧石器時代の洞窟女神から考える 第二章 女性の神話学 第三章 処女母神の神(話)学 第2部 日本の女神と女性 第四章 女性のなかでただ一人――アマテラス神学生成の比較神話学的考察 第五章 なぜ「妹の力」だったのか 第3部 ギリシアの女神と女性 第六章 女神とポリス――アテナとアテナイ 第七章 アルテミスからダイアナへ――西洋における山野の女神像の変遷 第八章 女による暴力と女への暴力――ギリシア悲劇の暴力性と女性像 第九章 女たちを笑う男たち――ギリシア喜劇の女性像 注 文献一覧 初出一覧 あとがき 学術文庫版あとがき
  • 世界鉄道文化史
    4.0
    鉄道とは、人類のドラマである! その胸躍る軌跡のすべて 鉄道誕生から約二〇〇年――そこには、爛熟する豪華列車もあれば、等級制が生み出す人間模様もある。廃線問題が起こる一方で、座席や照明は進化し、激化するスピード競争はついにリニア開発までいたりついた。他に類を見ない独特な文化を生み運んできた鉄道の全軌跡を、第一人者が新聞や文学、写真や絵画を渉猟して描き切る、壮大にして無二の世界史! 「二等車は一等車の上流と三等車の大衆を分かつ、ちょっと曖昧な漠とした中間ゾーンであるだけに乗客心理は微妙であった。誰でも二等車に乗ると、あるいは乗れる身分になると、ほっと安心する。それでいい気になって、不遜な態度で乗務員に接する、知らぬ男女の二等客が思わぬ不倫関係で突如途中下車してゆく……」(「第六章 等級制と社会」より) [本書の内容] 第一章 のびゆく鉄道 第二章 コンパートメントと大部屋式 第三章 無謀なスピード競争は終わったが、スピードはわが命 第四章 鉄道旅行の時代 第五章 鉄道快適化物語 第六章 等級制の人間模様 第七章 日本にもあった「一帯一路」 第八章 鉄道はデザインの宝庫 第九章 超高速時代と反芻 第一〇章 豪華列車からクルーズ列車へ 第一一章 芸術が描いた鉄道 第一二章 リニア新時代と鉄道の公益性
  • 小三治の落語
    4.0
    2021年10月、落語家・柳家小三治が亡くなった。 古今亭志ん朝、立川談志と並ぶ、日本が誇る話芸の名人は、生涯、寄席を活動の場とし、TVやCMなどでの露出はなかったものの、落語ファンからの圧倒的かつ、熱狂的な支持を集めていた。 それほどまでに人を虜にした、人間国宝「小三治の落語」とはいったい、何だったのか。 小三治の芸論、哲学、技術は? 彼は過去から何を受けとり、何を後に遺したのか。 50年来の落語ファンにして、30年に亘り小三治の高座を追い続けた著者による『なぜ「小三治」の落語は面白いのか?』(2014年に単行本、16年に+α文庫化)を改題、増補改訂。 底本に収録した「小三治の高座」は、追悼番組までの映像・音源発売をすべて拾い上げた91席を、丹念に採取・検証。 また、新章「近代落語史における小三治の存在」も書き下ろし収録。 「柳家小三治」という落語家人生を総括しながら、現代落語史を解読する! 目次 はじめに 第1章 小三治から見た近代落語史 第2章 「小三治落語」の演目 第3章 小三治インタビュー     落語協会会長就任について      小三治「茶話会」会見 あとがき 参考文献および参考映像 演目索引 *本書は、『なぜ「小三治」の落語は面白いのか?』(2014年単行刊刊、2016年 講談社+α文庫刊)を改題、新章を加えて加筆修正された、増補改訂版です。
  • 平安王朝
    3.0
    ■桓武天皇による平安遷都から摂関政治前夜まで、■ ■明と暗が交錯する歴史を名手が生き生きと描く!■ 貴族たちの豊かな古典文化に彩られた九~十世紀、しかしその繁栄の底流では律令体制の解体が静かに進行し、中央は全国統治の力を失いつつあった。 平安遷都から摂関政治前夜まで、古代国家の崩壊と封建社会の誕生のあいだの長い転換期を政治・社会・文化から多面的に捉え、 表舞台で脚光を浴びる者のみならず、闘争に敗れ表舞台から去っていった人々の姿にも目を配りながら、光と影が交錯する歴史像を描く、無二の論考。 ■ゆるやかに時は移り、世は変わる。―本書より■ 「社会の根本的な変化は、奥底の流れとしてきわめてひそかに、しかもおだやかに進んでいた。したがって、地方や被支配層の発展あるいは国家体制の転換をはっきりと具体的に示す史料は極端に少ない。このもどかしいまでに悠長で不透明な移り変わりこそ、この時代の特徴である」【「まえがき」より】 解説=佐藤全敏(東京女子大学教授) *本書の原本は、一九六九年刊「日本歴史全集」第四巻を元に改訂された「日本の歴史文庫」第四巻として、1975年に刊行されました。 ■本書の内容■ 第一章 律令体制崩壊の端緒 1 平安時代の前奏曲 2 桓武朝の権力と政治姿勢 3 律令体制の矛盾 4 長岡京の暗い影 6 桓武朝の蝦夷征討 第二章 宮廷と詩文と密教と 1 平城朝の悪戦苦闘 2 「平安的なもの」の発展 3 花開く唐風の詩文 4 巨人、最澄と空海 5 渡海僧と仏教の貴族化 第三章 良房・基経の時代 1 承知の変と良房の権力把握 2 反抗者と疎外者 3 基経の天皇廃立 4 律令政治の衰退 5 地方勢力の胎動 第四章 寛平・延喜の治 1 「寛平の治」とその挫折 2 菅原道真の運命 3 延喜の荘園整理令 4 「古今和歌集」なる 5 延喜の太平とその暗転 第五章 承平・天慶の乱と「天暦の治」 1 武者の起こり 2 平氏一族のあらそい 3 東西二つの謀反 4 将門・純友の末路 5 藤原氏と後宮 6 「天暦の治」の内幕 7 退廃の栄え 8 藤原氏の時代へ
  • ええじゃないか 民衆運動の系譜
    -
    江戸や大坂など大都市の市中で、あるいは木曽街道の宿場町や四国の農村で、「エエジャイカ、エエジャナイカ」と歌い踊る人々。このお祭り騒ぎは、幕末の日本を観察したイギリスの外交官、アーネスト・サトウの回顧録に記され、島崎藤村の『夜明け前』にも描写される。 徳川時代の末期、慶応3年(1867)夏頃から翌年にかけて、日本の多くの地域で引き起こされたこの熱狂は、いったい何だったのか。日本史上でもあまり類例のない、この不思議な現象の全貌を、各地の史料を掘り起こして明らかにした労作。 さらに、中世の神社史、特に伊勢神宮史に業績のある著者は、この「ええじゃないか」という事象を、古代の常世神や志多羅神信仰から、「永長の大田楽」、近世の伊勢踊りへと至る民衆運動の系譜の中に位置づけ、また、近世の伊勢信仰と「おかげ参り」の大流行、そして幕末の「世直し」との関連のなかで考察する。〔原本:『ええじゃないか――民衆運動の系譜』新人物往来社、1973年刊〕
  • ルネサンスの文学 遍歴とパノラマ
    -
    遍歴の精神と鋭い自意識 多彩で豊穣な作品群 大航海時代、文学の世界でも、中世という枠を乗り越え、多くの人々が未知への探究心を抱き新しい旅へと出た。果敢な挑戦心、リアルな人間認識、横溢する創造力。個性が溢れ、新時代の息吹が躍動する多彩な作品群。『ドン・キホーテ』『阿呆船』『ガルガンチュア物語』や『ユートピア』『君主論』『エセー』等の作品を通して、ルネサンスという時代の特徴とその精神を解析する。 ルネサンスの文学は枠の緩んだ、あるいははずれたところから始まる。中世の文学が神への絶対の信仰と地上の君主への忠誠という厳しい枠のなかに置かれていたのにたいして、人間の欲望の解放とともに動き出す。チェリーニの『自伝』のなかの言葉「私は自由にうまれついていたのだから自由に生きるつもりである」こそが、ルネサンスの文学を流れる精神となる。――<本書「まえがき」より>
  • レヴィ=ストロース 構造
    3.0
    本書は、現代最高峰の人類学者クロード・レヴィ=ストロース(1908-2009年)の全貌を描いた決定版の誉れ高い1冊です。 ベルギーに生まれたレヴィ=ストロースは、フロイトやマルクスに触れた青年期を経て、南仏で高校教師になりました。その中で育まれた情熱を抑えられなくなった1935年にブラジルへ旅立ち、カデュヴェオ族やボロロ族、そしてナンビクワラ族の調査に乗り出します。その後、第二次世界大戦の勃発を受けて従軍しますが、1941年にはユダヤ人への迫害を回避するべくアメリカに亡命したレヴィ=ストロースに、ニューヨークで決定的な出来事が訪れました。それが言語学者ロマーン・ヤコブソン(1896-1982年)との出会いです。 のちに『音と意味についての六章』として公刊されるヤコブソンの講義の内容は、レヴィ=ストロースの中で若い頃からあたためられていた「構造」の概念と交錯しました。そうしてヤコブソンの勧めを受けて書き始めたのが、構造主義の誕生を告げる『親族の基本構造』であり、4年をかけて完成されたこの大著は1949年に刊行されることになります。 ここから旺盛な執筆活動を開始し、『人種と歴史』(1952年)、『悲しき熱帯』(1955年)、『構造人類学』(1958年)を生み出したあと、1959年にはコレージュ・ド・フランス教授に就任したレヴィ=ストロースは、一世を風靡した『野生の思考』(1962年)を発表すると、ついに全4巻に及ぶライフワーク『神話論理』(1964-71年)に着手しました。 その後も100歳で逝去するまで活躍し続けた偉大な人類学者が残した数々の仕事を、その生涯や時代との関係を描きつつ明快に解説してみせた本書は、1996年の刊行以来、概説書のスタンダードとして四半世紀にわたって読み継がれてきました。このたび、最新の書誌情報を追加するとともに、生前の著者と深い交流のあった小泉義之氏の書き下ろし原稿を併載した文庫版としてお送りいたします。 [本書の内容] 序 章 構造主義のエシックス 第一章 歴史の影のなかで 第二章 声とインセスト 第三章 旅の終わり 第四章 神話と詩のあいだに 第五章 幻想から思考へ 第六章 新石器のビルドゥングスロマン 1――南半球の森から 第七章 新石器のビルドゥングスロマン 2――北半球への旅 終 章 「構造」の軌跡 主要著作ダイジェスト キーワード解説 読書案内 レヴィ=ストロース略年譜 解 説 小泉義之
  • 古代ローマの饗宴
    3.0
    キャベツ礼賛者カトー、最高の饗宴を催した解放奴隷トリマルキオ、「真似のできない暮し」をしたクレオパトラ、葡萄酒を愛した詩人ホラティウス、消化不良のキケロ……。養殖の海魚、肥えたヤマネ、乳育のカタツムリなど贅を極めた晩餐から、農夫の質実剛健な食卓まで、二千年前、大繁栄を謳歌した帝国の食文化とは。当時の食材やレシピも多数併録。 永遠なる美食の大帝国で、人々は何をどう食べ、飲んでいたのか? 監察官カトー、武将アントニウス、詩人ホラティウス、『料理書』のアピキウス、解放奴隷、農夫……。当時のレシピも併録 キャベツ礼賛者カトー、最高の饗宴を催した解放奴隷トリマルキオ、「真似のできない暮し」をしたクレオパトラ、葡萄酒を愛した詩人ホラティウス、消化不良のキケロ……。養殖の海魚、肥えたヤマネ、乳育のカタツムリなど贅を極めた晩餐から、農夫の質実剛健な食卓まで、二千年前、大繁栄を謳歌した帝国の食文化とは。当時の食材やレシピも多数併録。 私はなにを語るのでしょう? むろんそれは古代ローマの社会生活や習慣であり、ローマ人の時間の過ごし方や、楽しみ方といったものです。友達と会うこと、愛する人と睦まじく食事をすること、好物の料理を味わうこと。結局のところ、今日私たちがやっていることとそんなに違いはありません。宴会でなにがどのようにふるまわれたかも調査ずみです。また巻末では、いくつか古代ローマのレシピを紹介します。皆様方のお国には、おいしい魚と肉、ハチミツ、それに、ローマ人が好んで用いた品々がたくさんある。だから再現はきっと可能なはずです。――<「学術文庫版によせて」より抜粋> ※本書は1991年、平凡社より刊行された『古代ローマの饗宴』を元に改変をほどこしました。
  • イミタチオ・クリスティ キリストにならいて
    3.0
    著者のトマス・ア・ケンピスは14世紀終盤ドイツで生まれ15世紀後半まで生きた修道士。神秘思想家として数々の著作を残している。その著作は文章のわかりやすさ、章節の短さなどから普通の庶民にとって読みやすいこと、また救いに繋がる安らぎと瞑想を誘う深みを与えてくれることから、中世以降現代まで『聖書』に次ぐ多くの読者を獲得したと言われている。 内容構成は全四巻、章としては114章を数えるが、それぞれの章は数ページからなるものが多く、どの章も深い味わいを持っている。「キリストにならい、世の空しいものを軽んずべきこと」「自身について謙遜であるべきこと」「過度の親しみを避けるべきこと」「艱難の効用について」「心配ごとはすべて神にゆだねるべきこと」「自愛が、最高善からとりわけ人を引き離すこと」「誰がいっているのかということよりも、何がいわれているかに心を用いよ」など、生き方の知恵としてキリスト教徒でない日本人の心にもひびき、参照すべき項目が多い。
  • 天皇陵 「聖域」の歴史学
    -
    今年7月、大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」が日本で23件目のユネスコ世界遺産に指定された。しかし、この世界遺産を構成する古墳の多くは、その被葬者さえ特定されていない。最大規模を誇る仁徳天皇陵や、履中天皇陵、允恭天皇陵などには、本当にその天皇が眠っているのだろうか。天皇陵は、いつ、どのように定められ、管理されているのか、近世・近代史を専門とする著者が、「天皇陵の歴史」と問題点を解き明かす。江戸時代中期、各地の古墳を独自に探査した蒲生君平。幕末期、尊王思想の高まりの中で、陵墓の比定と修補を願い出た宇都宮の藩主・戸田忠至。こうした近世の研究成果の上で、明治政府は、全天皇と皇族の陵墓を決定していった。神話に語られる天皇の実在を「証明」するためにも、墓の確定は欠かせなかったからである。神武天皇陵や仁徳天皇陵はどのように決められたのか、明治天皇陵はなぜ京都にあるのか、大正天皇陵の参拝に大混雑した鉄道と町、昭和初年に新たに皇統に列せられた南朝第3代の長慶天皇の陵はどう探したのか、さらに天皇陵の祭祀の場としての意味、著者が発見した資料「陵墓参考地一覧」からわかること――など、あらゆる論点から天皇陵を検証し、今後の科学的・考古学的調査の必要性を訴える。〔原本:『天皇陵論―聖域か文化財か―』 新人物往来社、2007年刊〕
  • アイヌの世界観 「ことば」から読む自然と宇宙
    -
    動植物を神格化し、自然も神も人も、すべては平等である――! アトゥイ(海)、アペ(火)、コロ(支配)、カラ(創造する)、ウク(受取る)・・・・・・。驚くべき自然観察者であるアイヌ。その、名付けの意味、語源、語彙構成や使用法を丹念に拾いながら、彼らの宇宙観、霊魂観、動植物観を言語学的に分析。認識人類学的アプローチで、”アイヌ文化”を旅します。本書は1994年から長らく講談社選書メチエの一冊として刊行されてきました。今回、学術文庫に収録するにあたり、補章として「現代に生き続けるアイヌの世界観」を追加しています。*コ「ロ」、カ「ラ」、ウ「ク」=「 」内字は小文字です目次プロローグ第一章 アイヌの宇宙観1 モシリ(世界)2 アイヌ・モシリ(人間の世界)の誕生3 カムイ・モシリ(神々の世界)4 ポクナ・モシリ(下方の世界)5 アイヌの他界観6 相補二元的宇宙観第二章 霊魂とカムイ1 霊魂の観念2 カムイの概念3 語彙素構成からみる神性の認識4 人間的なカムイ像5 カムイとジェンダー6 人間との関係第三章 アイヌの植物命名法1 植物名が語る認識のプロセス2 基本名からみる命名のプロセス3 対照名からみる命名のプロセス4 類別的認識5 植物観と神格化第四章 動物の分類と動物観1 動物の個別名と包括名2 個別化の原理3 類別カテゴリーの外延4 類別化の原理5 動物分類と空間分類の連繋6 動物のシンボリズムと神格化の基盤第五章 諸民族との比較1 日本上代における世界観との比較2 北方諸民族における世界観3 アイヌの世界観第六章 世界観の探究――認識人類学的アプローチ1 言語と文化2 イーミックな観点とエスノ・サイエンス3 「もの」の名称から認識の体系へ4 象徴体系としての世界観5 メタファーとしての動物6 言語の象徴表現と世界観7 認識人類学の意義補章 現代に生き続けるアイヌの世界観あとがき学術文庫版あとがき索引
  • 精霊の王
    -
    柳田國男の代表作に『石神問答』があります。石神=シャグジは四千~五千年前ほど前、この列島に国家が存在しなかった時代へと遡る「古層の神」です。国家が誕生するとこの古層の神は零落してしまいます。しかしながら、この縄文的な精霊は、芸能と技術の専門家たちの世界で、たくましく生き残っていたのです。「宿神(しゅくじん)」という名前で、能や造園といった分野では深く敬愛される存在でした。国家などの秩序を支える神に力をあたえ、秩序の世界に創造をもたらす存在は、中世には「後戸(うしろど)の神」と呼ばれていました。本書の旅は、蹴鞠の名人・藤原成通の不思議な話から始まります。そして金春禅竹の秘伝書『明宿集』と中世における宿神の奇跡を辿り、縄文的要素の残る諏訪へと向かいます。そこで出会う太古の記憶は不思議な感動を覚えずにはいられません。そこからさらにユーラシアに散在する宿神的な痕跡をおいかけることで、その人類的な普遍性へといたります。熱く力強い筆致でわたしたちの前に現出する世界に圧倒されずにはいられません。本当に世界を動かしている驚くべき力に触れる壮大な人類史を描ききった瞠目の書です。
  • 元号通覧
    3.0
    「明治」は10回も元号候補になっていた――。「大化」にはじまり「大正」に至るまでおよそ1300年、240を超える元号をすべて網羅しています。『書経』や『文選』などの出典や改元の理由はもとより、候補に挙がった元号も出典とともに示した本書は、まさに日本の元号が一望できる、元号の辞典といえるものです。 世にも稀なこの一冊を執筆した人物こそ、文豪森鴎外(1862-1922年)でした。森鴎外、本名森林太郎は、陸軍軍医の最高位にあたる陸軍軍医総監、陸軍省医務局長を辞したのち、1917年に帝室博物館総長兼宮内省図書頭として再び官職につきました。歴代天皇の諡号(おくりな)の出典を考証した『帝謚考』(1921年)を刊行したあと、文字通り最後の命を燃やしながら取り組んだ仕事が本書(原題『元号考』、文庫化にあたって改題)です。実に病没する数日前まで手を入れ続けたものの未完に終わりますが、晩年に歴史小説さらに史伝に転じた鴎外の考証学的執念もうかがえます。 本書をひもとけば「明治」同様、「大正」も採用までに3回、候補になっていることがわかります。また15世紀に初めて候補になった「明治」に対し、江戸時代の元号「天明」や「天保」は古代から繰り返し提案されていることもうかがえます。人気の元号候補はなにか、それはどの典籍からの引用なのか。あるいは時代によって典拠の流行りすたりがあるのか。即位以外に大災害や飢饉、疫病などでも改元されますが、いつどんな理由で改元されたのか……。『天皇の影法師』(1983年)で本書に光を当てた猪瀬直樹氏による解説とあわせて、元号をめぐる知的好奇心を存分に満たしてくれる一冊です!
  • 地図の歴史 世界篇・日本篇
    4.0
    文字よりも古い歴史をもつといわれる地図には、その時代の人々の世界観が描かれる。それは豊かな想像力と確かな科学や測量が融合した、時代の観念の具象化だった。世界と日本それぞれに、人類はどのような観念を地図に描き、そして現実の世界とつなげようとしてきたのか。斯界の泰斗が、興味深い数多くのエピソードに160点超の豊富な図版を交えてつづる地図の歴史。長く読み継がれてきた歴史地理学の入門書、待望の文庫化!
  • 新版 法然と親鸞の信仰
    3.0
    「信仰というものは、生きるために必要な、日々に欠くことの出来ない、実際に役立つものでなくてはならぬ。心の平和のためにも、また身体をいわゆる肉弾となして、実生活にぶっ突かって行く時にもなくてはならない最後の『拠りどころ』でなくてはならぬ」と考える著者が、法然と親鸞の信仰について、情熱をかたむけて説いた名著。法然「一枚起請文」の奥義、歎異抄の全てを語りきった!
  • 流線形の考古学 速度・身体・会社・国家
    4.0
    20世紀前半、。自動車や飛行機に始まり日用品や家電品まで「流線形」は工業デザインとして一世を風靡する。物理学に発するこの言葉は、「障害因子」「ムダなもの全般」を取り除いた優秀さの係数として読み替えられ、価値評価の絶対的基準になっていく。健康神話、ファッションから社会進化論、果ては排外的国家主義へと「純化」の方向に向けて世界を煽る根幹の記号となった「流線形」が席巻した時代とは?
  • ゼノン 4つの逆理 アキレスはなぜ亀に追いつけないか
    3.3
    第1逆理「二分割」――動くものは、終点に達する前にその半分の地点に達しなければならないので、動かないとする。第2逆理「アキレス」――走ることの最も遅い者ですら最も速い者によって追いつかれない。第3逆理「矢」――動くものはつねに、今、等しいものに即してあるとすれば、動く矢は不動である。第4逆理「競技場」――半分の時間がその2倍に等しい。
  • バッハ=魂のエヴァンゲリスト
    4.6
    なぜ心にこれほど深い慰めをもたらすのか。人生への力強い肯定を語るのか。「神の秩序の似姿」に血肉をかよわせるオルガン曲。聖の中の俗、俗の中の聖を歌い上げるカンタータ。胸いっぱいに慈愛しみ渡る≪マタイ受難曲≫……。300年の時を超え人々の魂に福音を与え続ける楽聖の生涯をたどり、その音楽の本質と魅力を解き明かした名著、待望の新版。
  • 世界大恐慌 1929年に何がおこったか
    4.3
    我々は、あの〈暗黒の木曜日〉に何を学ぶか。株価は七分の一に暴落、銀行倒産六千件、失業者千万人……。難解な専門用語や数式を用いず、当時の新聞記事や証言から、庶民の目に映った大恐慌期の米国を再現。
  • 興亡の世界史 ケルトの水脈
    4.0
    ローマ文明とキリスト教におおわれる以前、ヨーロッパの基層をなしたケルト人は、どこへ消えたのか? 巨石文化からアーサー王の伝説、現代の「ケルト復興」まで、フランス、ブルターニュの歴史・信仰・言語を軸に、アイルランド中心の「ケルト・ブーム」を問い直す。
  • 戦争と資本主義
    3.7
    戦争なくして資本主義はなかった。軍需による財政拡大は資本形成を促し、常備軍の増強は農業、流通、貿易に影響を与え、武器の近代化は製鉄や機械製作、造船、繊維産業の成長をもたらす。そして軍隊の「指導と行動の分業化」が大量生産した画一的人間。豊富な資料と文献で論究する、近代軍隊の発生から18世紀末にかけて戦争が育んだ資本主義経済の実像。
  • 風と雲のことば辞典
    -
    日本の空には、こんなにも多彩な表情がある――。気象現象のみならず、比喩表現、ことわざから、季語、漢詩、詩歌、さらに方言や歌謡曲に至るまで、尽きるところのない「風」と「雲」にまつわる語彙を、豊富な引用でお届けする。最先端の気象用語解説、災害への備えにも言及した、充実の「読んで面白い辞書」。ロングセラー『雨のことば辞典』の姉妹編。文庫書き下ろし。※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。

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  • スッタニパータ [釈尊のことば] 全現代語訳
    3.0
    かくしてひとり離れて修行し歩くがよい、あたかも一角の犀そっくりになって――。『法句経(ダンマパダ)』とともに原始仏典の中でも最古層とされる『スッタニパータ』。最初期の仏教思想と展開を今に伝えるこの経典は、釈尊に直結する教説がまとめられ、師の教えに導かれた弟子たちが簡素な生活のなかで修行に励み、解脱への道を歩む姿が描き出される珠玉の詞華集である。2400年前の金口直説を平易な現代語で読む。(講談社学術文庫)
  • 徳富蘇峰 終戦後日記 『頑蘇夢物語』
    -
    明治・大正・昭和を通じ活躍した言論人、徳富蘇峰が、終戦直後から書き残していた膨大な日記を発掘。戦争中、大日本言論報国会会長として戦意を煽ったと戦犯容疑のため自宅に蟄居しながら綴り、『頑蘇夢物語』と自ら命名した日記には、無条件降伏への憤り、昭和天皇への苦言から東條英機、近衛文麿ら元首相らへの批判と大戦の行方を見誤った悔悟の思いが明かされている。解説:御厨貴(講談社学術文庫)
  • ハイデガー 存在の歴史
    3.0
    存在が荒々しく立ち現れると同時に隠蔽され忘却されていった古代ギリシャ以来、存在把握は劇的に変動し、現在、忘却の彼方に明滅するものとしてのみ存在は現前する──。存在論の歴史を解体・破壊し、根源的な存在の経験を取り戻すべく構想された『存在と時間』の成立過程を追い、「在る」ことを捉えようとした、ハイデガーの思想の精髄に迫る。(講談社学術文庫)
  • 文明の十字路=中央アジアの歴史
    3.0
    ヨーロッパ、インド、中国、中東の文明圏の彼方で、生き抜いてきた遊牧民たちの領域が中央アジアである。絹と黄金を運んだ悠久の交易路シルクロード。多くの民族と文化の邂逅と衝突。アレクサンドロス大王とチンギス・ハーンの侵攻……。仏教・ゾロアスター教・マニ教・ネストリウス派そしてイスラムもこの地を経由した。中央アジアの雄大な歴史をコンパクトにまとめた入門書。(講談社学術文庫)
  • わたしの哲学入門
    4.4
    第二次大戦敗戦後の混乱の渦中で青春期を生きた著者は、ハイデガーをどうしても読むという渇望から、東北大学哲学科に入学。『存在と時間』を何度も読み返しながら、その内容の理解には古代ギリシャ以来の西洋形而上学の展開を知ることが不可欠だと思いいたりました。「存在とは何か」というテーマを軸に、プラトン・アリストテレスからスコラ神学、そしてデカルト・カントに始まる近代哲学まで、わかりやすく解説します。(講談社学術文庫)
  • 明治医事往来
    -
    平均寿命三十年の時代、電灯がつき、陸蒸気が走り、煉瓦の家が立ち並ぶ繁栄の裏には汚濁、貧困、頽廃があった。栄養立国・衛生立国をめざす一方で、「女工哀史」らを蝕んだ結核や、娼婦を死に走らせた梅毒検査。そして、夏目漱石、岩倉具視、樋口一葉らを襲った病魔の数々――。死と病いを身近に抱えながら生きた有名無名の人々を綴る、明治への鎮魂曲。(講談社学術文庫)
  • 裏切り者の中国史
    3.5
    復讐に取り憑かれた伍子胥、人心を操り権力に固執した王莽、女のために国を売った呉三桂……。極め付きの裏切り者たちが行き着く先は? 『史記』『戦国策』『三国志』『世説新語』等の史料から、歴史を動かした個性溢れる悪漢たちを描き切る。春秋時代から明末清初まで、二五〇〇年にわたって興亡の絶えない中国をかき回した反逆者たちの数奇な人生。 中国古典の第一人者・井波律子氏による評伝集にして、中国史・中国文学のファン必携の一冊。 【主な登場人物】 ・母国の君主に父兄を殺され、敵国の呉に奔った伍子胥(ごししょ) ・品行方正を装い、世論を操作して王朝を簒奪した王莽(おうもう) ・三世代かけて国を滅亡させた諸葛亮のライバル司馬懿(しばい) ・貴族に出し抜かれ、皇帝になりそこなった繊細な桓温(かんおん) ・反乱を引き起こすも、夢半ばで息子に殺された安禄山(あんろくざん) ・英雄を処刑したため、中国史上最も忌み嫌われた秦檜(しんかい) ・恋人を奪われて激怒し、身を売り国をも売った呉三桂(ごさんけい) ほか、呉起、始皇帝、商鞅、張儀、蘇秦、趙高、則天武后、楊貴妃、項羽、劉邦、諸葛亮、永楽帝、朱元璋、李自成など多数。 【目次】 はじめに 第1章 復讐の鬼――伍子胥 第2章 自立するコスモポリタン――戦国時代のパフォーマー 第3章 頭でっかちの偽善者――王莽 第4章 持続する裏切り――司馬懿 第5章 気のいい反逆者――王敦と桓温 第6章 危険な道化――安禄山 第7章 極め付きの「裏切り者」――秦檜 第8章 恋に狂った猛将――呉三桂 年表 参考文献 あとがき
  • 台湾の歴史
    5.0
    経済発展と民主化を達成し、ますます存在感を高めている「台湾」は、どんな歴史を歩み、どこへ向かうのか。2024年1月の総統選挙を控えて、その歴史と現在を知る文庫版。 その歴史は「海のアジア」と「陸のアジア」がせめぎ合う「気圧の谷間」が、台湾という場所を行ったり来たりした歴史だった。その動きから生じる政治・経済の国際的な激動の中で、多様な人々が織りなしてきた「複雑で濃密な歴史」を見つめることなしに、現在の台湾を理解することはできない。 はるか以前から、さまざまな原住民族(先住民族)が生きていた台湾島が、決定的な転機を迎えたのは17世紀のことだった。オランダ東インド会社が初めて「国家」といえる統治機構をこの島に持ち込んだのである。短いオランダ統治の後、明朝の遺臣・鄭成功ら漢族軍人の時代を経て、清朝による統治は200年に及ぶが、1895年、日清戦争に勝利した日本の植民地支配が始まる。そして1945年に始まった中華民国による統治は、当時の民衆に「犬が去って、豚が来た」と言われるものだった。その中で、本省人・外省人の区別を超えて「台湾人」のアイデンティが育まれ、1990年、直接選挙による第1回総統選で「初の台湾人総統」李登輝が登場する。 『台湾――変容し躊躇するアイデンティティ』(2001年、ちくま新書)を、大幅増補して改題し、文庫化。 目次 はじめに――芝山巖の光景 第一章 「海のアジア」と「陸のアジア」を往還する島――東アジア史の「気圧の谷」と台湾 第二章 「海のアジア」への再編入――清末開港と日本の植民地統治 第三章 「中華民国」がやって来た――二・二八事件と中国内戦 第四章 「中華民国」の台湾定着――東西冷戦下の安定と発展 第五章 「変に処して驚かず」――「中華民国」の対外危機と台湾社会の自己主張 第六章 李登輝の登場と「憲政改革」 第七章 台湾ナショナリズムとエスノポリティクス 第八章 中華人民共和国と台湾――結びつく経済、離れる心? 第九章 「中華民国第二共和制」の出発 結び 補説1 総統選挙が刻む台湾の四半世紀――なおも変容し躊躇するアイデンティティ 補説2 「台湾は何処にあるか」と「台湾は何であるか」 学術文庫版あとがき 参考文献  台湾史略年表 索引
  • 藤原道長「御堂関白記」を読む
    3.5
    【平安最大の権力者は何を“後世に残すべきだ”と考えたか】 大河ドラマ『光る君へ』時代考証者が徹底的に読み解く! 原本写真多数掲載。 豪放磊落な筆致、破格の文体、そして抹消された箇所……平安時代最大の権力者は、自らの手で何を書き残したのか。 「披露すべきに非ず。早く破却すべき者なり」と道長が記したのはなぜか。 「望月の欠けたる事も無しと思へば」はいかなる場で詠まれたものだったか。 摂関期の政治、外交、儀礼の生々しい現場から家庭生活と精神世界までを描く世界最古の自筆本日記を、第一人者が徹底的に読み解き、宮廷社会の実像をさぐる。 原文写真・翻刻・現代語訳・解説がそろった、決定版! 【本書より】 『御堂関白記』独特の面白さがある。また、『御堂関白記』を記した藤原道長自体、日本史上でめったにいないほど、面白い人物である。それらの楽しみを、原本の写真とともにたどることは、他の史料ではちょっと味わえない面白さがある。 この本では、その日の記事に何が記されているかに加えて、その日の記事がどのように記されたのか、また、どのように書写されたのかに視座を据えて、記述のてんまつ、また書写のてんまつを明らかにしたい。本来、歴史学というのは、史料を読み込んでいき、それを読み解くというのが基本的な姿勢である。世間では古代史というと、好き勝手な推論を積み重ねている ものと思われているかもしれないが(実際、『御堂関白記』や道長についてもトンデモ本が流布しているらしいのは嘆かわしいかぎりである)、史料にどう向き合うかという姿勢を伝えることこそ、歴史学者の本来の使命であると考える。 結果的には、自分が楽しんだだけではなかったかと恐れているが、自分が楽しいことはきっと楽しんでくれる人もいるはずであるという思い込みに支えられて、この本を世に出す。 【本書の内容】 序 章 『御堂関白記』とは何か 第一章 権力への道 ――政権獲得、彰子入内・立后など―― 第二章 栄華の初花 ――敦成親王誕生、一条天皇崩御など―― 第三章 望月と浄土 ――摂政就任、威子立后、出家など―― 番 外 『御堂関白記』自筆本の紙背に写された『後深心院関白記』 終 章 再び『御堂関白記』とは何か 年譜/略系図/主な登場人物紹介/関係地図を掲載 *本書の原本は、2013年に講談社選書メチエより刊行されました。
  • 龍の世界
    4.0
    竜巻と共に天に昇り、海底深く龍宮に潜る。天空から海底まで自在に駆ける霊獣は、古来、皇帝から人民まで、中国人が最も愛する瑞祥だった。この想像上の生きものは、いつ、どのように誕生し、人々の暮らしに浸透していったのか。中国・日本・インドの龍とギリシア神話のドラゴンとの比較。龍を食べる怪鳥、正倉院に収められた龍の骨と歯の正体。四方から財宝を寄せると言われた「銭龍」や、薬用「龍眼」、中国人が畏れる「辰年の怪」まで、長年に亘る中国取材や様々な文献史料から、龍の逸話を丹念に採取!! 本書は『龍の百科』(新潮選書 2000年刊)を加筆、改題したものです。 目次 一 龍は、どう考えられていたか 二 龍は、どう形づくられてきたか 三 龍は、どのように自然界に潜むか 四 龍は、どう変わってきたのか 五 龍は、どのように語られてきたか 六 龍は、どう暮らしにかかわるか おわりに 索引 学術文庫版あとがき
  • ゴルギアス
    -
    プラトン初期対話篇の代表作、練達の訳者による決定版新訳が完成! 本書では、当時を代表するソフィストであるゴルギアス、その弟子ポロス、気鋭の政治家カリクレス、ソクラテスの崇拝者カイレポンの四人を相手にしてソクラテスが対話を展開します。その中心的な主題は「弁論術とは何か」です。 ただ雄弁に語り、聞く人を説得するのが理想的な弁論術ではありません。大した内容もなく、正しい知識を与えることもないのに、相手を論破したり、耳障りのよいことを訴えたりするだけの言葉が今もよく聞かれます。言うまでもなく、そのような言葉を語る人が政治的な意図を隠しているなら、聞く者は気づかぬうちに意図された方向に導かれ、特定の政治的な主張を支持するようにもなるでしょう。古くは「プロパガンダ」と呼ばれ、今日では「フェイクニュース」や「ポルトトゥルース」、「オルタナティブファクト」などと呼ばれる現象には、そのようなからくりが含まれています。 では、正しい弁論術とはどのようなものなのか? ソクラテスは、ゴルギアス、ポロス、カリクレスの順に濃密な対話を交わし、その答えを明らかにしていきます。それは最終的に「正しさ」とは何かを知ることに行き着くでしょう。何が正しいのかを知っている人にしか正しい弁論術は使えない――当たり前に思えますが、その当たり前のことを残念ながら人類はプラトンの時代よりよく理解し、実践していると言えるでしょうか? 価値の基準が崩壊したと言うしかない現代世界の中で、道徳的であること、正しくあることとは何か、という問いは、ますます重要性を増しています。練達の訳者によって蘇ったプラトン渾身の対話篇を手に、今と未来を考えていただけるなら幸いです。 [本書の内容] [プロローグ ゴルギアスとは何者か] [第一幕 ゴルギアス対ソクラテス] [第二幕 ポロス対ソクラテス] [第三幕 カリクレス対ソクラテス] [エピローグ 死後の裁きについて]
  • 齟齬の誘惑
    3.0
    「社会とは、いくつもの齟齬感や、違和感や、隔たりの意識が複雑に交錯しあう苛酷な空間にほかなりません」――。 東大生の心を慄(ふる)わせた伝説の入学式式辞のほか、大学は知と人が行き交い別れる「寄港地」たれと説く「第三世代の大学」論、運動論、映画論など、仏文学・映画評論の大家が、学問と教育に関わるすべての人に真摯に呼びかける、知の革新のための書! [目次] いま、この書物の読者となろうとしているあなたに 一 齟齬の誘惑 二 真実の位置 三 第三世代の大学 四 東京大学をめざす若い男女に 五 視線の論理・視線の倫理 総長日誌 学術文庫版へのあとがき 「社会に生きているわたくしたちは、何かを理解することで変化するのだし、当然、その変化は社会をも変容させる契機をはらんでいるはずです。ところが、「何かを理解したかのような気分」の蔓延は、そうした変化や変容の芽を、いたるところでつみとってしまいます。」 ――「いま、この書物の読者となろうとしているあなたに」より
  • 日本の西洋史学 先駆者たちの肖像
    3.0
    明治維新以来、「西洋化」は日本の国策であり、西洋は日本人のモデルであり続けた。では、西洋人が自らの政治・経済・文化・社会の来歴を探求した歴史学を、日本人が学ぶことにはどんな意味があったのだろうか。明治から昭和まで、先駆者たちの生き方と著作から、「西洋史家の誕生と苦悩」のドラマを描く。 明治20年、帝国大学に着任したお雇い外国人教師、ルートヴィヒ・リースが、ドイツでランケが確立した近代歴史学を講義したのが、日本の歴史学の始まりだった。リースの弟子で日欧交通史を開拓した村上直次郎、慶應義塾に学び経済史学の草分けとなった野村兼太郎、ルネサンス論の大類伸、イタリア史の羽仁五郎。マルクスとウェーバーへの深い理解から大きな業績を残した大塚久雄。そして、戦時下の西洋史家たちは「大東亜戦争の世界史的意義」をどのように論じたのか。 また、1920年代にウィーンに留学し、西洋の「受け売り」でも「追随」でもなく、みずから「原史料を直接考究する」主体的学問を確立した上原専禄は、戦後、13世紀のモンゴルの世界征服の時代を「世界史の起点」とする新たな世界史の構想を得るに至る。 [原本:『西洋史学の先駆者たち』中央公論新社2012年刊を増補] 目次 序に代えて 第一章 ドイツ史学の移植――ルートヴィヒ・リースとその弟子たち 第二章 歴史の経済的説明――欧州経済史学の先駆者たち 第三章 文化史的観照を超えて――大類伸のルネサンス論とその周辺 第四章 「原史料の直接考究を第一義とすること」――上原専禄とドイツ中世史研究 第五章 近代資本主義の担い手を求めて――大塚久雄の近代欧州経済史研究 第六章 「大東亜戦争の世界史的意義」――戦時下の西洋史家たち 補章 世界史とは何か――上原専禄の世界史像と地域概念 学術文庫版あとがき 参考文献 人名索引
  • ハイデガー入門
    4.0
    「20世紀最大の哲学者」として今なお読み継がれるマルティン・ハイデガー(1889-1976年)。その影響力は、現代思想、解釈学、精神病理学、文学研究に至るまで、あまりにも大きく決定的だった。本書は巨人ハイデガーの思想の全容を1冊で理解できる最良の入門書、待望の文庫化である。『存在と時間』の明快な読解から難解な後期思想の見取り図を掲げ、さらには今日再燃しつつあるナチズム加担問題に大胆に切り込む名著。 「20世紀最大の哲学者」として今なお読み継がれるマルティン・ハイデガー(1889-1976年)。その影響力は、サルトルからフーコー、デリダに至る現代思想、ガダマーに代表される解釈学、ビンスワンガーやミンコフスキーらの精神病理学、そしてバタイユ、ブランショといった文学研究まで、あまりにも大きく決定的だった。本書は、その巨人ハイデガーの思想の全容を1冊で理解できる、と長らく定評を得てきた名著、待望の文庫化である。 著者は、ハイデガーの生涯を概観した上で、「「ある」とは何か」という前代未聞の問いを掲げた『存在と時間』(1927年)を豊富な具体例をまじえながら分かりやすく読解していく。その理解を踏まえて難解で知られる後期思想の世界に分け入り、読者をたじろがせる膨大な著作群に明快な見通しが示される。その上で、20世紀末に突如として勃発した、ハイデガーのナチズムへの加担問題という微妙な話題にも躊躇することなく取り組み、この問題をどのように考えればよいのか、最良のヒントを与えてくれる一書ともなっている。ここにある「学問と政治」の関係という問題は、温暖化問題や原発問題など、今日世界中で次々にクローズアップされてきていることは誰の目にも明らかである。ハイデガーについては、「黒ノート」と呼ばれる草稿の公刊を機に、再び反ユダヤ主義と哲学の関係が取り沙汰されるようになってきている。 このように、今日ますます切迫した問題と深く関わるハイデガーの思想にアクセスするための最良の第一歩として、本書は他に類を見ない価値をもっている。学術文庫版のための書き下ろしをも加えた決定版、ついに登場。
  • 旧約聖書の思想 24の断章
    -
    昏迷きわまる現代に、旧約聖書は3000年の時を超えて何を語りかけるか。ニヒリズム、愛、終末等の主題のもとに旧約から24の断章を選び、ニーチェ、キルケゴールら数多の解釈、思想史を渉猟しつつ、新たな読みを提示。時に芸術の内に旧約を見、時に旧約からエイズや援助交際等、現代が抱える諸問題をも考究する。碩学が現代に甦らせる旧約の思想世界。 【目次より】 1.隠れた神 イザヤ書四五章15節 2.ニヒリズム コーヘレス書一章2節 3.偶像禁止の根拠 出エジプト記二○章4節、申命記五章8節 4.創造 創世記一章26―27節 5.愛児の献供(1)哲学者の解釈 創世記二二章1―2節 6.愛児の献供(2)地平の融合 創世記二二章14節 7.沈黙 イザヤ書六二章6―7節 8.知恵 創世記三章4―5節 9.他宗教との関係 出エジプト記二○章2―3節、申命記五章6―7節 10.「宗教」批判 サムエル記下一二章24―25節 11.罪と赦し 詩篇五一篇5―6節 12.頑迷預言 イザヤ書六章9―10節 13.西洋精神史との関係(1)文学・絵画の場合 士師記一六章17節 14.西洋精神史との関係(2)彫刻・音楽・思想の場合 出エジプト記三四章29節 15.西洋精神史との関係(3)アモラリズム ヨブ記三一章35―37節 16.愛(1)愛の3つの形 申命記一○章17b―19節 17.愛(2)新約における愛敵 箴言二五章21―22節 18.愛(3)旧約における愛敵 レビ記一九章18節 19.愛の秩序(1)愛の7つの形 申命記六章5節 20.愛の秩序(2)統合論と代贖論 ミカ書六章8節 21.終末(1)終末論の三類型 アモス書五章18節 22.終末(2)終末論の胡散臭さ アモス書五章24節 23.終末(3)義と愛 アモス書九章14―15節 24.終末(4)苦難の神義論 イザヤ書五三章4―5節
  • 日本の近代仏教 思想と歴史
    -
    「近代仏教」とはなにか? 「伝統(あるいは古典)仏教」とはなにか? 十九世紀以来の欧米やアジア各地の仏教をみると、共通する同時代的な特徴がある。仏教は近代になって、グローバル化したのである。その中で、日本の仏教も大きな変化を被った。 浄土系の思想を、清沢満之の思想を見直し、その弟子である曽我量深の初期思想の持つ可能性を検討した。また、近代日本の親鸞理解に大きな影響を与えた倉田百三の親鸞理解の特性を検証し、後年の倉田のファシズムへの傾倒の必然性を示した。 日蓮系の思想にもっとも影響力の強かった田中智学を検討し、一見国家主義的と見られるその国体論が、じつは仏教と国家の間の矛盾に揺れていたことを解明する。 また、戦後の創価学会の価値観を思想的に明確にしようとした松戸行雄の凡夫本仏論について検討し、世俗化の進む現代社会の中での仏教思想のあり方を考察した。 近代における禅思想を代表する鈴木大拙は、その評価が全面賛美か全面批判かの両極に分かれている。一批判すべきところと評価すべき点に検討を加えた。キーワードは、「日本的」と「中国的」との対比である。 そして、近代の仏教研究の問題点を、二点に絞って検討する。日本史学者として著名な家永三郎の日本仏教の扱い方を、批判的に検討してみた。また、日本では大乗仏教が優れているということが常識のように考えられているが、そこに問題がないかということを、宮本正尊という一学者の説の展開を中心に追ってみた。 私たちの仏教のイメージが、明治以降にどのようなプロセスを経てきたのかを解明し、昨今の仏教研究の基礎を知るための一冊でもある。 *本書は、『思想としての近代仏教』(中公選書)を底本にし、「仏教方法論と研究史」「近代における仏教辞典の編纂」「大乗仏教の実践--研究状況をめぐって」を割愛し、改題をした。 【目次より】 序章 伝統と近代 I 浄土思想の近代 第一章 清沢満之研究の今――「近代仏教」を超えられるか? 第二章 宗派の壁は超えられるか 第三章 迷走する親鸞 第四章 愛の求道者――倉田百三 II 日蓮思想の展開 第五章 国家・国体・天皇と日蓮思想――田中智学を中心に 第六章 世俗化と日蓮仏教――松戸行雄の「凡夫本仏論」をめぐって III 鈴木大拙と霊性論 第七章 大拙批判再考 第八章 鈴木大拙における「日本的」と「中国的」――『日本的霊性』を中心に IV 日本仏教と大乗仏教 第九章 家永三郎と戦後仏教史学 第十章 大乗非仏説論から大乗仏教成立論へ――近代日本の大乗仏教言説 終章 今、近代仏教を問う
  • 個性という幻想
    4.0
    生前にはアメリカの医学界を陰で支配しているとまで言われながら、没後はその名さえ忌み嫌われたハリー・スタック・サリヴァン(1892―1949)。1970年代にアメリカ精神医学の源流として再評価され、さらに近年、人間社会と精神疾患の関係を論じた先駆者として再注目される精神医学者の、本邦未訳の論考を中心とした著作集。 サリヴァンが生涯をかけて訴えたのは、人間同士の差異よりも、互いを結び付けているものに着目することの重要性だった。患者一人ひとりを診るのではなく、「人間集団に対する精神医学」を唱えたのである。しかし、「個性とは幻想である」という見解は当時、あまりにラディカルでほとんど危険思想のように受け取られた。今世紀になり、「トラウマ理論」や「発達病理学」といった学際的研究領域が確立してようやく、サリヴァンの提出した課題に科学として取り組めるようになったのである。 本書は、初出出典に基づいて訳出した日本語版オリジナルの論集で、徴兵選抜、戦時プロパガンダ、反ユダヤ主義、国際政治など、実社会に関する特に重要なものを選んだ。収録した12編のうち11編は、日本で唯一未訳の著書“The Fusion of Psychiatry and SocialSciences” にも収められている。 なお、編訳者の阿部大樹氏は、サリヴァン『精神病理学私記』で日本翻訳大賞を受賞。今年10月に京都で開催される「サリヴァン・フォーラム」にも登壇する予定。 目次 編訳者まえがき 第一部 精神医学とは何か 精神医学入門三講 社会科学百科事典『精神医学』 黒人青年についての予備調査 症例ウォレン・ウォール 個性という幻想 不安の意味 第二部 精神医学の応用 プロパガンダと検閲 反ユダヤ主義 精神医療と国防 戦意の取扱いについて リーダーシップの機動化 緊張――対人関係と国際関係 索引
  • 九鬼周造
    -
    「運命よ 私はお前と踊るのだ。」 理性と感情、男と女、東洋と西洋、二人の父、偶然と必然……幾多の対立に引き裂かれ、安定を許されなかった生のただなかで、日本哲学の巨星は何を探究しつづけたのか。その生い立ちから、留学、主著『「いき」の構造』『偶然性の問題』、最晩年の『文芸論』まで、その思索の全過程を、第一回中村元賞受賞の著者が明解かつ艶やかな筆致で辿る。九鬼哲学への決定版・入門書。 [目次] はじめに 第一章 出会いと別れ 第二章 「いき」の現象学 第三章 永遠を求めて 第四章 偶然性の哲学 第五章 偶然から自然へ 第六章 形而上学としての詩学 あとがき 学術文庫版へのあとがき
  • 花の民俗学
    -
    万葉の花、正月の花、花と祭り…… 日本人の生活と文化に花はどのように生きてきたか 日本人にとって花とはいったい何であろうか――。豊かな実りへの願望をこめて開花を待ち、四季折々に花を愛で、その移ろいに「あはれ」を感じ、いけ花という芸術を生んだ日本人。その心の原点を、万葉集、古今和歌集など古典の世界に渉猟し、各地の祭りや正月、雛祭り、端午の節供、重陽の節供など年中行事の民俗に探訪する、花をめぐる生活文化史。 本来、ハナは、実りの先触れ・前兆といった意味をもつのであり、サクラという語は、サは田の神・穀霊のことで、クラは神座の意であったから、田の神の依代と考えられての呼称とみられる。その花は、田の神の意志の発現であると信じられたに違いない。それは、田仕事にとりかかろうとする時期に、パッと咲くみごとな花に名づけられたのであろう。――<本書「花見の伝統」より> ※本書は、1985年4月、雄山閣出版より刊行された『花の民俗学〈新装版〉』を原本としました。
  • 蛇

    4.0
    縄文土器においてすでに、活力溢れる蛇の造形が数多く見られる。蛇に対する強烈な畏敬と物凄い嫌悪、この二元の緊張は注連縄(しめなわ)・鏡餅(かがみもち)・案山子(かかし)など数多くの蛇の象徴物を生んだ。日本各地の祭祀と伝承に鋭利なメスを入れ、洗練と象徴の中にその跡を隠し永続する蛇信仰の実態を大胆かつ明晰に検証する意欲的論考!
  • ベルクソンの哲学 生成する実在の肯定
    -
    「生の哲学」を提唱しノーベル文学賞を受賞した、フランスを代表する哲学者、アンリ・ベルクソン(1859-1941年)。彼は、伝統的な哲学を根本的に批判し、転覆させた特異な存在です。 その影響は、20世紀の名だたる哲学者たち、ハイデガー、ウィリアム・ジェームズ、サルトル、レヴィナス、メルロ=ポンティ、デリダ、西田幾多郎など、多方面に及びます。そして何より、生成のリアリティーを巡る思考の原理を徹底させ、ベルクソンを蘇らせたのが、ジル・ドゥルーズでした。 本書は、ドゥルーズのすぐれた読解に身を寄せながら、ベルクソンの主著を丹念にたどり、その核心を浮かび上がらせます。同時に、ドゥルーズ自身の哲学の出発点ともなった、斬新で独創的なベルクソン解釈を提示してもいます。 ベルクソンにとって実在とは、持続とは何か。どのようにして、直観によって本質的な差異を見出すのか。他者のない、否定性のない、そして外との弁証法的な統合もない哲学とは、どのようなアイデアなのか。 著者によるベルクソンの現代思想における位置づけ、主要著作を通した整理、これ以上なくクリアで精密な解読は、ベルクソンに取り組もうとする読者にとって、最良のガイドとなるでしょう。解説には、『物質と記憶』の訳者である杉山直樹氏の書き下ろし原稿を収録しました。 [本書の内容] 学術文庫版まえがき 序 論 ベルクソンの哲学とその位置 第一章 連続的で異質的な特徴――『試論』について 第二章 知覚の機構と実在する過去――『物質と記憶』について   1 純粋知覚について   2 記憶と認識の機制   3 記憶の即自存在とその心理的な働き   4 持続の存在論 第三章 分散する一者としての生命――『創造的進化』について 第四章 持続の一元論/結晶と層――ベルクソンの存在論について あとがき 解説 杉山直樹 ベルクソン関連略年表
  • 官僚の研究 日本を創った不滅の集団
    3.0
    深夜におよぶ激務、たび重なる不祥事、「官邸主導」でゆがむ人事。近年では、官僚を志望する東大生も激減しているという。しかし、明治以来の政治・経済を動かし、日本社会の枠組を創ってきたのは、霞ヶ関のエリート官僚たちであり、そのパワーは今も不滅である。「官僚」とは、一体どんな人々なのか。その歴史と生態を、自らも官僚体験のある現代史家が、計量的・実証的に明らかにしていく。 明治初年の「官員さん」のうち、薩長出身者はどれほどの割合を占めたのか。華族・士族・平民の内訳は、どう推移したのか。上級官僚の実父はやはり官僚だったのか、あるいは軍人、商人が多いのか。帝大卒優位のなかに食い込んだ私学は? また、戦前の「革新官僚」と言われた人材のなかには、政党主導の戦後官僚社会であればたちまち弾き出されるような個性派や情熱家も多かった。毛里英於莵、奥村喜和男、菅太郎といった「奇才」や、女性官僚の第一号などの群像を紹介。 戦後は占領政策により「天皇の官吏から公僕へ」「中央集権から地方分権へ」と改革が進むなか、各省庁の「家風と作法」はしっかりと守られ、新たな「吏道」も探究されていく。 「文庫版のあとがき」として、平成・令和の変遷を加筆。〔原本=『官僚の研究:不滅のパワー・1868―1983』1983年、講談社刊〕
  • アルチュセール全哲学
    4.0
    「真空の哲学」の核心 〈認識論的切断〉とは 「認識論的切断 coupure epistemologique」とは何か。『マルクスのために』『資本論を読む』でマルクス研究を一新し、フーコー、デリダ、ブルデュー、ドゥルーズらを育てたルイ・アルチュセールは、精神的肉体的苦闘、あるいは自身の「認識論的切断」を経て、いかなる地平に到達したのか。その思想的全生涯をもれなく論じた、第一人者による決定版! 形而上学の名前で呼ばれうる西欧哲学がその可能性を出し尽くしつつある現在、この伝統的思考様式を可能にした条件と地平を露出させ、同時にそれとはまったく異質の軌道がどういうものでありうるかを、われわれは徹底的に考えることを要請されている。そのひとつの模範的思索をアルチュセールはわれわれに遺産としてのこしてくれたのである。そのバトンを受けとるのは、われわれである。――<本書より>
  • 「知の商人」たちのヨーロッパ近代史
    3.0
    古来、思想は<出版>という形で普及し、後世へ残った。ならば、知の媒介者たる「印刷・出版業」から16世紀から20世紀の近代を眺めてみよう。そこには、名著を支えた蒐書家や出版人などの人間模様、「知」の商品化による印税騒動など、歴史に埋もれた事件が浮かび上がってくる! 思想史でも書物史でもない、碩学によるユニークな書。 本書は1985年4月、筑摩書房から刊行された『知の商人―近代ヨーロッパ思想史の周辺』を改題、加筆修正したものです。 目次 1 商品としての思想 エルセフィエル書店 リヴァイアサンの顔 ハーリーとソマーズ 知の商人―ストラーンのばあい 知の商人―エディンバラの出版業者 バーゼルのトゥルナイゼン 固有名詞の読み方 『ケール版ヴォルテール全集』始末記 イギリスのワイン アメリカ革命の導火線 『エディンバラ評論』の運命 紅茶の話 ジン横丁 2 知識人層の成立 音楽の商品化 うたは世につれ 『共産党宣言』の英訳者 パリ・コミューンと芸術家たち 芸術至上主義と無政府主義・ 黒猫のスタンラン 大学と女性 ディーツ出版社 ユニウスとジュニアス ブラウンス・アルヒーフ マスク・ヴェーバーをめぐる女性 3 ファシズムのもとで グーテンベルク図書組合 マリク書店とハートフィールド 亡命知識人とスイス 左翼読書クラブ 一九三〇年代の墓標 ウォーバーグ家の人びと 空襲下のコンサート 内容抜粋) 「私は昨夜、ヴォルテールが死んだということを聞きました。これで人びとは、安心して彼の著作を買うことができるでしょう。彼はもう、あとからあとから書き直すということができないからです」(一七七八年一月十七日)。この知らせは誤報で、ウォルポールの安心は四ヵ月余り早すぎたのだが、ヴォルテールの止まるところを知らない改訂癖に蔵書家が悩んでいたことは、誤報ではない。  1「『ケール版ヴォルテール全集』始末記」より ルイジ・エイナウディ研究所 本を愛した外科医 あとがき 学術文庫あとがき 人名索引
  • 江戸の科学者
    4.0
    関孝和、貝原益軒、渋川春海、杉田玄白、平賀源内……。伝記を通して、江戸に花開いた科学や技術の発展の軌跡を紹介する。科学者小伝付き!(解説:池内了氏) 『解体新書』、『蘭学事始』で知られる杉田玄白が生まれたときは大変な難産でした。看護の人たちは母親に気をとられ、生まれたばかりの赤ん坊のことは忘れてしまいました。死産だろうと思われ、とり合わせの布に包んで横に置いたままにされたのです。しかし、ようやく落ち着き、赤ん坊を見ると元気で生きていました。その後の玄白は元気に育ちます。17,8歳のころ、医官である父に医業を学びたいと申し出ると、幕府の医師である西玄哲に入門することになりました。西玄哲は通訳の家の出身で、ポルトガルやオランダの医術を覚え医師となった人物でした。玄白はこの頃から西洋医術の優秀さに触れることとなったのです。――西洋医術の導入、日本人のための暦、エレキテル、鉄砲の大量生産……など。著名な杉田玄白や渋川春海から砲術家の坂本天山まで、江戸時代を代表する科学者たちの幼少時や師事した先生とのエピソード残した業績をコンパクトに紹介する伝記集です。科学者たちの生涯を通し、江戸時代の科学や技術の発展の過程を生き生きと描き出します。29人の科学者小伝付き。解説は池内了氏。 (原本:吉田光邦『江戸の科学者たち』、社会思想社(現代教養文庫)、1969年) 本書の内容 関流をめぐる人びと ――関孝和たちと会田安明―― 本草から大和本草へ ――貝原益軒―― 本草から博物学へ ――稲生若水・小野蘭山―― 日本暦の誕生 ――渋川春海―― 町人天文学者たち ――麻田剛立の一門―― 測地事業の推進者 ――伊能忠敬―― 幸福な蘭学の始祖 ――杉田玄白―― 異端の科学者 ――平賀源内―― 電気学の正統 ――橋本宗吉―― 最初の自然哲学者 ――三浦梅園―― 自然哲学の展開者 ――帆足万里―― 通訳から科学者へ ――本木良永・志筑忠雄・馬場貞由―― 桂川家の人びと ――名門の学者たち―― 宇田川家の人びと ――家学を守った人たち―― 悲劇の科学者たち ――シーボルトとその門下―― 職人と発明家 ――国友藤兵衛―― 哲学的な砲術家 ――坂本天山―― 農業技術の変革者 ――宮崎安貞・大蔵永常―― 科学者小伝 参考文献とあとがき 解説(池内了氏) 索引
  • 易学 成立と展開
    5.0
    〈なぜ「占い」が儒教の核心的原理なのか?〉 〈大いなる矛盾に満ちた「中国的二元論」の思想史〉 哲学的であって通俗的、神秘的であって合理的― 陰と陽による二元論で世界を把握しようとする思考様式が、先秦から清朝に至るまでの哲学、世界観、歴史観を貫いていることを示す、碩学による無二の思想史。 易を知ることは、「中国的思考」の本質を理解することである! 【本書より】 ―最も中国独自のもの、それは易― 易には逆説めいたものがある。法則の中の破格を容認する。論理より象徴、数をよしとする。これは中国の学問芸術について見られる。易は人の運命を天道と一つに見る。中国の歴史の見方とつながるところがある。(第四章より) 【解題・三浦國雄】 「本書は『易経』というテクストに焦点を絞り、それがどのようにして成立し、漢代から清朝に至るまで、どのような解釈が施されたか(つまりどのように読まれたか)を解明しようとしたものである。その際、『易経』や注解および注解者の内部に降り立って分析する一方(「心理」や「意識」「無意識」の語がよく使われる)、そのような読解が生み出された根拠を注解者の内面とともに外面│すなわち彼らが生きていた時代相にも求めるところに本書の独自性がある。その結果として、本書のボリュームの大半を占める第一章(易経の成立)と第二章(易学の展開)がおのずから先秦から清代に至る思想史になっているのであるが、これは余人には真似のできない著者の独壇場と云ってよい」 【本書の内容】 第一章 易経の成立  第一節 通説とその批判  第二節 易の発生基盤  第三節 経  第四節 左伝に見える易  第五節 彖と象  第六節 陰陽  第七節 繋辞  第八節 十翼の完成 第二章 易学の展開  第一節 前漢の易  第二節 後漢の易学  第三節 王弼、それ以後  第四節 宋・明の易説  第五節 清朝の易学 第三章 筮法 第四章 易と中国人のものの考え方 解題 三浦國雄 ※1960年にサーラ叢書(平楽寺書店)より刊行された同名書の文庫化です。
  • 言霊の民俗誌
    -
    火除け、虫除け、雨乞い、失せ物探し、道中安全、子守歌、祝いと祭り…… 日本各地の古老たちが伝え続けてきた〈ことばの力〉の探究! 病や禍いを遠ざけ、暮らしのささやかな稔りを願うため、この国の先人たちは、土地魂を動かす呪言を生み、ことばに内在する霊力・呪力を発現させてきた。全国の山峡や海辺の村々を訪ね歩き、古老が唱える呪歌(まじないうた)に耳を傾け、失われゆく多彩で不思議な口踊・口承の文化に光をあてる。「言霊の幸わう国」日本を描く、貴重なフィールドワークの集大成。 ※本書の原本は、『言霊の民族 口踊と歌唱のあいだ』として1993年に人文書院から刊行されました。 ■本書の内容 序章 誦唱民俗論に寄せて ! 口誦民俗  一 呪歌の民俗   二 口誦と伝承   三 年中行事の口誦要素   四 暮らしの中の口誦   五 ことばと禁忌  !! 民謡再考  一 子守唄と子守の民俗   二 民謡における復唱と継唱   三 民謡と囃し口   四 囃しの諸相   五 民謡をめぐる時と場の習俗   六 唄の中のアイドル   七 口説節の魅力―兄妹心中絵模様
  • 影の現象学
    4.2
    影はすべての人間にあり、ときに大きく、ときに小さく濃淡の度合を変化させながら付き従ってくる。それは「もう一人の私」ともいうべき意識下の自分と見ることができる。影である無意識は、しばしば意識を裏切る。自我の意図する方向とは逆に作用し自我との厳しい対決をせまる。心の影の自覚は自分自身にとってのみならず、人間関係においてもきわめて重要である。刺激に満ちた万人必携の名著。
  • 日本人の原風景 風土と信心とたつきの道
    3.0
    山に富み、森林に覆われ、海に囲まれた列島。そこに棲む日本人は自然の恵みを享受し、生計を立て、カミに礼を尽くしては人生の節目とした。また、参詣・巡礼に言寄せた遊山や漂白・旅の渡世は、楽も苦も味わう深さをもたらした。 近世に固まったそうしたスタイルは、しかし高度経済成長期を境に変容を余儀なくされる。見失われた日本人の暮らしと人生の豊穣はどんな形だったのか。民俗学者がフィールド観察と研究の蓄積をもとに語る。
  • 古代哲学史
    -
    本書は、20世紀の日本を代表する哲学者・田中美知太郎(1902-85年)による生前最後の単行本です。 古代ギリシア哲学の専門家として、数々の著作や翻訳を送り出すとともに、日本西洋古典学会の設立に携わるなど、日本の哲学界の大きな礎を築いた著者が最後に残したのは、「古代哲学史」という単刀直入なタイトルを冠した1冊でした。全三部から成る本書の第I部では、万物の始源は「水」だと説いたタレス(前585年頃)に始まり、アナクシマンドロス、アナクシメネス、ヘラクレイトス、エンペドクレス、アナクサゴラスなどを経て、ソクラテス、プラトン、アリストテレスに至る哲学史の流れを大づかみにしてみせる「西洋古代哲学史」が収録されています。文庫版で100頁にも満たない分量で要点を的確に押さえた思想史を描く力量は、まさに出色です。 第II部では、古代哲学をより深く知りたいと願う読者のために碩学がアドバイスをする、という趣きを帯びています。残された哲学者たちの著作に触れる時に注意すべきこと、そして参考書や研究書を含めた読書案内まで、実践的な哲学ガイドとして役立つことでしょう。 そして、第III部には、著者が何度も改訂を繰り返してきたヘラクレイトスの残された断片の日本語訳が収録されています。ここに読むことのできる言葉は、時に謎めき、時に不思議な魅力を放つ、古来、多くの人たちを惹きつけてきたものです。 著者がその最期に読者に向けて贈った本書には、長年月にわたる研鑽の果実が惜しみなく凝縮されています。近年は政治論や文明論などに光をあてられることの多い偉大な学者の神髄に触れられる絶好の1冊です。学術文庫版には、田中美知太郎に思い入れを抱いてきた國分功一郎氏の解説を収録し、文字どおりの決定版となります。 [本書の内容]  I 西洋古代哲学史 古代アトム論の成立  II 古代哲学 一 古代哲学 二  III ヘラクレイトスの言葉 あとがき 解 題(國分功一郎)
  • メルロ=ポンティ 可逆性
    5.0
    本書は、現象学を前人未踏の域に導いたフランスの哲学者モーリス・メルロ=ポンティ(1908-61年)の生涯と主要著作をていねいにたどる至高の概説書です。『モードの迷宮』(サントリー学芸賞)や『「聴く」ことの力』(桑原武夫学芸賞)など、多くの支持を得てきた著者が、みずからの出発点にある哲学者と真摯に向き合い、全力で格闘した稀有なドキュメントがここにはあります。 フランス西部のロシュフォールで生まれたメルロ=ポンティは、高等師範学校でサルトルやボーヴォワールと知り合うい、そしてフッサールの現象学と出会いました。初めての著作が『行動の構造』(1942年)と題されたように、メルロ=ポンティは「生活世界」に注目した後期フッサールを引き継ぐとともに、その中心に身体をもつ人間を据えることで独自の道を歩み始めます。その最大の成果が主著『知覚の現象学』(1945年)です。 戦後はリヨン大学で教鞭を執ったあと、1949年にはソルボンヌの教授、そして1952年には異例の若さでコレージュ・ド・フランスの教授となったメルロ=ポンティは、サルトルとの共同編集で『レ・タン・モデルヌ(現代)』誌を発刊し、『ヒューマニズムとテロル』(1947年)などでマルクス主義に関する考察を続けることで現実と向き合いました。さらにサルトルの実存主義、ソシュールの言語学を取り入れたメルロ=ポンティは、1960年代にはさらなる高みに到達し、『シーニュ』(1960年)を発表しましたが、翌年、惜しまれながら急逝します。残された遺稿は『見えるものと見えないもの』(1964年)や『世界の散文』(1969年)として公刊されました。 これら燦然と輝く著作の数々を激動する時代の中で繰り広げられた生涯に位置づけつつ精緻に考察していく本書は、まさに著者の「主著」と呼ぶべきものです。このたび学術文庫版として新たな装いをまとうことで、永遠の生命を得ることでしょう。 [本書の内容] まえがき プロローグ 現象学の地平へ 第一章 構 造――〈行動〉の研究 第二章 運 動――〈身体〉の現象学 第三章 スティル――〈変換〉の現象学 第四章 偏 差――〈隔たり〉の現象学 第五章 可逆性――〈肉〉の存在論 エピローグ 現象学の臨界点 主要著作ダイジェスト キーワード解説 読書案内 あとがき 学術文庫版あとがき メルロ=ポンティ略年譜
  • 太平記<よみ>の可能性
    4.8
    太平記よみの語りは、中世・近世を通じて人びとの意識に浸透し、天皇をめぐる2つの物語を形成する。その語りのなかで、楠正成は忠臣と異形の者という異なる相貌を見せ、いつしか既存のモラル、イデオロギーを掘り崩してゆく。物語として共有される歴史が、新たな現実をつむぎだすダイナミズムを究明し、戦記物語研究の画期となった秀作、待望の文庫化。 これほど、読むたびに知的興奮を覚えさせられる本は、めったにない。10年前、兵藤さんからこの本を贈られ、一気に読んでそのスリリングな議論展開のとりこになって以来、『太平記<よみ>の可能性』は、文字通り私の座右の書になった。そのときどきの私の関心に応じて、さまざまな読み方ができ、そのたびに啓発される。この本自体、豊かな<よみ>の可能性にみちているのだ。――<川田順造「解説」より> 〔原本:1995年刊行の講談社選書メチエ〕 第1章 太平記の生成 第2章 もう1つの「太平記」 第3章 天皇をめぐる2つの物語 第4章 楠合戦の論理 第5章 近世の天皇制 第6章 楠正成という隠喩(メタファー) 第7章 『大日本史』の方法 第8章 正統論から国体論へ 第9章 歴史という物語
  • 上杉謙信
    -
    「彼は大名の座から逃げようと思えば逃げられる境遇にあった。事実一度は逃げ出した。しかし四囲の情勢から過重な大任を引き受け、進んで戦乱のなかに身を投じて行った――」。 のちに「越後の龍」、「軍神」とまで称され、戦上手の代名詞となった上杉謙信は、どのようにして歴史の表舞台に躍り出たのか。本書は、謙信の単なる一代記にとどまらず、謙信の父であり、文字通り戦いに明け暮れる生涯を送った「戦の鬼」長尾為景の下剋上を中心に、複雑な越後の政治情勢から丁寧に説き起こす。家督を継いだ謙信は、独立心旺盛な国衆の反乱や裏切りに苦しみつつも、武田信玄や、北条氏康ら戦国の雄との対陣を繰り返し、やがては織田信長をも破る強国へと越後を導いていく。その苦難の道のりは、思わず引き込まれてしまうような血の通った文章で活写される一方で、いたずらに対象を美化することなく、透徹したまなざしで戦国武将上杉謙信の実像に迫る。早逝が惜しまれる研究者による、刊行から半世紀経てもなお色褪せることのない謙信伝の古典!(原本:人物往来社、1966年) 解説(山田邦明・愛知大学教授)より ......歴史の大きな流れをどうつかみ、具体的に現れる事象をどう評価するか、個々の人間の動きや、彼らが織りなすドラマをいかに表現するか、そうしたことを考えさせてくれるものとして、活力にあふれた本書は大きな価値を持ち、光彩を放っている。
  • 日本料理文化史 懐石を中心に
    3.0
    茶道の美と精進の思想―和の食、かくして極まれり。 「懐石」と「会席」は何が違うのか。 利休の「一汁二菜」「一汁三菜」はなぜ正統となったのか。 「乾杯」の日本的起源とは。 茶道から生まれた様式がいかにして日本料理の伝統を形づくったのかを、資料から丹念に考察する。 和の食、その精髄たる懐石料理の誕生から完成、そして後世への継承という歴史の中に、 日本文化のエッセンスを見いだす類稀なる論考。 【本書より】 何故、懐石という新しい料理の様式が生まれたのか。その歴史的前提を明らかにしなければならない。料理に限らず、文化は一つの様式に固定してしまうと、それを内部から突き破る革新が起こって、また新しい創造的な歩みがはじまる。いわば本膳料理の行き詰まりを打破する革新であったと、さきに懐石を位置づけたのだが、では、本膳料理とは何か― 【本書の内容】 唐菓子と柏餅―序にかえて 第一部 懐石誕生  懐石の誕生  近世公家の懐石  千家茶会記にみる懐石  茶書にみる懐石の心得 第二部 懐石以前  大饗料理  本膳料理  精進料理 第三部 料理文化の背景  中世の食文化点描―大工・荘園・都市  日本の食事文化における外来の食
  • 英国流 旅の作法 グランド・ツアーから庭園文化まで
    -
    18世紀、古典教養を学ぶため、貴族の子弟や家庭教師がこぞってイタリアへと旅した、「グランド・ツアー」。 フランス革命が始まって海外渡航が難しくなると、今度は湖水地方への国内旅行へとシフトチェンジ、 ガイドブック片手に風景観賞(ピクチャレスク美)で美意識を磨く。 はたまた馬車が流行りだせば、「自らの歩き、詩想を深めるべし」と徒歩旅行が大ブームに。結果、ワ-ズワスはじめ、世界的ロマン派詩人を次々生み出した――。 どんな時代もどんな状況でも、「旅で学ぶ」「旅で成長する」という信念を守り続けた英国人。 彼らは、なぜこれほどまでに旅に焦がれ続けたのか。 旅の効用とは、一体何なのか。 その飽くなき情熱と、彼らが愛してやまない理想郷「田園」の精神的意味を 様々な史料、図版とともに考察する。 学術文庫版解説・桑木野幸司「イタリアが造った英国の風景」 本書は『イギリス的風景 教養の旅から感性の旅へ』(NTT出版 2007年刊)を加筆修正、改題したものです。
  • ミシェル・フーコー [増補改訂]
    -
    世界について、人間について展開されてきた西欧の思考空間には限界があったのか。表象への傾き、理性との間合いの取り方など、人間の思考に掛けられたそれらの「鍵」をフーコーはどうやって解こうとしたのか。歴史の言説分析から「合理性」の型の多様さを描き出し、思考の臨界点に挑んだ「知の考古学者」が到達した地点とは? 旧版に付して長大な序文を書き下ろした、著者渾身のフーコー論。
  • レヴィナス 「顔」と形而上学のはざまで
    -
    本書は、近年ますます注目されるフランスのユダヤ系哲学者エマニュエル・レヴィナス(1906-95年)の思想を正面から考察し、批判的に継承することを企てた意欲作である。 著者自身が「愚直にレヴィナスの中心的問題の批判的論究を試みた」と言うとおり、本書でなされているのはレヴィナスの2冊の主著『全体性と無限』(1961年)と『存在とは別様に、あるいは存在することの彼方へ』(『存在の彼方へ』)(1974年)を丹念に読み解き、その考察を厳密に検討する、という当たり前の営為である。そこで問われるのは「他者が「絶対の他」であると共に私に対し無制限に責任を求めるものだというが、それは具体的にはどういうことを意味しており、またそれが事象において確認できるものか」、そして「彼のこのような極端な責任理解が、レヴィナス個人の倫理的立場の表明にとどまらず、われわれの倫理の分析としてどういう意味をもつのか」、「彼が力点を置く言語の問題において現れる他者と無制限の責任を求める他者との間に矛盾はないのか」という本質的な点にほかならない。 第一の主著『全体性と無限』を厳しく批判する論文「暴力と形而上学」(1964年)を発表したジャック・デリダ(1930-2004年)の議論をも検討しつつ、「他者」をいかにして言語化するか、という問題をめぐって第二の主著『存在の彼方へ』への転回がなされた意味は何かが考察される。第一の主著に胚胎していた問題を、第二の主著は克服しえたのか――著者は、レヴィナスが十分に突きつめずに終わった問題を「ケア」の理論を用いて発展させ、批判的な継承を試みる。この企てを通じて、レヴィナスの思想は今日を生きる私たちにとって生きた意味をもつようになる。 本書の原本が刊行されてから現在までの20年間に、レヴィナスの主要著作はほぼすべて日本語訳され、『全体性と無限』についても新訳がなされるようになった。進展する研究状況の中でも、本書は常に参照されるべき準拠点として、すでに「古典」の地位を確立したと言える。学術文庫として生まれ変わったことで、本書は輝きを放ち続けることだろう。 [本書の内容] 第I部 「顔」と形而上学──『全体性と無限』 第一章 「顔」──輪郭の描写 第二章 「選 び」 第三章 「同」と「他」 第四章 デリダの批判──「暴力と形而上学」 第五章 「教え」──倫理と学 第六章 「他」の言表──デリダの批判再び 第II部 方法の先鋭化──『存在の彼方へ』 第七章 「他」を語ることの困難──『存在の彼方へ』に向けて 第八章 絶対他把握の方法的問題 第九章 「感受性」と「語ること」 第十章 「顔」から「正義」へ 第十一章 レヴィナスへの批判と顔の倫理学の可能性
  • 暦と占い 秘められた数学的思考
    3.5
    一週間は7日、一年が12ヵ月、なんで? 年・月・日から曜日や干支をはじき出す計算式とは? 一週間が5日の暦、どんなの? 英語で1~6月は「神」、7,8月は歴史上の人物、9月から12月は数字、なぜ? 十二支のイメージはどこから? 「必ず仏滅になる日」がある? 「史上いちばん短かった年」は? 占星術の成り立ちはどこから? 「〇座の生まれ」って、つまりどういうこと? ――答えは本書で。 (原本:『暦と占いの科学』新潮選書、1982年刊)
  • 中世の罪と罰
    4.3
    「やーい、お前の母ちゃん、でべそ!」 誰もが耳にしたことがありながら、よく考えると意味不明なこの悪口。そこに秘められた意味とは? ありふれた言葉を入り口に、今は遠く忘れ去られた日本の姿が、豊かに立ち上がる。 「お前の母ちゃん…」のような悪口が御成敗式目にも載るれっきとした罪であり、盗みは死罪、犯罪人を出した家は焼却処分、さらに死体の損壊に対しては「死骸敵対」なる罪に問われれた中世社会。何が罪とされ、どのような罰に処せられたのか。なぜ、年貢を納めなければ罰されるのか。それは何の罪なのか。10篇のまごうかたなき珠玉の論考が、近くて遠い中世日本の謎めいた魅力を次々に描き出す。 稀代の歴史家たちが、ただ一度、一堂に会して究極の問いに挑んだ伝説的名著、待望の文庫化!(原本:東京大学出版会、1983年)解説(桜井英治・東京大学教授)より本書を通じてあらためて浮き彫りになるのは、中世社会が、現代人の常識や価値観では容易に解釈できない社会だということ、つまりそれは私たちにとって彼岸=異文化にほかならないということである。……日本中世史研究がまばゆい光彩を放っていたころの、その最高の部分をこの機会にぜひご堪能いただきたい。【主な内容】1 「お前の母さん……」 笠松宏至2 家を焼く 勝俣鎭夫3 「ミヽヲキリ、ハナヲソグ」 勝俣鎭夫4 死骸敵対 勝俣鎭夫5 都市鎌倉 石井 進6 盗 み 笠松宏至7 夜討ち 笠松宏至8 博 奕 網野善彦9 未進と身代 網野善彦10 身曳きと“いましめ” 石井 進討論〈中世の罪と罰〉 網野善彦・石井進・笠松宏至・勝俣鎭夫あとがき 笠松宏至あとがきのあとがき 笠松宏至文献一覧解 説 桜井英治
  • 論語物語
    4.5
    このうえなくわかりやすい言葉で、『論語』のエッセンスを読める!孔子が伝えたかったことは、こんなことだった。『次郎物語』で名高い作家にして教育思想家であった下村湖人が、人生をかけて読んだ『論語』を、そこに残された言葉をもとに、ひとつの物語として書き紡いだ。ページをひらけば、孔子や弟子たちが直接語りかけてくる!【本書より―永杉喜輔「まえがき」】湖人は生涯をかけて『論語』に学んだ。二千年以上も経た『論語』の章句を自由自在に使って、『論語』で養われた自分の思想を物語に構成したものが本書で、『論語』の精神を後世に伝えたい一念が結晶している。孔子と弟子たちが古い衣をぬぎすて、現代に躍り出す。その光景がみずみずしい現代語でたんねんに描かれている。【本書より―「序文」】 論語は「天の書」であると共に「地の書」である。孔子は一生こつこつと地上を歩きながら、天の言葉を語るようになった人である。天の言葉は語ったが、彼には神秘もなければ、奇蹟もなかった。いわば、地の声をもって天の言葉を語った人なのである。 彼の門人達も、彼にならって天の言葉を語ろうとした。しかし彼等の多くは結局地の言葉しか語ることが出来なかった。中には天の響を以て地の言葉を語ろうとする虚偽をすら敢てする者があった。そこに彼等の弱さがある。そしてこの弱さは、人間が共通に持つ弱さである。吾々は孔子の天の言葉によって教えられると共に、彼等の地の言葉によって反省させられるところが非常に多い。 こうした論語の中の言葉を、読過の際の感激にまかせて、それぞれに小さな物語に仕立てて見たいというのが本書の意図である。無論、孔子の天の言葉の持つ意味を、誤りなく伝えることは、地臭の強い私にとっては不可能である。しかし、門人達の言葉を掘りかえして、そこに私自身の弱さや醜さを見出すことは、必ずしも不可能ではなかろうと思う。 この物語において、孔子の門人達は二千数百年前の中国人としてよりも、吾々の周囲にざらに見出しうる普通の人間として描かれている。そのために、史上の人物としての彼等の性格は、ひどく歪められ、傷つけられていることであろう。この点、私は過去の求道者達に対して、深く深くおわびをしなければならない。 しかし、論語が歴史でなくて、心の書であり、人類の胸に、時処を超越して生かさるべきものであるならば、吾々が、それを現代人の意識を以て読み、現代人の心理を以て解剖し、そして吾々自身の姿をその中に見出そうと努めることは、必ずしも論語そのものに対する冒涜ではなかろうと信ずる。
  • 満鉄全史 「国策会社」の全貌
    3.7
    明治40年(1907)、「10万の生霊と20億の戦費」といわれる犠牲を払って獲得した南満洲の地に誕生した一鉄道会社は、「陽に鉄道経営の仮面を装い、陰に百般の施設を実行する」実質的な国家機関として大陸政策を牽引した。しかし必然的に政官軍の縄張り争いと対中・対ソ事情の変化、そして場当たり的な政策の影響が直撃する位置に置かれた組織は、図らずも近代日本を体現する存在として日本の支配政策のお粗末さを象徴する存在として現代に伝えられている。日露戦争から敗戦まで「日本の生命線」の表舞台に立ち続けた組織の足取りを正確にたどり、「国策」という言葉が包含する曖昧さと無責任さを炙り出す。年表、首脳陣人事一覧、会社組織一覧付き。(原本:講談社選書メチエ、2006年刊)プロローグ――「国策会社」満鉄とは何だったのか第一章 国策会社満鉄の誕生第二章 「国策」をめぐる相克第三章 使命の終わりと新たな「国策」終 章 国策会社満鉄と戦後日本エピローグ――現代日本にとっての満鉄関連年表歴代満鉄首脳陣人事一覧南満洲鉄道株式会社組織一覧
  • 東方的
    -
    地球をおおいつくそうとするひとつの世界システムに「地域の論理」たちは繊細なたたかいを挑む。閉ざされつつある世界に、新しい超空間への通路を開く。ボストーク――東の方。人間を乗せた最初の宇宙船の名前である。偉大なる叡智=ソフィアは、科学技術文明と近代資本主義が世界を覆い尽くす時こそが、真実の危機だと告げる。バルトーク、四次元、熊楠、マンダラ、シャーマニズム、製鉄技術、方言、映画とイヨマンテ……。多様なテーマで通底する「無意識」に、豊饒な叡智を探求する。/『東方的』は、……西欧的な知のあり方の行き詰まりを踏まえて、「東方的」な「ソフィア」(叡智)の方向に新たな可能性を見出そうとした、美しい希望の書物である。(略)その「明確なモチーフ」は……、「第四次元、あるいは日常的なリアリティを超えた高次元の霊的な世界が、われわれが普段住んでいる物質的な世界と接触した時、何が起こるか」ということに帰すのではないかと思う。――<沼野充義「解説」より抜粋>
  • フィロソフィア・ヤポニカ
    4.0
    京都学派の巨人=田邊元、ここに甦る! 「種の論理」「友愛の哲学」とはなにか? 対称性人類学が田邊哲学の現代性を明らかにする! 一九二〇年代以降、田邊元と西田幾多郎は日本的・独創的哲学=「京都学派」を創造する。田邊哲学=愛の哲学と西田哲学=欲望の哲学との対決から誕生した「種の論理」。その最重要の達成は、二十世紀後半から展開する現代思想、構造主義、ポスト構造主義、「野生の思考」、認知科学を先取りしていた。豊饒なる田邊哲学の全貌に迫る。
  • 老年について 友情について
    4.5
    マルクス・トゥッリウス・キケロー(前106-43年)は、共和政末期のローマに生きた哲学者・弁論家・政治家として知られる。本書は、その最も人気のある二つの対話篇を定評ある訳者による新訳で一冊にまとめた待望の文庫版。「無謀は華やぐ青年の、智慮は春秋を重ねる老年の特性」、「友情においては地位や身分での分け隔てがあってはならない」──「老い」と「友情」という大切な問題についての古代の知恵が、ここに甦る。
  • 言語と行為 いかにして言葉でものごとを行うか
    3.5
    「言語行為論」は、ここから始まった。寡作で知られる哲学者ジョン・ラングショー・オースティン(1911-60年)がハーヴァード大学で行った歴史的講義の記録。言葉は事実を記述するだけではない。言葉を語ることがそのまま行為をすることになるケースの存在に着目し、「確認的(コンスタティヴ)」と「遂行的(パフォーマティヴ)」の区別を提唱した本書によって、哲学は決定的な変化を受けた。初の文庫版での新訳!
  • 孫子
    4.5
    「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」などの名言で知られる『孫子』。春秋時代の孫武(そんぶ)が著わし、二千年以上も読み継がれた名高い古典は世界最古の兵法書として、また人間界の鋭い洞察の書として親しまれ、今日もなお組織の統率法や人間心理の綾を読みとるうえで必携とされている。本書は、従来の宋時代のテキストより千年以上も古い前漢武帝時代の竹簡文に基づく精密な唯一の解説である。
  • 聖遺物崇敬の心性史 西洋中世の聖性と造形
    4.5
    聖人の遺体や遺骨・遺灰、聖人が身にまとったものや触れたものは「宝石や黄金より価値がある」とされ、芳香や光を放ち、腐敗しないと信じられた。死人を蘇らせ、病気や怪我を治し、現世の罪を清めて天国に導く力を持つとされた聖遺物。教会はその聖性と効験を、聖堂の装飾、祭壇画や黄金のシュライン(聖遺物容器)などさまざまな造形で民衆に訴えかける。救済と奇跡を求めたキリスト教社会の熱狂と芸術への昇華の過程を辿る。
  • カントの「悪」論
    -
    誰も守れないような道徳法則が、なぜ成り立つのか。カントが確立しようとした絶対的に普遍的な倫理学とは何か。その思考の道筋とは?
  • 天皇の歴史1 神話から歴史へ
    3.3
    1~10巻1,265~1,595円 (税込)
    三輪山の麓、大和に生まれた王権はどのように古代国家を形成したのか。古事記、日本書紀に描かれた神話の解読や考古学の最新成果などから、神武以降の天皇の実像を解明。群臣に擁立された天皇中心の畿内政権が、全国を統一していく過程を検証する。また東アジア情勢の緊張により、大化の改新が引き起こされ、律令国家形成が促進された背景も明らかに。天皇号と日本の国号の誕生も解析し、日本の歴史の原点を究明する。
  • 岡倉天心「茶の本」をよむ
    3.5
    茶道を通じて、日本文化の真髄と日本人の美意識を西洋に広めるために、岡倉天心が英語で著し、1906年にニューヨークで刊行された『茶の本』を、大日本茶道学会の新会長である著者が、新たに日本語訳し、わかりやすく解説。難解な名著をやさしく読み解く工夫として、本書は 『茶の本』を最終章からさかのぼって読んでいく。西洋文明に対峙し続けた天心の「日本」への想いは、世界と向き合う現代の日本人へのエールでもある。
  • 死に至る病
    4.0
    「死に至る病とは絶望のことである」。──この鮮烈な主張を打ち出した本書は、キェルケゴールの後期著作活動の集大成として燦然と輝いている。本書は、気鋭の研究者が最新の校訂版全集に基づいてデンマーク語原典から訳出するとともに、簡にして要を得た訳注を加えた、新時代の決定版と呼ぶにふさわしい新訳である。「死に至る病」としての「絶望」が「罪」に変質するさまを見据え、その治癒を目的にして書かれた教えと救いの書。
  • 武士の誕生
    3.0
    草深い辺境から「都の堕落した貴族」を倒すために現れたのか、それとも武芸を生業とした貴族社会の一員だったのか――。近年活況を呈する武士論の二つの見方を統合し、「武士誕生」の道筋を描く。古代の蝦夷との戦争が坂東の地に蒔いた「武の遺伝子」は、平将門、藤原秀郷らによって育まれ、武家の棟梁たる源義家、頼朝らによって大きく開花した。
  • 蕎麦の事典
    -
    故・司馬遼太郎が「よき江戸時代人の末裔」と称賛した市井の研究者によって体系化された、「蕎麦」に関する膨大な知見。江戸時代の文芸や大衆文化に登場する蕎麦、全国各地に根付いたさまざまな食し方、植物としてのソバと製粉の過程、蕎麦打ちの用語、そば店の隠語、蕎麦をめぐる史跡・習俗・諺など、あらゆる資料を博捜し、探究した1155項目。※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。

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  • 則天武后
    4.2
    秦の始皇帝に始まる二千年余にわたる中華帝国の歴史にその名を刻む唯一の女帝・則天武后(武則天)。男性中心秩序の古代社会に己の才覚と知力で挑み、至尊の座にまで登りつめた女性は、何を目指し、また何が彼女を生み出したのか--。大唐帝国繁栄の礎を築いた冷徹にして情熱的な生涯とその時代を、学術的知見に基づいて鮮やかに描き出す。
  • 江戸開幕
    3.5
    家康と秀忠、家光の徳川三代が、どのようにして二百六十余年に及ぶ盤石な幕府体制を築きえたか。大坂の陣を前にした一門、譜代大名配置による大坂包囲網の完成をはじめ、豊臣恩顧の外様大名対策や天皇・公家など朝廷への支配権確立、さらに将軍が病床にあっても政治がスムーズに運営される老中制度の成立など、長期政権を支えた様々な要因を解明した近世日本史の名著。
  • 日本古代呪術 陰陽五行と日本原始信仰
    4.0
    古代日本において祭りや重要諸行事を支えた原理とは何か。白鳳期の近江遷都、天武天皇大内陵、高松塚古墳、大嘗祭、さらには沖縄に残る祭祀や伝承に秘められた幾重にも重なる謎を果敢に解きほぐしてゆく吉野民俗学の挑戦。日本原始信仰と陰陽五行思想の習合が生み出した古代日本社会の姿、そして外来思想を享受した古代人の思考と世界観に鋭くせまる。
  • 歎異抄
    4.0
    悪人正機説や他力本願で知られる真宗の開祖・親鸞。危険思想視され烈しい弾圧にあいながらも、人々に受け入れられていった、その教えの本質とは何か。師の苦悩と信仰の極みを弟子の唯円が綴った聖典に詳細な語釈、現代語訳、丁寧な解説をほどこした。日本人の「こころ」を追究する著者の手でよみがえる流麗な文章に秘められた生命への深い思想性。
  • 興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後
    4.0
    13世紀初頭にチンギス・カンが興した「大モンゴル国」は、ユーラシア全域をゆるやかに統合して、東西の大交流をもたらした。この大帝国は、従来は「元朝」と呼ばれ、中国史やアジア史の枠でのみ語られがちだったが、近年は、この「モンゴル時代」を、世界史の重大な画期とみなす考え方が、「日本発信の世界史像」として、内外に広まりつつある。壮大な歴史観と筆力で多くのファンを持つ著者が、新たな世界史の地平を描き出す。
  • 日米開戦への道 避戦への九つの選択肢 上 The Road to Pearl Harbor
    -
    勝算乏しき戦争になぜ突入していったのか? 泥沼化する日中戦争のなか、三国同盟締結、南部仏印進駐へと政策展開する日本。石油禁輸の制裁を受けながらも日本側が提出した中立化拒否の回答は、悲劇へのポイント・オブ・ノーリターンであった。独ソ戦勃発、ハル・ノート受領後の交渉など、局面を変えるチャンスはなぜ生かされなかったのか。アメリカとの対決回避の選択肢が次々と消えていく過程を厖大な資料から明らかにした労作。
  • プラトンの呪縛
    4.5
    【第9回読売論壇賞・第11回和辻哲郎文化賞受賞作】 第1次世界大戦後に訪れた民主主義の危機のなかで「精神の国の王」として甦り、さらにはナチズムにも利用された西欧思想の定立者・プラトン。彼は理想国家の提唱者なのか、全体主義の擁護者なのか。プラトンをめぐる激しい論戦を通して20世紀の哲学と政治思想の潮流を検証し、現代に警鐘を鳴らす注目作。(講談社学術文庫)
  • コーヒー・ハウス 18世紀ロンドン、都市の生活史
    3.3
    17世紀半ばから1世紀余にわたり繁栄を見せた欧州カフェ文化の先駆、コーヒー・ハウス。そこは政治議論や経済活動の拠点であると同時に、文学者たちが集い、ジャーナリズムを育んだ場として英国に多大な影響を与えた、社会の情報基地でもあった。近代都市・ロンドンを舞台にした、胡乱(うろん)で活力にみちた人間模様と、市民の日常生活を活写する。(講談社学術文庫)
  • 恋愛と贅沢と資本主義
    3.5
    著者はM・ウェーバーと並び称された経済史家である。ウェーバーが資本主義成立の要因をプロテスタンティズムの禁欲的倫理に求めたのに対し、著者は贅沢こそそのひとつと結論づけた。贅沢の背景には女性がいて、贅沢は姦通や蓄妾、売春と深く結びついていたというのである。かくて著者は断ずる。「非合法的恋愛の合法的な子供である奢侈は、資本主義を生み落とすことになった」と。(講談社学術文庫)
  • 北の十字軍 「ヨーロッパ」の北方拡大
    4.3
    【サントリー学芸賞受賞作 1998年度 思想・歴史部門】 11世紀、聖地エルサレムの奪還をはかった十字軍。そして中世、ヨーロッパ北方をめざす、もう一つの十字軍があった。教皇の名のもと、異教徒を根絶すべく残虐のかぎりを尽くすドイツ騎士修道会を正当化した思想とは何か? ゲルマンとスラブの相克から大航海時代までも展望し、ヨーロッパ拡大の理念とその矛盾を抉り出す。(講談社学術文庫)
  • 物部氏の伝承
    -
    大和朝廷で軍事的な職掌を担っていたとされる物部氏。しかし、その一族の実像は茫漠として、いまだ多くの謎に包まれている。記紀の伝承や物部氏の系譜を丹念にたどり、朝鮮語を手がかりに解読を試みると、そこには思いがけぬ真実の姿が浮かび上がってきた。既存の古代史観に疑問を投げかけ、作り上げられた物部氏の虚像を看破する著者独自の論考。(講談社学術文庫)
  • 満洲 マンチュリアの起源・植民・覇権
    -
    ヌルハチの決起に始まり北京に都を置いた清朝にとって、満洲は聖なる「封禁の地」だった。しかし漢族の入植で満漢の一体化は進み、辛亥革命の後は日中米英露が覇権を争う。狩猟採集を生業とした女真族の故地は、いかにして「中国の一部」となり、「極東の火薬庫」と化したのか。「満珠」建国から「満洲国」崩壊へと至る、世界史の中のマンチュリア通史。(講談社学術文庫)
  • 沈黙するソシュール
    -
    ジュネーヴ大学就任講演、形態論、「書物」の草稿、ホイットニー追悼などソシュールの重要なテクストを訳出し、それに対する繊細かつ本質的なノートを付す。その往還自体がひとつのテクストとなって、本書でわれわれは、いつしかソシュールの思想の生の姿に立ち会うこととなる。あえて俗流解釈を排し、言語=ラングそのものを問い続けた記念碑的力作。(講談社学術文庫)
  • 日中戦争への道 満蒙華北問題と衝突への分岐点
    -
    1931(昭和6)年に起こった満州事変。それはそのまま日中戦争への引き金となったのか。ひき続く満州国建国から停戦協定、蘆溝橋事件、「国民政府を対手とせず」声明まで、日本と中国の関係は必然的に軍事衝突を結果するしかなかったのか。満蒙・華北問題の解決に向けた外交的展開、軍部の動き、思想面での主張を吟味、戦争への道を具(つぶさ)に検証する。(講談社学術文庫)
  • 伊藤博文と明治国家形成 「宮中」の制度化と立憲制の導入
    4.5
    【サントリー学芸賞受賞作 1992年度 思想・歴史部門】 内閣制度を創設し、明治憲法の制定に尽力したことで日本近代史にその名を刻む伊藤博文。しかし立憲制の導入のために伊藤がまずなすべきことは、天皇の権限を明らかにし、「宮中」を制度化することだった。大隈重信・井上毅ら政敵との抗争や、度重なる政治的危機を乗り越えて明治天皇の信頼を得た伊藤の、「真の業績」を論じたサントリー学芸賞受賞作。(講談社学術文庫)
  • 哲学の教科書
    4.0
    哲学は何の役にたつのか。哲学の問いとはどんなものか。哲学者とはどのような人々か。そもそも、哲学とは何か。物事を徹底的に疑うことが出発点だという著者は、「哲学とは何でないか」を厳密に規定することで哲学を覆うベールをはぎとり、その本質を明らかにする。平易なことばで哲学そのものを根源的に問いなおす、究極の「哲学・非――入門書」。(講談社学術文庫)
  • 海と列島の中世
    5.0
    海は柔らかい交通路である。それは自在な交通を許し、人と人を結び、文化同志を融合させる。本書では全国の中世海村・海民の姿が、綿密な現地調査と文献から浮き彫りにされてゆく。中国大陸・朝鮮半島・日本列島をまたにかけた「倭寇世界人」を生み出した海のダイナミズムを探り、東アジアに開かれた列島社会の新鮮な姿を描き出す、網野史学の論集。(講談社学術文庫)
  • 存在と思惟 中世哲学論集
    -
    本書の著者クラウス・リーゼンフーバー神父(1938-2022年)は、フランクフルトに生まれ、1958年にカトリックの修道会であるイエズス会に入会したのち、1967年に来日して長年にわたり上智大学で教鞭を執りました。ドイツ哲学に深い造詣をもつばかりか、西田幾多郎をはじめとする日本の哲学思想に通じていた著者は、西洋中世の哲学・神学について研究し、あるいは教育するとともに、一般向けの講座を精力的に行って多くの日本人に親われました。 しかし、専門論文が多いこともあってか、一般向けの著作はほとんどなかったと言わざるをえません。古代から現代に至る西洋哲学全体に対する該博な知識と透徹した理解に基づいた知恵の結晶を多くのかたに触れていただく機会になることを願って、ここに学術文庫オリジナルの精選論文集をお届けします。 以下の目次にあるように、本書で中心的に選ばれたのは、著者にとって重要な研究対象であるトマス・アクィナス(1225頃-74年)をめぐる論考です。「言語」、「存在」、「神」という哲学にとっても神学にとっても最重要の概念を正面から取り上げ、トマスの論を精緻にたどるだけでなく、独自の読みを加えることで、そこに潜む可能性を最大限に引き出す――「思惟」というものの醍醐味がふんだんにつまった論考群は、読むたびに発見に満ちた宝と言えるでしょう。 惜しまれながら2022年に逝去したリーゼンフーバー神父の偉大な遺産を本書を通して知っていただけることを心から願っています。 [本書の内容] 中世思想における至福の概念 トマス・アクィナスにおける言葉 トマス・アクィナスにおける存在理解の展開 存在と思惟――存在理解の展開の可能性を探って トマス・アクィナスにおける神認識の構造 神の全能と人間の自由――オッカム理解の試み 解 説(山本芳久)
  • 往生要集入門 悲しき者の救い
    -
    辛い現世を終えて、来世こそは阿弥陀仏のすまう極楽浄土に生まれたい――貴賤を問わず日本で幅広く、長きにわたって信仰されてきた浄土思想。すべては平安時代、一人の僧によって著されたこの書物から始まった。源信なくしては、法然も親鸞もない。 『往生要集』の訳・校注で知られる著者が、歴史的背景に始まりゆるやかに『往生要集』の構成に沿いつつ、親しみやすい現代語訳を随所に示しながら、源信の教えの真髄を平易に解き明かす。 「予が如き頑魯(がんろ)の者(わたしのような愚かなもの)」と自らを顧みた源信(942-1017年)。智慧や才にめぐまれた一握りの人ではなく、自身を含む多くの罪深い「悲しき者」が救われる道を模索した『往生要集』が、日本の思想・信仰に与えた影響ははかりしれない。  往生を目指すべき理由として描かれる等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、阿鼻地獄など数々の地獄も、経典と源信自身の言葉を交えながら、恐ろしい責め苦が生々しく描き出され、それに対応する極楽の姿、そして現代人の想像をはるかに超える仏の姿もあざやかに示される。地獄、極楽、さらに仏の姿は、信仰のみならず、のちの思想、文学、芸術にも大きな影響を及ぼした。『源氏物語』や『栄華物語』、『梁塵秘抄』など、のちの文学作品にみられる『往生要集』の影響も示唆される。  『往生要集』は「集」というその名が示す通り、『無量寿経』、『観無量寿経』、『阿弥陀経』の浄土三部経をはじめ数多の経典や経典の注釈書の引用によって、往生の要諦を説いたものである。膨大多岐にわたる出典についての解説は、仏教学の泰斗たる著者ならではのものであり、源信が数々の経典のなかから何を重要としていたのかが、次第に浮かび上がってくる。  仏の姿を念じる「観相の念仏」を自らの思想の核とした源信が、「南無阿弥陀仏」と仏の名を口で称えるいわゆる「念仏」、「称名の念仏」に託したものとは何だったのか――。浄土思想の原点に触れる一冊。(原本:『悲しき者の救い――源信『往生要集』』筑摩書房(仏教選書)、1987年) 【本書の内容】 はしがき 第一章 『往生要集』の成立 第二章 迷いの世界 第三章 浄土へのねがい 第四章 正しい念仏 第五章 悲しき者の救い 源信略年譜 あとがき 付 参考文献について 選書版あとがき 解 説(岩田文昭)
  • デパートの誕生
    4.0
    劇場のように華やかな装飾。高い天窓からふり注ぐ陽光。シルクハットで通勤するしゃれた従業員。乗合馬車で訪れる客を待つのは、欲望に火を付ける巨大スペクタクル空間! 帽子職人の息子アリステッド・ブシコー(1810-1877)と妻マルグリットが、様々な施アイデアで世界一のデパート「ボン・マルシェ」を育て上げた詳細な歴史を、当時を描く仏文学作品や、19世紀初頭のデパート商品目録など稀少な古書から丹念に採取。 パリの世相や文化が、いかに資本主義と結びつき、人々の消費行動を変えていったのか、 仏文学者にして古書マニア、デーパート愛好家の著者だから描けた、痛快・ユニークなパリ社会史! 内容紹介) 客の目をくらませてしまえ!世界だって売りつけることができるだろう! 「白物セール」のときには、それぞれの売り場が白い生地や商品だけを優先的に並べたばかりか、上の階の回廊や階段の手擦りを白い生地で覆いつくし、造花も白、靴も白、さらに家具にも白のレースをかぶせるなど、全館をすべて白で統一し、 1923年の「白物セール」では、「北極」というテーマに従って、アール・デコ調にセットされたシロクマやペンギンが、ホールに入った客を出迎えるようになっていた。 ようするに、ブシコーにとって、店内の商品ディスプレイは、〈ボン・マルシェ〉という劇場を舞台にして展開する大スペクタクル・ショーにほかならなかったのである。   ――第二章「欲望装置としてのデパート」より *本書は『デパートを発明した夫婦』(講談社現代新書 1991年11月刊)に「パリのデパート小事典」を加筆し、改題したものです。
  • 弥勒
    -
    世界が終わるとき、やってくる。 蘇我馬子も藤原道長も惚れ込んだ弥勒(みろく)信仰。五十六億七千万年後に降臨し人々を救う、未来仏とは何か? 広隆寺の国宝として有名な、弥勒菩薩半跏思惟像。弥勒とは、五十六億七千万年後に現れて衆生を救うという、阿弥陀や釈迦と並ぶ仏のことである。古代日本に伝わると、災害や飢饉と結びつき、末法思想(メシアニズム)として全国の民衆に広がった。戦後民俗学の泰斗が、中国・朝鮮との比較を通して、日本独自の弥勒信仰の歴史と民俗を復元し、日本文化の原型を描き出す。宗教民俗学を土台にした日本文化論! 【目次】 はじめに 第一章 民間伝承としての弥勒 第二章 宗教運動と弥勒 第三章 比較宗教論における弥勒 第四章 日本仏教における弥勒 第五章 鹿島信仰と弥勒 第六章 朝鮮半島と沖縄の弥勒 第七章 世直しと弥勒 第八章 大本教の中の弥勒 まとめ

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